【最終章】第八四話 『 ザンドアとの邂逅』
地球圏に現れた巨大なマスターヂラール、コードネームを『ダークスター』と呼称されたが、そいつが作った巨大なワームホール。
そこに突っ込んだ月丘達だったが、それを誘った正体不明の存在になった……のとちゃうかいなと思われる、かのエドウィン・スタインベックの言葉に乗って、いま眼前に見える、ペルロード人のほぼすべてが崇拝するセルメニア教の総本山であり、惑星ペルロードの第一衛星である『衛星ザンドア』に向かう月丘達一行。
それは自律的に移動もできるという、恐るべき衛星なのだそうだ。
その聖殿とやらにスタインベック御大は、月丘達に突っ込んで着陸しろという。
「スタインベックさん、あなたの言葉を……まあこの際ですから信用してますけど、本当に接近して大丈夫なんですよね」
<<ええ、問題ないと思うわ>>
「思うわ、って……断定してくださいよ、ったく……」
<<フフフ、でカズキ、私のことを“エド”って呼んでくれてたにのに、なんで今回はそんな他人行儀なの?>>
「ええ? あぁそうですね、って、やっぱり大企業の会長さんで、そんな頭の中に感応波で喋ってくるような方に“エド”はないでしょ。なのでスタインベックさんでいきますよ。なんかそっちのほうがいいです」
<<はいはい、わかったわ>>
まあ流石に自分が『彼にとっての命の恩人』とはいえ、ここまでのVIPさんにエドはないだろうと思ってた月丘。ま、スタインベックが妙な存在になってる分、丁度良いかと思ったりする。
で、スタインベックの発する感応波は、プリルはもちろんカイアやジーヴェルにも聞こえているようで、ジーヴェルが、
<<あの、スタインベックさん、少しよろしいですか?>>
<<ええどうぞ、ってハジメマシテになるかしら、スーパーヒーローみたいな異星の方>>
<<ははそうですね、そのスーパーヒーローっていうのがよくわかりませんが、よろしくお願い致します。僕はタウラセン人のジーヴェルと申します。ニホン国では悠永光志と名乗らせてもらってます>>
<<あら、良いお名前ね。で、なにか質問かしら?>>
<<はい……このまま進むのは良いのですが、これだけの規模の惑星型施設です。ヂラールの迎撃がない保障はあるのですか?>>
<<ええ、そこは大丈夫よ。まあ言ってみれば、私が貴方がたを『ヂラールの味方』とあの連中に言っといたから、って言えば納得してもらえるかしら?>>
その言葉に月丘三人は「ええっ!?」と驚愕する。それはそうだ。カイアはこの言動を重要データとして記録していた。
「どういうことですか、スタインベックさん!」
<<だから、そのあたりをお話するために、あそこへ行くんでしょ、早く行きましょう>>
「え、ええ……」
実際、ジーヴェルと栄鷲、そして一飛行隊規模の無人ヴァズラーにヴァズラー・アウルドは、宇宙空間で漂うように完全に静止したヂラール達……そこには、かのリヴァイタ型宇宙適応タイプや、各種艦船タイプのヂラールに、戦闘機型、攻撃型、大型兵士型など様々な、もう西洋のSFアトラクションなホラーハウスにでも入っていくような非常識極まる光景が、コクピットの全周立体映像に展開されながら、月丘達は衛星ザンドアに向かって、一直線に進んで行く。
* *
ボツワナ共和国の例の場所。地下二〇〇〇メートル。
スタインベックがこの地下にあるトーラルシステムの開けたゲートに吸い込まれんた……というより、消滅したという表現のほうが本来正しいのだが、まあそんな状況になったあとの事。
パイド・パイパー社はスタインベックの言葉に従って、このトーラルシステム遺跡研究部門の人員をそっくりと日本政府に引き渡した。もちろん研究状況は都度でパイド社に報告するという覚書を交わしての話だが、パイド社の研究部門がそのまま日本政府の安保委員会管轄の各研究機関に分散して配置というのも効率が悪いので、このパイド社の研究機関は当面ヤル研が預かることになった。
『……トなると、この再生しちゃったトーラルシステムも、ちかいウチにこの場所から運び出して移設しなきゃなんないですね~、ケラー・サワタリ』
と、早速諸々研究の手伝いのために、東大から派遣されてきた無敵の美少女イゼイラ賢者で将来創造主のニーラ教授大先生。
「ブツブツブツ……」
研究室に来たばかりで、色々資料を精査しつつ、沢渡に話しかけるニーラだが、先日、スタインベックから日本政府に譲渡された『地平の向こう側』とアレマン語で表題が書かれた分厚い書物を読みふけっている佐渡に、ニーラの言葉が全く耳に入っていない。
ちなみに、この書物、アレマン語やドイツ語、英語で色々書かれていたりしており、但し書きにポンチ絵みたいなのはPVMCGで翻訳ができるのだが、ペルロード語の文字翻訳が実のところスムーズに進んでいない。
カイアが言語資料を提出してくれてはいるのだが、まだ熟語翻訳、意訳翻訳等の実用言語資料の数が圧倒的に不足しており、この部分は後にくるお仲間に任せて、わかるところから色々読みふけって、分析している沢渡であった。
『ケラ~!』
「え!? っておっとニーラ先生。な、何かありましたか?」
『モー、全然人のお話をきいてないですね~、そんなに興味深いご本ですかぁ? それ~』
「ええ、言葉が分かる部分だけでも読んでみると、このトーラルシステムという存在が何者なのか、なんとなくシルエットがみえてきそうな、そんな感じです」
『ほー、それは興味深いですねぇ。私も読みたいですが……』
「ああ、ソレに関しては問題ないですよ先生、この本を本部のハイクァーンで数冊、複製を取らせています。それができ次第、こちらにも転送いたしますので、その時、一冊お渡しします」
『ああそうデスか。それはありがたいですね~……とはいえ、今から“あの方”もいらっしゃるんでしょ? なのでちょっと予備知識を身に着けておきたいので、少し私も読ませてほしいですよ~』
「あ、そうか……わかりました、ではここにお座りになって」
と、ニコニコ顔で要するに『はよ読ませろ』ということで、ニーラも少々書物を拝見。
で、流石は創造主候補のニーラ先生。読む速さも早い早い。
かの速読大魔王の白木ほどではないが、スイスイと指で文字や絵をなぞりながら、ページをめくっていく。
なんでも速読しながら、ゴーグル型デバイスでページもコピーしてるそうな。
と、そんなことをやって、やいのやいのと作業をしていると、沢渡の部下が来訪者の到着を知らせる。
深々と頭を下げるその人物の容姿は、美しい褐色肌で、独特の白い模様が顔や身体に入り、白い頭髪に眉毛等々な姿をした、所謂ゼスタール人姿の、
『はじめましてサワタリ部長、マルセア・ハイドルでございます』
なんと、前ゼスタール連邦議長のマルセアであった。正確に言えば、『ペルロード型トーラルシステム、エルドレアルラロウ・マルセア型システムを使ってレミ・セルメニア化した、ミニャール・メリテ・ミーヴィさんの世を忍ぶ姿』である。
「これは初めまして。こちらで用意したコアの具合は如何ですか、マルセアさん」
『はい、同期の性能は完璧でございます。良いものを御用意していただいてありがとうございます』
ゼスタール連邦の議長を退任後に白木が情報省内務局副局長兼総諜対副班長としてスカウトしたマルセアである。とはいえ、別宇宙にいたマルセアがなぜこうも素早く地球に赴任できたか、というと、まあ簡単な話、基本マルセアはナヨと同様システムデータ生命体なので、ゼスタールからヤルバーン・トーラルシステムのバッファに自分のデータを一時転送し、ヤルバーン側で用意したカウサ、即ち仮想生命コアへバッファから転送憑依してこの場に即登場、という芸当をやってくれたわけである。
まったくもってトーラルシステムを作った文明とはスゴイものだが、実のところ、そのすごいものを作った連中の事が、スタインベックの残した『地平の向こう側』という書物に書かれているようだ、と沢渡は分析したわけである。
「で、マルセアさん、あいや、マルセア副班長とお呼びしたほうがよろしいですか」
『ウフフ、普通にお願いいたします』
「はは、そうですか、ではマルセアさん、例のお願いしていた件ですが」
『はい、ここに……こちらにハイクァーンデータで頂いたその書物の、ペルロード語の部分を、ニホン語に翻訳したものをご用意させていただきました』
まあ、データ生命体のする仕事なので、翻訳作業自体は量子計算的に、一気にできた。それこそ数時間のレベルだったそうだ。ただ、マルセア自身もこの本を解析、つまり読むと、その内容にただならぬ興味を惹かれたという。というか、沢渡やニーラがこれから読む以前に、マルセアに解析してもらった時点で、マルセアはこの本のすべての内容を完璧に把握してしまっているわけなので、彼女に聞けばいいじゃんという話になるわけで……
* *
「……やまとHQ、応答せよ、カグヤCP、応答せよ」
『……』
衛星ザンドアに進行する月丘達、だが今まで通信できていた量子テレポート通信が、急に通信不能となった。
「プリちゃん、どうですか? 通信機の調子は」
プリルが栄鷲の機体ステータス表示を見て、
『特に問題ないようカズキサン』
「ふむ、ということは外的要因か」
と進行方向にある衛星ザンドアを見る月丘。
量子テレポート通信、即ちイゼイラ語で『クォル通信』と呼ばれる通信手段が、機器の不調もなしに途絶えるというのは本来ありえないことである。なんせ宇宙の果てから果て、あの世からこの世までをリアルタイムな通信速度でカバーできる代物なのがクオル通信だ。
「ジーヴェルさんはどうですか? 通信できます?」
<<いや、僕の方も無理ですね。量子テレポ系の通信が、機器……僕の場合は、持っている能力ですが、それらが機能不全や故障もナシに使えないとなると、その原因は一つしかありません>>
「というと?」
『あ、ハイハイハイー! 私わかった!』
「はは、ではプリちゃんどうぞ」
『ここは多分別宇宙で、物理法則が私達の宇宙と少し違ってて、その「何か」が作用して、急に通信できなくなっちゃったとか?』
とプリルが言うと、
<<流石プリルさん。恐らく正解です。まあプリルさんが仰る事が原因か、もしくは、あの衛星ザンドア、いえ、聖殿ザンドアが量子テレポ通信機器の何らかの機能を阻害する影響力をこの宙域に展開しているか……というところですか>>
『あ、そうか! クォル通信の機械の機能自体を妨害するなにかの行為があれば……確かにそちらのほうが確実だもんね! さすがジーヴェルさん』
<<はは、いえいえ>>
まあおそらくそういう事だろうと結果が出ると、月丘は、
「どうですか? スタインベックさん」
とどこにいるかわからないスタインベックの“存在”に話しかけると、
<<そんなの私がわかるわけないでしょ。私は経営者で科学者じゃないんだから>>
ちゃんと聞いていたようだ。
「なんですかそれ……って、そんなワケのわからない存在になるからてっきりコレぐらいのこと知ってると思うじゃないですかぁ、もー」
<<ごめんねぇカズキ、あでも一つこの空間でわかってることはあるわ>>
「なんですか? それは」
<<多分、その通信不良の原因の一つかもしれないと思うんだけど、この空間はご覧の通り、ワームホールがそこいら中にあるでしょ、なのでこの広範囲に渡る宙域は、時間の流れがメチャクチャだってことは覚えておいてね>>
え? と思う月丘。それを早く言え! と憤るわけだが、ジーヴェルが言うに、
<<スタインベックさんに言われるまで気づきませんでしたが、確かにコレだけのワームホールがあれば、時間の流れが一定ではないのは頷けます>>
と、スタインベックを肯定する。とはいえ、もうそんなことこの際いちいち気にしても仕方がないし、よくよく考えると敵ヂラールも地球やティ連宙域のような通常空間にヂラール軍団を送り込む必要性もあるわけだがら、そこまで大きな相対時間の差はないだろう、と思いたいが、まあ今は思うだけである。そういうことにしておかないとこの先続かないわけで、
「まあ今はそのことは気にしないようにしましょう」
『デスデスね』
<<確かに>>
ということで、目的地の衛星ザンドアが大きく視界に入ってきた。
ここまでとりあえず何事もなく、宇宙空間に漂う静止したヂラールの群れをかいくぐりながら、ザンドアの衛星軌道に到達。
「このまま着陸体勢に入っても大丈夫なんですよね? スタインベックさん」
<<ええ、どこに着陸したらいいかまでは私もわからないけど、どこに行けばいいかは誘導してあげるわ>>
「なんですかそれ。こんなとこまで誘っておいて、駐車場ぐらい用意しておいてくださいよ」
<<文句言わないの。ほら、プリ子さんをちゃんとサポートしてあげなきゃ>>
「あなたにいわれたくないですよっ!」
衛星ザンドア、いや、衛星クラスの大きさのセルメニア教宗教施設、『聖殿ザンドア』に降り立つ月丘。
衛星表面上には特に何も見えない。遠縁で見えた衛星の色、つまり紫色がかった色は、恐らくこの衛星の大気成分だろうということが推察される。測定すると、所謂、宇宙服がいる大気構成だった。
月丘達が降り立った場所は、特になにもない荒野のような場所。何かに喩えろと言われれば、月か火星の、開発される以前のかつての表面か、そんな場所である。あるのは岩石だけで何も無い。
ただ、ジーヴェルが言うには、
<<ツキオカさん、この星からは、人工的な周波数の波動が多数観測できます。通信か、何らかの施設が稼働した時に発生する電磁波か放射線か……>>
「ということは、本丸は地下か……カイアさん、あなたのデータでこの星に関することは?」
『否定。私はこの聖殿を制御するトーラルシステムより、かなり階位が低い。この星の内部構造は、私も知るところではない』
「そうですか……スタインベックさん?」
<<私もこんな存在になったけど詳しくはわからないわ。ただ、どこにあなた達を連れていけばいいかは教えてあげられる>>
「はあ……というかなぜそこはわかるのですか?」
<<まあ私もペルロード人の末裔でしょ? 当然我が家にはそういう資料が代々あるのよ。その資料は今、ヤル研のミスター・サワタリに差し上げたから、ソレを解析すれば、通信ができない今の状況でも、こちらの状況はイメージできると思うわ>>
はあなるほどど月丘は察した。その謎なスタインベック家の家宝みたいなのが原因で、彼はこんな状況になったのかと。
とすれば、と月丘が思うのは、あのボツワナの地下にあった遺跡のトーラルシステムも、おそらくはペルロード人由来のものかと。
<<では、そろそろ行きましょうか、カズキ>>
「わかりました……とはいえ、栄鷲と他の無人機をこの場に置きっぱなしにというのも……」
と周囲をサーチすると、大きなクレーター状になっている適度な広さの場所を見つけた。
その場所に機体を移動させ、臨時空港にして駐機させる月丘。
「では降りましょうかプリちゃん」
月丘は栄鷲のハイクァーン機能を使って、毎度の銀ピカ月丘ローダーを造成して身にまとう。VMC造成でなく、ハイクァーン造成にしたのは、万が一、PVMCGのパワーを切らした時に、ローダーの造成が解けたら最期だからだ。ハイクァーンで実物造成しておけば、あとはPVMCGからパワーを供給できる限り、ローダーの稼働は最低三〇〇年保証できる。
プリルも同じくハイクァーン造成でプリル専用のM型コマンドローダーを装着する。
で、ジーヴェルはというと……
「どうも」
「え? ジーヴェルさん、あいや、悠永さん!? 宇宙服はっ!」
毎度のジーンスジャケットにデニムパンツ姿の日本人、悠永光志さんが、有毒な大気のこの星に宇宙服も着ずに素の姿で大地に立つ。
「私はこういう姿で、この星の環境にも適応できますからご心配なく。あちらもほら」
『……』
六本腕で別嬪さんの仮想生命アバター姿なカイア10986も素の姿で機外へ出ていた。
「ああそうか、そうでしたね。心臓に悪いなぁもう……で、さて……スタインベックさん、皆さん準備が整いましたよ。どうなさいますか?」
<<了解ね。では、転送するわね>>
「転送?」
<<ここから地下に行くなら、転送しか無いでしょ?>>
「何処かまで移動して、何か施設がカモフラージュで隠してあって、そこからエレベーターでというわけではないのですか?」
<<スパイ映画じゃあるまいし、そんな潜入はしません。ここは私に任せて>>
「(私はそのスパイなんですけどね、ブツブツ……)」
とそんな事を言っている間に、四人は、衛星ザンドアの地表から光の柱となって姿を消した。
* *
総理官邸、危機管理センター。
大きなVMCモニターを展開して、ボツワナの地下とを通信で繋ぐ。
VMC画面に顔が映るのは、ボツワナ側の地下研究所会議室にいる沢渡と、ニーラとマルセアである。
今回のボツワナ遺跡において、石化していたトーラルシステムが復活した経緯と、スタインベックが託した書物の内容を、日本国総理大臣、柏木真人に報告する沢渡。
「まさか、そんな事が……」と驚愕顔の柏木総理。
『ソレは……もし本当なラ、チキューだけのお話では済みませんデスね……』と科学者としての立場でも驚くフェル副総理。
「これが事実なら、これまでの地球の歴史がひっくり返りますね」と二藤部。
「沢渡さん、こればっかりは冗談では済まされませんよ」と厳しい目つきの白木。
その他防衛関係者や、官僚達も驚きの表情に混ざって、怪訝な表情も見せる。
モニターの向こうの沢渡は、
『とりあえず、この書物と、関連するこのトーラルシステムがとんでもないものという事をまず理解していただきたく、一発目にこのお話をさせていただきましたが……なんといいますか、今、マルセアさんがこの本の内容を翻訳していただいたついでで、全部把握して頂いている状況なのですが、トーラルシステムを擁する文明全体にいえるレベルの話につながると思われますので……まー、どういう順番でお話してよいやらで……』
顎に手を当てて、毎度の考える目をする柏木。数十秒目を瞑って思考して……
「沢渡さん、とりあえずまずはそのお話から進めましょう。そこから掘り下げたほうがわかりやすそうだ」
『わかりました。では、このトーラルシステムとは、一体何モノかという点から、わかってきたことを報告します』
頷く危機管理センターの諸氏。
『まず、このトーラルシステムというものは、この書物に記されている通りの解釈で表現するなら、本来の目的は【生物、生命の進化を促す機械】という解釈ができると思います』
「!! ……どういうことですか?」
『私からお話するより、この本のペルロード語を翻訳していただいた、マルセアさんから……あいやそうですね、ミニャールさんの立場で説明して頂いたほうが良いでしょう……マルセアさん、お願いできますか?」
『畏まりました……まず、私の正体が、ペルドリア聖教国の科学者、ミニャール・メリテ・ミーヴィであるということを前提としてお話を進めさせていただいてよろしいのですよね?」
と彼女が柏木に問うと、もちろんということで、
『承知いたしました。ニホンの方や、ティ連の皆様は以前より、私達ペルロード人をお調べになった時、私達がこのトーラルシステムをいろいろな惑星に設置しているのではないか、と、そういう予想をしてらっしゃったようですが』
「ええ、その通りです」
マルセアは頷くと、
『この本には、その点も明記されていまして、私達の身分より上位の階層、つまり第二階層以上のセルメニア教信者しか知らない事実なのだそうですが、所謂、未開の惑星にトーラルシステムを設置する“使命”というか、“任務”のようなものを、上位階層の方々は負っていたようです』
つまり、マルセアが言うには、ペルロード教団の上位階層の連中が、トーラルシステムを未開の惑星、つまりまだ文明が勃興していないような、地球で言うところの原始時代のような惑星に、所構わずばらまきまくっていた、という事らしい。
「それは、セルメニア教の教義の布教のため、というようなものなのですか? マルセアさん」
『マサトサンマサトサン、それはちょっとオカシイですよ。まだ知的生命体がいない状況で、トーラルシステムをオキッパにするんですから、布教も何もないじゃないデスか』
「いやフェル、よくかんがえてごらんよ。フェル達も昔ファバール隊長達が知的生命体として初めてトーラルシステムと接触した時、それを超常的なものと最初は思ったんだろ?」
『オソラク……』
「じゃ、まあ~、それって一種の布教だよな」
『マア、そう言われればソウですけど』
「うん、で、マルセアさん、このフェルとの今の話ですけど、要はそういう事も目的にあったのでしょうか?」
『申し訳ありません、そこまでの記載はこの書物にはないようです。ただ、相当な数を宇宙中にばらまいているようなので、もしトーラルシステムの恩恵を受けられる状況の文明があれば、何らかの目的を持ったセルメニア教の目的を達成しているという解釈は可能だと思います』
幾度と頷く柏木総理。
「ま、そこは今、あのワームホールに偵察に行っている月丘君達の情報も併せての話だな……」
すると白木が、
「だが、いま音信不通だ。どうも量子テレポート通信の、機材側の不調ではないかという話だが」
「カイアさんは、こちらに帰還しているの? 今、ナヨさん達と同じ状況であの人も動いてるんだろ?」
「あ! そ う い え ば……」
「大丈夫なんだ」
「ああ、そうみたいだな」
「ならまだ心配することはないだろうさ」
確かにそうだ。ワームホールの向こう側にいるカイアが、地球側のホストと量子テレポート的な接続をしているわけだから、もし向こう側と通信の完全な遮断が発生すれば、カイアだけこちら側にその意識が帰還しているはずである。
ということは、トーラルシステムのなんらかの補正機能がはたらいてカイアは向こうに仮想生命状態でいられるわけ、ということだ。
「で、沢渡さん、次にその、トーラルシステムが【生物、生命の進化を促す機械】という点ですが、そこもやはり先程の話にあった未開の星にこのシステムを設置していっているセルメニア教の目的と関係が?」
『はい、その点についても今回発掘したここにあるトーラルシステムとの関連性で、合点がいく点が少しありまして』
柏木は、今も健在の“偏った知識”を絞り出して、
「進化を促す……ということは、【ミッシングリンク】と関係があるとか?」
『お、流石ですね総理。よくご存知で』
「いや、以前少しその遺跡の件で聞いた、“化石化して朽ちていた状態”のトーラルシステムの年代が、ボツワナっていう場所と併せれば、そういう答えも出てくるかなってですね」
つまり、柏木がいいたいのはこういうことだ。かいつまんで言えば……
人類の発生は科学界隈でこのボツワナ周辺であると言われている。所謂『アウストラロピテクス』というやつだ。
だが、二十万年前ぐらいに、今の人類の直接のご先祖で、高度な知能を持つホモ・サピエンスが出現する。だがそれまでの間の人類の進化は、意外に化石資料などが少なく、というかほとんど無く、その過程にかなり不明瞭な点が多いと言われているのである。
「え? ではそのホモサピエンスが登場するきっかけを作ったのが、そのトーラルシステムの存在かもしれないと」
『はい、可能性は十分あるような記述が、この本に書かれているそうです。ね、マルセアさん』
『左様ですね』
ふーむ、と考え込む柏木。というか、実際このミッシングリンクの話には、眉唾な都市伝説的な話として、『宇宙人が原始人を遺伝子改造した』とか、『実は今の現人類は、宇宙からやってきた宇宙人が祖先だ』というような話はまことしやかに言われてはいたのである。そのぐらいの不思議進化をしているのが、今の人類だ。
「コレが本当なら、生物学や考古学的にも一大事な話だが……なあフェル」
『ほいデス』
「フェルのティ連でも、こんな話って、考古学や生物学の分野で、出てたりしないの?」
『実はデスね。アルんですよ』
「あら、やっぱり?」
柏木は、一〇年以上前にフェルと知り合った頃を思い出す。確か、当時の駐日米国大使ドノバン女史と会食していた時に出た、フェル達イゼイラ人の進化の話だ。
彼女達は、地球で言う大型の始祖鳥のような鳥類的生物から進化した種族で、その今のイゼイラ人になる直前の、原始イゼイラ人の想像図も見せてもらったことがある。まあ想像図といっても、骨格標本から割り出した、イゼイラ超科学的なもので、ほぼ間違いないものなのだが……
『実は、私達の考古学調査でも、あの時の想像図から後の進化過程を証明する化石のようなものが、全然見つかってないのデスよ、私達イゼイラ人は』
「本当なのか!」
頷くフェル。一〇年前のあの時は、そんなこと気にもしていなかったが、いざこういう事由に関わると、フェルの口から出る話も『なんであの時、聞いとかなかったのだ』というよくありがちなことになったりするわけだが……
(ペルロード人の高等幹部な信者達は、生物の進化が活発な惑星にトーラルシステムを設置しまくっている、か……うーん、何か彼らに利益があるからやってるのだろうけど、なんでまた……)
柏木は彼らか実験か何かをやってるのかとも思ったが、それにしても実験するなら、別段宇宙中にトーラルシステムをばらまく理由はないじゃんとも思う。
まあ、深い理由を突き止めるには、やはり……
* *
衛星ザンドア地下。
「……」
月丘達四人はスタインベックの意思に連れられて、衛星ザンドアの地下に転送された。
「まさかこんな景色が」と漏らすはジーヴェルこと悠永。
『大気の組成はっと……うん、大丈夫みたい』とM型コマンドローダーの頭部バイザーを開けて、大きく深呼吸するプリル。月丘も銀ピカローダーのフェイス部分をカシャカシャと開けて、素顔をさらす。
「これがこの星の地下ですか……」
と月丘は周囲を見回す。彼はてっきり巨大な鍾乳洞のような典型的な地下風景を思い描いていただけに、この情景は意外だった。
その景色……真っ白で巨大な空間に、白く薄いモヤのようなものが立ち込める。
一帯には見た感じ何も無いが、霞の向こうに、何か建造物のようなものがポツンと見えなくもない。
「カイアさん、周囲を探索できますか?」
『すでに行っている。この場所から約一きろめーとるほど先に構造物がある。それ以外は特に探知できるものはない』
「そうですか……って、あれ?」
と月丘はちょい考えて、カイアをじっと見つめる。
『どしたの? カズキサン』
「あいや、確かクォル通信って、今使えないんでしたよね?」
『うん、って、あ、そうか!』
そう、月丘もカイアが通常作動している点に気づいたのだ。
『カイアちゃんがここにいるってことは、私達の宇宙と通信するの可能は可能なんだ!』
「ということですね。そのあたりどうです? カイアさん」
『肯定だが、実際のところ、かなり私の存在は現状不安定である。コアにはメインシステムの一部を複製させたものを、メインフレームと同期させながら稼働させてはいるが、その同期もかなり不安定なのは確かだ』
「そうですか、やはりそのあたりもこの宇宙空間の組成に影響が」
『そう理解するが、原因が特定できれば、我々の宇宙空間との連絡を回復できる見込みは十分にあるだろう』
「わかりました。ではカイアさんはここで見たことを可能な限り地球にあるトーラルシステムのメモリーへ送るように努力してください。そうすれば、我々が健在なのも向こうに伝えられるでしょうから」
『了解した』
とりあえず地球側との連絡は一安心できると思う月丘。で、残るは……
「スタインベックさん! いますか!?」
「はいここに」
後ろを振り返ると、スタインベックがいつもの姿で立っていた。
「うわぁああああ!」
プリ子にあの悠永ものけぞって驚く。まるで幽霊にでも遭遇したよう。
「失礼ねみなさん。そんなに驚くかしら普通」
「いや、驚くでしょ!」
まあとにかく、対面できて嬉しいとおっしゃるCEO。悠永とはお初なので握手なんぞ。名刺なんか渡してたり。
で、スタインベックの今の姿は、毎度のカジュアルな格好で、いつも見慣れたような服装である。ということはということで……
「スタインベックさん、あなたもしかして、レミ・セルメニアになったとか。ってわかります?この言葉」
「ええ、知ってるわ。私もこの姿になって、色々と得た知識もあるし」
え? と思う月丘。その返ってきた言葉に質問しようとすると、
『スタインベック様、あなたはレミ・セルメニアではありませんね』
と、カイアが先に敬語モードで問う。その言葉に月丘は、
「どういうことですか? カイアさん」
『ナヨ様や、ミニャール様のように、ニューロンデータから昇華していない。そしてその存在は恐らくトーラルシステムの能力で変換されたもの。その存在は極めて、あの「スール・ゼスタール」という存在に近い。更に我々がここに来るまでの道中の、あの意識的な存在でいられるという状況を考えるに、導き出される結果は恐らく……』
「そこまでよ、ミス・カイア。それ以上は今言ってはダメ」
と、その言葉の続きをスタインベックが封じる。するとカイアはいとも素直に
『畏まりました猊下』
「猊下?」
カイアがスタインベックを猊下呼ばわりすることに驚く。が、まあそのレミ・セルメニア以上の存在となったんじゃないかと予想されるこの御仁であれば、そういう呼称になるのかなぁとも思う月丘ではあるが。
「では、先を急ぎましょうか、カズキ」
「色々答えが出るんですね? スタインベックさん」
「まあね。でもそれは、相応しいところで見聞きしなきゃね」
と先ほどの構造物らしきものが見える方向を指差す。
「わかりました、では……」
と月丘はPVMCGを操作して、毎度の月丘サイドカーを造成し、隣にスタインベックを乗せる。
プリルはM型ローダーの浮遊移動システムで。悠永は自ら飛べるので、そんな感じ。カイアは素体を霧散させてコアになり、プリルのローダーに固着する。シビアやネメアがよくやるヤツだ。
で、みんな連れ立って移動を開始する……
* *
しばし移動すると、直方体をおっ立てたような、真っ白い構造物に突き当たる。
デザイン的には愛想もクソもないような真っ白い構造物だ。言葉通りのものである。大きさは、一般的な商業ビルぐらいか。さほど巨大なものというわけでもないが、小さいわけでもない。
月丘達は、その構造物の周囲を探索するが、ただの白い壁に囲まれているだけで、何か怪しいスイッチのようなものがあるわけでもない。
「ふーむ……センサーには中に何か構造物がある反応を示しているようですが、まあ私達だけなら、ここで以上終了か、この壁をぶち壊して中に侵入するかというところですけど……」
とチラとスタインベックの顔を見る月丘。
「まあそういうことね。でもちゃんと中に入れるから」
と彼が指を鳴らすような仕草をすると、なんと縦長の楕円状に壁に穴が空き、中に入れるようになった。
スタインベックは「どうぞ」というような仕草をする。で、諸氏中に入る。
が、入ったはいいが、あたり一面真っ白で何も見えない。隣にいる仲間も見えない。つまり、真っ暗な状態で何も見えない状態が真っ白で構成されている。
背後の入口となった穴が口をすぼませるように閉まると、その真っ白い空間が晴れて、中の状態が確認できるようなった。勿論仲間達も側にいる。
「なんだかよくわからない……って、これは!」
白さが開けると、見慣れた形状のものが中心に鎮座していた。
それは真っ白な色を基調とした、紛れもないトーラルシステムであった……のだが、あきらかに月丘やプリル達が知っている、いや、カイア自身の本体であるトーラルシステムとも何かが違う。
そのトーラルシステムの周囲には、一重……二重……三重ほどの、ティ連で言うところの衛生カプセルのようなものが、並べられていた。
この巨大なトーラルシステムを囲むぐらいであるから、
「三〇〇は下りませんね。スタインベックさん、近づいても?」
頷くCEO。すると好奇心が勝ったプリルが走って、というか着ているローダーだけに浮いてその衛生カプセル状の物体に近づく。すると、
『キャーー! ってナニコレ!』
月丘達もプリルの驚嘆に駆け足で続くと、その衛生カプセル状の中を覗く……瞬間普通の人なら眉間にシワを寄せるものが入っている。その正体を悠永が、
「これは! ……ペルロード人、いやヂラールの遺体?」
「六本腕ならこの容姿は明らかにペルロード人の外観ですが……つまりペルロード人の変わり果てた姿の遺骸ですか……」
と疑問を呈する月丘。
「容姿はまだ元のヒューマノイド型に近いですね。兵隊型のヂラールとも違う」
「確かに」
その遺体を見て驚いているのは、月丘に悠永、プリ子の三人だけではない。なんとシステムで人格がない、カイアまでも表情を変えている。
『カイアちゃん? 驚いた顔してどうしたの? 何か知ってるの?』
『肯定……』というと、カイアはカプセルに横たわる遺骸を六本の腕で触れると、『……このヂラール状の遺骸は、間違いなく第二階層以上の高僧のものだ』と言う。
「第二階層上の高僧……つまりセルメニア教団の大幹部クラスとその部下ということですか。なぜそうとわかるのです?」
『これらにある装飾だ。着衣は風化しているようだが、金属製の装飾が身についている。理由は不明だが、恐らくヂラールになった後も劣化せずに残ったのだろう』
カイアが言うには、その装飾品は、高位幹部クラスしか身に着けないものだという。
「なるほど……セルメニア教の幹部クラスで、これですか。恐らくこのトーラルシステムの言う通りに崇めて、こんな姿になったのでしょうね」
月丘はしばし腕を組んで考えると、
「スタインベックさん、この眼の前にある大きなトーラルシステムは動いてるんですか」
「それはそうでしょう。でないとこんなところにワームホールをぶち上げまくったりしないでしょうし」
「なるほど……カイアさん、このトーラルシステムとコンタクトを取れますか?」
『ザンドア神殿祭壇猊下とのコンタクトを私が?』
「ええ、そもそもこのシステムは、ここまで私達の接近を許しているのです。恐らく私達を観察しているのでしょう。この高僧さん達をここまでにするシステムですから、私達を敵とみなしているなら私達の接近をここまでゆるすことなんてないでしょうしね。それともこのシステムより偉い方がいらっしゃるからなのかもしれませんがぁ……?」
と月丘はわざとらしい声の抑揚をつけて、スタインベックの方を見るが、彼も月丘の方を見て、ニヤリと笑うだけ。
カイアはしばし沈黙後、
『ふむ、わかった。だが私もザンドア神殿のシステムにアクセスする権限など持合わせていないし、今は立場上タザリア化している身分だ。どうなるかわからない。万が一、オーバーフローを起こす事があれば、コアの破損も考慮に入れなければならない。その時、私は自動的にメインフレームに撤退する処理をされるかもしれないが、かまわないな?』
「すみません、無理をいいますが」
『了解した』
そう言うと、カイア10986は瞑目し、何かとコンタクトを取っているようであった。その姿は国宝阿修羅観音像の如し、一対の掌を合わせ、他の腕は横に広げるように構えている。
しばし待つと……
『ンッ!』
カイアが目をカッと見開き、月丘を見る。
「カイアさん!?」『カイアちゃん!』
即座にカイアに起こった異常に気づく月丘達。悠永が二人の前に立ち、月丘達をかばう姿勢を見せる。スタインベックは腕を組んでカイアを凝視していた。
『ツ、ツキオカ……』
「はい!」
『私は、ここまでの……よ、ウ、だ』
「え?」『どうしたのカイアちゃん!』
『シス、テムを……侵食され、る……コアが、乗っ取られる……私は、コアを……切り離す……』
「なるほど、やはり階層システム的に無理がありましたか、すみません! カイアさん、かまいません、システムを離脱させてメインフレームに退避してください!」
『了……解……した』
とカイアは言うと、事切れたように合掌を解き、項垂れる。と同時にカイアは空中に浮かぶと……
「大丈夫よ、カズキ」
「スタインベックさん? どういうことです」
「ここまでは私も折込み済み。どのみちカイアさんでないと、あのザンドアのシステムへスムーズにコンタクトは取れなかったでしょうから」
「でも、大丈夫ってどこが? ……」
「そこはここから私の出番だからよ」
「え?」
空中に浮かんだカイアは、うなだれた状態から、急にカッと目を見開いた。
「カイアさん! 大丈夫、って……え? 違う?」
カイアはそのカイアの容姿で月丘達を見下ろすように視線を向けると、更にカイアの体が光輝いて、その姿形を変えている。
『カ、カイアちゃんのVMC素体が乗っ取られちゃった!』
「そのようですね。プリちゃんは後ろに下がって!」
『ということは、あの今姿を変えているのが……』
「そういうことになるわね、ミスター・ハルナガ」
カイアの容姿がモーフィングのように変形して変わったその人物の容姿は、カイアの姿から巨大化し、身長の程は三メートル弱程度。六本腕は、地球人と同様に一対の腕になるが、見た目の性別は美麗な長髪の女性型ながらもかなりグラマラスで、きっつい目鼻立ちをしており、かなりの筋肉質なアスリートのような体型ででありながら、布のようにもみえるし、また金属質でもある宗教的なケープを身にまとう。
その色は、メタリックな白銀色であった。
体毛とおぼしきものもすべてが白銀色で、体の色は真っ白である。
『……我はザンドア。レストーラル第一の創造機にして、セルメニア時空体の門である。うぬら物質体に告ぐ。その存在が何者か答えよ……』
* *
日本国総理官邸危機管理センター。
ヤルバーン自治国内の東京都ヤルバーン区にある、我らが毎度の防衛省防衛装備庁のヤル研本部から緊急で通信が入る。
沢渡と『トーラルシステムが、生物の進化を促すようなシステム』だとかそんな報告に討議をしている最中に割り込んで来る。
『総理、大変です!』
いつもマジメにアホみたいなものばっかり作っている連中が大慌てになっているもんだから、至って普通の混乱光景にも違和感を持って見てしまう柏木総理閣下。
本来なら担当の直属上司のこの場にいる加藤防衛大臣を通してから報告するのが官僚的な報告システムの筋ってヤツなのだが、
「加藤先生、かまいませんか?」
どうぞどうぞというジェスチャーをする加藤。この場の仲間内ではそんなのは今更どうでもいい話。
で、ヤル研連中の慌てぶりに別のVMCモニターに映る沢渡とニーラが顔合わせて首を傾げる。
シリアスなシーンでドタバタなこれであるから困ったものである。おまけにVMCモニターをぶち上げて『大変です!』以降の言葉を言わないんだからどうしようもない。
「まあまあ落ち着いて落ち着いて。どうしたの一体」
画面でアタフタしているヤル研研究員Aをまあ落ち着けと宥めると、とにかく事の次第を報告させる。
「あのですね、我々ヤル研のアイド、じゃなかった、自慢のカイア10986型トーラルシステムなんですけど……」
「ふむふむ」
今、カイアはヤル研の管轄に置かれており、本来はヤル研初の自前トーラルシステムができたとみなしてハーフの俳優みたいに普段は詣でているヤル研自慢のシステムとなっているわけなのだが、
「カイアさんがこっちに……つまりメインフレームに帰還して来てしまってるんです! 確か今コアに憑依して、月丘さん達とあのワームホールの向こうへカイアさんは行ってたんでしたよね!?」
その言葉に柏木は思わずガタッと席を立ち、フェルも、
『マサカ、ケラー・ツキオカ達になにかあったのでしょうか!?』
「ああ! ……えっと君、今すぐカイア10986さんと話せるのかな!?」
『やってみます、少々お待ちを』
これはえらいこっちゃとなる柏木達。一番深刻な顔をしているのは、白木にマルセアである。
カイアのシステムがこちらに帰還してしまったということは、当たり前に考えて月丘達に対して何か攻撃的な受動要素がなければ、ありえない話だからだ。
『……総理、カイアさんは大丈夫みたいです。自力でシステムを復旧させたみたいです。彼女も総理とすぐに会話がしたいと』
「おねがいします。VMCモニターに出してください」
ヤル研員は、映像をカイアの鎮座するメインフレーム室に繋げる。すると、あのゲルベラール移民船に据え付けられ時よりも大迫力の、どっかの悪の組織のメインコンピュータみたいなカイアが映像にドバンと映る。
普通ならここで柏木は頭を抱えるところだが、いまはそれどころではない。
かの小さなVMCモニターを人の瞳のように組み上げ、目を瞑ったイメージから、瞳を開けるようにアニメーションするカイア。
「カイア10986さん、お久しぶりです。柏木真人です。わかりますか?」
『副ソーリのフェルフェリアですヨ。大丈夫でスか?』
『カイア猊下、マルセア、いえ、ミニャールです。大丈夫でございますか?』
柏木とフェルとマルセアの問いかけに即座にカイアは反応し、
『無事にメインフレームに転送できたようだ。ミニャールよ、特に問題はない……カシワギ総理大臣、フェルフェリア副総理大臣。緊急で私がメインフレームに戻ってきた経緯と現在の状況を報告したい。許可を』
流石は知性はあれど、人格のないカイアである。まるで何事もなかったように柏木へ報告の許可を求めるが、なにか少し急いているような気しないでもない。
「わかりました。お聞きしましょう。とはいえ、まずは月丘君達の状況ですが、そのあたりは……」
『ツキオカ・カズキ以下、ハルナガ・コウシ、プリル・リズ・シャー、エドウィン・スタインベックの現状は、私がこの場に帰還する直前までは問題ない』
そのカイアの言葉に柏木は思わず、
「ち、ちょっとまってください! エドウィンって……あのパイド・パイパーで、ウチの非常任理事の!?」
『肯定』
「い、いや、どういうことですかそれ!」
確かにスタインベックが妙な存在になって月丘達をワームホールの向こうへ誘ったのは彼だが、この状況を知っているのは、やまとHQのパウル達少数のみだ。
現場の混乱を招くので、まだこの状況を報告していないか、報告していてもまだ上がっていないか。そんなとこだろうが。
だが、カイア的には「そこから説明するんかい」と思うのかどうかはわからないが……
* *
「レストーラル第一の創造機にして、セルメニア時空体の門……」
衛星ザンドアにて、そのザンドアを名乗るグラマラスでキツそうなお姐さん型VMC素体に睨まれて、対峙する月丘達。思わず女性型が発した先の言葉を呟く月丘。
耳の部分が尖って、腕は一対、で、ちょっとデカ女さんなので、容姿はヒューマノイド型なれどあきらかにペルロード人以外の異星生命体を模した者であるのは間違いない。
『レストーラルって、私達のトーラルシステムとなんか関係あるのかな?』
「さぁ?」
カイアが姿を変えていきなりの事でまだ状況をうまく把握できない月丘だが、悠永が、
「月丘さん、この女性は危険だ……何か感覚でわかります」
「ま、それは悠永さんほどのお方がそういうのであればそうでしょうし、あの姿ですから只者ではないでしょうから……スタインベックさん、そろそろ出番ってところではないのですか?」
「ウフフ、そうね。ではそろそろ私も本来の目的を果たしましょうかしら」
「? ……本来の目的?」
まあスタインベックもこんなところでこんな普通のカッコしているわけだから、まあただ事ではない存在と目的でこんなところにいるのだろうとは思ってはいたが、『本来の目的』と改まっていうには、言い換えれば月丘達と一緒にここまでやってきたのは『ついで』の話という意味にも聞こえるわけだが……
「……そこのところどうなんです?」
「大丈夫よ、カズキ。今あなたが思ってることは確かだけど、まあ、利害は一致してるし、実際あなた達だけならどうしようもない状況でしょ、今は。ミスター・ハルナガがいるからまだマシだけど」
「ええ……って、わかりました、この際ですからお任せします」
と月丘はプリルと悠永に下がるように促す。すると今度は今まで斜に見て構えていた……わけではないが、傍観者的だったスタインベックが堂々と前に出て、ザンドアに対峙する。
「お初にお目にかかりますわね、ミス・ザンドア。ま、私達に自己紹介をしろと仰るようですので、ここは多分社会的地位の一番高い私から、この場のみなさんを紹介させていただきますわ……って、これでいいかしら?」
と後ろ向いて同意を促すスタインベック、まあ社会的地位云々は確かにそうだが、この際なんでもいいので、とりあえずウンウン頷いておく。
『……』
スタインベックの言葉に沈黙しているザンドア。
「まず、後ろの三人ね。あの銀ピカな鎧着ているのは、惑星地球という星の、日本という国家からやってきたツキオカ・カズキさん。そしてその隣のお嬢さんは、このあたりから約五〇〇〇万光年先の宇宙からやってきたツキオカさんの彼女のプリル・リズ・シャーさん」
「スタインベックさん、彼女はよけいですから」
『ガーン! なにそれカズキサン、ショック!』
「いやそういう意味じゃなくてですね」
『オホホ、で、あちらの快活なご青年が、えっと、タウラ……センでしたっけ?』
「ええそうです」
『そのプリルさんと同じ銀河のタウラセン人と仰る種族の、ハルナガ……じゃなかった、ジーヴェルさん』
で、
『そして最後に私は、ツキオカさんと同じ地球人で、アメリカ人という人種のエドウィン・スタインベックと申します……ですが、今は地球人だった者、という表現が正しいかしら?』
その言葉に「!!?」となる月丘。「どういうことですか!」と言いかけるが、それを察したスタインベックが平手を差し出して抑える。
『今の私は、過去の、それも何万年も昔の先祖がペルロード人で、今は“セルメニア”という高次元人という存在になった者、と言えばわかるかしらね、ミス・ザンドア』
その言葉に表情を変えるザンドアであった。




