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05話 町へ行こう

 ドルミーに教えられた町は、私が木の上から見た町のことで、森から出てすぐのところにあった。

 そんなに大きな町ではないが、人や店はそれなりに揃っているようで、木組みに白壁の建物が立ち並ぶ通りを多くの人が歩いていた。


 目指すべきは食べ物を売っている店が立ち並ぶ通り。

 私は町の入り口に設置された地図を確認し、通りを探す。

 

 文字も問題なく読める。

 ドルミーの言語翻訳魔法は問題なく発動しているようだ。

 町の人も私を気に留める様子はない。

 マントを羽織った人も結構いるし、一安心。


「あっ、これが目的の通りね。意外と近い」


 地図を指差し目的地を確認した後、私はまるで町に何度も足を踏み入れている雰囲気を(かも)し出しながら歩き出した。


 町に立ち並ぶ店をチラリと眺めてみると、ゲームや漫画で見た様な武器や防具を扱っている店が目に付く。

 魔法が存在するんだからこういうのもありそうと思ってたけど、いざ目にすると少しワクワクする。


 特に私の背丈以上ありそうな大斧には、目を奪われる。

 大きさだけでなく、刃の中心辺りに輝く赤い宝石がまた異質さを感じさせる。


 あんなのを振り回す人間がいるのだろうか……。

 宝石みたいのもついてるし、飾る為の物かな?


「ほぉ。それが気になるかいお嬢ちゃん」


 いつの間にか立ち止まって斧を眺めていた私に、武器屋の店主らしい男が話しかけてきた。

 年は……私基準でいうと初老ぐらいかな。

 表情は柔らかいけど、肌に刻まれたいくつかの傷と出で立ちから戦いを経験してきた人間だとわかる。


「あ、いやっ……。大きな斧だなぁと……」


 当たり障りのないコメントを返す。


「だろう? まあ、残念ながら売り物じゃないんだ。修理を依頼された物なんだが、今さっき終わってな。あんまり立派なものなんで、持ち主が取りに来るまで見える位置に置いてみたんだ。宣伝になりそうだろ?」


「そ、そうですね……」


 そんなすごい物を見えるところに飾って大丈夫なのだろうか。

 しかも人の物……。


「ははっ! 今、盗まれそうじゃないかと思っただろ? まあ、大丈夫さ。単純に重くて並の人間には持ち運べないというのもあるが、相当使い込まれた業物だからな。魔宝石が抵抗するだろう」


「魔宝石……?」


 思わず言葉を発した後、私はハッとした。

 『魔宝石』なるものがこの世界で知ってて当然の存在なら、怪しまれてしまう。


「ほう、魔宝石を知らんか。まあ、普通に暮らす分には知らなくてもいいもんだからな。お嬢ちゃんほど若いとなれば当然か。では説明しよう! 魔宝石はな……その名の通り……」


 とりあえず、私ぐらいの年齢の女の子は普通知らないようで一安心。


 しかし、店主のおじさんは説明に熱が入り始めている。

 気になる話ではあるんだけど、食材の買い出しを早めに終わらせたい。

 どうにかならないものか……。


「あんた! 若い女の子捕まえて何してんだい?」


 おそらく困った表情を浮かべていたであろう私の前に、店の奥から気の強そうな女性が現れた。

 年齢は店主のおじさんに近そう。

 呼び方からして店主の奥さんかな。


「ち、違うんだ! この子が珍しそうに斧を眺めてたもんだから……」


「お嬢ちゃん、本当かい?」


「そ、そうです。私が店の前で立ち止まったから……」


「ほらな。嘘なんか言ってないよ……」


 初老の戦士感に溢れていたおじさんもすっかり縮こまってしまった。

 奥さんの方もなかなか強そうだから仕方ないけど。

 ここは店から離れた方がお互いの為になるな。


「あのっ、これから買い出しなのでこの辺で失礼します。お話楽しかったです」


「そうかい! そりゃよかった。また、気軽に尋ねてくるといい」


「ありがとうございます」


 私は頭を下げた後、目的地へと進路を戻し歩き始める。


 店から少し離れた後、チラリと振り返ると他のお客さんが武器屋を覗いているのが見えた。

 当たり前だけど、武器を買う人は本当にいるんだ……。


 私もいつか持つ時が来るのかな。

 それなら何が良いかな……やっぱり剣ね。カッコいいし。

 そんなことを考えながらてくてく歩いていると、ものの数分で目的の通りへたどり着いた。


 そこには果物や野菜といった食材の他にも、調理された物を店先で売っている店も多く立ち並んでいる。

 そのため、辺りには食べ物の匂いが満ちていた。


「さて、何を買ったものかな」


 周りの人に聞こえない程度に独り言を言う。

 ドルミーからは複雑なものは作れないと言われているだけだ。

 調理済みのものが売っている以上、選択肢は意外に多い。


 時は昼前。

 先ほどの武器屋さんの時計はそう示していた。


 それ以上に気になったのは、時計のデザインが私の世界と同じこと。

 文字盤には1から12の数字。

 それに長針と短針。

 時間の流れも同じと思ってよさそう。


 まあ、今はお腹が空いた。


「とりあえずパンが無難かな……」


 とりあえず食べる物をパンに絞る。

 それでも視界内には2、3軒あるな……。

 ドルミーの事が心配だし、近場から見ていきますか。


 私は自分から一番近いパン屋さんに入ってみた。




 ○ ○ ○




「パンが1、2、3……4つ。これでいいのかい?」


「は、はっ、はい」


 私がレジ……にあたる場所で、木製のトレイに乗せたパンを店員さんに見せる。

 選んだのは出来たてのサンドイッチや菓子パンだ。

 見た目と匂いに違和感はない。

 とてもおいしそう……。


「友達の分も一緒かい? それとも、これ1人で食べるの?」


「い、一緒ですよ。2人で食べるんです」


「だよねぇ、こんなにスリムなお嬢さんだもの。冗談言ってごめんね!」


 気さくなおばさんだ。

 少し声が大きいけど嫌じゃない。


 カランカラン……


 パン屋の戸に設置されたベルが鳴り、同時に誰かが入ってきた。

 店員さんがパンを包んでカゴに入れている間、暇だった私は振り返りその人物を見る。

 私と同じくマントのようなものを(まと)い、顔はスカーフで隠されていてよくわからない。


 なんか怪しいけど、お店なんだからそういう人も来るでしょう。

 お腹も空いたし、早く買って帰ろう。

 そう思った矢先、今入ってきた人物がパンも持たずに私の近くまでやって来た。


 もしかして、私がこの世界の人間じゃないってバレ……。


「ここら辺で女の子を見ませんでしたか? 金髪の美しい少女なのですが」


 力強く、凛とした女性の声が響く。


 私はグッと心臓を掴まれたような錯覚に(おちい)る。

 金髪……美しい……女の子……。

 もしかして、ドルミーの事だろうか。


 そもそも彼女が、この世界の人間にどう認識されているかを私は知らない。

 あんな怪しそうな人から追われる存在なのかな……。

 まあ、神様だからそれでもおかしくない。


「見てないねぇ。ここには来てないよ。それより、お客さんを待たせてるんだ」


 店員さんの対応に、その人物はちらりと私を見た。

 鼓動がドンドン高鳴っていく。


「……これは失礼しました。非礼をお詫びします」


 素早く言葉を発すると、レジに硬貨を置いてその人物は去って行った。


「おっほ。あの感じ……そこらの冒険者や傭兵風情とは違うねぇ……。で、お嬢さんお支払いはどうする? さっきの奴、どうやらお嬢さんのお代を置いて行ったみたいだけど?」


 私はそこでハッと我に返った。


「はっ、はい!」


「顔色が悪いよ。大丈夫かい? これお釣りね。あとジャムもサービスするから家でゆっくりおやすみ」


「あっ、ありがとうございます……」


 パンを入れ、上から布をかぶせたカゴを受け取ると、もう一度礼を言いパン屋を後にした。

 のどかな田舎町の中で、目立ちそうな先ほどの人物は、私の視界の範囲にはいない。


 奴の狙いはドルミーかもしれない。

 早とちりの被害妄想ならいいんだけど、どちらにしろ今の彼女は戦えない。

 私たち唯一の力であるマントは今、私の手元にある。


 とにかく早く戻って、無事を確認しないと!

 買い物を切り上げ、私は小屋に向けて早歩きを開始した。

 走ったら目立つからね。

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