【最終章】第八八話 最終話
銀河連合日本 The Next Era 最終話
【大いなる泰平】
西暦二〇二云年。もうそろそろ二〇三〇年も近くなろうかという頃。
二〇一云年に、かの柏木真人がティエルクマスカ銀河星間共和連合とはじめて接触し、ファーストコンタクターとなったあの時代から、既に十余年もの月日が経とうとしているこの時代。
地球というありふれた知的生命体の星が、『発達過程文明』という特殊な位置づけの文明と認識されて、天地ほどの科学技術の差がある文明と接触したその日から、この星……いや、最初はこの星の日本という、ちょっと宇宙レベルでも変わった民族が暮らす国家と接触して以降、地球規模でのパラダイムシフトが常態化し、それ以降、たった十年ちょっとで日本国を筆頭に、地球という国家の文明は大宇宙時代を迎える事になった。
人類は、人類自体がこの地球において『その種族の滅亡までに実現可能か?』と考えられていた超光速……どころか、超空間跳躍航行技術まで手に入れ、五〇〇〇万光年の距離を函館から博多まで船旅をするような日数でいけるようになった。
しかもそれだけではない。そこから惑星サルカスのような、別宇宙の世界まで足跡を伸ばし、更には精死病原因解明の過程で、マルチバース世界という量子力学の解答とまでいえる世界を垣間見た。
そんな次元世界を繋げる時空を超えた大いなるデバイス、【トーラル】
このデバイスを創造した正体不明の文明の探求もティ連科学の命題であったのだが、異星人が日本と接触したことで、奇しくもその正体を知る流れに因果は動いていくことになる。
起点は、数年前の惑星サルカスでの出来事。フェルフェリアの父母にまつわる話が発端であり、その時に会敵した、その後のこの世界の大いなる災厄となった『生体兵器ヂラール』との戦いが、ティ連世界の成り立ちや、ペルロード文明と関わりを持った世界との成り立ち、そして彼らが神とあがめた高次元世界の知的生命体【セルメニア時空体】との繋がりをもたらした。
一つの大きな物語は、様々な人々の意思をもって収束に向かい、一つの決着を見る。それはすべての因果の繋がりを収束させた調和の世界であったことが、結果的に理解できる結末となった。
そんな大いなる時代となった地球世界と、ティ連世界、その他の文明世界に生きた人々の、それからの話……
* *
創造機ネルドアカイアが創造機ザンドアと共に一つになって、月の付近に咲いた人工ワームホールから元いた衛星ザンドア聖殿に向かい、彼女がすべてを収拾させた後、国際連邦とティ連は、今事態の終息を宣言。歓喜のもとにすべての部隊は原隊に戻っていった。
ネルドアカイア・ザンドアとの戦闘の影響はティ連世界にも及び、月丘和輝達が事を収束させた影響は、即時に五〇〇〇万光年彼方で戦闘をしていたティ連各国にも波及して、急速に攻勢が弱体化したヂラール軍団の状況に、日本国へ事の次第の問い合わせが殺到する事となったわけである。
さて、ワームホールが消滅し、全部隊が原隊復帰してから三日後の日本国、情報省。
月丘は職場復帰後、この三日間は報告書の作成で超サービス残業。プリルも同じくで、月丘と省の事務所で缶詰状態になっていた。
というか今日本どころか、世界中、いや銀河連合国家中の機関が月丘やプリルの報告待ちで、今か今かとその書類にデータが提出されるのを待っている状況であった。
そんな書類作成の合間の時間を利用して月丘は、かの人物から、セルメニア時空体、即ち『高次元人シグマ』に言われたある課題を、とある人物に訪ねていた。これもその人物の回答次第では報告書に載せなければならない題材である。
ということで、ヤルバーン区内にある帝都ホテルの喫茶兼ロビーで待ち合わせをするは、タウラセン人のジーヴェルこと、遥永光志であった。
現在国連では、あの戦いの事を、『地球圏戦争』と公式に呼称している。非公式では、『ヂラール戦争』や、『時空戦争』とも言われ、ティ連本部では『セルメニア大戦』などとも呼ばれている。連合日本内の呼称は、国連に合わせて地球圏戦争で統一している。
で、その遥永だが、地球圏戦争が終わった後もタウラセンの上司、つまりヴェルターの命で、このまま継続して情報省へ出向扱いで働くことになった。
遥永はこれで日本が気に入ったのか、その命令をホイホイと承諾し、都内にマンションも買ったそうな。
まあこうなったのも此度の地球圏戦争、またはセルメニア大戦でティ連とタウラセン連合体が急速に接近し、友好条約と安全保障条約を結ぶことになったのにも要因がある。
そういうのもあって、同盟政策の一環としてタウラセンも此度の戦争で一番重要な観察空間宙域となった地球圏に職員を派遣する意味も含めて、遥永が現状維持の形で、情報省への出向状態を継続することになったわけである。
「やあ、月丘さん。お疲れ様です」
と毎度のジーンズ系ファッションでキメてくる遥永。
「どうも遥永さん、非番の日にすみません」
「なにを仰るやら。月丘さんは、高次元世界に行った件も含めて報告書作成大変なんでしょ? 休暇もらってる僕の方が申し訳ないですよ。お手伝いできることがあるならなんでも言ってください、お付き合いしますから」
「どうも申し訳ないです、はは」
とそんな感じでウェイターを呼んで月丘はホットコーヒーを頼み、遥永はコーラフロートなんぞを頼んでいる。
「これおいしいですよね~」と、地球世界のグルメも色々満喫しているようだ。
で、少々雑談なんぞをして本題へ。
「……で、ですね、遥永さん。私がセルメニア、つまり高次元世界でセルメニア時空体という方に色々お話を伺ったのですけど、そこで彼らから教えてもらったのは、貴方がたタウラセン人の人々も、高次元世界由来の生命体ではないかとセルメニアさんが仰ってて、直に聞いてみろって話で、まあ今回無理じゃなければ色々そこのあたりお話を聞かせてもらいたいのですけど……いいですか?」
と、ちょっと探るような口調で月丘は話すと、
「ああなるほど、そんな事ですか。ええ、いいですよ。っていうよりも、ティ連と友好条約結んだんですから、普通に情報として出てくると思いますけどね。僕達の星との行き来も今後はあるんでしょうし」
と、特に問題ないという。まあ今まではティ連と国交なかったのだから、よくよく考えたらまあそんなもんかなと月丘も思うわけで。
「で、その高次元世界由来の話ですけど、どうなのです?」
「はい、といっても実のところ僕達の歴史でも、まあそういう歴史の伝承の話は古すぎて、今やもう伝説とかそんなレベルの話になってて、科学的に検証された話と、そんな伝説がゴッチャになってるんで、きちんとした科学的根拠のある話は、今後は政府間でいろいろやるんでしょうから学者さん連中に資料をもらっていただくとして、そんなちょいと物語じみた感じの話になってしまっても良ければお話しますけど、いいですか?」
「ええ、お願いします」
ということで遥永が話すタウラセン人の事。つまり歴史だが、なんと! 話を聞いたら彼らの超人的な能力、というか、機械科学的働きを体に融合させているような能力の意味がわかるすごい事実が判明したのであった。
「僕達の祖先っていうのは、三次元世界に降りてきて三次元世界の知的生命体と同化してこの世界で『人』として過ごし、普通ならある程度の期間で高次元世界に帰還する、というのが使命の、『高次元生命体に同化された人達』だったそうなんですが……」
なるほど、シグマが言っていた事と同じである。
シグマからもらったPVMCGパーツには、高次元人の資料も幾ばくかついていたそうで、その資料には、高次元人が降りてきて三次元人と同化する時、その同化先の生命を乗っ取るわけではなく、無意識下で共存をするそうなのである。
つまり同化先の知的生命体と人格や記憶も含めて融合するんだそうな。
そして通常はその同化融合が安定したときに、ザンドアのような高度自律時空演算システムを用いて高次元世界からアクセスがあって、それに誘われて帰還するのが普通なのだそうだが……
「僕達タウラセンの始祖は、その使命に従わず、三次元世界の人と高次元存在が安定同化した状態で、三次元世界に残ることを選択した人々なのだそうです」
つまり知識と三次元世界で使える一部能力だけは超人化している存在のタウラセン人の始祖は、その高次元世界の科学知識を活用して自らや子孫達を宇宙の過酷な環境から守るために、バイオ、機械工学などの科学知識の粋を凝らした改造人間となり、また自らの子孫達へもそれらを施して進化してきた生命体なのだという。
ちなみにカルダシェフスケール的には3.8ぐらいのレベルの文明人だそうだ。
その話をポカンとした表情で聞く月丘。
「……て、え? どうしました? 月丘さん」
「え!? あ、いやいや、なるほどすごいですね。それで合点がいきました……で、その高次元人というのは、私がお会いしたセルメニア時空体の方々なのですか?」
「そこはよくわかりません。とにかくもう地球で言うところの数百万年以上前の話で、もう伝説と科学検証がゴッチャになっている話ですので。でも、月丘さんの報告書を途中まで拝見しましたけど、恐らくセルメニア時空体とは違う存在なんじゃないかなとは思いますね。だってもしセルメニアさん達なら僕のご先祖の歴史ぐらい知ってるでしょうし」
まあそりゃ確かにそうだなと月丘も思う。
「確かに。しかし生物固有の単位で、いくら人工進化したとはいえ、あの巨大な体躯に今の遥永さんのスタイルでしょ? で、こっちが手も足も出なかったあのザンドアさんともなんとか渡り合えるって、なるほどそう考えれば高次元由来のご先祖だと言われれば納得もしますよ……ではティ連のトーラルシステムを警戒していたのも、トーラルシステムが高次元由来のデバイスだと疑ってたからですか」
「まさにその通りです。故に私達の祖先と同じくで、僕達タウラセンは、あのシステムは高次元人がこの三次元世界で使用するためのデバイスと思っていたので、そうではない対象のティ連人が無造作に扱って大変な事にならないか警戒していたのですが、まさか知的生命体への進化を促してセルメニア時空体の同化政策と存在維持を目的としたものだったとは……」
つまり月丘は、PVMCGに残されたセルメニアの知識を借りて言うなら、セルメニア時空体の高次元人は種の維持のために、今でも人知れずに誰かに同化して、潜在意識で一つとなり、人知れずセルメニア時空体に帰還しているようなライフサイクルを行っているのである。そこに地球人も同化対象になっているのかどうかはネルドアのいなくなった今となってはわからないが、スタインベックが今のところ認知できる地球人で最初の人物となったのは月丘の知るところである。ただ、同化はしていないイレギュラーではあるが。
で、ティ連はセルメニア時空体の存在とその真意を知った後、この同化行為について、特に対抗策もとらなかった。
現状のティ連国民に害を与えず、無意識で人知れず行われるのであれば、彼らの種の維持へ協力する意味も含めて黙認することにしようと現在はなっている。というか、そもそもこちらから認知も感知もできない所業を気にしても仕方ないからだ。できれば言葉で交流し、条約のようなものを締結できれば一番いいわけで、なんとか彼らとのコンタクトをとれないかと現在日本のヤル研も含めて、ティ連世界で研究中だ。
「なるほど、ご協力ありがとうございました遥永さん。これ、報告しますけど、問題ないですよね?」
「ええ、どうぞどうぞ」
と、とりあえず聞き取りも終わろうかと言う時、手を振ってやってくる女性。
『カズキサ~ン、あ、ケラー・ジーヴェル、じゃなかった、ケラー・ハルナガも!』
『プリちゃん、そっちの仕事は終わった?』
『うん! やっとっだよぉ。今、シラキはんちょにデータ提出してきたとこ。カズキサンのも渡しといたから』
「ありがとね。んじゃ、遥永さんの聞き取りは明日まとめて提出するとして……遥永さん、やっとこれでヒマとれたんで、これから一杯いきましょうよ」
ま、そういうことでプリ子もここで待ち合わせしてたというわけで、
「え? 一杯? なんですかそれ」
「お酒ってわかります?」
「ええ! 知ってます知ってます。このあいだ、コンビニというところで、“ちゅーはい”とかいう飲み物を飲んで、おいしいなぁとおもったのですけど、あれのことですよね」
「そうそう。そいうことで、食事も兼ねて今から行きましょう」
『行こう行こう♡』
ということで、あの戦いの後の三日後、いや四日後か? で、やっと普通の日常にありつける月丘とプリルであった。
* *
~東京都永田町首相官邸・地球圏戦争から1週間後~
「……ということです。月丘君からの報告書を読みましたが、かな~りトンデモないことが書いてますんで、まあ我が国はともかくとして、国連のほうが騒然となってしまって、まあ特定のお国に至っては革命でも起きるんじゃないかとか、そんな勢いですよ……いやはや」
総理大臣執務室で柏木内閣総理大臣はとある人物を官邸に招待して会談中であった。
「その点は、ウチの外務でも把握していますよ総理。特に中東の方で、政教分離か教義主義かみたいなところで、若者と政府が衝突してるところが多いですね」
と一人は、情報省大臣の二藤部新蔵。で、もう一人は、
「こっちもよ、各国に潜入してるスールさんの情報網で、特に今まで教義イコール法でやってたところは、ちょっと反政府的な運動に抑えが効かなくなって、内戦化しそうなところが結構出てきてるな。特にイの字の国とかよ。」
とこちらは引退とかいいながら、なんか余計に最近いそがしくなったとボヤく御年八〇過ぎのまだまだ元気な『 財団法人三島・ティ連研究会理事長』の三島太郎御大。
「三島先生のスールさんの情報網ですかぁ……ということは、ゼスタールさんって、中東系の人種に化けて、何か積極的に活動してるんですか?」
「まあな。というかおいらが個人的に頼んでるんだけどよ。まあ、ハイクァーンやゼルナントカとかいう技術が日本では普通に使える世の中になったからって、まだまだ石油や天然ガスが相場を動かすのが、地球社会だ。完全なティ連型社会になるなんてのは、随分先の話だろうぜ」
……あれから月丘のまとめた報告書は、白木や新見のチェックを経て政府に提出され、その後条約により、国際連邦へも提出された。
白木や新見は、月丘が率直に体験してきたこと、即ち映像資料、音声資料、ゼル造成立体資料もつけて提出された報告書を政府や国連に提出する際、まったくの制限なしでそのまま提出した。もちろん省の親分である二藤部と内閣トップである柏木の許可をもらっての話だが、これはもう今後の地球世界と、今やマルチバース世界にも手が届く地球の現況を考えた場合、既存の政治体制や宗教などの概念が破壊されるような混乱を招いても、考え方を変えなければ先の時代へ進まないと判断したため、強硬策に打って出たのである。
つまりヂラールとの戦闘と、その経緯よりも、その経緯発生の更に根本原因となった『高次元生命体』の存在確定と、その影響である。所謂、宗教という概念を重要視する国やその界隈の世界では、その理解をどう位置づけるかという内部論争が続き、未だに結論が出ていない。
特に宗派対立がすさまじい、かの一神教の世界圏にいたっては、確実に政教分離勢力が大きく台頭し、かつての『アラブの春』などというもの以上の民主化運動と、世俗主義運動が活発になっているのであった。それはキリスト系宗教も同様である。
他方、仏教やヒンズー教のような多神教系宗教ではあまり大きな動きはない。
当然、宗教の概念がモラルとエートスとして民族的に人々の生活と一体化し、馴染んでいる神道社会の日本も同じようなもので、セルメニアの存在が人智を超えている存在であるのは理解できるんだけども……今の銀河連合となった日本では、まあ国民は『スゲー人達』ぐらいの認識で終わってて、もうティ連文明が普通である日本において、あまりそこまで深刻な状況ではない社会になっているのが幸いなのかどうかわからないが、まあそんなところなのである。
「……なんでも、ヤハウエが実は高次元人だったとか、キリストやムハンマドが、高次元人に同化された地球人だったとかですね、月丘レポートが公開された途端、そんなのばっかりですよ。まあ偶然にも宗教教義のシチュエーション的には確かにそんな話もピッタリ当てはまるから困った事なのですが」
というと、二藤部が顔をしかめて、
「そうですよね、結局そういう理屈が、また何か新しい概念を生み出して、思想とも宗教ともつかない身勝手なイデオロギーがテロを生みます」
「そうですね二藤部先生。全く度し難いですが、今回の結果をきちんと実際にあることとして普通にわからせるというのがどれだけ難しいか……まあその難しいのを我々人類は何千年もやってきてるんですから、今更って言ってしまえばそれで終わりなんですけど、はは」
二藤部に三島、柏木三人は、なんともはやだと乾いた笑いである。
「ところで先生、じゃなかった、総理。嫁さんはどうしたい」
「ああ、フェルなら今、ゼスタールの大使館へ行って、少し込みいった話をしてもらってます」
「込み入った話?」
「はい……実は今回の件で月丘君がレポートに書かなかった、番外編がありましてね」
と柏木が言うと、二藤部に三島は顔を見合わせて、なんだそりゃと問う。
「スールのゼスタールさんの件なのですが、これも結構外に漏れたらめんどくさくなりそうな話で、ティ連関係のトップで止めてもらってる話なのですが……
* *
~月面・ゼスタール共和合議連邦大使館(旧ゼスタール合議体大使館)~
月面のゼスタール大使館。ここは国際連邦加盟国が毎度お世話になっている、今や地球圏最大級の工業プラントともいえるゼスタール連邦の基地である。とはいえ、まだネイティブのゼスタールさん方は日本や地球とはまださほど関係は深くないので、ここは今でもスール系のゼスさんがたくさん居留している、国際連邦からも領有権が認められている大使館も兼ねた基地であった。
ゼスタールの大使館といえば日本にもあるが、あの場所はシビアとネメアの家も兼用で、出張所のようなものなので、本元はこの月の方である。
ということで、今この月のゼスタール大使館に赴いているのは……
『ドモ、コンニチハです、ファーダ・ゲルナー・バント、ファーダ、アルド・レムラー』
ファーダとは、もうご存知、イゼイラ語で『閣下』という意味。つまり二人のお偉いさんと会談するは、連合日本国副総理大臣、フェルさんであった。
本日はヤルバーンタワー突端部の宇宙港からフェルが直々にヴァズラーに乗って、月のゼスタール基地まで赴いていた。
改めて紹介すると、ゲルナー・バントは、シビアやネメアの上司にあたる月基地の司令部合議体の一人であり、アルド・レムラーは、スール・ゼスタールのトップで、現在のゼスタール連邦副議長の座につくナンバー2なお方である。
『よく来た、フェルフェリア副総理。重畳である』と、未だにお堅いイメージのゲルナー司令に、
『久しぶりだな、フェルフェリア副総理。ゼスタール連邦成立の時に、条約の調印で会った時以来か』
と、なんかコワモテ感があるが、彼もネイティブとの付き合いが多くなったのか、随分話し方が丸くなった感があるレムラー。
『ウフフ、そうですね、ファーダ・レムラーとはお久しぶりになりますか』
『カシワギ生体、いや、カシワギ総理とは良い関係でやっているか?』
『ハイです。といっても最近はお互い忙しくて、前みたいに二人で一緒にお仕事トいうわけにはナカナカイカないのがちょっとサビシイですけどね、ウフフ』
なんて、今までならそんな話題さえなかったスールサン達からも、今やこんな会話が拾えるのである。
……ということで、そんな雑談……雑談がスールさんとできるのがそもそもすごいのだが……まあそういうのも程々に本題へ。
『ところで、話ではツキオカ生体が提出したレポートの件で、重要な話があるということだが』
とレムラー統合合議体閣下は話す。事前に月丘レポートの話はしてあるらしいのだが、お二人とは少々込み入った話ということで、ゲルナー月基地司令が、
『事前にカシワギ総理大臣から、我々上層合議体だけに話を通しておきたいと聞いている。従って今回はシビア・ルーラ、ネメア・ハモル両独立合議体には知らせていないが、これで良かったのか?』
『ハイですね。まあ……内容をお聞きしてもらってから、貴国の判断におまかせするしかない内容なワケでございましてデスね』
ということで、『では聞こうか』という事で、ゼスタールでのポピュラーな清涼飲料水を造成して会談するわけだが、その内容は、スール・ゼスタールとは何かというあの内容である。
フェルも月丘レポートをしっかり熟読して今回の会談に臨んでいる。もちろん月丘とのワンツーマンのレクチャーも受けていた。言うなれば月丘もノンキャリアではあるけど官僚職は官僚職なので、フェルのような閣僚にレクチャーするのも仕事のうちである。
ちなみに月丘は国家公務員試験Ⅰ種に合格していないが、その出自と功績からキャリアと同格の扱いを受けている。そもそも情報省という役所が連合日本を裏で指揮監督する安保調査委員会のある組織でもあるし、そういう点で今までの日本の役所と違うので、日本基準のキャリア、ノンキャリなんかはあまり関係ないのである。
それはともかく……フェルはレムラーとゲルナーにその内容を話す。
つまり、スール・ゼスタールという存在が、ゼスタールの所有する、八〇〇年前当時、不完全な状態で稼働させたトーラルシステムである『レ・ゼスタ』が、当時持っていたできる限りの処理能力でゼスタール人の救済処理を行った姿であると。
そして、レ・ゼスタが出した結論は、高次元人セルメニア時空体世界を三次元世界で模したような存在に、ゼスタール人を変換することであったと。即ち、セルメニアを模した姿にゼスタール人を変換したのである。更に、三次元世界で高次元世界のような環境が必要であったために、彼らのスール化された精神体の在る所、【ナーシャ・エンデ】のような環境を創造したのであると……つまるところ、ゼスタール人の精神と姿を持った、新しい種になってしまった存在であるということを、フェルは話した。
これが公式の月丘レポートにも、流石に書けなかった内容だと。
『……』
その内容を聞いたレムラーとゲルナーは、いつものスール的な淡白な表情から覗うことのできない、驚きと見てわかる表情をして、スールさんお二人、顔を見合わせていた。
『ゲルナー・バント・カルバレータ。合議体共有機能は切っているな』
『肯定……我々、いや、私もこの内容は拙速に合議体共有するのはどうかと思った』
頷くアルド・レムラー統制合議体、というか、アルド・レムラー個人。
『重ねて尋ねるが、その話は誠に本当のことなのだな、フェルフェリア副総理』
『ハイですね。トいうか、私もその話を最初聞かされた時、レ・ゼスタサンに対して、良くやったデスね! と褒めてあげたかったぐらいですもんネ……恐らく当時、ミナサンをヂラールの病から守るために、不完全な状態ながら必死で計算して実行した結果だと思うデスよ。しかも幸いなことだったのでしょうね、その不具合で壊れたデータプロテクトのおかげで、セルメニア時空体のデータにアクセスすることができた。それを利用した判断力も良かったのでしょウ。ホント、レ・ゼスタサンを褒めてあげないト』
頷いて聞くゼスタール高官二人。
だが過去の話を思い出して実際の話をすれば、当時は種の保存を目指して、コールドスリープ的な逃避行を目指したわけで、気がついたら情緒もなんにもないデジタル的でもあり、精神的でもあるような妙な存在にされて、見事に『計画失敗』と思ったこともあったが、
『……本当のところは最高の形で我々は生かされていたわけか……』と口にするレムラーに、
『肯定だな、レムラー・カルバレータ。真実と、事実を聞かされると、納得するしかない。だが……この情報をすべてのスールや、ネイティブ化した同胞に知らせるのもどうかとも思う。合議体全体に大混乱を引き起こす可能性も大きい』
とゲルナー司令も、スール・ゼスタール始まって以来の重要情報だと危惧するが、レムラー統制合議体の考えはもう決まっているようで、
『やはり、今はゼスタール共和合議連邦として歩みだしたばかりの状態で、このような、受け取り方によっては神代の代物と誤解されかねない情報は……まだ伏せて置くべきだろうな』
『同意。事はもっと落ち着いてからでも良いだろう。で、今回の功労者である、シビアとネメア両特別合議体には教えるか?』
『いや、両合議体、いや、“彼女”らも、今後はどう言う形で、ティ連やニホンで生活していくかわからない身だ。現状その存在が特に不安定でないのであれば、あの若い二人には、まだ伏せておいても良いだろう……フェルフェリア副総理、そういう事をツキオカ生体とも申し合わせておいてはもらえないだろうか』
スールさんにしてはあまりしない挙動、『頭を垂れる』という仕草をする二人のスール・ゼスタール高官。そこまでの行為をされるのであれば、日本国副総理大臣のフェルも、その意向に沿って差し上げるのが、友好国としての大事であろうと、そう思うわけである。
* *
~ヤルバーンタワー宇宙港 八日後~
「では、くれぐれも気をつけて行ってくださいね」と月丘
『どのぐらいの期間、休暇申請出したの?』と尋ねるはプリル。
『私個人で言えば、チキュウ時間で約二ヶ月だ』
と答えるはシビア・ルーラ。
『私も同じだな。自衛隊という組織としては異例だが、私はそもそも出向の身だ。今回オオミ生体が休暇ではなく出張という形で処理をしてくれた』
と答えるは、ネメア・ハモル。
と、なんでこの二人を宇宙港で見送る形になって、その見送りに月丘とプリルが来ているかと言うと、まずは今回、色々あったゴタゴタが片付いて、所謂、世の中落ち着いてきたので、シビアが八〇〇年ぶりに一度プライベートで故郷へ戻って自分の足跡を見つめ直したいと言ってきたのである。
まあそれはそうだろう、悲願の母星奪還を完了し、ティ連の協力で復興も目覚ましく、ヂラール災害以前の形にゼスタールも戻ってきているわけである。
シビアは地球人で言えば一六歳~一八歳ぐらいの年齢でスール化してしまったわけであり、その郷愁もここにきて感情として表にもでてきたわけで、親の墓参りもというところもあったわけである。
ネメアもそれに付き合って、相棒として一緒に帰郷ということに相成った。
まあ実質休暇なので、二ヶ月後には戻って来るので、別に別離というわけではないが、友人のお見送りもかねて月丘とプリルもやってきているという次第。
で、実はこの二人の休暇を利用させてもらう形で、日本政府からも二人は仕事を仰せつかっており、ゼスタールに日本大使館を作る準備も進めに行くわけである。
場所や、従業員の確保などなど、そんな仕事もするために派遣されるということもあるので、二ヶ月もの期間をとれたという背景も在る。
「まあ、ネメアさんは特危の方ですけど、シビアさんは私と同様シャドウチームですからね、あなたが二ヶ月抜けるのはちょっと痛いのでお早く用事をすませてくださいね」
と言ってやるのが、こういう時のビジネスマナー。ここで「ごゆっくり」なんていうと、間接的に「別に帰ってこなくていいよ」と言ってるのと同じように状況次第では受け取られてしまうので注意が必要。でもこの二人はよくやってくれてるので、内心は「ごゆっくり」というのは月丘の本音。
『ところでツキオカ生体』
「はい、なんでしょ」
『このような状況と、場所で尋ねるのも何なのだが、お前が高次元世界に行っていた事で、一つ訪ねたいことがある』
「と、言いますと?」
『お前の提出したレポートを見たが、トーラルシステムが如何様なものかが詳細に書かれていた。そこはよく理解できたが、セルメニアや、レミ・セルメニアという性質のものを比較した際、我々スール化された存在がどのような位置づけになるのか、レポートには書かれていなかった。それに以前、お前から“セルメニア・エミュレーション”なる言葉も聞いた。この点に関する内容があまり詳細には記載されていないようだったが、どういうことだ?』
と月丘に尋ねる。ネメアも
『それは確かに私も読了後思うところだった、その点になにかあれば回答を求める』
月丘は(ありゃ、さすがですねぇ、ちゃんと覚えてらっしゃる……)と内心思った。これで文章の校正屋さんでもやれば、凄腕の校正さんになれるぞと。
でもまあそのあたりは先の『フェル・レムラー・ゲルナー会談』で決まったことなので、
「そうですね。その点は実は私も尋ねて見たのですが、特段言及はなかったですよ。セルメニア・エミュレーションという言葉も、セルメニアさんからいただいたPVMCGの資料を見直しましたけど、あなた方とは特段関係のないものでした」
と答える。プリルもこの点は知らないので、『ふーん、そうなんだぁ』と普通に相槌を打っている。
シビアとネメアは月丘の目をじっと見る……つまりスール能力で表情を分析して、フカシこいてるんじゃないだろうなとか、分析するわけだが、もちろんシビアやネメアには一発で月丘がウソついてるなんてのは見破られるわけだが、
『そうか、了解した。また何かわかったら教えてほしい』
と二人に言われる。そこは以心伝心だ。すなわち上から話すなと言われているぐらいは理解しているわけである。月丘も表情で「すみません」な雰囲気の顔をすると、シビアにネメアも、少し微笑んで、
『では、そろそろ時間だ。行ってくる』
『また二ヶ月後だな。土産は何が良いか進言せよ』
なんて言いながら、握手をして手を振り、シビアとネメアは旅客船に乗り込んでいった。
で、どういうルートでゼスタールに行くかと言うと、一旦旅客船で亜惑星要塞レグノスまで行って、そこから復興協力用にチャーターされているイゼイラ軍の軍艦に乗ってゼスタールまで時空をゲートで飛ぶそうである。
ハワイ沖の直通ゲートを使えばいいではないかという話もあるが、あれの管轄は現在国際連邦の米国とサマルカの共同管轄で、まがりなりにも軍事基地なので、お手軽に休暇で旅行気分では使えないという事情があるのだ。
「(やっぱりわかってるみたいですね……教えて差し上げたいですが、まあお上のお達しですから仕方ないですか)」
と、月丘も内心はそんなふうに思うわけである。
* *
ということで月日は更に五日ほど経ち、今度は新たな発見、というか報告が月丘達にもたらされた。これは現在米国に住んでいるセルカッツ・1070からの報告で、急遽、総諜対本部でVMC会談が行われることになった。
で、早速米国のサマルカ国連絡事務所の会議室につなげるわけだが、そこには意外な顔の人物も同席していたのだ。
「あ、これはスミス最上級専任曹長、お久しぶりです」
そう、かのUSSTCで有名な黒人のモーガン・スミス最上級先任曹長、所謂、マスターチーフ・スミス殿である。
幾度か説明したが、米軍においてこの階級はメチャクソ偉い階級で、階級の位こそ下士官だが、階級の順番でいえば、『陸軍参謀本部事務局長たる中将』の次に位置しており、それ以外の全ての中将階級よりも上の階級で、座席に宿舎、送迎、駐車場、正式な式典においても大将と同等に扱われるものすごい階級なのである。所謂現場の超ベテランで事実上トップであり、将軍閣下もお伺いをたてないといけない階級なのだ。
……まあ、そんな階級の人物に「お久しぶりっす」とか言えてる月丘も相当なものなのだが……
『やあ、カズキ。ゼスタールの件では、ウチの連中が色々世話になったみたいだ』
「いえいえ」
『で、早速本題にはいるが、国連に提出された君のレポートだが、USSTC内部でも滅茶苦茶話題になってるぞ。一度君を米国へ招聘しないといけないとかな。特にCIAの連中が躍起になってるみたいだが』
「なんかそのへんは、白木班長に、世界巡業講演会の旅みたいなのをするかしないかで政府が色々考えてるみたいですけどね、ハハ。勝手に話を進められるこっちもタマランのですけど……って、セルカッツさんもお久しぶりです」
『ハイ、お久しぶりです、ケラー・カズキ。ペルロードの件の調査、御苦労サマでございました』
と、頭を垂れて、ペコリと礼をするセルカッツ。なんせ元々ペルロード人に創られた使役用の人工生命体が彼女らサマルカ人の祖先であり、ヂラール騒動の際に心あるペルロード人達に解放され、宇宙をさまよう間に自我を獲得し、独立した種族となったのが今のセルカッツ達の先祖になるわけである……でも相変わらず可愛い。
なので、今回の騒動も注視して見守っており、ジェルダムや、アルカーネにカイア10986との会談も予定に入っていたのだが、カイアは今、あのような結末になってしまい、その騒動のゴタゴタでジェルダム達との会談はまだ実現していない。
「で、セルカッツさん、何かそちらで新しい情報が入ったとかなんとかという話ですが……マスターチーフとご一緒というのも、この取り合わせがよくわかんないのですけど……」
と月丘が疑問を呈するとスミスは、
『私と、ミス・セルカッツの組み合わせといえば、エリア51関連にきまってるじゃないかカズキ』
言われてみれば、と口をとがらせて、ほうほうと頷く月丘。
「なるほどなるほど。ではあのエリア51のロズウェル関係の資料で、また何か出てきましたか」
と月丘が尋ねると、セルカッツが何か張り切って、
『実は、この“ろずうぇる”関係の、我々と同系統の種族、即ちペルロード人の造ったと思わしきバイオドロイドが乗っていた宇宙船のメモリーをですね、あの最近有名な……イゼイラ人のタリア博士とおっしゃいましたか、時空間遡上再生という技術を開発なされた』
「ええ、知っていますよ。親しい仲です。ものすごくお世話になった方ですが……もしかして、あのロズウェル関係の資料に、あの技術を使ったのですか!」
『そうなのですよ。するとあの宇宙船の残骸のメモリーバンクからものすごい資料が再現できましてね、その、今ニホンコクの情報省でも調査中の、「惑星ペルロード」の次元座標が取り出せたのですよ』
おお! と思わず立ち上がって声を上げる月丘。ということは、ロズウェルのあのUFOは、ペルロードから来たサマルカ人の祖先にあたるバイオドロイドだということが、これで確定になった。
『そこで、この分析がもうすぐ完了するので、我が国サマルカを中心に、国際共同調査チームを組んで、惑星ペルロードの探索に赴こうかと考えています』
セルカッツは、もう既に本国からの許可をとっているらしく、サマルカ・連合日本・米国以下国際連邦選抜、ティ連選抜のスタッフを伴って、約一年の期間を目処に、総じてヂラール大戦と呼ばれている一連の騒動の元となった惑星ペルロードの探索、及び生き残りのペルロード人の探索も兼ねて出発しようという計画で、もう準備段階に入り、大型探査艦の準備もできているという。
『……そこで、この計画に必要なのが、当のペルロード人である、ケラー・ジェルダムと、ケラー・アルカーネです。彼らにも同行していただこうかと思っております』
「お二人の返事は?」
『只今、交渉中ですので、今暫く掛かるとも思いますが、良いお返事をいただけそうです。それと、護衛も兼ねてということで、火星圏に現在駐留している聖ファヌマ・グロウム帝国のネリナ提督の艦隊にも同行頂こうかと、グロウム帝国政府とも交渉を行っております。こちらはもうほぼ了承の回答をいただいておりますが』
そりゃそうだろう。彼らもファヌマ教というペルロード人を崇拝する宗教があるのだから、その聖地へ赴くというのは、宗教教義とは別に歴史の探索という意味でも重要なものだ。
『で、自分達USSTCからも選抜で幾人か出すんだが、カズキ達はこの話に乗らないのか?』
とスミスから誘いを受けるが、そこは叶わない話で、
「すみませんマスターチーフ。私も今の立場では、もうホイホイとはね……」
『そうか、そいつは残念だなぁ。とはいえ、カズキはもう世界中の関係者の知る人ぞ知る人物になってしまったから仕方ないか』
と、実はそのまま宇宙に出てから月丘をUSSTCに引き抜こうかと画策していたスミスだが、まあそうは問屋がおろしてくれなさそうだ。
でもこの話に月丘は「しかし」と一言挟む。
「ですがお二方、私の今までの体験で、カイア10986さんや、その高次元人の方の話に、あのレポートにも書きました“衛星ザンドア”の事を考えると、もうすでにペルロード星は恒星の暴走で、金星のような星になっているか、場合によっては恒星が肥大化してペルロード星自体が消滅している可能性もありますから、そのあたりも踏まえて計画なさっていただいた方が……」
と話すが、さすがはセルカッツ達で、その辺はすでに折込み済みだという話。
「なるほど」と納得する月丘。この計画の実行期日はもう数カ月後に迫っていると言う……
* *
そしてスミスやセルカッツ達との対話から三ヶ月後。
場所は『ヤルバーン自治国タワー』最突端部の宇宙港。
予定より少し早く、サマルカ政府主導の国際連携プロジェクト『惑星ペルロード探査プロジェクト』が始まり、その出発式典が行われていた。
式典出席者には、柏木やフェルも来ている。他、現在の米国大統領、国際連邦の主要閣僚に、ティ連加盟の各国大使館の大使の方々や、ヴェルデオ議長などなど。
結構な規模の式典になっている。それもそのはずで、この式典は、あの『地球圏戦争』が終わってから初の国際協調イベントになるわけで、まあ言ってみれば終戦記念式典の一環でもあるわけである。
「やあ、お久しぶりですジェルダムさん、アルカーネさん」
『こんちはです、お二方!』
月丘とプリルは、控室でセレモニーに登壇する予定の二人に声を掛ける。
まあこんな世界のVIPが集まる式典の控室に顔を出せるなんていうのは、今戦争の英雄ともいえる月丘達の特権みたいなものだ。というか、マスターチーフ・スミスがそういうところを配慮して手配してくれたという話もあるが。
『これはツキオカ殿にプリル殿。お久しぶりです』とジェルダム。
『本当に。何か色々お忙しいようで、なかなかお会いできる機会がありませんでしたね』とアルカーネ。
ペルロード人特有の六本腕の一対を差し出して握手。
「とはいえ、これで一年間ほどまたお会いできなくなるので、これはこれで寂しいですが」
『ホントホント。でも、お二人にとっては悲願でもあるわけだから、よかったね、って話じゃない? カズキサン』
「まあそうだよね」
とにこやかに雑談なんぞ。で、そんな最中でも、二人の付き人になっているサマルカ人の方々は、恭しく礼をしながら色々と二人の身の回りを気遣ってたり。
『……サマルカの方々とお付き合いしてみると、昔のペルロード星での生活を思い出します』とアルカーネ。
『あの時、私達は彼らのことを【サイルーカ】と呼んでいました。ペルロード語で「使用人」という意味でしたが』とジェルダムの談。
その話を聞いて月丘は、なるほどありがちな言葉の変換だなと思う。
「サイルーカが訛ってサマルカとなったのかもしれませんね」
『そだね、確かサマルカの人って、自分達の過去を知らないで宇宙を彷徨って、ティエルクマスカ銀河に定住した人達だから、結構そのサイルーカって言葉もサマルカさんには重要な情報なのかも』
なるほどなと思う諸氏。しかし元の意味が『使用人』というのも、あまりにそのまんまなので、なんか説明しにくいんじゃないかとも思うけど、なんて思う月丘。
すると、横から声を掛ける女性の声。それは、
『お久しぶりですな、ツキオカ殿』
「ああ、ネリナ提督。お久しぶりです」
グロウム帝国火星圏駐留艦隊司令のネリナ・マレードだ。此度の探査艦護衛艦隊司令の任務を仰せつかっている。
で、生真面目な彼女は、早速やらかすわけで、
『それと、聖なるファヌマの使徒にお会いできること光栄に……』
とジェルダムとアルカーネの前で手を胸に当ててやからすわけで、二人は『いやいやいや』と恐縮して、そんな大昔の神話の話と一緒にしないでくれと頭を下げていた。
そんな光景を見て笑う月丘とプリル。 まま、平和である。
一時期は創造主か信徒か、もしくは使用人のドロイドか、という間柄の彼らが、そんな伝統や神話の垣根を超えて、事実が知れた同胞になる。
月丘はこういう風景を見ることができるだけでも、今の仕事をしていて良かったと、思うわけである……
* *
一通りのセレモニーが終わって、探査艦行きのシャトルに乗り込む此度の主要スタッフ。もちろんジェルダムにアルカーネ、そしてネリナの姿も見える。
月丘は来賓客の席に座って、彼らを見下ろす形で拍手なんぞ。
ジェルダムとアルカーネは月丘とプリルの姿を見つけ、大きく六本の腕を振っていた。ネリナは敬礼なんぞを。
月丘とプリルも席を立って、大きく手を振る。まあ予定は一年ということだが、しばしの別れでもあるし、ジェルダムとアルカーネは条件付きでもう地球へは帰ってこないかもしれないのである。
「ところで月丘君、あの話は本当なのかい?」
『ソウデスソウデス。私も後から聞いたデスけど、ちょっと寂しいデスよね』
月丘とプリルの横に座っていたのは、連合日本国の内閣総理大臣と副総理大臣、まあ要するに柏木とフェルだ。
月丘とプリルを見かけたので、VIP席から移動して、こちらにきていた。もちろん許可はもらってる。
で、柏木とフェルは、その『条件』とやらについて月丘に問う。
「ええ。まあ……もう彼ら二人には説明はしているのですが、恐らくもう惑星ペルロードは、消滅しているか、もしくはもうかつての姿ではないだろうと……で、もしその探査の過程で、生き残っている彼らの同胞と再会できるような事があれば……」
もし、そのようなことがあれば、ジェルダム達は、二つの選択をすると。
一つは、仮に同胞が困窮したような、悲劇的な状態であれば、探査艦に乗せて、連れ帰ってくると。
もう一つは、何処か別の惑星などで再興していれば、自分達も彼らのもとに戻ると、そう話していた。
『ナルホドでスね……うん、確かにその選択のほうが彼らにとってはいいかも』
「そうだな。この宇宙に、たった二人の生き残りで、というのも悲しいものがあるよな」
正直、ペルロードの同胞と出会う確率は低い。もし無理であったならば、そのまま地球に帰還するとも話していた。ここは成功を祈るべきかどうか複雑なところだが……
「成功を祈ると言いましたよ、私は」
『私も。やっぱ同じ仲間の生存を期待したいじゃないですか、ねー』
と笑って話す月丘とプリル。柏木とフェルも、「ま、そりゃそうだ」と頷いた。
* *
ジェルダム達の旅路を見送った日から、二週間後。
月丘とプリルは、日本国、長野県のとある山村の田舎道を歩いていた。
そう、それはあの高次元世界で再現された月丘の脳裏にある風景。即ち彼の母親の実家へ至る道である。つまり里帰りだ。
……とはいうが、ホントのことを言えば、この長野の山村に来るつもりなんてのは月丘には毛頭なかった。まずはまあ遠いし、車で来るのも大概しんどいし、このためにトランスポーターを借りるわけにもいかないので、電車とバスを乗り継いでここまでやってきたのだ。で、その目的は……
『え! んじゃカズキサンって、お母さんがここに引っ越してきたって知らなかったの!?』
「うん……まあ正直言うと、PMCの仕事やりだしてから、世界中を飛び回って、ゼル端子で死にかけて、ディスカールに行ってプリちゃんと知り合って……まあそのぐらいの期間の間、全然母さんに連絡なんてしたことなかったから」
とそんなところで月丘はプリルと将来結婚する予定なわけなので、まあ家族である母親に紹介しておこうと一緒に長野くんだりまでやってきたわけである。
とはいえ『くんだり』とかいいながら、月丘は五〇〇〇万光年以上離れたプリルとパウルの親御さんにはもう紹介されている仲なのである。まあ月丘はディスカールに医療滞在で相当期間いたので、そうもなる。
で、その月丘の母親である『月丘香奈恵』は、月丘の知る範囲では、神奈川県のとある街に住んでいるはずだったのだが、今回の件で連絡してみると、神奈川の家を引き払って、この長野の祖母の実家に帰ってきて、農業やってるという話で、彼も驚いたという次第。
「何の縁なんでしょうかね、高次元世界で祖母のフェイクと出会って、帰り際に、あの都市伝説みたいな世界で、ばーちゃんらしき人物が私に手を振って……今度実家に帰ろうと思ったら、ばーちゃんの実家に母さんが引っ越してってね」
『そうそう、その話だけど、あのファーダ・フェルエリアの報告書に書いてあった同じ場所からカズキサンは地球に帰還したって話、あれすごいよね』
「でしょ、私は今でも信じられないんですから」
『でもカズキサンの報告書の話が本当なら、死んだ人ってどこかの高次元世界に行くのかもしれないって事に……』
「まあね、イゼイラ人の死生観でも、あれって完全に量子力学の多元世界的だって話もあるし、地球の仏教も、非常に量子論と親和性があるとか言われてますからね……今回の件で何かまた科学の進展があるのかもしれませんが……って、ほら、あそこです。着きましたよ」
小高い場所に、比較的大きめの家。典型的な農家の家だ。
そこから手を振る女性の姿。年の頃は六〇ぐらいか。
ちょっと急な螺旋の坂を登って、家の敷地に入る二人。月丘も軽く自分の母に手を振る。
「……やあ母さん、久しぶり」
「……ふぅ……久しぶりね和輝。何年ぶりぐらいになるのかしら」
少し呆れ顔で、自分の息子を見る香奈恵。で、隣で少し上目つかいでいるプリルに向かって香奈恵は頭を下げ、
「はじめまして、私は和輝の母、月丘香奈恵と申します」
すると、プリルもアセアセ状態で、
『は、はじめましてっ! わ、私はプリル・ラズ・シャーともうしますです!』
とペコペコと香奈恵に頭を下げる。ちなみにこの時、プリルのいつもかぶっているハンチング帽に彼女は耳を隠していた状態。
「フフ、和輝が今日、紹介したい人がいるって連絡してくるもんだから」
「それだよ、母さん。まさか長野の実家に引っ越すなんて聞いてなかったから焦ったよ」
「それはあなたが全然連絡もよこさないし、こっちが連絡しても繋がらないし……まあ、以前あなたが事故で大怪我したって聞いた時、助けてくださった方から、『無事で、その方の会社で働いてる』というのを聞いた時が最後の消息だったのよ。あとは年賀状ぐらいでしょ」
その点は申し訳無さそうに頭をかく月丘。その辺も今日話さないとと思うわけで、その許可も白木からもらってきている。もちろん制限付きでフェイク話もするわけだが……で、香奈恵はプリルに、
「でもまさか和輝の連れてきた彼女さんが、外国人さんなんてね。その日本語も、今流行りの、あの宇宙人さんが使ってる技術の翻訳機なの?」
「まあそうだけど……外国人は外国人でもちょっと、母さんの思ってるのとは違うから」
と、月丘はプリルのハンチング帽をポヨンと上へ少し上げて取る。そんでもって、ピコンと飛び出す笹穂耳。
その姿を見て「ええ!? あらあらあら!」
とびっくらこく香奈恵。まあ昨今の日本では珍しくはない光景であり、なんせ日本国の内閣総理大臣も水色肌の嫁さんもらって副総理やってるわけで、そんな連合日本の今っちゃー今なんだけどと。
「どど、どちらのお星の方なの? 和輝」
と、そこらへんはあまりまだ詳しくない香奈恵
「ディスカール星間共和国だよ。あのフェルフェリア副総理の国より、まだ遠い国。でもこの長野県にくるよりはしんどくないけどな」
と、そんなお国の自虐ネタで笑いを取る月丘……ま、親子関係は悪くはなさそうだと思うプリル。というのも、ここに来る前に、月丘の身の上を色々と聞いていたからだ。
で、まあこんなところでと家の中に案内される二人。純和風の食台に、木の香りが漂う典型的な農家の家。だが、月丘の記憶とはかなり違ったリフォームもなされている、というかリフォーム中というか。
「どしたの、あそこらんへん。改築してるの?」
「うん。お友達といしょに、民宿でもしようかと思って、改装中なの。なんせこの家無駄に広くて大きいでしょ? 私一人じゃ持て余すもの」
なるほどなと。インバウンドというやつですかと。この家の近くは、ちょっち行けば、冬はスキーができるスキー場も近い。ティ連の観光客にはウケがよさそうなロケーションだ。某近隣国民はお断りしたいが。
香奈恵はお茶にお菓子を持ってきて、諸氏座ってリラックスしながら、団らんである。
「で、そういう特別な関係なら、今まで連絡を寄越さなかった件なんかも色々と関係あるんでしょ」
さすがは鋭い。母親のカンというやつか。
「そのあたりも話すために帰ってきたのでしょ?」
「まあ……そうなんだけどね」
なんせそのへんを正直に話すために戻ってきたわけで、この身の上話は白木からは話す許可をもらってるのであって……
そんなところで、あの米国に渡って、ハンティングドックに入社したあたりからの経緯を語る月丘。
PMC即ち民間軍事会社社員という職業をやって、世界中を飛び回ってたという話。
その中で、あの中国のイスラム紛争にも関わっていたという話。
更にそこで事故にあって、死亡扱いされて、中東の部族連合に拾われて、武装勢力に雇われていたという話。
まあここまでの話で香奈恵は目が点になっていた。
「そんなことやってたの和輝! 全然あなたらしくないというか、想像できないと言うか」
「まあ、そうなんだよ……」
最初はマネージャーみたいな仕事をやってたら、いつの間にかプロの傭兵みたいになってたと。
で、その中東で怪我して重症になって……とそんな一連の話をして、寝たきりの怪我を治すためにディスカールまで連れて行かれてプリルと知り合った経緯を駆け足で話す月丘。
ちなみに、ドーラヴァズラー事件の話はできないので、死にかけたことは脚色して「SISとの戦闘で重症」という事にした。怪我も脊髄を怪我したという程度の重症にした。
「もうそんな……もしその商社の方とプリルさんににお会いしてなかったら一生寝たきりの大変な事になってたんじゃないの……ありがとうございますプリルさん」
もう正座して土下座する香奈恵。感謝しきりである。プリルも脚色してる話とはいえ、『いえいえいえいえいえいえいえそんな』と恐縮しきり。
「でもすごいわね、プリルさんのお星の医学って。もうなんともないのカズキ?」
「うん、全然普通に生活してますよ」
と、体をまじまじとみる香奈恵。
で、そんなこんなで、今はその会社を退社して、社の紹介で日本の情報省という役所でシステム管理の仕事をしていると、そういう体裁で話す月丘。
プリルはヤルバーン自治国軍の軍人であることはきちんと話す。
まあプリルとの馴れ初め話だけでいいので、そこらへんの話はここまでだ。
と、まあ香奈恵も自分の息子が思わぬ素性の人物を嫁にすると連れてきたわけで、あの十余年前の柏木とフェルが起こした奇跡の事件から、自分の身内にもそういう人がなるのかと、感慨深げになる彼女。
まあ、香奈恵は自分の境遇が、月丘和輝にとっては決して良い境遇ではなく、ある理由から女手一つ育ててきたというワケもあるので、そう考えると和輝と一緒になってくれる伴侶の素性など、この際なんでもいいと割り切っていたのは本当のことである。
「今日はこんな田舎にきたんだから、泊まっていくんでしょ? って、今からじゃバスももうないし」
自分の息子が嫁になる人物連れて久々に帰ってくれば、まあどんな親でも嬉しいものである。
で、一家……といっても、まあ三人で家族団らん、というわけでもなく、世の中今はPVMCGという高次元人さんが遺してくれた超便利ツールもあるわけで、大きなモニター作って、パウル提督と連絡つけて挨拶したり、イゼイラよりまだ遠い五〇〇〇万光年以上彼方の、プリルとパウルの親御さんにまで量子テレポート通信の恩恵受けてつなげて、香奈恵を紹介したりで、ここで香奈恵もやっとのことでプリルを嫁にした息子のどえらさに気づいたりするわけであった。
「はあ……ウフフ、三人しかいないこんな農家なのに、今日は本当に賑やかねぇ」
と、郷土料理に舌鼓打ちながら、
「ところで、“あの人”はプリルさんと、和輝のこと知ってるの?」
食事する箸の手が少し止まる月丘。「あの人」とは、高次元世界の可能性の幻影で見た、君島重工の社長の事だ。そう、月丘は認知私生児なのである。
とはいえ、所謂『不倫の子供』ではなく、本来は普通に君島重工社長と嫁の子となるはずだったのが、運命で認知私生児にならざるをえなかった、所謂政略結婚の犠牲者でもあるわけなのである。
そのあたりの素性も、今日のためにプリルには話していたが……なんとも当のプリルや家族は全然気にしていないようで、「ああそうですか」ぐらいの話だったそうだ。むしろその香奈恵の素性の方に同情すらしていた。その話は、まあ語る時がくれば、その時に……
「うん、多分知ってるよ。俺の上司が君島重工の役人達と懇意だし、プリちゃんが親父と仕事で何回か会ってる」
「え? そうなの?」
『あ、ハイ。私、軍の技術将校なので、ティ連の技術をキミジマサンにレクチャーする時や、新しい機械の開発の評価などでお付き合いさせてもらってるんですよ。その時、カズキサンのお父様には何回かお会いしてお話させていただいたこともあります……って、その時はマサカ、カズキサンとそういう関係なんて思わなかったから』
「そうなの。で、あの人はあなたに対してどうだった?」
『大変良く接してくださいましたヨ』
「そう」
少し微笑んで何かを思う香奈恵。多分、その『社長』もプリルの事を気に入ってもらえたのかなと、そんなふうに思う。
月丘は、あの高次元世界でシグマに見せられた可能性の幻影に、もし香奈恵と父が普通に結ばれていたなら、こんな世界で暮らしていたのかなと、あの時思った。
だが、それが叶えばプリルと出会っていたかどうか。
一〇余年前の柏木とフェルも、なにか一つボタンの掛け方が違う時間軸でお互いが進んでいれば、ぜんぜん違う可能性の道を進んだのかも知れない。
この、『高次元世界との繋がり』を知ってしまった人達は、運命の考え方も、また全然ちがうものになるのかもしれないんだなと、月丘はあれ以来そう思うようになった……
* *
月丘とプリルが、婚約者の顔見せに月丘の実家へ行ったあの日から一ヶ月後。
それまでの穏便な生活から一変して、シャドウチームとスペクターチームは、再び連合日本とティ連の国益のために世界を駆ける日常に復帰する。
というか、これが彼らの通常業務であり、普通のお仕事だ。さすがにこんな仕事やってるとは自衛隊の特殊作戦群並に、親にも知り合いにも言うことができないわけで。
そんな中、この物語の本来の主役、柏木真人とフェルフェリア・ヤーマ・カシワギ・ナァカァラも、これからについて考えていた。
ということで、今日は久々の休日で、場所は今の柏木ん家である、総理大臣公邸。住所は東京都千代田区永田町二丁目3番1号。
「はぁ~」
と、ため息つきまくってるクソゲー売りから、総理大臣にまで上り詰めたオッサン。
『モー、さっきからため息ばっかりついてドーシタですか? マサトサン』
なかなかに珍しいタイミングで、今日は総理副総理二人して非番である。
これも月丘達の活躍で、地球圏戦争が万事解決の上に一段落したことが大きい。
で、総理大臣として、民間も政治家や官僚も自衛官も警官も、みんな時間取れたらできる限り休暇とれと、総理大臣令を柏木が発したので、その影響も大きかった。
こういうことを立場を超えて言ってくれるので、柏木内閣の支持率は現在七〇パーセント台という驚異的な数値を誇っている。
で、そんな柏木にお茶淹れて隣のソファーにちょこんと座る愛妻フェルさん。
「フェルな」
『ハイです?』
「俺さ、実は総理大臣を一期でやめようって思ってたんだけどさ」
『ソウなのですカ? こんなに国民のミナサンから支持率あるのに?』
「だってさ、俺って言ってみたら戦時内閣の総理大臣みたいなもんじゃん、ヂラール対策の」
『まー、確かにそういうところも無きにしもあらずなトコロは認めますけド、それでも国民に対して良い総理サンだと思いますよ、私は』
と、どういうワケかお茶請けにカー◯おじさんのカレー味なのがフェルのセンスで、モグモグやってる彼女。 柏木もお茶をズーと飲んで「ふぅ」となにかを思う。
「で、まあ一期でやめて、フェルを総理に推してとか……」
『あ、ソレはダメです』
「え? なんで?」
『私は副総理大臣サンで、マサトさんと一心同体じゃないデスか。私はソーリがマサトサンだから副総理やってるんであって、私が総理になって副総理がマサトサンじゃないなんてのは、やっても意味ないデスから』
「あー、そう言ってくれるとありがたいなぁ」
とフェルを抱き寄せて、頭をナデナデする柏木。フェルもなんかフフン顔。
すると柏木、今度はシャキっとした顔になって、
「で、ですな、まあそんな事を思っとったワケですが、そうもいかなくなったというお話なんです、これが」
『ハ? どういうことですか?』
「実は、ティ連で盟約主権国家選出選挙も近づいてきたわけで、なんと! 日本は確実に当確。しかも云十周期ぶりに、歴代第一位当選だったイゼイラを抜いて、一位当選確定だそうで、もうどうしようかなと……サイヴァル議長からも、おめでとうと連絡があって、一昨日は徹夜で飲んでました」
『ホントですかそれ!』
「ハイです」
『それはスゴイですね!』
「で、その盟約主権国家就任式あたりに、なんと日本では参院選があったりするわけですわこれが……最近自保党も色々不祥事があったっしょ。その真っ最中に地球圏戦争が起こって、俺が総裁になって、なんとか挙党一致でやってこれたけど、この騒ぎが収束しそうな今で、盟約主権国家の話が出て、参院選で圧勝しなきゃってときに、小生が辞めるなんて話になったら、多分ワシ、コロされると思うので、もう少し総理大臣せんといかんのかなぁと、そんな感じですから、フェルさんも申し訳ないですけど、もう少しお付き合いください」
と愛妻にペコリと頭を下げる柏木総理。本当に戦後で最も風変わりな内閣と言われて、宇宙時代最初の国難を乗り切った歴史に残る総理大臣と副総理になった柏木とフェルだが、まだまだのんびりとはできなさそうである。
「姫ちゃんにも悪いなぁと思ってさ、お父さんこんな立場だし。それ考えたらフェルはお母さんとしてよくやってくれてるよ」
『ソコはサンサとかを見てきましタからね。まああの程度はティ連の科学で福利厚生もどうにかなるです』
さいですかと感心する柏木。ホント、流石は世が世なら女帝さんだけある御仁である。
『デモ、そういうことならマサトサンは、ティ連でもお宝有名人サンですから、将来はティ連議長という事になるかもですね~。そーなるとワタクシはティ連議長のふぁーすとれでーサンですか~、それも悪くないでスね~』
「フェル、そこまでは勘弁してくれ、流石に俺の器じゃない。内閣総理大臣は国家元首じゃないから、俺、まだ救われてますねん……」
と、そんな話もしながら貴重な休日を消化していくお二人さん。
すると、情報省直通のPVMCGチャンネルに連絡が入る。白木からだ。
「おう、どうした白木」
『遅くにすまねーな総理。実は例の件で動きがあった』
「例の件って、イランか?」
『ああ。世俗派、というか民主派と政府で内戦勃発だ。もう止められん』
そう、イランは現在かのヂラール種子の攻撃で、革命防衛隊が壊滅し、さらにイスラム指導部がヂラールの攻撃で消滅。更に月丘レポートで高次元生命体の事実が知れ渡ると、所謂政教分離を主張する一派が政府に対してホメイニ革命以来の大革命運動を起こし、今、それがとうとう内戦に発展した状況になっていた。
「イランも国際連邦構成国だろう。そんな事になったら米国やロシアが確実に介入するぞ。あまり大きな声では言えないが、スタインベック氏がアッチの住人になっちまったから、インベスター組織も事実上解散状態になって、あの連中も、もう超法規というか、犯罪的と言うかで介入してこないだろうし、下手したら国際連邦内でイスラム系と民主国家の対立とか起きかねないぞ」
『というか、あの戦争嫌いのルイス・スチュアート大統領でさえ、もう交渉が効かないと言って艦隊を派遣したぞ。で、連合日本にも、「あんなレポート出したのが原因なんだから人員を出せ」とか言ってきてな』
「人員出せって……もうスゴイの出してるんだろ? 白木」と柏木は笑う。
『ああ、まあ、毎度のあのチームをな、ハハ……』
と、白木は不敵に笑うが、今回は国際連邦からも要請があった、ちょいとヤバイ系な仕事らしい。
* *
ということで、柏木達が総理公邸で白木の急な一報で仕事復帰しようかと、そんな同時間軸あたりのイランである。
場所は首都、テヘラン。
現在のイランは、先の通り革命防衛隊が壊滅し、イスラム主導部が壊滅して、指導部の法学者が海外に退避した影響で国内は以前より革命防衛隊と折り合いのまずかったイラン・イスラム共和国軍内の幹部が、ヂラールとの戦闘後に事実上軍政を敷く形になり、軍事国家の様相を呈するように見えていたのだが、それに異を唱えたイラン国内の知識人を中心に構成された反政府組織が、月丘レポートの影響を受けて世俗派として急拡大し、この日、とうとうぶつかる事になった。
軍部も民主派に味方して参画する部隊が相次ぎ、民主派自身も相当な武力を持って対決する形になっており、イラン全土で火の手が上がっている。
「……ムスタファ、まさかあなたたちが民主派を先導してるんじゃないでしょうね」
『冗談言うなカズキ。俺達は使徒派部族連合だが、イスラム法学者を見捨てるような真似はしないぞ。俺達もイスラム教徒だからな、誤解するなよ』
テヘラン市内のアジトでVMC通信するのは、現在情報省の工作活動案件の扱いでイランに潜入しているシャドウ・アルファこと月丘和輝。
通信相手は、使徒派部族連合のトップ、『ムスタファ・モフセン』である。
「では、そちらの情報でも、首魁はイラン共和国軍の、ホセイン・ヴァヘディ将軍ということでいいのですね?」
『俺の得た情報ではそいつがターゲットだ。そいつが今回の軍政を引きいているトップだ。そいつをのさばらせたら、今度は、『逆サッダーム・フセイン』になるぞ。危険人物なのは俺が保証する。一説ではSISとも繋がっているという話もある』
「本当ですか!」
『本当だ。あれをのさばらせたら必ず新たなイラン・イラク戦争になる。いや、SISが絡んでいる以上、今度は中東全土、いやいや、米国やロシアにEUが介入すれば国際連邦内での戦争になりかねなくなるぞ』
「それは、大げさなんじゃないですかぁ? ムスタファ」
『なに言ってるんだカズキ。元はといえばお前のあのレポートが原因なんだぞ! 西側は世俗と科学を割り切って考えられる連中もいるからいいが、今のイランじゃそういうのをプロパガンダで利用してなにかやらかそうて奴も多いんだ。ちっとは責任感じろ』
あ゛ー、それを言われたらつらいなぁと思う月丘。
でも俗称『月丘レポート』といわれているものは、一般公表している分はだいぶフェイクや事実を端折って公開されているが、ただ、今や世界でも有名なトーラルシステムの根幹が高次元生命体という存在の定義を確実視するものであることは端折るわけにはいかず、この部分で、もはやオカルト的ともオタク的とも、レジェンド的ともいえる思惑が色々と利用され、此度のイランに至っては、ヂラールの被害をモロに受けている分、こんな結果になってしまっているというところもあるのである。
(でもそれって私のせいじゃないですよねぇ)
とブツクサ言う月丘。
『じゃあ情報提供はここまでだ。俺達はイラクの国境で軍と共同で待機中だ。うまくやってくれよ、カズキ』
「わかりました。とはいえこっちも本部からまだ指示が来てないので、まだどうなるかわかりませんよ。今現在は動けませんし」
『その時はその時だ。もし退避するのならイラク側に逃げてこい。俺の仲間にサルベージさせる』
「わかりました。ありがとうございます」
VMC通信を切り、アジトの窓から外を覗くと、軍警察の部隊と、投石や火炎瓶を投げる民主派の人々の間で小競り合いが起き始めていた。
するとまたVMC通信のコールが月丘のPVMCGを鳴らす。
「はい、月丘です」
『俺だ、クロードだ。まだアジトから出てないのかお前』
IHDのクロードだ。今回もお得意様の情報省に協力してる。もちろんヤバい仕事ではなく、法に則った後方支援だ。
「ええ。プリちゃんと悠永君がまだ帰ってきてません」
『転送は使えないのかよ』
「もう今やこのあたりの危ない国家は、転送阻害装置をそこらじゅうに配置してますからね。艦船に積んでるような強力な探査センサー使えれば転送も可能ですが、パーソナルなものは少々使い物にならなくなってます」
『それはそれで厄介だよな。イワンの連中も妙なもの発明してくれたもんだぜ。で、こっちはそろそろ退避するぞ。麗子社長からの命令も来た』
「わかりました、ご苦労さまでした。外務省スタッフの護衛もよろしくお願いします」
『了解だ。気を付けてな』
時間は刻々と切迫度を増している。今、下階にある商店のシャッターが破られて略奪が始まったようだ。通りの向こうでは車がひっくり返されている。
そんな街の状況をブラインドを指で下げて覗いていると、バーバーとクラクションを鳴らしながら走ってくる大型トラックが一台。
「ん?」
とPVMCGの拡大スコープモードで見ると、トラックを運転しているのはプリルであった。
トラックは暴れる民衆をものともせず、場合によってはゾンビを蹴散らすように民主派の暴徒を跳ね飛ばして、アジトの下階、略奪にあっている商店の横に密着して着けた。
暴徒は運転席のプリルも襲おうと向かってくる。もうカオスだ。
プリルは愛銃の『九四式拳銃プリルスペシャル』をスタンモードで容赦なく暴徒にぶっ放し、昏倒させまくっている。
彼女は運転席の窓から這い出ると、トラックの荷台の上に登って、
『カズキサーン! 装備持ってきたよーー!』
と上に向かって叫ぶ。
「ご苦労さん! 今降りる!」
『ダメダメ! 今こんなのだから、そこから飛び降りたほうがいいって!』
下からトラックにアクセスするのはもう無理だから、そこからトラックめがけて飛び降りろと。
仕方なしとして、月丘は上階からインナースーツの機能をONにして、約三階分の高さから飛び降りた。
ドンと音なして着地する。プリルは屋根に這い上がってくる暴徒を蹴飛ばして落としている。
「カズキサン、こっちこっち!」
トラックコンテナの屋根にあるハッチを開けて、中に入ると……
『本部の指令きた? カズキサン』
「ええつい先程。ムスタファからも連絡がありましたが、やはりホセイン・ヴァヘディ将軍が黒幕です。白木班長達の情報はバッチリですよ。当初の作戦通りいきますか……って、悠永君は?」
『ケラー・ハルナガは、こっちくる途中で見つけた、逃げ遅れのNPOの人達を護衛するって別れたよ。ほっとくわけにもいかないから』
「さすがジーヴェルさんですね。賢明な判断です。彼がいれば大丈夫でしょう。ではいきますか、スペクター・ワン改め、シャドウ・デルタさん」
『おーけー、ニヒヒ』
月丘がコードネーム、シャドウ・アルファ、メイラがベータ、悠永がガンマ。で、毎度おなじみの後方援護要員のスペクター・ワンは本日休業で、プリルはシャドウ・デルタとして、実働要員で活躍であった!
運送トラックの屋根が一面大きく観音開きに空くと、推進系の機械音が大きく唸り、そこから飛び出してくるのは、『月丘専用銀ピカローダー』にM型ローダーユニットを増設した『M型月丘銀ピカローダー』と、プリルの愛機のM型ローダーが空中へ飛び出してきたのであった!
これはテヘラン日本大使館に転送妨害装置のスキを見計らって、あらかじめ何日か前に転送輸送してきた装備である。プリルと悠永はこれを受領に行っていたのであった。
飛び出した二人は垂直に上昇すると、ジェット噴進で加速してカオスな状態である、アジト周辺を離脱して曳航引きつつ高速飛行する。
彼らの向かうは、事前に米軍から情報を供与してもらっていた、ホセイン・ヴァヘディが潜むテヘラン郊外の軍事基地。
今回の彼らの仕事は、国連からも依頼された作戦に則ったもので、情報省総諜対の指令は、ホセイン・ヴァヘディ将軍の逮捕拘束か殺害である。これが今回の任務であった。
この作戦には、米国の特殊部隊や、ロシア、中国、欧州の特殊部隊系組織も動いているが、情報が錯綜し、複数の目標を同時制圧する方法で動いていたわけだが、そこは日本の情報収集能力、というか、ヤルバーン州のトーラルシステムの解析で、月丘達にその本丸の役目が回ってきた、という次第。
ここでかかってほしいBGMは、お馴染みジョン・バリーの“Takes The Lektor”
(https://www.youtube.com/watch?v=BKCEiNk198E&ab_channel=LUISBLANCOSILVA)
さしずめ『イランより愛を込めて』といったところか。
銀ピカに光る一機と、カーキ色のメカメカしい一機の飛行をあっけにとられて目で追う群衆。鎮圧部隊もしばしその飛行する姿に暴動鎮圧用放水の手も止まるのであった。
* *
テヘラン郊外の軍事基地めがけて飛翔する月丘とプリル。
銀ピカの、毎度おなじみ宇宙の法執行官風味漂う月丘ローダーに増設装備されたM型ユニットを外骨格的に操る形で飛行するシャドウ・アルファ。
そしてなんとなく一九八〇年に流行ったようなパワードスーツを思わせるM型ローダーに身を包んだプリルも同じく目的地めがけて飛行する。
大きさこそ、二メートルそこそこの兵器ではあるが、その存在は画期的であり、これら一機で戦闘ヘリコプターと地上装甲戦闘車両をあわせたぐらいの戦闘力を持ち、防御力もエネルギーシールドで装甲車両並以上である。そんな装備は日本を始め、国際連邦でも先進諸国ぐらいしかまだ装備されていない。
そんな兵器が二機、高速でイラン共和国、国防軍の空軍基地に接近する。
『カズキサン! 前方S-500があるよっ! 破壊するねっ!』
「了解、私は先に着地して、駐機している航空機を使用不能にします!」
『らじゃ!』
プリルは月丘の着地を援護するために、防空ミサイル、ロシア製S-500地対空ミサイルを肩部ブラスター砲を数発速射させて吹き飛ばす。
ミサイルロックオンの音が鳴り止んだ月丘は、飛行場の滑走路ど真ん中に着地して、M型ユニットに装備された二〇ミリ自動速射砲を撃ちまくりながら、横走りにホバリングさせて、基地の航空戦力を片っ端から吹き飛ばしていく。
(ヘリはどこだ!?)
月丘はホバリング走行で格納庫を片っ端から探索し、ヘリコプターを探す。
つまりは逃亡用の航空機を破壊しておこうというわけだ。
その時、逃亡しようとするヴァヘディ将軍を捕捉できたらラッキーである。
(!? あった!)
月丘の眼前に、イランが独自開発したティルト・ローター式の航空機が一機駐機してあった。もうあきらかに将軍用の機体である。
即座に破壊しようと二〇ミリ速射砲を構える月丘ローダーM型。
だがその時月丘のローダーは、真横から強烈な砲撃を食らって、吹き飛んだのだった!
「うぉあっ!」
シールドが効いて、ふっ飛ばされただけでとりあえず済んだ月丘だが、今の一撃は、一二〇ミリクラスの徹甲弾だ。こんなの食らって無事なコマンドローダーもすごい、というか事象可変シールドの防御力もすごいが、流石に今の一撃でM型ユニットがおシャカになってしまった。
「クソっ! プリちゃん、攻撃を喰らいました! M型ユニット切り離してL型モードで対応します!」
『大丈夫!? 今そっちに行くね! って、うわあ!』
と、プリルの叫ぶ声で通信が切れた。
「どうしました!? プリちゃん!」
バイタルメーターを見ると、撃墜されたわけではなさそうなので、通信機に一時的な障害が発生したか? だが、攻撃方向を見ると、敵もこのような状況を見据えていたのか、切り札を出してきていた。
それは、あのアフリカで対峙した、中国製最新機動戦車、『TZ-335』が、なんと三台も接近していたのだ!
「え? なんであんなのが三台も!」
月丘はL型ローダーの標準武装であるリパルションガン、つまり斥力銃で応戦するが、電磁装甲を搭載したコイツにはいまいち効き目がない。
「(困りましたね! RPGあたりが、どこかに落ちてたらまだやりようがあるのですが! やはりローダー付きとはいえ、プリちゃんと二人で突入は無謀でしたか!?)」
主砲と車載機銃をぶっぱなしてくるTZ-335。イラン軍はこんなものまで仕入れていたのかと、あらためて舐めてかかってはいけない国だと思う月丘。
だが流石に機動戦車三台相手は分が悪く、囲まれた月丘だが……!
なんと、一台が片側二脚をいきなり爆散させて、横転したではないか。
さらにもう一台も、砲塔側面に、何かエネルギー弾のようなものを食らって、行動を停止し……キューポラハッチから、イラン兵が飛び出して、緊急ロープを出して脱出しているではないか。
そのTZ-335は、しばし後に吹き飛んでしまった。
「はえ? ど、どういうことですか?」
と唖然とする月丘に、なんかアラブ人風の、兵士の格好したヒゲモジャ男性が突如として現れて、
「あー、やっぱり私は軍人の経験がないからイマイチアタリが悪いですわねぇ……」
と最新のRPG兵器を肩に担いで、そんな事を仰る。
そんな見たこともない、知らないヒゲモジャオッサンに月丘は、
「え? あ、あなたは……」
「あらカズキ、あぶなかったわねぇ」
と、むさ苦しいアラブ人オッサン風から、その男はモーフィングして、別の姿へと変身する。で、変化したそのオッサンは!
「ス、スタインベックさん!?」
「カズキ、元気してた? お久しぶり。あ、そうそう、あっちにもお友達きてるわよ」
「え?」
次に現れたのは、見たこともない機動兵器が急に爆炎の中から現れ、それがまたモーフィングして人の姿に……その姿は民族種族ごっちゃの女性型の……
「シ、シグマさん!」
『ツキオカカズキ、迂闊だぞ、危なかったな。間に合ってよかった』
「い、いやまたどうして??」
するとスタインベックが、
「いやね、シグマさんがセルメニア時空体を代表して、ちょっと三次元世界の地球を直に見聞したいって言ってね、そこで色々彼女が見聞きして分析できたら、とりあえず私の紹介でカシワギ総理と、今後の彼女達の同化融合に協力してほしいとか、ご相談に上がろうかって、まあそんな感じでちゃんと挨拶しておきたいっていうから、私が三次元世界のアドバイザーで、付き添ってるわけなのよ。ならいきなりこんな状況をシグマさんが察知しちゃって、来てみたらカズキが大ピンチでしょ、シグマさんも柄にもなくあわてちゃってね」
「いやいやそんな、あ、まあ有り難いですけど、え? 柏木さんと会談?」
全然状況が飲み込めない月丘先生。しかしこんなのは序の口で、連絡が取れなくなったプリ子ちゃんは……
『きゃあああ! なんでイランがこんな装備もってるのよっ!』
こちらはこちらで、型落ちのロシア製機動戦車POT-106に包囲されて進めないプリル。
『こんなキドーセンシャいっぱい用意してっ! こんなのがあるんなら、ヂラール戦の時に投入しなさいよっ!』
まったくもって仰るとおり。つまりヴァヘディ将軍は、わざとこういう最新装備を出し惜しみして、イランの最高権力の尖兵である革命防衛隊をモンスターフラワーに潰させて、イスラム法上層部を失脚させて軍事政権をやらかそうと狙ってたわけである。こんな時に、そんな陰謀を垣間見るプリル。
POT-106の砲撃と、直協につく兵士の小銃攻撃、RPGに流石のシールド完備のM型ローダーも、追い詰められるわけで、
『あ~ん! カズキサンと連絡できないよー。クォル通信機が壊れちゃったかなぁ~』
それでも流石はティ連技術完備のM型ローダーで、この攻撃にも持ちこたえてはいる。
が、その時、眼前のPOT-106が突然背部から爆炎上げて吹き飛んだ!
慌ててキューポラハッチから飛び出てくる戦車兵。
直協の兵士も逆方向向いて、小銃を撃ちまくっているが、途端に兵士の体に電撃が纏い、昏倒していく。
『え? どういうこと!?』
すると爆炎の中から、阿修羅観音のようなシルエットの、美しい女性が姿を現した!
『あ、あれは! ……カイアちゃん!?』
するとその六本腕の女性は微笑んで、
『久しぶりだプリ子。危なかったな、間に合ってよかった』
『え? え? どうして? カイアちゃんはネルドアカイアになって、ザンドアサンと一緒にワームホールの向こうへ……』
『まあ、早い話がネルドアとザンドアの修復も終わってな、一段落ついたので帰ってきた。そうそう、スタインベック様と、シグマ様も一緒だ。あ、プリ子はシグマ様の事は知らんか』
『ケ、ケラー・スタインベックって、セルメニアサンになっちゃたあの人? シグマサンっていうのも、カズキサンの報告書に書いてあった……』
と、そんな驚きの再会の中、カイアはプリルのクォル通信機が壊れていると見るや、チョンと触って通信機の機能を復活させる。
『プリ……プリちゃん! 応答して! 大丈夫ですか!』
『あ、カズキサン! 聞こえるよっ! ちょっとピンチだったけど、カイアちゃんが助けてくれたの!』
『ああ良かった、合流できましたか。こっちもスタインベックさんからプリちゃんを援護するためにそっちにカイアさんが行ったって聞いています』
するとカイアが、それはそうとと、
『お前たちの任務は情報省のデータバンクを見せてもらって既に知っている。その将軍とやらを確保するのがまずは最優先だろう。感動の再会に土産話はその後だ』
『あ、そうだね……で、カズキサン、そっちはどうだった?』
『こっちの機体はダミーですね、それらしい生体反応がありません。もしかしたらハメられたかも』
『ええ~、でもここまで抵抗されるんだから、何かあるって絶対!』
するとカイアがつま先立ちして、遠くを見て、
『プリ子、あれはなんだ?』
『え?』
基地からかなり遠い位置にあるボロ小屋。そのボロ小屋の屋根が吹き飛ぶように空いて、そこからロシア製のメテオール機動戦闘機が垂直離陸しようとしていた。
『……ズーム映像だ。こんな男が乗っているぞ?』
ぷいんと、VMCモニターを立ち上げて、カイアの能力でその機体のコクピットを最大望遠で映すと、複座のシート後方に、ヴァヘディ将軍が乗っておられるではあ~りませんか!
『あー、このやろー! カズキサン! あのヤローが機動戦闘機で逃げるよっ! 追いかけなきゃ!』
『なんですって! ここで逃がしたらちょっと失態です。でもこっちはM型ユニット壊されてしまったし……』
すると、VMCモニターの向こうで、シグマが、
『その飛翔体を追いかければよいのだな? ツキオカカズキ』
『ええ、まあそうですが』
『わかった』
といって、なんか某機動兵器アニメにでも出てくるような、下駄型飛行機にシグマはモーフィング変形してくれたり。
『あ、これは! 助かりますシグマさん!』
『んじゃ、私もお付き合いしますか』
と一緒に乗るスタインベック。いつもの格好で。
『プリちゃん、追います! カイアさん、プリちゃんをお願いします!』
『了解だツキオカ……では私も』
カイアも台座のような形の航空機にモーフィングして、プリルに乗るよう促し、その場から飛び立つ!
そして国際手配の犯罪者を追っていく…………
二〇二云年のそんな日常。
めぐる因果のめぐり合わせで、より良き縁で紡がれた人々の形。
彼らの乗る航空機の白い曳航は、広い中東の抜けるような青い空の彼方に飛んでいく。
ヂラールという究極の災厄から復興しつつある世界において、まだまだこの地球も、地球世界らしいそれまでのフォーマットのような戦闘に紛争、テロなんかも発生するわけで、社会が程よく安定するまでには、まだしばらくかかりそうだ。
それでも時空を超えた災厄にくらべれば、まったくもって平和な世の中の範疇である。
柏木真人やフェルフェリア、月丘和輝にプリル、シエに多川、シビアにネメア、シャルリにセルカッツ、白木に大見、パウルに高雄。そして二藤部に三島、リビリィ、ポル、ナヨクァラグヤ、ジーヴェル、スタインベック、カイア、シグマ……
そんな人の縁が時空を超えて物語として語り継がれる時、大いなる泰平がそこに完成するのだろう。
銀河連合日本、そしていつか来るべき時、そこに加わるかも知れない銀河連合地球連邦。
そこに至るには、まだちょっと時間がかかるかもしれないが、彼らの活躍は悠久に続いていくのである。
そして……
創造主、因果に知ろしめす。
なべて世は
泰平なり。
銀河連合日本 The Next Era ~完~
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読者皆様、銀河連合日本シリーズをご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。
さて、本シリーズ第二部である、『銀河連合日本 The Next Era』も、第八八話で、最終回を迎えることとなりました。
長い期間、ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございます。
拙作の第一部、『銀河連合日本』を、小説家になろうに初めて投稿しましたのが2013年のことで、星海社様から書籍化させていただきましたのが2016年。その間に本作『銀河連合日本 The Next Era』として第二部をコツコツと書かせていただいておりました。
で、この第二部のほうは、星海社様との契約上、書籍化はなりませんでしたが、第一部で描かれなかった設定の回収も含めて、ほぼ月一回掲載という形で、続編をのんびりと描かせていただいたわけであります。
【ちなみに現在、『銀河連合日本 The Next Era』は星海社様のパブリシティには入っていませんので、書籍化にご興味のある出版社様はご連絡いただけたら大変うれしいです(笑)】
と、まあそんな感じで、第一部の『銀河連合日本』は、現在も書籍版、電子版と購入していただいている方も多いようで、大変ありがたい限りです。ありがとうございます。
思えば第一部は、当時の日本をとりまく世界情勢のポジティブ、即ち今後期待できる日本の希望とも言える部分を擬人化、それをフェルさんのような異星人にして、この日本のパラレルワールド的な作風での思考実験的な物語として描かせていただきました。
そして当時、第一次トランプ政権という予想だにしない世界に突入し、今後のパラレルワールドの描き方が少々わからなくなたったために当時は第一部の筆を置かせていただきました。
そして、その後のキャラクター達の物語を描いたAge Afterシリーズで、番外編を書かせていただき、これも書籍化させていただきました。
で、第二部において、第一部で回収できなかった設定を回収する形で、この第二部では世相の批評的演出のような思考実験などは極力控えて、純粋な空想科学小説という形で、壮大な次元時空活劇として描かせていただきましたが、どうだったでしょうか?
まあ、第二部は小生の好きなように書かせていただいたところがありますし、また、第二部という性質上、第一部を読まないと設定の続きがわからないということで、PV数も第一部ほどではありませんでしたが、それでも高いPV数をいただき、安定したファンの皆様のご愛好もいただいて、ここまでの設定も回収できたと思います。
これで柏木真人やフェルさん、そして月丘和輝にプリル達の物語は、すべて終了いたします。
足掛け約12年のお付き合い、誠にありがとうございます。
……とはいえ! まあお正月のオマケシリーズや、なにか政治や世相に何かあったときの批評シリーズなどは続けていきたいと思います。(たま~に更新シリーズ)
そういうことで毎度の通りシリーズに蓋はしませんので、その点は今後もよろしくお願い申し上げます。
ということで、長きにわたり大河シリーズの本作をご愛読いただきましてありがとうございました。
銀河連合日本シリーズは、これにてオール・ジ・エンドとなります。
また新作でお会いしましょう。
んで、Xでも毎日ボヤいてますので、お付き合いください(笑)
柗本保羽




