【第一一章・進化の礎】第六九話 『セルメニアルト』
『これがペルロード人か……』
医療カプセルを覗き込むガトラン上級曹長。その二人の容姿は資料で見た通りの、六本腕があるヒューマノイド型の知的生命体である。
素っ裸の状態でカプセルに入っているため、その身体的特徴はよく理解できた。
片方は、ティ連公用語のイゼイラ語でいうデルン(男性)型で、もう片方はフリュ(女性)型。
体色は文字通りの乳白色で、地球人の白人種のそれとはまた違うような体色である。更にその体色を彩るような、水色系の色で構成された模様が体に彩られている。これは先天的なもので、あとから入墨のように彫られたようなものではない。
こういう皮膚組織の進化形態なのだろう。このあたりはシビア達ゼスタール人も、白い模様を体に刻んでいるようで、そういうところが同様であるから、宇宙の知的生命体には珍しくない形態なのかもしれない。
本来なら惑星ゼスタールに安置されているミニャールの遺体を調べればすでに分かる話なのだが、ミニャールの遺体には葬送服が着せられていて、裸体の状態が確認できなかったという事情がある。そんな時点でエルミナスの方へ即来たもんだから、恐らく今現在はゼスタール星でも調査は進んで、その手のこともわかっているだろう。
そして頭髪を含む体毛形態は、地球人やディスカール人、ゼスタール人に近く、色は黄緑に近い色である。ここはミニャールと同じだ。
腕が複数あるヒューマノイド型種族という点が、非常に珍しいのだが、その阿修羅観音像のような肩部に腕が生える種族の男女二人はとても容姿が美しく、気品がある。
デミヒューマノイド型種族のガトランですら、ヒューマノイド型の知的生命体にそんな不思議な感覚を思う。部隊の兵士の中には見とれている奴もいるぐらいである。
『どうだ、移送できそうか?』
『問題なさそうです上級曹長殿。このまま浮遊移動させてベースキャンプまで移送しますか?』
『うーむ、そこだな……伍長! 外の様子は!?』
『は! ヂラールに取り囲まれてる状態ですが、なぜかこちらに攻撃しようとはしてきません!』
『なるほどな……先程からヂラールの動きが妙だと思っていたが、どうやらこの場所へは侵入したがらないようだな』
『あのペルロードの二人が、変異する前の同胞だからでしょうか?』
『それはどうかな。今のあの化け物どもは、向こうは向こうで世代を重ねて繁殖している。しかも害獣のような勢いでな。もう今はペルロード人であった痕跡すらないだろう、従ってこの二人を知っているわけでもないだろう。まさかヂラールの親が子に伝心して教育を施しているなんてことはないだろうしな』
『では、ここに連中が近づけない何らかのシステムが有るのでしょうか?』
『わからん。わからんが、この場所は連中には禁忌になるような遺伝的なセーフティがあるのかもしれん。恐らくあのケラー達が話しているトーラルシステムが、何らかの細工を施していると見るのが正しいのだろうが……まあどっちにしろ現状ではここにいたほうがいらぬ戦いをしなくて済むのは確かだ』
頷く部下達。となれば、物理的に移送するよりも、転送移送するほうが安全だという結論に達する。
だが、こういった医療処置を必要とする生命体の場合……まあほぼ大丈夫なのだが……転送移送は緊急患者の搬送以外はあまり行わないほうが無難というティ連の転送機を使う際の医療基礎知識がある。
とはいえ、そうも言っていられないのが現状なので、
『伍長、ベリロス副長殿に、転送移送で生体機能停止状態にあるペルロード人二人をコウズシマに送ると連絡を入れてくれ』
とそんなところでこのペルロード人男女二人は、転送移送でコウズシマに送ることを決断するガトラン。
しばし移送作業を進めていると、急にガツンと地震のような大きな揺れに見舞われる。
まったく予想していなかった揺れに、部隊員一同すっころび、慌てて近くの固定物にしがみついた。
『な、なんだ? どうした!?』
『上級曹長殿! 下層の全部隊に撤退命令が出ました!』
『周りを囲んでいたヂラールが攻撃態勢に入っています!』
『なんだと!?』
先程の予想が、あっさり崩された状況に緊張するガトラン。
『全員、迎撃態勢だ! バリケードを張れ!』
とガトランの命令と同時に、彼のVMCモニターが起ち上がる。画面に出るは、ベリロスだ。
『副長殿!』
ベリロスはいつの間にか、コウズシマの艤装部ブリッジに戻ってきていた。どうやら戦闘指揮の真っ最中であるらしい。
『上級曹長! 今から君達の部隊を緊急転送回収する!』
『は? 一体何が……』
『多数のリバイタ型が出現した。流石に今の我々の機甲兵力では太刀打ちできん』
『なんと……』
全長数十メートル、いや、個体によっては百メートルを超える巨大ヂラール、リバイタ型。毎度おなじみの半人半蛇型の戦略ヂラールだ。
蛇のような体で、ある程度の広さがある屋内なら、縦横無尽に動き回り、その太さ大きさから屋内戦では退路を絶たれて部隊が全滅してしまう可能性もある。
つまり、かつてここを訪れたエルミナス人と同じ状況か、もっとひどい状況にあるのが現在である。
『副長! あれを! マスターヂラールです!』
『なんだと!』
緊迫した艤装艦体部ブリッジの状況を映し出す、ガトランのVMCモニター。
ガトランはPVMCGをいじって、コウズシマ艤装艦体の外部モニターへ切り替えると……
そこにはなんと! キャッスル・アンノウンことゲルベラール都市型宇宙船の、そびえ立つ塔部下層階の外壁を大きく突き破って、表皮が装甲化された巨大な頭脳のような体をまとったあの、マスターヂラールと呼ばれる化け物が、外壁から身を乗り出して、長い無数に生える触手状の攻撃部位を外へ繰り出し、その先端からブラスター光弾を射掛けてきた!
狙われるは当然、コウズシマ艤装艦体部。今、ロボット型機動艦体部を切り離しているので、艤装艦体部の機動力は鈍い。
シールドを張って敵のブラスター砲を弾き返すが、それも長くは持たないだろう。
『この状態では上級曹長達を転送回収できません!』
とガトランのVMCモニターの向こうで叫ぶブリッジ要員。
すると瞬間、VMCモニターの戦闘で揺れる画面が、安定した。
『ベリロス生体! 今のうちにガトラン生体達を回収しろ!』
そこには緊急で、ヤシャ級に憑依転送し、艤装艦体部の前へ出て敵の攻撃の盾になってくれているネメアがいた!
『了解だネメア大佐! ガトラン上級曹長達部隊と、ペルロード人二人を緊急転送!急げ!』
光の柱へ変化するガトラン達部隊員と、医療カプセルに横たわるペルロード人二人。
転送回収は成功したようで、ゲルベラールの生命維持室のある区画から彼らの姿は完全に消えた。と同時に迎撃体制で仮想造成したバリケードも霧散して消え、ヂラールどもが雪崩を打って侵入してくるが後の祭り。誰もいない区画にきょとんとしていたりする……
* *
『……ということだ。ガトラン上級曹長達はこちらで回収した。他の調査探索部隊も全て撤収が完了だ。あとは君達だけだが、そちらはどんな状況だ? このヂラール連中は、そのトーラルが関係しているのか?』
カイア10986型を称するトーラルシステムと交渉、というか、情報交換をしていた月丘達。その最中でゲルベラールの異常を彼らも把握していた、というか、把握したからこそネメアはヤシャへ乗り込んだわけである。
月丘も下層にあるガトラン達が見つけたエルミナス人や、リバイタ型の遺骸を見たときから薄々そのリバイタ型や、マスターヂラールがいるんじゃないのかなー、なんてのは感じていたのであるが、案の定の結果だったので、ベリロスの話を聞きながら後頭部をガリガリ掻いて渋い顔をしていた。まったく嫌な予感だけは的中しまくるもんだと。
「ちょっと聞いてみます……カイアさん、今、下層にいる私達の仲間からろくでもない報告が入って大騒ぎなのですが、あのリバ……あいや、ドでかくて、やたら全長が長い“ヨツイセルメニアルト”でしたか? まあそれとか、硬そうな頭脳に手足や触手が生えたような見た目も大きさもえげつないヨツイセルメニアルトと遭遇して、戦闘状態になっているのですが、貴方の差し金ですか?」
と問いただすと、考える事もなく即答で、
『この船のヨツイセルメニアルトは、私の制御下にはない。そもそも私は第三界層のセルメニアルトと共にある存在である。従ってセルメニアルトから生体強化されたヨツイセルメニアルトを私が独自に制御するなどありえない』
つまり、ヂラールのような化け物になっても、このトーラルはヂラールをセルメニア教徒とみなしているわけである。ぶっちゃけていえば、ガトラン達がのっけからリバイタ型と出くわさなかったのは、単に運が良かっただけのようだ。
「……ということだそうです、ベリロス副長」
『そういう考え方かよ……ヂラールも元はペルロード人から世代を重ねた存在だから放置してたってか……なんだかめんどくさい話だな。どうします艦長』
ベリロスと話すVMCモニターの横に、ログマの顔が映ったVMCが立ち上がり、
『もう調査ってところでは、生きたペルロード人さん二人の保護と、そのミニャールナントカとかいうペルロード人のニューロンデータの確保で目的の成果は出てるんだろ? ケラー』
「はい、一応は……で、出来ればこのカイアさんもなんとか一緒に回収、というかご足労いただいて、色々ご協力いただきたいのですが」
『そのトーラルシステムも回収したいってか! この状況でかよ……それはいささか無茶がすぎるんじゃ……』
と話していると、ベリロスが、
『うおっ! 今まともにデカイのを食らった! って……なんだこいつは、メチャクチャでかいぞ!』
ゲルベラールに巣食うマスターヂラールだが、普通この手のマスターヂラールはコロニー型の中枢でふんぞり返っている親玉、ラスボスであって、デカイはデカイが、ガワとなるコロニー本体よりはずっと小さいのが本来の姿である。でかくてもせいぜい、やまと級で蹴り飛ばせるぐらいの大きさなのだが、
『コウズシマの三倍ぐらいあるぞ、塔の中からメキメキはいでてきやがる!』
ベリロスは艤装艦体部の主砲からなにからの全斉射を命じる。
着弾し、イオン化クラスターの爆発衝撃波を宇宙空間で炸裂させるが、敵もシールドを展開して、その威力を減殺するので、やまと級人型戦艦本来の主砲の威力を一〇〇パーセント発揮できない。
『こりゃトーラル回収どころの騒ぎじゃないな、ケラー』
「致し方ないですね。一度撤退しますか……」
そういうと、カイア型が、
『ツキオカカズキ。事態収拾のために、私がヨツイセルメニアルトを制御する』
「え? できるのですか? 先程は制御できないと……」
『このゲルベラールの終了処理を行う。お前達は、今からニホン語でいう三〇フン以内にゲルベラールから退去せよ』
「え、ええっ!? まさか自爆!」
『お前達が、私のパワーを入れた時点で、お前達の言う“マスターヂラール”というヨツイセルメニアルトが活性化した。このまま放置すれば、あのヨツイセルメニアルトは私を同化するだろう。そうなればトーラルシステムを内包する“マスターヂラール”と、コロニー化されたゲルベラールが完成する』
その言葉に月丘は戦慄する。あのヂラールコロニーに、ハイクァーンと、ゼルシステムを内包し、トーラルシステムと一体化したマスターヂラールが完成するのだ。
コレは悪夢というしかない……悪夢というしかないのだが……
「まさか私達が迂闊にも貴方を動かしてしまったせいで……」
しまったと、顔を崩して悔いる月丘。するとクロードが月丘の肩を叩き、
「まてまてカズキ、でもこのカイアのおかげでミニャールとかいう人物の脳構造データや、生き証人の確保にも成功したんだ。成果はあったさ。ピエールの件は少しムカついたが」
「そうですわ、月丘さん。私達の目的を見誤ってはいけません。調査には成功したのです。今の状況は、その未知の結果にすぎません」
と麗子もクロードの意見に同意する。まあ月丘を励ましているわけではないが、目的を見誤ってはいけないということだ。
『ツキオカ生体、カイア10986型は単なるシステムだ。お前は何やら情が移っていると見受けるが、このシステムは、ナヨ・カルバレータや、マルセア・カルバレータとは違う』
シビアも『流されてはいけない』と月丘を諫める。
「はぁ……やむを得ませんね……プリちゃん! 博士! そちらはどうですか!」
『もうあらかたデータはスキャンしたですよっ!』
『プリルに同じ、もう引き上げましょう!』
頷く月丘。そして、
「ではカイアさん、なんとかお互いわかりあえたのに、こんな事になって申し訳ありません。私達が来なければ、こんな騒動にはならなかったのに」
『やむをえない事態である。そして第三界層を守るトーラルシステムとしての私ではあるが、現状のセルメニアルトと私が融合した場合の脅威は、容易に演算可能である。そのシミュレート結果の事象はやはり、止めた方が良いのは理解できる……従って私もこの船と運命を共にする』
月丘は気をつけの姿勢から、カイア型に頭を垂れてお辞儀をする。
皆も、月丘の敬礼に習って、IHD諸氏は挙手敬礼。シビアはゼスタール軍式の敬礼に、プリルはディスカール軍式敬礼、タリアはイゼイラ式敬礼、麗子もお辞儀で頭を垂れた。まあM型ローダーを装着した状態では、頭を下げるのが精一杯だが。
「よし、では撤退しましょう……ログマ艦長、任務完了です。お願いします」
『わかった……よし、ソウチョウタイチームを転送収容だ。完了後、艤装艦体と合体し、全速でこの場を離脱する!』
ログマは月丘達総諜対チームを全員転送回収すると、ロボット型の機動艦体をその場から下げようと操艦するが、その時であった。
『艦長! カイア型トーラルから、大量のデータが、本艦のメイントーラルシステムに送られてきています!』
『なんだと!?』
『すごい……カイア型のメモリーバンクに収められたデータをこちらへ転送してくれているようです』
『俺達に後を託すということか。なるほどな』
すると、その状況を聞きつけたタリアがブリッジに駆け込んできて、
『艦長! カイア型との接続を切って!』
『え? どうしてだ? あいつが全部自分のデータくれるってんだぞ。殊勝じゃないか。涙が出てくるぞ』
『何いってるの! カイア型のメモリーをこの船のちっぽけな艦艇制御トーラルシステムでなんか受け止めたら、一発でメインメモリーバンクが吹っ飛ぶわよっ! コッチはそれを考えて取得データの絞り込み作業をあのタワーでプリルとやってたのに、台無しじゃないの!』
あ、そうか! とアチャ顔をするログマ。優秀な艦長であるのは間違いないが、こういうところが少し抜けている。
『しかし、ネットワークが強制的に接続されていて遮断できません!』
と担当のブリッジ要員がうろたえると、ベリロス副長が、
『艦長、こうなったらあのカイア型の中央システムだけでも引っこ抜いて持っていきましょう。そうすればデータ転送も停止できますし、現物を持って帰れますから』
『いやお前、そんなことしたら自爆シークエンスが止まっちまわないか?』
『今調べましたが、自爆装置は独立稼動していますね。動力部にあるようですが……ですから大丈夫でしょう』
『やるしかないか! ここでメインシステムがパーになって、巻き添え食らったら意味ないもんな』
ログマは操艦士から機動戦闘権限を移譲させ、自身でコウズシマのクソバカでかいマニピュレータを扱う。
ゲルベラールの外壁をコウズシマの『やまと級ストレートパンチ』で突き破り、瞳の形をしたVMCモニター群も突き破って、八角形状に積み上がったタワー型のメインシステムをむんずと掴んで、そのまま引き抜くように回収した。
『カイアさんよ、一部だけど、やっぱ一緒にきてもらうわ。ガハハ!』
久しぶりの操艦にちょっと興奮気味のログマのオッサン。で、すかさずベリロス副長が、
『よし、全速で撤退だ! ヤシャのネメア大佐に遅れるなと伝えろ!』
空間振動波エンジンを全開でその場から離れるコウズシマにヤシャ級。
しばし後、所謂三〇分後に、ゲルベラールの船体底部にある重力制御区画から大爆発が起こる。
その後、船体各部から更に無数の爆発が発生する。
船体の塔下部のマスターヂラールもその爆発に巻き込まれ、体の一部を吹き飛ばしている。
ゲルベラールはそのままピカっと光って大爆発でもするのかとおもいきや、満身創痍状態で、火災に爆発を絶え間なく発しながら、軌道を狂わせて、近くにある恒星系第五番惑星『ガス惑星フィルタ・フィラ』の軌道につかまり、そのガス雲の中に落ちていく……
ガスの雲海へ飲み込まれるキャッスル・アンノウン『ゲルベラール』
しばし後、雲海の表面に、閃光が大きく迸った……
* *
太陽系第三番惑星、地球。
月丘達が件のキャッスル・アンノウン『ゲルベラール』の調査を終えて、一週間程が経過した頃。
地球では、ある意味『もう今更』というところもあるが、国際連邦という単位で見れば、『公式に』ある異星文明国家が外交艦隊を率いて、地球に来訪していた。
よくよく考えればその国とは『日本』と『米国』と『LNIF』という国家単位では、もう既に知った異星国家同士ではあるが、公式の政治的な外交関係の構築という点で言えば、初めての来訪となる国家であった。
その国は、地球より約三〇〇〇〇光年ほどの距離にある、あの『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』の親善訪問艦隊であった。
勿論先の通り、もう今更な話で、今回のゼスタール奪還作戦にもネリナ・マレード提督率いる、グロウム艦隊は協力してくれているので、地球人にも同じ銀河系に住む隣人として、もう知った種族ではあるが、日本とティ連が主導し、米国を中心としたLNIF諸国が協力してくれたグロウム帝国防衛戦で当時壊滅的な打撃を受けていたグロウム帝国は、ティ連主導の国家復興事業真っ最中だったために、国力の回復と復興を最優先し、ティ連以外の主権体、すなわち現在の国際連邦とはまだ外交関係を築いていない状態だったのである。
即ち、互いを認知し、交流はあれど公式な外交関係がないという状態である。
ティ連の場合は、もう現在では『日本=ティ連』という認識がかなり定着しているので、日本と外交関係があれば基本ティ連と外交関係があるのと同義の状態なので、そこはそれでもう落ち着いているのだが、国連はまだそういう感じではない。
なので、現在グロウム帝国の事実上のトップである、かのサージャル大公こと『サージャル・ヴェル・デイザー』が直々に、かの姫ちゃんと暁くんのダチでもあるグロウム帝国皇帝『ランドラ一四世』と、内閣の長『ファール首相』の親書を持って、地球へ来訪したのであった。
ということで、このサージャル大公は現在、摂政を務めており、事実上帝国の内政は内閣とサージャル大公が取り仕切っている状態である。ランドラ帝は、まあまだ若すぎるので、帝王学の勉強中だ。皇帝の仕事は成人になってからということで、それまでは儀礼的な仕事中心で、実務はサージャルが代わりに取り仕切るという形で、帝国を運営している。
グロウム帝国もあれからティ連の援助もあって、相当に復興作業が進んでおり、近隣の同種族が運営していた惑星国家群も、その政体を復権し、近隣の植民星等々に避難していたグロウム圏の各国もようやくその体を成せてきたといったところであるそうだ。
実際、サージャル大公とグロウム帝国が音頭を取って、今まで主権としては別であった近隣国家も、ティ連の政体を参考に、近々星間連合国家という形をグロウム圏各国が協力して再編することになっているという話だそうだ。
ということで、地球軌道上には、鳥が羽を広げたようなデザインが特徴的な、グロウム帝国の外交艦隊が待機し、その一艦である艦が、ヤルバーンタワー先端の宇宙港に船を接舷していた。
まあ外交艦隊とは言え、その数は少ないもので、旗艦となる、旅客船に武装をくっつけたような外遊司令船を護衛する戦艦一隻に、巡洋艦二隻、駆逐艦数隻といった、まあその程度の艦隊である。体裁的に艦隊にしているだけのような船団だ。
ただ、この艦隊が来訪するタイミングが、月丘達が件の事件に成果を出しての話しであるから、ある意味運命的な日程で彼らもやってきたとも言える。
* *
ヤルバーン自治国宇宙港、VIP用到着口から出てくるは、サージャル・ヴェル・デイザー大公。いま、今は摂政と呼ぶべきか。
それを出迎えるは、柏木真人連合防衛総省長官に、フェルフェリア連合日本国副総理兼外務大臣。そして、井ノ崎内閣総理大臣だ。
『お久しぶりですな、柏木閣下、フェルフェリア閣下』
「お久しぶりです、サージャル殿下」
『お久しぶりでございますデス、殿下』
柏木とフェルと、サージャルが久方ぶりの『戦友』と会えて、握る握手も堅い。
『殿下、なんだか少々お若くなられたようにお見受けしますが?』と、これはおべっかでもなんでもなく、そういう感じに見える柏木。
『フム、確かに言われてみレば。何か良いことでもありましたか殿下』
とフェルさんもそんな風に思う。
『はは、そう見えますか閣下。いや、ティ連の皆様の協力もあって、思いのほか、復興事業も順調に進んでおりましてな。私も暇を取れる時間もできてきました。まあそういうのもあって、このチキュウへの親善訪問も叶ったわけですが』
なるほどと思う柏木にフェル。確かにそれもそうだと。
で、そんな話の枕も程々に、此度は生で直に会う、井ノ崎修二内閣総理大臣をフェルが紹介する。彼もグロウム戦争終結以降、サージャルとはVMC会談で互いの顔は知っていたが、今回生で初めて会う事になるという次第。
『連合ニホン国の多大なるご支援、グロウム帝国臣民に代わり改めて感謝と御礼を申し上げます、イノサキ閣下』
「ティエルクマスカ連合を代表して、お役に立てることを光栄に思う次第です殿下。それに我が国も含め、アメリカ合衆国を始めとするこの星の国際連邦各国も、わが地球という星のご近所となる文明の支援ができることを皆光栄に思っている事でしょう、それは間違いのない総意だと思います」
『ありがとうございます閣下。そうそう、そのコクサイレンポウ諸国の皆様とも色々とお礼を申し上げたいのですが、このあたりは今、グロウムにいるニホン国の担当官僚の方から、イノサキ閣下にご相談してくれと言われているのですが』
「はい、その話は私も聞いております。実は我が国日本国は、御存知の通りティエルクマスカ連合に所属する主権体で、まあ紆余曲折ありまして、国際連邦の正式加盟国ではなく、オブザーバー加盟国となっております。ですので、我が国と国際連邦は、主権としては別の政体となりますので、こと異星間外交で、我が国を経由して、という場合は、色々と手続きがありましてね、少々そのあたりの事もありまして……』
サージャルは、ハァハァとその言葉の意味を汲み取り納得する。というのも、以前、柏木からそのあたりの説明を受けていたからだ。
それはかのネリナ・マレード提督が疑問を持った『ティ連の中で一番時代がかった種族』に見えた地球人に由来する。
早い話が、柏木真人が活躍した、あの一〇年前の顛末を起因とする理由があるからだ。そう、地球内でも、異星国家の外交窓口に、まともになれる国が日本のみという事もあるわけである。
そんな出会の挨拶もそこそこに、日本に来た国賓様は、日本の皇帝陛下であらせられる天皇陛下にも謁見し、晩餐会も催されるが、それは明日の話である。
ちなみに一〇年前に活躍されたやんごとなき方は、上皇陛下となられて、そのご子息が現在の天皇陛下であらせられるのがこの時代である。
ということで、当初の予定ではこの後、サージャルは旅の疲れもあるので、東京の大日本ホテルのVIPスイートへ直行。その後井ノ崎と晩餐の予定だったが、急遽その予定を変更して、ヤルバーン自治国迎賓館で、小規模の会議を行う事となっていた。
その議題は、もう既にサージャルにも伝えられていた、『例の件』であった。
それはかのグロウム帝国創生にも関わるような話であって、サージャルも表向きは冷静を装ってはいるが、実のところ、かなり期待や不安、畏怖といった複雑な感情を持って、この地球-日本へやってきていた。
ということで、場所はヤルバーン自治国迎賓館特別会議室へ場所を移す。
そこにはヤルバーン自治国議長のヴェルデオと、副議長のジェグリが、サージャルを出迎える。
勿論この二人はお初の対面となる。それはイゼイラという単位では、本国中央政府が対応に当たっていたので、地方自治国のヤルバーンは、あのグロウム帝国案件には、行政的にはあまり関わっておらず、もっぱらサポートに徹していたのである。
『初めてお目にかかります、ヴェルデオ議長閣下、ジェグリ副議長閣下』
『こちらこそお初にお目にかかります、シャーダ大公』
などと一通りの挨拶も済ませて、関係者皆着席。ヴェルデオ達も事の経緯は把握しているが、恐らく話の中心は……
「遅くなりまして、申し訳ありません」
と、別に遅刻してきた訳では無いが、まあ体裁的にそんな挨拶をするは、現在情報省大臣の、二藤部新蔵、元内閣総理大臣であった。ぶっちゃけ政治家としては井ノ崎より大物である。もちろん御年七〇過ぎ。二藤部もサージャルとは初対面である。互いに自己紹介なんぞ。
で、対面のテーブルに座り、茶菓子をスタッフから出される。話し合い自体は殺伐とした事を話し合うわけでもないのでざっくばらんである。
最初に切り出すは、サージャル大公。
『ところで、このような立派な会談の席を、チキュウ来訪早々に設定して頂き、また早急に我々へ知らせたいことがあると仰っしゃられる。こちらとしては正直腑に落ちるところがないので、一体何事かなと思いましてな』
この言葉に二藤部は柏木の方を見てアイコンタクトで頷き、情報源を取り扱う長として彼がサージャルへ話をする。
「実は殿下。私の部下となります、諜報員の月丘和輝という人物はご存知ですね?」
『ええ勿論ですニトベ閣下。彼は我が戦友でもあります……その彼が何か?』
「はい、話は貴国のネリナ・マレード提督閣下にも現在ご協力いただいております、ゼスタールでの戦闘時に入手した情報に端を発するのですが……貴国の文明は、貴国が信奉する宗教である“ファヌマ教”の聖典に登場する、六本腕の神の使徒との接触が始まりであり、それが国家創生の起源であると信じられているというのは、そういう理解でよろしいですかな? 事は宗教に関することになるので、失礼な表現になれば、お詫びいたします」
『いえ、お構いなく。我が国でも宗教とは別に、文明の起源を科学的に調査する考古学的アプローチは、あのバルター(ヂラール)との戦い以前からやっておりました』
「ありがとうございます。では、ネリナ提督閣下へも我々から色々と情報を提供させていただいておりますが、ペルロード人と呼ばれる高度な異星生命体が、貴国の信奉するファヌマの神々ではないかという事もご理解していただいていると考えてよろしいですね?」
『はい。まあこの件は教会が色々と宗派ごとに、反発もしていたりしますので、まだその情報自体は官民教会の上層階層の、所謂、重鎮しかしらない事ではありますが』
「そうですか……では、今回その月丘諜報員がそのファヌマ教にも関連する驚くべき情報を大きく二つ入手してくれまして……一つは、ゼスタール戦争での情報で、まだこれはネリナ閣下にも伝えられていない事実になります。ちょっと大きな事実となりますので。殿下に公開してから、ネリナ閣下にもお伝えする手筈になっております」
『……ほう』
サージャルは一体何を聞かされるのかと訝しがる表情をする。
「まず一つ目は、少しファヌマ教としてはショックな事となるかもしれませんが……あの貴方がたが言うバルター、ヂラールの事ですな、この生体兵器とも呼べる怪物が、その元はペルロード人だったという事実が判明しました」
思わず『ガタッ』とな席を揺らすサージャル。地球に親善訪問に来て早々、何を言うんじゃ! ってなもんである。
『は? いや、一体何を仰っしゃられているのか……』
「驚くのも無理はありません、実は最近の調査で、この地球社会にもペルロード人の影響があるという事がわかりましてね」
『え? チキュウにもですか?』
「はい、その点も順を追って説明しますが、まずは今回のゼスタール戦争で得た重要な情報を先にお話いたします。今は詳しくご理解できずともよろしいかと思います。我々も情報の詳細を分析中ですので、事実情報の認識は、今のあなたがたと、そう大差はありません……では二つ目ですが……その件の月丘諜報員が、ゼスタール星から移動しまして、彼の発案で我々日本人、いや地球人とティ連人が初めてヂラールの本格的な調査を行った、『別宇宙』にある、とある星系で得た特級の情報なのですが……」
とその続きを二藤部が話そうとしたところ、サージャルが遮って、少々質問をする。
『別宇宙……ですか? 我々の科学では、ワームホールを介して到達できるかもしれないと言われている、我々の科学用語で“泡状宇宙論”という理論の、数ある宇宙空間の一つ、と認識しますが』
「その通りです閣下。ティ連や、ゼスタールの科学力では、その別宇宙に到達する次元航行能力を有しております」
『それはすごいですな……我々の超光速科学技術でも、理論的には到達可能というところまでしかわかってない理論なのに。以前からティ連の科学技術は、いずれ我々も到達できるであろう高次元世界のものとは認識しておりましたが……ああ、すみません、続きをお願いします』
「はは、はい……そこで月丘諜報員は……これまたつい先日得た情報で、私達も驚いているのですが、その謎の多いペルロード人の生存者を保護したという連絡が入ってきましてね」
その言葉にサージャルは『なんですと?』と目をむいて応じる。そりゃファヌマ教信徒としては、二藤部に『お宅らの信じる神様を保護しました』と言われているようなものだからだ。
「それに加えて、我々のこの星、地球にもペルロード人がやってきていたという事実も現在研究されています」
『チキュウにもですか? 共通の銀河にある文明で、そういうお話が出るとは興味深い事ですが、それを証明するものもあると?』
二藤部は、まず第一の証拠になるものとして、かの『ロズウェル事件』の概要を話す。ペルロード人の生体ドローンでもあったサマルカ人の近縁生体の件だ。
これはまぎれもなくこの星にもここ一〇〇年の単位で、ペルロード人が地球人と接触してきていたかもしれない事実現象である。
『なるほど……ファヌマの神々が、我が世界に降臨した時代というのは、グロウム創生の時代ですから、逆算しても、地球のロズウェル事件という事象に到達するまでには、やはりヂラールという接点が、結果的にありそうですな』
「そうですね殿下。このロズウェル事件に到達するまでの経緯として、ペルロード人が地球に根を下ろしたような事実もわかってきています」
ほうと二藤部の話を食い入るように聞くサージャル。
事が自分たちの宗教云々の話で終わるようなチンケなものではなく、あのヂラール戦争が発端で、壮大な異星種族間の時間と歴史となりそうな壮大なスケールの話に今日の旅の疲れもどうでもよくなっている彼であった。
で、その地球側のペルロード人関連の話をする井ノ崎。だが、その話にはある人物に登場してもらわない事にはそのリアリティがなくなる。
サージャルは此度の地球訪問で、国際連邦の各国首脳とも会談をすることになっているのではあるが、それとは別にサージャルに会ってほしい人物がいると二藤部は話す。ただ、それを話すのは二藤部からではなく、日本の国家の代表である井ノ崎が筋なのだが、井ノ崎も二藤部とアイコンタクトして、委細承知とその役を二藤部に託し、
「この地球で、巨大な企業体を形成する、その最高責任者である“エドウィン・スタインベック”なる人物がいるのですが、その人物と会っていただきたいと思っております」
『その人物はどういう方ですかな?』
「ペルロード人の末裔を名乗っている、この惑星世界でもかなり特異な人物なのですよ」
* *
~月丘達の主観を基準に見た場合、時間軸は七二時間ほど遡る~
ペルロード人の、結果的に言えば“遺産”ともいえる建造物であった『キャッスル・アンノウン』こと、大型都市宇宙船『ゲルベラール』なる存在。
それも、今は惑星エルミナスの所属する恒星系のガス惑星、『フィルタ・フィラ』の中で爆散した。
当然その中にいたヂラール達もろともであろうから、これも仕方のないことではあるが、ペルロード人の遺産ともいえるものがまた一つなくなったと考えると、もうちょっと策はなかったものかと少々諜報員として反省させられる月丘和輝であった。
だが仲間達の努力で、ペルロード人の生き残り……生体機能停止措置を施されているため、その出自は恐らく何千歳か、もしかしたら何万歳か、そんな存在になるかもしれない男女二人を確保できた。これは月丘チームの特級の成果であり、さらには、オマケというにはその成果も大きすぎる、ログマ艦長が機転を利かしたトーラルシステム『カイア10986型』のメインフレーム。
これをコウズシマの巨大なマニュピレータ部でゲルベラールの壁を突き破り引っこ抜いて退散するという強引にすぎる手法で、カイア型を持ち出したというか、連れ出したというか、拉致したというか、なんかそんな感じで持ってきてしまったわけで……こればっかりは流石に『助けた』というにはちょっとモノがぶっ壊れているので、解析用になるのか、きちんと修理できるのか……
と、幸いなのか迷惑なのかは別にして、カイア型は最期の力を振り絞って、自分のメインメモリーデータをコウズシマに転移させている真っ最中に、コウズシマのシステムのオーバーロード防止にやってしまったという側面もあったものだから……
『まあ、この部分の解析と修理は、専門家のナヨクァラグヤ閣下と、アホのニーラに任せるわ』
とタリア博士。
『コウズシマの余剰メモリーバンクに転移させたカイアのデータだけでも、ものすごく貴重な資料にデータだから、それと併せてうまい具合に修復できれば、ゲルベラールにあった頃ほどではなくても、かなり優秀なトーラルシステムとして使えるから、これは貴重なペルロードの資料になるわよ、ケラー。ツキオカ』
「それに加えて、タリア博士と、プリちゃんがスキャンしてくれたシステム構造が更に役に立ちますね」
『そういうことね。あ、それとこのハイクァーンデータも、アンポンタンのニーラに渡して頂戴』
「わかりました……と、これは?」
『時空間遡上再生技術を可能な限り最大追跡レベルで集めた、カイア型のデータよ。今あるカイアのメインフレームの残骸と、カイアが送ってくれたデータ、私とプリル中尉が集めたシステム構造データに、この時空間遡上再生データがあれば、うまい事すれば一〇〇パーセントとまではいかないものの、かなりの高確率な再現度でカイア型を復旧させることができるかも知れないわよ』
「なるほど! それはありがたいですね。流石は時空間技術の権威、タリア博士です」
と、煽てを含んで少々タリアを持ち上げると、豊満なタリアの胸部がさらに大きくなったように見えた。
『ということで、オタンコナスのニーラと、ナヨクァラグヤ、っと、今はナヨ閣下だったかしら? その御方にもそういうことで宜しく言っておいて頂戴。あと、その……マルセアという人物だったかしら? ナヨ閣下と同じ人格の』
「あ、はい。マルセア・ハイドル議長閣下ですね。トーラル自律自我人格の」
『そう、その人物ね。その方の協力も仰げば、もっと面白くなるかもしれないわね。出自が同じシステムなわけだし』
この言葉には、深く頷く月丘。
「で、タリア博士は、私達と今後の、その作業に参加しないのですか?」
『できれば良いんだけど、本来私はこのエルミナスの研究責任者だからね。ここをほったらかすわけにもいかないし、そもそもトーラルシステム工学は私の専門外だから。そこは悔しいけど、ニーラは専門だし、ま、後はあのエセ賢者フリュに任せるわ』
いちいち冒頭に、ニーラのディスりを入れないと気がすまないのかなと思う月丘だが、まぁそこは指摘しないでおこうとおもう彼。だが、このタリア博士も相当な研究者だというのは今回の調査で実感できた。正直ニーラ博士に負けていない。実際、彼女の研究のおかげで、かのヂラール化しそうになったIHDのピエール隊員がヂラール化せずに命が助かったのだから。
ということで、月丘達はこれから地球に帰還するところという次第。
タリア博士とは、そんな別れの挨拶の最中であった。
『んじゃ、これでお別れね。プリル中尉も元気でね』
「はいっ! 博士もお元気で」
『で、二人はいつミィアールするの?』
「え?」と目をむく月丘。そんな話したっけ? と。
『ななな、なぜそんなはなしお!』と変に焦るプリ子だが、
『そんなの見てたらわかるわヨ。シンコンリョコウに、もっと美しくなる予定の惑星エルミナスなんかどぉ?』
「は? どういう意味ですか?」
実は、このエルミナスは現在、植物型ヂラールやモンスターフラワー型ヂラールの駆除も、惑星全域でほぼ完了して、一部エルミナス文明の遺跡を遺して、完全な自然植生型の惑星に一旦作り変えて、植生技術実験惑星にするそうな。
恐らくものすごく自然の美しい星に生まれ変わるだろうと。
衛星軌道上には、空間軌道都市がイゼイラ本星ばりに建設され、軌道上にレジャー施設や、移民区域が設定される予定らしい。そこには日本の大手観光業界や、レジャー産業業界も参入してくるという話。交渉がうまいこと行けば、国際連邦のレジャー産業業界も若干参入してくる可能性もあるという。
『ツキオカ生体。そろそろ出発だ』
そんな話をしていると二人を迎えに来たのはシビア。
「あ、はいはい……ではタリア博士、お世話になりました」
『またお会いできる日をたのしみにしていますっ!』
地球式握手して別れを惜しむ月丘達。シビアも便乗して挨拶していた。
『ガトラン上級曹長や、ネメア、艦長と副長、シャチョーのお仲間にもよろしくね』
「はい、お伝えします」
とはいえ、昨日のパーティーで、他の仲間達とも挨拶を済ませているので、今は月丘が代表して宇宙港で挨拶しているわけである。
タラップが引き込まれ、月丘、プリル、シビアは手を振りタリアと別れる。
ハッチが閉まると、人型機動戦艦コウズシマは港から離船を開始する。
続いて、今はネメアが一体化して制御しているヤシャ型もそれに続く。
月丘にプリルは、人型艦故のそんなに広くないサロンに上がり、離れる宇宙港を眺める。するとタリアが腕を組んで、ずっとこの二艦を眺めていた。恐らく艦がディルフィルドゲートをくぐるまで、眺めているつもりなのだろう。
『ところでツキオカ生体』
「なんですか? シビアさん」
『お前達二人は何時ケッコンするのか、タリアの話を聞いていて、我々も前々から疑問に思っていた。回答せよ』
と、そんな見た目JKのシビアに言われて、「は?」となる二人。
『ふーむ』
と、シビアが珍しくそんな言葉で、月丘、プリルの二人を見ると、
『お前達はどういう感性で我々を見ているのかは知らないが、我々、いや、シビアである私は確かにお前達の言う高等教育学徒ぐらいの年齢でスールになってしまったが……こういう表現も妥当かどうかは判別しかねるが、私個人でいえばその状態ですでに地球時間で八〇〇ネンは生きている。そういう事象に興味がある年齢の感性と、相応に齢を経た経験が複雑に相関する感性の状態が私であり、我々だ。で、どちらかといえば、前者の感性が今は強い。我々的には八〇〇年間そういった情報から離れていたせいもあって、久しぶりとなるこのような状況情報を非常に欲している。なので、回答せよ……ちなみにネメアからも強い要請が来ている』
「あ、え、えええ? いや、どういう理解でお話しすればいいのか……」
『なんか普通に“コイバナ”していいのかな?』
「え? プリちゃんそれは……」
ということで、タリアがふった話題を、遠くから地獄耳のシビアが聞いていたという次第もあってか、帰国までの時間はどうやら退屈せずに済みそうである。
ただ、帰国したら、相当に忙しくなるぞと、そう思う月丘なので、この数日はとりあえずこの話題に乗ってリラックスすることにしようと思う月丘であった。
* *
丁度、惑星エルミナスを月丘達が発ったと同じ時間軸な頃、場所は惑星地球、アフリカ大陸に戻る。
ボツワナ共和国。この国の中になる、著名な『マクガディクガディー・パンズ国立公園』から少し離れた場所。
恐らく、土地や『場所』の価値としては、そんなに国際関係からみて重要な場所ではない。まあ、たまに何かの動物番組で自然啓蒙のネタにあげられるような、その程度の場所である。
西方に巨大な塩湖である『マカディカディ塩湖』があるが、ここが秘境マニアには有名か。まあそんなところ『だった』のであるが……
なんと、今現在このボツワナ共和国は、国際市場から注目される国となっていたのだ。というのもボツワナ共和国は国土の二〇パーセント程は、国家が厳格に管理する国立公園となって手つかずの自然があふれる場所となっており、マクガディクガディー・パンズ国立公園なども世界中の研究者や、観光客がやってくるボツワナのドル箱とも言える場所なのだが、そんな所謂、国家御謹製ともいわれる場所の、とある一区画を数年前からごっそりと借り上げている組織があったのだ。
その組織が借り上げている区画には、物見塔が数十メートル間隔で建っているような、高い壁で囲まれている。
ところどころにある出入り口からは、ハイテクなセンサーで監視さながら、出入りするトラックや作業自動車。そのなかには地元の労働者を積んだトラックもあるようだが、アフリカによくあるような小汚い人足集めのようなトラックではなく、小綺麗な最新の人員運搬用の輸送トラックが出入りしている。
その出入り口付近の壁に大きく描かれている、その組織のマーク。
笛を吹いた人間のようなシルエットを持つそれの下に書かれる企業の英文字ロゴは『Pied Piper』。そう、かの国際超大企業パイドパイパー株式会社のロゴであった。
そんな場所へ飛来する一機のプライベートジェット機。
なんと、この敷地に臨時の飛行場も併設しているようである。
元々世界的な自然遺産保護区ともいえる場所に、少し外れている場所とは言え、一企業のこんな場所をつくるというのは、どれだけの金がボツワナ政府に流れたか? と容易に想像できる。まあこんなことをできるのは、確かにパイドパイパー社ぐらいしかない。なんせこの企業はあの、インベスターの主幹なのであるからして。
そしてその企業の親分となればそれば誰かとなると勿論……
プライベートジェットが着陸すると、すぐさまJLTVタイプの軍用自動車が数台、ジェットの搭乗口に横付けする。
搭乗口を開けて出てくるは、あの『エドウィン・スタインベック』であった。
「お待ちしておりました会長。すぐにでも現場へ向かわれますか?」
この敷地にあるパイドパイパー社の部門は何かの研究部門なのだろうか? このスタインベックに声をかける男性は、どうやらここの責任者のようである。
「連絡を受けた時は驚いたけど、間違いないのね?」
「は、とはいえまだ『恐らくは』の段階とさせていただきたいのですが、まあこんなアフリカくんだりで、あんなものが出れば、まずは間違いないかと」
「そう、まあとにかく早く現物を見たいわ。って、忙しい時期に忙しくなりそうなものがポンポン出てくるわね……」
「四日後の、あの件ですか?」
「ええ、あのツキオカサン達が関わった、グロウム帝国という異星国家のトップが、私に会いたいなんてね」
「摂政だと聞いていますが」
「そうよ。摂政っていったら、皇帝代行よ。それが一企業の経営者に……」
と謙遜した言葉で話はするが、顔は全然謙遜していない。
「でも、この発見がもしかすると、わが社、いえ、アメリカ? いや国際連邦にとってものすごく有益な発見になるかもしませんな」
「もしそうならね……」
とまだ訝しがっているスタインベックだが、一体何なのだろうか?
実は、スタインベックはパイドパイパーの建築部門に、このボツワナ共和国のこのあたりの土地を調べて、ボツワナ政府に金をばらまいて借り上げろと命令を下した。
借り上げ……買収ではない。買収は流石に世界遺産にも近い場所であるからして、国際的な批判は避けたいのもあるわけで、そういう次第となった。
で、なぜにこの場所かという話だが、パイドパイパーの所有する、とある資料で、このあたりの今、パイドパイパーが借り上げている場所が、巨大な空洞空間をもった土地ではないか? という情報があって、その場所にとあるものがもしかしたら埋まっているかもしれないという話になっていたのである。
もちろんそれは商売とは別の話で、パイドパイパー……というよりはインベスターの作業範疇となる仕事であって、数年前からこのあたりを色々と調査していたのであった。
結構この話は世界市場的にも有名な話になって、パイドパイパーが、希少金属の鉱脈を見つけた、だの、そんな噂話が市場を動かして、株価指標の対象にもなっていた状況だったのだが……
スタインベックは立派な調査施設から、地下に向かう昇降機に乗るよう案内される。
彼は他の職員と同じように安全ヘルメットをかぶり、昇降機に乗る。
昇降機は、結構なスピードで降下し、最下層に到着した。
「ここは地下どれぐらいですの?」
「二〇〇〇メートルほどですか」
「結構な深さじゃないの」
スタインベックは、鉱山坑道のような場所を想像していたようだが……
「そう思われると思いますが……これを御覧ください」
お付きの責任者が、昇降機施設最下層出口の扉を開けると……
そこはとんでもない広さの空間が広がっていたのであった!
更に目の前には足場を組まれ、ビニールシートで覆われた比較的巨大な物体があるような情景。
そこに到達するには、厳重なセキュリティを通らねばならないようだ。とはいえ、最近発見されたもののようなので、まだその場しのぎの簡易的なセキュリティしかないわけで、パイドパイパーのPMC部門が銃を構えて厳重に見張りを食らわせている。
勿論親分のスタインベックは顔パスで、そのシートの中へ入っていくと……
「これです会長。上層部の情報や、資料通りでした」
「まさか! 本当に出るなんて! す、素晴らしいわ!!」
手を叩き、責任者の手を取ってブンブンふるスタインベック。
「ですが、残念な事に、基本これは化石ですね。使用できるできない以前の話で……」
「そんな事はどうでもいいのよ! これが出たと言うだけで色々変わるわ! 世界も、宇宙も! 私達も!」
スタインベックは一体何を見て興奮しているのだろうか。
その遺物、いや遺跡のようなものに近づいて周囲を見回すスタインベック。
その広げた手を遠縁の調査カメラが、作業場の日本製大型VMCモニターに映すのは、
トーラルシステムの、朽ち果てた遺跡であった。




