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22話 訓練開始

 翌朝――。

 私とドルミーとリアスさん、それにまだ眠たそうなヒロウ姫は、城の外にある訓練場に来ていた。

 目的はもちろん、昨日話していた訓練を行うためだ。


 訓練場は学校の校庭みたいな広く開けた場所の周りにいくつかの建物が建っている。武器や備品が入っているのかな?

 他の騎士の姿はない。

 リアスさんによると、他にも訓練所はあるので他の騎士に迷惑は掛かってないそうだ。

 私も初日から知らない人の群れに混ぜられなくて安心。


「さて、入念に準備運動をしてから訓練開始……と言いたいところですが、まず魔法の確認をしましょう。昨日、ヴァネッサから話を聞いたようですね」


「はい。私の光が、なんかとてもすごい魔法みたいで……」


「確かに光は万能です。しかし、だからこそ使い手のイメージ……魔法の方向性が大事になります。一度、光を出していただけませんか? 魔力は目覚めているので、剣が無くとも可能なはずです」


「や、やってみます」


 と、言ってみたものの……剣に導かれるように勝手に出てきただけだから、コツがわからない。

 とりあえず、力んでみるか。

 私は拳を握りしめ、うんうん(うな)った。でも、光は出てこない。

 今度は逆に力を抜いてみる。神経を研ぎ澄まして……出ない。

 いや、次は手を合わせて……。




 ○ ○ ○




 真夜殿が魔力を放出するのに苦戦しておられる。


 彼女は光の魔宝石である白宝石(ダイヤモンド)の細かい粒子にすら反応して魔力を覚醒させた。

 つまり、かなり敏感にコントロールしやすい魔力を持っている事は明白。

 そして、覚醒方法から『魔力の性格』は中立型(ナチュラル)と判断できる……はずなのだが……。

 どうも、あの苦戦っぷりを見ていると、極度の冷静型(カーム)に思えてくる。


 冷静型(カーム)は魔力を放出するのが苦手だ。

 魔法として初歩的な【五属性玉(エレメントボール)】も習得に難儀する。

 しかし、逆に体にまとわせたりするのは得意で、肉弾戦や身を守るのに非常に役立つ。

 一度魔力が安定すれば、ブレることも少なく、手堅い戦い方が出来る。


 覚醒方法は『危機に対する抵抗』など。

 目覚めなければならない状況に追い込まれると覚醒しやすい。


 対する激情型(パッション)は勝手に体から広がり易く、射撃戦も得意。

 そして、純粋に最大出力も高いと言われている。

 そのかわり、魔力をその場に留めたり、まとうのに向かず、精神状態でブレ易い。

 劣勢で防御を固めるべき場面で弱気になり、総崩れなんてこともある。


 覚醒方法は『感情の爆発』など。

 激情の名の通り感情の爆発とともに目覚めることが多い。


 どちらが良いかは状況による。

 特徴だけを述べれば、安定している中立型(ナチュラル)が良さそうに聞こえるが、どっちつかずの器用貧乏になる場合もある。

 また、魔力の性格は持ち主の性格とほぼ一致しているらしい。

 この傾向は魔力が目覚めたての者ほど強い。

 まぁ、これは経験を積むとある程度弱点を補うようになるので、もともとの性格だけでは判断できないというのもある。


 つまり、真夜殿の性格は……『極度の引っ込み思案だが、惹かれるものには意外とすんなり従う』と言った感じだ。

 今、彼女の置かれている状況を考えると、おおむね正解だと言える。


 防御面をマントで(おぎな)い、攻撃面は魔力を集中させた魔宝石武器(ジュエル・ウェポン)を使う。

 この性格は加護を受けたマントとの相性が良いのだが、女神はそこまで織り込み済みなのだろうか。

 ……いや、話によると性格は重視していたけれど、それは人間としての性格の方とのこと。

 これは偶然か運命だろう。


 さて、いろいろ情報を得られたし、真夜殿にそれとなく伝えて訓練に移ろう。




 ○ ○ ○




 ふーむ、『魔力の性格』に『魔宝石武器(ジュエル・ウェポン)』か……。

 いろいろあるんだなぁ。

 これだけ強くなる手段があると、何から始めていいのかわからなくなってくる。

 専用武器も欲しいけど、自分だけの光魔法ってのも魅力的だ。

 なので、ここはプロの意見を聞いておこう。


「それで、今日の訓練は何をするんですか?」


「もちろん基礎訓練です」


 そうだよね……。

 まず、どんな事も元となる体が貧弱ではどうしようもない。

 わかってるんだけどね、わかってたんだけどね……。


「では、そうですね……まず軽く城の敷地内を走ってみますか? お二人ともまだ城の外観を近くでご覧になってないでしょうし、眺めながら軽く体をほぐしましょう」


 走り込み、基本だね。

 私はこう見えて体力はある方だ……前もそんなこと言ったけ?

 まあ、走り込みぐらいならこなせるはずだ。


「では、行きますよ。私のペースに合わせてくださいね」


 リアスさんに合わせて、私とドルミーと姫は走り出した。


 数時間後――。


「では、午前の訓練はこれまでにします」


 リアスさんの声が遠くから聞こえる。


「はぁー、今日もしんどかった! 真夜さま、大丈夫ですか?」


 息が上がり顔も赤いヒロウ姫の問いかけに、私は首を縦に振ってこたえる。


「ドルミーさまは早めにダウンしてしまわれましたが、使徒である真夜さまは流石です! この訓練メニューは騎士達のものより楽ですが、そこら辺の人間にはついてこれませんよ!」


 私はひたすら首を縦に振る。


「ふふっ、顔が真っ赤、照れ屋さんですね」


「姫様~! 早くシャワーを浴びませんと、お食事が出来上がってしまいます~」


 さらに遠くからミスティスさんの声が聞こえてきた。

 どうやら姫様は、この激しい運動の後でもご飯が喉を通るみたい。


「わかりました。では、真夜さま午後も頑張りましょうね!」


 揺れる視界の中、姫の姿が遠ざかっていく。

 私は姫が見えなくなると、そのまま仰向けに倒れた。


「真夜殿!」


 リアスさんがすぐに私を抱え起こし、耳元で叫んだ。

 もうダメだ……このまま寝かせてくれ……。


「どうして途中でやめなかったのですか?」


 私はその問いに答えようとしたが、息が上がって声が出せない。


 リアスさんは、止めようとしてくれていたんだ……。

 でも、姫様が「その程度で止めるのは真夜さまに対する侮辱です」みたいな事を言って、私から「止めたい」と言いにくかった……。


「あぁ……そうでした。私の力不足です。ミスティス、回復魔法を頼みます」


「了解です!」


 ゆっくりと地面に降ろされた私の前に、ミスティスさんが屈みこむ。


「えーっと、全身が激しい運動にびっくりしていますね。体の中心である心臓から、ゆっくり魔力を流し込みます。そのぉ、失礼しますっ」


 ミスティスさんは激しく上下する私の胸に両手を当てた。

 あぁ、失礼しますってそういう……。

 そのまま彼女は目をつぶり、何かつぶやいた。

 自分の心臓ので聞き取れなかったが、呪文なのかな?


 とにかく、効果はすぐ現れた。

 ミスティスさんの両手がピンク色に発光し、その光がゆっくりと私の体へと伝い始める。

 それと同時に全身の痛みが少しずつ鈍くなり、呼吸も落ち着いてきた。


「あ、ありがとうございます……」


「まだ、動かないでくださいね。とりあえず、自力で立てるぐらいまでやってみます」


 私は言われた通りじっとしていた。

 視線をめぐらすと、訓練場の端で同じく倒れこんでいるドルミーが見えた。

 彼女は初めのメニューである走り込みでギブアップし、それからずっと寝ている。


 ……私たち二人、大丈夫か?

 そんなことをぼんやり考えていると、回復を終えたミスティスさんが立ち上がった。


「ふぅ……お加減はどうですか?」


「はい、何とか動けます」


「それはよかった。でも、午後からも訓練なんですよね。もっと回復した方が……」


 私の体は再び気怠さを覚えた。

 そうだ……午後もあるんだ……。

 私は媚びるような目でリアスさんを見た。


「むっ、そうですね……。私はもういいと思うのですが、姫がどういう反応をするか……」


 当然といえば当然なんだけど、姫様は私たちに期待している。

 それはもうキラキラした目で見てくる。


 何が恐ろしいかって、彼女は私が倒れた訓練を普通にこなしているという事だ。

 毎日しているのだから、これも当然と言えば当然なんだろうけど……。


「あの、昼の訓練は何時ごろから……?」


「午後3時30分です。姫様は早めの3時のおやつを食べて、休憩しないと動きませんから」


 今は午前12時前、結構時間はある。

 ご飯食べて少し眠れば……眠れば?


「わかりました。お昼からも頑張ります」


 私の自信ありげな表情を見て、リアスさんは困惑する。


「無理な訓練は命を削ります。今、姫を納得させられる言い訳を……」


「いえ、きっと大丈夫です。マントには【疲労回復】の魔法がかかっているので」


「そういえば、そうでしたね。しかし、無理だった場合は隠さずに話してください」


「了解です」


 マントの【疲労回復】の効果は確認済み。

 食事やシャワー後の残り時間でも十分回復は可能なはずだ。

 あっ、ドルミーの分も考えないとね。私以外に【疲労回復】が使えるかどうかも試したいし。


「やっぱり、そのマントってすごいんですねっ! 貴重な回復魔法まで使えるなんて! でも、会ったばかりの姫様の為に頑張る真夜様も素敵ですっ! ささっ、そうと決まればシャワーを浴びて、汗を洗い流しましょう。訓練場のシャワー室へ案内しますっ」


 ミスティスさんも私とマントに期待し、目を輝かせている。

 いきなり「素敵」と言われてドキッとしてしまっけど、喜び半分、重圧が半分といったところだなぁ……。


「は、はい。じゃあ、ドルミーを起こしますね」


 私はすみっこに転がってるドルミーをゆする。


「ドルミー、午前の訓練終わったよ。ご飯だよ」


「う……うん……真夜さん。ごめんなさい」


「気にすることないって、これから頑張ればいいよ」


 私は自分にも言い聞かせるように言った。

 果たして一週間耐えられるだろうか……。

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