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迷宮書館の司書見習い -24-

 苦い苦い記憶(あくむ)の切れ端。けれど、それもようやくただの笑い話に出来るだろう。

「月祭ってなぁに? 主人」

 メーラが不思議そうに小首を傾げる。

 そうか。今度曜日とかも含めて教えよう。忘れそうになるけど、メーラ達はまだ知らない事も多い。

 例えばこういう行事とか。

 一年は十二ヶ月でそれぞれ名前がついてる事とか、一週間は種日(シディア)から芽、茎、葉、蕾、花、実日(フルン)までの七日間で回ってるとかそういう事。

「えーと、仲の良い人とかに感謝して、髪とか目の色と同じ装飾品とかを贈り合う行事かな。首都ほどじゃなくても、各地で盛大に行われるよ。毎年、秋月(メイプラ)二週目の花日(フラスタ)って決まってるんだけど……」

 そこまで口にして、ヤバい、と。

「あ、あぁぁ!」

「どうしたの主人!」

「メーラ達の装飾品用意できてない……ごめん」

 繰り返す。盛大な祭である。

 こぞって皆様、装飾品を買い求めるわけだ。

 当然、この時期にはどこを歩いても露店が絶えることはないので、品物自体が無くなることはあり得ない。

 どこが問題かと言えば、主に色と値段と質で。

 色について言うなら、この国で一般的な髪や目の色は髪なら金や銀、茶。目は青、緑、明るい茶。この辺りはそもそも大量に作られるから色切れの心配はない。少なくとも、首都じゃないなら。

(でも、メーラ達とウェル……)

 葡萄酒色(ワインレッド)鳩血色(ピジョンブラッド)珊瑚海色(コーラルシー)、そして暁色だ。

 おのれ、揃いも揃って綺麗で珍しい色しやがって、と思わずにいられない。

 珍しい色は売り切れたら基本的に追加されない、追加して余ると売れ残るリスクが高い。一般的な色もこの時期だとあと少しなので追加で作成されない。この時期は全ての色共通で、もう売れたら次入荷は無いと思え、だ。

 値上がりというのは滅多に無いが、後に残るのは品質良くても値段も高いか、値段と品質が見合ってないぼったくり品が多い。

(まあ、髪なら……)

 葡萄酒色、金髪、蒼銀髪、銀髪。

(……)

 厳密に同じ色である必要もないのだが、しかし。

「主人、別に俺達は平気だよ? 主人と一緒なら何もいらないし」

「…………る」

「え?」

「絶対、ほんとおんなじ色の最高の物贈る」

 何かもう、ここまで来たら意地だ。

 大丈夫。幸い明日は第一の実日(フルン)、まだ時間はある。

「ふ、ふふ。うふふ」

「主人……?」

 おや、何でメーラがちょっと怯えてるんだろう?

「そうだよ。まだ時間はある。明日と、それで見つからなきゃ祭まで平日の業務後に片っ端から店巡れば……」

「あう、あ……わ、ワンコー!」

 理由はわからないが、メーラの怯えたような叫び声に、呼ばれたウェル以外の面子もバタバタと書架の奥から駆け付けてくる。

 そして、やる気に満ち溢れていた私は師匠から冷静になるための愛の説教(いちげき)を授かる事になった。




「メリー」

「メル!」

 金色に染まった森を抜け、月祭に向けてきらびやかになる街の中心へ向かう帰路の途中、薬局の前でメルシーに声を掛けられ、足を止める。

 ふわふわの金髪と嬉しそうに輝く空色の瞳。飾り気のないシンプルな小花柄ワンピースと飴色の革靴(ローファー)が、逆に元素材の魅力を際立たせている。

 今日もマジ天使。ぐふふ。

「おい。汚れた目で妹を見んじゃねえよ。メリーベル」

「大将お疲れー」

 呆れと疲れの滲む顔で、無駄とは思いつつそれでも釘を指さずにはいられないのが兄なのかも知れない。

 熊もとい溜め息をつきながら大将は、今日も今日とて送ってくれているウェルに目を向けた。

「無理だとは思うが、なるべく手綱握っといてくれ」

「……」

 何かなウェル? その「そんなの出来るならやってるしむしろ方法が知りたい」みたいな顔は。

 しかも大将とウェルは何か無言で通じ合っているらしい。二人して互いを労るように頷いている。

「ねぇ、メリー。今年の月祭だけど、お仕事はいつも通りお休み?」

「うん。ただ、一日一度は顔出したいし、やる事もあるから当日の参加は午後からかな」

 メーラ達の本を読んで、掃除して、指示だしの訓練して。

 それから、あんま無いけど迷宮に関する資料片っ端から漁るのと。まあ、これはお祭りから帰って来てからも出来るし。

「そう。わかったわ」

 一日フルに使えないのは残念だけど楽しみね。そう言ってメルシーは手を叩く。

「あ。今年はウェルも一緒で」

 こちらの一言に、メルシーの表情が一転。

「……あら。居るの?」

「急に心底邪魔って顔するな」

 鼻筋にシワを寄せたウェルの言葉にメルシーが片手を頬に当て、困ったように首をかしげる。

「どうして私とメリーの時間に、異物(このひと)が必要なのかしら」

「おい」

 意外と仲の良いやり取りに微笑ましくなるのだが、きっと二人に言ったら否定が返ってくる。素直じゃないよね。

「お前も、今なんかおかしいこと考えただろ」

 じとっとした視線がウェルから向けられる。

「あっは。ヤダなぁ、ウェル。うふふ」

 そろそろウェルも魔物じみてきたよね! 東の方には、サトリって名前の魔物がいるらしい。考えてる事が全部わかるってところがウェルや師匠ぽい。

「そだ。メル、今年はユート兄さんも当日休み取ったって」

「まあ! 本当?」

 メルシーの雰囲気が一気に華やぐ。頬は上気して淡く染まっているし、手は祈るようにしっかり胸元で組み合わせられている。

「うん。一緒に回ろ」

 美少女の歓喜の笑顔とか私得な感じだよね。うふふ。

「メリー、ありがとう!」

「ぐふふ。合法おさわり」

「妹から離れろ!」

 べりっと(たいしょう)天使(メルシー)から引き剥がされる。

 ふ。短い楽園だった。

「おい、これ持って早く行ってくれ」

「ちょっとー、大将。人を猫みたいにぶら下げないでくれるかな? 淑女(レディ)に対する礼儀がなってないよ!」

「誰が淑女だ。誰が!」

「すみません。引き取ります」

 ウェルが疲れたような顔で大将から私を引き取る。

「行くぞ」

「ちょっ、ウェルまで首根っこ掴むの止めてくれるかな!」

「お・と・な・し・くしてろ」

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