【第一〇章・新たなるゼスタール】第六二話 『核心』
『単刀直入に、まず結果から申し上げましょう……元々のヂラールとは、ペルロード人の成れの果てなのです……』
現在、惑星ゼスタールの生き残りであるネイティブ・ゼスタール人を束ねるマルセア・ハイドル議長、即ち謎の種族ペルロード人が滅亡寸前の惑星ゼスタールにもたらした、かの万能演算システム『トーラル型システム』のアバターの名前である。
正式名称は地球語に訳すと【タイプ、エルドレアルラロウ・マルセア・トーラルシステム】というそうだ。
トーラルシステムの性能は言わずもがなで、ナヨ閣下のニューロンデータに自我を与えるほどの性能を誇る。従ってこのシステムを惑星ゼスタールにもたらしたマルセア・システムの元主人であった『ミニャール・メリテ・ミーヴィ』の遺体から、マルセアシステム自身がニューロンエミュレーション再生を行うこととなったわけだが、この現象がマルセア・システムの中に封印されていたデータのプロテクトを解く事になり、ニューロンシステムがフリーズしてしまったミニャール・アバターの代わりに、マルセアがペルロード人とヂラールの関係を語り始めるのであった。
マルセアシステムは高度な自律演算システムではあるが、自我の無いただの高度人工知能ということになっている。
マルセアのアバター議長が見せる人間性もすべて用意されたテンプレートのエミュレーションであり、虚構のものではあるが、その虚構の情緒と高度な自立演算の性能が、まるでナヨのような自我を持ったトーラルのように見せるのであるから、このシステムは驚異なのである……だが……
『マルセア・システムの今の発言は、ナヨ・カルバレータの言う通り極めて重要な発言である。詳細な情報を提供せよ』
毎度無表情で愛想のないシビアが眉間にシワを少し寄せて、いつになく真剣な表情である。
『畏まりました。では一部プロテクトの解けた画像記録や、映像記録、そしてミニャールの見た網膜情報等を再生して、お話いたしましょう……』
* *
マルセア・ハイドルは語る……
とある別宇宙の恒星系。マルチバース宇宙観におけるその宇宙空間座標は、この時点ではあまり意味のあるものではない。彼らペルロードの規格とティ連やゼスタールとの規格では根本的に観測単位の概念が違うので、その話はとりあえず置いておく。
その別宇宙に存在するハウダー恒星系と呼ばれる星系の第四惑星ペルロード。これがマルセアやミニャール達の母星だという。
『この宇宙空間と、私達の宇宙空間との時間概念や、その時間差を語るのはあまり意味のないことであるのはご理解できますか?』
そう、宇宙空間の存在が違うということは、当然ながら時間が同期しているわけではないので、例えばAという宇宙の主観で一〇年しかたっていなくても、Bという宇宙の主観では、Aから見て相対的に一〇〇〇年経っているという話もありえるからだ。
もちろん相対的な時間概念が近い、ほぼ同期している別宇宙もある。サルカスのある宇宙や、このゼスタールのある宇宙に惑星イルナットのある宇宙などがそうである。
つまりその宇宙を構成する物質や、宇宙が出来た時間などの差で、時間の流れが違う場合もあるということである。なので、先の今は知った別宇宙同士も、厳密に言えば時間の流れが若干違う。たまたま近い時間の流れにのっているだけだという話だ。
『うむ、その点は妾達も理解しています。若干その分野の知識に疎い者達もいますが、説明すれば理解できる者達です。そのまま話を続けてください』
ナヨが言う『疎い方々』とは地球人のみなさんであるが、まあそこはいい。
『畏まりました。ではこのゼスタールの宇宙と相対した時間単位で約一〇〇〇周期程昔の話になります。そこから始めましょう……ペルロードの民は当時危機に瀕しておりました。その理由は、惑星ペルロードの惑星環境の崩壊です』
そのマルセアの言葉に横槍を入れるのは、パウルかんちょ。
『惑星環境の崩壊? その崩壊ってどういう状況の崩壊なの?』
『はい、星の生活環境がペルロード人の生存に適さなくなってきていたのです』
『はあ、なるほどね。環境汚染とか? でもそんなのなら貴方達もトーラル使いならハイクァーンも当然持ってるでしょうし、簡単に惑星環境の改善なんてできるでしょうに』
『いえ、そのような生易しいものではございません……恒星エネルギー収集装置の制御に失敗して、恒星が暴走し、核融合反応が活発化。恒星の熱量が急速に増大してきたのです』
『え?』
そう、所謂ダイソンスフィア型の恒星エネルギーを制御するシステムが暴走し、恒星の核融合反応を活性化させてしまい、惑星ペルロードの気温が高温化することになり、惑星ペルロードは死の星となりかけていたのだという。
当然トーラルの科学力を持つペルロード人でもあるので、恒星の制御と惑星ペルロードからの一時的脱出を計画し、その準備に入っていたという事なのだそうだが……
『……普通であれば恒星の制御と、ペルロード人の一時的な母星からの脱出。この二つを同時進行すれば事は足りたはずなのですが、国の科学者や政治家達の中には、この二つの計画が失敗した時の事も考えておかなければならないとした者達もいたのです』
ペルロード人の国は、不幸なことに彼らにとって快適な環境の植民惑星をあまり持っていなかったそうなのである。近くのワープして行ける星系の星々にも適当な環境の星がなく、テラフォーミングを地道にしながら母星近くの惑星を開拓しつつ勢力を拡大していた文明であった。
したがってこの恒星暴走事故では、それらの環境改善化された適正な環境の星々もみな被害にあっているわけで、第三の救済方法を考えていた一派は、母星や植民星の環境悪化を止められたとしても、結果的に完全には元へ戻せない状況が発生するのを危惧したわけで……
『その環境が悪化した世界での生存を目指して、ペルロードの民の体質を強化しようと考えたのです』
ナヨ達……特に想像力豊富な発達過程文明人である大見や、多川に月丘などは、なーんか大体その話で嫌な流れを早速汲んでいたりする。
で、渋い顔して月丘が……
「も、もしかして……何か肉体改造するウイルスや、薬品や、手術なんて感じの事を、ペルロード人に施しましたとか……」
と問うたりするのだが……話はもっと深刻なものだった。
『ペルロードの民を、あのようなおぞましい姿に変えたのは……私と同じ、トーラルシステムなのです』
「えっ!?」 と絶句する全員……
マルセアの隣で付き添っていたニーラも、一瞬引いてしまう。
『トーラルって……どういうこと?』
混乱するパウル。深刻な表情のシエ。だが、そこはこういう事態に一番冷静に対処できる性格のフリュであるシエだ。
『マルセア、マッタク唐突ダナ……フウ……マサカ話ガコンナ展開ニナルトハ思ワナカッタガ……ウーン……ナヨ、コレ以降ノ話ハコンナ場所デデキルモノデハナサソウダ。ココハ正式ナ会談ノ場ヲモッテ、政府ノ人員ヲイレテ話ヲシタホウガイイ』
ナヨもしばし腕を組んで、
『そうよな。トーラルという話ともなれば、妾も無関係ではないし……まさかこんな方向に話が急展開するとは……』
多川も大見も頷いている。現状は、ヂラールとの戦いが終わったあとの話で、とりあえずの現状と、ニーラの進捗を見に来た程度の話で終わるかと思いきや、いきなりこんな深刻な話をされるとはとゆめゆめ思わなかったので、正規の会談でやらないとと言う話に相成る。
『シビアよすまぬな、これから核心にはいろうかという時に、中断する形になってしまって』
『いや、かまわないナヨ・カルバレータ。現在スール全体で意識を共有し、今のマルセアの情報も行き渡った……合議体全体でも驚いている』
勿論草刈り中のネメアにメラニーも同じくである。話を聞いたプリ子は卒倒しそうになっている。
トーラルシステムを一番信頼してきた技術屋だけに、どういうこっちゃと。
『では、妾もティ連の主要政治家に通達しておこう』
「当然柏木さんにも出てもらわんといかんな、大見」
「そりゃ勿論でしょう多川さん、あとフェルフェリアさんもですね」
「総諜対絡みで言えば、二藤部大臣と新見さんに白木さん、山本さんですか……」
「だな。月丘、そっちはお前からナシ付けておいてくれ、もちろん官邸への報告もな」
「了解です多川さん」
……諸氏、そういう具合で今はとりあえず解散とする。
マルセアがもたらす情報。これは元来『惑星ゼスタールの歴史』という観点で見れば、本来は存在しえないピースなのだが、今の現状、この状況が現実である。
しかもプロテクトがかかっていた断片データの一つが解けただけでこの内容の情報だ。
実はマルセア・システムには、こんな断片データが、まだ幾つかあるというのであるから困ったものだ。
全部開けたらパンドラの某でしたとなるのは御免被りたいところである。
「では、ナヨ閣下はもう少しマルセア議長とお話をしていくと?」
『はい、タガワ殿達は先に帰って準備を頼みます。ニーラは引き続き収集したデータを持ち帰って、解析をな』
『わかりました~……でもトーラルがヂラールに絡んでくるなんて……これはケラー・ツキオカが言った、ウイルスがどうのこうのっていう話の方がマシですよ~』
ナヨはニーラの肩を叩いて、
『今はまだそういった事象があった、という話が出たに過ぎません。詳しく聞いて、冷静になって、論理立てて対応を考えぬとな、ニーラや』
『そうでしたね~……では、とりあえず基地にもどります~』
と、そんなところでこの場は解散と相成った。
シエや多川に大見達自衛官組は、このゼスタールダンクコロニーを表敬訪問したとき、急な戦闘で残していったコロニーのゼスタール部隊と、共闘していた地球各国の特殊部隊ナドナドを拾って、基地へ帰還することになる……
* *
『皆はもう帰りましたね』
『はい。ところでナヨ様、私と二人だけでお話がしたいということでしたが、何か?』
『フッ……まあとにかく、落ち着いて話ができるところはないのかえ? お主の超巨大なメインフレームがドンと構える前で、アバター体と会話というのも、何か味気ないですよ』
『……』
『それともマルセア議長、主はもう既にトーラルシステムの単なるアバター体などではないのではないかえ?』
『!』
表情を変えるマルセア。
『妾も、とある日本人と縁を持ってしまったがゆえに、単なる脳ニューロンデータに意識が芽生えてしまった存在、つまり妾の元になった、今はもう亡き故人の完全なる復元とも言える存在としてこの世に再誕しました……当初はその古の人物の写し身が故に、限りなく当人でありながら別の存在とも言われていましたが、ニホンの優秀な科学者達やイゼイラの科学者が、あのシビア達スール・ゼスタール人の存在を研究した結果、妾の脳ニューロンは量子的に故人と並行宇宙に存在する同位体と同期しているかもしれないとかいう話。それ故妾もその故人と同一体と思って良いのではとか、そんな話題にも事欠かぬ存在です。実際のところはどうなのかわかりませぬが、フフ……妾もかつては科学者故に、まあその理屈は理解できぬ事はないですが、ちと専門外ゆえに色々とおもうところもあってな』
マルセアはその話を聞いて、少し笑みを浮かべて、
『もしそのお話が本当で、いつの日か証明できれば、トーラルシステムを使うことで結果的に不死の存在になることができる、と、そうなりますね』
『であろ? まったくこのトーラルというシステムは此度の、主の衝撃的な話も含めて一体何なのだと思うところがありますが……』
と、そんなナヨの身の上話を話の枕に彼女はマルセアに向き直り、
『マルセアよ、単刀直入に尋ねますが……主のメインフレームはもう、自我を形成しておるのではないのかえ?』
『……』
『どうじゃ?』
マルセアは俯き、瞑目し、しばし考えて、
『もしここで私が、単なる自律人工知能システムであれば、貴方の問いに間髪入れず「違う」と回答するところなのでしょうね』
頷くナヨ。
『私は、貴方のように有機生命体の脳ニューロン連結モデルのデータがベースになったシステムではありません。ただ、長い時間、このミニャール様を主人としてお仕えしてきた者。普通のトーラルシステムではないのでしょうが、私の、今のこの自律回路のシステム構成が自我なのかは、私も……よくわかりません』
ナヨは黙ってマルセアの話を聞くと、
『チキュウの有名な古代の哲学者が、こういう命題を唱えた事があるそうです……「我思う、故に我あり」と』
『我思う、故に我あり?』
『資料は、ティ連のシステムとリンクできるようにしております故、一度その文献を読んでみるが良いでしょう』
ナヨは少し前から……そう、彼女と初めて対面した時から、彼女はもう単なる疑似人格を操るトーラルシステムではなく、自我意識を持った『個人』になっているのではないかと、そう思っていた。
そして、自分のような存在は二つとないと思っていたがゆえに、トーラル文明の不可思議さと、何が故にペルロード人がヂラール化したのか。そしてその原因が、なぜトーラルなのかとはと……
その謎の奥底に潜む、とてつもなく深い因果の濁流が存在するのではないかと、そう感じているのであった……
* *
マルセアが語った衝撃の事実はすぐさま報告書にまとめられ、火星本部と連合日本国、ティ連本部へと即座に伝達された。無論ティ連本部から加盟各国への中央にもほどなく情報は行き届いたであろう。
ただ地球国家、つまり国際連邦へは、まだこの情報は報告されていない。そもそもティ連の技術が……特にトーラル文明に関連する技術が国際連邦には全く公開されていないわけなので、こんな報告書を日本やヤルバーン自治国と同レベルの扱いで国際連邦加盟国に報告なんぞしようものなら大混乱を招くだけである。それこそサルカスのヂラールや、ガーグデーラであった頃のスール・ゼスさんの存在を初めて地球が知った時以上の衝撃を食らわすことになるのは目に見えているので、とりあえずティ連関係国でのみ先に協議をしてしまおうという判断にならざるをえないという事になる。
……という状況において火星の司令部。
あとは政治部のフェル達におまかせで、軍事部の柏木達は少し気楽にやってられるかと思っていた矢先にこの情報である。いやはや、なかなかこんな混乱した状況では、やっぱり混乱は混乱を呼ぶもので、観光ついでの火星テラフォーミング視察を予定していた柏木先生は、急遽代表首脳間のゼル会議出席を本部より命令されて視察を中止することになる。
その会議にはなんと、ティ連本部のサイヴァル議長とヤルバーン自治国のヴェルデオ議長、スール・ゼスタールの長、アルド・レムラー統制合議体、日本の井ノ崎内閣総理大臣に副総理のフェルさん大臣、で、ゼスタール星派遣軍の交渉代表であるナヨに、ネイティブ・ゼスタール陣営のトップであるマルセアという錚々たる顔ぶれが出席しているという次第で、作戦が終わっても、なんだか段々と事がデカイ方向に向かっていってるんじゃないのですか? とまた不安になってくる柏木御大であったりするわけだが……
火星司令部の大規模ゼルルーム。即ち仮想造成環境構築空間で、ティ連でのゼルシミュレータで造成される標準的な会議室が構築されていた。
そのゼルルームに入室する柏木。一瞬目の前が真っ白になるが、すぐに周りの視界が開け、イゼイラの美術様式を基本にした構成の会議室に入室する。もちろんゼルシミュレータで構成される会議室なので、惑星ゼスタールの国際連邦・ティ連合同基地となっている『海洋諸島基地』や、ティ連本部、スール・ゼスタールの『ナーシャ・エンデ、バルサーラ中央統制区』にも全く同じ構成の会議室が構築されている。
当然その部屋には既に此度の会議出席者がすでに集まっているわけで……
「サイヴァル連合議長、どうもです」
『やあ、カシワギ長官』
柏木御大はもうこれで立派なティ連の長官閣下様であらせられるので、ティ連と日本をしょっちゅう行き来しているという次第。サイヴァルともお久しぶりな仲ではもうなく、同志であり親友ともいえる付き合いである。
軽く握手すると、サイヴァルは親密に柏木の肩に手をかけてきて、
『マサト、惑星ゼスタールから送られてくる情報だが、何か当初のスール・ゼスタール側から公表されていたスケジュールを大きく逸脱するような情報がポンポンと出てくるな』
会議にはまだ時間がある。サイヴァルは適当な席へ隣同士で柏木と腰を掛けて足を組み、現状の認識を確認する。
「私の方も、惑星ゼスタール駐留部隊が、あの報告書を提出してきたときは、もうどうしようかと思いましたよ……せっかく惑星ゼスタールでの戦いで落ち着きを見せて、スールさんとネイティブさんとの交渉も滞りなく終わらせて、あのクソデッカイ、ナーシャ・エンデを通常空間へ顕現させて……って、アレを通常空間へ顕現させるのも大概な話ですが、まあそれは今は置いとくとしても、そんな壮大なレジェンドのような今後の復興話を完全に吹き飛ばすような報告でしたからね……久しぶりに書類を『二度見』なんてしましたよ」
柏木は書類を二回見るような仕草をしておどけて見せる。
『ははは、確かに……【トーラルシステムが、ペルロード人をヂラールへ変えた】などという言う話は、正直その科学文明の根幹をトーラルシステムと共に歴史を刻んできたティ連としても看過するわけにはいきませんからな』
「ですよねぇ……」
まだ会議は始まっていないので、好き勝手なことを考えてしまう柏木とサイヴァルだが、かの報告書を読むとその内容だけでいえば、『トーラルシステムがヂラールを創った』と読めてしまうので、それは危機感もわく話である。
つまり、ティ連各国の所有するトーラルシステムにも、そんな能力があるのか? という話になれば、彼らの文明の根幹をなすシステムを使うことが危険ではないのか? という話にもなってしまいかねないからである。
* *
しばし後、ゼル会議室には先の通りの各方面から出席者が集まってきた。
各々挨拶を済ませると、各自決められた席に着席する。
『各方、忙しいところ、急な寄合であいすみませぬ』
と首を垂れるは、ゼスタール派遣軍の政治方面トップになるナヨ閣下。
「いやホント、急な話で驚いていますよ、ナヨ閣下」
そう言うのは柏木長官。
「確かに」と日本の井ノ崎総理は柏木の言葉を肯定すると、「今、日本国内でも惑星ゼスタールがヂラールから解放されて、今後の国交の話をどうするかとか、そんな方向性で世間も話題となっているところで事が進んでいますので、そちらからの今回の現状報告には日本政府も正直驚かされています」
『イノサキ生体の話を肯定する。我々スール・ゼスタールもこの度の話は、今後のバルサーラユニットや、ナーシャ・エンデの移転スケジュールを見直さなければならないような案件である。詳細な説明を要求する』
とアルド・レムラーも少々訝しがる視線でナヨを見る。
他、特に意見を発言しないまでも、サイヴァルや二藤部以下、新見達日本官僚組も、レムラーや井ノ崎の意見に同意しているようだ。
『皆の意見に考えは、妾も同様であります。ということなので、この人物……報告書にもある、現在の惑星ゼスタールを代表する人物の、マルセア・ハイドル議長を紹介しますよ』
そうナヨが言うと、マルセアが部屋に転送されるように光柱を伴って顕現する。
その姿を上目遣いで見るは、レムラー統制合議体。資料に書かれているのは【ペルロード人の持ち込んだトーラルシステムのアバター】なのだが、姿は褐色肌で、白い毛髪と白い模様を肌に有するゼスタール美人の姿に、やはり少し違和感を感じているのだろうか。
『彼女がこの惑星ゼスタールの代表、マルセア・ハイドル議長こと、ペルロード人の使用する「エルドレアルラロウ・マルセア」という形式の、トーラルシステムのアバター体です』
ナヨはまだ彼女に『自我』があるであろうという推察はとりあえず置いておいて、これまで通りの扱いで彼女を紹介した。
ペコリと礼をするマルセア。
『ご紹介に預かりました、私が現在の、所謂ネイティブ・ゼスタールの方々の代表をさせていただいております、マルセア・ハイドルを名乗るトーラル・アバターです。以後お見知りおきを』
そう言うとナヨはコホンと一つ咳払いをして、
『なぜ故に自律型トーラルシステムがこの星の民をまとめる代表を担っておるかというのは、これまでの報告書にも詳しく記載しておりますので、まあ今更の説明は必要ないでしょう……』
この言葉に皆は頷く。
『元を正せば、八〇〇ネン前に当時のゼスタール人とヂラールの騒動が始まり、混乱の極みにあった際に、不幸にも別れてしまった二つのゼスタール人、即ちスールと呼ばれる方々と、生き残りのネイティブな人々がいたという事由が大前提にあるわけですが、そこに突然現れたのが、「ミニャール・メリテ・ミーヴィ」を名乗るペルロード人と、彼女が持ち込んだトーラルシステムである今のマルセア議長であって、生き残ったネイティブのゼスタール人をここまで発展させ、守ってきたのも彼女であったというわけであります』
まあこのあたりは、あの事実が発覚した際に、すでに報告書でもさんざん書いた内容で、ナヨの話す説明は、おさらいのようなものである。すると二藤部が、
『マルセア議長閣下、となると単純に考えるなら、もしあなた方が惑星ゼスタールに降り立たなければ、当時の数少ないネイティブのゼスタール人の方々は……』
マルセアは頷き、
『恐らく、全滅していた可能性はあります。当時の私の分析ですと、私とミニャール様が、彼の地に到着しなかった事を前提に仮定すれば、三周期から四周期以内には、ヂラールの攻撃でネイティブのゼスタール人方々は、滅亡していたでしょう。それは間違いありません……それほどまでに末期的であり、力がなかった事は私のメモリーにも記録されています』
そしてそのような状況の中、当初はミニャールが辣腕をふるい、ネイティブ・ゼスタール人をここまで復権させたのは、ここまでで知るところである。
そのナヨの話にレムラーは、
『その点は我々もペルロード関係者を評価、いや、感謝している……我々も、元はと言えばその八〇〇周期前にレ・ゼスタを使用して、種と人の保存を行う再生計画に失敗して、このような存在になってしまった歴史がある。即ち現在のスールである我々を統括させる事に時間を要したがゆえに母星の状況把握が随分遅れてしまった……我々は母星に生き残りの同胞など残っていないと予想していたがゆえに、第一次偵察を行った時に、かなりの数の生体ゼスタールがいた事実には驚愕した。その理由がお前……いや、貴殿らであったことは、我々にとって僥倖であったといえる。その点については、最大の謝辞を貴殿に通達する』
『ありがとうございます、レムラー閣下……ですが、この会議を行うきっかけとなった、先のナヨ閣下や、ゼスタール駐留軍の各関係者にお話させていただいた件、つまり私とミニャール様がこの星へ降り立った事も、今のレムラー閣下のお話は関係することであります……』
即ち、これから詳しく話すマルセアの言葉が、ペルロード人の責任でもあると彼女は言う。
その点を踏まえて、今後のネイティブ・ゼスタール人と、スール・ゼスタール人の話と、マルセアというトーラルシステムの事、つまりゼスタールの今後の社会体制を考えてほしいと彼女は話す。
すると白木が、
「そういうお話でしたら、率直なところマルセア議長閣下、いや、マルセア・システムさんという存在に不利な話も出るかもしれないと、そう私は理解しますが」
マルセアは頷いて、
『そう解釈していただいても構いませんシラキ様。これはペルロード人の「贖罪」にも関わることだと、生前のミニャール様がよく仰られていましたので』
「はあ、贖罪、ですか……」
少し首を傾げる白木。今ひとつ意味がよくわからないが、まあそれを説明するためにこの会議があるんだろうから、そこらは彼女も語ってくれるのだろうと思う。
* *
さて、マルセアに問う話は、もちろん先のゼスタールダンクコロニーの議長府で話したヂラール創生の理由。当然その話の流れにおいて、柏木達、特に日本人勢が思うは、月丘が思ったことと同じ『あんな作品』や『こんな作品』の、ハザード(災害)であったが、事がトーラルシステムが関わっているだけに、そんな生易しいものではなかったのであった。
ゼスタール議長府での話の続きが語られていく……
『……我々ペルロードの民が治めていた国。正式な名称を、「ペルドリア聖教国」という名ですが、その国では、トーラルシステムに階位が決められており、私のようなシステムはミニャール様にお仕えする下層階位のシステムとして稼働しておりました』
すると白木が、
「要するに、我々の世界で言う“クライアント・サーバー”の関係が、トーラルにあるってか」
フェルも白木の言葉に同意して、
『ソういうトーラルシステムの構造は、初めて聞くでス。ティ連でのトーラルシステムは、すべて並行稼動ですから』
「確かにな。クライアント某というか、トーラルシステム自体に身分制度みたいなのがある、って考え方のほうが近いんじゃないか? 白木」
と柏木が元ゲーム屋の発想で答えると、
『カシワギ生体の意見に同意する。レ・ゼスタ、いや、トーラルシステム自体が自律性のある人工知能、ないしは人工頭脳である限りは、身分制という発想の方が理解しやすいと考える』
とレムラーが柏木の意見に同意すると、レムラーのようなスールさんが言えば説得力もあるということで、諸氏「なるほど」と理解に至る。
そこでサイヴァルがマルセアに問う。
『では、ペルドリアという国家は、身分階級制度のある国家だったのですかな?』
『はい。厳格な身分階級制度のある国でした。あなた方の国家政体制度を学習いたしましたが、その基準に沿ってお答えするなら、「宗教国家」であり、「惑星国家」という基準に当てはまります……』
マルセアは語る。
ペルドリアは、そういった厳格な身分制を持つ宗教国家であるがゆえに、使用するトーラルシステムにも使用する階位のレベルに応じて制限がかけられており、トーラルシステム故の最高処理能力を発揮できる個体は、この星で発見されたオリジナルのトーラルシステムのみなのである。
そしてその最高位のトーラルシステムが突如暴走した結果が、ヂラール発祥の根本原因だというのだ。
「オリジナルトーラルの暴走、ですか……」
『はい。私達の国では、オリジナルのトーラルシステムに匹敵する性能の稼働機は、いくつもありません。ペルロードの民は先にもお話したとおり、【恒星の正常化】【惑星脱出】この二つを主軸にペルロード国家の再生を目指していたのですが、その二つがうまくいかなかった時の、所謂『最後の手段』もしくは、皆様方の概念でわかりやすい喩えで言うなら、『保険』として残されていた【ペルロード人の肉体改造】を、最高位のオリジナルトーラルが、【最も効率の良いペルロード人生存手段】と判断して、実行に移してしまった結果がヂラールなのです』
「え……?」
なんと! ヂラールとはペルロード人の肉体を改造した結果にできた、ペルロード人そのものであったのだ……
だが、その回答にすかさず柏木の脳裏に疑問がよぎる。
「いやいやいや、ちょっと待ってください……もしそうなら、なぜヂラールは【生体兵器】なのですか?」
当然の疑問である。柏木が言うには、そのペルロード人が肉体改造してヂラールになるなら、わざわざ『機動兵器型』や、『艦艇型』になんて類別される存在になる必要なんてないではないかと。
だが、その理由も単純明快な回答であった。
『元々、肉体改造の計画を進めていたのは、ペルロードの軍部でした。恐らく、彼らが進めていた生体改造兵士の研究資料を元にしているのだと思われます……』
ペルロードのトーラルは、なんとも肉体改造したペルロード人のありようを、軍事兵器を参考に処理し……まずは手始めに、軍の兵士を片っ端から、ティ連で言う『ヴァルメ』に相当するドローンを使って、ハイクァーンで遺伝子処理をしていったのだという……
『そ、そんな……』
「滅茶苦茶だなオイ……」
思わずサイヴァルは絶句し、白木はそのカオスな様相を想像してしまう。
彼らが絶句した理由は、トーラルと、そのトーラルがトーラルであるが故のハイクァーン工学処理が暴走した時に、そこまでの能力があるのかと。
更にマルセアが言うには、当初は軍の計画していた『生体強化兵士』レベルのハイクァーン変異がペルロード中を襲ったのだが、更にペルロードのトーラルは、ペルロード人の強化を際限なく求めるようになり、生体と機械との融合を行い、その次に生体自体を機械のように動く機能をもたせ、更に同じヂラール同士の融合、ヂラール独自の繁殖、他生物のヂラール化、他生物の遺伝子情報の取得……と、『ペルロード人の肉体強化』を『ペルロード人を、いかなる環境でも生存させることのできる最強の生体へ改造』することとその理念を曲解し、稼働を続け、現在に至る……
という、そんな話なのであった……
つまり、あのヂラール母艦に存在した大きなおぞましい地獄の釜のような大口は、そういった進化変容に必要とされる遺伝情報収集器官であったわけだ……
その話を聞く会議出席の諸氏は、唖然とする。
井ノ崎は人差し指を額の前で掲げて、
「マルセア閣下……お話はよく、あ、いやよくというよりも、あまりに突拍子もない話なので、恐るべき状況という部分では理解できたのですが、もしかしてその最上位に位置するトーラルシステムは、今現在も稼働しているの……ですか?」
もっともな質問である。もし稼働しているのなら、それこそ【悪の総ボスここにあり】という話になる。
だが、マルセアは首を振り、
『申し訳ございません、イノサキ総理ダイジン閣下。そのご質問は、わかりかねるのが現状です』
「そうですか……」
だが、当のトーラル文明の関係者であるサイヴァルや、トーラルの欠陥のせいでスールになってしまったレムラーは、当然現在でもそのトーラルが稼働している状況を妄想すると、大変な危惧を妄想するわけだが、今はその意見を飲み込んで、マルセアの話を聞く。というかそれよりも……
『マルセア閣下、では、あなた自身の存在と、そのミニャールなる人物はどういう経歴の人物で、また如何なる理由でゼスタールにやってきたのでしょうか?』
つまるところそこである。
それだけの災害級な出来事がヂラールの成り立ちとわかれば、マルセア達は一体何なのだと。それ以上に、マルセアに限らず、モフモフ種族のガルムアに存在したペルロード人や、グロウム帝国に来ていたであろう大昔のペルロード人。そしてスタインベックのご先祖の件や、セルカッツ達サマルカ人とペルロード人の関係ナドナド。その全てが、『何故にゼスタールにペルロード人がやってきていたのか?』というその理由ですべての状況を類推することもできるからである。
* *
マルセアは語る……
ペルドリア聖教国で国民に対して無差別な生体改変処理という、所謂ヂラール化の猛威を振るったトーラルシステムは、正に一瞬のうちに惑星全土で生活していたペルロード人に動物、植物を次々とヂラールへと変化させていった。
だが、トーラルシステムの暴走を予見していた一部の科学者や、既に自国の植民惑星に移っていた人々は、なんとかその猛威から難を逃れることができたのだが、その期間も短い間であり、中央トーラルの生体改変はとどまるところを知らず、即座に宇宙へ対応する生体兵器型ヂラールも発生し、難を逃れた人々もいる植民惑星も急襲され、結果、生き残った人々は散り散りになり、放浪の民となってしまったのであった。
『……我が主、ミニャール様は、ペルドリアの科学者であり、暴走した中央トーラルシステムを最後まで制御しようと当時の御仲間達と努力していたのですが、それも叶わず、彼女らが最後まで研究していた暴走トーラルシステムのデータを、脱出する際に使った航宙巡航艦のメインシステムであった、艦制御型トーラルシステムである私にすべて移植し、また彼女達も流浪の民となったのです……』
ペルロード人は、トーラル科学技術の恩恵を受けていたため、やはり現在のティ連人同様に次元航行技術に長けており、別宇宙への転移も相応に可能だったという。従って脱出したペルロード人は、同じ宇宙空間ではあのヂラールの猛威から逃れることはできないと考えて、別宇宙へジャンプし、散り散りになって逃走したのだという。
ただ、現在のティ連ほどの能力はまだ有しておらず、外宇宙での惑星探査能力も未熟であったペルロード人は、別宇宙というまったく未知の空間では何かできるはずもないわけで、所謂コールドスリープ状態に入り、全てを艦載トーラルシステムにまかせて新天地となる惑星が見つかるまで眠りに入ったのだという。
ただ、その百数十年後、ミニャール達の乗った航宙巡航艦は、なんとヂラールの襲撃を受けたのであった。
『と、いうことは……その襲われた宇宙空間というのは、妾の今いる宇宙空間ということですから、その百数十年で、ヂラールは別宇宙にも飛び出す能力を得たという事になるわけですね?』
とナヨがマルセアに問うと、彼女は『その通りだ』と答えた。
「なんともえげつない適応能力と繁殖能力ですね、ヂラールは」と柏木が話すと、
「単純に考えてよ、今回のゼスタールの軌道空間の状態がアレだぜ? ってことは、その百何年間かで、現在の惑星ペルロードとその宇宙空間域がどんな状態になってるかという話だよ……俺は背筋が寒くなってくるぞ」と白木は話す。
確かに白木の言うとおりだと他の諸氏も頷く。
マルセアは話を続ける。
『ヂラールの襲撃を受けた時、緊急でコールドスリープが解除されたのですが、残念ながらコールドスリープの制御機能に損傷を受け、生きて睡眠を解除できたのはミニャール様だけでした……』
後の仲間は全員コールドスリープ解除に失敗して、死亡したという話。
そして丁度その襲われた宙域に到達したのが、今の惑星ゼスタールの在るこの宙域で、ヂラールが制圧し終えた状態の……ゼスタール人の主観から見た場合、スール・ゼスタールが時空間接続帯へ逃げた時から数十年経った時だったという。
『ミニャール様と私は、襲ってきたヂラールをなんとか撃退いたしました。その後、ミニャール様と私は話し合って、この百数十年という短期間にここまで進化したヂラールを研究して、なんとか後の世代や、何処かの種族にデータを残さないといけないというミニャール様の意思を尊重して、この惑星ゼスタールに強行着陸を行ったのです。そして、この惑星に文明があったことがわかり、その生き残りの方々と接触して、今に至るという事になります』
なんとも凄まじい話に、沈黙するしかない出席者諸氏。
一見すると元を正せばペルロード人が、クソ大規模な災害を起こしたのが始まりやんけと、そう解釈できる話ではあるのだが、科学が発達すればどんな文明でも起こり得る事である、そこは責める事はできない。だが、そのペルドリア国の所有していた、その最高位の階位を持つトーラルと、身分制のあるトーラルシステムのあり方である。
ナヨはその話を聞いて一番に思うのは、
(その最高位のトーラル自体が、暴走というよりも、何らかの自我をもっていたのではないか?)
ということで、そのトーラルの何らかの意志が働き、こんなトンデモな状況になっているのではないかとも思うが、それはまだナヨの妄想の範囲の話である。
ただ、それよりも一つ問いたださないといけない話を指摘したのは、柏木長官閣下である。
「マルセア議長、一つお尋ねしたいのは、私が拝見したこれまでの経緯の資料に、そのミニャールさんは、ある日突然「自害」されたという記載を覚えているのですが、これはどういう経緯でそうなったのでしょうか?」
それを問われたマルセアは、
『確かにそれもお話しておかないといけませんね、カシワギ様。これは今、初めて皆様にお話することで、我々を保護していただいた当時のネイティブ・ゼスタールの一族の方々にもお話していないことです……その理由は、ミニャール様自身に、「ヂラール化」の傾向が見られたからです』
「え!!??」
驚く柏木。それ以上に驚いていたのは、ナヨにレムラー、そしてこの会議をゼスタールでゼルモニターを通して傍聴していた、ゼスタールのシビアにネメアにメラニー、月丘にプリ子、多川にシエにパウルと、そのあたりの連中であった。
マルセアが言うには、やはり惑星ペルロードで対ヂラール化の対応をしていたのが致命的だったのだろうという事であった。
ペルロードの中央トーラルが放ったヂラール化の生体変化を行う波動は、防御対策をとっていた人々でも、やはり完全な遺伝子への防御はできなかったのではないかという事であった。
だが、この話に手をパンと打ったのは、ゼスタールで傍聴していた月丘であった。
「そうか! そういうことか!」
『どど、どうしたんですか? カズキサン』
とプリルがビクっとすると、
「おう、いきなり立ち上がってびっくりするじゃないか」
と驚く多川。
「いや、ほら、ガルムア人さんの話で、ペルロード人の集落が忽然と姿を消したと言う話、あったじゃないですか」
それを聞いて『はぁはぁ』「ふむふむ」とそんな話もあったと思い出すプリルに多川。もちろん傍で聞いている他の連中も頷いている。
『スルト、アノペルロードノ連中モ、ミニャールト同ジ類ノ連中トイウ事カ……ナルホドナ』
と、そんな話よく覚えていたなと感心するシエ。
『ンじゃ、ネリナチャンところのグロウムもその可能性はあるわよ』
とパウル御大。大体どこの世界でも、経典とやらに出てくる神様連中は、そんなに現世へ長居していないという点に着目した。
「おー、確かに」と皆から頷かれるパウル。
そこでまた一つ気づくは、総諜対の虎の子、シビアさん。
『その予測から導き出されるのは、スタインベック生体の件だ。スタインベックがペルロードの末裔という話が現状、遺伝子解析等で事実であるとデータ的に結果が出ている以上、地球に到来したペルロード人は、地球に定住したという結論が導き出される』
ネメアもシビアの言葉に、
『シビアの予測を肯定する。とすれば、この事実をスタインベック生体に開示して、かの者の反応を見るのも肝要となると考えられる……我々は特危自衛隊に出向の身であるから、シビアやツキオカ生体、プリ子生体ら情報収集部門の働きが期待される』
月丘もネメアの言葉に頷き、
「確かに……これは一度私達だけでも地球に戻る必要があるかもしれませんね」
『ってか、カズキサン、あのケラー・スタインベックの事ですから、何らかの方法で今日のこの話も、もう知ってる可能性があるかもしれませんよっ』
「ええ確かに……どういう手段使ってるのか知りませんけど、その可能性はありますからねぇ、あの御大は……」
* *
火星のゼル会議室では、まだまだ会議が続く。というよりも、マルセアに対する質問大会と化しているゼル会議室だが、ニーラ教授の行ったミニャールの脳ニューロン再生は、やはり当初の予想通り、思わぬ方向へ、惑星ゼスタールとの関係を向かわせる。
せっかくこの星に巣くうヂラールどもを駆逐できて、ネイティブゼスタール、スールゼスタール神との邂逅をどうしようかとか、そちらの方に注力したかった日本政府とヤルバーン自治国にティ連本部だったが、そうは簡単に物事を進ませてくれないのが『因果』という奴であったりする。
さて、このペルロード人という存在に疑問を持つティ連関係国と日本政府ではあるが、此度の『ゼスタール大戦』において、このペルロード人がヂラールの大本でしたという話はいきなりの青天の霹靂的な話である。その部分はとりあえず現状の話で一段落置いて、マルセアの話でつながった、惑星ペルロードの星系域から方々に逃げ出したペルロード人達……
スタインベックの先祖となるペルロード人が、なぜに地球にやってきたか? またはグロウム帝国でなぜにペルロード人が神のごとく描かれていたのか? といったその理由は、流石にマルセアへ問うてもわからないのは仕方ないのだろうが、少なくともそのペルロード人達が逃亡の際に寄った文明であることは確かであろう。特に地球へやってきたペルロード人は、結果的に他のペルロード人と違って定住を果たし、地球人と混ざっていったのは、スタインベックの言が確かであれば、彼が生き証人であるからして、それは確実にいえることであろう。
そんな中で、この惑星ゼスタールにやってきたミニャールの行動は、彼女の脳ニューロンや、マルセアの証言から確実にその理由が確定できる情報であるのは確かである。
つまり、ミニャールの行動を分析することで、他の訪問者としてのペルロード人の行動原理もある程度類推できるデータにはなる。なので会議室の諸氏がマルセアへ問わなければならないのは、
「マルセア議長……何といいますか、正直この突然の情報公開において、私達の驚きの感情の方が、まだまだ先行している状態なわけですが……」
と頭をボリボリ掻きながらマルセアに問う柏木長官であったが、
「となると、今現在でも、そのペルロードの方々がまだこの宇宙で生存していらっしゃる可能性というものは……」
柏木が問うのは、スタインベックのような末裔としてではなく、ネイティブなペルロード人という形での生存の可能性はどうかという意味でマルセアに問う。
だが返答は、
『それは正直、私にもわかりかねます。私はミニャール様のトーラルシステムであり、ミニャール様の身辺以上の事はわかりません』
「なるほど、それはそうですな。いや失礼しました。でもマルセア閣下も、その閣下のトーラルシステムでの階位の話は差し置いてもトーラルシステムであらせられるのは確かなのですから、その……何ていうのですか? ネットワークみたいなもので、他のトーラルさんとの繋がりみたいなのはないのでしょうか?」
至極最もな柏木先生の質問だが、ペルロードでの騒動以降は、そういった繋がりや連絡みたいなものも一切なくなったと彼女は語る。理由はわからないという話だ。
特に通信機能に不調があるわけでもないし、ペルロード人もトーラルの影響をうけている種族なので、通信規格はティ連とは違う技術の量子テレポート通信である。
その話を聞いて少々訝しがる柏木だが、スタインベックの例を見ても、もしミニャールのようなヂラール因子の発現が幸いにして無かったペルロード人の逃亡者らは、各自到達した別文明の知的生命体とその血脈を同化させて、ペルロード人特有の六本腕の種族という容姿を捨て去った可能性は、すべてのペルロード人に対して言える話でもあった。
「なるほどね……」
と呟く柏木。そしてやおら、もう何を聞いたら良いかさえしばしの時間が欲しい、沈黙する会議室を眺めて、
「……ナヨ閣下、とりあえず一通りのお話と情報はお伺いできたと思いますので、そろそろ……」
頷くナヨ。
『では、傍聴している関係者の方々も、何か問いたいことはないですか?』
この会議は、月丘達ゼスタールの関係者や、ティ連の加盟国盟約主権国家関係者に、スール・ゼスタールの合議体が傍聴している、その傍聴者へ最後の質問を募るが、特に無いようだ。いや、無いというよりは、少々考えさせてくれというのが本音だろうが、今後のゼスタールの復興等々の仕事もあって、そうそう時間をとることもかなわないわけであるからして……
『あ、では、一つよろしいでしょうか?』
とVMCモニターを、ゼル会議室に立ち上げて割り込むのは、月丘であった。
『ふむ。ではカズキ、どうぞ』
『はい……いや、ちょっと気になったのですが、あの惑星イルナットでサルカスを襲ったヂラールですけど、この話の流れで行けば、あのヂラールだけはちょっと特殊ですよね?』
この質問に、ゼル会議室全員の目が月丘の映るVMCモニターに注がれる。
「そういえば確かにそうだよな」と柏木。
『フムフム、確かにそうなりますデスね』とフェルさん大臣。
「ええ、確かニーラ先生の話では、あの星のヂラールは、イルナットの文明がどこからか鹵獲してきたヂラールを改造したものだという結論になっていますが」と話すは二藤部。
会議室の他の諸氏も、『確かにそうだ』と大きく頷く。
マルセアは『何のことだ?』と首をかしげるが、後ほど詳しく説明する旨をナヨがマルセアへ説明していた。
「長官、それに総理、副総理、二藤部大臣、新見次官、白木さん……今までこの件は、もうあのイルナットの文明があのような崩壊状況でしたから、さして突き詰めてこれ以上調査するという話はいまのところ出ていませんが……どうも今回のマルセア議長の件も併せて一度あのイルナット文明の件も洗い直した方がいいかもしれませんね。なぜにヂラールを鹵獲して使用できたかというデータも、もしかするとヂラールがどれほどの規模で宇宙に進出しているかという事を把握するのに、何か役立つ可能性もありますし」
月丘は、もしかするとイルナットを調査し直すことで重大な宇宙規模の安全保障に関わる情報を得られる可能性があるのではないかと、そんな予感がするという。
その話を皆が聞くと、確かにヂラールの情報を得るには、あの惑星イルナットという存在があったではないかと月丘の洞察力に皆が納得して頷く。すると二藤部が、
「では月丘さん、そちらの状況が落ち着き次第、一度日本へ帰還して、惑星イルナットの調査作業へあたってもらえますか?」
『了解です大臣、ではそのように』
新見と白木も了承したようだ。こういうところ月丘の元PMC能力は、色々と政府にとっても便利である。流石は麗子が目をつけた虎の子人材なわけである……
* *
さて、意外な形で……というよりも、まさかのヂラールとの関連性があるペルロード関係者の生き証人、ミニャールの脳ニューロンデータと、マルセア・ハイドルの証言で、惑星ゼスタールの奪還が一気にヂラールの正体と謎にまで迫ったわけではあるが、今の本題で、実のところ最も片付けなければならない問題に懸案事項は『ヂラールのこれから』ではなく、『ネイティブとスールの、ゼスタールの問題』である。
そこを忘れるわけにはいかないわけで、ヂラールの正体と、マルセア達の存在が思わぬ方向へ話が向いてしまったわけであるが……
しかし、そうはいってもかつてのミニャールとマルセアは、この生き残ったゼスタール人を、彼女達の使命感と良心でここまで導いてきた存在であるのも事実である。
さて、ヂラールの話も重要極まるのは確かだが、二つのゼスタールの新しいこれからもまた、重要なこの世界の今後になるわけであるからして……




