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19話 使命と力

「……ま……まよさ……ん」


 遠くから誰かの声が聞こえる。

 その声は次第に近づき、ハッキリとしてきた。


「真夜さん!」


 ハッと私は目を覚ました。

 ここはピーリス城の謁見の間で、私は今……。


 手を見ると、光り輝く剣が握られている。

 刃は無数の星が散りばめられ、それぞれが瞬いているような感じだ。

 そして、刃を覆うように白銀の光が揺らめいている。


「えっと、これは……」


 心配そうに私の腕をつかんでいるドルミーとヒロウ姫に尋ねる。


「魔力を一気に放出した事による一時的な意識障害です。慣れないうちは良くある事です」


 姫様が丁寧に答えてくれた。

 へー、魔力をね。ドルミーの症状の軽いバージョンってところかな。

 にしても危ない剣を持たせてきたなぁ……。


「この剣には魔力を吸い取る効果でもあるの?」


「いえ、この剣には光属性の魔宝石『ダイヤモンド』の粒子が散りばめられているのです。真夜さんの魔力は、それに惹かれて外に放出された……ということです」


 まだ頭がくらくらして、うまく理解できない……。

 ただ、さっきまで騒がしかった謁見の間が静かになってるかな……?


「ほ、ほ、ほう……。むぅ、確かにそれならば神の使徒にふさわしい……」


「神の加護による護りと、闇を切り裂く光の力……。神の思慮深いお考えと慧眼に感服いたしました」


 王様は分かりやすく驚いてるし、王妃にも驚愕の色が見える。

 光の力……。それがドルミーが私を選んだ本当の理由なの?


「あ……え……?」


 いや、これ違うわ。

 ドルミーも困惑が顔から漏れ出している。

 本当にこの子は、私の性格とか見た目だけで選んだんだ。

 まあ、周りの反応を見るにその選び方も正解だったみたいだけど。


「使徒の……真夜というのですな。その名をぜひ、自らの声で聞かせてはくれないだろうか」


 落ち着きを取り戻した王が私に問いかける。

 王妃も幾分か柔和な表情を見せている。


「わ、私は根田間真夜といいます。女神に呼ばれ、こことは違う世界からきました」


「そのあたりの詳しい経緯(けいい)は、私が話そう。……いや、お話します」


 ドルミーは口調を通常に戻し、すらすらと今までの出来事を説明し始めた。


 世界の異常……転移魔法に加護魔法、小屋での生活、姫を守った事、リアスさんとヴァネッサ、そしてバーベキュー。

 ドルミーがリアスさんの調理技術に関して詳しく語るので、バーベキューの話の間、ヒロウ姫様は笑いをこらえるのに必死だった。


 そして、リアスさんの顔は真っ赤だった。

 騎士さん達から笑いは起こらなかったけど、それでも辛いだろうな……。


「ふーむ、興味深い話ばかりだのぉ。確かにここ最近、魔物の活動が活発になっているような話も聞く。それが減少現象に関係しているのか……」


 すべての話を聞き終わった国王が、立派な髭をいじりながら考え事をしている。

 あんな突拍子もない話を一度聞いただけで理解できているみたいだ。


「まあ、それはこちらでも調査している事だ。なにか大きな異変が起こった際には、お二方にも知らせよう」


 私はホッと胸を撫で下ろす。どうやら信頼と協力を得られそう。

 この世界の情勢はわからないけれど、後ろ盾があるに越したことはない。


「ありがとうございます、ヒルデルス国王」


「あ、ありがとうございます」


 ドルミーの感謝の言葉に合わせて、私も同じことを言う。

 さっきから上手く声が出せない。

 ハキハキ喋れるドルミーに感謝しないとね。


「……そこで、こちらにも頼みごとがあるのだ」


 うん予想通り。

 リアスさんからも言われていた。

 何か頼みごとがあって私たちを呼んだことはわかっている。

 問題はそれが何かという事だ。


「これから約四か月後に、隣国ヴァイング王国と定期的に行っている決闘があるのだが、それにぜひ参戦してくれないだろうか」


 国家間で行う定期的な決闘?

 なんだか血生臭そうな、そうでないような響きだ……。


「それは……なんなのでしょうか?」


 ドルミーがすかさずツッコむ。今日は本当に頼れる。


「うむ、説明させていただきますぞ!」


 王はここで一度咳払いをする。


「決闘というのは……いや、王と王の間では代々、国家間決闘(グランドデュエル)と呼んでいるのですがな。それはピーリス王国とヴァイング王国の王族や騎士の練度を比べ、お互いに高め合う事を目的にしているのです。殺し合いでは決してないですぞ! それなりに危険ではあるのだが……」


 最後の言葉が無ければなぁ。

 ……といっても、試合か。


 私の世界でも格闘技はそれなりに危険だった。

 事故で死人を出すようなものもある。

 それと同じだと思えば、怖いけど多少はマシだ。


「ルールは毎回いくつかある中から選ばれる。今回はヒロウ近衛騎士団と、向こうのエルラン王子の近衛騎士団との決闘となった。詳細な決闘ルールは置いておくとして、基本は5人対5人の模擬戦と思ってくれて構わない」


 対人戦となれば、マントの力は絶大な効果を発揮するだろう。

 国王の目的は試合に勝つための強大な力だったのか。


 でも、部外者を混ぜていいものなのかな?

 騎士同士の切磋琢磨にはならないような……。


「勝利条件は決められた一人を打ち取ること。逆に打ち取られると負け……ということで、護衛型のルールと言われておる。そして、その決められた一人はお互いの王族、ヒロウとエルラン王子。お二方には、姫を守る四人のうちの一人ないし二人として戦ってほしいのだ」


「それに勝つと、何か……あるのですか?」


「……そこが問題でのぉ。今回の試合は特別なのだ」


「特別……」


「ヴァイング国王は、模擬戦を今回で最後にしようと言ってきた。そして、敗北した国が世継ぎを嫁がせ、勝利した国の属国になれと!」


「ええっ!?」


 ドルミーは声を出して驚く。

 私も声を出さず驚いた。


 王の喋りにも熱がこもっている。

 先ほどの氷塊をも溶かしそうな熱が……。


「昔……私が生まれるより前の時代では、対立していた両国の力比べの意味合いが強く、敗北国が持っていかれる物も多かったのだ。ここ数年は少しずつお互いに譲歩し、模擬戦と呼べるまでになった。そのうち長年の対立も終わり、同盟を結べるだろうと思っていたのだが……それをアヤツめっ!」


「あなた、落ち着いて。お水でもどうぞ」


 玉座から勢いよく立ち上がった国王に向かって、王妃が水の塊をぶつける。水魔法だ。

 頭から水をかぶった国王からは蒸気が立ち上る。

 本当に体が熱を持っていたんだ……。


「むー、そうだな。少し落ち着こう」


 国王は再び玉座に座り直した。


「同盟を結ぶならば、国王として娘を嫁がせることも……うぅ、仕方ない……。しかし、今回は話が違い過ぎる。何とも急で、キナ臭い」


「……つまり私たちに姫を守れと」


「女神様は話が早くて助かります。勝ってしまえば、後からいくらでもやりようがある。真夜殿とマントの力は、まさに我々が欲していた力。是非とも協力していただきたい。無論、褒美もできる限り望む物を用意いたしますぞ」


「……真夜さん、何か聞きたいことはありますか?」


 急に話を振られた。

 完全に聴く側に回っていた私はおどおどした後、とんでもない事を口にする。


「その決闘……断ったり出来ないんですか……?」


 その瞬間、私は周囲からの視線と殺気を感じた。

 ちらっと見回してみると、何人かの騎士がこちらを睨んでいる。


 ある意味、敵前逃亡を提案したわけなのだから。

 立場が立場なら、この場で切り捨てられていたかも……。


「これこれ皆の者、使徒様は異なる世界の人間、価値観が違っても致し方ないぞ」


 国王の一言で殺気は引っ込んだものの、まだ視線を感じる。

 誇りを汚すような発言は極力控えないと……。


「真夜殿よ。この決闘に応じないのは、過去から今まで戦ってきた者たちに申し訳ない。無論、あまりに不条理な条件を突き付けられた場合は跳ね除けても良いのだが……。そうすると戦争になりかねない……。とりあえず決闘に勝つのが最善なのだ、それにアヤツから逃げるのはどうしても我慢ならん……ッ」


「ご、ご丁寧にありがとうございます」


 ふー、なんとか乗り切った。

 プライドというか意地なのか、私みたいな平凡な人間には正直理解できないとこもある。

 でも国や民、娘への愛は感じるし、むやみやたらに戦争を起こそうともしない。

 王はやっぱりそこまで悪い人じゃない……と思う。


 後はヴァイング王国の説明がもっとほしいわね。

 でもそれはドルミーに任せておこう。

 私は目で合図を送る。

 すると、ドルミーは軽く(うなず)いた。


 あぁ、本当に頼りになる……。

 あなたは加護関係なく私の本当の女神様よ。

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