迷宮書館の司書見習い -32-
ウェルがそう言って呆れたような顔をした。
「目的の為に手段を選んでられない時もあるよ?」
「選んでくれ。頼むから」
「なるべくね。まぁ、そんなわけで、私は白雪姫て物語は希望を勝ち取る勝利の物語だと思ってるから、怖くない」
「…………絶対、これ特殊な意見だ」
俺は、主人の望みを勝ち取る勝利の物語。それが俺の一番最初の目的で、願い。
(主人の望みが叶った時に、俺のもう一つの願いも叶う)
主人の願いとは別の、俺の願い。
それを叶える為にも。
(邪魔者は、消さないとね)
遠慮はいらない。目の前の成れの果てはセレーヤを傷つけて、主人を侮辱した。それだけで、許す必要は絶無だ。
(邪魔者を排除して、主人の望みが叶って。そうしたら)
そうしたら、笑ってくれる。
(主人の、本当の笑顔で)
俺は知ってる。俺達を創るまでずっとずっと、ただひたすらに。主人が足掻いていた事を。
今も、足掻き続けている事を。
(まるで焼けた鉄の靴で踊るように)
硝子の棺で悪夢を見てる。目覚めの為の棺を揺らす衝撃は、願いを叶えること。
目覚めて、微笑んでほしい。
それが、俺の願い。俺だけの、願い。
「パロマ」
「はい」
「とりあえず、成れの果てと主人の友人を切り離すよ」
「承知しました」
仕込んでいた櫛刃のダガーで斬りつけ、距離をとってから再び駆け寄り斬りつける。
ぼろぼろの物語に出てくる怪物のような姿で暴れまわる姿は、俺の主人を自分の主人より下だと侮ったあの幻想化身と同一だと認識するのも難しい。
斬りつけても斬りつけても、侵食されたその身体からは障気のように黒霞の紙魚が湧いて、きりがない。
(燃やしちゃいたいけど……)
人質がいるからそれも出来ない。
「メーラ、どうします?」
こちらに向かって紙魚が迫って来るのを、風を操り退けてパロマが聞いてくる。
「うー。あいつ、一回洗濯してやりたい。斬っても斬っても紙魚でるんだもん」
「確かに、キリがないですね」
「パロマ、吹き飛ばせる?」
「それにはやはり切り離しが先ですね。御主人様のご友人が巻き込まれます」
「だよねー。……と」
足下へ再び石礫が飛んで来た。
「パロマとの会話まで邪魔してくるとか、ほんとうざい……」
とは言え、うざいうざい言ってるだけじゃ何も変わらない。
「俺が動き回って気を引くから、その間にお願い」
「……わかりました。メーラ」
「ん?」
「お気をつけて」
「うん」
自我が残ってさえいれば引っ掛からないだろう囮にも、成れの果ては反応する。
(けど、自我がない分……)
自制もない。当たればヤバい威力で次々と攻撃してくるんだよね。
(セレーヤがいてくれるから、主人は大丈夫だと思うけど)
問題は、周囲。
この迷宮の床ってどれくらいの衝撃に耐えられるかな?
若干次々亀裂が入り始めているのが気になるところ。
(爆発とか耐えられるかな……)
俺達だけならあんまり気にしないけど、主人(と一応はあの駄犬)もいるし、派手にやって崩落させるのは控えないと。
「どこ見ようとしてんの」
成れの果ての目の前に飛び込んで、そのままの勢いでダガーを上に向かって振り抜く。
煩そうに腕を横薙ぎにしてくるのを、後ろに飛んで避けると、パロマから待ちに待った声がした。
「メーラ! 切り離しました」
「OK! さすがパロマ!」
でも、馬鹿だよね。
「メーラ!」
「主人?」
一瞬でも隙は隙。主人の悲鳴にも似た呼び声と、自分のミスを自覚した時には、もう……。
白雪姫は、一つの林檎を半分こしたから、大丈夫だと思った。
お妃は、白雪姫を殺したから大丈夫だと思った。
だから、どちらも……。
死んじゃったのに。




