20話 声を挙げる者
「とにかく逃げられない大事な戦いだという事は理解しました。よろしければ、決闘相手であるヴァイング王国の事も聞かせてもらえませんか?」
相手国の情報は大事だ。
独裁者によって統治された悪の枢軸みたいな国は嫌だなぁ。
でも話を聞く限り、そういうヤバい国しか想像できない……。
「うむ、いいですとも。ヴァイング王国は領土こそ我が国より広いのだが、土地が痩せており作物を育てるのが難しいらしく、他国からよく野菜やらを買っている。代わりに鉱物はよく採れるので、貧しいというわけではないのですがな」
「あなた、戦力の話をなさってください」
「う……む、はっきり言って強い。去年は我が国王直属の近衛騎士を選出したのだが、結果として敗北した。大差をつけられたわけではない。しかし、何か不思議な『差』を感じたのだ……」
私は周りから視線を感じなくなった。
おそらく、騎士さんたちが伏し目がちになっているのだろう。
なんだか申し訳ない……。
「鉱物が良く採れるだけあって、加工技術が発達していてのぉ。堅実で優れた武器が多いのは確かなのだが、それが強さの原因ではないような気がしてならない。選出された騎士自体が、近年強くなっておる……」
「騎士達の名誉の為に言わせていただきますが、決して我が国の騎士たちが弱いわけではありませんのよ」
謁見の間に重苦しい空気が流れる。
ここの強そうな騎士さん達が、明らかに恐怖している。
一体、敵はどんな人達なんだろう……。
「戦力の強化に伴い、ヴァイング王国の発言力も強くなってきている。先ほどは頭に血が上ってあんなことを言ったが、普段は仲が良いわけでもなく、悪いわけでもなく、適度に張り合う関係だったのだが……。どことなくランダル国王の雰囲気も変わられた」
うわぁ、それ絶対なんかあったとしか思えない。
そりゃ、神頼みもやむなしといったところか。
それに変化が現れたのは近年という話だ。
ドルミーの役目に関係あるのかもしれない。
「今のヴァイング国とは同盟を結ぶのもためらわれる。属国などもってのほか。娘をやるなどあり得ない」
国王もそうだが、ヒロウ姫も同じく不安げな表情を浮かべている。
移動中は、はつらつな笑顔を見せていたとういのに。
マントは他の人間も守る事が可能だ。
これで姫をくるんでおけば、とりあえず怪我はしないだろう。
しかしその間、私はほとんど無防備になる。
ここにいる騎士や兵士さん達が敵わないような相手に、マント無しの私が何かできるのだろうか……。
サンドバッグは流石に嫌だなぁ。
そんな私の不安を知ってか知らずか、ドルミーが口を開く。
「ヒルデルス国王、事情は理解できました。しかし、私たちにとっても危険な戦いになると思います。今すぐ……ここで答えを出す事はできません。時間をいただけないでしょうか? 真夜さんはこの世界に来て一週間と経っていないのです」
「うむ、それもそうだな。焦りは禁物……答えはよく考えてから出してくだされ。皆もそれでよいな?」
回答を先延ばしにしてくれた。非常にありがたい。
私がどうなるかを気にしないにしても、守り特化のマントでは相手を倒せない。
マントの力だけでは、姫を守ることが出来ても決闘には勝てない。
つまり、王の望みを叶えられないんだ。
でも、このまま姫を放ってはおけない!
一応、長年張り合ってる国だから、彼女にとってヴァイング王国は全く知らない国ではないのだろう。
でも怪しい。私なら絶対に嫁ぎたくない。
だから、私にできるなら助けてあげたい。
勝負に勝てば、文句は言えない。丸く収まるはずだ。
たとえ収まらなくても戦う大義名分は出来る。
光の力……。
何かよくわからないけど、私の力がカギになるはず……っ。
「ヒルデルス国王陛下!」
謁見の間に誰かの声が響く。
かなり若い女……いや、少女か?
「ほう、意義がある者は前へ」
国王が声の主に呼びかける。
すると、入り口近くの列から鎧を着こんだ人物が現れ、中央のカーペットに進み出てきた。
この流れで異議を申し立てられるような、心の強い人がいたんだ……。
私は胃が痛いし、口の中もカサカサなのに!
……と思ったら、声を上げた人物も緊張しているようで、歩き方が非常にぎこちない。
何より特徴的なのは、被っている兜……ヘルムっていうのかな?
それの後頭部から飛び出した長くて深い緑色をしたポニーテールだ。
地毛なのか飾りなのかわからないけど、ゆらゆら揺れてとても目を引く。
彼女は私たちの横に並ぶと、ヘルムを外した。
ポニーテールは地毛だった。
顔立ちは幼いけど、くりくりとした大きな目からは力強さを感じる。
ただ、甲冑に着られてる感があって、なんだかかわいい。
「そなたの名は……うーむ、兵士たちの名は覚えていたはずなのだが……」
「シャリア・アラード訓練兵ですね。何か決定に異議があると?」
国王より先に王妃が答えた。
シャリアというのか、この女の子は。
身長は私の頭一つ以上は低い。
まあ、私の背がかなり高いんだけどね……。
「は、はひっ! わ、わたしとしては、ヒロウ姫様ひいてはピーリス王国の未来を左右する決闘に、ぶ、部外者を参加させるのはっ、い、いかがなものかと……」
うん!
反論の余地がない正論だ!
「国に仕える騎士としてもっともな意見です。よくぞここに進み出て申した」
「お、お褒めにあずかり光栄です!」
「しかし、それほどまでに事態は深刻なのです。あなたは入団一年目の訓練兵ですから、ヴァイング王国の騎士たちを見ていないでしょう。それに、真夜殿は私の一撃を受け止めるだけの力がある。短い時間ではありますが会話もして、信頼のおける人物だと……私は思いました」
王妃がチラッと私を見て笑う。
気に入られてはいるようだ。あ、ありがたいなぁ……。
「ちなみに……と言ってはなんだが、過去に国家間決闘において、両国の兵士や騎士、王族以外の者が参加したことはあるらしい。つまり、部外者の参加はルール違反ではない。それに、今回は向こうの無茶なルールを飲むのだ。それぐらいの事、文句は言わせん!」
王の解説が入る。
私の不安が一つ解消された。あとで揉められても困るしね。
「それに、私の近衛騎士団の団員はほとんど私の一存で決めています。私が騎士と言えば、もうその人はヒロウ近衛騎士団の一員です」
姫、凄いこと言うなぁ~。
「それは承知であります! ですので、私と使徒様で模擬戦を行いたいのです」
模擬戦……私の力を自ら測りたいという事か。
訓練兵なのにすごい勇気と向上心だ。かわいい顔してるけど、デキる……。
「……よろしいでしょう」
「ロウニス、本気でいっているのか? お前の一撃すら……」
「騎士は勝てるから戦うのでないのです。主君にとって正しい道を考え、それを貫くために戦うのです。この者は自らの考えが国にとって正しいと考え、行動を起こした」
国王もたじたじだ。
立ち振る舞いといい、言動といい、ロウニス王妃は元騎士なんだろうな。
あと、顔が明らかに興奮している。
「シャリア訓練兵、望みはそれだけであるまい。申してみよ」
「はい! 模擬戦にて私が勝利した暁には、私を決闘の参戦メンバーに入れていただきたい!」
この子、野心家だ!
向上心があるかないかという次元を超えている。
でも、こういうの嫌いじゃないな。私は結構引っ込み思案だから、少し憧れるかも。
「気に入った! その申し出、聞き入れようぞ」
「ロ、ロウニス!」
「あなた、神の力がやはり強いと証明されるか、我が国に神を超える力を持つ者がいるか……というだけなのです。何も損はありません」
「……それもそうか。よし、模擬戦は……一週間後とする。真夜殿はその時までに答えを出していただきたい。無理ならば模擬戦をする必要もないのでな」
とんとん拍子に話が進んで、やらなければならない事が増えた。
でも、悪い気はしない。
シャリアちゃんの真っ直ぐな姿勢は見ていて爽快だ。
私が相手じゃなければ応援したい。
でも、戦いなら勝ちは譲れない。
本当に彼女が強いならいいんだけど、この場のノリに流されて参戦権を譲れば、良くない事が起こる。
私もまた、シャリアちゃんの実力を見極めねば!
そう決意した時、自然と口が開いた。
「わかりました国王陛下。一週間、真剣に考えさせていただきます」
「うむ、無理する必要はない。それにしても、なんだか希望が見えてきましたなぁ」
それは早いのでは……と言うのはやめておこう。
最後の最後でしっかり声が出たし、これで良し。
「それでは謁見はお開きとしよう。ヒロウよ、客人の事はお前の騎士団に任せたぞ」
「ふふっ、お任せくださいお父様」
ヒロウ姫も、前に見た明るい表情に戻っていた。
この笑顔、守らないといけない。




