第一〇章・新たなるゼスタール ー終ー】第六五話 『次なる探究』
『惑星エルミナス』
それまでティ連のコードネームのような呼称で『正体不明の惑星』を意味する『惑星イルナット』と呼ばれていた星の正式な名称“だろう”と思われているこの星の名が、“タリア・ファウンド・サリーネ”というイゼイラ人女性科学者の発明した『時空間遡上再生技術』というトンデモ技術によって判明した。
つまり、この星はもう『謎の滅びた文明』ではなくなりつつあるのである。
惑星イルナット改め、惑星エルミナスがこの星の最終戦争で滅んだのが、恐らく地球時間で一〇〇年前ぐらいだろうと言われている。その一〇〇年もの歳月の、時空間を飛び超えた情報を取得する技術などというのは、これまでのえげつないトンデモ科学をティ連人から色々ご披露されてきた日本人にとっても、これまた久々に詳細を尋ねなければならなくなるものすごい技術であったりするわけである。
ということでタリアの話を……まあ所謂女性的なお洒落な事務室とは言い難い作業部屋のような所長室で茶菓子をつまみながら拝聴する月丘達一行である。
『……ということでですね、その「時空間遡上再生」を使った色々な成果をお見せしたイので、一息ついたら研究地区へご案内しますね』
ということで月丘達一行はタリアに案内されて、カートに乗り研究地区ヘ向かう。というかこのカート、車輪付きで六輪車である。ゴルフ場で使われるような、あんな感じの車両だ。
ティ連のモビリティといえば、空中に浮くマシンと相場か決まっているが、この研究ラボではこんな車輪付きのカートで皆が移動している。
『ああ、このトランスポーター? ジドウシャって言うんでしょ? 自分で直接運転できるから便利が良いって、ヤルマルティアのデータを引っ張り出してきてみんなで使ってるの』
なんでもすべてマニュアルで、直感的に移動できるからというので、単純にお手軽便利で使い勝手が良いという理由で使ってるという話。ガタガタと車輪を揺らしながらパイプトンネル状の道路を走る一行。ユーン人のガトラン上級曹長のガタイが特別大きいので、ちょっと荷台に設置されたシートのバランスが悪い。
衛視の立つゲート前の駐車場でカートを止めて、PVMCGでのチェックをすませる。
スタッフに案内されて展望室のような場所に連れてこられると……
「うわっ! こ、これは……」
『うひゃー! ここまで再現できてますか!』
月丘やプリルはそこから見える風景に圧倒されてしまうのだった。
一行が見た風景、それはかなりの広大な面積で再現された、惑星エルミナスの建造物群であった!
つまり、この今いる区画にかつて存在したであろう都市が再現されていたのだった。
『でも、「忠実に再現」っていうわけではないんだけどね』
と話すタリア。なぜかといえば、まあ考えてみれば当たり前の話で、元の姿を再現しようとする方は、その『元の姿』を知らないものだから、これがどこまで本当の姿かどうかもわからないのだという話。
『時空間を遡上して情報を取って再現することは、時間が経ってれば経ってるほどタイムハレーションを起こして、事象情報の取得が困難になるの。しかもそれは観測する場所ごとに、それこそ針の穴ほどの空間体積単位で一定じゃないから、場所によっては時空間情報が全く得られないって場合もあるのですよ』
「では、この再現度は?」
『ハルマ(地球)でも、大昔の遺跡から発掘されたものを推測で再現したりするでしょ? それと同じね。トーラルが部分的に再現したものの形状パターンを類推してハイクァーン造成してるから、まー、この場所だけで言えば、六、七割ぐらいの再現度じゃないかしらん』
月丘はその説明を聞いて、六割でも大したものだと驚く。
彼女の話では、取得したい時間軸の差が短ければ短いほど、つまり事象と事象の時間差が短いほど再現度は高いという話。なので、一〇年前の火災家屋を修繕するぐらいの程度のものであれば、その消失した家屋の形状データを簡単に数時間程度の過去空間の情報から引っ張ってこれるという話。
少々話が脱線するが、ティ連の異常な医療技術もこの技術が各所に使われており、事故などで負傷した緊急性の高い傷害を治療するときは、その怪我の原因をこの技術を使って特定し、欠損箇所を元通りにするという方法も取られる。
そんな話を聞くと麗子が、
「この技術を使って、ポンペイの街並みを再現するなんてこともできるんじゃございませんこと?」
と尋ねると、流石にそれは無理だという話。ぶっちゃけ『古すぎる』という事。
もしそれができれば、トーラル文明の謎も解明できるわいなと。
「あ、そう言われてみればそうですわね。オホホ、これは失礼」
無敵のトーラル文明科学技術を駆使するティ連人でも、やはり過去時空への挑戦はかなり難しいようである。
『ということで、どうですか? 再現したあの街に降りてみます?』
『いきましょーよっ! カズキサン!』
「それはもう。みなさん、よろしいですね?」
麗子やクロードにガトランも頷くと、月丘達は展望室から降りて研究区画に入れてもらう。
入り口には浮遊型キックボードのようなものが何台も置かれている。これに乗って、この再現されたエルミナスの街並みを見て回ることができるという次第だ。
浮遊キックボードの乗り方は、まあ所謂そんな感じの思う通りの乗り方で、難しいものではなかった。ってか、月丘は今度一つ造成しようと思ったり。
ガトランチーフがこれまたガタイがでかいので、大型種族用のものに乗ってたりする。
ということでフィーンといった音をさせながら、タリアが色々解説しながら再現された道路を走る月丘達。
ある場所で停止し、惑星エルミナスの重要な研究部分という場所を解説するタリア。
『……で、これを見てくださいな』
タリアが見せたかったのは、なんと自動車であった。そう、所謂『四輪自動車』である。
「こりゃ……セダンタイプじゃないかよ。形状も俺達地球世界のクルマとさほどかわらないな」
と自動車が趣味のクロード。修理も自分でこなすほどの車好きである。
『でしょ? 私もこの情報を入手して、再現造成できた時はびっくりしたワ』
とタリア。この自動車の何が貴重かというと、過去情報のデータが、ハレーションを起こすことなくすんなりと入手できた、珍しい過去情報純度九〇パーセント以上のものなのだという。
「なるほど……ではこのクルマのようなものは、トーラルシステムの予測再現を含まない、ほぼまんまのものだと?」
『ええ、そういうことですね、ケラー・ツキオカ。私はジドウシャの事はよくわからないですけど、ケラー・クロードは詳しそうですが』
「ん? ああ、そうですな……このクルマ、中を見せてもらっていいかな? ドゥクトゥール(博士)」
『ええどうぞ』
クロードは、興味津々でドアを開けて、中を覗く。
地球製の樹脂部品の匂い漂う新車の車内。そんな文明の匂いも少し共通のものだったり。
車内内装はシンプルこの上なく、一時期はやった米国製の高級EV車のように、VMCモニターのようなもの一つで、ステータスを表示するような仕様のものみたいである。
ハンドルは楕円形で、使用方法自体は地球のそれと大差はない。ただ、地球ではどんな車にもついているウインカーがないようだ。それらしい操作デバイスも見当たらない。
「パワーソースは……何らかの物質を電気変換して走るみたいだな。EV車の一種みたいだ」
車輪にモーターが内蔵されているようなので、そうだろうと話すクロード。
「物質を電気変換ということは、燃料電池式ですか? クロード」
「ああ。だが、水素と酸素を反応させるというものではなさそうだ。何か特殊な物質を反応させるような、そんな感じだな。恐らく蓄電池式よりも、その方法のほうがパワー効率がいいんだろ。文字通り『燃料のような発電物質』をつかうんじゃないのかな」
と、しばしその自動車を検分し、車の底部まで調べたクロード。
「あー、こりゃすごいクルマだな。一〇年前ならトヨハラや、ペスラが目の色変えて争奪戦しそうなクルマだわ」
「で、クロードさんのお見立てでは、どんな特徴のお車ですか?」
と麗子が問うと、
「そうですなぁ。もし今の地球人がティ連と接触してなかったと仮定すると、一〇〇年前後ぐらいに出てきそうな自動車ってところじゃないですかな?」
「おおー」とクロードの言葉に流石クルママニアと感嘆する地球人の方々。そこはタリアも感心して、
『ケラー・クロードの意見は貴重ですね。その言葉でこの文明の科学レベルが大体察することができました』
その通りである。この文明はクロードの視点で言えば、ティ連と接触がなかった場合の、地球の西暦二一〇〇年~二二〇〇年ぐらいの文明水準だと伺うことができたのである。
更に、その発達史的に、地球の科学史と似たような推移を経ているかもしれない事が窺いしれた。
『私も色々と調査してみましたけド、そのジドウシャの話ではありませんが、恐らくこの文明の過去は今のハルマの時間軸の延長線上にあるような文明だったのでしょうね』
とタリアが話す。
クロードの趣味が、タリアの調査結果を裏付ける形になるとは、クロードの趣味もなかなかに侮れない。
「ま、自分はEVよりも、内燃機関派なんですがねドゥクトゥール。そんなのはなかったですかな?」
『そーねー、見た感じそのデンキジドウシャ? ってのばかりだったけど……あ、そうそう、あのセンシャみたいなのとかもあったけど、あれも同じような駆動機関だったみたいよ』
以前、大見達が調査に来たときに朽ち果てていた、クローラー付きの戦闘車両も時空間遡上再現してみたそうだ。タリアの話を聞く限り、EV戦車のような代物だったそうだ。
一行は、そんな研究成果物も見物しながら、再現された街を散策してみる。
すると、カフェのような建物を見つける。
「へえ、こんなのも再現できるんですね」と月丘。
思わずニンマリしてカフェの屋外テラスだろうと思われる場所に座って、周りを眺め見る。他の諸氏も座って、ちょっと休憩でもしていこうと相成る。
プリルがさっきから首を右に左に傾げて、何か考えている様子。
「どうしたのですか? プリちゃん」
『え? あ、いえいえ、ちょっと先程のケラー・クロードや、タリア博士のお話を総合して色々考えてたのですけど……』
プリルも一応これで機動兵器の設計もこなす姉譲りの優秀な技官である。彼女なりに技術面で考えるに、
『この文明が、ミナサンのおっしゃる通りのハルマでいえば、今からおよそ一〇〇年前後の未来を思わせる文明だと仮定すると……多分、恒星系内の宇宙航行技術は持っていた可能性はある文明と思えますよね。でも……』
所謂、『超光速技術』を持っていた文明だとは考えにくいとプリルは仰るわけである。
確かに現在の地球の技術を考えても、もし、ヤルバーンが地球に飛来せず、ディルフィルド航法関係の技術が伝播しなかった場合、西暦二一〇〇年程度ぐらいで超光速技術を発明しているとは……可能性はゼロではないが、少々考えにくい。
更に言えば、ヂラールはサルカス戦当時、何らかの時空間制御技術のデバイスを取り込んで、サルカス世界に顕現していたのではないか? ということが言われていた。
そしてこの惑星エルミナスで最終戦争をやらかしたヂラールは、純正ではなく、この惑星文明の手が入っている物であって、とすると多分月丘達が戦ってきた純正かつ原型となるヂラールをどういう形で捕縛して資料としたかなど……そんな疑問が色々と湧いてくるという。
そんな話をプリルがすると、麗子も一つ教えてほしいことがあると仰る。
「ところで月丘さん、あなた惑星ゼスタールで、あの、何でしたっけ?、あ、そうそう、ペルロードさんでしたかしら? そのお亡くなりになった方の従者みたいなトーラルシステムと色々お話をなさったのでしょ?」
「ええ、まあ」
「その時に、そのヂラール発生の根源となったペルロード人さんの本拠地はお尋ねになりましたの?」
「ああその話ですか……そのあたりはティ連軍首脳部との話で出てはいたそうなのですが……」
どうもマルセア・トーラルシステムからその情報は消去されているという話なのである。つまり、ペルロード人の本星所在地のような情報は、わからなかったらしい。
「あら、そうでしたの」
「はい。まあつまり、ヂラール発生の理由も考えますと、行かないほうが良い場所、禁断の地ということで、あのミニャールという方が削除してしてしまったのではないかと」
「なるほど……ではもしかすると、此度の月丘さんのこの調査任務、結構重要になるかもしれませんわね」
「ええ。私もそう思ってこっちに来たわけでして」
つまり、此度の任務は、ヂラールの調査以上に、ペルロード人の痕跡を探す調査でもあるのである。
この文明が、ヂラールを解析し、いみじくもそれを人工的に量産して兵器に転用した。これは言い方を変えれば、その元ネタとなったヂラールをどこで拾ってきたか? という調査を必然的にしなければならないわけで、そこからまた大きな情報を得ることができるのではないか? という発想からであった。
大体、あの強烈なヂラールを、このエルミナスの文明が『捕獲した』わけである。で、このエルミナスの文明レベルを考えると、『戦って捕縛した』というのは少々考えにくい。そんなもの稼働中のヂラールコロニーを、この文明レベルが相手をして、捕縛する余裕があるほどの勝利をするなんてのはどう考えてもありえないからである。
「んじゃなにかカズキ、この宇宙の、どこか近いところにオリジナルヂラールの、サンプルになるような何かがあるかもしれないってか」
「そう考えるのが妥当でしょうね。その『何か』のようなイノベーション的な資料をつかめて、マルセア議長にお見せできれば、また何かペルロードなり、ヂラールの重要な某かがわかるかもしれないと思いましてね」
なるほどなとクロードは思った。
現状よくよく考えると、ヂラールとドンパチはもう結構やってはいるが、ヂラールがペルロード人との関わりあいがあるとわかった時点からの、ペルロード-ヂラール関連の情報となると、その情報や資料は、全然といっていいほどない。
しかも、最もその情報源として重要な位置にあるマルセア・トーラルシステムが、所有者であったミニャール・メリテ・ミーヴィに色々と封印処理、削除処理されているわけでもあるので、“自我を会得した”と言っていいマルセア自身も、封印されたアーカイブや、削除されたデータを復元させるような情報を色々と欲しているわけでもある。
そんな状況であれば、確かにこの惑星『イルナット(正体不明)』であった場所を本格的に調べるのは、意味のあることだろうと月丘やプリルも思う。
「じゃあカズキ、この星の近くにある星も調べていくってことか?」
「そういうことになりますね。私は宇宙の専門家じゃありませんので、詳しい計画はそっち系の方と協力して考えますが、まあそれでも超光速の技術がない文明がうろつける宇宙の範囲なんてものは私のような者でもおおよその見当はつきますから、まずはこの恒星系から調べていくのが順当なところと思いますが……タリア博士、エルミナス近隣の惑星などの調査などは、もう行っているのですか?」
『それなりにね、始めたばかりだけど。このエルミナスをここまで調べるのにも、相当苦労したからまだまだこれからって感じね。でもケラーの話もあるから、今後行われる調査計画にも、ケラー関係の調査も含まれると思うから安心して』
「ありがとうございます。とはいえ、先行して私達も調査しないといけませんので、こっちは独自に動きますので」
でないと、人型機動戦艦コウズシマなんぞを持ってきた意味がない。あの艦は、航行試験も兼ねて、そういった任務にも対応するようここまで持ってきているわけなので……
* *
所変わって場所は惑星ゼスタール・ティ連、国際連邦軍駐留基地。
ゼスタール政府から租借地として借り受けている、きれいな海に連なる諸島地域にあるティ連・国連軍駐留基地。
つい先日までは、各国の水上艦艇が所狭しと停泊して賑やかな港湾の様相を呈していたが、現在水上艦艇はほぼ全ての艦が、地球へ帰還してしまっているので、今この基地に駐留している艦船はティ連の宇宙艦艇と、一部国連軍の宇宙艦艇ぐらいなもので、随分と静かになったものである。
さて、惑星ゼスタールのコロニー政府と、コッチの宇宙空間に顕現してきたゼスタール合議体政府の協力体制の話し合いは現在大きな問題もなく順当に進んでおり、マルセアの、トーラルシステム由来の自我人格の手腕はたいしたもので、すでに両政府は基本的に連邦国家として今後は共に歩むことを決定して、その国家名称もネイティブ側が自治体運営する『ゼスタール自治共和国』と、スール側の『ゼスタール自治合議体』の連邦国家、『ゼスタール共和合議連邦』として、これからは歩んでいくことになった。もちろん、この新しい政体でティ連への加盟状態を継続することになる。とはいえ、ゼスタール共和国側はティ連がどういったものかなんてのは、まだ全然わからないところもあるので、当面はゼスタール自治合議体が主体としてティ連での連合国家活動を行っていくことになる。
ただ、存在する場所が別宇宙なので、ティ連としての代表政府の領土は、例の『月面基地』の租借地を少々拡張して差し上げて、あの場所を地球やティ連のある宇宙の代表政府にするという話。なんともまぁ、ヤルバーン自治国といい、この月面のゼスタール太陽系方面代表政府領といい、地球の周りも異星人国家が近隣にできて賑やかになってきたものである。最近では木星のガニメデがティ連に譲渡されて、ティエルクマスカ銀河系関係諸国家の太陽系での出先機関となっていたりもして、この太陽系に地球の二〇二〇年代という、所謂『現代』も、とうとうSFじみた宇宙国際化をはたしていっているわけである。
で、ゼスタール関係の話に戻すと……更にあの時空間接続帯にある『ナーシャ・エンデ』も、そのままゼスタール連邦に組み込まれるので、実のところ結構な領土規模を持つ国家となるのである、新生ゼスタールは。
ということでティ連は、政体が変わった場合は事後報告だけで余程の不備や、政体の異常状態がない限りは、加盟状態が継続されることになっているため、難しい手続きもなくそういった感じになるわけである。
ま、この巨大で、強くなったゼスタール文明も、結果論だがヂラール大戦という八〇〇年もの長い試練を踏んだ結果ともいえるわけで、そこにミニャール・メリテ・ミーヴィや、マルセア・トーラルシステムといった新たなファクターの関わりなど、因果の運命を重ねてきた結果ともいえるわけで、そんな運命に色々と感慨深く、また複雑な気持ちもあるのは、その諸島基地の港湾にズドンと聳える人型戦艦『やまと』主砲の先端に立って、腕組んで海を眺める、調査合議体であり、少し前までは大使の肩書も持つ『代表合議体』でもあったシビア・ルーラであった。
この惑星ゼスタールにも夕焼けはある。
大戦前までは、ヂラールによって大気成分を変えられ、青空と薄紫色の大気が絵の具パレットのように入り混じったような空だったが、今は浄化も進み、地球にあるようなきれいな夕焼けが望めるようになった……それでもまだ薄紫色の大気成分は多少残っているが……
大型鳥類のような動物形状からモーフィングして、シビアの立つ砲身の、隣の砲身に着地するは、ネメア・ハモル戦闘合議体で、特危自衛隊出向1佐。
「シビア、諸処の手続きは済ませてきた。あとはアルド・レムラー・カルバレータと、その合議体に任せて問題ない。現時刻を持って我々とシビアの合議体は、交渉合議体構成の任を解かれた。今後は現状の盟約における活動組織の命に従うようにと指令を受けている」
「肯定。その指令は今我々も認知した……ネメア、あれからもう何百周期も経つが、今のお前の考えを、教示してほしい」
するとネメアは、そのスタイルの良いボディを夕日にさらし、
「この惑星をヂラールから奪還することは、我々がスールと化したその時からの悲願であった。色々とティエルクマスカ政体と紆余曲折もあったが、結果としてこの度のような結果を得られた事は大きく評価するところだ……そう、評価するところだが……」
ネメアがその言葉の後をしばし止める。シビアは真正面を向いたまま、言葉を挟まずネメアの話を聞く。
「我々……いや、私個人の感情で言えば、正直、母星に戻ってみても、やはり何百周期もの時を経ての帰還は、懐かしくはあるが、あの生体であった頃のような感情はもうないのが正直なところだ」
するとシビアも口を開いて、
「私も同じような気持ちだ……私も若くして、スールにされてしまったが故に、私にとっての拠り所はナーシャ・エンデであって、この星というわけではない……スールとして長く在りすぎたのだろう」
「肯定だ、シビア」
「そして今は、我々の能力を受け入れてくれる地球の日本が私の在るところである。あの国を私は気に入っている」
「そこも肯定だ」
シビアは真正面を向いていた顔をネメアの方へ向け、
「この星のゼスタール生体と文明同化して、生体に戻る事を希望しているスールはどれぐらいいるのだろうか。最近は個々の自我情緒の発現が活性化してきて、意識の共有化も、部分的に行われなくなっている。事実、我々も、私個人が今、こうしてお前と話しているし、お前もそうだ。スールから分離して生体になれば、もう完全に『個人』となる。意識の共有はそれ以降できなくなる」
「話では今現在、二〇〇〇万人ほどのスールが生体に戻ることを希望しているそうだ」
「そうか」
スール・ゼスタール人にとって、合議体能力を捨てて、クローン生体に個人を移植することは、その時点で合議体として瞬時に共有できる意識や情報を捨てるということになる。
このスール合議体の意識の共有とは生半可なものではなく、例えばネメアが、ある星系で行った作戦行動での困難な状況や、必死のパッチでやっていた大変な仕事の状況も、まるで自分が経験したかのごとく一〇〇パーセントの情報を体感記録できるのが、スール同士の『共有』である。
ティ連と接触するまで、彼らはそうやって組織全体を脳のシナプスのように連結させてきた人工精神体であったので、そんな状況を八〇〇年も維持すれば、完全な『個人』となることは、ある意味苦痛を伴う事とも言えるだろう。
彼らが望んでそうなった訳では無いにせよ、なってしまったのだから仕方がないとはいえ、今度はティ連や、日本との接触で、長らく個人の感情というものを捨て去っていたスールに、再び個人の感情が発現してきた。
それは彼らがスール化して以降、求めていたものではあるけども、スールの合議体としては、その存在自体に矛盾を発生させるのも『個人の感情』であって、今のスールはその二つの相反する論理性と情緒の中で存在している状態である。
そういったスールが完全な『個人』になることを選択する。それは彼らが今まで経験したことのない矛盾した新たなイノベーションと向き合うことになるのである。
今のシビアにネメアも、そんな完全な『個人』として生きて行くのは、正直自信がないといったところもあるのだろう。
実際、生体として生きていきたいと思い、生体化を希望しているのは、年配のスール化した面々である。若い世代でスール化した世代で生体化したいスールは、あまりいないという話……確かにわからないのでもない話である。どこかの島国でもなんかそんなような世代間の考え方の差異を聞いたこと在るような、そんな話を、スール・ゼスタール人も持ち合わせているのが面白い。
「ネメア、私の次の任務は惑星イルナット、いや、今は正式な名称が判明したそうだが、そこでのヂラールの痕跡を探索する任務に当たる。お前は?」
「私も同じ任務に当たるよう、クルメ将軍を通して、ゲルナー・バント司令より指示がきた」
「そうか。移動装備としてヤシャ級を一隻、パウル生体が用意してくれた。明日にでもこの星を発とう」
「それまでに今後の活動を報告……いや、『挨拶』だな、フッ……それをしておきたい人物が幾人かいる」
「了解だ。私も相応の人物に顔を出しておこう、フッ……」
なんだかんだで、シビアとネメアも、スールながら生体らしさをこの戦いで取り戻しつつあったりする。
ということで、ネメアは一番の親友である、メルちゃんに明日発つことを伝えると、メルは案の定毎度の調子で、
『えぇぇえええええェェエエエエ、もっといようよぉぉぉぉ』
と言われたり、シビアは多川やシエ、シャルリに挨拶に行ったりと、そんな人間らしい事をやって、えらい丸くなったとみんなに驚かれたり。
で、最後にアルド・レムラー統制合議体へ、意識共有という形ではなく、直に赴いて次の任務へ就くことを報告すると、意外な事を彼から言われる。
「シビア・ルーラ調査合議体と、ネメア・ハモル戦闘合議体は、以降、両合議体とも『独立合議体』として、ティエルクマスカ連合政体と協力し、ペルロードなる存在の調査にあたれ」
と命令された。
これには二人も少々驚いたが、この独立合議体とは、スール・ゼスタールの、すべての合議体構成権限……すなわち、シビアの『調査合議体構成』や、ネメアの『戦闘合議体構成』に、他、政治的発言権のある『行政合議体』、技術開発の能力を発現させることができる『技術合議体』などのいろんな合議体構成権を認可命令なしで独自の判断で持つ事ができるスール・ゼスタールにとっては、かなりの高位権限行使者となるすんごい権限なのである。
すなわち、このシビアとネメアの、これまでの活動がスールの上部合議体に認められたという事であろう。
これは正直嬉しい事で、ちょっと鼻の高い二人。
そんな権限のお土産も貰って、二人はヤシャ級人型カルバレータ式戦闘攻撃艦に同化して、惑星エルミナスへと向かうのであった……
* *
惑星エルミナスのタリアが所長をやってるこの研究所では、先のような時空間遡上再生技術をもって、おおよそではあるのだろうが、この惑星のかつての姿を再現しようと、まるでどこかのテーマパークの如く再生技術と、トーラルの予測シミュレーションにハイクァーンを利用して、どんどんと再現物品を造成していた。
「ところで博士、これまで見せていただいた建築物や車両、兵器、都市構造など色々参考になりましたが、ここに住んでた人々の再現は、その容姿だけでもできていないものでしょうか?」
月丘がそう思うのも当然である。文化文明があればそこに住む人を考えて当たり前だ。
かの火山噴火で滅亡したポンペイの遺跡でも、化石空洞化した場所に液体硬化物を流し込んで、そこにいた『人』を知ることができたわけで、文明を探究するなら『人』を見ないといけないのは当たり前の話で、そこのところはどうだとタリアに尋ねる。
『もちろん再生を試みてみましたわ。とはいえご存知の通り時空間遡上技術でデータを取得できたとしても、流石に生命体の細胞レベルの寸分違わぬ情報の取得なんていうのは無理なので、「容姿まで」というところかしら』
「なるほど、ではその容姿の再現物もあると?」
『ええ、これからそれもお見せしようとおもってたところです。あ、こちらに』
タリアはこの文明が使っていたと思われる物品を再現した資料室に皆を案内する。
すると様々な日用品らしきものが並べてあった。決して『展示』をしているわけではない。
「色々こういった日用品の再現もあるけど、ほとんどがハリボテで、形状のみの再現ね。中身の構造まで詳細なデータ取得をできているのは少ないわ」
月丘や麗子にクロードは、地球の文明に近いって事だから、地球人としては、どんな近未来技術みたいなもんが拝めるか、ちょっとワクワクしていたが……
ま、はっきりいって何に使うものかわからんものばかりである。
『ねぇねぇカズキサン! これ、スイハンキみたいですねっ!』
プリ子が、確かに言われるとそう見えなくもないオブジェを持ち上げて、フタみたいなのをパカパカしている。とはいってもこれも基本データ不足のハリボテなので実際は何に使うのかわからないが、調理器であるのは間違いなさそうではある。
「これは間違いなく銃だな」とクロード。それらしい構造で、地球のオートマチック拳銃に似たような物品であった。この銃らしきものの再現度は、九〇%以上の詳細に再現できている物品である。
『ケラー・ツキオカ、あれを』
ガトラン上級曹長に促されて、その指差す先を見ると、樹脂のような物質の精巧な蝋人形のようなものだが、この星の知的生命体が再現されていた。
「これが……」と少し高い台座に置かれたその人形像を見る諸氏。
容姿は、後頭部が少し飛び出て、人相は人類や、イゼイラ人、ダストール人、カイラス人、デイスカール人のような地球人型の顔つきに近くはあるが、恐らく元となった原種動物の意匠を少し残すような顔つき……そう、カイラス人やヴィスパー人に近いような、そんな種族のようである。
指は五本。肌の色は、この像は緑色だが、他にも別の肌の色がいるのかは不明。恐らくこの元となった人物も、地球人のように雑多な民族の一つがたまたまひっかかっただけのことであって、他にもいるのかもしれない。
性別は多分、夫婦性種族だろうと思われるので、男性のようであると思われた。
「でも、ここまで再現できるなんてすごいですわね」
と麗子が感心するが、
『いえ、ケラー・レイコ、この容姿再現に関しては、実はそこまで難しいものではなかったのですよ』
「と、言われますと?」
『ホラ、これ……』
と資料室のまだ仕分けされていない資料が雑多に置かれているところへ彼らを案内すると、タリアの言っていることがナルホドと納得できた。
それは所謂『絵画』や、『写真』の類である。
特に絵画などは、恐らく広告や、壁画のようなものが残っていたので、これは時空間遡上技術関係なしに、そのまま資料として発掘できている。更に、
『ボロボロの記録媒体が遺跡の中にいくつか見つかって、それを時空間遡上をかけて情報を取得したのだけど、映像資料もかなり抽出できて、どこまで再現再生できるかわからないけど、この映像資料がいくつかでも拝めるようなったらこの星の事も、もっと面白くなるかもしれないわね』
「となると、この星で起こった最終戦争の様子も記録されていたら、かなり興味深い話になりますか」
と月丘。タリアはその最終戦争という言葉に反応して、
『そうそう、それなんだけど、これも見ておいた方がいいんじゃない?』
と、別の部屋に諸氏つれていかれると……あんまりお会いしたくないものが、デンと鎮座していた……
『コ、これは、ヂラール!?』
驚くガトラン。彼もあのサルカスでの戦いのとき、増援のUSSTCに混ざって、メルヴェン部隊員として参加していたので忘れもしない。
そう、サルカス星で戦ったタイプのヂラールが樹脂人形として、1/1スケールで置いてあった。
三本指をグーにして、コンコンとその樹脂人形を小突くガトラン。少々渋い顔だ。
で、その隣に鎮座する生体兵器らしきもの。
「これもヂラールですか? 資料でも見た事ないタイプですが」
と月丘が問うと、タリアが言うに、
「どうもこの四つ足の、ハルマでいう『猟犬?』っていう感じのコレが、この文明独自の、このヂラールに対抗するために作った生体兵器みたいね」
驚く諸氏。確かにこういった様相の戦いであったのだろうと、この星をヴァルメ・ドローンで覗いたニーラ大先生は仰ったが、やはりその痕跡がタリアの軸間遡上再生技術で裏付けられることになった。
『あのガキンチョニーラの予想が見事に的中してたみたいね。ここは流石ニーラといったところかしら。素直に認めておくわ」
少々遺憾ながらの事ではあるが、ニーラ大先生の予想的中を評価するタリア。タハハ顔で、それ以上のコメントを控える月丘。
『ふ~む、では一方がヂラールを元にした生体兵器を造って、もう一方はそのヂラールを参考にした独自の生体兵器を造って互いに戦争したって事ですかぁ』
『今のところはそうみているわ、プリル中尉』
するとガトランも少々考えて、
『トなると、その独自の生体兵器を造った方も、元々そういう生物型の戦略兵器を構想していたという事ですナ』
『ええ、当然もう一方の勢力もそうだろうから、ヂラールを利用する事自体には技術的な障害はあまりなかったと思うわ、ただし……』
「やはりオーバーテクノロジーだから、『予想を超える不測の事態』を考えていなかったと」
『そういうことね、ケラー・ツキオカ』
ヂラールは、やはりヂラールだったということだ。
利用しようとして逆襲され、相手側も下手に独自の生体兵器で対抗したものだから、それも取り込まれてしまった。
となれば、もうこの文明に成すすべはなかっただろう。
実のところ月丘達は、『本当はこの星の生き残りが冷凍睡眠で眠ってました』とかそんな展開を期待していたのだが、はっきりいってもう根こそぎ全滅だったようである。
宇宙技術も、恒星系内惑星に基地ぐらいは造る技術はあるのだろうが、植民する技術までには至っていないレベルのようで、『宇宙に逃げた』という線も正直考えにくい。仮に逃げても、一〇〇年ほどの年月を生存するのは不可能だろう。
「ありがとうございますタリア博士、色々参考になりました」
『いえいえ、で、ケラー・ツキオカと、プリル中尉がこちらで調査活動する間、私もみなさんのチームの一員として共に行動するように上から仰せつかってるのだけれど、その理解でいいのかしら?』
「はい、よろしくおねがいします博士」
『ええ、こちらこそよろしくね』
と月丘とタリアは改めて握手。すると、ピロリンとプリルのPVMCGが着信音を鳴らす。
「どうしたの? プリちゃん」
『あ、えっと、シビアチャンと、ケラー・ネメアがもうすぐこちらに到着するので、合流するって言ってるよ』
「そうですか。では向こうの交渉事も一段落ついたのでしょうね」
するとクロードが、
「美人どころが二名追加か。カズキ、お前の周りもカズキガールだらけで羨ましいね、まったく」
確かに月丘の仕事をサポートしてくれるのは、妙に女性キャラが多い。
「んなこと言ってたら、メイラ少佐に殺されますよクロード」
とそんな話をしていると、横で目をキラキラ輝かせているのはタリア博士。
『け、ケラー・カズキ! そのお二人って、もしかしてもしかして、人工精神体で、合議体っていうゼスタール人サン!?』
「え、ええそうですが、それが何か」
『ワ、わたし、合議体ゼスタール人を生で見るの初めてなのっ! 楽しみ~!!』
月丘達はもう仲間として共に働いて随分経つが、タリアのような本国系のティ連人は、まだ交流がない人もたくさんいるのだという。その理由は、まあ言わずもがなだが、かつては『敵』だった存在なので、ティ連の加盟国となったとはいえ、得体の知れない連中と見ている人々も少なからずいるからである。
なので、このスール・ゼスタールと何の確執もない連合日本は、ティ連と円滑に交流する上でもゼスタール・ティ連共になくてはならない仲を取り持つ国であって、スール・ゼスタールが日本に特段連携を求めるのもそういうところである。そしてゼスタールはティ連加盟前から国際連邦加盟各国とも色々裏で付き合いがあったので、ティ連が日本との一極集中外交を執る中での例外措置を獲得するために気軽に協力してもらえる存在として、国連としてもスール・ゼスタールの存在はありがたいわけで、そこらへんは持ちつ持たれつであったりするのである。
* *
ということでタリアを加えた月丘をリーダーとする『惑星イルナット改め、惑星エルミナス調査チーム』だが、なにやら新しい情報が入ったということで、諸氏はエルミナス軌道上で待機する人型機動戦艦コウズシマに引き上げることになる。
ガトラン率いる小隊は、そのまま強襲輸送型シルヴェル『AAVS』で宇宙に上がり、タリアと麗子にクロードは小型のパーソナルシャトルで軌道上へ。月丘プリ子コンビは、ソウセイ・プリルカスタムで宇宙へあがることになった。
ま、この辺は、どっかの機動兵器アニメなら、宇宙へ行くためにはどでかい化学ロケット使って、ひと悶着かましながらめんどくさい段取り踏んで、ゴーーーと轟音響かせて、軌道上へ上がるだけでも一つのストーリーができるところだが、彼らの科学でできた乗り物ならもう簡単なもんだ。顔面をGでブルブル震わせることもなく、既にもう成層圏を突破している。
日本人の月丘和輝も、このあたりでは一番科学文明的に遅れていた種族の地球人様だが、この世界の二〇二云年は、もうそんなティ連の宇宙科学技術も当たり前になった時代である。
彼はこういう体験をするたびに、かつてPMCなんぞをやっていた自分と比べて、隔世の感アリと毎度感じてしまう。
そんなこんなで、衛星軌道に達すると、賑やかな軌道基地に都市群が軒を並べる隙間に、我らが『人型機動宇宙戦艦やまと級コウズシマ型』が姿を現す……で、その横に、ちょいと全高二〇〇メートルほどの、コウズシマに比べて一回り小さい敵役風味のデザインが入ったゼスタールの人型艦艇、『ヤシャ級』が停泊していた。
「お? シビアさん達、もう到着したみたいですね」
『ア、本当だ。ヤシャがいるねっ』
ヤシャ級を横に見て、コウズシマの後部離着陸甲板に降りていく各機。
いかんせん手狭なので、AAVSが先に降りて、その次にソウセイが着艦。ソウセイはそのまま足をあぐら状に折りたたみ、こじんまりと格納庫に押し込まれる。最後に小さなタリア達のトランスポーターが自動着艦。
月丘は体をウーンと伸ばし、少し柔軟体操なんぞをすると、深呼吸をする。
軌道上に浮かぶコウズシマの甲板は、環境シールドが張られているので、美しい全天の惑星エルミナスと宇宙空間。向こうで輝く恒星、そしてこの惑星を周回する衛星が見える。
そしてコウズシマの隣にいるヤシャ。コウズシマの所謂『軍艦型ロボット』風味なデザインとは違い、有機的デザインのヤシャは、人型艦艇というには少し違和感のあるデザインではある。
手を腰にあてて、この素晴らしい風景を堪能する月丘。するとクロードがやってきて、
「この絶景は、こんな仕事をやってる奴にしかわからんよな……宇宙空間で息してるんだぜ俺」
と月丘と視線を同じくするクロード。環境シールドに守られてるとは言え、見方によっては確かに普通の服着て宇宙空間に突っ立ってるのと同じようなものである。
「ホント、飽きませんよね」
と、いつまでもここに突っ立っていられる月丘……とはいえ、そうも絶景鑑賞をいつまでも続けているわけにもいかないわけで、
「あらお二人共お久しぶりですわね」
と麗子の声がするので、ふと振り返ると、シビアにネメアが出迎えに来てくれたようだ。
シビアは以前麗子が選んでくれたボーイッシュっぽさが強調されるような、カジュアルな服装である。まあ総諜対員つまり情報省はお役所なので、特に制服なんてものはないワケで、シビアも最近は日本のファッションを造成して着込んでいる。ネメアは特危自衛隊員の制服を着用……やっぱりネメアは少々グラマラスで、シエさんがライバル視するのもわかるような気がするコッチの日本人とフランス人の男二人。
で、月丘がニンマリしながら横を見ると、殺意を持った視線で睨むプリ子がいるが、咳払いを一つ気にしないフリをする。
『麗子生体も状況良好である現状を評価する』
と「ご壮健で何より」という言葉のゼスタール風味な言い回しで挨拶するシビア。
「シビアさん、ネメアさん、もうネイティブさん達との話し合いは、大体目処がついたのですか?」
と問う月丘。思ったよりもこの二人の現場復帰が早かったので、そうも思う。
『肯定。マルセア・カルバレータが事前協議の通り、生存ゼスタール人政府との橋渡しをうまくしてくれた。我々スール側も、生体復帰を希望するスールを受け入れてさえくれれば、他は特に何も要求するような事もないため、特に問題もなく協議は進んだ。今後も特段問題となるようなこともでてこないだろう。我々……いや、私とシビア“個人”は、当面はこのスールのままでいることにした』
「そうですか」
と月丘はあえて『なぜ生体に戻らないんだ?』とは問わない。彼女らの想いを理解しているというわけではないが、個人の自由意志でそう決めたのなら、別に彼らに“何故か?”などと問いただす必要も権利もないからだ。それはクロードも同じで、国籍前歴不問のPMCなんてのをやっていると、余計にそれを問うことが無意味だとわかっているので、どうでもいいと思うのである。
そして彼女らが『独立合議体』という地位に昇格したことも伝えられる。
『独立合議体? なんですかそれ』
とプリル。その詳細、即ち今後は必要に応じてどんな形態の合議体構成にもなれる権限がある立場になったと聞かされると、
「そいつはすごいな。んじゃシビアちゃんも今後は戦闘合議体になって、本格的な軍事仕様の合議体さんになれて、ネメアの姐さんも、逆に調査合議体みたいな潜入調査専門の知識を持った要員になれるって事か」
「肯定だクロード生体。今後は我々ネメア・ハモルがこれまで構成したことのない医療合議体のような構成で医療活動を行うこともできる最高の合議体構成権限を与えられたのだ。お前達も状況に応じて我々を活用すれば良い」
なかなか心強い言葉である。即ちゼスタールのすべての職能をもった仲間が二人もできたのだ。
「これはある意味チートですね、はは」
と月丘の言うことも尤もだと笑うプリルにクロード……とそんな話で二人の現場復帰を歓迎していると、これまた向こうから好奇心丸出しの形相で走ってくるは、タリア博士。
『ねえケラー、この二人がもしかしてっ!?』
「はは、ええそうですよ。このお二人がスール・ゼスタール人のシビア・ルーラさんに、ネメア・ハモルさんです」
『へーすごーい!』とタリアは自己紹介も忘れて、勝手に調査機器を造成し、二人の身体をピロピロスキャンしだして、『うわー、本当にVMC技術で素体を構成してるんだぁ。で、この頭部にあるボール状のものがコアで、中に反応するこのエネルギー反応がもしやっ! 人工精神のエネルギー本体で……!』
頭部から足元にかけて当てられる調査機器を寄り目で怪訝そうに追いかけるシビア嬢。なんなんだこのイゼイラ生体はと思うが、そこは案外心に余裕のあるスールさんで、あえて嫌な素振りも見せない。
流石にこの状況を見て月丘も待ったをかける。
「あー、博士博士、一応初対面で私達の仲間になるお二人ですから……」
『へ? あ! ゴメンナサイ! いやー、噂に聞く人工精神体なお二方なので、もう以前から興味ワキワキなもんで、つい興奮しちゃって、テヘヘ』
とタリアは頭をかきかき自己紹介をしたり。
「……ではお前が報告にあった『時空間遡上再現技術』なるものの発明者か?」
『ええ、まあそういうことになってるわ』
シビアにネメアはちょっと互いの顔を見て頷き、
『我々ゼスタールも過去時空への移動を試みる研究を行ったことがあったが、理論的には可能という事がわかっても、基本的にそれを行うエネルギー総量や量子学的リスクがメリットに見合わないという結果を得て、それ以降研究を行わずして久しいが、過去時空の情報のみを取り出して、現状利用しようという発想は、驚異的な評価に値するものである。お前の存在を我々全ゼスタールは称賛する』
思わぬお褒めの言葉を頂いたタリア。なんだか背筋がいつの間にか伸びている。もっと言って状態で、額に『ニーラざまぁ』と書いてるような気がしないでもない。
するとガトラン上級曹長が彼の小隊を解散させてやってくる。
軽くユーン連邦式敬礼をして月丘達の会話に混ざる。シビア達を見て自己紹介をしようとすると……
『お前は……我々と初見ではない』
するとガトランは不思議そうな顔をして、
『ん? 自分は初めて君達と会うが? どこかでお会いしたかな?』
『ティ連で言うベルキュラ恒星系の惑星ヘドメラで、お前と交戦した記憶がある』
その言葉を聞いて、『ああ』と頷くガトラン。
『あの戦いは比較的規模の大きな戦闘だった。確か一体異常に俊敏なドーラが自分を狙ってきたのを覚えてるが』
『それが我々だ。非常に強力な大型火器で、一人で部隊の撤退を援護していたユーン生体がいたのを記憶している。私の記憶ではお前だったと思う』
フハハと笑うガトラン。
『その話も随分昔の事だな。で、その時の自分の評価はどうだったのか教えてくれないか?』
『一時期は確保できたハイクァーン機器を、お前の小隊に奪い返され……そう、極めて同胞に対し、慚愧の念を思った事を覚えている』
『それは申し訳なかったな。まああの時は互いにそんな時だったんだ』
ネメアも少し苦笑い。まあここは握手して、その話はまたいづれとそんな感じ。
ネメアにしてみれば、優秀な戦闘合議体であった自分を負かした相手であるから、ちょっと複雑なところはあるが、もうそれも過ぎた話である。
とそんなところでシビアとネメアも加えた月丘調査チームも、一応の完成形を見たところで、この艦、コウズシマの副長もブリッジから下りてきてくれたようだ。
『お互い顔見せは終わったかな? ケラー・ツキオカ』
「副長直々のご足労すみません」
『いやかまわんよ、こちらも諸君の任務の重要性は理解しているからね。で、諸君らをこちらへ呼び戻した件なのだが』
「何か新しい情報が入ったということですが」
『ああ、実はこのイルナット、あいや、今はエルミナスか? まあその駐留軍が、以前よりこの星系各方面へ無人アウルド(偵察哨戒)型のヴァズラーを放って、星系の情報収集を色々試みていたそうなのだが……まあここでの立ち話もなんだ、座れるところに行こうか』
と、後部甲板での作業要員が休憩時の娯楽スペースにしているテーブルに皆して腰掛ける。
すると、副長は三〇インチぐらいのVMCモニターをPVMCGで展開して、
『この惑星エルミナスから、地球の単位で言えば、約九億キロメートルにあたる場所、そうだな……だいたいハルマとドセイぐらいの距離になるか。そのあたりに大型のガス惑星があるのがわかっているのだが、そこにこんな奇妙な人工物が漂流していてな』
と、そのVMCモニターに映るのは、非常に大きな、ヤルバーンクラスの人工構造物だった。
その人工物体はあきらかに何らかの宇宙船か何かであり、その意匠は正三角形の台座にそびえる巨大な城ともいえる構造物で、正三角形の底面は、半球系の機関部のよなものがついているそんなデザインの構造物であった。
だが、ヴァズラー・アウルドの送ってきた画像を拡大すると、あちこちに破損箇所がみられ、どうも稼働していない漂流物のようである。
それを見た麗子は、
「もうあからさまに怪しい人工物ですわね」
プリコも麗子に同意して、
『このエルミナスの状況で、こういう人工物ですかぁ……』
タリアも、
『宇宙に上がって早々、ここに行けっていってるようなものね、これは』
と、特に驚く様子もない。
そんなみんなを見てクロードが、
「まあドゥクトゥル・タリアの研究成果を見せられて、この宇宙の漂流物となれば、自ずと答えはそこにあるとみていいわな」
ガトランに、シビアとネメアも頷く。
「ということです副長。そういうことなら今からこいつを調査しに行きますよ」
『了解だケラー』
「ではシビアさん、ネメアさん、皆をヤシャ級に乗せていただいてすぐにこの場所へ……」
と月丘が言おうとすると、
『待ってくれケラー。我々コウズシマも同行する。ヤシャだけで行くのも問題ないかもしれないが、万が一大事があってはまずいからな。これは艦長のご意思だ』
「それは心強いです」
『ジェルダー、ゼルエからこの艦の運行試験データの取得も我々の任務だ。ここでずっと停泊しているわけにもいかないしな』
ということで、人型機動戦艦コウズシマに、ヤシャ級ともどもこの正体不明の人工構造物の調査に向かうことになった。
ヂラールの出自を考えれば、当然この人工物体が関わってくるのはもう当然の事とみていいのだろうが、もしそうならこの物体から惑星エルミナスの文明がどういう経緯でヂラールを持ち帰ったのか、そうならこの構造物は何なのか。
月丘達のエルミナス調査は、意外と深いところへ食い込んでいくのかもしれない。




