26話 女神様にお願い
シャリアとの模擬戦後、明かされた新たなる目的はマグカルト魔導大学校への入学だった。
私たちはその場の説明だけでは理解できなかったので、資料やらなんやらを部屋に運び込んで置いてもらい、午後からは再び基礎訓練に励んだ。
なんだか体を動かしたくてたまらなかった。
気の巡り……魔力の巡りが戦いで活発になり、力がどんどん溢れてくるような感覚……。
体の動きも良くなり、疲れもずいぶん感じにくくなった。
ドルミーはまだまだだけどね。
でも彼女も少しずつ成長している。
私が心配するとしきりに「真夜さんが頑張ってるのに私が楽するわけにはいきません!」と言っていた。
訓練後に王や姫たちとの夕食も終え、自由に部屋でくつろぎながら学校の資料に目を通す。
私とドルミーが受験するのはマグカルト魔導大学校に二つある学科のうちの一つ、魔法戦闘科だ。
ちなみにもう一つは魔法研究科で、魔導機械や医療関係などはこちらのようだ。
研究科は筆記試験があり、それはもうすでに何度か行われていて、後から入れないそうだ。
そもそも筆記は知識がないから絶対無理だし、戦闘のための魔法を鍛えにいくワケだから問題ないのだけどね。
本命の戦闘科は実技試験らしい。
これが入学迫る3月の末に行われる。
実はこの世界も12カ月で一年、そして月の日数も一緒だ。
現在は3月の中盤に差し掛かろうといところで、実技試験まで一刻を争う。
対策すべきだが試験内容は明かされていない。
会場に着いた時、明かされるらしい。
そうなるとやはり体を鍛えるしかない。
体が強ければどんな事にも役に立つ……脳筋思考になってるな私……。
あっ、そうそう。
もう一つ鍛えるべきは魔法だ。
模擬戦で出した光の刃や鞘を覆う光、後は身に纏う光などを自由に操作できれば試験はある程度余裕……と、学校OBリアスさんが言っていた。
そもそもここの兵士にはOBが多いらしい。
まぁ、国の最高魔法教育を受けた人間が国の重要な役職に就くのは自然だと思う。
話が逸れたけど、一番の問題はドルミーだ。
彼女の魔力は並みの人間にも劣っている状態。
魔法戦闘科……というか魔導大学校には身分の高いものが多く入学する。
理由は純粋に良い学校と行くのもあるけれど、実際は授業料の高さにある。
国王や校長が私腹を肥やしているワケじゃなく、設備投資や教員の給料に消えていくらしい。
学校パンフレットの写真を見ると、確かに食堂は洒落たカフェやレストランの様な雰囲気だし、教室も綺麗。
おまけに全寮制なので寮の維持費もかかる。
そこへさらに変わり者が多い教員への給料がのしかかってくる。
優れた魔法研究者というのはどうしても内へ内へとこもっていくようで、自分の研究や知識を人に教えるのを拒む。
しかし、そんな彼らも研究費がないと困るし、研究が身を結んでも、それが金になるとは限らない。
そこで学校で生徒を指導をする代わりに金をもらう。
そして、好きなことを研究するというワケ。
戦闘の方は人に教えられるほど強く、そして頭の良い者は冒険者や騎士として成功し金を稼ぐので、来てもらうにはただそれ以上の大金を積む必要がある、とのこと。
そんなこんなで高くなる授業料を払うにはお金持ちじゃないとダメ。
結果、お金を持ってる身分の高い者が生徒に多くなる。
それがドルミーの事とどう関係があるのか。
簡単に言うと身分の高い者ほど強い。
血が良いから生まれ持って魔力が優れているのだ!
……というわけではない。
お金があるから子どもの頃から純度の高い魔宝石のサポートを受けて魔力を目覚めさせることができ、いい家庭教師のもと訓練が行えるからだそうな。
魔力を学力に置き換えると私の世界とあまり変わらないね。
身分の高い者……例えば貴族も領地やらを継ぐのは基本一番初めに生まれた子どもで、それ以降は内務的なサポートをするか、領地を守る騎士か、冒険者かという将来になるらしい。
それを考えても戦闘能力はあるに越したことはない。
そもそも、この国の貴族の風潮として「民より強くあれ」というものがあるようで、学校への注目度はどうしても高くなってしまう。
でも、それだと学校で学んで強くなりたい平民はどうすればいいのか。
答えは二つある。
一つは給付型奨学金制度。
これは入学試験の成績優秀者の授業料がまるまる免除されるものだ。
しかし、成績だとお金持ち有利では?
その通りなんだけど、金の受け取りは成績優秀者の意思で拒否できるのだ。
一番が拒否したら二番へ。
二番が拒否したら三番へと、どんどん下位のものに権利が渡るようになっている。
そして、お金持ちは拒否るべきという風潮があるため、毎年数人は平民でも学校に入れるのだ!
……お金持ちの「粋」だけで機能してる制度だなぁ。
実力で奨学金を勝ち取った平民は、今まで研究科戦闘科合わせて数名しかいないみたいだし。
もう一つの制度は一学期コース。
私たちのコースだ。
魔導大学校は基本三年間通う。そして一年は三学期。
一学期コースは純粋に通う期間が短い分、授業料も安価ということね。
これは戦闘科のみの制度らしい。
約四カ月で強くはなれても研究は難しそうだから当然かな。
学校のシステムはこっちの大学に近く、自分で受ける授業を決められる。
通常コースは卒業までに規定単位を取得する必要があるけど、一学期コースにそれはなく、期間が来ると放り出される。
ただ優秀だったものには、それなりの資格が与えられるらしい。
また、入学試験や授業内容は通常コースと変わらないため、途中でコースを変えることも可能だ。
もちろんお金はいるし、一度通常コースに入るとキッチリ三年通う事になる。
……えっと、ドルミーの話だったかな。
つまり強い人たちが集まるから、彼女が入学できるか不安ということ。
○ ○ ○
「……ドルミーは学校興味ある?」
「とても楽しそうなところですし……出来れば入ってみたいです。でも、遊びに行くわけじゃないんですよね……」
「別にそんなに気負う必要はないと思うよ。やるだけやって、入れたら楽しむ感じでいこう。私は落ちるわけにはいかないけどね」
「すいません……」
なんで謝るの……と聞こうとしたけど、理由は知ってる。
「私を転移させたこと、後悔してる?」
「そ、そんなことありません」
「じゃあ、申し訳ないと思ってる?」
「それは……はい……」
だろうなー。
まったく懲りない悪びれないのもアレだけど、ここまで辛そうにされると嫌だ。
それが彼女のいいところでもあるんだけどね。
もっと腹を割って話せる関係でありたい。
私にとってドルミーはこの世界で一番頼れる人なのだから。
「ねぇ、ドルミー。私もね、この世界に来たことを後悔してないし、決闘に関わったのは自分の意志だから、ドルミーの事、責めたりしないよ」
「……はい」
「でもね、私も強い人間じゃないからさ。帰れなくなったり、痛い目にあったりしたら……そうも言ってられないかも」
「…………」
「だから、私のこと助けてほしいんだよね。申し訳ないと思わなくていいから。私がこの世界に来たことを『良かった』と思えるように、ドルミーと出会えて『しあわせ』と言えるように。私もドルミーが私を選んで『良かった』と言えるように頑張るからね」
「…………はい」
「じゃあ、明日からも一緒に頑張ろうね」
「………………はい」
言っててこっちが恥ずかしくなってきた……。
でもこれはどこかで言わないといけない事だ。
新しい目標に向けて動き出す前に伝えられて良かったと思う。
さあ、寝よう。
「真夜さん!」
「はっ、はい!」
「私、いっぱい訓練して学校入ります! そして、戦いに関する知識を身に付けて、決闘にも出ます! 私も一緒に戦います! それからそれから……」
「わ、わかったよドルミー。落ち着いて……」
「ふー……ふー……」
興奮するドルミーは勢いもそのまま私に抱き着いてきた。
腕の力も出会ったころに比べると強くなっている。
魔力不足の中でも彼女なりの努力を続けてきた結果だ。
それは申し訳なさが原動力だったのかもしれない。
でも、これからはもっと前向きでいてほしい。
ドルミーは笑顔が一番かわいいから。




