15話 謁見の準備
「これはまた……すごい場所に来ちゃったなぁ……」
私を乗せた馬車とその取り巻きは、予定通りにピーリス城に到着した。
今、私の目の前にはテレビの観光地特集や、テーマパークでしか見たことがない光景が広がっている。
巨大な西洋風の白いお城だ。思っていた通り和風の城ではなかった。
現在位置は中庭。
広いし、噴水とか綺麗な花壇もある。
それにここはちょうど城の敷地の中心に近いようで、他の建物へと通じるであろう道もあった。
「真夜様、いかがですか? これが我がピーリス城ですわ。見事なまでの美しさ、気高さ、荘厳さ、更には……」
姫が耳元で洗脳するかのようにささやく。
こそばゆい……。
「姫様、王に今回の訓練の出来事を報告しに参りましょう」
「むー。まあ、いいでしょう。時間は後々たっぷりありますわ。それでは真夜さま、後ほど沢山お話ししましょうね!」
移動中、豪快に眠っていただけあってヒロウ姫様は元気満タンだ。
スキップしながら城の大木な扉をくぐっていった。
「姫様お待ちを!」
リアスさんの制止も聞かず、姫様は勝手に先に行ってしまった。
「……真夜殿の案内はヴァネッサに任せてあります。昨日、私と共にいた赤い髪の騎士です。あまり学は無いのですが、信頼のおける人物であることは確かなので。そ、それでは後ほど」
言い切るとリアスさんは姫を駆け足で追っていった。
近衛騎士団をまとめる事よりも、姫一人に言うことを聞かせる方が大変そうだな……。
まあ、表情からやりがいを感じているのはわかる。
「真夜! 一晩振りね。といっても少し話しただけだけど」
「ヴァネッサさん、そ、そうですね」
いきなり大きな声で話しかけられたので、少しびっくりしてしまった。
声質からしてかなり通る声なのも原因だと思うけど。
「さんはいらないって! まっ、それはいいとして部屋への案内ね。あれ、女神様は?」
そういえばドルミーがいない。
私は少し焦った後、簡単な答えに辿り着いた。
「まだ馬車の中だ」
後ろに止まったままの馬車に再び乗り込み、座席に横になっているドルミーを見つけた。
こんな時まで彼女の寝る姿勢は美しい。
「ドルミー、着いたよ」
耳元で言いながら、軽く肩をゆする。
「はっ! はい! 着きましたか!」
「うん、行くよ」
寝つきが良いだけあって、寝起きも良いようだ。
ドルミーはすぐに起き上がると、馬車から降りる。
「ヴァネッサさん、おはようございます」
「うん、おはよう。今は夜だけどね。あと、女神様も私のこと呼び捨てにしてくれて構わないよ」
「はい、ヴァネッサ!」
「よーし、じゃあ行くか!」
私を呼び捨てにするのはためらったのに、今回はあっさりなんだ。
そんな事を考えながら、私は大きな城の中へと足を踏み入れた。
「はぁー、て、天井が高い……」
入ってすぐに待ち構えていたのは広いエントランスだった。
天井から垂れさがっているシャンデリアの様な物のおかげか、とても暖かな光で満たされている。
「あんまり人目につくのもいやでしょ? エレベーターを使うね」
ヴァネッサがチラリと振り返って言う。
エレベーター……そんなのもあるんだ。
私は口をぽかんとあけながら、ほとんど思考停止でついていく。
すると、エントランスから少し奥に入った通路にそれらしき扉があった。
正確に言うと、私の世界の古いエレベーターって感じで、扉は格子状の折り畳み式だ。
なんかすごく雰囲気がある。
「さてさて、確か……これか」
ヴァネッサは扉の横の壁に設置されたパネルに触れる。
それと同時にエレベーターの扉が開き、中に明かりがともった。
「魔力に反応して動くのさ。中に入って」
言われるがまま私は乗り込む。
ドルミーも少し驚いたような表情を見せながら、ゆっくりと乗り込んだ。
「次は……そうそう、これこれ」
同じくエレベーター内に入ってきたヴァネッサは、扉の近くの床から突き出ている柱の上のパネルに触れる。
これはエレベーターの行き先を制御するものの様で、エレベーターはすぐ動きだした。
「うん、なんとか操作できた。あたしは魔導エレベーターあんまり使わないからね」
「これ……魔力で動いてるんですよね……」
「そうだよ。魔力を供給することで効果を発揮する魔導機械の一種で……。まあ、詳しい原理はよくわからないんだけど、最近作られた物らしくて、そこらへんにはないらしい。といっても、こんなのが必要なほどデカイ建物自体がそうないってね」
ほうほう、とりあえずすごい物だという事はわかった。
意外と音も静かで揺れも少ない。速度もなかなかだと思う。
「うちの王族は、昔からこういう新しい技術が好きらしくてね。堅物なドワーフみたいのを筆頭に、少し俗世間から距離を置いてる変人技術者や研究者にも、その能力次第で資金を援助してるんだ。そのおかげで、私たちの生活も便利になるし、武器も良いのが入って来るって感じ。たまに高度すぎて動かせる人がほとんどいない様なのも来るけど、まあそれも愛嬌さ」
「へー……」
じょ、情報量が多い……。
でも、かなり興味深いし、面白い話だなぁ。
「あと、資金提供のもう一つの理由としては、そういう技術が国を脅かす事に使われたり、他国に流れるのを防ぐためだね。技術者は孤独を好む傾向があるけど、結局心のある生き物さ。自分の努力を認めてくれる人には心を開き、その能力を使う。だから、国が真っ先に認めとこうってね」
この国を治める王は、好奇心としたたかさを併せ持った人の様だ。
話を聞くだけなら尊敬に値する人物だけど、まあ会ってみないとね。
と、言う間に目的の階層まで到着した。
「お先にどうぞ~」
ヴァネッサのお言葉に甘えて先に降りる。
目的の階層はエントランスより灯りが落ち着いており、また違った感覚を覚える。
高級ホテルの廊下……って感じ?
「部屋はもうすぐそこ。大丈夫? 怖かった?」
「大丈夫です。私の世界にも似たような物がありましたから」
「へー、またその話も聞かせてほしいもんだね」
ヴァネッサは少し微笑むとまた歩き出した。
そして、エレベーターから数十秒歩いて、立ち止まった。
「長旅お疲れ様! ここが今夜のあなた達の部屋よ」
ガチャリと扉が開かれる。
そこには……。
「広い! 広いお部屋ですよ! 真夜さん!」
「み、見たらわかるからそんなに大きい声を出さないの……」
私も思わず声が出そうになったのは内緒。
いやー、豪華な部屋に泊まらせてもらえるとは思ってたけど、実際目にすると違うもんね……。
窓が大きいし、ベッドも一つだけど大きいし、何より天蓋付きだ!
ひらひらした布が上からベットの周りに垂れている。こんなの初めて見た……。
髪の毛を縦ロールにしたお嬢様が寝てそう……うん、酷い表現だ。
でも、そんなベタベタのお嬢様もこの世界にはいるかもしれない。会いたい……。
他の家具も装飾が凝っていて高そう。
靴越しにも絨毯の柔らかさが伝わってくる。
「派手にぶっ壊したりしなかったら、好きに使ってくれていいからね。一人じゃ寂しいだろうと思って、二人一部屋にしたけど、どう?」
「はい、このままでいいです。こんなにいい部屋ありがとうございます」
広すぎる部屋に一人は不安で眠れそうもない。
私は夜が苦手なんだから。
「うわー! このベッドすごいふかふか! 跳ねるます!」
ドルミーがベッドの上でぽんぽん跳ねている。地上に打ち上げられた生きのいい魚の様だ。
「あんまりはしゃぐと怪我するよ」
適当に注意を入れておこう。
楽しそうだし、騒がしいのは嫌いじゃない。特に今は。
「じゃ、次行きますか」
「……国王様に会いに行くんですか?」
そっと聞いてみる。
私がここに来た目的の様なものなのだし、覚悟を決めなければ……といっても緊張するなぁ……。
「まあ、その準備ってやつ? そんな身構えなくても良いから。さっ、こっちこっち」
○ ○ ○
「では真夜、全部脱いで」
「えっ!?」
驚いてみたけど、なんとなく今いる場所で察していた。
ここは風呂の前の脱衣所だ!
「いやぁ、別に私が真夜の裸を見たいだけじゃないんだよ。ただ、王に会う前に身を清めてほしいだけ! ほら、私も脱ぐからさぁ~」
そんなもっともらしい理由を述べられては断りにくい。
それに熱めのお風呂でくつろぎたい……。
数日入ってないし、元の世界でもシャワーで済ませる時が多かった。
これだけ豪華な城のお風呂だ。
きっと泳げるくらいおっきいはず……。
脚をうんと伸ばして温かな湯に身を預けたい……。
他人に裸を見せるのも温泉だと思えば何もおかしくない。
ヴァネッサさんは同性だし。
「それって、私も入っていいんですね!?」
「もちろん女神様もご一緒に」
「おお、なら脱ぎます!」
私が悩んでる間にドルミーはそそくさと服を脱ぎ始めた。
これはもう致し方なし。
「じゃあ……私も」
「うんうん、それでよし」
「でも、先にタオルを渡してください!」
「……ふふっ、わかったわ。ミスティス、タオルよ」
ヴァネッサは入り口の扉に向かって呼びかける。
すると扉を開けて……誰も入ってこない。
「はい、真夜様……。こちらが中に持って入る用のタオル、そしてこちらが体を拭くためのタオルですわ……」
「ぎゃあああ!」
後ろから急に耳元で囁かれ、私は前のめりに倒れて混んでしまった。
い、いつの間に後ろに……。
「ああっ! すいません。初対面の方なので、前から話しかけにくかったのです……」
その人物は倒れた私に手を差し伸べる。
少し幼さの残った顔立ちで、目がまんまる。
目立つ紫色の髪で一つの大きな三つ編みを作っている。
そして……メイド服を着ている。
「わたくし、ミスティス・フォーグと申します。ヒロウ姫様お付のメイドですっ。特技は魔法を使わず気配を消す事ですっ」
やはりメイドさんだ。本物だ本物!
でも、脱衣所に入った時は確かにいなかったよね……。
つまり、気づかれないように侵入してきたんだ。
ヒロウ姫様の部下は人材豊富だなぁ……。
「タオル……ありがとうございます」
「いえいえ、それではわたくし外におりますので、何かあったら呼んでくださいませっ」
言いたいことを言い終わると、彼女は素早く外へ続く扉から出ていった。
なんだったのだろう……。
「あいつもあんな媚び媚びの話し方してるけど、実力はあるんだよねぇ。なんせ王族お付の者だし。今も気配に気づくかどうか試してたんだろう。趣味の悪い……」
言葉の途中で、ヴァネッサが浴場に続く扉の方に視線を送る。
まさか……。
「ち、違いますっ。もうっ、人聞きの悪い……。ただ初対面の人を試す癖が抜けないだけで……。今度こそ失礼しますね」
そのまさかだ。
さっきのメイドさん……ミスティスさんが少しだけ扉を開け、こちらを覗いていた。
どうやってそっちに……王城だし隠し通路でもあるのだろうか。
……早く脱ごう。
「真夜さん遅いですよ。私もう脱いじゃいました」
ドルミーは裸にタオル一枚だけの姿になっている。
やっぱり胸が大きいな……。
「私もこれ取ったら終わりよ」
そう言うヴァネッサの胸には、下着というより矯正器具の様なものが付けられている。
それを見た時、器具の用途がはっきりとわかった。
「本当に自慢ではないんだけど、私の胸は大きすぎてね。目を引く武器になるとは言っても、激しい動きの時は邪魔でしょうがない。だから、こうやって特注の器具を着けてるってわけ。寝る時や休みの日は外してるけど、緊急時に困るんだよねぇ……」
そんな愚痴を漏らしながら、器具の拘束が解かれていく。
そして、全て拘束を解かれた途端、ヴァネッサの大きな胸が姿を現す。
いや、零れ落ちるという表現が適切かも。ブルンッて音がしそうだった……。
防具をつけてた時から大きかったし、わかっちゃいたけどスゴイと言いたい。
スゴイ大きいけど垂れてなくて形が綺麗で上向きだ!
「ふふっ、相変わらず視線が熱いね。こういうの好き?」
「えっ、あっ……すいません……。ま、まぁ大きいか小さいかと聞かれれば、大きいのが好きです……なんてっ」
「ほー、私の胸をガン見した挙句、好きとまで言う人はなかなかいないぞ。あたし、素直な女の子好きだよ。どうせなら……揉んでみる?」
「へっ!」
驚く私に対して、ヴァネッサは自らの胸をぎゅむっと揉みしだき、形を変える様を見せつけてくる。
や、柔らかそう……。揉みしだきたい……でも、恥ずかしくて言えない……。
いや、ここは……。
「ヴァネッサさん! 先に入っていいですか? 風邪引いちゃいそうです」
タオル一枚で放置されていたドルミーが不満の声を上げた。
「ごめんごめん。じゃあ、先にいっしょに入ろうか。真夜も早く来てね」
パチンと綺麗なウィンクをすると、ヴァネッサはドルミーと共に曇りガラスの扉を開け、風呂場に入っていった。
「……揉みたかった」
一人残された私は、そう呟いた。
……やばっ、ミスティスさんに聞かれたかも。




