68:今後を見据えて
【今回の主な登場人物】
ガイウス=ベルダラス…コボルド王になったヒューマン。凶相巨躯の元騎士団長。
サーシャリア=デナン…元ガイウス部下の眼鏡半エルフ。先の戦いで左脚不随に。
長老…ヒューマン嫌いの長老。村のシャーマン。
レイングラス…青年コボルド。フォグの幼馴染だった。少し血の気が多い。
レッドアイ…村の畑仕事のリーダーでフィッシュボーンの父親。
68:今後を見据えて
ガイウスの即位から二日後。
サーシャリアからの要請にて、集会が行われることとなった。
集会所の中には男衆達を待つサーシャリアとガイウス、ダーク、エモン。そして新しい冠をガイウスに被せに来た、数名のコボルド幼女がいた。
『おうさま、きょうのおうかんです!』
「おお、ありがとう。でも毎日は作り変えなくてもいいのだよ?」
頭上に載せられた花いっぱいの冠に照れながら、ガイウスが言う。
その首には、白い花で編まれた首飾りまでご丁寧にかけられていた。
厳つい見た目と可愛らしい装飾の差異に。サーシャリア達は笑いをこらえるのに必死である。
『いえいえ! あさとよるでつくりたいくらい! みんな、おうかんをつくるとうばんを、とりあってるんです!』
「そ、そうか。喧嘩はしないように」
『だいじょうぶです! おとこのこたちよりわたしたちのほうがつよいですから!』
力こぶを作ってみせる童女。一体何が大丈夫だというのか。
暴力はやめなさいと、慌てて窘めるガイウス。
「……あら、足首にも花輪を付けてあげるの? すごいわねえ」
ガイウスの足に取り付いたもこもこ達に、サーシャリアが声をかける。
『はい! このおはな、すっごくいいにおいがするんですよ!』
「確かに。結構強い匂いのする花なのね」
『そうなんです! ほら、おうさまってあしがすごくくさいじゃないですか! かわいそうだから、わたしたち、あしにもいいにおいのおはなをつけてあげようって!』
「……王様泣きそうだから、その辺で許してあげてね?」
幼子達は首を傾げながら、『は~い』と立ち去っていく。
入れ替わりに、レッドアイやレイングラスを始めとする作業から戻った男衆と、そして長老と孫娘のホッピンラビットが集会所へと入って来たのであった。
『待たせたのう、お嬢ちゃん。……ん? ワシらの王様は、何でそんな魂が抜けたような顔しとるんじゃ?』
◆
『捕らえていたヒューマンどもを逃がすだって!?』
裏返りそうな声を上げたのは、レイングラスだ。
本来、いの一番に文句を言いそうであった長老は、動じた様子もなく白湯を啜っている。
「ええ、解放します。抱えておく余裕もありませんし、監視にも人員が必要です。戦闘に乗じて暴れられても困ります。それに、ただの冒険者からこれ以上有用な情報は引き出せないでしょう」
『じゃあ、殺しちまえよ! 女子供を追っていた奴もいるだろ!?』
「もし非戦闘員に被害が出ていたら処刑するつもりでしたが……一応、未遂ですからね。恩赦とでもしておきましょう。戦闘で捕らえた者の方は、罪人ではなく通常の捕虜として解放します。二度とコボルド王国に危害を加えないという念書でも書かせておきますか。無論、そんなものの効果には期待しませんので即座に廃棄して構いません」
再び食い下がろうとしたレイングラスの尻尾を強く引っ張って黙らせると、レッドアイが代わってサーシャリアに問うた。
『サーシャリアちゃん、それには何か考えがあるんだな?』
「ええ。今後を見据えてのことです」
『分かった。教えてくれ』
男衆達も、一様に頷く。
レイングラスはいつの間にかガイウスに抱えられて、大人しくなっている。
「以前お話したように、現在の私達の国に比べれば、外の世界は無限とも言える人員と回復力があります。次の戦いで勝っても。いや、その次も勝てたとしても。ずっと先まで永久に勝ち続けることは困難でしょう」
サーシャリアはイグリス王国の地図を広げると、それに対するコボルド王国の領域を指し示し。男衆に、状況について再確認させた。
「ですから私達の最終的な目的としては、ヒューマン達をどこかで諦めさせることにあります。戦って倒しても損害が見合わない。得る資源も有用な土地も無い。ならば放置でよい、と考えさせるのです。その為にいつかヒューマン達と妥協点を探る必要もあるでしょうし、でなければ敵を牽制するために更なる他者と交渉する時が来るかも知れません。そのことを考えると私達は、出来得る限り【話が通じない】と思われる訳にはいかないのです。本来なら貴族捕虜解放の身代金でも要求して、いきなり外界と同じ土俵に立つ意図を示しておきたいところですが……先日の相手は冒険者だったので、それは無理でしたね」
男衆の大半は首を傾げている。ピンとは、来ないのだ。ずっと森の中で暮らしてきたのだから、無理もないだろう。
そんな彼等をどう納得させるかサーシャリアが悩んでいると。
「つまりだな、コボルド王国は【喧嘩すると怪我するし、やっつけても何も得しない。でも話は通じるし乱暴者じゃないからもう放っておこうよ】という位置付けを目指すのだよ。だから出来るだけ、我々は話しかけやすい相手だ、と思わせなければならないのだ」
ガイウスが、ぐっしゃぐしゃに噛み砕いて説明する。
『『『『なるほど!』』』』
「ああ……そういう説明で良いんですね……」
やや肩を落としたサーシャリアであったが、すぐに気を取り直す。
『サーシャリアちゃんが先のことを考えているのは分かった。捕まえた連中の扱い、それでいいと思う』
「ありがとうございます、レッドアイさん」
『でもよう、サーシャリアちゃん。まず次を凌げなきゃ、その先も、そして最後にヒューマンどもを諦めさせることも出来ないんじゃないのか?』
ガイウスの膝から降りながら、今度はレイングラスが尋ねた。
「ええ、勿論です……ですから、次の戦いについてもこの場でお話しようと思います。急ぎ組み立てたので至らない所も多いですが、なんとか実用化の目処が立ちましたので」
『ジツヨウカ?』
コボルド達が、互いに顔を見合わせる。
「おじいさん、ラビ、こちらへお願いします」
呼びかけに応じて、長老と孫娘のホッピンラビットがサーシャリアの隣に座る。
そして老シャーマンは一同を見回すと、一度ゆっくりと息を吐き。
『じゃあ皆の者。本題の前に、すこーし歴史のお勉強といくかのう?』
耳裏を掻きながら、そう告げたのであった。




