【第九章・奪還】第五七話 『大戦(上)』
「敵航空兵器型ヂラール群、本艦を依然追跡中!」
ゼスタールダンクコロニーへ向かうヂラールの群れの分断と、大型ヂラールの撃破に成功した大見健特危自衛隊1佐を司令とする惑星ゼスタール偵察部隊は、今パウル・ラズ・シャー提督の率いる前線基地建設を目的とした先遣作戦艦隊と合流すべく、作戦指定ポイントへ向かっていた。
だが、コレ敵を分断し、おびき寄せるという仕事も同時にこなさなけれればならない作戦であるため、宇宙空母ヒリュウの速度を上げてとっとと味方と合流というわけにもいかないわけで、程々の速度で後退しつつ、現状況のように敵の航空型ヂラールを引きつけながら戦闘中という状況であった。
ヒリュウに群がる航空兵器型ヂラールの群れ。
大型のものでは、全幅で大型爆撃機クラスよりも大きなものもいる。だがその殆どは小型戦闘機程の大きさの個体であり、俊敏な機動で向かってくる対空と対地攻撃両方をこなす所謂マルチロールな個体であった。どうやら大型爆撃機型は、マルチロール型の母機のような存在で、腹の下にたくさんのマルチロール型をぶら下げ、放つような画を見せている。
その敵航空型の群れに、CIWSや速射砲に斥力主砲が唸りを上げて迎撃。
シャルリのカスタムヴァズラー『ヴェルサの炎号』は、甲板でブラスターライフルを速射モードで空めがけて撃ちまくっている。国際連邦軍の機動戦車群も甲板に上げられて同様の戦闘行動。
流石にサラマンダーやメテオールのような機動戦闘機は駐機状態でそんな器用なことはできないので、即座に艦内へ格納されていた。
で、あと特殊な機体としては……
「プリちゃん! 艦の真後ろ! 突撃してくるのがいますよっ!」
『了解カズキサン! うりゃーー!!』
プリ子自慢の機体で甲板からヂラールを迎撃する『蒼星・総諜対プリルカスタム』。左腕部のマニュピレータ指先に装備されている五連装粒子ブラスター砲が唸り、光を飛ばして、敵に粒子の熱閃光弾を叩き込む。
「私もナビばっかりというわけにはいきませんか! 右三時の方向敵機。マルチロック……発射!」
月丘もナビばかりというわけにもいかないので、ガンナーとして別方向から来るマルチロール型ヂラール三体に背面バックパックと連結し、翼型の斥力波動機関のパイロンに吊り下げられた14式機対機誘導弾を発射。
放たれたミサイルは白煙の尾を引いて三つの目標を追尾……ここで普通なら知的生命体の乗った敵機であればこのミサイルを躱すためにフレアでも放って回避機動を行うのだが、ヂラールはそんなものお構いなしに突っ込んでくるわけなので、モロ真正面からミサイルを食らって爆散していた。
「ふぅ、こういうところがメルフェリア団長曰くの『バカのヂラール』で有り難いところなんですが」
『何言ってるんですかカズキサン! ちーっとも有り難くないでスよっ! コンチキショ!』
プリルは連続発射しすぎてオーバーヒートした五連装ブラスター砲を休ませつつ、今度は右腕部に収納されているロッドの先端に付いたビーム砲を少しせり出させて、そのロッドから発射されるビーム砲と、左腕部の盾型シールドに内蔵された二門の斥力砲から発射される対空榴弾を放って対抗していた。
「こっちはヂラールをおびき寄せるのが仕事ですから、これぐらい群れてくれなくては困るのですが……正直ちょっと数が多いですねっと!」
月丘は左右の翼端上面と下面部に付いた、回転式機関砲……形状はパイプオルガンの似合う帝国が使う砲塔に似た形状の武装を操作してプリルの戦闘を補佐する。
撤退しつつ敵を分散誘導という作戦ではあるが、誘導にしてはなんだか敵の七割ぐらいがヒリュウの後を追っかけてるように見えなくもない月丘。ちょっとフォルド艦長も此度は調子に乗りすぎてるんではと思う。
やはり先のリバイタ型を四体ともに叩いてしまったのがかえって裏目に出たかとは思う。
これでゼスタールダンクコロニーの方へ向かうヂラールは目に見えて激減しているのでそれはそれで良いのだが、もうちょっとバランス良く分散してくれないものかとも思う彼。
「こちらシャドウ・アルファ。ブリッジへ! もう少し足が速くなりませんか? もうかなりの数のおびき寄せに成功したと思いますが!」
『こちらブリッジ、フォルドだ。シャドウ・アルファ月丘生体の提案を却下する』
「えええ!?」
『心配には及ばない。センサーを見ろ』
フォルドのその言葉に月丘はレーダー等々各種センサーを見ると……
「ん? これは……はは! ふぅ、なるほど」
『ウガー! カズキサン! どういうことっ!?』
「援軍ですよ、プリちゃん、ふぅ……」
『え?』
蒼星は上空を見上げると、見たこともない航空機型の機動兵器四機と、コマンドトルーパークラスな細身の人型機動兵器のすっとんでいくのが見えた。
更にそれら機体には何機もの小型機動兵器……恐らく形状から無人機と思われる戦闘機のような機体が随伴していた。
『あ、あれ何かな? あんな機体見たことない……』
「ええ、私もです。新型機でしょうか?」
するとさらにヒリュウの進行方向から凄まじい数の粒子ビームの閃光が月丘達の頭上を通過する。と同時にヒリュウに群がるヂラールが一斉に叩き落され、爆散していった。
『ななな、なんだいありゃ!』
傍で戦っていたシャルリも流石にこの状況に驚くわけだが、
『心配スルナ、今ノ攻撃ハ私ダ』
『え? その声は……リアッサかい!』
『私モイルゾ、ムフフ』
『シエ!? ってどこだよアンタ』
『ココダココダ』
シエの乗る全高八メートル程の小型人型機動兵器からのようだ。やたらと機動性が良い……って、なんか頭部に人の顔みたいなもんが付いてるし……なんじゃいありゃと思うシャルリ。
「ということは……あの航空機型の機動兵器は多川将補達とか」
『そういうことだ月丘。俺とかーちゃんと、垂井に、尾崎、小川が乗ってるぞ。掩護に来た。この新型の実戦テストも兼ねてな』
しばし後、ヒリュウの進行方向と相対でリアッサの乗る立方体状の要塞の如き武装を施した機動兵器がすれ違い、ヒリュウの殿を務める形となって艦を援護する。
『こちらHOK-2多川だ。ヒリュウはそのまま前進せよ。もうすぐ合流地点域だ。よく頑張った。月丘、大見はなんだかんだで忙しいだろうから、ゼスタール中央での話は総諜対のお前から聞く。あとで宜しく頼むな』
「了解です、多川さん」
なんとかパウルの掩護でシンシエ夫妻とリアッサがやってきてくれたということで、一息感な月丘達。勿論この間でもヂラールは攻撃を加えてくるが、シエ達のおかげでその勢いは十分に衰え、なんとか優勢状態で退却できそうな感じである。
『HOK-1シエヨリ、ダーリン。アレヤルカ?』
「いや、現状はこのまま俺達もヒリュウに付き添って下がる。今はまだいいだろう」
『エエエエエエエ……』
「かーちゃん、また機会は幾らでもあるって」
『エエエエエエエエエ……』
「リアッサさんもかよぅ、まだ今はいいって」
『ええええええええ』『ええエエエエ……』『えぇぇぇぇぇええええ』
「おい! 垂井、尾崎、小川! お前らも一緒になって言ってんじゃねーよ!」
無線に何かブチブチ文句言う声を拾いながらヒリュウの直掩につくこの機体達。
『ん~……なんなんでしょうねあの機体……ジェルダ-・シエのはヘンテコな人型で、ジェルダ-・タガワのは、セントウキみたいな感じ? で、あっちのはバクゲキキ? っていうフィブニーマシンみたいで、あの機体もセントウキかな?』
「いえ、多分アレは戦闘攻撃機ですね……今どきマルチロール機全盛のこの時代に攻撃機を別途運用するというのもおかしな話ですが……で、あれは」
『偵察機か哨戒機ですよネ。でもあんな重武装の哨戒機なんて見た事ないよ。それにケラー・リアッサの機体なんて……』
「はい。まるっきりの拠点攻撃兵器ですよねぇ。無人機もあれが飛ばしていたみたいですし」
『うん。なんなだろうね、あの兵器は』
「んーーー、マア多分、あんなのを作る部署といえば……」
『ああ、アソコかぁ……』
月丘にプリ子は今見上げているその機体達を見て、どんなものかはわからないまでも、その方向性は大体覚悟できるぐらいの察しはついた感じである。あーこりゃこりゃ。
* *
さて、そんなこんなでしつこくつきまとっていたヂラールを振り払い、振り切る事に成功した宇宙空母ヒリュウは敵の分断と、パウル達の艦隊と合流することに成功した。
「では、敵の分断維持はサーミッサ級の何隻かをギリギリの前線ラインまで進めて対処すると? パウル提督」
『そういうことね、カーシェル・オオミ。そこらへんはこっちに任せて。で、なにはともあれ偵察任務ご苦労さまでした。現在のネイティブ・ゼスタール人の政体や生活様式、それに、例のペルロード人の件ね。これが一番の謎だけど、今はまあいいわ。そっちはファーダ・カシワギ達が考える仕事だし。まあとにかく今はコクサイレンポウの特殊部隊さんも含めて、一度部隊の再編をお願いします』
「は。ですが、ゼスタールダンクに表敬訪問と言いましょうか、対ゲリラヂラール襲撃の護衛部隊を残したままでこちらに来ましたから、向こうの戦況が少々気がかりではありますが」
『連絡はないの?』
「ゼスタールダンクのマルセアシス……いえ、マルセア議長から、非常に力になっているという連絡は受けていますが、直接の連絡は取れない状態です。まあスタッフの量子バイタルカウンターに変化がないようですので兵員の状態に問題はないようではありますが」
『わかりました……でも気がかりは気がかりね、ゼスタールダンク方面に敵が集中しそうなのは、こちらでも確認していますから……わかりました、体制が整い次第、陸戦部隊をゼスタールダンク方面に差し向けて確認させてみましょう』
「は。宜しくお願いします。では後ほど……」
通信を切る大見、でもってブリッジの壁面モニターに近づいて、上の方を覗き見るように見上げる……
「フォルド艦長……」
『何か、オオミ生体』
「いやはや……なんともでっかいロボットですなぁ……こりゃすごいわ。あれは四〇センチクラスの砲かな? 四基もつけちゃってまぁ……」
フォルドも大見の言葉につられて手を後ろに組み、上方を覗き見る。
『フム、興味深いカルバレータ兵器だ。こんな巨大なものを見るのも初めてだ。実に興味深い』
スール・ゼスタール人さんもビックリなものは何かというと、先遣施設艦隊・艦隊旗艦の人型機動戦艦『やまと級』である。
惑星ゼスタールの戦略ディルフィルドゲート艦『フォルフォル』を施設するためにゼスタール合議体軍が割り出した惑星ゼスタールのとある諸島地域。
艦隊旗艦のやまとは、ゼスタールの汚染された大気の合間を縫って差し込む、この星本来の美しい夕日に照らされて海の上に立っていた……要するに停泊ということである。
その真横にこれまた停泊する宇宙空母ヒリュウ。
ヒリュウのブリッジから見える全高三〇〇メートルクラスのロボット型戦闘艦艇の勇姿は伊達ではない。
更に諸島を中心に警戒陣形を取って空中に浮かぶ機動艦艇群。その中には件のフリンゼ・サーミッサ級シリーズの人型艦も多数警戒体制に入っており、一五〇メートル級のサーミッサ級らが空中に浮かんでいる姿も相当に迫力のある構図である。
そんな陣容で、この部隊の目的である戦略ディルフィルドゲート艦『フォルフォル』の設置。
今回はこの数十キロメートル級の超巨大な砲身のような巨艦を、このゼスタールの海中へ幾分か沈めなければならないわけで、水深等々の調査の後フォルフォルを海中へ沈下させる作業を行っていた。
なぜにこんな事やってるかというと、地球からやってくる国際連邦軍の海上艦艇を円滑に洋上へ展開させるためである。
つまり、ディルフィルドゲートを跳んでやってきた地球の海上艦艇は、このゲートから排出される際、スムーズに海上へ着水するという段取りになっている。なんとも凄まじい発想だが、これが成功すれば地球の戦力も有効に別の惑星上へと展開させることができるという寸法。
今回はゼスタール合議体と国際連邦の約定関係で、地球世界各国の有志多国籍軍が、ゼスタール技術の提供を受けての、その見返りとしての協力であるところが大きいのだが、実際の話として、地球世界もそんな見返り程度であれば率先してもっと協力したいのが各国上層部の本音であって、彼らも現在待機する地球ハワイ沖で、今か今かと張り切って待ってるところであった。
「……なるほど。となればゼスタール星のこの洋上は、世界中の艦船がリムパックのように群れなして一面埋まってしまうと、そんな感じになるわけですね。いやはやすさまじいですねこりゃ」
さて、多川の要請と大見の命をうけて、人型機動戦艦やまとの会議室にやってきた月丘とプリル。所謂状況報告というヤツである。
報告を受けるは、やまと艦長兼艦隊司令のパウル提督に、副官の高雄準也1等特佐、ナヨ閣下にやまと上級士官達。
本来なら大見が自身で報告をしたいところなのだが、ヒリュウが今、再度体制を整えようとしているところで陣頭指揮とらにゃいかんわけであるからして、大見の代わりの『司令代行』としてやってきた月丘達。
まあ代行つっても今だけの話なので、そんなところ。
「……と、まあ今回の件は、色々複雑な事情が絡み合っている事もあって、当初考えられていた、『単純に、惑星ゼスタールに攻め込んで、取り残されたネイティブ・ゼスタール人を解放して、スールゼスタール人とネイティブを邂逅させて、スールさんが帰還して終わり』とか、そんなものではなくなってしまっている状況になっているわけです」
総諜対、つまり日本国情報省、特殊部門のトップエース諜報員の説明であるからして、会議室に集まった主要幹部の皆は、月丘の話を真剣に聞く……ある意味、かつての柏木プレゼンほどではないが、そういう事にはPMC時代から向いている月丘。
『フム……そのどこからともなくやってきたペルロード人のミニャール・メリテ・ミーヴィなる者、過去に飛来したその者が事をややこしくしておるというわけですか……なんとも因果よの。グロウムの件といい、ガルムアの件といい、あのスタインベックとやらの件、そして此度もそうですが、昨今ではヂラールとなれば、必ずそのペルロードとやらが関連してきおる……』
腕くんで、顎に手を当て、語るナヨ閣下。
『……妾が先行してこちらに来たのは正解でしたね。妾もその「マルセア」なる者に会うて話がしてみたい』
すると月丘も頷いて、
「はい。ナヨ閣下のまさしく仰るとおりで、あのマルセア議長も証言していました彼女の中にある、あのミニャールなる人物が残したと思われるプロテクトデータのハッキングなどもお願いしたいところでして」
続いてプリルも、
『でですね、ナヨサマ。もし可能であれば、ナヨサマのお力で、そのケラー・ミニャールの遺体からニューロンデータを取って、人格再現もしてみたいのですけど、ご協力お願いできますか?』
『ふむ……聞くところではその遺体、既に数百周期の時が経過したものと聞きますので正直ニューロンデータの取得が可能かどうかわかりかねるところがありますが……此度はニーラも連れてきております故、彼女と協力して挑戦してみましょう。それで何かわかれば大きな成果ですしね。ですがそれをやろうにもとにかく事をなしてからでなければ、ですね』
頷くプリル。今現在でも進行中であるマルセアシステムとネイティブ・ゼスタールとの連帯した状況。スール・ゼスタール人に限らず、この状況に至った詳しい経緯を皆は知りたいところだが、なんにせよ全部がヂラール連中を駆逐した後の話である。
従って別の言い方をすれば、それらの件を解明するためにもネイティブ・ゼスタールは是が非でも守らなきゃいかんわけである。
『というところでカズキ。現在の戦況は正直かなり深刻なようだけど』
と、問うは月丘の義姉になるかもしれないパウル。そして、
「そうだな。当初はネイティブ・ゼスタールさんが毎度経験している定期攻撃みたいな感じでこちらも受け止めていたが、現着してみれば軌道上のあの化け物どもの巣窟から援軍が随時降りてきているような有様じゃないか。当初聞いていた状況とは随分違うようだが」
とこれまた問うは、パウルの副官である特危自衛隊海上宙間科所属の、高雄準也1等特佐。
「はい。まあぶっちゃけた話でいいますと、我々ヒリュウ部隊が、これまで続いていたこの星のヂラールとネイティブ・ゼスタールの戦闘状況の均衡を崩してしまったといったところみたいでしてね」
『それはアレかしら? カーシェル・オオミのレポートにもあった、”ヂラールの経験共有機能の仮説”っていう……』
「それは私にも良くわかりませんが、あきらかに連中は我々を既知の敵と認識しているのは間違いありません。実際、現在の戦闘状態が大きくなってしまったのも我々と交戦してからの話です……」
言ってみれば現在の宇宙空母ヒリュウが擁する程度の戦力であれば、ここのゼスタールダンク軍もそれ以上の戦力は持っているわけである。
二〇〇〇メートルクラスの機動母艦も持っているし、機動兵器の数も、この規模の生存者数にしては、かなりの戦力を有している。だが、ここまでの動きは今までなかったのである。
更に言えば、今回のような大型ヂラールを何体も擁し、断続的に降下作戦を行うような動きのある行動を、過去にも頻繁に行っていれば、流石のハイクァーンを持つマルセア・システムでもここまで文明を維持しながらネイティブ・ゼスタール人を守ってこられたか? という疑問もあるのだ。
つまり、たったイチ宇宙空母がこの星の状況に介入しただけで、こうまでヂラールの動きが活発になるという事は、彼らがティ連と日本国特危自衛隊の某かの情報を得ているから、としか考えられないと言うしかないのである。
「ふーむ……もしそうなら下手をすると、こちらの作戦の土台を作っている最中に、もう成り行きで連中との本格戦闘。それこそ『大戦』のレベルにまで突入する可能性も十分ありえますな提督」
『そうねジュンヤ……ふむ、もしそうなら、この星の守りはフォルフォルを全力稼働させて、戦力をどんどん投入させる。そして衛星軌道に巣食ってるあの巨大巣窟ヂラール群を宇宙からの攻撃で殲滅させる段取りを早くファーダ・カシワギに進めてもらわないと』
「ですな。では早速火星司令部に状況報告と、例の艦隊を可及的速やかにこちらへ送る作戦を」
『お願い、ジュンヤ』
「は、では」
その高雄1佐なる人物は、パウルという上官にそう言うと、肩にそっと手をおいて、パウルも自然に頷きながら高雄は部屋を退出していく。
その不自然な所作に月丘は少々「?」となるが、プリルは一言も話すこと無く、若干ニヨニヨした目つきで高雄が退出していく姿を目で追っている。
プリルのその表情にも訝しがる月丘。
『ふう、思ったより事はかなり進行しているわね……とりあえず状況は理解しました。カズキにプリルもご苦労様。報告はきちんと受けたと、私からカーシェル・オオミに連絡しておくわ』
「は、恐縮です」
『いえいえ(ニヨニヨ)』
その妙な表情のプリ子を見てパウルは、
『なによ、プリル』
『ん? なんでもないよぉ~。テートク様のお姉ちゃんってカッコいいなぁ~ってね』
『は? 何よ今更、わけわかんない子ね。フフ、ま、とにかく報告はとりあえず以上でしょ? もう他のみんなも解散しちゃったし。カズキ達も少し休みなさい』
『はーい、んじゃいこ、カズキサン』
「え? あ、は、はい……あ、ではパウル提督……あちょっとプリちゃん、どこいくんですか?」
プリルは月丘の腕を引っ張って会議室の外に連れ出す。
* *
で、プリルに引っ張られてやってきたのは宇宙空母ヒリュウの大食堂。
現在ヒリュウは、パウルの連れてきた先遣施設艦隊に組み込まれたので、各艦の艦内転送装置は艦隊すべての各艦とリンクしている。即ち艦隊の各艦全体で、巨大な一つの施設として運用される形になることができるわけで、各艦の転送装置を使えば、まるで一つの大きな艦にいるかのごとく、各艦艇内を自由に行き来することができるのである。
なので、ヒリュウの大食堂には腹をすかせた『やまと』のクルー達もメシを食いにやってきている。
この艦隊で、一番の巨大艦である『フォルフォル』と、二番目に大きい大型機動母艦『ジュンヨウ級ヒヨウ型』は、現在フォルフォルの基地化作業のために行き来ができないらしく、この戦闘状況下でわずかの休息時間でやまとのクルーはみなしてヒリュウにメシ食いに来ているという次第。
やまとにも勿論食堂はあるのだが、いかんせん『人型機動特重護衛艦』という特殊な構造のため、サーミッサ級同様にあんまり食堂が広くないらしく、サロンもそんな感じのためにコッチへ休息しにきているという話。
で、プリルは大好きなフルーツパフェを注文してニヨニヨ顔崩さず、パフェを美味しくいただいている。
月丘は缶コーヒー飲みながら、
「で、何なんですプリちゃん。お話があるなら『やまと』の中でもいいでしょうに。ヒリュウの食堂くんだりまでやってきて」
『んーもう、ここじゃないとお話できないですよう……で、カズキサンに一言教えといた方がいいかなぁと思ってねっ』
「何がですか?」
『んーっと、あのお姉ちゃんの副官やってた人の事』
「ああ、あの高雄1佐という方ですか。私は初めてお目にかかる方でしたが……ふむ、どういうお方なんです?」
『なんでも、カイジョウジエータイからスカウトされた方で、護衛艦の艦長サンやってた方なんですって』
「ほう、なるほど。という事は、香坂さんともお知り合いとか」
『うん。そのケラー・コウサカも仰ってましたけど、相当に優秀な方だそうで、ケラー・コウサカも「私より優秀」って言うぐらいの方なんですって』
「へー……って、プリちゃんよく知ってますね、そんな情報。どこから仕入れたんですか?」
『んっとね、お姉ちゃんから教えてもらったの』
「ああ、なるほど。まあ副官ですからね、で、その高雄さんがどうかしたんですか?」
と月丘は缶コーヒーをグビと一口。
『にひひ~……あの人、実はね……お姉ちゃんの「彼氏」なんだぁ~』
と、その言葉を聞いた瞬間、月丘は『ブーーーーー』とコーヒーを口から噴いた……かろうじて横を向いていたので、プリルへの直撃は避けられたようだ。
『あーーもーーきちゃないな~~……あーあ、ほらほらこれ使って』
プリルはPVMCGでタオルを造成して、月丘へ渡す。
「ゲホゲホ……え? か、彼氏?? ……あ、それで……」
月丘は先程見た、高雄が上官であるパウルにさり気なく親身に振る舞い、それを受け入れているパウルの所作を思い出した。とうとうパウルにも男ができた。春が来た。
パウルが此度の件に至るまで、『男がいない』という話はティ連でも、かつての『シエになぜ男ができないか』説が多川の登場で崩壊した後の、ティ連『新七不思議』の定番として語られていたのだが、その伝説も終焉を迎える事になったようである。
「いや、おめでたい事ではないですか」
『ニヒヒ~、まあそうなんだけど、よくよく考えてみてよ。もし将来私達があーなって、お姉ちゃんもカーシェル・タカオとこーなったら、あのカーシェル・タカオがおにーさんになるんだよ、カズキサン』
「え? ……あ、確かに」
『年齢的にはカーシェルの方がお若いそうだからね』
「あー……そういう関係はあまり得意ではないのですけど……高雄1佐はしってるのですかね? 私とプリちゃんの関係」
『まー、お姉ちゃんが言わないわけ無いと思うし。多分知ってルんじゃないかしらん』
戦況は益々激化していくと思われる束の間の、なんてことのない雑談。とりあえず一息入れるには良いマッサージ代わりの話にはなったようだが、案外自分達の将来のことなので、妙に気にかかったり。
プリルはまだニヨニヨしている。よっぽど姉の何かが面白かったのか。
プリルがパフェを突きながら話す乙女の雑談を聞きながら、月丘は高雄にむかって『お義兄さん』と呼べるのかどうか、妙に気がかりだったり……
* *
宇宙空母ヒリュウが造り上げた戦況。即ちゼスタールダンクコロニーへ向かう敵主力戦力を分断する作戦。
ヂラールはヒリュウに代わって分断状態を維持するために前線に出て牽制攻撃を行っている、フリンゼ・サーミッサ級数隻と現在も交戦中。
流石はヤル研と連合が誇る人型機動攻撃艦である。それらは牽制攻撃を通り越して、ヂラールの分化部隊を完全に圧倒し、少々迎撃地点より前へ出て、積極攻撃を行っていた。
ヂラールもフリンゼ・サーミッサの登場を目の当たりにすると、バカのヂラール的もう一つキレのない部隊行動ではあったものの、連中が降下拠点としている場所に一旦引き下がっていき、僅かの時間ながらも停戦状態ともいえる状況を作ることができた。
だが、逆に言えばこのわずかながらの時間は、ヂラールもネイティブ・ゼスタール軍にティ連が関与しているという事を知っての撤退であって、次の攻撃時は恐らく今までのものとは違う編成で攻めて来るであろうことは容易に想像できる。従ってティ連・ゼスタールダンク軍も今の間に可能な限りの連携強化をはからないといけないわけであった。
「人型攻撃艦、『まつ』『イカヅチ』『フリンゼ・セレイヤ』はこのままゼスタールダンクコロニー上空に向かい、到着後待機。警戒態勢をとります」
『よろしい、輸送部隊はゼスタールダンクコロニーで共闘していたカーシェル・オオミの部隊を回収するように』
「ゼスタールダンクコロニーで待機状態にあった、ニホンコク外務省交渉団の方々は、このまま残りたいと申し出ていますが、如何いたしますか? パウル提督」
『仕事熱心な人たちね、ハァ、どうしよ、ジュンヤ』
日本の外務省の役人とは、かつて一一年前以前は、色々批判もある役所ではあったが、紛争地域や発展途上国との交流などでは意外に現場主義の泥臭い仕事も頑張ってやってきた積極的人材も多い部署なのである。
「ん~……多分、その人達は、国際連邦の連中が、先走った事しないかどうかを心配して『残る』って言ってるんだと思いますよ」
『どゆこと?』
「一応『国際連邦』は現在我々ティ連の指揮下で動く条件で、多国籍軍を形成して、なおかつスール・ゼスタールさんが提示した技術提供条件の“代金のお支払い”で、協力しているわけですから……その志っていうのかな? そんなところでは基本国際連邦軍はスール・ゼスタールさんの『傭兵』なわけですよ。で、我々日本国にとっても、『別の主権』ですからね。まあ独自に色々やらかしたい事もあるかもしれないわけで、まあそこんところは複雑な国際関係っつーやつですよ提督」
『んじゃニホンコクの外務省のお役人さん達は、それを先んじて制するために残ったって事?』
「じゃないですかね?」と、顎に手を当てる高雄。で、近くにいた部下が席を外すのを目で追いながら、視線をパウルに戻し、「まあ彼らは彼らでティ連と日本の国益のために頑張ってるってわけだよ。それに向こうに残ってる表敬部隊だっけか? その部隊の警護にはヒリュウに乗ってた国際連邦の部隊、すなわち特殊部隊連中なワケだから、ほっとくといらんことやらかす可能性も高い。そういう事も考えて残ってくれるってんだから、まー、ほっといていいんじゃないのかな?」
『なるほどね、わかったわ』というと、通信兵に向かってパウルは、『んじゃ、カーシェル・オオミにも、彼の部下に少し残ってもらって、お役人さん達の警護を要請してもらって。で、コクサイレンポウの部隊は全員引き上げるように厳命。もし工作員が残ったりしたら、逮捕拘束するなり射殺するなりして構わないって、カーシェル・オオミに伝えておいて』
と通信兵に伝える。その美人さんなパウルから出る過激な言葉に高雄は、
「おいおいパウル、射殺って物騒だな」
『マア、カーシェル・オオミの部下なら射殺なんてしないのはわかってるわ。でも相手が抵抗するのなら……しかたないわよね。それにそんな不祥事、国際連邦もぶっちゃけ表沙汰にしたくないでしょうから、「無い事」になる可能性もあるでしょうし』
「ロシアもアメリカも自重して欲しいんだけどね。特にロシア」
とそんな部下が傍にいないと、いつもの彼氏彼女の口調で話す二人。で、先の部下が戻ってくると、「ゴホン」と一つ咳払いして腕時計を見る高雄
「では、私はフォルフォルのゲート施設化状況を視察に行ってまいります提督」
『はいはい、お願いね~。あ、それと後でさっきのケラー・ツキオカとも一度お話ししてくれば?』
「え? あ、ああ、フッ……そうですな。ま、暇があればね、あいや、ですね」
『うふふ』
* *
惑星ゼスタール最大の海洋面積を誇る一帯。この星の海と陸地の比率は七対三。ほぼ地球と同じである。また陸地と海洋の分布は、比較的均等に別れており、海洋の広さも、地球のような極端に大きい海洋である『太平洋』のようなものはなく、陸地と陸地を隔てる海洋の大きさも、ほぼ同じ面積の海域が四つほどあるような、そんな星である。
ゼスタールダンクコロニーは、惑星北側の海岸よりは少し内陸部にある山岳地帯に存在する。
そのゼスタールダンクコロニーから数千キロメートル離れた大洋にあるとある諸島海域。
スールなゼスタール合議体が提供してくれた地形データから割り出したその場所で現在反攻作戦の拠点となる基地を建設中であった。
とはいっても、何も一帯に一から建造物を建設するというわけではなく、火星宙域から持ち込んだ戦略ゲート艦『フォルフォル』を中心に、数隻のガーグデーラ母艦に、ティ連の人工大陸パーツ船などを少々組み合わせて、巨大ではあるが即席の拠点基地を建設中という次第であった。
基地の概要としては、後続でこの惑星へ到着する形になる国際連邦軍の海上戦力を素早く展開して、この惑星上の防御力を向上できるように、フォルフォルの船体の三分の二程を、海中へ沈めて停泊させるような形の施設となる。
元々、フォルフォル自体の大きさが、大型宇宙ステーションクラスの大きさであることもあり、内部施設も充実。十分な基地施設として稼働が可能となる予定である。
実際、現在フォルフォルの円筒状艦体の四分の一程が既に海中へ没して円筒状艦体の中が海水で浸かっている状態である。
見た目が海上に建設された大きなトンネル状の建築物のような感じに見えれば、施設完了である。
直径一〇キロメートル、全長が二〇キロメートルに達するフォルフォルの巨体が、二〇キロメートルの海上トンネルのような施設になって洋上へそびえる風景。
周囲の海抜の低い諸島部や、比較的海抜の高い断崖絶壁の無人島との比較が、異常ではあれど、荘厳な違和感となる景色を形成している。
とある諸島上空に、この海域へやってくる予定の、国際連邦軍海上艦艇管制施設として、浮遊設置された人工浮遊島で、その風景と作業を見守る大見に多川、そしてシエ。
「……いや、でも聞けば聞くほど不思議でもあり、不気味でもありますな実際……」
徐々に判明するヂラールの奇妙な性質。最近大見はその事実に驚かされるばかりであり、もし自分が生物学者であれば、恐らく毎日この事実を研究しているだろうと話す。そのヂラールの性質とは……
「確かになぁ。俺も最初この施設計画の話を聞いたとき、大丈夫かよって思った一番の理由が、海中に潜む、超巨大ヂラールなんてのがいてさ、多分そんなのと、あの『水雷戦ゲームが元ネタのSF戦艦映画』ばりに、クッソ超巨大な海棲ヂラールと一発やらかすのかいなと思ったりしたが、なんかちょっと拍子抜けだったからな、うん」
『確カニナ。マアソノオカゲデ、コウヤッテ立派ナ基地ヲ難ナク建設デキルノダカラ、ソレハソレデ助カッテイル話デハアル』
あのヂラールが海にいないという報告は、初め『本当か?』と耳を疑ったほどでもあるシエ。
だが現状、諸々哨戒機を飛ばしても、海中に何か妙なものが潜んでいる様子もなく、それ以前に海中に限って言えば、ヂラールの排出するウイルスの入った胞子や植物型ヂラールのような定着トラップ型ヂラールの汚染もなく、いたって綺麗な海洋を維持しているという報告が普通に上ってきている。
「でも大見、それなら俺達だってあの惑星イルナットでの経験もあるだろ。あの星の海にはヂラールいなかったのかよ」
「私もそう思って調べたのですが、ヂラールを調査した資料ではありませんけど、あの星の海洋を調査した資料では、イルナットの海は元々の文明による海洋汚染が相当ひどかったようでして、まあ多分、滅亡に至った戦争の影響なのでしょうけど、ヂラール云々の形跡は正直わかっていない状態なんですよ」
「あー、そうなのか……」
そんな感じでコレに関しては正直スール・ゼスタールもティ連軍参謀本部も『なぜか?』と頭を捻っている状態で、全く謎だという話。
ただ賢人ニーラ大先生が二つほどつ仮説を立てているのが、一つは、『宇宙から侵攻してくるような連中なので、そもそも論として空を跳んだり空から地上へ輸送できれば海上海中に特化したヂラールの必要性もなく、わざわざ難儀な環境の海中へ展開する必要性もないため、海中に適応した兵科のヂラールがいないのでは』という説と、もう一つは、『生体兵器ということは、元々はその存在を使役する第三の勢力が、なにかしらの目的を持ってヂラールを兵器として作ったわけであるから、侵攻する先の惑星をもろともヂラールで汚染させてしまっては、核兵器の放射能を惑星中に汚染させて、その惑星を使い物にならなくしているのと同じで、兵器としての意味がないため、資源や食料をネイティブのまま確保できる海中だけはヂラールの汚染から外しているのではないか?』という説。
ただニーラが言うには、このどちらも色々ツッコミどころがあるので、あんまり説得力はないから気にするなとは言っているそうだ……
* *
さてさて、そんなこんなで軌道上のヂラールと、ゼスタールダンクコロニー軍、そしてティ連・国際連邦連合軍の、まあ言ってみれば今後の呼称として使われるだろう『同盟軍』がなんとか戦線を膠着させることに成功した現在の戦況。地球時間で言うと、パウル達が惑星ゼスタールにやってきて二日ほど経過した現在……
軌道上の圧倒的戦力のヂラールは、あれから援軍を幾ばくか降下させてきたものの、対探知偽装をかけた偵察機の情報によると、降下地点になんと、ヂラール達は自分達のコロニー、即ち巣というか基地を形成し始めているといった情報がもたらされた。
なんと連中、バカなりに一旦後退したかと思いきや、そんな行動に出ていたとはパウル達も驚いた様子で一時は戦慄したのだが、よくよく観察すると、懸念されていたリバイタ型や、爆撃機型の大型ヂラールのような連中を現地繁殖するようなオブジェクトはないようで、中型~小型のヂラールを中心に繁殖製造しているようであった。
この様子からどうもやはり軌道上何処かにいるヂラールのボスは、この同盟軍は危険と判断したのだろうか、双方の排除を考慮しての、ヂラールコロニーの建設に至ったのではないかと思われた。
現状はさほどの脅威ではないものの、ほっておくわけにもいかないわけで、この時点を境にパウルは当初の前線基地建設後のゼスタールダンクコロニーとの共闘体制構築から、一つ段階を繰り上げて、反攻作戦に打って出ることを火星にいる柏木に申請した。
柏木も、ゼルエに藤堂ら司令部幹部と協議した結果、パウルの申請を許可し、火星に集結している惑星ゼスタ-ル軌道域制圧を目的とした艦隊も待機状態へ格上げし、地球の国際連邦軍参謀本部及び日本国防衛省幕僚本部とヤルバーン自治国軍司令部の、合同司令本部は、地球海上艦隊のゼスタール星派遣へ遂にGOサインを出した!
現在、地球上における太平洋ハワイ島沖では、ヤルバーン自治国軍が建設した、ヤルバーンが太陽系にやってきた当時、冥王星で作ったような、仮設型のディルフィルドゲートを建築し、海中にある程度の深さまで沈めるような形で、直径二キロメートルの半円小型ディルフィルドゲートが稼働準備状態にあった。
小型といっても、半径は一キロメートルもある。即ち縦にも一キロメートル聳える建造物であって、地球基準でみればやはり圧巻の一言につきる。
そこが超巨大などこでもゲートになって、この海域に集結する海上船舶を、別宇宙の惑星ゼスタール海上まで運んでくれるのである。なんとも地球の軍隊関係者は、経験したことのない、それこそ『映画化決定』な自分達の置かれている状況に不安よりも興奮を隠せない状況にあった。
なんせ自分達の行く戦場は、別宇宙というマルチバース世界である。
つい一〇年ほど前までは、理論上の世界だった場所だ。なのでそんな悠遠の距離を往く実感がわかない。
これならまだイラクやアフガニスタンに派兵される方がまだ『遠いところに来た』という実感が湧くだろう……そんな心境の地球世界の各国兵士、そして『陸海空自衛隊員』であった……
『フォルフォル稼働! 転移物体到着、顕現しまス!』
海上固定が終わって、『同盟軍』の『連邦ティ連連合軍』惑星ゼスタール軍本部基地と化した戦略ディルフィルドゲート艦『フォルフォル』
そのフォルフォルの亜空間境界面が臨界状態に達し、フォルフォル内部の海水が外部に放出されてフォルフォルは亜空間回廊を接続する状態となる。即ち、海水は沈下している高さギリギリのところシールドでせき止められている状態である。
事象可変シールドは、外部からの海水の侵入を止め、内部からの転送物体は透過する設定にされているという次第。
でここまでくれば、地球側の海上艦艇が怒涛のごとくやってくると思われるが、それは流石に早計な話という事で、現実はそう甘くはない。
なんせ……ティ連でも『こういう形態のゲートジャンプはやったことないのよーん』という初仕事なので、テストが必要なワケで……
『提督! 惑星ハルマより、試験航行用海上艦が一隻、ディルフィルドアウトします!』
『よし、予定通りね。で、向こうはどんな艦を試験で送ってきたのかしら?』
唸るフォルフォルのゲート……しばし後、毎度の清らかな水面に大岩ぶっこんだような画とは違い、流石大気圏内のディルフィルドアウトということで、熱せられた大気と海水が莫大な水蒸気を纏って、響き渡るような衝撃音とともに、一隻の海上艦艇が顕現した! その名は……
「お? あれは……海自の『おおすみ』ですな、パウル提督」
『オオスミ? どんな艦なの、ジュンヤ』
「は、海上自衛隊の誇る全通甲板式の輸送艦ですよ」
『輸送艦をジャンプテスト艦に送ってきたの? ふーん、でもまたなぜ?』
「ちょっと待ってください……」と、高雄はVMCボードをツラツラと検索すると、作戦書類に目を通す。「なるほど、搭乗している海自の人員がブリッジの最低要員だけで、あとはティ連のワーキングロボットが操艦している事になっていますな。で、家畜等の動物を多数積んでいるようです」
『つまり……どゆこと?』
「まあ、なんというか、海自のブリッジ要員は志願で、あとは大量の動物使って、ジャンプの人体実験って奴じゃないですかね? うん」
『あーーー! それは失礼な実験ねっ! そんなの大丈夫に決まってるじゃない! なーんでそんな事するのよっ』
元工兵部隊ガテン系妖精魂のパウルが、なんかティ連の技術をバカにされてるようだとえらい怒ってたり。
「まああれじゃないの? ……じゃなかった、ないですか? その~、ティ連でも一応初めてのこういう形式のディルフィルドジャンプですし、地球の各国が『テストしろやオラ~』っとか言って、まあとりあえずんじゃ、やぁってやるぜ! って、海自の連中が志願して、やってきたっつーか、そんなとこじゃないかと」
恐らく元海自の高雄副長の言葉は当たっているかもしれない。
今、亜空間回廊航行用VMC装置をパージした『おおすみ』から、海自の隊員が甲板に出て、大きく帽を振って、大喜びしている。まるで人類初の何かを成し遂げたような感覚だ。
で、その後すぐに現実を目の当たりにし、目の前にそびえるフォルフォルや、『やまと』を見て、指差して驚いていたり。
やまとからも発光信号炊いて、宇宙空母ヒリュウからも人員が甲板に出て、おおすみ乗員を歓迎しているようだ。
『ん~……まそういうことなら仕方ないわね。で、そこまで言うんだったら、あの船に乗ってる人員のバイタルチェックは済ませたの?』
「ええ、まあ簡易ではありますが、形式的な形でヴァル式使って調べました。ま、なんにも異常ありませんけどね」
『その搭載している家畜の方は?』
「特に」
『で、どーすんのよ、その家畜。みんなであとで食べるとか、それともどこかで飼育するとか』
「後者ですな。なんでも、惑星ゼスタールへの天然資源支援物資の意味もあるそうで」
『なんだかよくわかんないわね、コクサイレンポウの方々って』
「まぁ……なんつーの? まだまだ素人でしょうからねぇ」
『そんなもんですか……あ、ジュンヤ、さっきのクラッカーあまってる?』
「ほい、どうぞ」
『あんがと』
パウル提督と高雄副長、やまとのブリッジから遠路はるばるやってきた『おおすみ』を見おろす……糧食品のクラッカーをポリポリと食べながら……
まぁそうはいっても、惑星の大気圏内から、別の惑星の大気圏内。しかも水上と水上を繋ぐというジャンプはティ連でも極めて有意義な実験であるのは確かで、今回の『おおすみ』の成功により、実のところかなり作戦の幅が広がる形になる同盟軍であった。
* *
さて、そういう事で海上自衛隊輸送艦『おおすみ型』の無事到来の報は、即座に量子テレポート通信、所謂クォル通信で即座に特危自衛隊火星司令本部と地球の国際連邦軍総参謀本部へと連絡が行く。
既にゲート内航行装置と、対亜空間回廊シールドをVMC装着した世界各国各艦は、既にゲート進入態勢で待機状態を維持していたわけで、司令部の作戦開始命令と同時に、地球、ハワイ島沖では計画通りに多国籍軍の各艦艇がゲートの亜空間境界面に吸い込まれるように進入していった。
第一陣は、日本以外では最も経験値が高いということで、米国海軍の各艦隊がジャンプを開始。
新生アイオワ型を先頭に、ダブル大統領空母や新鋭艦、そして今作戦で重要な役どころとなる予定の戦略原子力潜水艦群が次々と侵入していく。
次に、ロシア海軍、中国・韓国他、極東・東南アジア諸国艦隊。また次にEU諸国艦隊、ブラジル、インドと恐らく先の大戦以降最も数多くの艦船が実戦参加する作戦に、地球のマスコミもヘリを飛ばしてハワイ沖の、それまでの地球では想像だにしない軍隊の行軍を目の当たりにしていた。
そして殿として最後にゲートへ進入するは、我らが陸海空の本土自衛隊。
航空母艦『いずも』『かが』イージス艦『こんごう』『みょうこう』を中核に他数十隻の護衛艦及び潜水艦を伴ってゲートへ進入していく。
更には今回、臨時で全長三〇〇メートル級の大型自動車輸送船を買い上げて軍用改修した、旭龍やコマンドトルーパーなどの機動兵器専用運用母艦『あかぎ』も投入され、ゲートへ進んでいく。
世界各国の艦艇全艦をジャンプさせるに要した時間は、約六時間。これから各艦艇は亜空間回廊を約三日間驀進することになる。
別宇宙の星なのに、えらく到着が速いではないかと思うが、同一の宇宙空間内をディルフィルドジャンプで進む場合と、マルチバース空間をジャンプするのとではディルフィルドゲートを使ったシステム上の物理法則が全く異なるらしく、ディルフィルドゲートのシステムではマルチバース間の超空間航行は通常空間の数万倍の速度でスッ飛ぶ事ができるらしく、この理屈はティ連の科学でも、実はよくわかってないらしい。
ただ、この空間科学の分野では実のところティ連よりも進んだ見識をもっているゼスタール人は、その理由を知っているらしいのだが、またそれは別の講義となるので、此度は割愛である……
* *
ゼスタールダンクコロニーの統括議長府内……
先日、月丘達がやってきたネイティブ・ゼスタール人達の政府中枢である。
その場所は、まるで高度なシステムを構える無機的な空間であり、議長府という、本来なら迎賓館や執務室のあるようなそんな場所には見えない所。
巨大なシステムが中心に鎮座し、空中にはVMCで形成されたモニターが多数浮かび、システムが必要とする情報を表示している。
さらにその中心に目をつむり両腕を少し広げて浮遊するゼスタールダンクコロニーの実質的な首長。
それは高度な、そして完全なトーラルシステム群一式であり、そのシステムが創造した仮想生命体、というよりは、VMCアバターに近い存在、『中央統括議長、マルセア・ハイドル』という褐色のゼスタール人風仮想人格であった。
マルセアはやおら目を開け、浮遊状態を解除し、何かが到着するのを待っているようだ。
すると、そこに一本の光の柱、即ちティ連式転送装置の光が立ち上り、しばしの輝きのあと、中から五人の人物が姿を表す。
三人はスーツに身を包んだ護衛のようである。恐らく特危隊員であろう。腕にはレベル8の重軍用PVMCを装着している。万が一の戦闘時にも万全な状態のようだ。
で、そんな人物がいるわけだから、当然あとの二人はVIPクラスの人物ということになるのだろうが、一体どなた様かというと……
『ふむ……これは立派なトーラルシステムですね。妾の本体も妾自身が再構築した自慢の一品のつもりでしたが、このシステムは妾達が使っているトーラルとは系統が随分違うようです』
『ですね~、ひと目見て初めて見る制御システムがあるのがわかりましたぁ……興味津々ですよぉ』
なんと、ナヨ閣下とニーラ大先生であった。
ナヨは転送した場所の正面で微笑を蓄えて彼女らを待っていたマルセアに声をかける。
『そなたが、この星のゼスタールの民を統括している、マルセアと仰る方ですね』
『はい。私はこのトーラルシステムが作り出した対人コミュニケーション人格体であり、ここゼスタールダンクコロニーと、その衛星コロニーを運営管理する、「中央統括議長、マルセア・ハイドル」と申します』
『妾は、そなたと同じくトーラルを本体に持つ仮想生命体、ナヨクァラグヤ・ヘイル・サーミッサです。以後お見知りおきを』
『私はヤルバーン科学局局長で、ニホン国トーキョーダイガク名誉教授のニーラ・ダーズ・メムルですぅ。よろしくおねがいしますね』
まあニーラ大先生はともかく、今、同じトーラルを本体に持つ、自我を持った仮想生命体ナヨと、自我を持たない知性体、マルセアが対峙する。
彼女達は、何を語るのだろうか?




