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16話 王城の大浴場

「ふー、やっぱり遠征後の風呂は最高ねー」


「あぁ、これがお風呂……。知識としてはありましたが、これはこれは……気持ちいい……。何でも体験してみるもんですねぇ」


 風呂場に入ると、ドルミーとヴァネッサさんの声が響いていた。


 そして浴場は広い。

 城に来て何度も「広い」と言ってるけど、広いものは広い。予想通り泳げそうだ。

 ……もちろんそんな事しないけどね。


 とりあえず軽くシャワーを浴びてから浸かろう。

 私は壁の近く設置されているシャワーに近づく。


 流石にいつも使っていたシャワーとは形が違う。

 壁に取り付けられた金属の管を通って、頭上に固定されたシャワーヘッドからお湯が出てくる仕組みのようだ。

 管には赤と青の二つのバルブが取り付けられている。


 私は赤いバルブをひねり、お湯を浴びる。

 あぁ……温かいわぁ……。


「わぁ、真夜ったら色っぽーい。特に濡れて体にぺたりと張り付いた黒髪が最高ー」


「はぁ……綺麗……」


 すでに湯船に浸かってこちらを見ていたヴァネッサとドルミーがそんなことを言った。

 いつもなら少し恥ずかしいけど、今はお湯が気持ちいからいいや……。


 しばらく突っ立ってお湯を浴びた後、私は湯船に向かった。


「浸かる時はタオルをとってね」


 元の世界の温泉にもそんなルールがあった気がするなぁ。

 私はおとなしくタオルを取り去り、浸かる。


 幸い浴槽のお湯は白濁していたので、丸見えではない。

 でも、何の成分で白いのかは気になるところね。効能とかも含めて。


 まあ、今となってはそんな事どうでもいい……。

 久々のお風呂は気持ちが良すぎる……。

 たとえ、お湯が無色透明で体が丸見えでも関係ないわぁ……。

 羞恥心も忘れて体を投げ出す覚悟がある……。


「お気に召したようね。少しは緊張もほぐれた?」


「はい……最高です……。ありがとうございます……」


「喜んでくれて嬉しいわ」


 もう寝てしまいそうなほどリラックスしている。

 意識が……。


 バシャバシャバシャ!


 あードルミー、実行に移してしまったか。


「真夜さん! 見てください! 私、今初めて泳いでますよ!」


「こら! お風呂は泳ぐ場所じゃない!」


「ごめんなさい……調子に乗っちゃいました……」


 案の定、ヴァネッサに怒られている。

 しかし、私に怒られた時ほど効いてないように見える。

 意外と私って怒ると怖いのかな……。


「真夜さーん、気持ちいいですねぇ~」


 すぐに立ち直ったドルミーが私の腕にしがみつく。

 ヴァネッサ程ではないにしろ、大きめな胸が腕に押し付けられ、その柔らかさを主張してくる。


 ドルミーを抱き枕にすれば良く眠れそうと思ったことはあるけど、ドルミーに抱かれて眠るのも気持ちよさそうねぇ……。


「ほぉー、やっぱり女神様の胸の柔らかさは格別? 顔がさらに緩んでるよ」


 むっ、私はやっぱり表情に出やすいみたいだ。

 格別なのは確かだけど、そんなに緩んでいたかぁ……。


「どれどれ、あたしも抱きついちゃおうかな」


 バシャアっとお湯を飛び散らせながら、ヴァネッサが私の体に飛びついてきた。

 勢いもそのまま、ギュウギュウと胸を押し付けてくる。


「どうどう、私のは? 女神様に比べて」


「なんというか……すごいです。暴力的な存在感です……」


「ふふっ、でしょうでしょう! という事で、真夜のも触らせて!」


 言い終わらないうちにヴァネッサは私の胸に手を伸ばし、優しく揉んできた。

 いきなり触られて、驚いた体がピクリと跳ねる。


「うわー、やわらかーい……って抵抗しないの?」


「まあ……こっちも堪能させてもらいましたし……。ちょっとくらいなら、いいかなって」


 それを聞いた途端、ヴァネッサさんは風呂場に響き渡るほどの大声で笑いだした。


「あたし、こんな感じでいつも同僚の女の子にセクハラしてるけど、初めてで抵抗しなかったのは真夜だけ! 流石、女神に選ばれるだけあって肝が据わってる! 『堪能させてもらった』なんて、なかなか年頃の女の子が言えるセリフじゃないよ!」


「あっ、いや、別に誰でもいいわけじゃないんですよ! ヴァネッサはお、同じ女性だし、信用してるし、それに……。とにかく、誰でもいいわけじゃないんです!」


「ごめんごめん。からかって悪かった!」


 ヴァネッサは私から体を離し、少しばつの悪そうな笑顔をつくる。

 ううー……私も怒りすぎた。顔真っ赤だろうな。


「謝ったところでアレなんだけど、女神様は触らせていい人に入ってるの?」


「……まあ、そうです。ドルミーも触る?」


 ……この発言もないわ。

 触らせたがりみたいじゃない。


 ヴァネッサは笑いをこらえてるだろうな……と思いながら、私はやけに大人しくなっているドルミーの方を向く。


「えぇ! そ、それは心の準備が……」


 ドルミーは顔を半分お湯に沈め、口からブクブク泡を出しながらすぅーっと私から離れていく。

 それと同時にどんどん顔も赤くなっていった。のぼせ気味のようね。


 そういう私も結構のぼせてきている。そろそろ上がりたい……。


「あの、ヴァネッサさん。そろそろ……」


「うんうん。じゃあ、体の洗いっこ! ……と言いたいけれど、時間がないね。悲しいけどテキパキ洗うとしますか」


 ヴァネッサは提案を素直に受け入れ、私たちは湯船を出た。


「背中は洗ってあげるよ。人に背中を洗ってもらうのって気持ちいいからね」


「あ、ありがとうございます」


 またセクハラされそうだけど、人に背中を洗ってもらうなんて何年振りだろう。

 人にしてもらうと気持ちいいというのは確かだ。


 たまにはこういうのも人生に必要よねぇ……。


「それなら、ドルミーは私が洗ってあげるね」


「へへぇ~、ありがとーございますぅ~。じゃあ、私がヴァネッサですねぇ~」


 完全にのぼせ上っているドルミー。白い肌が全身赤く染まっている。

 遅かったか……というか、彼女はお湯につかるという行為自体が初めてなのだ。

 もうちょっと早めに上がらせてあげるべきだったな……。


 今度からは気を付けるとしよう。




 ○ ○ ○




「はぁ~、涼しいですー。根っこまで茹であがった体が、どんどん戻っていきますよ」


「お褒めにあずかり光栄です、女神様」


 先ほどまで真っ赤だったドルミーも、ミスティスさんが魔法によって生み出した冷風ですっかり元の姿を取り戻していた。


 ふらふら女神様を王の前に出すわけにもいかなかったので、大変助かった。

 私自身も目的を忘れかけていたからね。


 それにしても、背中を洗ってもらうのが想像以上に気持ちよかったわ。

 ヴァネッサ、少し力が入りすぎなんだけど、それがなんかいい……。


 小さい頃、私はお母さんにこんな感じで洗ってもらってたのかなぁ。あんまり覚えてないや。


「真夜、頭乾かしてあげるね」


 背後からヴァネッサの声がしたかと思うと、頭に熱風を当てられる。まるでドライヤーのようだ。


「これならすぐ乾くでしょ。意外と私、魔法の制御が得意なんだから」


 私の髪の毛をわしゃわしゃしながら、一定温度の熱風を送り続けるヴァネッサ。

 その手つきは優しい。


「髪の毛も持ち主と同じで素直ね」


 そう言うとヴァネッサは、乾きつつある私の髪を手に巻き付け、自らの顔に持っていく。

 そして、感触を確かめるように頬ずりした。


「サラサラしていてまっすぐで、強い。黒ってのも本当に良いね……艶やかで美しいよ」


 その様を鏡越しに見ていた私は、少し驚いて尋ねる。


「急にどうしたんですか? ……別に嫌じゃないですけど」


「いや別に、深い意味はないよ。ただ真夜のこと結構気に入ってる。それだけ!」


 ヴァネッサが頭から手を離すと、私の長くてなかなか乾かない髪も完璧なコンディションになっていた。

 いつもはすごく時間がかかるのに、早いものねぇ。


「うん、完璧だ! 相変わらずあたしの魔法は冴えてるなぁ」


「ありがとうございます。いつもは手入れが大変で……」


「いいってことよ。それに、急がないとそろそろ迎えがくるからね」


「迎え?」


 その時、私の疑問に答えるかのように脱衣所の扉が開いた。


「真夜殿、女神ドルミー、準備が整いそうです。そろそろ移動を」


 扉から姿を現したのは、ヒロウ姫と共に王に会いに行っていたリアスさんだった。


「はいはい、この通り準備はできてるよ」


 髪を結んでもらっていた私の代わりに、ヴァネッサさんが答える。


「そうですか……って! なんだその格好は!」


「えっ!真夜のどこがおかしいのよ」


「お前だヴァネッサ! は、は、裸じゃないか……」


「長く浸かり過ぎたから時間がなくてね。お客さんを優先しただけだよ。なんか文句ある?」


「な、ない……ありませんが……」


 リアスさんは顔を真っ赤にして扉の隙間からこちらを覗いている。

 真面目そうだから自分の裸は絶対見せないタイプだと思ってたけど、人の裸を見るのも恥ずかしがるタイプなんだ。


「何動揺してんの。小さい頃から私の裸ぐらい何度も見てるでしょ」


「いや……それはそうだが、お前は恥ずかしくないのか……? ほとんど初対面の者に見られて……」


「ふーん、団長様は私の裸を誰かに見られるのがお気に召さないと」


「そ、そこまで言ってない! ただ……あんまり見せびらかすのは感心しない……しませんよ」


「わかったわかった。じゃあ真夜、頑張っておいで。あたしは他の用事があるから一緒にいられないけど、また後で会おう!」


 ヴァネッサは私の背中をポンと押す。

 くっ、もうちょっと二人の話を聞いていたかった。

 リアスさんの困った女の子全開の顔が面白くて仕方ない。

 言葉遣いが乱れるのもいい。


「はーい。頑張ってきます。ドルミー、行くよ」


「了解です! すごいですねぇ、さっきまで頭の中までアツアツな感じでしたけど、今は氷を詰め込まれたようです!」


 それはやり過ぎではなかろうか……。

 しかし、本人はとても楽しそうだから良し。服もしっかり着こまれている。


「服も綺麗になってるでしょう? 皆さんがお風呂に入っている間に、私が洗濯しておきましたから! いやー、こんなに上手くいったのは初めてですわっ。前は全部燃やしてしまいましたからね!」


 ミスティスさんが怖いことを言っている。

 これで本当に姫様お付のメイドなのかな……。

 まあ、今回は上手くいったのでスルーしておこう。


「リアスさん、準備完了です」


「では、行きましょう」


 先だって歩き出したリアスさんの背を追って、私とドルミーは脱衣所を出た。

 まだ少し頭がぼーっとしているけど、大丈夫大丈夫……。


 気合を入れるため、私は自分の頬を軽くはたく。あくまで軽く。

 以前、本気でやって心底痛かったからね。

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