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24話 シャリアの受難

「あのぉ、シャリア……さん?」


「あっ、わあっ!」


 水面を見つめていたシャリアに気づかれないように接近し、声をかけた。

 彼女は想像以上に驚き、目を見開いて固まっている。

 ほぼ初対面ということもあり、「さん」をつけてみたけど、見た目は私より年下に見える。

 でも、騎士団見習いならそれなりの年のはず……。


「な、なんだ……。私に何か用か」


 シャリアが体に巻いたバスタオルをギュッと握りしめながら、私を睨みつける。


「特に何かあるわけじゃないですけど、お話できたらなーって」


「そ、それ以上近づかないで。私はあなた達を信用していない」


 うっ、やっぱりあまり良く思われてないよね。


「どうして私たちのこと信用してくれないんですか?」


「……話が良すぎる。私たちにとって」


「何か裏で悪いことしてそうですか?」


 シャリアはこくりと頷く。

 その動作も小さく、怯えているような感じだ。

 なんというか、かわいい。


「姫様は優しすぎる。そして妄想や空想も大好物であられる。神とその使徒と言われれば、信じたいと思われるのも無理はない。状況が状況というのもあるがな」


「それで私たちが詐欺師か何かと?」


「……そうも思わない。王妃様の一撃を防いだのも事実だからな。腕利きの傭兵か冒険者とか……?」


 え、こっちに聞いてきた!


「えー、いや、私は本当に他の世界から来て……」


「なにか証拠はあるのか? 見た目に違いは見受けられないが」


 むー、意外に頑固だ。

 それに見た目に違いって、そんなにじっくり私の体を観察したわけでもないのに。

 ん、観察……。


「じゃあ、私の体、調べてみます?」


「へっ!?」


「何か違いがないか、存分に調べてみるといいですよ。私もこの世界の人の体を調べたわけじゃないですから、なにか新しい発見があるかも」


「え、えっ」


 私、今かなり意地悪な顔してると思う。

 あまり人をからかうような性分じゃないけど、なんだろう彼女はちょっとからかいたくなる。


「ほら、今見せて……」


「ダメです!」


 湯から体を出そうとした時、後ろからドルミーが飛びついて来た。


「自分に裸を見せびらかすなんて真夜さんらしくありません! のぼせちゃったんですか!?」


 耳元で叫びながら、私を湯の中に押し込む。

 これ溺れるって!


「がっ……わかった、わが……った!」


 ドルミーを振りほどき、私は浴槽の縁に体を預けてむせる。

 ……少し冷静になって考えると、さっきまでの私の行動はなかなかにおかしい。

 本当にのぼせたのか、疲れから来るものなのか。


 どちらにしろ、早くお風呂から上がって、ご飯を食べて寝た方が良さそうだ。

 その前に、シャリアさんに謝らないと……。


「あの、ごめんなさい……。なんか私、のぼせちゃったみたいで……すいません」


「……やはり、お前たちは……」


 シャリアさんは顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。

 私たちより先にお風呂に入っていたのだから、彼女ものぼせているのだろう。

 申し訳ないことをしちゃった……。


「わ、私は先に上がらせてもらう!」


 ザバアッと派手な水音を立てて、シャリアさんは立ち上がる。

 その瞬間、彼女が体に巻いていたバスタオルが取れた。


「おっと!」


 私は素早く立ち上がり、そのバスタオルをキャッチ。

 すぐに体に巻きなおす。

 よし、見てない。

 彼女は恥ずかしがり屋の様だし、(あら)わになった裸をまじまじと眺めてはますます嫌われる。

 この行動で少しでも信用してくれたらいいな。


「良かった。私何も見てませんから、安心してくださいね」


 シャリアさんは相変わらず赤い顔をしているけど、素直にうなずき、脱衣所に入っていった。

 それを見届けた私は再び湯につかる。

 着替えてるところに入っていっても悪い。


「はぁ……。真夜さんはどうしてお風呂に入ってる時、バスタオルを巻かないんですか?」


「んー、私の世界では浴槽にタオルを浸ける事を良しとしてなかったの。温泉とか特に。後は……純粋にこの方が湯を感じられるというか……」


「他の人が一緒でもですか?」


「浴槽ではそう。外だと……まあ一応は隠しとく」


「……まあ、真夜さんほどスタイルが良いと、人目に晒して恥ずかしいものじゃありませんものね」


「いや、女同士だからという部分が大きいから! 露出狂みたいに言わないで」


「ふふっ、そんな謙遜しなくていいんですよ。その体、同じ女の子でも惚れるか、嫉妬しちゃいますよ~」


 むー、ドルミーものぼせあがっているのか、いつもより絡み方がねちっこい。

 胸に顔を(うず)めてくる。

 私たちも早く上がりたい。

 そう思っていた時、脱衣所の扉があいた。


「も、もう着替え終わったから……」


 シャリアさんが戸の隙間から顔を覗かせ、小さめの声でそれだけ言うと、すぐに戸を閉めた。


「私たちも上がろう」


「えー、もうちょっと……」


「上がるよ」


 ドルミーの手を引き、浴槽から引きずり出す。

 彼女は少し不服そうなしたものの、すぐに従う。

 後で冷静になったら恥ずかしがる姿が目に浮かぶ。


 本当にこんな感じで大丈夫なのだろうか……。

 いや、大丈夫と思い込む!




 ― ― ―




 なんだあいつ、なんだあいつ。

 私を……誘惑しようとしたのか!?

 それともアレが癖の変質者なのか……。

 ならば、報告すべきだろうか……。


 いや、だめだ。

 私自身上手く説明できる気がしないし、姫様の事だから「英雄、色を好む、です」みたいなこと言って、より興味をもたれるに違いない。


 まあ、神を騙る金髪……ドルミーとかいう方はまだ常識があった。

 それを信用するしかない。


「それにしても……大きかったな……」


 城の廊下を一人歩きながら思い起こす。

 160、いや170はあろう身長。私は150cmもない。

 一般的に女性ならば私ぐらいの身長の方が高すぎるよりは良いのだろう。


 しかし、私は国を守る騎士となる身だ。まだ、訓練兵だけど……。

 ど、どちらにせよ、身長は伸ばしたい。

 背中が大きいほど守れるものも大きいのだ。


 その点、ヴァネッサ殿は素晴らしい体格だ。

 生まれ持ったものを生かし、更に鍛え上げられた肉体は美しい……。

 それでいて母性の塊ともいえる大きな胸が……本当に欲張りな体だ。


 しかし、性格もまた大きいというか、わがままというか。

 時折、城の敷地内にある芝生や木の下に座り込んでボーッと城下町を眺めたり、本も読んで眠 たそうにしている。

 これが近衛騎士団の訓練中でなければ美点になるのだが……。


 まぁ、これを許すリアス団長も甘い。

 彼女は堅物で規律には厳しい。

 ヒロウ姫様もかなり奔放な性格なので近衛騎士団長としては完璧な人材だと思うし、実力も疑わない。

 

 だからこそ、ヴァネッサ殿にかなり甘いのが気になる。

 幼馴染だと聞いているが、それだけで気を緩める人とも思えない。

 もっと深い理由があるのだろうか?


 ……今、気にする事じゃないな。

 なんせ私は、明日の結果によっては訓練兵で居られるかも怪しーんだもーん……。

 あぁ、あんな大それた発言を自分がするなんて……。


 自分から志願して、試験を受けて、訓練兵になった。

 とはいえ、日々の訓練は厳しくて、それに終わりも見えなくて、投げやりな気になってたんだろうなぁ……。

 ここでパーッと何か起こらないかなーと思ってた時、女神と使徒が来たと慌ただしくなった。


 別に彼女ら二人を本気で疑っている訳じゃない。

 ただ、伝説上の存在が少し疑わしくなっただけ、みんな少しは疑ってたはず。

 それを声に出したのが私だけだったというだけで……。


 王妃様には助けられた。

 あのお方は義を重んじる者が好きだ。

 私が日々にウンザリして、投げやりにやった事と知ったらどんな顔をされるか……。

 その前に生かしてもらえるのか……。


 だからこそだ!

 だからこそ、明日は頑張る!

 負けたっていい、本気であればみんなも納得してくれる……よね?


 決意が固まったところで、部屋についた。

 王妃様が普段の訓練兵の寮ではなく、ここで万全の準備をしろと言って、用意してくれた豪華な部屋だ。

 むしろ落ち着かないし話し相手がいなくて寂しいとは言えない。

 でも、ベットは格段にふかふかで訓練の疲れはよくとれるし、静かなのも精神統一にはいいかと思うことにした。


 それに話し相手ならなんとかなるし。

 私はかちゃりと扉を開け、部屋の中を見渡す。

 ……あれ、誰もいない。そういう日もあるか。

 ならもうパジャマなのでベッドに直行して寝る!

 素早くベッドに向かい、私は布団をかぶった。


「今日は遅かったじゃん。何してたの?」


「うわ……ッ!!」


 ベッドの下から声がした。

 思わず驚いたけど、私はこの声の主に心当たりがある。


「ごめんね。明日は大事な日なのに驚かせちゃって」


 ズイッとベッドの下から現れたのは、同じ訓練兵のプリング。

 くすんだ赤い髪とソバカスがチャーミングな女の子だ。

 かなり図太く丈夫な心を持ち主で、夜な夜な寮抜け出し、私の部屋までやって来てくれる。


「こんなに何回も抜け出して大丈夫?」


「余裕余裕。この城の警備も甘いね。私ごときをここまで素通りさせるんだもの」


 彼女は少しつり上がった目を細め、いたずらな表情を見せる。

 うーん、もしかしたら見張りの兵士さんたちが気を利かして、見逃してる可能性もあるんじゃ……。

 私が城内の有名人になっちゃって、仲良いのがプリングって事も知られてそうだしね。


「で、今日は何で遅かったの? お風呂場でなんかあった?」


 尋ねられたので、私は隠さずに答えることにした。

 彼女も女神とその使徒の事には、少なからず興味を持っているはずだ。


「へー、面白い人たちだね。それにスタイルも良いって、羨ましい……」


「面白いというか、変な感じだった。でも、悪い人でもなさそう」


「そりゃ良かったじゃん。明日の模擬戦でボッコボコにされなさそうでさ」


「そ、そこまで私も弱くない……はず」


「でも勝てないでしょ? あの王妃様の氷塊を防いだマントに、最強の属性である光の魔法。たとえ身体能力や武術で勝っていても無理だよ」


「うっ……」


 そこまでハッキリ言われると怖くなるし、へこむ……。


「別に責めてるんじゃないよ! ただ、負けても誰もシャリアを責めないって事。あんなのインチキよ。せめてどちらかの力にしとけってね」


「でも、ふっかけたのは私だし……」


「だからさ! 全力で戦って華々しく散ればいいの。自分なりの本気でね。相手も悪い人じゃないんでしょ? もし、シャリアを笑うようなら私が寝首をかいてやるから!」


 国賓を暗殺宣言はヤバすぎるって!

 ここまで言われたら、もう私が全力を出すしかないな。


「ありがとうプリング。私、かなり楽になった。だから、何があっても寝首をかくのはやめてね」


「あら、そう?」


「私が勝てない相手に、プリングが勝てるわけないでしょ。実技は私の方が上なんだから」


「なんだとー! って、そんな冗談が言えるなら安心か。じゃ、私は帰るね。ぐっすり眠りなさいよ!」


 いや、冗談では決してないんだけど……。

 まあ、大丈夫だろう。


「おやすみ。訓練頑張ってね」


 私の元場にグッと親指を立てると、プリングは扉から颯爽と廊下に飛び出した。

 さあ、私も明日の為に寝るか。

 その前に今日の訓練や出来事を頭の中で整理して、明日するべきことを決めなければ。

 これ結構大事よ。


 やる事、模擬戦……どう戦うか。使徒の守りは鉄壁、攻撃は光。

 私はやられるまで突っ立ているだけ……?

 それはちょっと恥ずかしい。けど、なにも手がない……。

 私が得意な魔法は風、武器は片手槍と盾を使う。

 もちろん、王妃様の魔法ほど威力は出ない。


 うーん、何も考えずに寝た方が良いかなぁ。

 でも、ノープランは……何かないかなぁ。

 なんとかマントだけでも脱いでくれたらなー。

 他にはえーと……うーん……答えが出ない。


 もう何も考えずに寝よう! それがいい!

 考えない……。

 考えない…………。

 考えない…………どうなるかなぁ……。

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