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迷宮書館の司書見習い -36-

 じろりとウェルに睨まれた。

「まかり間違うとあいつらの邪魔になるぞ。だから言え」

「うん。ちょっと(おとり)になるからメーラ達その隙にお願い、って言おうかなって」

「や・め・ろ」

 やっぱりろくでもないじゃないか。そう言いながらウェルが頭を抱えるけど、失礼な。

「死にたいのか」

「いや、全然」

「じゃあ何でそうなる」

 何でと言われても。

「ウェル」

「何だ?」

「正直に言うとね」

「ん?」

「さっきからアレとちょいちょい目が合ってるんだよね……」

「は?」

 いや、そういう反応になるのはわかる。

 ウェルが何言ってんだ? って顔するのもわかる。しかし事実だ。

(そもそも眼帯してるから目が合ったかどうかなんて、普通だったらわからないよね)

 もっと言えば今は紙魚にとり憑かれ、形状すら黒い霞がまとわりついて割りと人の形してない。ある意味グロいわけで。

 何でそれと目が合うと思うのか。自分でもわからないけど。

(でも目ぇ合ってるんだよね……)

 そんな事を思っていると、メーラが苛立った声を上げた。

「こいつ……! セレーヤ! 主人のとこ行って!」

 セレーヤはメーラの言葉に頷くと、小走りにこちらへやって来る。

「マスター、逃げて」

 ウェルがセレーヤの言葉に警戒を強めて、戦うメーラ達の方へ目を向けた。

「どう言うことだ?」

「あれ、マスターを狙ってる」

 セレーヤが心底嫌そうな、メーラに蹴りを入れる時の比じゃない冷たさの視線を、とり憑かれた方へ向ける。

「しつこいっ! パロマ!」

「はい!」

 何か、目を離してた隙にさらに変貌を遂げていた。

「ヴ、あ、ヴあぁぁぁぁ! まあぁぁ、ぅ、たぁ、ぁあ!」

 ボコボコととり憑かれた幻想化身にまとわりついた漆黒が蠢き、無数の手のようなものが出現する。無数の手はメーラ達を捕らえようと動き、そして。

(やっぱり、こっち見てる)

 ズリ、ズリ……と。肥大化してしまった体を引き摺るようにして、こちらへ来ようとしている。

「マスター、ウェルと、戻って」

「行くぞ。流石にヤバい」

 セレーヤとウェルがそう言うのも当たり前だ。私も出来れば近寄りたくない。

「うん。ゴメン。むしろ突っ込む」

「お前バカか!」

「ひどーい」

「マスター……」

 ウェルの目が三角になるし、セレーヤが不安そうに両手を祈りの形に組む。

「逃げても良いけど、多分追ってくるし。逃げ切れても次は? 私は入れなくなってる。なら、今やる。だって、最高の囮が用意出来るのは今回だけだし」

「あのなぁ……」

「ウェル」

 悪いとは思ってる。けど。

「一緒に囮になって。つか、私つれて逃げ回って」

「…………」

「言ったよね。付き合ってくれるって。それも出来る限りの事をしてくれるって」

 うん。何で悪魔でも見るような恐れおののいた顔するのかな?

「大丈夫! 本当にヤバそうなら放り出して良いから」

「あ、の、なぁ……。できるかそんな事! 何させようって考えてるんだ」

「だから、連れて逃げて。とりあえず、捕まらないようにこの広間を駆け回って。私を背負うでも小脇に抱えるでも良いからさ」

 私の足じゃ絶対逃げ切れない。けど、ウェルに持ち運ばれれば多分いける。

 無秩序より標的を定めて動くものの方が、メーラ達も次の行動や進路の見当がつけやすい筈だ。私を逃がして狙いを不明瞭にするより、いっそ大いに狙ってもらおう。

 説明する間も、ウェルはもの凄く気のすすまない顔をして、セレーヤも出来るなら止めたいって顔をしていた。

「マスター、賛成したく、ない」

「うーん。だろうね。ゴメン」

「……でも、マスターの、望みを叶えたい」

 憂いに長い睫毛を伏せてから、ちらりとセレーヤがウェルを見る。

「ウェル、マスターが危ないと、思ったら」

「わかってる。正直、今時点で有無を言わさず連れ帰りたいけど、引き受ける」

 ウェルは本日何度目かのじとりとした視線をこちらに向けた。

「それで、もう少し詳しい話があるんだろ?」

 その言葉に、思わず笑みを浮かべたのは、自分でもハッキリわかった。



「おっわ、ウェル来た!」

 壁か地面か。もしくはどっちも。背後で砕け散る音がして、メーラ達が攻撃するのがウェルの肩越しに見える。

 ちなみに今の私の状態は、ウェルの首に前から抱きついて、片腕でウェルが抱き上げている感じだ。お姫様抱っこよりはマシ。

 私を抱えてウェルは壁際を駆ける。

「それにしても、ウェル悪いね。狼になれないなら負担が大きすぎたのに」

「今それか。余裕だな!」

 当初はウェルにリューエストみたいな大きな狼になってもらって、その背に乗せてもらおうと思ったのだが、ウェルには無理らしい。

『アレはリューだから……金狼で先祖の血が濃く出ているから出来る事だ。俺には出来ない。この状態から元に戻るのもわりと大変だ』

 どう大変なのかと聞くと、少し考えてからウェルはさらっと『全身骨折と生皮剥がされるような痛みがある』なんて怖いことを言った。あっさりしてたけど多分本当だ。目が据わってた。

 壁と床の砕けた際の粉塵が晴れる。

 もう何か正真正銘の化け物といった姿になっている憑かれた幻想化身は、恐らく四つん這いだと思われる姿勢で頭らしきものをこちらに向けてきた。マジキモい怖い。

「ウェル、ファイトー。捕まったら終わり確定」

「喋るな! 舌噛むぞ!」

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