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コボルドキング  作者: Syousa.
建国編
55/272

55:交渉決裂

【今回の主な登場人物】

ガイウス=ベルダラス…「イグリスの黒薔薇」と呼ばれた凶相巨躯の元騎士団長。

レイングラス…青年コボルド。フォグの幼馴染だった。少し血の気が多い。


ワイアット…ライボロー冒険者ギルド長。ケイリー配下の平民出身騎士。

55:交渉決裂


 再びどよめいた後列へ右手を上げ、制しつつ。

 ワイアットは、ガイウスの目へ己の視線を合わせた。


「それは、本当ですかな。ベルダラス卿」


 目前に立つ、かつて憧れた英雄が頷く。


「コボルドは非力な種族です。とても荒事に慣れた冒険者には敵いません。村人を襲った五人は私が殺したのです」

「……言わねば、【犬】の仕業のままで済むでしょうに」

「私のせいで彼等に咎が及ぶのであれば、黙ってはおれません。ただ、こちらにもこちらなりの正当性と言い分があります。裁きの場で、その辺りも主張させていただく」

「分かりました。後は法廷で、裁判官にお話になるとよろしい……おい」


 背後の者達へ、顎での合図。

 後列から数名の者達がそれに応じ、捕縛のための縄を持つと。恐る恐るガイウスの方へと歩み寄り始めた。

 それを眺めがらワイアットは、己の中に湧き上がる汚れた愉悦に唇を歪ませる。


(五年戦争の英雄が罪人か。正道を歩んでおれば今も王城で要職についていただろうに。これが生き方を間違えた男の末路という奴か)


「ワイアット殿。お約束頂きたい。私が出頭すれば、コボルド達へは一切手を出さぬと」


 縛られるために跪いたガイウスが顔を向けてくる。その瞳からは迷いも後悔も、一切が感じられなかった。

 心臓が絞り上げられるような感覚にワイアットは陥り、思わず鎧の胸元に手を当てる。


「武人としての栄誉を得た男が、何故それ程までに、モンスター如きに」


 ああ、痛い。胸の奥が、痛い。

 痛くて、熱くて、押しつぶされそうで、不愉快極まりない。


 知っている。

 そう。彼はこの感情の名前を知っている。

 これは憎悪。羨望と劣等感による、憎悪の感情。

 ワイアットは、ガイウス=ベルダラスに「嫉妬」しているのだ。

 自ら地位を捨て、身分を捨て、栄誉を捨て。

 そして僻地の野蛮な獣人の盾となり身を差し出そうとする、愚かな、極めて愚かなこの男に。この男の生き方に。


(私は、嫉妬しているというのか!)


 ワイアットは、先日よりずっと抱き続けていた苛立ちの正体を、ついに認識したのだ。

 そしてこの瞬間から彼は明確に、ガイウス=ベルダラスの敵となったのである。


「ワイアット殿、聞いておられるか?コボルドに手出しなさらぬこと、お約束頂きたい!」


 ガイウスの声にはっとしたワイアットは、一呼吸置いてから頬を歪め、それに答えた。


「ええ、お約束しましょう。その【犬】共には、一切手出ししません。ですからベルダラス卿は、大人しく縛について下さい」

「頼みますぞ」

「勿論ですとも」


(馬鹿め。逆だ)


 貴様が安っぽい義侠心で守ろうとしたものは、私が踏みにじっておいてやる。

 丁寧に、完全に、だ。

 貴様は死刑囚の獄でその報を知る。

 その時初めて、私のこの苛立ちは消えることだろう。


「さあ、早く縛り上げろ」


 ギルド長の指示に従い、冒険者達がガイウスに縄をかけようとしたその時。


『騙されるなガイウス!』


 一匹の犬が。

 いや、犬のような小さな人影が、草むらから躍り出てきたのであった。


「レイングラス!出てきてはいかん!話はもうついた!」

『嘘をついてやがるんだよ!どうあってもそいつは俺達を殺す気だ!俺達コボルドには、そういうのがよーく分かるんだ。魂の匂いでな!』


 咄嗟に立ち上がり振り返っていたガイウスが、ワイアットへ向き直る。


「ははは、魂の匂いですか。ベルダラス卿、【大森林】の犬は面白い戯言を抜かしますな。さあ、もう一度跪いて下さい。部下達が縛るのに難儀しますので」

『馬鹿野郎!俺を信じろガイウス!それにもし、そいつが約束を守るとしてもだ!』


 レイングラスと呼ばれたコボルドが、ワイアットの言を遮るように、続けて叫ぶ。


『お前一人だけ犠牲にしたんじゃあなぁ!俺は星空でフォグに合わせる顔が、ねえんだよぉぉ!』


 ワイアットはその時、ガイウスの横顔に小さく微笑みが浮かんだのを、見た。


「……ああそうか。そうであったか。すまんな。それは、良くないな」


 言い終えたガイウスは両の腕をゆっくりと広げ、自分を取り囲む者達を押しのけると。

 先程までとは違う決意を秘めた瞳で、ワイアットを見据えたのである。


「ワイアット殿。貴殿が信用に足らぬ男であることを、私は失念していた。部下にさせた所業を見れば、容易に判断出来たはずなのにな」

「どういうことですかな?ベルダラス卿」


 ガイウスの言葉が理解出来ぬまま、ワイアットは剣を抜く。擦過音と共に現れた魔剣【ソードイーター】の刃に、薄い七色の光沢が浮かんだ。

 また、ギルド長が戦闘態勢に入ったことで、背後に並ぶ冒険者達も一斉に武器を構え直すのであった。


「最後にもう一度だけ尋ねる。ワイアット殿、このまま兵を引いてはくれぬか」

「断る!」


 もう、交渉の余地は無い。


「残念だ。様々な意味で、な」

「こちらこそ残念だ。ガイウス=ベルダラスよ」


 そして二人は大きく息を吸い込むと。

 意図せずして、同時に声を発したのである。


「「かかれ!」」

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