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バードヘヴン  作者: 木柚 智弥
それぞれの空へ
22/23

夢の終わり

 やがて一週間が経ち、女性にはほぼ問題がなくなった頃に、僕はようやく綾瀬を呼んだ。

「あなたのお陰です、綾瀬。本当にありがとう」

 ベテランの女性看護師に拓巳を見ていてもらい、病室のそばの談話スペースで綾瀬を待ち受けた僕は、久しぶりに会う彼女に感謝を伝えた。

「そんな……もっと早くに、見つけられていれば……」

 拓巳の、未だ精神を病んだままの容態を、つい先日知らされたばかりの綾瀬は、切なそうに胸に抱いた花束に顔を伏せた。

「何を言うんですか。あなたが居場所を突き止めてくれたから、ぎりぎりで間に合ったんですよ。その情報がなければ、あれ以上早くは井ノ上家のツテを使ってもできなかったと叔母も言っていました」

 急ぐあまり不自然に思われ、あげくに移動されてしまったら一からやり直しなのだ。そうなれば拓巳の精神は破壊されていただろう。

「あなたは普段、あの店にはかかわらない。なのに……辛い思いをさせてすみませんでした」

「そんなことはいいの。拓巳の役に立ったとあなたに言ってもらえるなら」

 僕は肩に手を添えると綾瀬を促した。

「さあ。もうすぐ正式に僕のもとで暮らす子に改めて会ってあげてください。拓巳の心は小さな子どもに戻っている。だから僕たちで慈しんで育て直しましょう」

 拓巳のために黒を避け、白地に黒と金を散らしたツーピースで来てくれた綾瀬が、僕の言葉にはにかんだような笑みをこぼした。

 ああ、パーティーで見た表向きの微笑みより、ずっと綺麗だ――。

 じんわりと胸が温かくなるのを感じながら病室のドアを開け、僕は声をかけた。

「拓巳。お客さんだよ。僕の大事な人だよ。この人が、君が会いたがった〈先生〉なんだよ」

 付き添う女性看護師に会釈をしながら、ベッドに身を起こした拓巳に綾瀬を紹介したその時。

「あっ……ああっ」

 こちらを見た拓巳の肩が大きく震えた。

 目の前で極限まで見開かれていく、恐怖にひきつった薄い色の瞳――。

「わああっっ!」

 ベッドの上で、拓巳がもがいて逃げようとしている!

「拓巳。どうしたんだ、拓巳!」

 綾瀬が足を止め、僕は拓巳に駆け寄った。

「ああっ! うわあぁ――っ!」

 絶叫が止まらない。ベッドに乗り上げた僕の手まで、拓巳は振り払った。

「拓巳っ」

 思わず両肩をつかむと、彼は僕の顔を見た。その目が苦悩と混乱に支配されている。

 ――綾瀬を見て、楡坂の店を思い出しているんだ!

 大きく震え立つ拓巳を見た女性看護師は、驚きながらも声を上げた。

「真嶋さん! とにかくその女性を連れてここから離れてください!」

 駆け寄った女性看護師にすがる拓巳の姿に衝撃を受けながら、僕は固まって動けない綾瀬の手を取ると、ひとまずその場を離れた。


 その後、僕が単独で病室に戻ると、拓巳はいつもと変わらずに僕を受け入れた。けれども綾瀬はだめだった。

「拓巳が会いたがった人なんです。もう一度だけ」

 女性看護師に願い、少しだけ試してみたものの結果は同じだった。

「芳弘さん。私は帰るから、拓巳をよく見てあげて……」

 花束を置き、微笑んだ綾瀬の瞳には涙が光っていた。

「綾瀬っ」

 僕の上げた声に彼女は振り返ると、「明日の夕方、待っているわ」と言い残し、足早に立ち去っていった。


 そして今、綾瀬の宿泊するホテルに赴いた僕は、求められて綾瀬を抱き、微睡(まどろ)むベッドの上でその言葉を聞いた。

「天罰ね……」

「綾瀬」

 予感に震え、僕は綾瀬を抱きしめた。

「多くの人を踏みにじってきた、そのつけが回ってきたのよ」

 自分で招いたことよ、と彼女は腕の中で微笑んだ。僕は必死に否定した。

「そんな。だってあなたは拓巳のために……」

「バロンの所行を知りながら、見て見ぬふりをしてきた、その代償なのだわ。だからどうか気に病まないでね」

 綾瀬は僕を促して身を起こした。

「夢の時間は終わりよ。――さあ、帰ってあげて。拓巳のもとへ」

「綾瀬!」

 僕は座ったまま綾瀬を胸に抱きしめた。

「諦めるなんて早すぎる! 時間をかければきっと――」

「芳弘さん。私は、バロンとすぐには手を切れない。母と弟を守るために」

「綾瀬……っ!」

「いずれは堂々と自分の力だけで守ってみせる。けれどそのためには、まだ時間がかかるの。その私と、ずっと拓巳に隠れて会うの?」

「それは――」

「私はいいけれど、あなたは拓巳と暮らすのよ。前にもまして愛情を傾けなければならなくなったのに、そんなことを続けてもし気づかれてしまったら、拓巳をどれほど傷つけることかしら」

「………」

 それは、そうだ。何も言わなくても拓巳は〈先生〉の存在に気がついた。あの時よりも想いを深めているというのに、すっかり気配に敏感になってしまった拓巳をどうして誤魔化せようか。

「デザイナーの私ではなく、あのバロンの店にいた私を目に焼き付けてしまった――それは偶然ではなくて、今まで私が選んできたことの結果なの。ああいう形でしか愛する人に協力できなかった、私の生き方の問題。でもね」

 綾瀬の手が僕の胸を滑り、やがて頬を包んだ。

「私は与えられた環境の中で、精一杯やってきた。自分が守ると決めたもののために、全力で戦ってきた。そんな自分の選択を、恥じる気にはなれないの」

 切なそうに微笑みながらも、はっきりと言い切った綾瀬は例えようもなく美しかった。その気高く(いさぎよ)い姿勢こそ、僕の心を惹き付けた姿――。

 ああ、そうか……。

 僕はふいに理解した。

「……僕がこのまま駄々をこねて粘ると、あなたはあなたでなくなってしまうのですね」

「――そうね」

 拓巳のことを気にしながら、隠れて僕と会うことは、彼女の気高い心を損なっていくだろう。僕も、それを感じるたびに辛くなるだろう。

「三人とも、歪んでしまうのですね……」

 僕の美しい雉は、黒鳥によく似た別の黒い鳥に深く傷つけられてしまった。もはや黒鳥が川面に浮かぶだけで不安にかられ、それが何度も続くなら、やがて傷ついたまま縄張りを捨てるだろう。

 わかってしまったゆえに、答えは出てしまった。すると綾瀬はこう言った。

「私たちは一緒に家庭を築くよりも、それぞれが目標を目指すことでつながっていきましょう。そうしたら、道をひとつにできるわ」

 寄せられた唇に僕は自分のそれを重ねた。おそらくは最後になるだろう、僕に豊かさを教えてくれた綾瀬の口づけ――。

 しばらく交わしてからそっと離し、抱きしめて肩に顔を伏せると、耳にささやきが聞こえた。

「だから、これはお別れじゃないの。新しい絆を作るための門出なのよ――」


     ◇◇◇   


「そう。アヤセとそんな風に……」

 社長室のソファーセットに腰かけた黒部オーナーはため息をついた。

「よっちゃんはそれでいいの?」

 正面に座った僕は、少しだけ目をしばたたかせながら頷いた。

 あれから二週間が経ち、拓巳は今日の午後、退院する。けれどもまだまだ目は離せず、学校にもやれない。当分は自宅療養だ。その報告と今までの感謝、そして今後の相談のために、今日は黒部に午前中の時間を割いてもらったのだ。

「敦さんにはいろいろご心配おかけしました。ようやく、僕も踏ん切りがつきました」

 綾瀬と別れた日の夜、九時ぎりぎりに病室に戻ると、あの女性看護師が付き添って待っていた。

「ああ、よかった。拓巳君、ほら、お兄さんが戻って来ましたよ。もう大丈夫よ」

「………」

 ベッドに身を起こした拓巳はすでに少し震えだしていた。けれども僕の顔を見ると、ガラス玉のような双眸に僅かな光を浮かべ、腕を伸ばしてきた。

「拓巳……」

 ベッド脇に腰かけて、いつもどおり胸に抱き、背中の傷痕をよけながらゆっくりとなでると、拓巳は安心したように体を預けてきた。その幼子めいた仕草に、女性看護師が少し涙ぐみながら報告した。

「あなたの姿が見えない間、ずっと不安そうにしてました。でも、『九時までには帰ってくる』と言ったあなたの言葉を信じて、時計を見ながらじっとおとなしく待っていたんですよ。暴れたりせずに、検温も食事もちゃんと私たちの言うことを聞いてくれました」

 少しずつですけど、よくなっていますね――そう言って看護師は会釈して出ていった。

 腕の中の拓巳は、待つ間に緊張して疲れたのか、すでにうとうとしはじめていた。そういえばいつの間にか、睡眠導入剤を使うこともなくなっていた。

 ――この壊れそうな魂をけして見捨てずに守り切る。それができたら、挫折に苦しんだあの日々も、昇華されるかもしれない――

 そう、僕は春樹に誓ったのだ。今がその正念場であることを自覚しなければならない。

「だから、僕は僕の道を貫くことで、綾瀬の心に応えたいと思いました」

 拓巳を連れ、目標に向かって飛び立ち、上を目指す――その先に綾瀬がいる。

「次に綾瀬に会ったときには、対等の立場で新たな関係が築けるように頑張ろう。今は、そう考えています」

「そう……そうね。今のよっちゃんならきっとできるわ。聞いたわよ、高橋サンとのバトル」

 僕は首を横に振った。

「あれは僕だけの力じゃありません。みんなが協力してくれたからです。雅俊に祐司、陽子さん。そして何よりも恍星君の協力と証言は大きかった」

「そうなのよねえ。よっちゃんにシルバーったら、優しげな顔して一番容赦がないんだもの」

「そんなんじゃありません。特に恍星君は……」

 ――高橋要は親権を停止されたあとも拓巳を諦めず、代理人を立てて家庭裁判所に抗議し、解除を目指していた。そんな彼に対し、僕はかねてから進めていた作業を加速させて対抗した。すなわち高橋要の根幹である〈バードヘヴン〉の廃業だ。その実現にもっとも重要だったのが恍星の働きだったのだ。

「でも、あんなに抵抗していた高橋サンを二人で封じ込めたんでしょ?」

「それは、すべて彼の想いゆえにやりとげたことです」

 僕は高橋のもとへ赴いた日のことを思い出した。


「私は恍星が相談がある、というから訪問を許可したのだ。君を招いた覚えはない」

 未だ拓巳が入院中のさなか、付き添いを陽子に頼んだ僕は、恍星とともに関内(かんない)の高橋邸を訪れた。

「こうでもしないと、あなたと取り引きの話ができないと思いましたので」

 僕は渋々通された応接室の席に恍星と並んで座り、正面の高橋要と対峙した。

「取り引き? ああ、後見人のことか。断る。拓巳は私のものだ」

 高橋が口の端で(わら)うのを、僕は目力を込めて牽制した。

「以前はお願いでしたが今度は違います。――あなたの〈バードヘヴン〉と引き換えに、拓巳の親権を放棄してください」

 僕の言葉に、高橋は直線的な眉根を寄せ、鋭い目に怪訝そうな色を浮かべた。

「……何のことだ」

「これが、その根拠となる書類です」

 僕が一枚のコピー用紙をテーブルに差し出すと、高橋はそれに目を走らせ――つかみ取って小さく叫んだ。

「ばかな! 脱税容疑で強制捜査だとっ?」

 それは、大橋警視長を訪ねた時に渡した、僕の作業への答え。〈バードヘヴン〉の廃業――それこそが、僕の切り札。

 拓巳本人の証言以外の道で彼を解放できるかどうか、模索し続けた僕が見つけた手段だった。

「なぜ……どうやってこんなものを」

「あなたの店の運営実態を調べました。売り上げの詳細な記録と資産……すべて把握済みです。かなり、税務担当者の興味を引いたようですよ」

 それは、黒部オーナーに願って〈バードヘヴン〉に祐司を伴った時に仕掛けた罠だ。祐司が技を駆使して用意したたくさんの盗聴器を、フロアや洗面所に取りつけるのがあの日の目的だった。

 恍星と喫茶店で会った日から、彼に指示して進めていった細かい作業。そこで見つかった脱税の疑いに対し、祐司の盗聴器によって得られた会話をもとに、僕が実態を調べたことで出てきた架空の土地や違法な資産の数々。

「さらに、これを見つけました」

 一枚のメモ用紙を差し出すと、高橋の顔色が変わった。

「あなたと楡坂による、拓巳の身柄に関する覚え書きのコピーです。……まあ、楡坂の店も捜索を受けていますから、間もなく証拠は出るでしょうが、これがあれば、あなたは楡坂が一方的にやった、とはもう言えませんよね」

「………」

「拓巳を一ヶ月貸し出すことに対し、報酬は五百万とする――あなたの直筆で書いてあります。これを警察に渡せば、あなたは当分、外には出て来られなくなる」

 内心の憤りを圧し殺して告げると、高橋は苦い表情で恍星に目を向けた。

「おまえが見つけたのか、恍星」

 恍星は緊張に震えながらもはっきりと答えた。

「はい。ビルにあるオーナーのお部屋を掃除したときに」

 彼は他にも数多くの証拠を僕の携帯に納めてくれた。

「……なのに、どの面を下げて今日ここへ来たのだ」

 その声音に恍星の背が揺れた。

「高橋さん。恍星君を恨むのはお門違いです。彼は今日、〈バードヘヴン〉存続のためにここにいるんですよ」

「――なに?」

「私自身はあんな店、今すぐにでも警官に踏み込ませて廃業にしてやりたい。楡坂の店のように」

 僕の声に怒りが混じり、高橋の紙を持つ手が揺れた。

「そしてあなたは、脱税容疑と売春強要の罪で刑務所に送ってやりたい」

 僕は手に持っていたファイルを軽く掲げた。

「ここに、プラチナシステムの詳細な記録があります。拓巳の証言をもとに、雅俊と恍星が補ってくれたのでほぼ完璧です。あなたは間もなく逮捕され、事情聴取を受ける」

 高橋の目がファイルを睨んだ。

「他にも、売春強要に対する数々の証言を彼らが集めてくれました。そして恍星君は、このファイルを作ることと引き替えに、脱税の強制捜査だけは待ってほしい、と言いました」

「――!」

 高橋が驚いた顔を恍星に向けた。恍星はそんな高橋を切なそうに見上げた。

 ――だんだん明るみに出てくる違法行為に恍星は苦悩した。ホストクラブとしての〈バードヘヴン〉を、それを作り上げた高橋を敬愛していたからだ。

「拓巳を救いたい――確かに、それが彼の動機ではありました。でも、〈バードヘヴン〉を健全な姿に戻したい、プラチナシステムをやめ、おかしくなっていくあなたから拓巳を切り離したい……それもまた、大きな理由だったんです」

 だから、拓巳を助けた僕を訪ねてきたのだ。そして協力した。

「………」

「その恍星君に免じて、私は一度だけあなたにチャンスをあげようと思います」

 僕はファイルから、一枚の紙を取り出してテーブルに置いた。

「親権の放棄を希望する書類です。そこにサインしてください」

 高橋はテーブルを睨みつけたまま動かなかった。

「別に私はそんなものなくても構いません。いずれ罪は明らかになる。そうしたら、それはあなたの手から裁判所に移る。私は待てばいいだけです」

 すると高橋が口を開いた。

「だが、私がその気になって抵抗すれば、許可が下りるのに時間がかるぞ」

「そうでしょうか。〈バードヘヴン〉の脱税容疑は深刻です。あなたは店を守るために全力を尽くさざるを得ない。拓巳と〈バードヘヴン〉、あなたにとってどちらがより大切か常々見せていただいているので、私にはあなたがどうするのか簡単に想像がつきますよ」

 僕は立ち上がった。

「強制捜査の捜査令状はまだ発行されていません。今から二十四時間以内に税金の差額を納めれば、捜査は一時的に猶予されるそうです。そちらの書類は、午後七時までに恍星君に届けさせてください。私は代わりにそのメモ書きの本体を彼に渡します。拓巳への虐待がひとつ言い逃れできるかも知れませんね」

 僕はなおも睨みつけてくる高橋に目を合わせ、そして恍星を向いた。それを受け、恍星が立ち上がった。

「恍星君。あとはこの人をどう説得するかだ。僕はこれ以上の譲歩はしないよ」

「はい。本当にありがとうございます」

 恍星はそう言って深々と頭を下げたのだった――。


「その日の夕方、恍星君は書類とともに僕のところに来ました。それで後見人の手続きが早く済んだんです」

「そうだったの。シルバーったら……」

 黒部オーナーはしばし言葉が出ないようだった。

「でも、高橋は恍星君を許さないような気がします。だから彼には別の道を進めました」

「ええっ? そんなぁ」

「彼はピアニストになるんです。活躍する姿を見たいと思いませんか?」

 学校の音楽会で雅俊と同点一位だった恍星には、未だに熱心な弟子入りの声がかかっているのだという。

「まあ、そうね。心配しながら〈バードヘヴン〉に通うのもなんだかね。私もちょっと顔を出しづらいし」

 僕をあの店に連れていった結果が、脱税発覚につながったわけだから無理もない。僕は恐縮して頭を下げた。

「すみません」

「あら、いやあね。ホストクラブはまだたくさんあるわ。心配いらないのよ」

 黒部は手を振って立ち上がり、僕もそれに(なら)った。

「じゃあ、復帰は三日後からでいいのね? 当分は陽子のところに身を寄せるって聞いたけど……本当に拓巳くんは大丈夫なの?」

「はい。昼間はずいぶん安定したんですよ。祐司もいるし、雅俊も……」

 僕は笑ってしまった。

「なによ?」

「いえ。雅俊は祐司の部屋にあるオーディオセットに入り浸りなんですが、拓巳にせっせと曲を書いてまして。病室に持ってきては聴かせるんです。それに拓巳が素直な反応で」

 気に入ると口ずさみ、気に入らないと怒るのだ。

「すると、雅俊は気に入るまでしつこく作り直すんです。祐司が『俺よりストイックだ』と驚くやら、困るやら」

 退院して、みんなが井ノ上家に顔を揃えたらどうなるのか、想像すると少しコワい。

「だから僕も負けていられません。腕を磨かないと」

「わかったわ。頑張るのよ、よっちゃん。美しい恋の思い出は人を成長させるわ。私みたいにね」

 黒部のウインクに僕も笑った。

 確かに、ヘアスタイリスト〈アツシ〉誕生の根源はそこだ。

「はい。敦さんを見習って、僕もまた精進します」


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