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25話 真夜VSシャリア

 朝が来た。

 今日はシャリアとの模擬戦がある。

 体の調子は良い。頭もスッキリしている。

 でも、お腹は空いてる。

 今日の朝ごはんは姫様の部屋に用意してあるらしい。

 私とドルミーは身なりを整え、姫の部屋に向かう。


 姫の部屋は、私たちの部屋がある階層より上にある。

 といってもそこまで遠くないので、今回は階段を使って数分で辿り着いた。

 部屋の前で警護していた兵士さんに挨拶をし、中に入れてもらう。


「あっ、真夜さま、ドルミーさま、おはようございます」


「おはようございます、ヒロウ姫」


 姫は今日も変わりなく元気そうだ。いや、むしろいつもより落ち着きがない。


「まあ、まずはゆっくり朝食を頂きましょう」


 自分に言い聞かせるように姫様が言う。


 今日の朝食はトーストやベーコンエッグにサラダなど一般的な家庭料理だ。

 初めての朝は量がすごかったからね。

 朝からは遠慮しますと姫様に言っておいた。


「今日、緊張なされてますか?」


「うーん、まあ、問題ない……ですね。自惚れとかじゃなくて、いつも通りって事ですけど」


「まあ、それは素晴らしい事です」


 朝食を食べ終わり、姫が初めて今日の模擬戦の事に触れた。

 これを言い出したくてしょうがなかったから、ソワソワしてたのかな。


「……そんな真夜さまに、お渡ししたいものがあるのです。ミスティス、アレを!」


「はーい、姫様~」


 今日は普通にそばで待機していたミスティスさんが、元気な返事をした。

 この人のお付のメイドっぽいところは、食事中ぐらいしか見れない。


「こちらですね、姫様」


 布に包まれ、リボンで結ばれた物が出てきた。

 姫はそれを受け取って立ち上がり、座っている私の前に来た。

 釣られて私も立ち上がる。


「これを私の為、国の為、神の為……そして、何より真夜さま自身の為に存分に振るってください」


 受け取った包みを解くと、そこには(さや)に納められた剣があった。


「これは……」


「私の物と同じ剣です。(さや)(つば)(つか)の部分は目立ちすぎないようにデザインを変えてありますが、性能は変わりません。むしろ、(さや)については強化してあります」


 言われてみると、(さや)には姫の剣の刃と同じようにキラキラ輝くラインが入っている。


「お察しの通り、その輝くラインは光の魔宝石の粒子がコーティングしてあります。刃部分より更に粒子量が少ないですが、真夜さまなら問題なく使いこなせるはずです。剣を取り落した時や、手加減する時に鞘に収めたまま使うなど、いろいろ便利かと思って急遽加工させました」


 これが私の剣……。

 シンプルなデザインに確かな機能美。

 すばらしい物をもらってしまった。


「あの……抜いてみていいですか?」


「ええ、どうぞ」


 許可をもらい、私はゆっくりと剣を引き抜いた。

 新品の刃はキラキラと輝き、キズ一つない。

 美しい……しかし、力強さを感じる……。


「なんだか、刃物に見とれる真夜さん怖いです……」


 ちょっと不安そうなドルミーの言葉で我に返った。

 かなりうっとりした表情をしていたみたいだ。


「えっと、こんないい物頂いて……ありがとうございます」


「いえいえ、私の予備の剣を加工しなおしただけですから。それに……真夜さまにはこれからやっていただく事もありますし……」


「そ、そうでしたね。頑張ります……はは……」


「ええ、頑張ってください。その<霜降りの剣>――マーブレッドソードと共に!」


「え?」


 <霜降りの剣(マーブレッドソード)>?

 もしかして、この剣の名前?

 確かにキラキラ光る刃は、霜の降り立った大地の様だけど……。

 マーブレッドって事は、(フロスト)じゃなくて霜降り肉(マーブレッドミート)の方じゃん。

 ……いや、でも語感は良いし、姫様から貰った名だ。ありがたく使わせてもらおう。


 今日からよろしく<霜降りの剣(マーブル)>!

 しかし、【言語翻訳】的に英語はどこから……気にしないでおこう。


「それで、あの、今日の模擬戦について、真夜さまにお願いがあるのです」


「わかってますよ。模擬戦は負けません。決闘でも姫様を守ってみせます」


「それは頼もしいし、嬉しいのですが……。お願いというのは、今回の模擬戦で剣を抜かないで欲しいのです」


 貰っていきなり抜かないで欲しいって言われた……。

 私の剣(マーブル)は抜かなくても使えるけどね。

 でも、それは手加減をする時とか……あ。


「も、もしかして、シャリアさんどこか調子が悪いとか……?」


 昨日のぼせたせいだとすると、申し訳なくて戦いにくいのだけれど……。


「まあ、悪いというかなんというか……。一目見るとわかると思います。さぁ、そろそろ行きましょう」


 戦う事は出来るみたい?

 なんにせよ勝ちを譲ってはいけないんだ。

 心を鬼にして勝つ!




 ○ ○ ○




 模擬戦を行う場は、基礎訓練を行っていた場所よりは狭い。

 大きさの差は校庭と体育館って感じかな?

 他に違いとしては石造りの囲いがある事。

 でも天井はなく、青い空と太陽が見える。


 私はすでにその中心近くに立ち、戦う準備は出来ていた。

 対するシャリアは……眠たそうだ!

 昨日、緊張して眠れなかったのかな……。

 逆にぐっすり寝た私が図太いのか?

 どちらにせよ、少しやりにくいな。


 彼女の装備は、謁見の時に見た鎧一式。

 それに武器として槍を右手に、盾を左手に持っている。

 この槍は長い棒の先に小さな刃が付いたタイプではなく、持ち手の部分から円錐状に金属部分が伸びている。


 盾は大きな長方形。

 普通の人が持っても体の大部分を覆えそうだけど、身長の低いシャリアが持つと兜から飛び出ているポニーテール以外を完全に隠せてしまう。

 なかなか重装甲の歩兵といった印象を受ける。


「両者準備はよろしいですか」


 私とシャリアの間に立つ審判、リアスさんが声をかける。


「私は大丈夫ですけど……」


「……シャリア訓練兵!」


「えっ。は、はいっ! 準備出来てます……」


 やっぱりシャリアはねむそうだ。

 ……これで勝っても意味がない。

 私も彼女の勇気に応えるため、一勝負うちますか……。


「それでは模擬戦のルールを再確認し……」


「まってください」


 開始の合図を告げようとするリアスさんを止め、私はある条件を告げる。


「一撃勝負にしましょう。それで武器を取り落した方が負けです。そして私は……」


 私は、マントを脱ぎ去った。


「これでいいです。シャリアさん、対等な勝負にしましょう」


 元からこちらもかなり負い目を感じていたし、これで勝てれば胸を張ってこれからも訓練を頑張れる。

 それに今は自分の剣(マーブレッドソード)がある。

 鞘に入れたままの剣を私は構えた。


 そんな私を見てリアスさんは目を見張ったが、後ろで見守っている王や王妃、そして姫を確認した後、無言で向き直った。

 「問題なし」という判断だろう。


 当のシャリアも目を見開き、複雑そうな表情をつくった後、黙って盾を捨てた。


「いいのか……? こ、これで勝っても約束は守ってもらうぞ……っ!」


「大丈夫よ、負けないから」


「……怪我しても知らないから!」


 シャリアは槍を構えると同時に『風』を(まと)いだした。

 これは魔法の風だ。微かに揺らめく緑色の輝きが見える。


「両者準備完了と判断し、合図のあと模擬戦を開始します」


 そう告げるとリアスさんも魔法を発動した。

 見守る者たちを守る水のベールだ。

 これでもはや憂いは無い。


「では、始めッ!」


「巻き起これ風! 【旋風撃(ワールウィンド)】!」


 開始と同時にシャリアの槍に緑色の風が集中し、渦巻く。

 そして、それを両手で私に突き立ててきた。


 こちらも剣に力を集中し、光を(まと)わせ、振るう。

 一週間前とは違い、急に噴出して気を失う事もなく、鞘の形状をなぞる様に操作できた。

 体を鍛えたおかげだろうか。


 キイイイィィィィィィン!!


 魔力と魔力がぶつかり、光が放っているであろうの甲高い音と暴風の音が耳を襲う。

 筋力は私が劣っているけど、光魔法が相手の魔力を弾き飛ばすように作用している。

 光を、魔力をもっとだ!


「う、うおりゃあああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」


 今まで出したことのない様な大声をだし、私は思い切り剣を振り切った。

 ガキィンッ、と今度は魔力が金属にぶつかる音がしたかと思うと、宙を舞ったシャリアの槍が地面に突き刺さっていた。


「……勝敗は決しました。真夜殿、剣を収めてください」


 リアスさんに声をかけられ、私はハッと自分の剣を見た。

 振り切った時の衝撃で鞘が飛び、刃が飛び出している。

 それもただの刃ではない。もともとの刃を伸ばすように、輝く光の刃が空に向けて伸びている。


「うわっ!」


 私が驚くと同時に光の刃もビクッと震え、一瞬で引っ込んでしまった。

 魔力が持ち主に似るとはこういう事か……。

 飛んで行った鞘を受け取り、剣を収めながら思った。


「勝者、根田間真夜! これにて模擬戦を終了する」


 私、勝ったんだ。

 ふらふらと倒れこんできたシャリアを受け止めながら、やっと理解した。


 ……冷静に振り返ると無茶したなぁ。

 せっかくドルミーが与えてくれた私を守る力をみすみす捨てるなんて。

 それにこれは手を抜いたみたいで、かえってシャリアを傷つけたのでは……。

 あー! 全力を出したのになんかうじうじ悩んでる!


「私の負け……。姫様は頼んだ……わ……」


 それだけ言うと、シャリアは寝息を立て始めた。


「真夜さん!」


 今度は後ろからドルミーが抱きついてきた。

 背中に彼女の体の感じる。

 ……戦いの後だからだろうか。感覚が敏感になっている。

 視線もなんとなく分かる。リアスさんの後ろで見てる人達以外にも、何人か感じる。

 おそらく訓練をサボって、何人かの兵士さんが隠れて見ているのだろう。


「うううぅぅぅ……。急に危ない事言い出すから、ビックリして応援も出来なかったじゃないですか……」


「ごめんね。せっかく私にくれた力なのに」


「大事無くて良かったです。でも、傷の手当はしてくださいね……」


「えっ、どこかケガしたっけ?」


 自分の体を眺めてみると、確かに腕や足に切り傷の様なものがあり、血も少し出ている。

 光で弾いた風の魔法が幾つかかすったのかな。

 これからは気をつけないとね。


 にしても、感覚が鋭くなったはずなのに痛みはわからなかった。

 今少しずつひりひりしてきた……。

 でも、この痛みがこの世界で私が生きていることを実感させる。


「いやぁ見事な一撃でしたな、真夜殿。そして何よりマントを捨て去るという漢気! 感服いたしましたぞ!」


「でしょうでしょうお父様! 真夜さまはロマンあふれる素晴らしいお方です!」


ヒルデルス国王とヒロウ姫は大変喜んでいる。

ロウニス王妃は無言だけど、その顔は今まで見た中で一番の笑顔だ。

危険だったけど力の示し方としては大正解だったかもしれない。

シャリアの株も落とさずに済んだみたいだし。


「えー、それでですな。決闘への参加は……いや、もう聞くまい。根田間真夜には神騎士の爵位を授ける!」


「あっ、ありがたきしあわせ!」


急に爵位を授けられたので思わず跪き、どこかで聞いたような感謝の言葉を述べる。


「あらたまる必要はないですぞ。この神騎士というのは新たな爵位でしてな。私の任意で取り外し可能……と表向きはしてあります。目的達成のため他国へ赴く時など双方めんどくさくないように、という事ですな」


つまり仮の爵位みたいなものね。

名前が名前だから身構えてしまった。


「そしてそして! 決闘に参加するために真夜さまを我がヒロウ近衛師騎士団のX番隊……つまりイクスナンバーズの隊長に任命します!」


その「つまり」はどこにかかっているのだろう。

国家間決闘(グランドデュエル)からして、姫様のセンスは国王譲りか。


「また、ドルミーさまがこれから魔力を取り戻すなど戦力として突出することがあった場合は、X番隊(イクスナンバーズ)の兵士として参加……ということでいきましょう」


 着々と外堀が埋められていく。

 まあ、立場が変わっても明日からまた訓練の日々なんだろうけどね……。


「おほん。部隊への配属が決まったところで、真夜殿とドルミー殿には褒美としてある物を用意しておりますぞ」


 褒美とな。武器はもらったし防具一式かな?


「ここの訓練はある程度基礎が出来る者向けなので、どうしても限界がありましてな。いやぁ出会った時期が良かった」


 もったいぶるなぁ。

 それに訓練? 時期って?


「その褒美というのは……国立マグカルト魔法大学校入学試験の受験票ですぞ!」


 ま、魔法大学校!?

 なんと甘美な響き、妄想が膨らむ……って受験票?

 国立なのに国王の力で裏口から入り切れてないじゃん!


「言いたいことはわかる、わかりますぞ……。しかし、あそこの校長は頭が固く、これが限界でした」


 まともな校長先生だ。

 私も勢いで『裏口入学』を望んだけど、まともに入ろうとしている人に悪いし嫌だな。

 しかし、学校は何年あるのだろうか。

 あんまり動きを拘束されるのも困るなー。


「ちなみに学校は一学期コース……大体、4か月間通う事になっております」


 コースってなんだ?

 急に安っぽくなったぞ……。

 そこのところもちゃんと確認しないと……。

 ずっと訓練じゃないのは助かるけど、これはこれで大変になりそうだなぁ……。

 まっ、覚悟の上よ。やってやりますか!

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