【第一一章・進化の礎】第六七話 『神体』
「これは……どういうことですか?」
ユーン連邦軍人ガトラン上級曹長が送ってきた衝撃の映像に、VMCモニターを起ち上げて釘付けになる月丘和輝とチーム一行。また同じ映像をベースキャンプで見ているベリロス副長に、人型機動戦艦コウズシマのログマ艦長。
その映像とは、身体が欠損状態にあるエルミナス人と思われるミイラ化した遺骸数体に、巨大なヂラール・リバイタ型の、これもまたミイラ化した遺骸であった。
「というか、大丈夫なんですか? チーフ」
『ハ、マァ当たり前といえばアタリマエですが、すでに死亡状態にありますので、モノ自体は空間考古学の代物ですな。特に危険はないでしょう』
ただ月丘も地球でPMCやイスラム武装勢力に協力していた頃、中東ではありがちな遺跡などの歴史的遺産に触れる機会も多くあったので、ニワカながらの知識で、
「年代測定では、このキャッスル自体は三〇〇年以上前のもので、エルミナスの文明が滅んだのが一〇〇年前ですよね? どっちにしてもモノ自体は過去一〇〇年クラスの遺跡に近い代物なわけですから、エルミナス人にしても、ヂラールにしても、遺骸の程度が良すぎるんではと思うのですが……どうです? タリア博士」
『それは現在のこのキャッスルの状態を見たら、その程度で普通じゃないかしら?』
タリアが言うにはこのキャッスルも、現状は生命維持装置も何も動いていない真空の宇宙空間の一部という事なので、腐敗風化を促進させるような状況にないからではないかという話で、
「ああ、なるほど。それもそうですね。理解できます」と月丘も納得。
だがしばし考えて、そういう環境ならと、彼の脳内映画的フィクション設定データベースが反応したというワケではないが、そんなごく一般的な、地球人なら誰でも思い起こす妄想をしばし月丘はしてみると……
「チーフ、あのですね」
『は、何か?』
「タリア博士の今の言葉を考えると、グロウム帝国での作戦時みたいなヂラールの卵らしきものが存在する可能性もあります。御存知の通り、あのしぶといヤツらの事ですから、もしかすると卵の状態で一〇〇年単位の超長期保存されているような状態になっている個体があるのかもしれないんじゃないかと思うわけですよ。といっても私の『妄想』ですけど、くれぐれもその手の事にも注意してくださいね」
『なるほど……ふぃくしょんとやらで済まない可能性は十分にありますな……了解しました。ご助言感謝いたしますケラー。状況を舐めてかからないよう厳に各兵へ通達します』
そのやりとりをベースキャンプで聞くベリロス副長。「やるね」と月丘の調整能力に感心する。自分からは何も言うことないじゃんとニヤついていたり。
とりあえず万が一のこともあるので、ベリロス副長が連れてきた空間歩兵の部隊もガトランの元へ集合させて、この区画を集中調査することにした。物的証拠がたくさん発見できているこの区画の調査を重点的に行う方が調査をするには効率いいからだ。
「さて、のっけから重要な掘り出し物が出てきてくれましたが……」
『う~む、となると、このキャッスルとエルミナス人がどういう状況にあったか、ますますそのストーリーを確かめないといけない事になっちゃいましたねっ、カズキサン』
コマンドカーニスのマニュピレータで、ジェスチャーしながら話すプリル。器用なもんである。操縦レバーをコチョコチョいじって人形師のように、カーニスを振り付けたりするプリル。
「そそ、プリちゃんの言う通りです。ですので私達も目星をつけていた、この中央タワーの区画を探索して、なんとかペルロード文明の情報記憶機器の類を探し出さないと」
そういうと麗子がタリアの方を向いて、
「それこそタリア博士の“時空間遡上再生技術”の出番じゃありませんこと?」
するとタリアが皆まで言うなと、そんな雰囲気で、
『ケラー・レイコの言う通りなんだけどね、実はさっきからセンサー回してやってるんだけど、時空間データが取りにくいわね。ノイズとハレーションがきついわ』
「つまりは無理ってことかい? ドゥクトゥール」
『今のところはね、ケラー・クロード』
タリアがいうには、宇宙船の船内のような、空間を高速で移動する場所では、早急な情報取得が難しい、もしくは無理という事らしい。
このあたりの理屈には、地球でも有名な、『アインシュタインの一般相対性理論』が関わっている理由があるらしいのだが、難しいことはわからんのでクロードはパスする。
そもそも彼らがなぜにこの中央タワーが、この施設の重要区画なのではないかと目星をつけたのは、その見てくれのありようもさることながら、もちろんヴァルメ等を使ってこの施設をしらべたからである。
結果はその『見てくれ通り』で、中央部最上階の施設から、その形状相応の機械機器の反応を確認できた。あとは実際のブツをこの目で確認という話である。
そこはどんなに科学が進んだ調査機器を持っていても、実地見聞に勝るものはない。
月丘達は既に動くことのない本来斥力方式で稼働する物資搬入用の大型昇降機の塔内を浮遊上昇して中央タワーの最上階施設へ向かう。
プリルのコマンドカーニスが少々幅をとるが、丁度よい土台になってクロードにタリア、IHDチームはカーニスのせり出しパーツに掴まったり、または跨乗して上へ登っている。単独で浮遊上昇しているのは、月丘+サイドカーと、麗子のM型ローダーで、シビアにネメアは、なにか……恐らくゼスタールの大型のクモみたいな虫、といっても相当でかい代物のような生き物の形状に変化して、高速度で塔内の壁をガサガサと這うように登っている。ちょっとキモイ。
* *
数キロメートルものエレベーター塔内を上昇し、最上階区画へ到着する月丘チーム。
最上階区画には、区画を仕切るような扉はなく、物資搬入用故か、最上階施設から見れば大穴が空いたような大きな部屋に到着する。シビアにネメアはヒューマノイド体へ戻った。
「機械機器の反応があったのは、あの通路の向こうというところでしょうか」
だが、その通路は最上階の施設ということもあって、やはりそんなに広くはない通路である。高さで言えばコマンドカーニス号一機がギリギリ通れるかどうかといった感じだ。
「プリちゃんも付いてきてください。みんなと一緒に行きましょう。一人ここでお留守番というわにもいきませんし、機械関係となればプリちゃんの腕も必要ですから」
『わかりましたっ。んじゃカーニスチャンから降りますね』
プリルは降機して、胸部に装着するタイプの軍用で、VMC出力のパワーが大きいゼルクォート、所謂PVMCGでM型のローダーを仮想造成し、装着した。
プリルのM型ローダーは特注データで、技術屋故の、工具にセンサー類がびっしりと装備されたもので、武装は機動小銃とローダー各所に付いている多機能武装・機器マウントのみである。麗子の装着しているような元から重武装の仕様ではない。
『カーニスチャンは自律モードでセンサー全開にして、ここで警戒待機してもらうね』
「私のサイドカーもここに置いていきましょう……よし、では前進しましょうか」
閉まっていた通路の扉を、プリルのM型が力まかせに引き剥がす。この扉は耐久力もなさそうなので、ボール紙のように簡単に破砕することができ、強引に一行は進んでいく。
通路は幅六メートルほど。高さは低いが、幅は当初思っていたよりは広かった。
目的地までは約五〇〇メートルを進む必要がある。最上階にしてはかなりの大型施設のようだ。
先行してくれるのはネメアにシビア。彼女達が先行してくれれば、何か命に関わるようなトラップが待ち構えていたとしても彼女らが体で……つまり仮想素体で受け止めてくれるのでありがたい。
途中、通路に点在する扉を開けて、中を調べるクロード達。
事務的な部屋や、倉庫と思われるような部屋。正確なところはわからないが、特に目を引くようなものは見つからない。
トラップのようなものが発動することもなかった。下層にあった居住区画を見ても、恐らくそんな物騒なものを配置しているような施設ではないのだろう。
だが、ガトラン上級曹長が今調べているエルミナス人とヂラールの遺骸。この構図を考えると油断はできない。
『ここが目標地点だ、ツキオカ生体』
ネメアがそういうと、少々趣の変わった意匠の、セキュリティに守られているような設備の扉の前に到着する。
『カズキサン、例の弱い電磁波の反応なんかは、この奥から出ていますねっ』
「シビアさん、扉開けられますか?」
『やってみよう』
シビアはあの大扉を開けた要領で、ゼル端子を這わせ、何処かの隙間を見つけて侵入させようとするが……
『ふむ、無理だ。気密性が非常に高い』
「ふーむ、シビアさんでも無理ですか。んじゃブチ壊すしかないのかな」
するとクロードが、
「なあカズキ、根本的な疑問で申し訳なんだが、転送でこの数十センチを隔てた向こう側に俺たちを送り込むことは無理だったのか?」
なるほど理解できる話だ。はじめからそーしてたらという事もある。他の区画は他の連中に任せて、自分達のみこの数十センチ向こう側へいきなり転送して送り込んでも良かったんじゃないかいなと。
「何を言ってるんですかクロード。何が出るかわからない場所に事前調査もなしに転送で送り込めるわけ無いでしょう」
「まそうだけどよう……」
「んじゃクロード行ってくれます? 先に転送で」
「わかったわかった。すみませんでした」
ネメアが、『クロード生体の言うことも一理ある。自分が転送で先に向こうへ行って、中から開けることも可能だが?』と意見具申してくれたのだが、転送するならするで転送地点の状況調査もしっかりやらんといけないし、もし何かあってネメアのコアが破壊されてしまい彼女がリタイアしてナーシャ・エンデにスールが量子テレポートの速度でご帰還してしまうのも困る。で色々手間もかかるので、ぶち壊しが決定する。
「それではいきますわよ!」
麗子のM型が肩部のブラスター砲身を扉に向けて射撃準備よし。
「社長、はずさないでくださいよ~」
「わかってますわよっ。私もクロードさんところで週に三回特訓してるんですから」
「ええ? 本当ですか? クロード」
「ああ、そりゃ熱心らしいぜウチのボスは。特に射撃の腕がすごいんだってよ」
IHDのクロードの部下が、
「それ隊内で有名な話だそうだぜカズキ」
頷く月丘。あの噂のりんくうでのバトルも伊達ではないと言うことかと思う月丘。
「それじゃ発射ですわよ」
と話す刹那、麗子の薔薇の花をあしらったイツツジ製の試作M型ローダー肩部マルチブラスター砲からディスラプターエネルギーが照射され、その気密性が高い扉を、分子の塵に変えると同時に吹き飛ばした。
「ナイスです、社長!」
「まぁコレぐらいはお茶の子サイサイですわよ」
『では、我々が先行する』
ネメアが名乗り出て、背筋伸ばして堂々とその区画に侵入する。
普通なら閉所戦闘的に手合図でもしながらといったところだが、カルバレータなゼスさんにはその必要もないようだ。
壁際に機動小銃を構えて待機する月丘達。
「ネメアさん、どうですか?」
『問題ない。特に障害となるような状況ではない。お前達も侵入せよ」
「了解」と月丘が手合図でクイクイと侵入を促すと、彼につづいてクロードにIHDスタッフが続く。プロのPMCらしい動きでネメアを中心に半円状に銃を構え、待機。状況の安全が確認できると、麗子にプリル、タリアにシビアが続いて入室してくる。
「ここは……」
妙にだだっ広い施設である。ただし真っ暗闇だ。各員はローダーの視界を暗視モードに切り替える。
『カズキサン、ここが例の微弱なパワー反応があった場所のドンピシャですよっ』
するとシビアが、真っ暗な周囲を一瞥して、何を思ったか、周囲にゼル端子を一斉に放った。
「ん? 何をする気ですか、シビアさん」
『ゼル端子を放ってこの施設のパワー供給経路を探索する。しばらく待機せよ』
「やはり動力が通っているのですか?」
『恐らく』
シビアは瞑目すると、ゼル端子の送ってくる情報を合議体で処理しているようだ。ま、こういうところを見ると、本当にこのスールさんの能力は恐れ入る。
……しばし待つと、ゴンッという何処からか響く音に呼応して、この室内の明かりが灯る。
すると天井いっぱいに彫り込まれた芸術的な中抜き彫刻の中から、差し込むような明かりが部屋一面に振りそそぐ。
この全景が視界に入ると、月丘達はみな、
「おー……」
と一様に感嘆の声を上げて、この広い空間を見回すしかない状況に置かれる。
月丘は、
「流石ですねシビアさん」
『パワー経路の探索自体は難しいものではなかった。やはり稼働しているパワー源がある。後で探索しておくことを提案するツキオカ生体』
「そうですね。わかりました……けど……この空間はなんとなく既視感を感じてしまうというかなんというか……」
そういうとクロードが、
「宗教だな宗教。エジプト文明とカトリックを足して、何かわからん文明
で割ったみたいな感じだ。聖歌隊みたいな連中のハモる声が聞こえてきてもおかしくないぞ」
月丘はフランス人らしいジョークで喩えるこの風景を言い得て妙と思う。彼はクロードの言ったジョークのようなものを、実はディスカールでも見てきた。あの国もかつては王政国家で、過去には今は無き大きな宗教勢力が存在し、その宗教芸術が源流のディスカール芸術をあの国に医療滞在していたときに色々見てきた。
この既視感はそれなのかと。確かに似たような芸術性を持つそんな採光システムだ。
『ツキオカ生体、この屋内のなにがしかの物体を稼働する仕組みがあるようだ。作動させるか?』
シビアが首を少しかしげて、何か探ってたものにアタリを感じたような表情で話す。
「やばそうな感じですか?」
『肯定できない。不明だ』
『作動させちゃったら? ここまで来たんだし』とタリア。
「今のままでは手ぶらで帰宅ですわよ、月丘さん」と麗子。
『ヤブヘビならぬ、ヤブヂラール……なんちって』とプリ子
『何か危険なものが出てきたら、我々が始末する。やれ』とネメア
好奇心旺盛な月丘チームの婦女子連中。度胸があるのか、怖いもの見たさなのか、よーわからんが、女というものはどういうワケか群れると強い。それは異星人でも。
それになんでもかんでも動かしゃ良いってものでもないのだが、
「まあ何かアクション起こさないと現状どうにもなりませんしね。お願いしますシビアさん」
『了解』
刹那、シビアがそのシステムをゼル端子でオンにすると……中央にそびえる柱状の壁と思っていたものが、なにやら油圧のような、気圧変動式の稼動システム音を唸らせながら、地面へ収納されていく。
つまり何かを収納していた『壁』が消えて姿を表したのは……
「こ、これは……!」
長方形の厚みとエッジと光点行き交うスリット状の筋のある板状物体を、八角形状の完璧な規則性に則り、キャンプファイヤーのように段組みされた物体。それを補佐するように取り囲む、オベリスクのような、中の透ける半透明の機械物体。
全体的な形状の、特に文化的意匠がかなり違うのだが、所謂その機能的形状がもたらす『仕様』と同じようなものを、チームの皆は知っていた。代表して口に出す月丘生体。
「これはまさか……トーラルシステムじゃないですか……」
シビアがこの空間のパワーを入れたせいかは分からないが、スリットにわずかながらの光をまとうその黒光りする物体は、紛れもなくトーラルシステムの系譜を持つマシンであった。
* *
月丘達がこの建造物の最上階で、トーラルシステムと対面していたその頃、ガトラン上級曹長達の精鋭特殊部隊と、空間歩兵は件のミイラ化した遺骸のある区画を調査中であった。
ベリロス副長が連れてきた空間歩兵の人員も全て回してくれたため、この区画全域をスムーズに調査できるようになった。
『ガトラン上級曹長、聞こえるか』
『は、なんでしょう副長殿』
『諸君らの行動をこちらでモニターしているが、ウチの部隊のガンマチームが少々奥にまで入り込んでいる。ガンマの現在位置を送るから、補佐にまわってくれ』
『了解しました。では一番近い自分達の部隊が向かいましょう』
『よろしく頼む』
「ふむ」と一つ吐息をつくと、ガトランは自分の部隊を集めて、空間歩兵ガンマチームの援護に回る。
それまでにこの区画を色々と見回してきたが、彼らは彼らで成果を挙げつつあった。それはどうもこの区画にはストーリーがあるうようだからだ。
先のエルミナス人と思わしきミイラ化遺骸だが、PVMCGでミイラに予測肉付け処理を行ってみたが、やはり間違いなくエルミナス人であった。それはタリアがエルミナス本星で復元したエルミナス人の特徴を持っていたからである。
現在いるその区画も、どうやらもう一つ区画をまたげば、このキャッスルの貨物搬入区画のようであった。さらにそこにも何人かの、身体を欠損させた遺骸と、何がしらの火器で蜂の巣にされたヂラール兵隊型の遺骸が数体転がっていたのだ。
この事からガトランは、とりあえず現状の状況から簡単なストーリーの組み立てを行ってみた。
(単純に考えれば、この構造物を発見したエルミナス人が、この構造物の調査を行おうとしたところ、ヂラールと鉢合わせて退却戦を始めて、生き残りがなんとかこの構造物から脱出できた……というところなんだろうが……)
なぜ『脱出できたか』という予測が立てられたかと言うと、その貨物搬入区画から構造物外へ飛び立っていったような、トランスポーターの着陸脚を引きずったような跡が搬入口の外へ向かってくっきりと尾を引くようにあったからだ。
とはいえ、基本はそういう構図が思い浮かんだとしても、事はそう単純ではないだろうなとは思うガトラン。
『副長殿』
『ああ、聞こえているよ』
『先程の、搬入区画の件ですが、副長殿はどう思われますか?』
『そうだなぁ……私が思うのは、エルミナス人連中が急いでこの“きゃっする”から逃げ出したみたいな状況は、恐らくヂラール共に追っかけ回されたからなんだろうが、遺骸の配置状況を見る限り、そんな追っかけ回されるような「何か」をやらかしたからなんだろうなとは思うんだが……』
『なるほど、自分も同じようなコトを考えておりました……恐らくそれは多分……』
とそんな会話をしていると、緊急通信が全部隊共通チャンネルで割り込んでくる
『こちらガンマチーム! 非常事態発生! まさかとは思っていたがヂラール発見!交戦中だ!』
その通信に甲殻類系の顔の目を引きつらせるガトラン。
『なんだと! ガンマチーム、どういうことだ!?』
『くそっ!数が多い!』
ガトランの質問にまともに答えられないガンマチーム。
『上級曹長! ガンマチームの視点映像を送る!』
ベースキャンプで各部隊の視点カメラをモニターしているベリロスが、全部隊にガンマチームの視点映像を転送する。
ガトランのVMCモニターが強制的に起ちあがり、ガンマチームの視点での戦闘映像を見せる。
PVMCGでバリケードを作り、ブラスターガンをぶっ放し、地球製の強力な対物ライフルである『ゲパードGM6 Lynx』を連射しているイゼイラ人兵士。銃身を発射のたびに前後させながらバカスカ発砲している。
光弾がヒットして飛び散るは、猿ぐらいの大きさのヂラールだ。だが数が多く、異常に素早い。
『あの個体は!』
見覚えのあるガトラン。そう、あのグロウム戦役で、月丘達が遭遇した、ヂラールの卵から発生した、孵化したてのタイプである。
『ツキオカ少佐殿の妄想が的中したか! おい貴様ら、いそげ! ガンマチームの援護だ』
応と掛け声勇ましくダッシュするガトランの率いる兵士達。
勿論ベリロス副長は他の区画を調査中の部隊もすべてガンマチームの応援に向かわせた。
* *
「ベリロス副長! 状況の説明をお願いします!」
キャッスル・アンノウン最上階塔の月丘達。当然彼らも突然の状況変化に色めき立つ。
『詳しいことはまだわかっていない。ただ現状は今送ったVMCカメラの映像通りの状況だ。まさかヂラールの生き残りがいたとは、ケラーの妄想が当ってしまったな』
月丘もVMCモニターをいきなり緊急で起ち上げられ、見せられたのは小型の幼生型ヂラール。だが、幼生とは言っても動きが異常にすばしこい。当然月丘はこの固体とグロウム戦で対峙しているのでどういうものかはわかっている。
「副長、こちらからも応援を……」
『いや、大丈夫だ。こちらは我々でなんとか抑える。それにこのヂラール共が発生している原因や場所も突き止めたいしな、って、ちょっとまってくれ…………了解しました…………ケラー、今ログマ艦長がコウズシマをこの搬入区画に接舷してくれる。そこからドローン・ドロイドの部隊を送り込んで、攻勢をかける。君たちはそのまま現状の調査を続行してくれ』
「わかりました」
通信を切る月丘。なるほどドローン・ドロイドを投入すれば、このコウズシマには不足している白兵戦要員もなんとか維持できるかと。
ちなみにドローン・ドロイドとは、その名の通り戦闘用の人型ロボット兵器の事で、大きさは全高約二メートルほどのアンドロイドである。
ティ連で一般的に使われているワーキングロボットに【『ヤル研』】が手を加えたもので、みてくれのデザインは、完全にロボットアニメかハリウッド映画にでも出てきそうな、あんなタイプに迷彩服を着せたみたいな、そんなのである。
この兵器もグロウム戦の戦訓で出来た対ヂラール兵器である。
ハイクァーン製造での実体型をコウズシマに搭載しているが、数を補うためにVMCタイプも投入可能なので、地上戦部隊にとって心強い味方だったりする。
「ふぅ、今はみんなを信じるしかありませんね。まあ、何かあれば連絡も来るでしょうし、強制転送で撤収もあるでしょう。私達は私達の仕事をしましょう」
頷く月丘チームの諸氏。
「だがそうなると、ヂラールのゴミどもがこっちに来ないとも限らねえ。警戒だけはしておく必要があるぞ」
とクロード。そこは確かにその通りだ。でもそこは仕事の早いプリル。
『カズキサン、下にあるカーニスチャンに積んであるゼル端子を周囲にばらまいて、警戒線を構築しておいたよ。引っかかればすぐに対処できるし』
「流石ですねプリちゃん。まそれでも警戒は怠らないようにしましょう。こうなるとここは連中のホームですからね、どういう手段で来るかわかりませんし」
万全を期するに越したことはないと、クロードは現状取り立てて何もすることがないIHDの部下を周囲へ散開させて、警戒に当たらせた。
『では早速、このトーラルシステムを解析させてもらって、何らかのメモリーデータなり、媒体なりを頂いてとっとと帰ることにしますか』
とタリアが腕をまくりあげつつ、
『プリル中尉、手伝ってくれる?』
『はいはい了解です』
『それと……あなた』とタリアはIHDのPMCスタッフを一人呼び、『男手もほしいから手伝ってくれる? ケラー・クロード、かまわないわよネ』
首を縦に振るクロード。部下の方を見て、アイコンタクトで許可を出すと、そのスタッフがタリアの元へ駆けていく。
「では私も……」と月丘も手伝おうとするが、
『ケラー・ツキオカはオヤブンなんだから、デンと構えててよ。何かあったら指揮しなきゃいけないんだから』
とタリアに諌められ、代わりにと麗子が手伝いに行った。まあでも麗子のローダーM型では、力仕事ぐらいしかできないだろうが。
でも、ここでも頼りになるのが、ネメアとシビア嬢で、彼女ら二人は別個独自にここのトーラルシステムを調査しているようで、データを次々にタリアとプリルへ送っている。
『って、シビアチャンにネメア、まだコッチの準備できてないから待ってよう』
さっさとしろと目で言うシビア。しばし後、データをコウズシマに持ってきているデータ蓄積専用のメモリーバンクに転送する準備が整うと、このトーラルのスキャンを一斉に開始。可能な限りの記憶データやデバイスの確保作業に入る。
これでエルミナス人のストーリーと、よしんばペルロード人やヂラールのデータが大量入手できれば作戦は成功である。
* *
『上級曹長殿! ドローン・ドロイドが来てくれました!』
VMC造成したバリケード区域を作り、ヂラールの侵入を阻止するガトラン達部隊。
いかんせん猿ぐらいの大きさで、どんどんと湧き出て大量に発生し、動きが素早いものだから対応に苦慮するガトラン。特にガトランは足が逆関節で、三本指の甲殻類から進化したような知的生命体のユーン人だ。戦闘力はシャルリ並にあるが、いかんせんガタイがでかいので素早い標的は少々苦手である。
更にこのヂラールの幼生形態でも、シールドを展開することができるのがヂラールである。かつてのガーグデーラはブラスター系のエネルギー兵器がほぼ効果がなかったのは今や有名な話だが、ヂラールもそこまでではないにせよブラスター系の兵器はよほど強力なものを使わない限り絶対の効果は出ない。
しかも種類によってはクソ頑丈な個体もいるので、銃のような物理兵器も効果が出にくい場合がある。
なので、こちらが使う兵器も自ずと強力なものにならざるをえないので、本来なら機動兵器対応の重粒子ブラスターや、先程の強力な対物ライフルであるゲパードGM6 Linxみたいなものを普通の小銃のように扱ってたりする。
これはみんながコマンドローダーに類する歩兵用個人機動兵器を装着しているからできる戦闘方法で、とてもではないが普通の戦闘服装備だけでは無理な戦い方である。
さてそれはともかく、ログマ艦長が急遽送り込んでくれた新型で新品のドローン・ドロイド兵器。その容姿は、頭部カメラバイザーにメカメカしい関節部、衝撃防止バーがそこはかと見え、そこに防弾防刃繊維でできた迷彩柄の戦闘服をかぶせたような、そんなアンドロイド型兵器である。完全なヤル研趣味であ…………
狙撃兵が持つ、対物ライフルを強化した速射対応の対物アサルトライフルや、某知事型暗殺アンドロイドが持つようなガトリングガンを手持ち武器として標準装備し、背中には対機甲兵器用の重粒子砲や、無反動砲を担いでいる。
この新型無人兵器が新品のコンテナから排出されて、何十体も投入される。即ちこの兵器も状況が深刻化する対ヂラール戦を分析し、圧倒的な数に対抗するために開発された、ヤル研の最新玩具……兵器であった。
全高2メートルはあるその機械人形軍団は、ドスドスと早足でガトラン達の元へやってくる。その不気味とも頼もしいともいえる姿は、さしものティ連兵士達をも唖然とさせた。実のところ、ティ連でアンドロイド、即ちワーキングロボットと呼ばれるものは、正味ティ連人を模したような形状で、戦闘用もそんな感じなのだが、こんなメカメカしい等身大型兵器ロボットというものはティ連にはなかった意匠様式なのである。
さて、この無人兵器は完全な自律兵器ではなく、コウズシマのオペレーションルームにある複数のオペレーターが隊長になって命令する対話型自律兵器であり、場合によってはオペレーターが無線操縦で戦闘に参加する事もあるような兵器だ。
『ガトラン上級曹長、俺だ』
そのドローン・ドロイドの頭部にVMCモニターが起ちあがり、そこに映るはログマ艦長の顔だ。隣でこのドロイドを制御しているオペレーターの顔が三分の一ほど見える。
『艦長殿、援護感謝であります』
『おう、地上戦部隊はあんまりいらない任務だと思ってたんで兵員はあまり積んでこなかったが、あのニホンのヤルナントカの連中が「万が一、万が一」ってうルさくてな、初めは格納庫が狭くなって鬱陶しいとかおもってたんだが、まさか本当に万が一になって役に立つとはってな感じだ。
で、こっちのオペレーターもあまりなれてないんで、自律行動稼働率を八〇パーセントぐらいに設定している。上級曹長からもドロイドへ直で命令して使ってくれても構わん、よろしく頼むぞ』
『は、感謝いたしまス』
『とりあえずは突っ込ませて、連中の巣を暴こう。それで何か見えてくるかもしれん。やばくなったら転送回収するからな』
『了解です、では自分達の部隊は一旦後退させます。前衛をよろしくお願いします』
ガトランら、所謂生身兵士部隊はバリケードから一旦身を引き、ドロイド兵器部隊と前衛を入れ替わる。するとドロイド兵士はバリケードに身を隠すような事もせず、対物兵器を連射しながらバリケードをドスンと超えて、敵の眼前に身をさらし、銃を撃ちまくりながら前進する。
ガトラン達は後方からドロイド兵器を援護しつつ確実に数でおそってくるヂラールを押し返していた。
ヂラールの中にはドロイドに取り付いて、強力な斬撃を食らわすものもいるが、強化繊維の戦闘服を破くだけで即座にムンズと首根っこを掴み上げられ、壁へ叩きつけられる。流石ロボット兵士である、そこはかの知事型アンドロイドにも勝てるかもしれない頼もしい兵器であった。
『ヨシ! このままドロイド兵器を盾に前進するぞ!』
この構図、ドロイド兵器を戦車とするなら、ガトラン達部隊は戦車を援護する歩兵である。更にコマンドトルーパーの様な直協兵器も随伴させている。
すなわちここに小さな機甲部隊が成立している構図。この戦力は強力である……
* *
月丘達は、ガトラン達の状況は、彼らを信じて任すしかないわけで、戦場に近い位置へ人型機動戦艦コウズシマも来てくれたことでもあるし、とりあえずの状況は有利に進められるだろうと、そう信じることにする。
「今はこっちの仕事をしっかりやるしかねーな」
とクロード。PMC時代にも似たような状況はあった。ウイグルで月丘を置いて撤退したクロード自身が正にその状況であるからして。
即ちプロの仕事である。任された仕事は任された奴が完遂する。他のことは二の次三の次である。
「どうですか? タリア博士」
大型の作業機器を造成して、このトーラル系システムへアクセスを試みるタリア。トーラルという同系統のシステムを使っているなら、ハッキングも容易だと踏んだタリアだが……
『なんで? おかしいな……年代から推測できるトーラル形式のシステムデータはほぼ共通プロトコルだから、この方法で侵入できるはずなんだけド……』
「うまくいきませんか?」
『ええ……あのニーラの野郎が使ったナヨクァラグヤ帝を目覚めさせた侵入システムを利用してるんだけど、クソの役にも立ちゃしないわ』
ニーラの作ったシステムを使い回しながら、そこはかとなくニーラをディスするタリア。なんと申し上げたら良いかとタハハ顔で返答に困る月丘君。
『プリル中尉! そっちはどう?』
IHDのスタッフと、このトーラルシステムをハードから調べるプリル。
彼女の特別仕様M型ローダーに取り付けられた検査機器に工具がこのトーラルを非破壊検査している。
『パワー供給は問題ないのかなぁ……シビアチャン? パワーはこのトーラルシステムにも行き渡ってるよね?』
『肯定。問題ないはずである。探査用に設定したゼル端子からのデータも、特に現状、この屋内にパワー供給が不均等な場所は発見できない』
その答えを聞いてタリアは、
『あの天才創造主様であらせられるニーラダイミョウジンの侵入プロトコルを使ってもデータが検索できないということは、そもそもの仕様が違うのかなぁ……』
声のトーンを上げ下げして、イヤミを混ぜながら考えるタリア。
すると突如!
『!?』
瞬時に異常を察知したネメアが、横っ飛びでプリルのコマンドローダーを庇って彼女に抱きついた。
『ぐわっ!』
『ネメア!?』
ネメアは自身の体の衝撃に異常を感じ、即座に現在の仮想造成素体を霧散させ、コアをプリルのコマンドローダーに取り付かせて、コマンドローダーの強力な軍用VMCパワーを利用し、ゼスタールの巨獣を模したようなコマンドトルーパークラスの大きさのVMCマシンを即座に造成してプリルのM型ローダーの構成を変化させる!
『プリ子生体、しばしパワーが戻るまで、この機体の機能を借りるぞ』
『それはいいけど、大丈夫なの? ネメア』
『咄嗟に素体を解体したから問題ないが、我々のゼルパワーが低下している』
で、このローダーに取り付いたのかと理解したプリル。
月丘チームの他の連中も、一体何事が起こったとプリル達を凝視するが、
『全員シールドを展開せよ! 最も強力なレベルでだ!』
と、いつになく感情的に叫ぶネメアに諸氏言われるがままに事象可変シールドを展開する。
だが、プリルを手伝っていたIHDのスタッフが一人、シールドの展開にもたついていた。
『ピエール生体! 避けろっ!』
IHDスタッフの名を呼ぶネメア。だが、トーラルの本体から発動したと思わしき、未知の波動がピエールというスタッフを直撃する。
「ぬおわっ!」
吹き飛ぶわけでもなく、少し空中に浮かんで、昏倒するピエール。
『クッ!』
ピエールに近いシビアは自分の腕を触手に変形させてピエールを巻きつけ、みんなが展開しているシールドの有効範囲の中へ押し込んだ。
その隙にプリルとネメアも少し後退する。
「一体どうしたんだ!」
月丘が無意識にプリルの方へ向かおうとすると、クロードが肩を押さえ、彼を引き止める。
「まてカズキ、ここは待ちだ。下手に動くな!」
すなわち、異常な事態が起こった場合、少し様子を見ろという事だ。下手に動けば、撤退するにしても大きなトラップにハマりかねない。こういう時は慌てたら負けなのだ。麗子社長も、
「そうでございますわ、月丘さん。ここはデンと構えて様子を見ましょう。慌てて思考能力を失った方の負けですわ」
頷く月丘。ただ警戒態勢はとかない。現状この場にいる戦闘に長けた人員は、IHDのPMC部隊と、シビアにネメア、月丘である。
「タリア博士、大丈夫ですか!」
『私は大丈夫! それよりケラー・ツキオカ、アレを見て!』
彼らが銃を構え、警戒態勢に入る。しばしこのトーラルシステムがとった行動を観察すると……
トーラルシステムは、不気味な紫色の光を、そのシステム本体にまとい、基盤配線のようなスリットに赤い色のゆっくりとした光の明暗を纏う。
すると、八角形の環状積み木のように重ねられて積まれた塔のようなシステムは、その周囲にある透明のオベリスク状の端末を不規則に空中へ浮かび上がらせて、本体周囲に展開させる。
さらにトーラルは無数の小さなVMCモニターを造成し、その中には色々な色彩の画像データを出力したり、システム文字の連なったモニターを映し出し、渦を巻くようにランダムに展開すると……
何かまるで、エジプト文明にある『真実の目』のようにも見える配置へ、そのVMCモニターの大群は、モザイクのように集まり、形作られていく……
そのVMCモニターの中の画像は、目玉の動きのように、中の映像を切り替えて、月丘の姿を凝視しているようにさえ見えた。
「なんなんだ、こいつは……」
思わずつぶやく月丘。
『質問に回答する』
この混乱した部屋に大きく響く、音声。声のトーンが低めの女性の声だ。
しかも話す音声は、
「日本語……だと?」
『私は、トーラルシステム・カイア10986型である。セルメニアの意思による稼働をアズマウター1定量周期において行っている。それはペルローディアンに託された第三教階層であり、以下の階層を制する』
なんか月丘達が知っているトーラルシステムとはえらい違う態度のでかいシステムである。話す内容も意味不明だ。ここにきて強烈な戦慄を覚える月丘達。
だがそんなことより今の話で違和感を感じるのは、なぜこいつが……
「あの、ちょっとよろしいですか?」
『質問に回答する』
「まず、あなたはなぜに私達の言語、即ち『日本語』を知っているのですか?」
『惑星エラミナルスから発せられている電波信号、量子信号を解析した。知的生命体ニホンジンの言語である事は理解している』
なんと、惑星エルミナスから発せられる信号を傍受していたのだという。ということはその期間はおそらくかの『サルカス戦争』終戦時ぐらいからだろう。
相当な距離があろうエルミナスから漏れ出る信号から言語解析を行うとは、確かに流石トーラルシステムだ。トーラルなら可能である。
「じやぁ、俺たちの言語、フランス語も理解できるのかよ」
『La langue a également été analysée.』
その言葉を聞いて、
「確かにトーラルだ」と納得するクロード。
さらに、
「それと今、惑星エラミナルスって言いましたね、タリア博士」
『ええ、多分エルミナスの事ね。少々読みに言語的誤差があるけど、私の研究で取り出した時空データは間違ってなかったわ』
だが、現状を鑑みた場合、はっきり言える事が一つある。それをシビアがピエール生体を介抱しながら、カイア10986の形式を名乗るトーラルを睨みつけて、
『ではトーラルに問う。なぜ我々を攻撃した?』
そういうことだ。
トーラルシステムらしい受け答えで反応はするが、VMCモニターの大群で、でかい瞳状のものを形成したり、セルメニアだの、第三教階層だのと訳の分からない事を言うこのシステムは、当然警戒される対象であるからして。
『……回答を要求する、トーラル』とシビア。だが、帰ってきた回答は、これまた日本人に地球人、そしてティ連人が理解しているトーラルシステムとはえらい違ったものであった。
『これ以上の質問に回答することはない。セルメニアの第三教階層の神体を侵食しようとする者はタザリアの芥である。第三教階層が芥と同じ同位格で会話することはない。哀れなお前達を昇華する』
と言い放った刹那、空中に浮遊するオベリスクのような物体から閃光を伴う波動が放たれる!
「さっきの奴でございますわ! みなさん伏せて!」
麗子が肩に担いだブラスター砲から、粒子状の物質を炸裂させる榴弾を放った。
『チャフシールドですねっ! ケラー、ないすですっ!』
麗子が放ったのは、波動エネルギーや、粒子ビームを拡散させるチャフシールドだ。所謂防御榴弾である。
「全員、一旦後退です!」
「IHD、下がれ下がれ!」
月丘とクロードが手を大手に振り一旦部隊を下がらせる。このトーラルは相当厄介だぞと。
月丘やティ連人達の知っているトーラルシステムとは、いつも常に自分達を助けてくれる頼もしい存在であり、また例外的な存在として、ナヨやマルセアのような皆に親しまれている自我人格をもったトーラルシステムもある。だが、この『カイア10986型』を名乗るトーラルシステムは、そんな彼らの知るトーラルとは真逆のものだ。
『なんなの、このトーラルはっ!』
とタリアが混乱した様子で月丘の元へ。
クロードは現状でまともにこいつと対峙できないと、バリケードを造成して、銃を構え、隊員達と臨戦態勢を取る。
「そうでございますわ、トーラルシステムさんにしては、えらくレイシズム的でございますわね」
麗子も少しキレ気味に臨戦態勢を整えながら月丘達の側へ。
麗子も相当IHDでクロード達の訓練を受けたのだろうか、M型ローダーの扱いがまるっきりベテラン兵士のそれである。
「くるぞみんな! 応戦しろ!」
カイア10986は、何やら自分の本体から球体状のドローンのようなものを展開してきた。そのドローンが粒子兵器で月丘達を攻撃。クロード達が応戦を開始する。
『プリ子生体、ここは我々の素体パワーが回復するまで、この状態を維持する。一時的だが戦闘は我々に任せろ』
『わかった! んじゃこのコマンドトルーパーっぽいのはまかせるわねっ……よーし、そうなら私も考えがあるわ、あの悪徳トーラルに一泡吹かせてやるっ!』
プリルのM型コマンドローダーと一体化して、コマンドトルーパークラスの大きさで一時的に合成合体しているネメア。戦闘はネメアにまかせてポピポピとVMCボードを叩いて何かやってるプリル。
その物凄い機動力で、カイア10986の放つ球体ドローンを尽く撃墜するネメア。流石、独立合議体の役職は伊達ではない。
応戦する月丘達。一応彼らの装備も相応の敵を相手にできるぐらいには優秀だ。
VMC(仮想造成)装備も万全ではある。だがこの広いと言っても、一応は屋内の空間でドンパチを続けるにも限界がある。
「ベースキャンプ、応答してください!」
『…………』
「だめだ、下のベースキャンプと繋がらない」
「コウズシマとはだめですの? 月丘さん」
「無理でした。多分あのカイア10986が、通信を何らかの形で妨害しているのでしょう……社長、一旦退却する事も考えますよ」
「仕方ありませんわね」
「で、タリア博士、こんな状況になってしまうとは思っても見ませんでしたから何ですが、何かデータは取れましたか?」
『完全とはいかないけれど、それなりにはね。プリル中尉もあのどさくさで、カイア型の部品をいくつかくすねたそうよ』
「本当ですか! すごいなプリちゃんは」
「でもだからこそ……」と、麗子はコマンドトルーパー化したネメアプリルコンビを指さして、「あの二人だけ集中的にカイアに狙われてるんじゃありませんこと?」
そういうことだろう。逆に言えばこの場で最も戦闘力の高いこのコンビに攻撃が集中してるから、現状まだやりやすいと言える。
「まあベースキャンプと連絡がつかないのはかえってコッチを心配してくれることになるわけですから、いいでしょう」
タリアに麗子、月丘がそんな話をしていると、クロードが、
「カズキ! もう限界だ! こんな閉鎖空間であいつの繰り出す戦闘マシンをいつまでも相手にするわけにはいかねー! 昇降機のところまで引くぞ!」
「わかりました!」
あのトーラルシステムが、こっちの調査活動が原因とはいえ、いきなり復活し、まさかの敵対行動である。正直何がなんだかよくわからなくなるが、命を落とすわけにもいかないので、ここは撤退を決断する月丘。
だが、
『待てツキオカ生体!』
「どうしました!」
『これを見ろ!』
理知的なシビアが普通の生体さんのように、大声で叫び、警戒態勢を取っている。
その凝視する視線の先には、さっき助けたピエールというIHDの隊員が。
「グ、が、がぁぁぁぁ……ぐあぁぁ……」
体をガクガク震わせて、口から泡を吹き、白目をむいている。
「な、なんだ?」
直接上司のクロードも現状の応戦を他のものに任せて、ピエールに近づこうとするが、何かを察したシビアがクロードを止めた。
『だめだ、近づくなクロード生体!』
「ど、どうしたシビアちゃん、ピエールが……」
『これを見ろ』
VMCモニターを造成して、ピエールのステータスを表示する。
その数値を見たクロードは凍りついた。
「ヂ、ヂラール反応だって!?」
その言葉に諸氏みなな「なんですと!?」とピエールの方を凝視する。
『クッ』
シビアの判断は早かった。ピエールにゼル端子を打ち込み、ゼル奴隷化させてピエールを拘束した。さらにそこへタリアが駆けつけ、何か処置を施したようだ。
『ナイスよ、シビアチャン。今生体機能停止処置をしたから』
ティ連の刑罰にある、生体機能を一時的に停止する処置があるが、それと同じことを行うタリア。所謂仮死状態化にしてピエールのヂラール化を防ぐ処理だ。
(さっきの波動を食らったときなのか?)
確かに先程、ピエールはカイア10986が放った波動を食らって昏倒した。
色々な疑念を頭の中で反芻し、月丘はこの戦闘の最中に、
「カイア10986さん! ちょっと話をしませんか!? 何が気に入らないのか知りませんけど、このままだと私達も最終手段を使わざるを得なくなります!」
大声で叫ぶ月丘。だがクロードが小声で
(おまっ、最終手段って、ハッタリかよ)
(いやそうでもないでしょ。ここまでやらかしてるんですから、コウズシマはもう異常に気づいているはずです)
だが、実際は月丘のハッタリもハッタリではなかったようで、プリルがVMCのメールで、
【カズキサン、ナイスです】
と送ってくると、月丘達がこの部屋へ入ってきたヒトサイズの扉が、バコン!と機動兵器サイズの大きさにぶち破られて、中に突入してきたのはプリルに遠隔制御されたコマンドカーニス号に、月丘のサイドカーであった!
コマンドカーニスは物凄いスピードで、カイア10986の死角へ突入し、肩部六連装対機動兵器ミサイルを一斉射し、月丘のサイドカーは、カー側兵装に装備された対シールド破壊グレネードを同時発射する。
虚を突かれたカイア10986は、強力な防御装置で月丘達の攻撃を防いできた態勢を崩されて、トーラルシステム本体に機動兵器をも破壊するミサイル六発の猛攻を受けてしまう。
カイア10986も咄嗟にシールドを再展開したが、少し遅かった。
システム本体の一部が吹き飛び、その能力を低下させるカイア10986。
「どうです!? こんなのは序の口ですよ! なんなら外の戦艦から、直接この場所へ砲撃食らわせましょうか? この都市城塞も強力なんでしょうけど、外の巨大な人型戦艦はそんじょそこらの兵器とはわけが違いますよ!」
プリルの一撃が効いたのか、外で活動するコウズシマの能力を把握しているのか、それともガトランの部隊が、何か戦果を得たか。
カイア10986は戦闘行動……というよりも、今考えれば『抵抗活動』を停止した。
そして……
『……この「セルメニア第三教階層の神体」を侵食、冒涜し、破壊活動を行い、その上私を脅迫し何を得るか、答えよタザリアの芥』
カイア10986はプリルの攻撃でパターンを破砕された瞳状のVMCモニターを再構築し、その視線をで月丘達を睨みつけるように彼らの要求へ答えた。
だが、その態度にどうにも疑問を感じるタリア。
『(なにあの態度。ほとんど差別主義者ね……人を芥って、ゴミ扱いして)』
だが月丘は思うところがあった。
「(いや、そうでもないですよタリア博士)」
『(どういうこと?)』
「(ゼスタール戦争の資料、読みました?)」
『(一通り目を通したけど、詳しくは……)』
『(そうですか……シビアさんならわかりますよね?)』
シビアは頷き、
『(あの時、マルセア・カルバレータの語った事だろう。即ちペルロードの国家体制だ)』
このあたりはクロードも麗子もあまり良く知らない。当事者ではないからだ。
「(そうですね、シビアさん……こりゃペルロードという国家は、相当ややっこしい国かもしれませんよ……)」
態度のでかいトーラルシステムであるカイア10986型。
このキャッスル・アンノウンを仕切る巨大なシステムを再稼働させてしまった月丘達。
この邂逅が、どんなストーリーを紡ぐのか。
下層でヂラールと戦うガトラン達との関係も、問われるわけであるが……?




