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迷宮書館の司書見習い -21-

 ただし……。

「パロマ達には、パロマ達だけの。自分の為の願いをもって欲しいな」

 私の願いから生まれたと言うのなら、これが雛鳥の刷り込みのようなものだというのもわかるんだよね。本能じゃ仕方ない。

「自分の為の……?」

「そう。誰かの願いじゃなく、自分の願い。それが『誰かの願いが自分の願い』って言ってるのと違う意味なのは、パロマならもうわかるよね?」

 でも、私の願いをパロマの願いにしたら、もし私がいなくなったり叶った後はどうなるのか。

「まぁ、願いや欲は尽きないと思うけど。それでもやっぱり、自分の願いは自分で見つけて欲しいんだよ」

 他の誰かに自分の存在を依存させるんじゃなく、自分自身の為に生きて欲しい。

「御主人様……」

「ほんと、パロマ達くらいの美人ヤンデレに囲まれるのも怖いけど捨てがたいんだけどね!」

「ふふ……。あ」

 思わずと言ったように笑ったパロマと顔を見合わせ、こちらの口許にも自然と笑みが浮かぶ。

 ランプの灯りに照らされ、二人でくすくす笑ってるのも端から見たらやっぱホラーだろうなと思いつつ、まあ堪える必要もなしだし、良いかなって。

「そうですね……。私にできるかはわかませんけど、灰かぶりのように何もしないでいてはいけませんし」

「あー……それさ、皆なんでそんな風に言うのかね?」

「え?」

「だって、何もしてなくないじゃん。灰かぶり」

 その言葉に、パロマは困ったような意味がわからず途方に暮れるような顔をした。何かウェルとはまた違った意味で犬っぽい。

「そう言えば、まだ読んでなかったよね。パロマの」

「あ、はい……」

 人間に読まれる事。特に創り手に読まれる事は幻想化身(イマジンアバター)にとって、一番回復になる。

 存在しているだけでも少しずつ消耗するパロマ達にとっての糧。平たく言ってご飯。

「さっきはメーラだったし。パロマのも読もっか」

「嬉しいですけど、御主人様お疲れでは……」

「平気、平気。それより、しっかり読むからね」

 人間と違って毎日じゃなくて良いだけ凄い低燃費だと思う。だから、読むときはその分しっかり読んであげないとね。

「しかしアレだね。どうせならウェルがいる時に読めば良かったよねえ」

「……御主人様、ちょっとウェルさんで遊びすぎでは……」

「んー。遊んでるってより、ウェルだから仕方ないような……」

 そんな話題のウェルはと言うと、さっき読んで聴かせた白雪姫(原作バージョン)にわりとドン引きしてたわけだが。

「でも、まあ、何だかんだ楽しんでくれてるんじゃないかな」

「そうかも、知れませんね……」

 そう。何だかんだ言いつつ、メーラもウェルを気にかけているみたいだし。相性良いんじゃないかなあの二人。

「それに、聴き手がいればさらに効果的なんでしょ?」

「ええ」

 読み手もだけど、聴き手が引き込まれればそれもパロマ達にとって集中集まる糧。もうちょい準備できたら、ここでもお話会開きたいな。

 とはいえ、今は、と思ったけど……。

「ね、パロマ」

「はい」

「見える?」

「え……っ!」

 こちらの視線の先を辿ったパロマが、びっくりして身を引く。

 これアレか。(ゴー)(スト)的な奴かなやっぱり。

 ランプの光が辛うじて届くギリギリの暗がりに、白い子供がいる。

「どうやって……」

 パロマが一瞬視線を玄関広間の扉方向へ走らせた。恐らく、戸締まりはしっかりした筈なのに、と思ったのだろう。

「また聴きに来たのかな?」

「御主人様?」

 暗がりから一歩、子供が歩み出る。

 この間と同じ、髪も肌も着ているものも真っ白で、大きな瞳だけが闇色の紫紺。そんな子供が。

「…………」

「今日のお話は、灰かぶりだよ」

 ふらりと。また一歩。無言で近付いてくる。

 灯りに照らし出された顔色は、やっぱり人形のよう。

「パロマ、イスをこの子にもお願い」

「畏まりました」

 この子は、お客さんだ。

 たとえ幽霊だろうが、お話を聴きに来た来館者だ。

 なら、怖がる必要絶無。

「座ってね」

 パロマの用意したイスに、おとなしく子供が座る。

「じゃ、始めよっか。昔々……」

 灰かぶりと呼ばれた少女のお話。

 男やもめがとある子連れの女性と再婚した。それから少し、男親の娘は継母と継子に苛められるようになる。

 来る日も来る日も家事をして、寝床は灰の上。少女はいつしか灰かぶりと呼ばれるようになった。

 ある時、お城で舞踏会が催され国中の若い娘とその家族が招待されるが……。

「灰かぶりと王子の結婚式に参列した継母と継子はそれぞれ鳩に目をつつかれくり貫かれてしまいましたとさ」

 そして、灰かぶりはハッピーエンド。

 本を閉じてパロマとたった一人の来館者を見る。

 本の読み聞かせをする間、子供は大人しくイスに座ったままだった。

「さて、ご満足頂けました?」

 面白かったのかどうか。その顔からは判断出来そうにないんだが。

「…………」

 訂正。言葉もなけりゃ、顔どころか声音からの判断もできない。

 ん? でも、何か……。

 何か期待されている。そう思ったのは、その子供が本を読み終えたというのにじーっとこちらを見ているから。

「んー。ごめん。言ってくれなきゃ、わかんないわ」

 半分試しでそう言う。と。

「どうして」

 初めて目の前の子供が口を開く。小さいけれど、意外としっかり芯のある声。透き通るような、綺麗な声だった。

「灰かぶりは何もしないと言われるの」

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