【第一〇章・新たなるゼスタール】第六四話 『惑星エルミナス』
「こりゃまた……スールさんはガーグデーラん時から、やること何でもスケールがでかいね」
『マッタクダナ。ホント、コノ連中ト全面戦争ニナラナクテヨカッタト思ウゾ』
惑星ゼスタール近海の、地球でいうところのラグランジュポイントに当たる場所にいるシンシエ将軍夫妻。
ラグランジュポイントという言葉は、この世界でも有名なあの『白チート機動兵器アニメ』で名前が知られるようになった言葉だが、あらためてどういう意味かとかいつまんで解説すると、天体力学における力学的な平衡をなす場所で、あの一時期有名になったSF作品の『三体問題』も絡んでくる話になる場所である。まぁつまるところ、惑星があって、衛星があって、その近くにいれば必ずいずれかの、そして何らかの天体重力の影響を受けて、その場に静止してピタっと留まっているということが不可能な場所が多いのが宇宙空間なのだが、それでも絶妙に重力のバランスが取れて、惑星や衛星の重力に影響を受けない空間が惑星近海にはあるわけで、そういった宙域のことをラグランジュ点、すなわちラグランジュポイントと言うわけである。
かの機動兵器アニメの世界では、この宙域にスペースコロニーをバンバン作って、宇宙における生活圏としていたわけである。
で今、シンシエ夫妻が何に驚いているかというと、スール・ゼスタールさんの本拠地、ナーシャ・エンデの中央を司る、ティ連の人工惑星クラスな大きさのバカでかい人工天体、バルサーラ中央統制区、通称『バルサーラ星』が、今シンシエ夫妻の目の前で時空間接続帯、即ちティ連の言う『次元溝』から浮上してきている真っ最中なのであった!
空間の歪みが光沢を見せ、周囲の光を反射するぐらいの、強烈な時空間介入能力を以て、まるで潜水物体が浮上するようなイメージで、しかも人工惑星クラスの規模で顕現するバルサーラ星。それが完全に通常空間に姿を現すと、途端にシンシエコンビが操縦する旭龍の機体がバルサーラ星に少し引き寄せられる感覚になる。つまり……
「おーー、こりゃあらためて見てもかなりな質量だよなぁ……」
と多川はバルサーラの周回軌道に乗せるように機体を操る。
待機していた工作艦隊も、同じように周回軌道に艦を乗せていた。
「なあ、かーちゃん。これで『中央統制区』ってんだから、あの網の目みたいな人工星系ってのか? クッソどでかいあの宇宙ステーション部分はどうすんだよ」
『ナンデモ量子遠隔操作デ、アレノ各機関、機能ハ普通ニ操作維持出来ルカラ、アノ場所ニトリアエズ置イテイテモ問題ナイ……ト、ネメアガ言ッテタナ』
シエさん、結構事前情報はお勉強済みたいである。旦那の副官らしくその知識を披露するシエ。っていっても、彼女の知識もネメアの受け売りだが。
『ンー、マア当初ハ、トンデモナイ事言ッテタミタイダケドナ。アレヲソノママ通常空間ニ出現サセルトカ』
「は? 本当かよそれ!」
『ウン、デ、惑星ゼスタールヲ、アレデ包ミ込ムヨウニ取リ囲ンデ、一気ニ全方位集中砲火ヲアビセテ、ヂラールノ軌道巣窟ヲ殲滅破壊スル作戦モタテテタミタイダケドナ……ト、コレハフェルカラ聞イタ話ダガ』
「なんかとんでもねーこと考えてたんだな……それもスールさんらしいっちゃらしいけど」
『結局、ネイティブ・ゼスタール人ノ存在ガワカッテ、此度ノヨウナ作戦ニ切リ替エタトイウ話ダ』
なるほどさもあらんと多川は思った。ってか、多川でなくても普通は誰でもそう思うだろう。
惑星ゼスタールが当の住人がいなくなった無人惑星ならいざしらず、同胞の生き残りが相当数いる状況で、んなカオスな作戦できるはずないですがな、という話。
ということで完全に顕現したバルサーラ星は、準備よろしく中から各種ドーラを大量に発艦させて、軌道上に必要な施設の建設を始める。
そのドーラの動きに合わせてティ連工作艦隊も作業を開始する……軌道港湾施設に、ティ連の司令部、生体用の生活施設や防衛設備などなど。他に恒星に向かってダイソンスフィア施設の拡張工事をするドーラ艦隊が出港していったり。即ちスール勢は、この場所から先の会談の通り、惑星ゼスタールを見守る体制作りをしているという次第なわけである。
「ま、あとはスールさんと、ネイティブさんの問題だ。これからはこのバルサーラ星とゼスタール本星を行ったり来たりで交流して、うまいことやっていくんだろな」
『ソウダナ。ンジャダーリン、特ニ問題モナサソウダシ、基地ニ戻ルカ?』
「ああそうしようか……こちら特危自衛隊の多川だ。工作艦隊の諸君、あとはよろしくたのむよ」
『了解ですジェルダー。視察ご苦労さまでしタ』
バルサーラ人工惑星の軌道を脱し、惑星ゼスタールの方向へ舵を切るシンシエ旭龍。特に問題になるようなものもなさそうなので、基地への帰途につく。
「あの中央統制区に、二十億の……なんちゅーかな、本来の惑星ゼスタール国民の人工霊体みたいなのが封じ込まれてるんだよな、確か」
『ソウネ。ナンデモ、中ニハ惑星ゼスタールヘ、ネイティブ人ト共ニ永住シタイ“スール”連中モイルソウダガ……』
「サマルカさんの技術で何か一工夫するとか言ってたな。なにをするんだろうな」
『サマルカカ……サマルカノ技術デ、コウイッタ案件トナルト、アレシカナイトオモウガ……』
* *
「あれがバルサーラ人工惑星ですか……すごいものですな」
スール・ゼスタールとネイティブ・ゼスタールとの会談が一段落つき、ゼスタール・ダンクコロニー行政府の迎賓館で、ネイティブ側さんの重要閣僚とシビア、ネメア、レムラー達スール側訪問団は懇親会のような軽めのパーティーなんぞをやっていた。
そんな中、ネイティブ・ゼスタール人の閣僚がVMCに映る巨大な人工惑星状の物体を見て、そのような言葉を漏らす。
今はま、互いにこれからの方針も合意できてメデタシな話で、こんなパーティもできるようになった。互いに酒のようなグラスを片手に、VMCモニターに映るバルサーラの次元溝から顕現する一連の映像をみんなで視聴していた。
そのえげつない大スペクタクルな映像に、ネイティブ側の諸氏はやはり驚きの表情を隠さない。
それは自分達がヂラールの巨大生体コロニーに圧倒された時と匹敵する壮大な映像であったからだ。
『我々が八四五周期もの歳月をかけて、レ・ゼスタシステムとともに造り上げた我々の本拠地である。我々としても、あの要塞を今後の惑星ゼスタール復興のために、通常空間へ顕現させることができたのは、感慨深いものがある』
するとマルセアが、
「あの中に、この星を脱出したかつての二十億の民が、人工化精神体として存在なさっているわけですね?」
『肯定である。我々はこのスールとしての存在を、あそこで自覚した時、個々の情緒が希薄であるがゆえに、“合議体”という共同人格を形成することで、個々の能力に個性をもたせることを維持してきた』
「はい、その点も資料で拝見しました。ご苦労も多かったと聞き及んでおります」
レムラーは、うむと頷くと、
『だが、ここ幾周期かで、我々はティエルクマスカ政体との和解と、特に発達過程文明とティ連が定義する惑星チキュウのニホン国や、コクサイレンポウとの接触で、かつての『生体』に基づく情緒感情も、個々の単位で回復してきている兆しがある。故に、昨今は合議体の形成を時々で選択するスールも増えてきつつあるようだ……ここにいるシビア・カルバレータや、ネメア・カルバレータもその例である』
シビアとネメアはその通りだと頷く。
『故に、スール単体ではお前達ネイティブとの共存を望む個体も出てきている』
「ですがレムラー閣下、私達は一向に構いませんが、あなた方の当初の目的の一つ、『種族を増やす』という点において、現在の仮想生命形態ではそれもままならないのでは……」
そんな感じで会話を続けていると、レムラーの部下になる合議体さんが、
『アルド・レムラー統制合議体に報告。サマルカ政体の、セルカッツ・1070型人工生体が到着した』
と報告に来る。なんと、かっちーの登場である。
『了解した。この場へ来てもらうようにせよ……マルセア・カル、いや、マルセア生体。今後の我々の方針を説明する事において、丁度良い人材が来てくれたようだ。このセルカッツ生体から話が聞けると思う』
レムラーはマルセアに対して『カルバレータ』つまり仮想生命素体を意味する言葉を言いかけたが、彼女は他に出席するネイティブ・ゼスタール閣僚達から見れば、同じ同胞という立場であるので、気をくばって『生体』をいう、彼らの敬称で言い換えた。
暫し待つと、テクテクと地球でも人気の可愛らしいセルカッツが、トレードマークのインバネスコートのような制服を着て、レムラーの部下に連れられてやってくる。
着席を促されて、スール側の席へ着席。隣にはシビアが座っている。
ぺこりと礼をするが、マルセアを見て再度深々と頭を下げる。
この列席の中で、サマルカ人の某をよく知る人物は、元ペルロード人の扱うトーラルシステムであったマルセアだけである。かっちーも、そこを意識して少々緊張してたりする。まあそりゃセルカッツから見れば、自分達のご先祖を創造し、かつては主従関係にあったペルロード人の人格を持っている“かもしれない”トーラルシステムである。そりゃそうもなろうという話。
この関係は、今列席する顔ぶれでは、スール・ゼスタールの出席者と、マルセアのみしかこの事実は知らされていない。
『セルカッツ生体、こちらからの出席要請を受諾してもらい大変評価している。感謝を表明する』
『いえいえ、こちらもスールさんとネイティブさんゼスタール人同士の、今後の有意義なお話に参加させていただき光栄でございます』
その言葉にシビアとネメアの顔も少しほころぶ。今やもう種族的な性質としては、全く異質の存在になってしまったこの二つのゼスタール人である。その未来を語れる場所に出席できるというのは、誰でも悪い話とは思わないだろう。
『セルカッツ生体、では我々の中で、今後惑星ゼスタールでの生活を希望する者に対する生活適応計画の概要を、彼女らに説明してほしい』
『畏まりましたファーダ・レムラー……えっとですね、あまり学術的な事を申し上げても仕方ありませんのデ、どういうことをするかだけを申し上げますと、スール・ゼスタールの方々が持っている二十億ものスールさんになる前の、生体であった頃の個人遺伝子データを頂きまして、クローン体を製造し、そこにスール様のコアを移植して、まあ、完全な生体ではありませんが、半生体となっていただく処理をいたします……』
なんと、流石と言うかなんというかだが、サマルカ人が自分達の種族を増やす方法として使用してるクローン技術を使用し、個人をリアルな知的生命体として復活させようという作戦だそうなのだ。
さて、ここで過去を少々振り返ってもらうとわかるのだが、元々スール・ゼスタールがガーグデーラと呼ばれ、ティ連と戦闘を行っていた頃、彼らは何を目的に戦闘行為を行っていたかといえば、ハイクァーン装置を奪取するためであった。
つまり、スール・ゼスタール人は、ハイクァーンを利用すれば、生きた生体をも製造する事が可能だと思っていたのであった。スール・ゼスタールは元々ティ連と戦闘する気はさらさらなく、そのハイクァーン機器を譲ってほしいがためにコミュニケーションをとろうとしていたのだが、まあそこは齟齬に齟齬を呼んで、百年間も戦っていたという状況だったわけである。
だがティ連と和解し、高性能なハイクァーン機器をもらえたのはいいが、実はハイクァーンで生命体を製造することは不可能であることがわかった。
つまり、ハイクァーンで生命体を製造しようとしても、できるのはとてつもなく新鮮な死体であって、生体を生むことは不可能なのである。
では、ハナからクローン技術をつかえばいいではないかという話なのだが、ゼスタールは知的生命体を成人体でいきなりクローン化する技術を持っていなかった。なのでこれまでの一〇〇年間は一体何だったんだと困り果てていたところへ、『ああ、そういうお話なら、手を貸しましょう』ということで、ティ連でも『成人体クローン技術』に関してはトップの技術を持つサマルカ人の手を借りて、此度の計画を推移させてきたという、そういうストーリーがあったのであった。
では、ハイクァーンの入手は、彼らにとって無駄だったのか? といえばそういうわけではなく、これはこれで絶対に超必要な技術なわけで、セルカッツ大先生が仰るには……
『……で、スール様各個人の遺伝子データを元に、我々の技術で製造するクローン成人体には、スール様特別仕様で、頭部に脳がありません。で、その頭部に特別仕様のコアを内蔵させて、スール様に転移していただきます。そして、脳と生体を、スール様の得意とするハイ端子で物理的に生体を制御してもらい、スール様には生体として今後の生活を営んで頂くことになるわけですね、ハイ』
そう、スール・ゼスタール独自の生体寄生技術、ゼル端子。この本来仮想物質で構成されていた技術を、ハイクァーンによって『ハイ端子』としてリアル物質で実体構成させることで、脳と神経系統をサイボーグ化した半生体としてスール・ゼスタール人を、『子供も作ることができる』ネイティブ・ゼスタール人化しようという、そんな壮大な作戦だったりするのであった。
そのセルカッツの説明を聞いて、『おーー』と唸るネイティブゼスさん側。マルセアも『そういう方法がありましたか!』と思わず手をぽんと打っている。
だが、一つ疑問が残るとマルセアは言う。
「でもそうなると、そのクローンで創った肉体の寿命が来れば、結局またスールになるということではないのですか?」
と問う。つまり結局のところ、バルサーラ星がある限り不老不死ではないかと。
レムラーは、『確かにそういう考え方はあるが』と前置きした上で、
『この肉体の処置を受けるスールは、生体の死亡後、バルサーラには帰還できない仕様にしている』
「え?」
つまり、限りある生命として生きていく、もしくは生きていきたい覚悟のある者がいるということだ。それをレムラーは認めるという事なのである。
『我々はスールとして長らく存在する今、ある事を理解した。それは恐らく……』
レムラーはそういうと暫く黙り込み、
『いや、なんでもない』と言って、話すのをやめた。
彼はグラスをテーブルに置いて、大きなVMCモニターに映るバルサーラ星を仰ぎ見る……彼は一体何を思うのであろうか……
* *
さて、実は後日わかったことだが、このセルカッツ達サマルカ人が協力するこのクローン作戦。実はサマルカさんオリジナルの発想ではなかったのであった。
なんと、その最初の発案者は、ナヨ閣下であったのだという。というのも随分前からナヨさんは、新見貴一次官との日本での婚姻ができるようにするため、色々考えていたそうなのだが、そこは超一流の科学者であるナヨクァラグヤ陛下である。この『サマルカ技術で脳のない成人生体をクローン化して、それをハイ端子の生体寄生制御技術を使って、神経系統をサイボーグ化することで生命体として存在する』というアイディアをセルカッツに話して、以前から計画を立てていたそうなのである。
まあその計画はその後のゴタゴタで伸び伸びになってしまっていたのだが、丁度そんなときに、レムラーからもティ連へ相談があり、セルカッツが、ナヨの考えていたこの話をレムラーへ持っていった……という経緯があったのだそうな。モチロンその内容は、ナヨさんの許可をもらっての話である。
「へー、そうだったのですか」
『うん、そんなお話を今、惑星ゼスタールでしてるはずですよカズキサン。といっても、私もケラー・かっちーから聞いたお話なので、受け売りですけどね~』
どうも最近、セルカッツは仲間内から本名で呼ばれていないようである。
ということで今、月丘とプリルは惑星イルナットへ向かう、ヤルバーン自治国軍、人型機動戦艦『コウズシマ』にいた。
人型機動戦艦『コウズシマ』は、ゼスタール大戦最中に完成したヤルバーン州軍の最新鋭艦艇であり、かの人型特重機動護衛艦『やまと』型と同級になる艦であった。
ゼスタール大戦には間に合わなかったが、月丘達が惑星イルナットへ行くと知ったゼルエがついでに稼働試験も兼ねてコウズシマも行ってこいという話になって、便乗させてもらっているという次第であった。
まあ、ディルフィルド機関の稼働試験などもあるので、丁度いいと思ったのだろう。そこんところはゼルエのやる事なので、そんな感じ。
この『やまと級コウズシマ型』は、度々解説される通り人型艦艇なので、全長よりも全高が高い縦長艦艇である。
縦長艦艇で有名どころといえばパーミラの艦艇があげられるが、あれと同様、艦の中はさしずめビルディングの中にいるような感じで、月丘とプリルに充てがわれている個室は、人で言うところの胸部の背面側あたりにある。
「シビアさんや、ネメアさんはどうするのでしょうね」
『それはケラー・かっちーが言ってましたケド、当面はスールさんのままでいるそうですよ』
「そうなのですか、それはまたなぜですか?」
『まだ決心がつかないんですって。スールで、仮想生命体の状態でも、特段不便はないし、総諜対でのお仕事や、トッキのお仕事の事を考えてもスールの方が有利だし、あと……』
「ん?」
『「時間を戻す事はできないから」って、なんかそんなチョット悲しいことも言ってたそうです、淡々と。なので、今は特段肉体を取り戻すことにあまり興味はないんですって』
「そうですか……複雑ですね……その気持ちは想像できはしますけど、もともと生体である私達にはちょっと理解が及ばないところもあるというか」
『デスよね……ああそうか、だからシビアチャンもケラー・ネメアも、「早々に片付けて、仕事を手伝いに行く」って言ってたのかぁ』
「なるほどね。でもまあそこは今後のネイティブさんとスールさんの、お互いの話ですから、そういう人もいるでしょうし、それでお互い納得してうまい具合に行けば、私達や、国際連邦の方々もお手伝いしたかいがあったというかね、そんなところでしょうから」
『ですよね~』
と、そんな話をしていると、ビーと鳴って艦内放送が。
『通達スル。あと450ケレルで、ディルフィルドアウトし、惑星イルナット宙域に到着。上陸人員は準備せよ。繰り返ス……』
「お、もうそんな時間ですか。準備しないと」
『デスネ、よいしょっと』
なんと、今の二人の会話は、同じベッドに入って寝転びながら話していたという、爆発ものの構図。
といっても人型艦艇の部屋は個室でも結構狭いので、こういう月丘やプリルのようなカップルは、同じ寝床に入って会話でもしてたほうが楽チンといえば楽チンなのである。
陸自型迷彩作業服にサっと着替えて荷物をまとめると、二人は昇降バーにつかまり、足をかけて背部ブリッジ艤装区画へ上がる。
そこから後部へ一〇〇メートル少し徒歩で通路を歩き、機動マシン発艦区画へ。
そこの待機ルームに腰を掛けて、上陸準備ができるのを待つ。
人型機動戦艦コウズシマは、惑星イルナット宙域に設置されているディルフィルドゲートから排出されると、もう既にそこは惑星『イルナット』という言葉……イゼイラ語で『正体不明』を意味する言葉とは裏腹に、もう立派に軌道都市化され、基地化もされた、ティ連基準での近代惑星に大変貌していたのであった。
コウズシマの背面艤装区画最後方に位置する機動マシン格納庫。その環境シールドの張られた短い発艦用甲板から惑星イルナットを眺める月丘。
彼はティ連から色々と提供された超技術の中でもとりわけこの『環境シールド』がお気に入りである。理由は、生身で宇宙空間に出られる感覚が素晴らしいと感じるからである。確かに今の地球科学では、ティ連との交流がなかったら鎧のような宇宙服着てたわけであるからして。
「もう完全にティ連領の星になりましたね、ここも」
『は、そうですナ。まあそれでも一つの文明の墓標のような惑星ですから、なかなか入植は進んでいないようでありまスが……サディ・カーシェルは初めてでありますか? この星は』
「はい、私とプリちゃ、あいえ、プリル中尉も初めてですよ。資料ではよく拝見させてもらっていましたけどね」
月丘はこの艦で世話になっているユーン人のベテラン上級曹長と話す。年齢は地球人換算で四〇半ばぐらいだそうだ。その外見だけでは全然わからないが。
階級的には月丘のほうが少佐に準じる階級なので上なのだが、そこは月丘もそういう事はあまりこだわらないのでざっくばらんだ。それに上級曹長はベテラン軍人であるのが通例であり、将官のご意見番であるのはティ連でも変わらずで、実は偉かったりするのは件のアメリカ人USSTCのマスターチーフ、モーガン・スミス上級曹長で御存知の通り。
「まぁでも、入植が進まないのもわかりますよ。言ってみりゃ“事故物件”なわけですからね」
『ジコブッケン? なんですかそれは……』と上級曹長はPVMCGで言葉の意味を検索すると、『ハハハ、なるほどそういう意味ですか。確かに仰るとおりですな』
「で、その事故物件の某ではないですが、まだ出るのですか? あの迷惑なのは」
『もうかなり駆逐はしましたが、まだ出ますねあの化け物は』
その化け物とは、あの『モンスターフラワー型ヂラール』の事である。
惑星ゼスタールにおいて『先制攻撃型生体兵器』の植物型ヂラールといえば、あの毒性ウイルスをばらまき、ハンター型と行動をともにする個体が主流であり、イルナットや、グロウム帝国で会敵したあの巨大なモンスターフラワー型個体の確認例はほとんどなかったそうなのだが、この惑星イルナットでは、かつて多川やパウル達が戦った個体もあのバトルが発端というわけではないが、もうそこらじゅうにポンポン出現していたそうである。
今回、この人型戦艦『コウズシマ』が試験でここにやってきた理由も、月丘の任務中にもしモンスターフラワーが出現した場合、ひねり潰せるようにということもあっての話だったりする。流石のモンスターフラワーも、この人型機動戦艦の前では雑草みたいなものである。
「なるほど理解しましたが、えらく詳しいですねチーフ」
『それはもう、自分はココとハルマを行ったり来たりですからな』
この足が逆関節の三本指で、ちょっと甲殻類系の雰囲気を持つでかい体のユーン連邦人上級曹長、名は『ガッソー・ガトラン』という。実は此度のイルナット調査で、ゼルエが月丘とプリルの下につけた用心棒的な部下なのであったりする。つまり彼が率いる特別編成小隊の小隊長でもある。
『カズキサ~ン』
「はいはい。準備できましたか?」
『うん! そろそろ降りましょうか……んじゃケラー・ザヴォーメル・ガトラン、案内お願いしますね~』
プリルはちょと手狭ながら『ソウセイ総諜対カスタム』を、このコウズシマに積み込んでいたわけで、調整が終わったので、コレに乗り込んで早速イルナットに降下しようというわけである。
毎度コパイ扱いのカズキサンも早速ソウセイのコクピットに迷彩服姿で乗り込む。非戦闘時はパイロットスーツなしでも気軽に操縦できるのが、ティ連機動マシンの便利なところ。
ガトラン上級曹長も部下を集合させて、所謂地球世界の兵器でいう『強襲輸送車』仕様のシルヴェルに乗り込み、昆虫の足のような四脚を内側に折りたたんで、X状に脚部を固定し、甲板から少し浮遊したような状態で待機している。
「ではチーフ、先行よろしくお願いします」
『了解』
強襲輸送型シルヴェル、ここは短く『AAVS』と呼ぶが、その機体がコウズシマの格納庫甲板を離れると、ソウセイも後に続き、落下するようにコウズシマから発艦する……
* *
ティ連の機動マシンや機動兵器は、軍用民生問わず、普通に大気圏を難なく突破することができる。
ソウセイとAAVSは惑星イルナットの大気圏を抜けると、美しい自然の風景が広がる雲海の中を飛行する。
「私が拝見した資料の情報よりも、随分と環境が良い星ですねチーフ」
『それはもう日に日に環境浄化が進んでいますからね。それに伴っテ、この星の文明の跡……遺跡というには一〇〇ネンぐらいですからまだ日も浅いですが、まあその手のものの分析もかなり進みました。少佐は今回その手の調査でいらしたとお聞きしていますが?』
「はい、惑星ゼスタールの戦いが済んで、あのヂラールに関する事が随分とわかってきましたから、その関係で、ってところですけど、チーフは惑星ゼスタールの事は聞いてますか?」
『は、一通りの概要は。 想像を絶する戦闘であったとお聞きしております。自分も参加したかったですな!』
「え? いやいやいや、私はもうコリゴリですけど」
そんな雑談をしていると、間をおかず惑星イルナット中央行政府のある浮遊人工大陸地域に到着する。
着陸用のトラクターフィールドに誘導されて、二機とも無事に宇宙港へ着陸。するとそこには出迎えが待っていた。
「よぉカズキ! 久しぶりだな!」
「え? クロード? クロードじゃないですか!」
『はりゃ、ケラー・クロード!』
なんと、あの『イツツジ・ハンティングドック警備株式会社』のクロード・イザリであった。
ポンとハグして握手なんぞ。あのグロウム帝国での一件以来だから随分と久しぶりになる。
「あれま、珍しいところで会いますね。というかまたなぜに?」
『ケラーがお仕事してるということは、名目上はホケン関係のお仕事ということですから……』
「今回はちょっと違うよプリコサン。総諜対の仕事でってやつだよ。ま、名目上はこの星の、遺跡調査依頼だな。そんな感じなので、ウチのボスもこの星に来てたりするんだコレが……」
「はぁ!? 麗子専務がですか!?」
「滅びた文明の調査なんてもんにロマン感じてるのかね、張り切って探検隊の格好してきてるぜ」
麗子の探検隊の格好……まさか、あの泉佐野での出来事の再来なのか。だがあの出来事を月丘達が知る由もない。
と、そんな話をしていると、ガトランがやってきて、
「ああクロード、紹介しますよ。こちらユーン連邦軍のガッソー・ガトラン上級曹長です。ゼルエさんの命で私の仕事の護衛をやってもらってます。多分、これから地上へ降りる際のヂラール対策ですね。で、チーフ、彼は……」
と月丘はクロードを紹介する。クロードは話には聞いてはいたが、ユーン人とリアルに接するのは初めてで、その独特の姿にちょっとびっくりしたり。
『ホウ、ミンカングンジキギョウですか。貨幣経済社会独特の準軍事組織制度ですな。話には聞いたことがありまス。ベテランの軍人が退役して作る営利組織だとか。外国人傭兵の類ですかな?』
「ええ。実は私も昔は彼と一緒にそこで仕事していましてね。傭兵というのとはちょっとちがいましてね。一応国家に認可もらってやってる組織ですから」
『フム、ならば相当の人材組織と見て良さそうだ。期待しています、クロードブチョウ』
いやいやそれほどでもと、最近クロードも日本での生活に慣れたのか、なんか日本的な謙遜をしてたり。流石に名刺交換まではしなかったようだが。
四人がしばし親睦を込めた雑談でくっちゃべってると、更にそこへやってくる御大が。
「月丘さん、お久しぶりですわね!」
この独特の喋り方。もう言わずもがなの白木麗子(旧姓五辻)イツツジグループ専務にして、イツツジ・ハスマイヤー保険社長、かつその子会社『イツツジ・ハンティングドック警備株式会社』社長様であった! ちょっと綺羅びやかなBGMで久方ぶりの登場を演出したいところ。
「専務、お久しぶりです」『お久しぶりです、ケラー・レイコ』
「ホホホ、お二人のゼスタールでの活躍は聞かせていただいていますわ」
「って、それよりも専務ぅ、なんだってそんな格好で、この惑星イルナットくんだりまでやってきてるんです?」
「ま、一応私はクロードさんの上司ですからね。現場主義の私としては一応総諜対と契約した現場の様子を見ておきたいと思いまして、まあこちらへ来させていただいた次第ですわよ。何か問題ありまして?」
「ですからその探検隊の服そ……あのクロード、一応あなたの会社の上司なんですから止めないと……」
「まあ俺も今はしがないサラリーマンだからな。社長が来るっつってんだから、来るんだろうよ。ねぇ、レイコ社長」
「ですわね~、オホホ」
フフン顔で答える麗子。ま、いつもの麗子である。んじゃ旦那の白木は止めなかったのかよと言う話だが、契約条件に麗子がイルナットにいってもいいという条件で、なんて付けられてたらしい。もちろん夫婦内々の契約である。
「(だからさっき半分趣味って言っただろ。しかたねーじゃねーかよ)」
『(でもワタシの知ってる情報では、なんか一〇年前にカシワギ長官やフリンゼ・フェルフェリアと一緒にニホン最大の犯罪組織を壊滅させたとか、そんなこと書いてましたけど)』
「(本当ですかプリちゃんそれ)」
「(マジかよプリサン)」
そんな事をコソコソ言ってると、
「何をやってるんザマスか? ほれほれ、早速お仕事にかからないとツキオカさん。一応仕事の内容は主人から聞いてますから。あの化け物の事をしらべるんでございましょ?」
「あ、そうですか……って契約結んでるんですもんね。知ってて当然か。あじゃぁ専務にもあとでユーン人のスタッフも紹介しとかないと……」
とまあそんなこんなで此度のイルナットの調査は、月丘、プリルの総諜対メンバーと、IHD警備のクロードと麗子達スタッフに、ガトラン上級曹長以下特別編成護衛小隊でのお仕事となる。
一通り待機室でガトラン上級曹長達とも顔合わせをすませて、これから惑星イルナットの地表施設へ転送機で降りることになる。
降りる地表は、かつてこのイルナットに存在した文明の都市部と思われる場所の中心。
そこを切り開いて、現在はこの惑星を調査する中央研究機関が置かれていた。
さて、惑星イルナット都市部の遺跡。だが遺跡とはいえ、こんな状態になったのは地球時間で一〇〇年ほど前なので、二〇二云年を基準に見れば、1920年頃、大正9年。国際連盟ができた年ぐらいの昔感覚と思えばいいだろう。となるとここまで文明が発達した星が、種族もろとも最終戦争で壊滅した状態の遺跡であるわけなので、遺跡というよりは、『とても古い廃墟』といった方がいい状態の場所であった。
なので、最終戦争で死んだ市民や兵士の遺骸もところどころでミイラ化されたようなものや、極度に劣化してはいるが、白骨化したもの。風化途中のものなどもあり、更に両陣営が使ったヂラール型生体兵器と、それに対抗するために作られたこの星独自のものと思われる生体兵器らしきものも同じような形で、大小残滓として残っているものも多々あった。
それが重要な研究資料になっているのは言うまでもなく、相応に進んだ文明であるがゆえに、いろいろなデバイスやオブジェクトなどといった文明の素材に科学物件などといったものも相応に解析可能な形で保全されているものもあり、更には元々何百年単位の長期保存を目的とした施設や物品などははっきりとした形で残っているものも多々あったため、本格的なティ連の調査が入って以降は、比較的順調にこの星の研究は進んでいるのであった。
月丘達一行は、中央研究機関の責任者に会うため、研究機関の職員に案内されてその責任者の研究室に向かう。
月丘に付いてきているのは、プリルにクロード、麗子にガトランであった。
『所長、ヤルマルティアの情報部から連絡のあった職員の方々が到着なさいました』
案内人が部屋のセキュリティデバイスに向かって話すと、
『はいはい、お通しして』
とフリュの声で、そんな返事が聞こえてきた。話す言語はイゼイラ語のようだ。
「どうぞ」と平手で案内人に入室を促される月丘達。
『どうもどうも、よくお越しくださいました』
と明るい表情でイゼイラ式の手を重ね合わせる挨拶を求めてくるのは、イゼイラ人女性の科学者であった……なぜに科学者であるかわかるかといえば、それがわかる服装であった。イゼイラの研究者が着用する研究服で、以前プリルに「その服を着用するのは科学者さんしかいない」と聞いたことがあった身なりだったからである。
『まずは自己紹介ネ。私の名前は“タリア・ファウンド・サリーネ”と申します。この施設の所長をやっていますわ』
地球人年齢換算で、二五歳ぐらいだろうか、まだまだ若い女性である。この歳でこんな研究所の所長さんとなれば、相当な実力の持ち主なのだろうと思う。
「はじめまして。私は連合日本国情報省総合諜報対応班の月丘和輝と申します。階級は、三等諜報正……少佐相当と思っていただければ結構かと」
そんな感じで月丘と握手。他の皆も相応に自己紹介を済ます。
『まぁまぁみなさん、そんなところに突っ立てるのもなんですから、ちょっとお待ち下さいね』
となんだか、元々は広い相応の責任者の使う立派なお部屋だったのだろうが、研究機材や資料なんかがそこら中にドカ積みされて、部屋の大きさの割に、居住空間が狭い。
そこをタリアはよいしょと適当に場所だけ作るようにがさつに荷物を片付けると、PVMCGでソファーを仮想造成して、奥の方に資材箱の障害を乗り越えて鎮座するハイクァーン装置までうんしょと向かい、お茶とお菓子なんぞを造成している。
「あぁ、無理をなさらなくても……」と月丘は言うが、聞こえていない。
「(なんだか典型的な、研究一筋みたいな先生ですね、この方は)」
と月丘がコソコソで話すとガトラン上級曹長が、
『(ですが、この方は若き頃から天才で名の知れた科学者で、特に「時空間再生学」と、「異文明研究」に関しては、イゼイラ科学界でも第一人者で、かのニーラ・ダーズ・メムル教授と双璧をなすともいわれた、ライバルともいえる方だそうです)』
『(そうそう、カズキサン。私も聞いたことありますヨ)』
と、プリ子も知ってるぐらいだから、相当名のしれた科学者なのであろう。
今、資材の中に埋もれたハイクァーン装置と格闘する様子を観察すると、先の通り、年齢は地球人換算で二五歳前後。羽髪の色は、典型的なイゼイラ人のキレイな青なのだが……ちょっとボサボサ。
目の色は、変異種のようで、赤のツートン色だった。はっきりいってこの人物も美人ではあるが、あまり女性的な化粧やファッションには興味のない、典型的な研究者肌な人物であると見た。ちなみに胸はでかい。割とナイスバディではある。
すると、なんとかハイクァーンで作ったお茶とお菓子を持ってきたタリアは、資材で埋もれたジャングルを脱し、
『いやはや、汚い部屋でゴメンなさいね。ささ、ま、お茶でも飲んでごゆっくりどうぞ』
と、そんな感じで一息入れる。って、一息入れてるのは格闘してたタリアだけみたいではあるが。
『いやもう、ワタシって自分で言うのも何だけど、研究バカだから、もうほかのことは全然ダメで、ニハハ』
「いえいえ、お手間取らせて申し訳ありません博士」
『博士? あ、そうかワタシ博士だっけか。わはは』
こりゃなかなか個性ある方だなと思う月丘。
「今、ガトランチーフから聞いたのですけど、もしかして博士はニーラ教授とお知り合いなのです
か?」
その月丘の言葉に、温和な表情で一緒にお茶してたタリアの表情が一瞬静止する。
「??」
微妙なその間を感じ取る月丘。するとタリアがやおらティーカップをコトンとテーブルに置くと、
『ケラー・ツキオカとおっしゃいましたかしら?』
「は、はい」
『今、誰と知り合いとおっしゃいました?』
その口調から、何かマズイ雰囲気を感じ取る月丘。というか、みなさんも同じ。
「は、あ、いえ、同じ学者さんならニーラ教授をご存知かな~、なんて」
『ええ、存じ上げておりますとも……空間量子学系学問の権威で私と同期。イゼイラ科学院でお互い切磋琢磨して、時空間遡上再生技術をティ連史上初めて確立したワタシよりも先に、ナ~ヨ閣下の再誕に貢献したってだけで、賢者の称号なんてもらう破廉恥なガキンチョ学者なら、よーーーく知っておりますですよっ!』
プルプル震えながら眉間に#マーク付けてニコニコ話すタリア様。
月丘は(しまったぁ! そういう関係だったか!)とマズイこと聞いたと後悔する。
プリ子にクロード、麗子もちょっとそのタリアの形相に引いてたり。チーフはガハハと笑ってる……ってか、なんか知ってたんだろと。
『あ、ちょっとオトイレに……すみませんね』
タリアはスっと立つと、手洗いの方へ行くが、姿が見えなくなった後、何かドンガラガッシャンと、蹴ったり、ドツキ回す音が聞こえる。
「(え? あ、そんなんなのですか? 私知りませんでしたよっ!)」
と柄にもなく焦る月丘さん。
『(いやー、天才同士っていうのは、かくもこういうものなんですねっ)』
とウンウン腕くんで納得してるプリ子。
「(いやプリサン。そんな納得されても……って、ガキンチョ学者って、ニーラ教授も、もう見た目二十歳超えてるだろ)」
とクロード。
「(まあとにかく、何か最初からコレでは先が思いやられますが……でもタリア博士は先程少し気になる事をおっしゃってられましたわね)」
と麗子が言うと、タリアがなんとか虫の居所を安定させて戻ってきた。
『いやはや、ごめんなさいね。で、な ん の お 話 でしたっけ』
ちょっとまだ暗に「話題に気をつけろよ」と言われている気がしないでもない。
すると麗子が社長らしく、ここは任せろってな感じで、
「タリア博士? 少々先程気になる事をおっしゃっていましたが……『時空間遡上再生技術』とは一体なんなのでございましょ?」
「お?」と思う月丘。さすが専務と思う。そういえば確かにそんな『謎ワード』をタリアは言ってた。横でプリル以下クロードにガトランも頷いている。
すると『よくぞ聞いてくれました』と急にご機嫌になって、胸を張るタリア。
『それはですね、マー、なんと言えば良いのかな? 非常に簡単に言えば、「情報のみ過去を探るタイムワープ」とでも申しましょうか』
「え?」
その言葉に地球人諸氏先程の失言も忘れて、顔を見合わせる。ただ、プリルとガトランは、どうやらその事を知っているようだ。
タリアが教えてくれた『時空間遡上再生技術』だが、話をよく聞くと、とんでもない技術であることがわかった。でも、実は一〇年前にヤルバーンが地球に来た時、既にその片鱗を見せている、今のティ連ではごく当たり前の技術で、その理論を確立させて実用化させたのが、なんとタリアなのだそうである。何でもできるティ連においても、実のところココ最近の技術だという話。
では、一体どういう技術かと言うと、一〇年前にヤルバーンが地球に降下する前、偵察用ヴァルメを大量に放出して、地球社会を大混乱させた事件があった時、その技術は既に披露されていた。
あの時、日本のとある家屋が火災を起こし、ヤルバーンのヴァルメが消火作業を行い、ハイクァーンで完全一〇〇%ではないが、ほぼほぼ元通りに修復した一件があった……実はあの技術なのである。
あの時、不思議に思わなかっただろうか? なぜならその日本の家屋構造をヴァルメは予め知っていないと、復元できるはずがない。だが、そんなものヴァルメは当然知る由もない。しかももし知っていれば、ティ連の技術であれば原子単位で一〇〇%の複製、つまり本物の再生が可能であるが、後の調査では微妙に違うところもあったという話。
つまり、『時空間遡上再生技術』とは、『過去の時空間情報を遡って取得する事のできる技術』だという話である。
するとクロードと麗子が驚いて、
「それって、タイムマシンと同じってことじゃないか!」
「ですわね。ティ連はそんな技術も持ってたのですか? 初めて聞きましてよ」
するとタリアは『いやいや』と二人の言葉を否定する。
『そうじゃないわ、お二人とも。流石に私達の技術を持ってしても、タイムマシンなんて代物は実現できないの』
タリアはかいつまんで説明する。
現代の地球科学でもそうであるが、今の将来技術や、理論物理の分野でも、過去に遡るタイムマシンはそうそう簡単に開発できる代物ではないと言うことが一般的である。そして開発してもそもそも意味がないということも、量子力学が進んだ現代科学で言われていることだ。
タイムマシンが難しい理由は、事象のリレー現象を突破できないだとかなんだとか、色々難しい事を言われているが、そんな偉い科学者が式を連ねて語る理論的な話はとりあえず置いておく。
そこで『現実的ではない』という視点で、タイムマシンの難しさを語るとわかりやすい。
まず、量子力学の発達で、現代科学でもよく言われる『親殺しのタイムパラドックス』は起きない現象だというのは、もう充分知られている事で、最近ではこのネタでSF作品を作られる事もあまりなくなった。
『親殺しのタイムパラドックス』とは、過去にさかのぼった人物が、自分の親を殺すと、自分はどうなるのか?という矛盾の話である。現代では、親を殺した時点で、親が生きている時間軸と、親が存在しない時間軸二つが出来上がり、親を殺しに来た人物は、親を殺した時点で親が生きている時間軸に戻ることができず、親がいない時間軸で生きていかなければならない存在になる……という理屈が正しいのだろうと言われている。
つまり、タイムマシンを作って、物理的に過去へ行ってしまうと、過去に行った時点で時間軸が変わってしまい、タイムマシンで送り出した人がいる視点で見ると、その時間軸からその人物の存在が消えてしまうという事になるわけである。なので過去に行った人物は、元の時代に戻ろうと考えた時、限りなく近い世界に帰還はできるかもしれないが、寸分たがわぬ一〇〇%の出発点に戻ることが不可能になってしまう。というのが現在の考え方と言っていい。
『……ということなので、タイムマシンなんて作ることできないんだけど、特定の……ある一定の範囲の、タイムハレーションを起こすギリギリの、過去の時空間情報のみ引き出す事は、ディルフィルド技術で可能ということがトーラルの計算でわかったから、その空間の過去の時空間情報のみ取り出して、ハイクァーンで再生するという事を『私 が』発明したわけですっ!』
胸張ってかいつまんだ説明を終えるタリア。ものすごいドヤ顔である。だが確かにものすごい技術であるのは確かだ。
なんかしらんけど、勢いで「おー!」と拍手してしまう諸氏。ただ実はこの技術はもう地球でもポンポンと何の気なしに使われている技術である。つまり『過去のデータがない消失したものを再生させる技術』で使われている。
それを言われると、月丘も思いつくものが多々あったりするが、あれはこういう技術だったのかと。
なんとも『それが便利で使ってた技術』というものは、使う方は慣れてしまえばそれが当たり前になって、その技術の歴史など考えもしないものだが、改めて聞かされると、特にティ連技術の場合はとんでもないものがあるということに気付かされる。
つまりこの技術を確立させたタリアは、なるほどニーラ教授とタメを張る博士であるのは間違いないわけで、さらに言えば、
「なるほど、そういう技術を発明なさった貴方ですから、此度の、この惑星イルナットの研究任務に従事なさっているという、そういう事なのですわね。頷けましたわ」
なるほどなと。
『まあそういう事なのですね皆さん……で、今私のチームがこの惑星をそんなこんなで色々調査しているのですけど、その「惑星イルナット」という呼称も、恐らく変わると思いますよ』
月丘は驚いて、
「え? まさかこの星の正式な名前がわかったのですか!?」
『はい。えっとですね、この星の正式な名前は……』
【惑星エルミナス】と言うのだそうだ……




