11話 女神と使徒
「買い込んでしまいました」
森へ向かう道を歩きながら、リアスさんがぼやく。
その手には肉と野菜がドッサリ入ったカゴ。
売ってる肉の見た目に変なところはなかった。
名前も牛肉とか豚肉。それに関してはどう翻訳されてるかわからないけど、大事なのは味と食感ね。
野菜に関しては、いくつか見たことのない色や形をしたものも売られていた。
実は普通に元の世界にもあるけど、私が知らないだけかも。外国の野菜とかあまり知らないし。
まあ、今回買った野菜にそういう変わったものは入っていない。
手元にあるのは玉ねぎとかトウモロコシとか……一般的なバーベキューに使う野菜のようなものだ。
にしても異世界なのに同じようなものが多い。
似た世界だからドルミーが私を選んだのかもしれないけど……。
あっ、そういえば聞きたいことがあったんだった。
町からも少し離れて人もいないし、切り出すなら今だ。
「リアスさん。ヒロウ姫様が言っていた『使徒』というのは、どういう意味ですか?」
察しはついているけど一応。
間違えると恥ずかしいからね。
「女神が異なる世界から呼び寄せた存在……と古い伝承には記されています」
伝承……。
つまり、実物を見たことは無いのかな。
「私の他にも『使徒』は存在するんですか?」
「信憑性の薄い噂なら小耳にはさむことはあります。おそらく大体の人間がそんな感じでしょう。しかし、本当に信じている者は少ないと思われます。伝説上の存在……といったところですね」
いわゆるオカルト……この世界における都市伝説的な存在なのかな。
いやぁ、まさか私がそちら側の存在になるとはね……。
でも、伝承にあるということは、大昔にはいた……のだろうか。
「この世界に神というか……信仰対象はありますか?」
「いくつかあります。先ほど述べた古い伝承というのも、いくつかの宗教施設に保管されていた古文書や石版に記されていたものです。つまり、複数の宗教で使徒の存在が示唆されているという事です。……ただ、ドルミーという名の神は聞いたことがありません」
うーん、人を先導するために神の使徒を名乗った人間も過去にいそうだ。
これに関しては保留ね。情報が少ない。
あとドルミーは本当に知られていないようね。
夢の女神なんてぼんやりした存在だから、長い年月の間に忘れられてもおかしくなさそうだけど、これも保留。
「こちらからも質問してもよろしいでしょうか?」
「……あっ、はい」
リアスさんからしたら私が異世界人だ。
聞きたいことも山ほどあるはず。
「女神様はどういう理由であなたを呼び出したのか、ご存知ですか?」
それは説明された。
確か……女神はこの世界の異常を……。
とりあえず私は聞いたことをまとめるのを放棄し、そのままを伝えた。
「世界の異常……ですか。それを察知し、女神はあなたを呼び出したと」
「そう言ってました。あと、転移と加護の魔法にほとんどの魔力を使ってしまったとも」
「異世界からの転移時に、なにかしらの力を与えるとは聞いていましたが、まさかほとんどの魔力を与えるとは……。それで魔力の吸収について話していたのですね。納得しました」
そういえば、リアスさん放置で吸収云々の話をドルミーとしてたわ……。
「真夜さんの目的は女神様の魔力を取り戻し、再び転移魔法を発動させること。女神ドルミーの目的は真夜さんの協力を得て、世界の異常を正すこと。こういう訳ですね」
私の拙い説明を簡素にまとめてくれた。
初めて見た時は鋭い印象を受けたリアスさんだけど、話してみると柔らかく包みんこんでくれるような感覚を覚える。
この世界に来て、彼女や姫様にすぐ出会えたことは幸運なのかもしれない。
「それでですね。真夜さんがもらった魔法はどのようなものなのですか?」
リアスさんが目をキラキラさせながらこちらを見ている。
まあ、そこはもちろん聞いてくるよね。
私は少し恥ずかしさを覚えながらも、マントの力も説明した。
「……ふふっ」
リアスさんは少し微笑む。
そりゃ笑っちゃうよねぇ……。
布団と情けない願望から生まれた力だもん。
「これは……私、すごいことを聞きました。夢の女神は使徒の夢を叶えたわけですね。夢から生まれた力……ロマンを感じます」
願望ではなく夢と言ってくれるとは、やっぱりいい人だ……。
「宿った魔法の数々も、古代の魔法書に書かれているだけで、使える者がほとんど確認されていないものばかりです。すばらしいの一言しかありません」
「あ、ありがとうございあます」
そ、そこまですごい魔法だったのか。
いや、ドルミーの事を疑ってはいない。
便利で応用が利くことは実証済みだ。
しかし、ここまで真剣に言われるとはね。
「……真夜殿。もし、姫様があなたの力を必要としていて、それが女神様の利害と一致したとしたら……協力していただけますか?」
「えっ、あー、それはもちろん。私にできる事なら、なるべく協力しますよ」
「ありがとうございます。わ、私たら急に変なこと言ってすいませんね……」
本当に急だったからビックリした。
うーん、やっぱり私たちを城に招くのは、お礼だけではなさそうね。
でも、一瞬見せたリアスさんの困ったような笑顔。
これは罠じゃない……はず。
それにここで困ったことを解決すれば、姫や騎士団のバックアップがより強固なものになる。
少し危ない匂いがしても飛び込むべき案件!
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。ドルミーも姫様と打ち解けていたようですし、きっと姫様が困ってたら助けようとしますって」
「そう言っていただけると嬉しいです。真夜殿は優しいですね。女神があなたを選び、頼っているのもわかります」
そんなに褒められると少し体がむずがゆくなる。
「今、女神の一番の味方は真夜殿です。少し会話を聞いていただけですが、とてもあなたを信頼している。何か迷ったときは、彼女のことを信じてあげてください。それがきっと、あなたにとって正しい選択のはずです」
また少し遠くを見つめながら、リアスさんは言う。
主人に仕える騎士らしいアドバイスだった。
迷った時は信じる者の為に動く……か。
まだ全部が全部信じているわけじゃないけど、私にとってもドルミーは一番の味方であり、頼るべき存在だ。
「はい。わかりま……」
「おーい! 真夜さん! リアスさん!」
前方の小道からドルミーがこちらに向かってくる。
話しながらのろのろ歩いてたから、痺れを切らして向こうから来たか。
「準備はもう出来てますよ! 早くバーベキューを始めましょう!」
勝手に走り出したことを特に気にしてはいなさそう。
まるで無邪気な子供のようだ。
……体は結構大人の魅力を感じるんだけどね。
「ドルミー、勝手に先に行っちゃ危ないでしょ。私とあなたは運命共同体。どちらかが欠けたら終わりなんだから」
「うう……ごめんなさい……」
一瞬でしゅんと萎びるドルミー。
そんなに過剰反応されると、なんか悪いことしてる気がしてしまう。
「怒ってるわけじゃないけど、危ないことは控えてほしいの。私も出来る限りいう事を聞くから、あなたも私のいう事を聞いてってこと」
「……はい」
ドルミーは少し俯いたまま、上目遣いでこちらの表情を窺ってくる。
なかなかあざとい仕草だけど、嫌いじゃない。
「……準備はちゃんとできてる?」
「はい……」
「ありがとう。助かったわ」
「……はい!」
「じゃ、帰ろう」
「はい!」
笑顔を取り戻したドルミーは来た道を引き返していった。
わかってんのかな……と思ったら、ギリギリこちらが見えるところで私を待っている。
「あーいうのを見ていると、何となくほっとけないって気持ちになるんです」
思わずそんな言葉が口から洩れた。
「私にもなんとなくわかります。出来の悪い子ほどかわいいというか……」
リアスさんも女神に結構ひどいことを言う。
いや、姫様に重ねているのだろうか。
じゃじゃ馬姫疑惑が深まっていくなぁ。
「真夜さ~ん! は、や、く!」
ドルミーの声が響く。
やっぱり彼女はこれくらいが良い。
私が危なっかしいところをカバーする。
「行きましょう。そろそろ女神殿も我慢の限界見たいです」
リアスさんはそう言うと小走りを始めた。
彼女も出会ったころよりずいぶんと柔らかい表情になっている。
「そうですね!」
私も小屋へ向けて駆け出す。
明日の夜にはお城のベッドでくつろいでいるのだろうか。
これから私たちはどうなるのだろう……いや、今は肉を食べよう。
肉、肉、肉!




