14話 ピーリス城へ
数台の馬車とそれを取り囲むように並んだ騎兵たちは、パカパカと音を立てながら、石畳の街道を進む。
その中の一つ、編隊の中央付近の馬車に私、根田間真夜は乗っていた。
この馬車は大きく、内装も凝っている。
そのうえ、座席の乗り心地も良いし、窓から外の景色を楽しめる。
昨日、買い物に行った町からは、もう随分と離れてしまった。
一回行っただけだけど、パン屋のおばさん元気かな。なんとなく寂しくなる。
……出発は昼ごろだった。
短いけど濃い時間を過ごした小屋に別れを告げ、私たちは騎士団本体と合流した。
そして、そのまま感慨にふける間もなく移動という流れ。
まだ少しねむぅ……。
私は頭を軽く振り、ボヤけた感情を振り払う。
感情が顔に出やすいからね。
一緒の馬車になぜか乗っている姫様に、とぼけた顔は見せられない。
「真夜さま、乗り心地はいかがですか?」
「と、とても快適です。お気遣い光栄です……」
「ホホホ、そんな改まった話し方する必要はありません。真夜さまは国賓なのですから。どうぞ、楽にしていてください」
その上品を絵に描いたような笑い声と、国賓という響きが私を楽にさせない。
ヒロウ姫は昨日と違い、豪華なドレスとまではいかないけど煌びやかな服を着込んでいる。
話し方も丁寧で、なんというかお姫様らしい。
わざとらしいほどに。
「あのぉ、王都まではどれぐらい時間がかかるのでしょうか?」
私はこの密室に後どれぐらい閉じ込められるのかを尋ねる。
「夜までには着きます。途中休憩も予定しておりますので、ご安心ください」
問いに答えたのは一緒に馬車に乗っているリアスさんだ。引き締まった顔立ちは今日も変わらない。
一晩一緒に寝ただけだけど、彼女のことは心から信頼しているつもりだ。
「そうですか。それは良かった」
「息苦しいですか?」
「す、少しだけ……」
また顔に出てたみたい。
私は視線をそらし、隣に座るドルミーの方を見た。
夢の女神というだけあって朝が弱いのか、彼女はうとうとしている。
いや、人間にも朝が弱い人はたくさんいるけど。
「ドルミー、大丈夫?」
「はっ! 寝てませんよ! 何かご用ですか!」
口からこぼれたよだれを拭い、ドルミーは目を見開いた。確実に寝かけてたわ。
「特に用はないけど……」
「ならば、私から少しお話があります」
リアスさんが手を小さく上げ、私たちに提案する。
「なんですか?」
「王都に着いてからのことです。かなり重要ですので、心して聞いてください」
一人寝起きだけど、ほっといてもまた寝るだけだ。
頑張って聞いてもらおう。
「あなた達は、姫様の父上であるピーリス王に会うことになると思います。王自らも使徒や女神と会話を望まれるでしょう」
私たちを王都に連れていきたい理由は、恩返しだけではないのは察している。
しかし、その理由がなんなのかはわからない。
強力な魔物を倒してくれ!
とかならまさしく利害一致なんだけどねぇ。
いろいろ気掛かりなことはあるけど、王様に会うって緊張する。
気まぐれで殺しにかかってきたりしないかな……。
「王は温厚な方です。多少無礼な振る舞いをしてもお怒りになることはないでしょう」
考えを見透かされた。
「しかし受け答えによって、臣下や他の騎士たちは反感を抱くかもしれませんので、なるべく穏便に……」
そこは問題ないかな。
言葉遣いは丁寧にできるはず……きっと【言語翻訳】がなんとかしてくれる。
「王との謁見時も、私が付き添いますのでご安心を。あと城内は広いので、迷わないように注意してください」
「り、了解です」
大丈夫……やることは単純よ。
こっちはお客様なんだから、怯んじゃダメだ。
それにしてもお城か。
私はあまり、お姫様になりたいと思ったことはなかったけど、実際人が住んでいる城となったら少し楽しみ。
どれだけ大きいのかなぁ。
すぐ追い出されなきゃ良いなぁ……。
私は馬車に揺られながらそんな事を考える。
その事を知らず、馬車はただ王都への道を進んでいった。
ちらりとドルミーに視線を送ると、彼女はすやすやと寝息を立てていた。
女神だけあって、王如きには怯まないのか。
それとも、ただ眠たいだけか。
……どっちもかな。
○ ○ ○
赤い夕日が大地を照らし始めた頃、ふと窓の外を眺めてみると遠くに大きな城のようなものが見え始めた。
周りは白い壁に囲まれていて、おそらくその中が城下町だろう。
私は長時間の移動に飽き、ドルミーのように眠りかけていた。
目をこすり、軽く伸びをする。
「お疲れですか。無理もありません。姫と使徒が乗っているともなれば、どうしても慎重な移動になってしまうので、その分時間がかかるのです」
向かいに座るリアスさんが、相変わらずキリッとした顔立ちで話しかけてきた。
さすが騎士というだけあって、その出で立ちから疲れを感じさせない。
当の姫は馬車の座席から手足を投げ出し、寝っころがっていた。
我が道を行くという意味では、偉い人っぽいのかもしれない。
ドルミーも座席に寝っ転がっているが、こちらの寝相は良い。多少の揺れでは睡眠フォームを崩さない。
眠りと関係の深い夢の女神なだけある、といったところだろうか。
私はそんなドルミーから視線を外し、リアスさんに一つ尋ねてみる。
「窓から見えるお城が目的地ですか?」
「その通りです。ピーリス王国のシンボル、ピーリス城。荘厳でありながら、どこか親しみを感じさせる存在です。その周りには大きな城下町があり、たくさんの人が暮らしています」
観光ガイドのように答えてくれた。
ふーむ、やはり城下町か。
それにしてもそこまで言う城が気になる。
内装も豪華なのかな。何を食べているのかな……。
少し考え事をしていると、それを察したリアスさんが目を輝かせながら顔を覗き込んできた。
もっと私に質問をしてくれ、と顔で言っている。おそらく無意識だ。
これも愛国心がなせる技……かな?
「えーと、姫様はあちらに住んでいるんですか?」
それはそうだろう。
焦って当たり前の事を聞いてしまった。
もしこの質問に「いいえ」と答えられても反応に困る。
「そうです。姫様もピーリス城にお住まいです」
うむ。
長時間の移動で私の頭も弱ってるみたい。
早くご飯を食べて、お風呂に入って、大きなベットで寝たい!
……人前では絶対言えないけどね。
「ピーリス王国はそれほど国土は広くありませんが、とても豊かな国です。商業なども発展していて、活気に満ち溢れています。ぜひ真夜さんにもその魅力を知ってもらいたい」
リアスさんが熱い解説を始めた。
城下町でショッピングも悪くない。
でも、今は目の前の問題を解決しないとね。
わたしは少しずつその存在感を増していく城を、少しだけ睨みつけた。




