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17話 ヴァネッサリポート

 リアスと客人である女神ドルミー、そしてその使徒である真夜が少しずつ離れて行く。


「お二人とも大丈夫でしょうか? なんだか今更私が不安になってきましたぁ……」


 私の隣で、ヒロウ姫様のお付メイドであるミスティスがおどおどしている。

 さっきまではテンション最高潮だったのに、あいかわらず忙しい子だ。

 てか、全然姫に付いてないね。


「あの二人なら上手くやるさ。私が保証するよ。それで……あんたの方はどうだい?」


「はい! 女神様を上手く冷やすことが出来ましたっ! 少し髪の毛が凍ってしまいましたけど……問題ないですよねっ」


「それは……まあ、そっちじゃなくて……」


「うーんと、私は女神様の方が見た目は好みですね。真夜さんも私に驚いたときの反応が面白かったのですが……。ヴァネッサさんは、もちろん真夜さんでしょう? ああいう生真面目で少し神経質そうな人、大好きですもんねっ。団長とかもそういう……」


「それには同意しとくけど、私が今求めてる答えはそれじゃないよ。杖とかマント、ちゃんと調べたのかい?」


 私の問いに、ミスティスはハッとした表情を作る。

 杖に関しては、わざわざ理由をでっち上げてエンブレムから変形させてもらったのに、これはもしや……。


「はいはいっ! 調べてましたわっ。えっとえと、まず女神様の杖ですね」


 懐からメモを取り出し、読み上げ始めるミスティス。

 まあ、重要な任務を忘れるような女ではない事はわかっていたけどね。


「まず大きな特徴としては、装備された魔宝石ですね。種類の多さ、純度の高さ、加工の精巧さ……どれをとってもすごいです! こんなの作ろうとしたら、どれだけお金がかかる事か! てか、そもそも素材がそろわないかも……」


 魔宝石か……。

 石の種類によってそれぞれ影響する属性が変わる魔法の宝石。

 たとえば私の斧は赤い魔宝石――ルビーが装備されている。

 そして、これは火属性にさまざまな影響を与える。


「何属性の魔宝石があったの?」


「わ、私、石に関してはプロじゃないんで、見間違ってるかもしれませんけど……全部です」


「全部……十種か」


 五大元素属性とも言われる【火】【水】【風】【土】【雷】。

 肉体に関する属性である【強化】【弱体】【回復】。

 そして……【光】と【闇】。


 魔法自体はこれだけじゃないけど、人間がもともと持ってる属性(もの)はこれが全部。

 後は組み合わせたり、いろいろ道具を使って新しい魔法を生み出す。

 まあ、そこは私の専門外。


「闇属性を持ってるのって……」


「いや、神様だし普通なんじゃない?」


 闇属性は魔物にしか確認されていない。

 つまり、ミスティスはドルミーが魔物ではないかと言いたいわけだ。

 でも、一般的な神様のイメージはこの世界を生み出した者。

 だから、全ての属性を持っていてもおかしくないんじゃないかな。


「それにさ、逆に魔物には確認されいてない光属性も持ってるじゃない。そこは気にするところじゃないって!」


「……そうですかね」


「まぁ、あんたは仕事がら姫の一番近くにいて、近づく者を疑うのが仕事でもあるからね。完全に信用しろとは言わないけど。で、他に情報は?」


「魔宝石以外の金属部分も相当な技術で加工されていますね。詳しい素材は、調べてみないとわかりませんけど……」


 美しい宝石を収める台座が、貧層であるわけがないか。


「魔法文字とか魔法陣とかは?」


「見える部分には無いですね。内側にならば可能性はあると思います」


 魔法文字や魔法陣は、魔力を誘導したり、変化させたりといろいろできるらしい。

 専門の研究者まで存在する領域なので、私には到底理解できない。


 ……自分の武器には、ありがたく使わせてもらってるけどね。魔力の制御が楽になって良い!

 ま、杖に関してはこれくらいかな。


「本命の真夜のマントはどうだった?」


 それを聞いた途端、ミスティスがガバッと顔を上げた。

 その表情は明らかに興奮している。


「そうですっ! あのマントは凄かったですっ! 私の魔法が何も聞きませんでしたっ!」


「こらこら、ちょっと落ち着いて……」


 私は動物を落ち着かせるようなジェスチャーをする。

 どーどー。


「そ、そうですね……。はー、ふぅぅぅ……」


 その場で大きく深呼吸をするミスティス。

 熱くなりやすいのが欠点だが、静かにされると存在感が極端に薄くなるので、下手に注意が出来ないんだよねぇ。


「私、マントもお洗濯しようとして、水魔法をぶつけたのです。でも、全然濡れないどころか、お日様の匂いがするんですっ、マントから! 手加減しろと言われていたのも忘れて、本気の魔法も使いました。けど、傷一つ付けられなかったのですっ!」


 よしよし聞き取れた。

 本気を耐えきったとなると、クマの件も合わせて、高度な防御系魔法の存在はもはや疑う余地もない。

 ミスティスがあまり攻撃系魔法が得意な方ではない、という事を考慮してもだ。


 彼女は回復、肉体強化あたりを得意としている。

 緊急時に姫を癒し、素早く安全な所に退避させるためだ。

 本気の攻撃もそこまで飛び抜けたものではない。


 それでも、そこらへんの冒険者なんかよりは強いけどね。

 あくまで騎士団基準では飛び抜けていないという事。


「……他に何か調べられた?」


「いいえ……。リアスさんの報告にあった【次元収納(ジゲンポケット)】とか、全然反応してくれませんでした……」


 ほとんどの魔法は真夜の意志によって、発動するという事か。

 防御系の魔法とか例外はあるけど。


「まあ、調べられることは調べられた方ね。お疲れさん」


「じゃあ、ヴァネッサさんも報告してくださいっ」


 そうだそうだ。

 私も彼女たちの身体検査を任されていたのだった。

 浴室内での行動は、決して欲望に素直に従っていた訳ではないぞ。


「異常なしだった」


「本当にちゃんと調べましたかぁ?」


「隅々まで……とはいかなかったけどねぇ」


 私はニヤッと笑ってみせる。


「……えー、下品です」


「二人とも私たちと変わらない体つきだった」


「そうですか……。神様って聞いてたから何か違いがあるのかと……」


 露骨につまらなそうな顔を見せるミスティス。

 彼女はいつも笑顔で感情を表に出さない。

 その彼女が、前面に残念感を押し出して私を見ている。


 ……仕方ないとっておきの情報を教えようじゃあないか。


「一つだけ……わかったことがあるよ」


 ぽかーんと口を開けていたミスティスの表情が明るくなる。


「えっ、えっ、なんですかっ!?」


「異世界人よりも、神よりも、私の胸の方が大きかったぁ」


 あたしの冗談を聞いた途端、ミスティスの顔から笑顔すら消えた。

 流石につまらな過ぎたかな……。


「……その言葉、リアス団長と私への侮辱と受け取りました。罰の執行は……今だ! このデカチチ女ぁ!」


 彼女は叫び声を上げながら、私の胸を思いっきりはたいた。

 パチンと小気味よい音を立てた後、私の胸が大きく揺れる。


 音は派手だけどあまり痛くない。

 相変わらず腕力は魔法頼りで、あまり鍛えていないようだ。


 強化魔法があるとはいえ、強化されるのはもともとの体である。

 戦士たる者、地道なトレーニングを欠かしてはいけない……といつも言ってるのに。


「今に見てなさいっ! 私にはまだまだ伸びしろがあるのですからねぇ! お母様は大きかったものっ! 団長は……っ」


 そこで言葉に詰まらないであげて……。


「……ごめんなさい。わたくし、酷いこと言いました。真夜様たちの様子を見てきます」


 その「ごめんなさい」どちらに対して……いや、やめておこう。


「う、うん。あたしは二人の部屋を見張る。変な奴が入り込まないようにね……」


「了解です。では、後ほど」


 先ほどの怒りが嘘の様に引いていったミスティスは、一礼をしてから去った。

 彼女ならば遅れたことに気づかれず謁見の間に入り込めるし、いざという時勝手に抜け出せる。


「さて、あたしも流石に服を着て、仕事をしなくちゃ」


 適当に拭いただけだから、体の至るところが未だに湿ったままだ。

 こういう時は……。


「吹けよっ、熱風! ……『拭け』だけに」


 つまらないギャグは置いておいて、私の体を熱い風が包む。

 そして数秒後には、体が完全に乾いていた。

 続けざまに、風のような速さで装備を着こむ。


「……絶好調。着替え終わるまで、十秒とかかってない。胸のプロテクターだけは手を抜くと痛い目見るから、もっと慎重な方が良いんだけどねぇ」


 独り言を言いつつ、私は颯爽と脱衣所を後にした。

 さーて、二人はどうなっているか。

 今頃、王との話が始まっているところだろう。


「うーん、見れないのが残念だ……」


 人のいない廊下で、私はひとり呟いた。

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