13話 リアスリポート
「さー、明日は大仕事ですからね。早めにおやすみしましょう」
バーベキューの後片づけを終え、私たち三人は小屋の中へ戻ってきた。
ところどころガタがきている壁や天井から隙間風が入ってくるものの、外に比べると温かく感じる。
「昨日はマントに包まって寝たけど、いつもはどうしてたの?」
「この小屋にあった比較的きれいなクッションや布団を魔法で直して使ってました。ほら、ここにありますよ」
女神殿は部屋の隅に畳んで置いてある寝具を指差した。
「へー、そんな魔法使えたんだ」
「まあ、今は全く無理ですけど……」
真夜殿も女神の全てを理解している訳ではない様だ。
そういえば、魔法で壊れないように『強化』するのは比較的容易らしいが、壊れた物を『復元』するのは難しいと聞く……。
この目で見たわけではないが、それを可能と言う彼女――ドルミーと名乗る女性が女神である事は、ほぼ間違いないだろう。
何より、真夜殿の持つ加護魔法のかかったマントがある。
神がその魔力のほとんどを使い果たし、創り出した産物だ。
先程、【次元収納】なる見たことのない魔法を見せてもらった。
マントからニュッとビンが飛び出してくるのだ。
空間を操る魔法……想像もつかない。
私は騎士であり、研究職ではない。
得意とする魔法は、どれも基礎を積み上げて身に付けた実戦向きなものばかりだ。
その中でも特に……と、今はそういう話じゃないか。
「えーっと、この布団なら三人は並んで眠れそうですよ」
「なかなかすごいのが置いてあったもんね……」
女神殿が床に敷いた布団は大きく、なんとか大人三人でも眠れそうだ。
無論、寝相が悪いと酷い有様になるだろうが……。
「布団はお二人で寝てください。私は大丈夫です」
まあ、寝相云々でなく、少女二人と並んで寝るのがなんだか気恥ずかしい。
「えー、一緒に寝ましょうよ。その方が温かいですよ。ね、真夜さん。昨日も二人で寄り添って、ぐっすり眠れましたもんね」
「それはマントの力かもしれないけど……まぁ、一人よりは安心して眠れると思います」
二人とも、会ったばかりの私を気遣ってくれる。
彼女らも出会って何日もたっていないというのに、相当仲が良いようだ。
これは私にとっても良い事である。
別に少女を見るのが好きという訳ではなく、姫や国にとって良い事……なのだ。
「それではお言葉に甘えて」
誘いを受け、私は寝るために装備を外す。
本来ならば、交代で一人が見張りに立ち、順番に眠る場面だが、今日はいいだろう。
なぜなら……。
「あっ、真夜さん。寝ている間はマントを広げて布団の上に置いておいてください」
「わかった。その方が何かと良さそうだもんね」
真夜殿は羽織っているマントを脱ぐと、広げて掛布団の上に被せた。
彼女の恵体をすっぽり覆えるマントだ。広げるとその大きさが良くわかる。
その上、このマントには【防御障壁】という魔法がかかっていると真夜殿から聞いた。
魔法名からして防御系の魔法とわかる。
魔法を扱えるものならば大体、身を守る魔法も覚えていて、その種類は人それぞれだ。
マントの場合は、『森の主』の一撃を平気で無効化する程のものがかかっているらしい。
とりあえず強力なものと判断して問題ない。
それを考慮すると、三人かたまって寝るというのは合理的な判断と言える。
これも女神の知恵か……。
「リアスさんはせっかくだから真ん中に寝てくださいね」
「……では、お言葉に甘えて」
両脇を女神と使徒に固められるになった。
信用されていないのか、それとも親切心か……。
この女神の事だ。間違いなく後者だな。
私は警戒心を解き、布団にもぐりこむ。
む、想像以上に温かい。
掛布団は一枚でそこまで分厚くはない。
森の夜の風は冷える。とてもこれだけで防げるとは思えない。
そうなれば、この温かさの原因は上のマントという事だ。
寒い所でも一枚で適温を保てる……素晴らしく便利だ。私も欲しいな。
「お隣失礼します」
「私も!」
真夜殿と女神が隣に入り込んでくる。
掛布団が一度めくられたというのに、外気が入ってこない。
ある程度マントの近くにも、何かしらの効果が発揮されるのだろうか。
それとも……。
思考が沈んでいく。
今日は訓練の後、脱走した姫を探して町や森を駆け回った。
近衛騎士団長たるもの、その程度で体力が尽きることは無いが、疲れるは疲れる。
厳しい訓練の後ほどよく眠れるのは当然だ……。
しかし、私にはまだやる事が……。
「おやすみなさい、ドルミー、リアスさん。明日もよろしくお願いします……」
「おやすみです。もう寝ちゃいます……」
二人もすでに睡魔にとらわれているようだ。
眠るまでそんなに時間はかかるまい。
「お二人とも……おやすみなさい……」
とりあえず挨拶する。
くぅ、この睡魔にあとどれほど立ち向かえるだろうか……。
◯ ◯ ◯
……「おやすみ」から二十分ほどたった。
女神はものの数秒で寝息をたて始めたが、真夜殿は十分ほど眠れなかったようだ。
冷静に考えれば、今日であったばかりの他人が隣にいるのだから、眠りにくいのも当然。
少し申し訳ない気持ちになる。
とはいえ、二人とも今は深い眠りについている。
動くなら今。
私は少し布団にもぐり、女神の足へ手をのばして、それに触れる。
下心からの行動ではない。断じてない。
近衛騎士団長には女神の体つきを調べておく必要があるのだ。
起きているときにお願いしても、快く触らせてくれそうな人柄ではあったが……恥ずかしくて言い出しにくい。
しかし、寝ていてる間に体をまさぐるのもかなり恥ずべき行為だ。
二人に気付かれて不信感を持たれてしまえば……。
姫様とヴァネッサは大笑いするだろうが、部下や他の皆にどう思われるか。
あらゆる面にて不具合が生じてしまう。
危険な試みだが、私自身も女神の体には興味がある。
それにここまで起きていたことを無駄にしたくない……。
「ん……ふふっ……」
女神は意味のない寝言を呟いている。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか。
夢の女神は何の夢を見るか……気になるが、知りたいのはそこじゃない。
私は布団に静かにもぐり、そっと女神の足に触れる。
……少女の柔らかな肌だ。
特に変わったところもない。
食事中もまれにふらつく場面を目撃したが、別に外傷は見られないし、病気でもないようだ。
魔力を使い過ぎると、体の機能自体に異常をきたすと聞いたことがある。
おそらくそれと似たような症状か。
私は手を頭の方へと進める。
膝、太ももも特に変わったところなし。
しいて言えば、肉付きは良い。
太っているわけでなく、健康的な体つきと言える。
夢の女神がやせ細っていては夢がないし当然か。
太ももの上は……ダメだ。それは罪悪感で明日、目を合わせられなくなる。
触れない程度、でいこう。
……うむ。
神は男と女両方を生み出した存在なのだから、両方の特徴を持っているという説もあったが、夢の女神ドルミーは違うようだ。
見た目通りの……と。
胸は大きい……じゃなくて、呼吸に合わせて上下している。
内臓も人間と同じなのだろうか。
最後に顔。美しいの一言。
起きている時は表情のせいか幼さを感じたが、今は整い過ぎた顔立ちに恐怖すら覚える。
寝るために、派手な髪飾りや装飾品は外されているが、その出で立ちはまさしく神。
「……えへっ」
口を緩め、女神は情けない声を漏らす。
……これはこれでいいものだ。
今のところ女神ドルミーは、本人も認める様に普通の少女という判断が適切だろう。
◯ ◯ ◯
さて、次は真夜殿だ。
女神が選んだ存在ということは、何か優れた部分があるのだろう。
私も寝たい。
素早く調べよう……。
下半身は女神に比べて細い分、筋肉がついている。
しかし、何かしらの訓練を積んでいるとは思えない。
普段、徒歩で移動をしたり、たしなむ程度の運動くらいだと判断できる。
……彼女も見た目通り……と。
腰はくびれがハッキリわかる。
かなり背が高いことも相まって、なかなかのスタイルの良さだ。
ただ、やはり鍛えられてはいない。
女神は戦闘能力を重視していなかったと判断出来る。
胸は女神ほどではない。
まあ、あまり大きすぎても美しい体のラインを崩すだけだ。
何より私よりは大きいし、十分だ……あ、違う違う。
気を取り直して……。
呼吸は整っている。
彼女も女神と同じように、この世界の人間と体の構造が似ているのだろうか。
寝顔は少し幼さを感じさせる。
起きている時は女神とは逆に大人びて見えた。
また、今は長い黒髪は一つね束ねられ、体の前に垂らしてある。
見た目は素晴らしいが、それ以外で女神が彼女を選んだ理由は見つからない。
何か隠された力があるのだろうか……。
「うふっ……真夜さん……は……」
女神がまた寝言を言う。
今回は割とはっきり内容が聞き取れる。
「やさしいです……ね……」
優しい……?
確かに彼女は自らを勝手に転移させた女神に対しても、親しみと思いやりを持って接していた。
一般的な優しさの範囲を超えていると言える。
使徒に必要なものは力や才能ではなく、優しさなのだろうか。
女神らしい深い考え……か?
どちらかというと甘い……?
まあ、使徒が話のわかる人間であったことは救いだ。私たちにとっても。
……今、ここで得られる情報はこのくらいだろう。寝るとしよう。
根拠はないが、この二人ならきっとお互いの目的を果たせる。
そんな予感がする。




