12話 森の中でBBQ
「さーて、鉄板は準備しましたから、食材を切り分けましょう」
ドルミーは満面の笑みでカゴから食材を取り出し、どこからか持ってきた机の上に並べ始めた。
「あの小屋いろいろ置いてあるのね」
少し気になった私は、それとなく尋ねてみる。
「そうですねぇ。ボロボロのように見えて、結構住みやすかったですよ。といっても数日しか居ませんけど」
「お金も小屋から?」
「……はい。置いてあるのを借りました。は、初めて入った時は、埃だらけでもう人が住んでなさそうだったので……。ちゃんと返しますよ! そのうち!」
「初めてこの小屋に来たのはいつ?」
「異変の知覚と同時に私は実体や感情、知識を持ちました。そして、それを自覚した時にはこの森の中だったという訳です。そこから小屋を見つけて、中で転移魔法を発動して、現在に至ります」
この森にドルミーが現れるのは決まっていた事なのか。それとも偶然なのか。
偶然だとすると、小屋に出会えたのは相当運が良かったってことね。
「知り合いや家族のいない冒険者の家だったのかもしれませんね。それか、盗賊やらの隠れ家か……。どちらにしろ家主がいまさら帰ってくる確率は低いでしょう」
取り出した野菜を水魔法を使って洗っているリアスさんが話に入ってくる。
彼女が魔法を使うのに詠唱や魔法陣、踊りみたいなのも必要ないようだ。
ただ、手元から最低限の水が流れ出している。
「やっぱり魔物と戦うのって危険ですよね」
「そうですが、今のは死んで家主が帰ってこれないという意味だけではありません。ここは町からそれほど離れていないとはいえ、魔導機械によるインフラシステムの恩恵は受けられない。つまり、それなりの魔法を使えないと住みにくい、ということです」
質問しておいてあれだけど、魔導機械によるインフラシステムの方が気になる。
やっぱり町にはそういう魔法を用いたインフラが敷かれていたのか。
街並みが美しい理由はそれね。
インフラの意味を詳しくは知らないけど……。
町が整っていて城が整っていないという事は無いだろうし、また城に行くのが楽しみになってきた。
正直、ずっと小屋いるのはいろいろ厳しい。
「さて、野菜は洗い終えました。切りましょう」
「はいはーい。包丁やまな板もありますよー」
ドルミーが机にまな板を置き、その上でニンジンを切り始める。
しかし、手つきが危なっかしくて見てられない。
ニンジンが切れる前に手が傷だらけになりそう。
「ドルミー、代わるわ。怪我されても困るし、玉ねぎの皮むきをお願い」
「うっ、わかりました……」
本人も危なっかしさに気付いていたようだ。
素直に包丁を私に渡し、玉ねぎの皮をむき始める。
「私が女神様の向いた玉ねぎを切りましょう」
リアスさんが玉ねぎを受け取り、それに包丁をいれる。
「真夜殿、知っていますか? 玉ねぎを切るとき涙が出るのは、鼻から何らかの成分を取り入れてるからなんですって。つまり、風魔法を少しでも制御できれば、問題ないのです」
「えっ!?」
私が驚いたのはリアスさんの豆知識に対してではない。
彼女もまた切り方がおかしい。
流石、刃物を扱う職業だけあって、自らを傷つけそうなわけではないけど、切れた野菜の大きさが許容できないほどバラバラだ。
バーベキューなんてだいたい焦げるまで焼くのだから関係ないと言いたいけど、これは食欲に関わりそう。
「リアスさん……」
「わかっていました……。焚き木でも集めてきます……」
素早く包丁を置くと、リアスさんは森の中に入っていった。
その背中はどこか寂しい。
「さぁ、私が頑張らないと」
もはや下準備担当は私のみ。
これでも一応、一人暮らしをしてたから野菜ぐらい切れるし、料理もそれなりだ。
今回は切るだけ簡単簡単。
私はトントンと小気味よい音を立てながら、野菜を切り分けていく。
よし、腕は鈍ってないようね。
「真夜殿、焚き木を集めてきました。火をつけて鉄板を温めておきますね」
素早く戻ってきたリアスさんが、鉄製の器具で支えられた鉄板の下に、集めてきた木々を置く。
そして、腰に携えてあったレイピアを引き抜くと、その先端を木々へ向けた。
「火の魔法を使うんですか?」
「ええ」
その一言を言い終わらないうちに、レイピアの先端から火種が飛び出し、木々が赤々と燃え始めた。
「すごい……。いろんな魔法を使えるんですね」
「これくらいの魔法ならば訓練を積めば誰にでも使えますよ」
「私にもですかっ」
思わず喰い気味に尋ねてしまった。
いや、やっぱり自分も魔法が使えると言われれば、誰だって興奮するはずよ!
「はい。何らかの方法で目覚めさせる必要はありますが、ある程度の魔力は誰しも持っています」
おおっ!
魔力を目覚めさせる方法が確立されているんだ!
それなら異世界人だから魔力無しなんて可能性も低いはず。
「どうすれば魔力が目覚めるんですか!」
「えっと……ここでは無理ですね。しかし、いずれ必ず目覚める時が来ます。女神の願いを叶えるために、真夜さん自身の魔法も重要なはずです」
目覚める時か……。
なんだか少し興奮してきた。
「あの、真夜さん。野菜が……」
後ろで皮むきをしていたドルミーの声を受け、私はそこでハッと我に返る。
手元にはいびつな形に切られた野菜たちが並んでいた。
「うわ、ごめんね……」
「大丈夫ですよこれくらい。私に比べればとても美しくカットされています」
リアスさんが自嘲気味な笑みを浮かべる。
それに私も困った笑顔で返した。
◯ ◯ ◯
「うーん! おいしいですね! 真夜さん、リアスさん!」
私の隣でこんがり焼けた肉を頬張りながら、ドルミーが叫ぶ。
「このタレもお肉に良く合いますね。少し甘めなのがまた……いい。リアスさんおかわりください!」
彼女は地面に直に置かれた椅子からぴょんと立ち上がると、鉄板の近くで肉と火の管理をしているリアスさんのもとに駆け寄る。
「タレはここ数年でよく見かけるようになりました。果物を使用して作られているようですが、私にはさっぱり作り方がわかりません」
ドルミーの器に肉と野菜を入れながら、リアスさんが呟く。
私もタレまであるのは予想外だった。
別に塩焼きも素材そのままの味が楽しめて好きだから困らないけど、食べ物の選択肢は多いに越したことはない。
嬉しい誤算というべきね。
「真夜殿もおかわりどうですか?」
「いただきます」
私もリアスさんから肉と野菜を受け取る。
この肉自体の美味しさもなかなかのものだ。
牛肉と訳されているだけあって、味も牛そのもの。
脂も乗っていて、一人暮らしを始めてからはなかなか買わなかった高めのお肉の味に近い。
あと、野菜も普段食べてる物にそっくりな味だった。
ちなみに私は野菜が嫌いということはない。
ただ、生より火の通ったものが好きだ。
「リアスさんも食べてください。火加減は私が見ます」
先ほどからずっと肉を焼いているリアスさんにも食べてもらわないと申し訳ない。
お金も出してもらったし。
「お気遣いありがとうございます……と言いたいのですが、風が少し出てきましたし、火を安定させないといけません。私は合間にでも食べられますので、気にしないでください」
「そうですか……。じゃあ、お願いします」
「任せてください」
隊長という立場だからなのか、彼女は肉の管理も真剣みたい。
無理にやめさせる必要もないし、ここはお言葉に甘えよう。
「リアスさーん! あーんしてください。私が食べさせてあげますよー」
ドルミーが自分の箸を使い、肉をリアスさんの口へ運ぶ。
結構なついてるなぁ。
「あ、ありがとうございます……」
当のリアスさんはかなり恥ずかしそう。
視線を逸らしながら肉を口に入れてもらっている。
火のせいでわからないけど、おそらく顔が赤くなっていると思う。
「あ! 真夜さんもあーんしてほしいですか?」
「えっ、いいよいいよ」
「遠慮しなくていいんですよ! ほら、あーん!」
押しが強い。
私は仕方なく口を開け、それを受け入れる。
……美味しい。でも、少し恥ずかしい。
噛んでるところまで、そんな真剣に見つめなくていいのに。
自分ではわからないけど、おそらく私の顔も赤くなっていると思った。




