【最終章】第八二話 『 史上最大の侵攻』
ちょいと余談……
地球の発達過程文明における精神論において、『どつきあったら、友情が芽生える』とか、『何回も戦っているうちに、相手を認め合う』とか、『お互い殺すつもりで戦ってるのに、相手を認めてしまい、味方に引き込もうとする』とか、そんな話をティ連人にすると、ご多分に漏れずみんな『あー、ワタシタチもそんなのありますね~』とかそんな話になって、案外知的生命体の考えることって、五〇〇〇万光年離れても同じなんかなとか、そんな風に思う我々の性質。
でもそれが動物相手となると生存競争というカテゴリーに入ってしまい、それこそマジモノの殺し合いになるわけで、それが食う者食われる者みたいな関係だと友情もへったくれも本来ないというのが、これ自然界の掟。
太古のイゼイラ人達も、新大地の圧倒的に強い生物のせいで、イゼイラにおける生物ヒエラルキー下層部にあったわけで、かの恐ろしい肉食恐獣『ツァーレ』の捕食対象となり、絶滅しかけた歴史がある。
イゼイラ人がいくら知的生命体でも、相手が装甲のような外皮を持つような相手では、生物のパワー格差があまりにも大きく、地球における他の生物の能力と、原始人類の知力戦闘能力との差と比べても、比較にならない隔絶したパワー格差があったのが、太古のイゼさん達と、新大地に住む巨大生物達との関係である。
つまりイゼイラ人の高度な知力も、それを凌駕する圧倒的な力を持つ、新大地の恐獣達にはかなわなかったということである。
ほんと、『トーラル遺跡』のシステムとの接触がなかったらどーなっていたことかと言う話で、そんな因果の繋がりで、今の世界がある。
その今の世界、ちょっと地球や地球圏の宇宙じゃ大変な時真っ最中なのであるが、時間を遡って何年か前のイゼイラ共和国を覗いてみる……
* *
「グァァアアアァアアアアア!!」
『なんのぉおおお! どりゃぁあああああ!』
「クヒィ~~~ン」
黒漆ローダーに身を包み、ホースローダーを装着した愛馬パイラ号にまたがって、VMC踏破障壁を造成して天をかけるメルフェリア。
斬馬刀のごとき長剣を構えて斬りかかるは、イゼイラ人の怨敵であり、ここイゼイラでは百獣の頂点に君臨する『恐獣ツァーレ』
全長二〇メートルから三〇メートルに達するその巨大な翼のない龍のような生物は、まあいってみればイゼイラ人の歴史でもあり、今ではある意味、観光名物にもなってしまっているオットロシイ怪獣でもあった。
普通ならイゼイラ恐獣見学コース内ででも対峙したら、イゼイラ人なら普通にビビってちびりそうになるこの獣へ挑みかかるメルフェリア。
ツァーレからみれば、そりゃもう木っ葉のようなメルではあるが、このツァーレとメルフェリアには因縁がある。
以前、メルが武人として、母から聞いた太古のイゼイラ物語。その凄惨なストーリーを聞いた彼女は、一度このツァーレなる恐獣と対峙してみたいと思っていたのである。
それが叶ったのは幾年か前の、かのサルカス戦争が終わって、ガイデル達一家がイゼイラに里帰り親善訪問したあの時、イゼイラ軍に無理をいって、イゼイラの新大地に潜むツァーレとの対決を敢行するためにやってきたあの時。
その際に相手になったツァーレと、また戦っていたのである。
その証拠に、相手ツァーレは初戦でメルフェリアから食らった一撃で、立派な二本の角の一本を切り落とされて失くしていた個体だ。
『うわっ! コンチクショウ! 躱された?』
「キシャァァァァアアアア!』
ツァーレという動物は、実のところ非常に頭が良い。現在では色々と研究もされ、その生態もほぼ解明されてわかっている。
◯ツァーレは、一度戦った個体をずっと覚えている。
これは、ツァーレの頭の良さを示す特徴の一つで、この記憶力があるせいで、ツァーレは『食えるもの』『食えないもの』をはっきり判断している。悪食でなんでも食べるイメージのある恐獣ではあるが、実はイゼイラ人の守護獣ともいわれている巨大甲殻動物『ヴァズラー』は、ほぼ食べない。
なぜなら、図体はツァーレよりはずっと小さいのだが、甲殻がツァーレでも噛み砕けないほど異常に硬いのと、怒らせたら尋常ならざる切断力を持つハサミパワーで反撃してくるので、ツァーレとしてもリスクが高いからだ。なのでイゼイラ人はツァーレ対策として、このヴァズラーを家畜化していた。
◯家族単位で行動する
ツァーレは、つがいになると、卵を一個から三個生む。それが一家族単位となり、その家族を中心に行動する。したがって、他人になるツァーレと対峙した場合も縄張り争いなどで普通に生死をかけた戦いをするのである。
◯自分より強いものは襲わない。
これは、自分より強いものからは逃げる、という意味ではない。積極的に襲うようなことはしないのだ。
恐獣で恐れられたツァーレにそれ以上強いものなんてあるのか、という話だが、ツァーレ同士の喧嘩など同族個体でこの現象が見られる。さらに対ツァーレ用に、イゼイラ人が機動兵器を扱うようになってからは、機動兵器に喧嘩を売ってくるような個体はあまりない(威嚇行動や、産卵期の防衛行動があるが)
なのでイゼイラ人はその性質を利用して、先の通りの理由で甲殻生物ヴァズラーを飼育し、トーラルシステムと接触後は、現在の『旭龍』の原型となる機動兵器を設計したのであろう。
メルフェリアは、イゼイラ人なら普通ビビってしまうこのツァーレという動物に興味を持って、初戦で対決した後、いろんな資料を提供してもらって勉強し、あれから実は余暇を見つけてはイゼイラに通って、ツァーレ相手に武者修行をしていたのであった。
まあこれにはサスアも含めて騎士団のみんなもあきれてしまってたようなのだが、夫となるサスアは、そんな年の離れた嫁となるメルフェリアの心意気も同じ武人として理解できもするので、監視付きという条件で、勉強も兼ねて許していたのではある。
では、パパママのガイデルやサルファはどうなのかというと、この二人は元々放任主義なので、そこはサスア夫妻予定者の好きにさせていた……心配はしていたみたいではあるが。
で、初戦のあの時は、メルフェリアも勝てたから良いようなものの、二戦三戦と続けるうちに、ツァーレの方もメルの戦法を学習しているようで、一度はテイルアタックをまともに食らって全身打撲。大負けした事もあった。
そこのところは彼女が鍛えまくっていたのと、ローダーの防御性能のおかげもあって、イゼイラの医療技術で怪我自体はすぐに完治できた。
ただそのメルがツァーレに吹っ飛ばされた時、監視していたイゼイラ軍も大慌てで彼女を転送回収しようとしたのだが……
なんと、メルを倒したツァーレ、普通ならそのままメルを食いちぎりにかかってもいいのに、メルに勝ったあと、捕食もせずにそのまま森に帰ってしまったという。
これ自体もツァーレの行動からは大いに予想外の行動で、監視していたイゼイラ軍もびっくりしたそうなのだが、メルはツァーレの生態なんざ知ったこっちゃないので、それが悔しかった彼女は、懲りずにまた挑んで……と、そんなのを繰り返して此度、五戦目の時、
「グルルルルル……」
『??』
なんとツァーレは戦闘をやめてしまった。で、プイとそっぽ向いて、新大地の森に帰ろうとしていた。
『え? まってまってよ、おい!』
いいとことで戦闘中止とは拍子抜けである。
『なんだよお前ぇえ!』
とプーとふくれて叫ぶメルフェリア。武者修行で来てるのに、戦闘放棄されたのではたまったものではない。が……メルフェリアを監視しているイゼイラ科学局生物部門担当の連中は、もうあまりに今までにないツァーレの行動に、その貴重なデータを取りまくりといたっところである。
するとそのツァーレは何歩か歩くと振り返り、メルの方を見る。メルは『ん?』となるが、また数歩歩いて振り返るツァーレ。
『ついてこいってことなのかな? パイラ』
「フヒーン?」
と、まあそう思うことにしたメルは、そのツァーレの後をついていった……
* *
閑話休題
情報管理センターでそんな話をメル達『機甲騎士団』を輸送してきた輸送艦艦長から聞く柏木。
VMCモニターで、イゼイラ軍の輸送艦艦長から到着報告を遅ればせながら受けていた。
柏木達もイランでのいきなりなそのツァーレを三匹も引き連れた戦闘に、椅子からずり落ちそうになって驚いたわけで、隣りにいるフェル姉さんは、いまだにもう反射的にガクブルで驚いて、柏木にしがみついているが、チビりそうになるまでには至らず、幸いであった。
『で、なんでもメルフェリア殿下を観察していた科学局の連中は、なんか面白いからとかいって、殿下の好きなようにさせていたのですが……』
結局そのツァーレの巣にまでいって、四日ほど泊まってたという話。
そのツァーレは嫁と子供がいて、三匹家族だったそうで、初見でその嫁と子供からも、何者だと言わんばかりに襲われそうになったが、その片角なしがメルを襲おうとする二匹に怒って割って入り、食ってはいけないと教えていたそうである。
その後は、なんかそのツァーレが獲ってきた獲物を分けてもらったりして、野営したり、子供のツァーレと戦って修行してたりと、普通にそいつらと仲良くなって帰ってきたとか、そんな話。
「は……はぁ……そりゃまたとんでもない話で……」
『そんな事ッテ……』
普通のイゼイラ人からすれば考えられない事ではあるが、メルフェリアは普通のイゼイラ人ではない。イゼイラ人の姿をしたハイラ人だ。後から聞くところでは、ハイラ人は猛獣などを合戦の生物兵器として使っていた事もあるので、そういった調教術には秀でているそうなのだが、メルの場合は、そんな『調教』というような類の話でもない。
なんかそれこそ『どつきあいして仲良くなって、マブダチになって家族紹介されて帰ってきた』みたいな、どっかの学ラン着た学園モノみたいな話になっている。
で、驚く話はまだあって、今回連れてきたその家族ツァーレで、メルが命名した『ザッカー(片角なし)』『メッシャー(嫁)』『レッサー(子供・オス)』という三匹のツァーレの頭部に生える装甲のような外皮に固定されている機械は、メルとツァーレの関係に興味をもったザムル族の科学者が、脳波で会話する自分達の能力、つまりティ連の翻訳機にも使われているこの技術を使って、この恐獣と最低限の意思疎通ができないかと、メルのために作ってやった『ツァーレ翻訳機』ということなのだそうな。地球でもかつて流行った犬猫の意思がわかるとかいう玩具の超絶スゴイ版といったところか?
『エッ!? じゃぁ、メルチャンは、あのツァーレと意思疎通ができるって事デすか!?』
『はいフリンゼ。フリシア・メルフェリアも「すごい!」って小躍りしてその機械をもらった時、喜んでいらっしゃったそうです』
そして、メルのやらかしたことは画期的な効果も生み出しており、メルがそんな事をやらかした後、イゼイラの数十万周期におけるツァーレとの関係に変化が出てきたそうで、それ以降ツァーレがイゼイラ人や、他ヒューマノイド型異星人を見ても、無視するか、少なくとも襲うことがなくなったようで、イゼイラの生物学会でも今やんやの議論を呼んでいる話という事なのだそうだ。
「どういうことだフェル?」
『サァ……こんな話はハジメテですネ』
とフェルも生物学はちょいと専門外なのでわからないが、二藤部が、
「ふむ、地球でも、シャチのような動物は、自分の家族や同族に、『人間は食べても美味しくない』『人間は強いから襲ってはダメだ』『人間は助けてくれるから襲ってはダメだ』と伝播しているという話を聞いたことがあります。逆にクマなどは一度人間の味を占めてしまうと、仲間内に『人間はうまい』とすぐに広がって、一時期あったクマ災害のような事も発生すると聞いたことがありますね」
するとフェルも、
『ワタクシは生物学は専門外ですガ、ツァーレの頭の良さは相当なものだと聞いています。ですから、大昔にイゼイラ人は滅ぼされかけたわけですガ……とすると、メルチャンの影響でツァーレは、「ヒューマノイドタイプの生命体の中には、自分達よりも強いヤツがいる」と認識したのかもしれませんネ』
まあこんな事は初めてなので、今後の研究が待たれるところだが……なんと今、その三匹は、惑星サルカスで飼われている、というか、放逐されているのだという。
「はあああ!? そ、そんな事して大丈夫なんですか!?」
と驚く柏木だが、なんか全然大丈夫らしい。その理由はまたいづれ明かされることにになるのだろうが、白木が、
「柏木総理、その話は、まあ今はその程度でいいんじゃねーか? とにかくそのメルフェリア殿下が持ってきたツァーレは使える奴らだって事だろ」
「あ、ああそういうことみたいだけど……」
すると二藤部も、
「では、イランの陸戦部隊の方は、メルフェリア殿下の、そのツァーレと、クヴァール部隊を中核に立て直して、総攻撃の態勢に入ったほうがいいですね」
「ですね二藤部先生……君、イラン他、中東連合軍の残存部隊の状況は?」
柏木が情報担当の官僚に尋ねると、
「はい、革命防衛隊は残念ながらほぼ壊滅状態だそうです。あと、今回の件の影響でしょうか、イラン国内で民主化勢力が各地で大規模な暴動を起こしていまして、革命防衛隊が壊滅状態の現在、イスラム指導部ともまったく連絡が取れない状況になっています。そんな中で、イラン国防軍はよくやってくれています」
この民主化暴動には、かつての月丘の古巣である、ティ連人を使徒と崇める部族連合もいっちょ噛んでいるという話だが、この騒動が終わった後、シーア派とスンニ派の揉め事が起こるのは必至なわけで、そこんところが柏木も頭が痛い。
(あまり使いたくない手だが……スタインベック氏と色々交渉してみるか……)
柏木人脈の奥の手である。まあ、そういうのも政治だ。そして今の日本では柏木ぐらいしか使えない手である。
『マサトサン、マサトサン、メルチャン達に動きがあるみたいですヨ』
「お、そうか」
* *
イラン西部への進撃を止めて、ヂラールフラワーのテリトリーを構築する、コードネーム『トライポッド』。
この個体はモンスターフラワーの中でも積極的に捕食行為を行うので、イラン国防軍の兵士達も生きた心地がしない。
先ほども急に地下からヂラールフラワーの根が伸びて、イラン兵を一人地中に引きずり込み、しばらく後に血まみれの花を咲かせて、周囲をブラスター砲のようなもので攻撃した。
こんな感じだからイラン兵も全員戦車の上やトラックの荷台、頑丈な建築物の二階以上などを足場に戦わないと、地上に立った瞬間、地下から襲われるので、ヤツらとまともな戦闘すらできない。
ここはもう日本の海上自衛隊の援護攻撃と、騎士団のクヴァール隊に怪獣王女のメルフェリアとツァーレ一家だけが頼りであった。
ヂラールフラワーは、ザッカー達親子の足音を感知すると、地下から即座に捕食用の部位を展開し、体にぶっ刺したり、巻き付いたりしようとするが、まあそこは相手が悪い。
ぶっ刺しに行っても、装甲兵器並みの外皮は貫けず、また絡まってもツァーレパワーで難なく糸クズのようにそれを引きちぎる。正味『なにしてんの?』状態。
更に襲い来るハンター型もこの親子には良い獲物で、来るやつ来るやつ、千切っては投げで、ハンター型程度では相手にもならない。
だが、どうにもザッカー達はそれを食おうとは思わないようで、
『なんだよザッカー、ついでだから食べちゃえばいいのに』
とインコムのようなものに喋りかけると、『グワァアアアアア』と一発ザッカーが吠える。
するとVMCモニターに、簡単な単語で『マズイ』と出てくる。
『わはは! まずいんか! そりゃ残念だなぁ~!』
と、そんな感じでコミニュケーションを取れているもんだから、まあイゼイラの生物学者は驚いているのである。
『よしザッカー、レッサー、メッシャー。お前たちの後ろに機械がいっばい付いてきているからな。あまり離すなよ。んで、あの赤い発煙筒のあたりまで近づいたら、一気にダッシュで、あいつの幹をみんなで食いちぎれ! わかった?』
と、メルの意思がザムル技術の脳波翻訳でザッカー一家に伝わって、ザッカー達は『グワッ』と声を一つあげる。
このツァーレは、地球で言うところの猿……まではいかないにしても、相当な知力を持っているようで、犬のようにある程度の『作戦』も理解できるようだ。
ザビー達クヴァール隊は、海上自衛隊艦隊の援護巡航ミサイル攻撃に呼応して、地下茎型の、捕食するヤバイ奴を駆除している。
駆除し終わった一帯に、ザッカー達の後ろに付いてきているイラン国防軍が左右に展開し、前方から襲い来る触手や、ハンター型に対応し、取り残されて二階以上の建物に避難しているイラン国民を救助していた。
メルとザッカー一家は、ザビーが設置した『突撃ポイント』に到達すると、
『よしみんな! ダッシュだ! あの「とらいぽっど」の幹に食いついて、引きちぎれ!』
と喝を入れると、ザッカー、メッシャー、レッサーはひと吠えしたあと猛然とダッシュ。
メルはザッカーの片角にしがみついて、三匹の突撃に合わせる。
クヴァール隊にイラン国防軍はメル達の突撃を援護する。
ハンター型がザッカー達へ変わらず攻撃をかけてくる、更にはヂラールフラワーも三匹を拘束にかかるがそんなものなんのそので、ハンター型を体当たりで吹き飛ばし、フラワーの蔓を引きちぎりながら怒涛の突撃をかます。
そしてモンスターフラワーに取り付く三匹。大きさはトライポッドが五〇メートルほどで、ザッカーが三〇メートル弱に、メッシャーが二五メートルほど。レッサーが一八メートルといったところ。
このツァーレ達もそれぐらいのタッパはあるので、トライポッドからみても小さいという程ではない。そんなザッカー達三匹はトライポッドに噛みつくと、その申し分のないパワーで、トライポッドの幹を引きちぎりにかかった!
メルフェリアは、トライポッドが『移動するモンスターフラワー』という点から、こいつの成長核はおそらく他のタイプと違って上の方にあると見た。
ザッカーの角にしがみつき、そのチャンスを待つ……
「ガアアアアアアア!」
ザッカーがメッシャーとレッサーがかぶりついたその上からさらにかぶりつき、幹を大きく引き剥がすすと、そこに赤く光る成長核が見えた!
『よし、よくやったぞみんな! あとはっ!』
好機到来。メルはザッカーの角から手を離すと、落差二〇メートルはあろうかという目標めがけて、剣を斬馬刀モードにして刃を垂直下方へ向け落下。刃にはエネルギーがまとい、青白く熱せられている。黒漆ローダーを着用していなければ大やけど……どころか蒸発モノだ。
『どぉうりゃぁあああああああ! これでおわりだーーーーー!』
メルの斬馬刀がズブリとトライポッドの成長核に突き刺さる! 同時に近くにいたレッサーがメルを甘噛みして成長核からひき剥がすと、後ろへ放り投げる!
メルは一回転してローダーのスラスターを吹かせて、フラワーから数十メートル離れて着地。
『ザッカー、メッシャー、レッサー! お前たちも離れろ! 爆発するぞ!』とインカムで叫ぶと、三匹も一斉にその場から離れる……しばし後、核に刺さったメルの剣に仕込まれた反応爆弾が炸裂して、トライポッドのコアが大きな爆発を起こして吹き飛んだ。
すると間もなく、トライポッドの大きな本体がみるみるうちに枯れはじめ、地下茎で繋がって活発に捕食活動を行っていた手下のヂラールフラワーや触手のような根部も枝葉もみるみるうちに変色し、枯れ木のようになっていった。
『よっしゃーー!』とピョンピョン跳ねて喜ぶメル団長殿下にイラン国防軍の兵士達、そして被災地にいた民衆。
アッラーアクバルと叫ぶが、これを成したのは、メルと三匹の恐獣達である。
* *
一方、地球圏防衛線に設定された、月軌道宙域。
続々とワープで送られてくるヂラールの宇宙攻撃兵器型。即ち戦闘機型に攻撃機型、そして揚陸艦型。それらはやはり徹底的に地球を目指しているようだ。
さらには容赦なく打ち込まれてくるヂラールフラワーの種子ユニット。だが……
<<これだけは行かせません!!>>
悠永光志ことタウラセン・ジーヴェルが両腕を掌で交差させて、自身最大級の光線技を放ち、ヂラールフラワーの種子ユニットを破壊した……これで二五〇個目だ。
「次はっ!」
と、栄鷲搭乗の月丘が叫ぶと、周囲から継続の種子はワープアウトしてこないと報告。
『これで打ち止めかな、カズキサン』
「わからないな……ネメアさん、どう思います?」
『回答保留。こればかりはな……恐らくマスターヂラールの能力次第だと思うが……』
するとナヨが、
『一旦間を開けて、我々が他の敵に当たっている隙をついて、という事もありえるのう』
と言うが、そこんところは考えても仕方ないので現実を見ることとして、
「まあしかしこれだけの数を迎撃できただけでも良かったですよ。特にジーヴェルさん、あなたの能力には助けられました」
<<いえ、これぐらいの事は。それより地上の方は? 対処できてるのでしょうか>>
これに関しては、シビアがモニターしてくれていたようで、
『地上の方は、メルフェリア旗下、ハイラ王国騎士団とネイティブのゼスタール軍が増援に来てくれたようだ。国際連邦の各国家はかなりの被害を出したようだな。特にイランとよばれる地域国家の被害が大きかったようだが、すべて駆逐に成功している』
その報を聞いて安堵する月丘部隊の諸氏。特にネメアは、
『メルが援軍で来たのか? ……そうか』
と何か嬉しそうである。
『トイウコトハ、カシワギノ人脈トイウヤツカ?』
と言うは、リアッサ。
『流石、ファーダ総理大臣よのう、カシワギもなかなかにやりますね』
と笑うのはナヨ閣下。まあ顔だけは一〇〇〇年前の女皇陛下にも顔が利くほど広いのは確か。
「ああ言う方が総理大臣だと、助かりますねホント」
と月丘は言うが、これは本音である。柏木の性格からすれば、別に総理の椅子にしがみついてるわけでもなく、また元防衛総省長官閣下様が、あの時の延長で今、日本‐ヤルバーン軍の指揮を事実上とってるわけなので、月丘のような職の者からすれば、これ以上やりやすい環境はない。
で、とりあえず集中的なヂラールの種子ミサイル波状攻撃は一旦打ち止めと見た月丘達だが、
『カグヤCPより月丘隊へ。直ちにポイントC678地点の増援に回れ』
と指揮所から連絡が入る。
「C678の増援ですか……というとかなり接近されてるということですね」
C678地点とは、地球から約10万キロの地点。月軌道を突破されたということだ。
いかんせん、この部隊で月丘達は精鋭といってもいい。しかも今はタウラセン人のジーヴェルという強力な仲間もいる。この部隊だけで、リヴァイタ型ヂラール一群体とも渡り合えるほどの戦力だ。
そんな戦力が集中して別の地区で戦闘していれば、他方面の戦闘力は自ずと低くなってしまうのは当たり前の話である。
『とにかくこれ以上ここにいても仕方ないだろう。CPに従おう』と多川。
『ソウダナ。対応デキルトコロカラ潰シテイクシカナイ』とシエ。
「わかりました。では各機、C678へ移動しましょう」
とスラスター吹かせてC678地点へ急行する。
* *
『こちらジャンヌ・ダルク。空間シフト機関に被弾! 後退する!』
『コチラ、やまとHQ、ジャンヌ・ダルクの後退を許可。後方より援護せよ』
『さくらよりHQ、右翼側の敵侵攻具合が薄い。回り込む』
『HQ了解。USSTCレナード・ニモイはさくらに随行せよ』
月丘達がヂラールフラワーの種子迎撃に忙殺されているスキを狙って、C678地点からかなり押し込まれている地球軍勢。
次々とワープアウトするヂラール群に対して、なんとか留めるのが精一杯になってきた。
やまと戦術担当官がパウルに報告。
『パウル提督、地上のユーラシア戦線で援軍に入ってくれたゼスタール連邦軍と、中東のハイラ駐留イゼイラ軍、及びハイラ王国連合義勇軍が宇宙に上がってくれるそうです!』
『それは助かるわ! 数は……っと、よし、これでなんとか押し返せそうね。あのメルフェリア殿下達が使ってるクヴァールとかいうサイボーグ型機動兵器は、地球の環境でも使えるの?』
『は、それは問題ないようです。なんでもゼスタール戦争で初投入時に判明した事ですが、ヂラールの骨や甲殻などを機体構成素材に使っているのが幸いして、当のヂラールからの攻撃を受けにくいという特性を持ってるそうですが』
『へーー、それはスゴイわね。了解……ジュンヤ、彼らが上がってきたら、作戦配置はまかせるわ』
『了解しました、提督』
スールさんと、ネイティブさんを織り交ぜたゼスタール連邦と、イゼイラのハイラ駐留軍に、ハイラ義勇軍機甲騎士団、そして月丘達が合流すれば、一気に今の現状を押し返せるか、とふんでは見たが、ジーヴェルがそんな状況に杞憂な表情……といっても、金ピカなので、表情はみえないのだが……まあそんな感情で月丘に、
<<あの事前資料で見せてもらった、リバイタ型というものの宇宙戦闘型が出てきてますね、月丘さん>>
『ええ。あのタイプは、貴方やリアッサさん、もしくはシンシエコンビの機体に対応してもらうか、人型艦で直接叩くのが一番良いのですが……』
<<やはり月丘さんも?>>
『ジーヴェルさんもそう思いますか?』
<<ええ……タイミングとしては今が一番ですね、私ならこの時を狙います>>
『恐らくパウル提督も、そこは感じてらしゃるとおもうのですが……』
これだけではダメだと内心で思う月丘……と、そんな思考も戦線に突入すると、ヂラールの強襲で考えがパンと弾ける。
<<こいつは私に任せて!>>と、同じ程のガタイでリバイタ型を相手にするジーヴェル。腕から刃状の光線武器を投げるように発射。リバイタ型のカマのようなマルチ武器を引き裂く! そこに、
『ジーヴェルさん、援護する!』『格闘ハマカセロ!』と鳳桜機の、プラズマスラスター加速装置付きの大型剣を二刀流で持ち、ロケット加速された刃が、突貫する勢いに任せてリバイタをバッサリと切り裂く!
<<お見事です、シエさん、多川さん!>>
『ま、このモーションは、うちのカーチャンの十八番だけどな、むはは』
『フッフッフ』
とそんな冗談言ってる間もなく、
『高速戦闘機型、Dラインを突破! だれでもいい撃ち落とせ!』
ロシア軍機動兵器メテオールの中隊長が巻き舌な英語で叫ぶ、するとその声に呼応するのは、
『あいわかりました。妾が参ってしんぜましょう』
と呼応するのは巨大化しているアーマード・ナヨ閣下。彼女お得意の転送戦法が炸裂する。
ナヨは即座にディルフィルドゲートを開けると、その中に突っ込み、刹那、高速で飛ぶヂラール戦闘機型の進行方向に顕現。巨大な小烏丸をヒュンと二振り、必殺の『月光重力斬』を放ち真っ二つにすると、即座にゲートを展開し、スピードを上げて地球の大気圏に突っ込もうとするもう二体の前にまた即座に出現、これを斬って、更にゲートを展開して次のターゲットに……と、軽く数万キロメートルもの距離を一瞬にまたいで、一五体ほどのヂラール戦闘機型を斬り伏せて戻ってきた。
それを見たロシア宇宙軍パイロットは、口をあんぐり開けて、そのスキを突かれてヂラールに被弾させられている……それを見たナヨはため息一つついて、その機体を助けに行ったり。
『ルスキのパイロットよ、油断はならんぞ』
とロシアパイロットは怒られてたり。
ナヨの攻撃で、C678の戦線に乗れた月丘隊。シンシエ鳳桜機も前に出て、リバイタ系の大型ヂラールを専門に相手をしている。同様に大型ヂラールを重火力で吹き飛ばし、徐々に前線を押し上げている状況に効果を発揮しているのは、リアッサが駆る『旭光刃』である。
新型装備の、大きな矢じりのような形をした、ブラスター攻撃専門の無人制御ヴァルメ『シキガミ』を背部に搭載する旭光刃。この兵器も転送機能を利用して、相手の死角をついた場所に顕現させて、全周囲攻撃を行うものすごい兵器である。しかもティ連の誘導兵器である粒子反応ポッドを誘導する原理と同じ、トラクターフィールドで誘導するので、その動きも正確無比だ。
『リアッサ、ソノ「しきがみ」デ、余計ナ連中ヲ遠ザケテクレ』
『了解。ソイツヲ斬リフセタアト、ディルフィルド転送一斉掃射ヲシカケル。適当ニ避ケロヨ』
視点を変えると、ジェルダムの駆る『旭光Ⅱ六腕』とシビア・ネメアの憑依する『ヤシャ級』が相当前に出て、戦っていた。
『シビア殿、ネメア殿、あなた方はその人型艦の火力に物を言わせて、ここから前の艦艇型ヂラールの進行をとめてください! 自分は貴艦らに接近する高機動型ヂラールを迎撃します!』
『了解した。ネメア、艦砲の制御は任せる。我々は索敵に集中する』
『了解』
ジェルダムはその六腕の利点を活かし、ティ連の機動兵器にはあまり装備されていない『盾』と、近接戦用トーチ状サーベルに、遠距離、近距離射撃兵器を構えて、まるでインドの武神、カーリーの如く、一機で当千……まではいかないが、それでもジェルダム機一機で一小隊以上の戦闘をこなし、ヤシャと連携して後に続く味方の突破口を作る。
だがこの戦線の状態に怪訝なのが、やはり月丘にプリル、そしてカイアにジーヴェルだ。
『シビアさん、ジェルダムさん! それ以上は前に出ないで!』
『ん? どういうことですか、ツキオカ殿!』
『カイアさんの分析で敵の攻撃の間隔が変わりました! 嫌な予感がします! ……やまとHQ、パウル提督! どうですか!?』
その言葉にパウルが呼応。
『確かに。今ジュンヤとも話してたけど、艦艇型が後退しているわ、この状況のヂラールに後退なんておかしいもん!』
『ということは!?』
『ええ、制御できるヤツがくるかもって事ね! シビア、ネメア、ジーヴェル機はEラインまで後退して!』
六腕型と、ヤシャはパウルの命に従い。後退。シビアに続けと前進仕掛けていた部隊も停止して、その場でヂラールを迎撃しつつ、様子を見る……確かにここ何分かで、ヂラール共に、統率性のある行動が見られるようになってきた。その様相にシエが、
『クックック……チキュウノマスコミ連中メ、イマカラ来ル状況ヲ見テコシヲヌカセ』
と次に来る脅威に不敵ないらんことを言う。多川はカーチャンに対してタハハ顔だが、目は笑っていない。
『やまとHQより各部隊へ。月軌道より土星方面へ50万キロメートル地点で、超大型重力震反応確認!』
と、そのオペレーターの音声を奪うように、パウルが被せて叫ぶ。
『敵の親玉が来るわ! 高度警戒態勢! みんな気をつけて!』
月軌道から五十万キロメートルで、今現在戦闘している地点を勘定に入れると、大体七〇万キロメートルのあたりに反応があったが、それだけの距離を離れていても、この宇宙空間全体が揺さぶられるような感覚を、部隊の皆が感じる。
『ここ、これは……カズキサン、めっちゃ巨大なやつじゃないのかなぁ』
『ですね。プリちゃん、人型機動護衛艦の“まつ”から送られてきた映像は、かなり遠い距離でしたので、いま一つ規模がわかりませんでしたが……』
防衛線に展開させている探知偽装をかけたヴァルメが、当のマスターヂラールの姿を捉えた。
HQを通して、全部隊にその姿が公開される……
「おお……!!」
と誰もが顔に出るその姿。
しいていえば、その姿に納得感のある感情と、うっとおしさ全開の感情を持つ隊員兵士は、かのゼスタール戦争を体験した者達だけだ。だがその者たちも、ゼスタールで見たあの光景をこの地球圏近海で見れば、その思う感情は全然違うものになるのは間違いない。
更に一際その姿に戦慄するのは、今共同戦線を張っているグロウム帝国地球大使館艦隊提督のネリナ・マレードだ。
彼女もゼスタール戦争に参加したが、あの時に見た同じゼスタール軌道上のマスターヂラール要塞群ではあったが、グロウム帝国でも決死で戦った経験で出る言葉が、
『これは……ゼスタールの……あの時のものとは全く異質だ!』
と叫ぶ。そしてヂラール要塞級と戦った当事者のさらに一人であるシビアにネメアが、
『ゼスタールの軌道上に鎮座しているような奴と、ここまで遠征してきた奴では、戦い方も根本的に変わるぞ、ネメア』
『肯定だシビア……さて、どこまでやれるか……』
宇宙空母カグヤにいる各国記者達は、モニターで見せられる想像を絶する巨大なヂラール要塞にカメラを向けて、撮影しまくりといったところ。更に此度は撮影した映像を、各国に流すことも許可していた。つまりパニックを引き起こす覚悟で、世界へ現実に対峙する味方と、襲い来る敵の姿を見せようという、柏木の作戦であった。
これで世の中の、そして大宇宙に対する意識が変わる……柏木はそう考えて、マスコミに此度に関して自由な取材を認めた。
神に祈ってどうこうなるような話ではない。それまでの宗教観など、ただの人間が考えた、何千年も遊んできたおままごとみたいなものである。
神様を信じるのは、それは別に悪いことではない。ただ、人の考えた神様が、この状況をなんとかできるのか考えても見ろと……ただこの危機に挑むために必要なものは、高度な知識と、知的生命体同士の団結力だけだ……柏木が言いたいのは、そういうことだ。
マスターヂラール。形式:特型要塞級。
形状は、巨大な二枚貝が閉じたような島型。その表面積だけで、月の見た目の円形面積の五分の一もの大ききさを持つ。これはティ連が誇る人工亜惑星要塞レグノスの直径面積より巨大だが、高さがレグノスよりは低い。
マスターヂラールが顕現した途端、今まで力技で地球に進もうとしていたヂラール軍団は、要塞級まで一歩引き、見た目に変わって統率が取れた動きを見せ始める。即ちこの宙域のヂラール群体は、ヤツの統率下に入ったという寸法だ。
しかも要塞級からまだ、リヴァイタ型やらなんやら小中大とヂラールを繰り出してくる。
但し、攻撃態勢というよりは、要塞級を防衛する配置だ。
『しかし……あれをどうこうするというのも、ちと骨がおれるのう……』
いつも余裕のナヨクァラグヤ女皇も、心のなかで少々冷や汗。
これがティ連の通常艦隊戦力ならどうにでもなるのだろうが、現状の戦力だと、正直どうなのかと。
ただ現状の敵の配置を見る限り、考えられるのは……
『サージャル大公領戦と同じだ……ヤツはあの要塞ごとチキュウに降りるつもりだぞ!』
とネメア。同じ直感は、月丘も既に感じていた。
「さて、どうしますか……」
と一介の諜報員が考えてどうなるものでもないが、
『やまとHQより各部隊へ、敵マスターヂラールのコードネームを、『ダークスター』と設定。以降本呼称で統一』
ダークスター。月丘は学生時代に映画研究会にいた友人に無理やり観せられた『自爆したくて仕方のない宇宙船』の映画を思い出して苦笑い。まあそんな映画を見て付けたわけではないと思うが、かの大作SF映画の有名な要塞が『死の星』であれば、こっちは『闇の星』と、そんな感じでつけたのだろう。
『ダークスターは、微速でチキュウ方向へ向けて移動を開始。目標は地球軌道到達、ないしはチキュウへの着床が目的と考えられる。全部隊はこれを全力で阻止せよ』
『やまとHQへ。こちら国際連邦軍艦隊司令艦USSTCニール・アームストロング。現在、国際連邦防衛理事会で、国連安全保障理事会加盟国保有の大陸間弾道弾を、ダークスターへ向け、発射する決議を行った。従って東部標準時0200に議会指定弾数の弾道弾を発射する。その際にヤルバーン自治国と、ゼスタール艦隊に弾道弾弾頭の軌道補正を要請する。』
なんと、国連安全保障理事会は、各国が保有する大陸間弾道弾をマスターヂラールへ向けて発射するとういう話だ。これは画期的なことである。
かつて一九八七年に、当時の米国大統領ロナルド・レーガンは、
『 この世で戦争をなくすのなら、宇宙人に来てもらうしかない。 宇宙人の侵略があったら、アメリカ もソ連も一致団結して戦うだろう』
と演説したことがあるが、はからずもヤルバーンがこの地球へ来訪した時に、世界は結果的に結託する事となり、今、ヂラールの襲来で、ともに地球世界のために戦う結果となった。
それがこの『地球要塞』から発射される、この要塞の必殺兵器、戦略核弾頭の飽和攻撃である。
なんせ弾数だけで言えば万の単位の数がある。
だが、唯一の弱点は、大気圏を突破できはするが、基本『弾道弾』なので、地球圏の引力を飛んで、地球軌道外に向けて発射するには少々ロケット出力のパワー不足だ。なので、発射後は、ヤルバーンタワーや、人型戦艦やまと、カグヤ、ふそう、やましろ、ゼスタール母艦等のトラクターフィールドで引っ張ってもらって、目標のダークスターめがけてぶん投げる方法をとる。
これは元々ヤルバーン自治国と連合日本、そして国連で地球防衛の一環として計画していた防衛システムなので、それが今、実を結ぼうとしているわけである。
国際連邦艦隊旗艦のUSSTC所属『ニール・アームストロング』は、自身に搭載されているW100核巡航ミサイル、トマホークⅡを装填し、発射体制に入っている。他、仏露、そして遅ればせながら合流した英中の航宙巡洋艦も、自身に搭載された核弾頭兵器の発射体制に入っている。
ティ連側……これは連合日本の特危も含めて様子見だが、トラクターフィールド補助艦艇を除いて、ティ連規格の艦艇は、二の矢として亜空間破壊兵器や、重力子兵器の発射態勢をとっていた。
『だけど、これだけでヤツの侵攻防げるかよね……』
と考えるはパウル提督。
このダークスタークラスのマスターヂラールは、先のゼスタール戦争でも、トンデモなシールドをもっていることがわかっている。
さらに、無数に展開できるヂラールが盾になって、ティ連、グロウム、国際連邦連合軍側の兵器を防ぐ事も考えられる。
『パウル、一応段取りとしては、各機動兵器部隊が、シールド減衰弾を投射して物理攻撃の有効性を高める。そこへまずは核兵器群の一撃だ……』
パウルの旦那である高雄準也副長が、耳元で女房にささやくように話す。
そう、宇宙での核兵器は、ヂラールに命中して、内部に入り込む事で絶大な威力を発揮する。
なので、外で爆発しても、放射線が影響する程度でシールドを持つ兵器にはあまり効果がないのだ。
他に転送攻撃で、ダークスター内部に核弾頭を放り込めないのか、という話もあるのだが、ダークスターのシールドの防御力が未知数だ。実際ゼスタール戦争時にも国連軍潜水艦隊のSLBM攻撃でそこを懸念して実行しなかった経緯がある。転送攻撃にも干渉するようなら、攻撃が全く無に帰してしまう。
『そうね。それさえ効果的にいけば、なんとか……で、予定の火星からの増援は?』
『なんとか間に合いそうだが、ヤツの規模が規模だけにな……』
と、そんな会話も敵が聞いていたとは思わないが、ダークスター前衛のリバイタ型を指揮官とした戦闘機型部隊や、攻撃機型部隊が、先行して連合軍に攻撃を仕掛けてきた。
『カズキサン! 来る!』
「了解、各機迎撃開始、迎撃開始」
全機動兵器部隊で一番強力な月丘隊が率先して前に出て、迎撃を開始。
『カズキサン! 上部旋回ブラスターと、シールド減衰弾の制御をお願い!』
「了解です! プリちゃん、有効射程距離まで接近して!」
プリルの栄鷲を操縦するテクニックも大したものである。そこがただの技術士官ではないわけで、パイロットとしてもなかなかの腕前を持っている。
月丘もコパイとしては優秀で、プリルのサポート役に徹する。
「プリちゃん! 11時方向、リバイタ!」
『ひゃぁ!』
リバイタ型の長い鎌型の攻撃を躱す栄鷲。瞬間、機体を翻して、機首前部の三連装斥力機関砲と、右腕部ブラスターライフル、頭頂部旋回砲の一斉射を浴びせ、機対機誘導弾に粒子誘導弾ポッドを放出して敵へ攻撃を浴びせる。
栄鷲はリバイタ型よりは小型なので、流石にこの攻撃でもって一撃必殺というわけにはいかないが、リバイタ型の攻撃能力を奪うことができた。
<<後は任せて!>>
ジーヴェルが栄鷲の後方から突っ込んできて、何か掌に斬撃状の光を発し、手負いのリバイタ型を一刀両断にした。
「すみません、ジーヴェルさん」
<<なんの。それよりも早くそのシールド減衰弾を発射しないと>>
「わかってます。プリちゃん、この設定地点に減衰弾を発射。時限炸裂モードで」
『了解っ!』
月丘が設定した地点に、シールド減衰弾を発射し、停滞させる。これはこれから後方より飛んでくる戦略核弾頭が突破できるように、ダークスターが展開する分厚いシールドエリアの効果を減衰させる兵器だ。
つまるところ、北海道で陸上自衛隊がマシンガンローズに対して使った、野砲攻撃のアレである。
月丘・プリルの栄鷲以外の各国機体も、用意された減衰弾を放逐し、後方へ下がっていく。
後方で援護攻撃にあたるヤシャ型のシビアも、
『ツキオカ生体! ジーヴェル生体! 十分だ、下れ!』とシビア。
『チキュウ各国の戦略核が既に発射されている。数分で到達するぞ!』とネメア。
宇宙空間で炸裂する核兵器は、高熱の線香花火とはいえ、瞬間の高熱球の近くにいれば、やっぱりヤバイし、炸裂後に照射される放射線(主に中性子線)は、生物に対して効果てきめんである。
放射線や、電磁波に関しては、このご時世の宇宙対応の兵器ではその対策も施されていて、大したことはないのではあるが、あの高熱に晒されるのは、流石にマズイ。
ということで栄鷲とジーヴェルも後退する。
入れ替わって、国際連邦安保理事会常任理事国陣営の戦略核弾頭が、ティ連系艦艇兵器やヤルバーンタワーのトラクターフィールドによって軌道を変更させられ、さらに加速を付けて、ダークスターめがけて突き進んでいく。
これを迎撃にかかる機動攻撃型ヂラール達。
だがそれを阻止する連合軍機動兵器……ちなみに核弾頭は迎撃されても爆発工程が普通の火薬型爆弾と違うので、誘爆などしないのである。迎撃されたら、ただの放射性廃棄物になってしまう……
核弾頭が達するシールド境界線手前で、シールド効果破壊減衰弾が無数に炸裂する!
『通過できるか!?』
と多川が叫ぶ。だが敵のシールドもさる者で、減衰弾の効果濃度がマチマチで、途中で通常爆発してただの核廃棄物になる弾頭もあれば、突っ切っていく弾頭もあった。
トラクターフィールドで加速されている各核弾頭は、ダークスターの生物的な外殻に到達し、核爆発を起こした!
ただ、外殻に跳ね返された弾頭は、跳ね返された瞬間に大爆発をするが、核線香花火となって、残念ながらダークスターに致命傷は与えられない。だが、運良く外殻の柔らかいところにめり込んだ弾頭や、隙間や、ヂラール生体兵器発進口に入り込んで爆発した核弾頭は、絶大な破壊力を発揮していた。
爆破された内部から外殻を砕き破って大きく爆炎が上がり、巨大で無数の発進口の一つが、他の区画も巻き添えにして吹き飛んだ。
ハズレ弾頭と、アタリ弾頭が交互に爆発を起こし、ハズレの方でも、一瞬の高熱と放射線はダークスターに少なからず影響を与えており、無駄な爆発ではない。
ただ、意外に途中迎撃された弾頭もまあまああったようだが、各国はかなりの数のミサイルを発射したようで、弾道弾は群れをなしてダークスターを襲った。もちろん地球上のICBMだけではなく、国連艦隊の各艦に搭載されているトマホークⅡも、確実にダークスターの内部を捉えて爆発している。
が……やまとのパウルが腕くんで、
『むぅ……浅いか……!』
と渋い顔。流石にあの大きさのものを吹き飛ばすには、今の核弾頭を全弾めり込ませて爆破させるぐらいでないとダメだ。
『次はティ連の決戦兵器ですな、提督』
と高雄副長。
『そうね。では、ヤルバーン自治国艦艇、トッキ自衛隊艦艇、ゼスタール艦艇、グロウム艦艇各艦は重力子兵器、及び亜空間兵器の発射態勢を!』
ティ連‐ヤルバーン艦艇兵器は、重力子兵器と、ディルフィルドゲートを利用した亜空間兵器を決戦兵器として展開し、ゼスタール艦艇は、次元溝潜航のシステムを利用した亜空間次元兵器を決戦兵器として展開する。
グロウム帝国も元来核兵器が決戦兵器ではあったが、現在はティ連の技術供与で重力子兵器を搭載しているので、ティ連艦艇に準じた発射態勢を取る。
これだけのティ連型決戦兵器をもってくれば、普通なら勝てるぐらいのダメージを相手にぶつけられようものだが、ダークスターのシールドは強力である。しかも大型ヂラールがダークスターの盾になってくる。以前のゼスタール戦争時と同様に、このダークスタータイプは、一筋縄にはいかない。なんせゼスタール戦争の時は、この群体を壊滅させるために準惑星一つをぶつけたのだ。
だが、こういう全力の状況では、他方面の見えないところで全力対応してくれているもので、朗報も届く。
『パウル提督! E579ポイントに多数のディルフィルド反応!』
『今度はなに?!』
すると顕現するは、遠目に見てもわかる物体がワープアウトしてくれた。即ち援軍である。
『あれは、レグノス要塞、それに……ジュンヨウ!?』
国際連邦及び日本国暫定国境線とティ連で認識されている、地球から約一光年離れた場所で普段はディルフィルド航法交通中継地点として機能している『人工亜惑星要塞・レグノス』そして特危自衛隊太陽系方面軍管区司令部火星基地所属のイゼイラ船籍大型機動母艦『ジュンヨウ』旗下火星方面艦隊であった。
やまとブリッジのVMCモニターが展開され、そこに映るは、ジュンヨウ艦長のデルダであった。
『どうも、パウル提督。なかなか苦戦なさってるようで』
『デルダ艦長! もう、遅いわよ!』
『はは、それは失敬。で、こちらは既に戦闘準備整っております。機動兵器もディルフィルドアウト後に即時展開いたしました』
『感謝するわデルダ艦長……っと、いつも一緒のゼルドア提督は?』
『は、今回は、アッチのオヤブンを努めていますよ』
デルダは親指をクイクイと上げる仕草をする。つまり……
『と、いうことだ、パウル提督』と次にVMCモニターが立ち上がって顔を見せるはゼルドア提督であった。
『お久しぶりです、提督』と、パウルは自衛隊式敬礼。同じ提督、つまり将官同士であるが、もちろんゼルドアの方が先任で先輩なのでそんな感じ。ゼルドアもパウルに習って挙手敬礼で返す。そして、
『見た感じ、作戦計画の第一段階、ヂレール兵器(核兵器)での一斉射について、効果はまずまずといったところか? パウル提督』
『はい、ですが、ハルマ地域国家各国の所有するヂレール戦略弾頭のすさまじさ以上に、ヂラールと、ダークスター要塞級のシールドの効果が絶大で、更にヂラール連中に対する統制力も高まっていますから、あの効果でもまだ微妙といったところなのです』
『なるほど、で、諸君らは重力子兵器や、亜空間兵器の発射体制をとっているというわけだな』
『おっしゃるとおりで』
今でも、核弾頭がクリーンヒットした場所は再生もできずに目に見えるほどの大穴開けているわけだが、クリーンヒットできなかった場所は、熱線の裂傷などはどんどん再生機能がはたらいて修復工程に入っている。ただ、放射線の影響がモロに出ているようで、うまく再生できない感じで、いびつな形に外壁部分が再生されて、不気味な容姿のダークスターが余計に不気味になっていっている。
『了解した。ではこちらも広域兵器発射態勢に移らせる。デルダ艦長、艦隊の方は頼んだぞ』
『了解しました、提督』
地球圏到達早々、全艦重力子砲発射態勢に入る。ジュンヨウは船体に発射装置を持っていないので、重力子圧縮を艦前方へ環状に展開できる『発射ゲート展開用ヴァルメ』を射出して攻撃態勢に入る。
そして恐らく必殺の一撃となるのは、レグノスの重力子攻撃だ。
ケルビン正一二面体状の亜惑星要塞レグノスは、ディルフィルドゲートを砲口にして、それをダークスターに向ける。
本来なら、防衛総省本部からの亜空間圧縮砲で攻撃したいところなのだが、時間もかかるし、そこまでは言っていられない。というか、これだけの広範囲攻撃を食らわせれば、流石にダークスターでもただではすまないだろう。
仮に仕留められなくても、地球にはまだ数万発のICBMにIRBMが残っている。弱ったところにこいつでトドメもさせる。
『全艦隊発射準備完了!』
『敵ヂラール、ダークスターより多数展開、射線に壁を作っています!』
『ヂラール個々のシールド効果が積層されて、強力なシールドとなっています!』
『攻撃効果予測は!?』
『今すぐにはわかりません!どうしますか提督!』
『…………ジュンヤ、どう思う?』
『ここでダメなら次も効果薄だ。それにレグノスの攻撃はそうそう躱せるもんじゃない。撃つしかないだろ、後のことは後で考えよう』
『そうね。んじゃ……やまとHQより各艦へ、全艦、広域兵器一斉射、てーっ!』
ティ連、ゼスタール、グロウム系の艦艇が一斉に重力子兵器に亜空間兵器を発射する。
その漆黒で周囲が明るい光線に、空間が歪んだビームの光はダークスターに収束して確実な命中コースを取る。
とりわけゴツイのがレグノスの重力子砲だ。
『3・2・1……全艦艇の広域兵器、ダークスター影響領域に到達!』
『ヂラールの防壁で、全艦隊の総発射エネルギーの威力が減殺されていますが、効果には問題ありません!』
『ヂラール防壁、ハルマ方面に展開の一群、壊滅!射線突破しました!』
『レグノス方面、レグノスの巨大射線を中心に到達!ダークスターに壊滅的被害を与えています!』
偵察ヴァルメの撮った映像に、ダークスターの外壁が飛ばされて、粉砕されている映像が見える。
真空の宇宙で、なにか大都市が一つ大火災を起こしているような、そんな姿。恐らく酸化作用のある物質が炎上しているのだろう。
『よし、やったわ!』とガッツポーズを取るパウル。
全艦艇各員、船の中で歓声を上げようとする……のだが……
『ちょとまてパウル提督!』
喜ぶのはまだ早いとみなを制止するはゼルドア提督。
諸氏、ガッツポーズしかけた腕をおろし、VMCモニターを凝視する。
ダークスターは、炎上する中心部から、何か大きな器官をニョキニョキ出しているようだ。
それを見た月丘にプリルは、
「なんだあれは……」『大砲? にしては背後に向いてるよね……』
と、そんな感想も思った刹那、その器官から、所謂光速で遥か後方の宇宙空間に向けて、何か光る大きなエネルギー物体のようなものが打ち込まれた。
すると……
『……!!? これはっ!』と、真っ先にその異常な数値に反応したのは、技術士官のプリ子だが、その異常性に同時に気づいたのは、何か過去に経験があるのか、悠永ことジーヴェルだった。
<<全艦、後退してください! 特に後からきた惑星型要塞旗下の艦隊の方々、下がったほうがいい!>>
タウラセン人の脳波で意思を全域に伝達するものだから、何事かとわけがわからずに後退命令を出すゼルドアにデルダ。
すると、プリルやジーヴェルが焦った原因がわかった。そして、その原因を驚いてみていたのは、宇宙の人員だけではない。
日本国首相官邸の危機管理センターで、大きなVMCモニターを見ていた柏木に、白木、そして宇宙にいる大見から今、柏木達に連絡が入り、VMCモニターで指を指しながら、あの時の光景に酷似していると皆で話している。
更に目ん玉ひん剥いて驚いているのは、地球から宇宙の決戦場へ到着し、部隊展開を終えたばかりのメルフェリア達機甲騎士団の諸氏。
彼らを驚愕させたもの。それは……天空に瞬間の速さで形成され、浮かび上がった宇宙の穴。
地球圏でまさかそれが観測されるとはと……
それは幾年か前に惑星サルカスの天空で見た光景。
そして名はアインシュタインローゼンブリッジ、
つまり、ワームホールであった……