10話 新装備
「この服なんてどうですか。真夜殿の黒い髪に良く似合うと思います」
「あ、ありがとうございます……」
私たち三人が来ているのは、朝にも来た町にある服屋さん。
冒険者たちが愛用する頑丈な服を売っている店らしい。
リアスさんはおしゃれとかに興味がない、お堅い人かと思ってたけど、そうでもないみたいで……。
「にしても、長く美しい髪ですね。何かこだわりがあって伸ばしているのですか?」
「ええ……そんな感じです」
私の髪は地毛そのままの真っ黒。そして、長い。
他の特徴として、もみあげから伸びた髪を白い紐でくくっている事。
クラスメートから巫女さんみたいと言われたことがある。
実は巫女の髪には霊力が宿ると聞いてから、それを意識した髪型にしているのでズバリ正解。
流石に恥ずかしいから言ってないけどね……。
「リアスさんも髪伸ばしてますけど、理由は何か……」
深い青色をした髪はつやつやしていて、とても目を引く。
私の世界ではあまり見ない色というのもあるけど。
「私は短い方が動きやすいと思っているのですが、部下たちが長い方がいいと言うので、伸ばしたままにしてあります。なかなか手入れが大変とはいえ、部下たちの士気が少しでも上がるのならばと」
部下さんたちの言うこともわかる。
このスラッとした出で立ちには長い髪が似合う。
にしても髪型にまで深い意味があるとは、ますます私の理由は話せないな。
「真夜さん真夜さん! 早く服を着てみてくださいよ!」
「あっ! ごめん。えっと、試着するには……」
落ち着きのないドルミーに急かされ、私は我に返る。
ちょっと本題を忘れがちだ。落ち着かないと見た目でなく中身でボロを出しそう。
「試着室はあちらですよ」
言われるがまま試着室の扉を開け、中に入る。
小さな部屋の中には大きな鏡とカゴがあった。他に変わったものは見当たらない。
「危なそうなものもないし、脱ぐか」
私は布団を足元に待機させ、パジャマを脱ぐ。
下着は……そのままでいいや。
脱ぎ終えて、今度はリアスさんが選んでくれた服を着る。
肌触りは意外と悪くない。
着ていてかゆくて仕方ないという事はなさそう。
「さあ、どんなもんか」
小さく独り言を言い、鏡に自分を写してみる。
あまりおしゃれに詳しくない私から言わせてもらうと、コスプレにしか見えない。
白を基調とした上着に、赤を基調としたスカート。
中には短パンの様なものを履いているので、動いても問題なし。ありがたい気遣いだ。
服自体に他の色のラインが入っていたり、ベルトやブーツなどの茶色があるけど、なんとなく赤白の巫女服の様に見える。
これは何かのめぐり合わせか。
でも、これで外を歩くと思うと恥ずかしいかも。
個人的には気に入っているけどね。深紅のマントにも合うし
「あの、着替えてみました……」
私は身を小さくしながら、ゆっくりと試着室の扉を開ける。
「ど、どうですかね……?」
私を見た途端、リアスさんは目を見開く。
ドルミーは顔が緩んでいる。
ドルミーは置いといて……リアスさんの反応的にダメか。
ただのコスプレで、むしろ王の前に出せないか。
「とても似合っています! 私の見立て通りです!」
「えっ! あ、そうですか? ……気を遣ってませんか?」
「とんでもない! どこへ行っても恥ずかしくない恰好です!」
テンションが高い。
何か言おうとしていたドルミーもビックリして言葉が詰まっている。
ともあれ、これで服の問題は解決。
「いや……むしろ似合い過ぎて目立つかもしれません。一人で出歩くとき危険かも……」
この服はリアスさんの趣味がふんだんに盛り込まれているみたい。
興奮からか、彼女の顔がほんのり赤くなっている。
外を出歩いて大丈夫なのかは不安になってきたけど、そこは団長だし信じる。
それにしてもいい趣味してるわ。気が合いそう。
「では、会計を済ませて、夕食の買い出しに行きましょう」
「はい。えっとお金は……」
「私が払います。こちらの都合で必要になったものですし」
「いいんですか?」
「私も楽しめたので、遠慮することはありません」
楽しめた、と言われると否定が出来ない。
貰えるものはありがたく貰っておくことにしよう。
会計を待つ間、私は店内に置かれていた鏡にもう一度姿を写す。
着替えただけなのに、なんだか強くなったような気がする。気持ちも引き締まるわ。
「さっき言いそびれてしまいましたが、真夜さん素敵です。以前の服も違う魅力がありましたけど、今はカッコよくて素敵です」
ドルミーが後ろから褒めてくれる。
うーん、気分が良い……。
「そう? 私もなんだか……準備完了! って感じ」
あと必要なものがあるとすれば……武器かな?
腰に剣でも携えたいところね。白くて美しい物が良いなぁ。
「お待たせしました。何か他に気になる物でもありしたか?」
「い、いえっ! ちょっと……武器とかカッコいいなーと思ってたんです……」
リアスさん時折、気配を感じさせない動きをするからビックリしてしまうなぁ。
「武器もこちらで用意しますよ。ただ、それは城に着いてから姫様が直接お渡しになるでしょう」
お姫様から賜る武器……。
なんかすごそう。
しかし、ここまで良くしてくれるとは。
命を救ったのだから当然かもしれないけど、少し気が引けちゃう。
「夕食の食材も私が買いましょう。何がいいでしょうか? 恥ずかしながら私は料理が苦手でして、それについてお手伝いはできないのですが……」
手先はとても器用そうに見えるだけに、料理が苦手とは予想外だった。
私もこの世界の料理をあまり知らないし、困ったな。
「ドルミーは何か食べたいものはない? 私、あんまりそういうのわからないし」
「うーん、私も知識があっても経験が……。それに調理器具も心もとないですし……」
そういえばリアスさんの料理の腕はどうなのだろうか。
遠まわしに聞いてみよう。
「いつも騎士団のご飯は誰が作っているんですか?」
「城にいる間は係のメイド達が、遠征時は係の兵士たちで作っています。あとは、よくヴァネッサが趣味で作っています」
これまた予想外。
豪快そうだったけど、人は見た目に寄らないものね。
豪快な料理……。
「そうだ! 外でお肉を鉄板の上に乗せて焼きませんか?」
私は二人にバーベキューをしよう、と言っている。
果たして伝わるだろうか……。
「バーベキューですか? 良いですね。それなら、私も多少お手伝いできそうです」
「お肉を豪快に焼くアレですね! 真夜さん!」
伝わった。【言語翻訳】の効果がすごい。
「必要なものは肉と野菜と……鉄板はあるのでしょうか?」
「はいはい、鉄板は小屋にありますよ! 私が盾に使えそうだと思って、分かり易い所に置いて、手入れしておいたのがあります」
「そうですか。火は私が起こします。風を制御すれば、匂いが森に広がる事もないでしょうし、食材さえ買えば完璧です」
私の思い付きをテキパキとまとめるリアスさんとドルミー。
火や風は魔法で生み出すのかな。
初めて人の魔法を見られるかもしれないと思うと、少し興奮してきた。
「むっ。想像以上に時間がかかってますね。服選びに熱中し過ぎました。急ぎましょう」
リアスさんが町にある時計を見つめ、呟く。
そういえば、日も傾きつつある。
「では、私が先に小屋に戻って鉄板を準備しておきます」
そう言って、ドルミーは駆けだす。
「え、危ないよ!」
「私も少しは皆さんの役に立ちたいんです! 大丈夫ですから!」
今日のお買いもので何か刺激を受けてしまったのかな。
とにかく危険そうなので、私はとっさにマントをドルミーに投げつけた。
マントは浮遊し、ドルミーに追いつくと、ひとりでに装着された。
これで一安心……てか、ドルミー脚遅いな……。
「女神様にも少女の様なところがあるのですね」
リアスさんが優しい目で、少しずつ遠くなるドルミーを見つめながら言う。
やんちゃそうな姫に使える彼女には、あれくらいの気まぐれはかわいいものなのかも。
「準備をしてくれる女神様の為にも、素早く食材を買って帰るとしましょう」
長い脚でツカツカと歩き出したリアスさんの背中を、私は尊敬のまなざしを注ぎながらついて行った。
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