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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
51/89

【第九章・奪還】第五〇話 『偵察』


 二〇二云年のある日。

 一九四五年に創設された“国家間連絡機関”としての『国際連合』が解散し、その発展後継組織として地球初の“国家間意思統一決定機関”として、『国際連邦』が創設された……


 十余年前、この地球にヤルバーンが飛来し、当時、都市型探査母艦と呼ばれたヤルバーンが所属国のティエルクマスカ星間共和連合イゼイラ星間共和国の命を受け、日本国に接近し、結果、日本を星間国家連合の一員としてティ連が迎え入れた。

 その結果、地球史に残るパワーバランスの大改編が行われ、一時期は親日本国家連合としての意味合いも持った自由主義国家の連合体であるLNIF諸国と、それと相入れない国家群CJSCA二大勢力の冷戦構造に突入した訳だが、その後、これも因果の運命というものなのだろうか、かのガーグデーラの地球浸透偵察の結果、なんだかんだで成り行き的に世界各国もなんとなく異星勢力ゼスタールとの繋がりができてしまい、柏木のガーグデーラとの接触、即ち、ゼスタールとティ連の和解と、ゼスタールの連合加盟をきっかけに、この地球社会全体が、日本に遅れること十年あまりの月日の末、大宇宙時代の到来を迎える事ができた訳である。


 だが、この結果はそんな地球社会の異星知的生命体との邂逅物語という単純な話ではなかった。

 なぜならゼスタールとの接触は、即ち、かの『悠遠の王国』である『サルカスーハイラ王国・ヂラール戦争』における悪夢再来の可能性そのものでもあったのだ。

 結果、宇宙空間の防人としてのゼスタール、その悲しくも壮絶な文明の歴史をティ連や日本、地球社会が知る事になり、この太陽系全体が大規模な恒星間安全保障体制に組み込まれる要因になった。

 

 そして新たに出会った、地球が存在する同じ天の川銀河系に同居する星間国家『聖ファヌマ・グロウム帝国』との邂逅。

 そこに再び現れた知的生命体最大の脅威、『ヂラール』

 このおぞましき存在が、別宇宙から地球やティ連の存在する現宇宙空間へ現れたという、“事”の重大性は、第二次世界大戦後、その数十年後に地球社会を一つにする力学が大きく働いて、今、国際連邦の創設とともに、異星国家との多国籍連合軍事同盟をも結ぶ、大きな大きな時代の分岐点になる事象となるのであった……


    *    *


 UFMSCCと、ゼスタール月面基地司令、ゲルナー・バントとの会談、そこで出たUFMSCCの結論と、連合日本、そしてヤルバーン自治国にティ連の対応は、『国際連邦軍ゼスタール派遣特務任務部隊』の創設という形で結果を出すことになった。

 だが、これでもまだ消極的な結果である。即ち、『任務部隊』であって、国際連邦統合軍を結成して参加というわけではない。このあたりはまだまだ世界はそう簡単に全面協力に参加、というわけにはいかなかった。

 せっかく手にした航宙戦力も、それをしっかりと運用できなければ話にならないし、機動兵器も同じくである。そこはまだ暫し慣熟の期間は欲しいところで、各国は今、演習に明け暮れていた。

 そこには特危自衛隊とヤルバーン自治国に特危太陽系方面軍火星基地の防衛総省部隊や、ティ連としてのゼスタールも、各国の訓練に手を貸していた。


「と、そういったところで、日本もまあ一応は国際連邦のアドバイザー国ですから特危自衛隊に限らず、陸海空の自衛隊も積極的に演習へ参加するような方針で進めています、柏木先生、そして、アルド・レムラー閣下」


 日本国内閣総理大臣、井ノ崎修二は、総理官邸執務室でゼル会談のゼルモニター版を行っていた。

 大きくその画面に映るは、ゼスタールの元首ともいえる、アルド・レムラー統制合議体閣下。久々の登場である。腕を顎に付けて、カルバレータモードで、恐らくナーシャ・エンデの実体生命体用に用意している部屋で、この会談を行ってくれているのであろう。ダンディーなお姿がなかなかに渋い。

 で、井ノ崎の執務机の前にあるソファーに座っているのは、我らが柏木長官閣下。今、コッチでは、ティ連連合議長、サイヴァル・ダァント・シーズの全権、即ち、『議長代理』の資格をもって井ノ崎の前に座っている柏木先生。即ち、『地球関係の事は任せた』と、サイヴァルから厚い信任をもらっているわけである……柏木としては、結構責任感じてしまっているわけであるが……


「わかりました。ではゼスタールさんの希望している特殊部隊の参加の方で、日本としてはどうなさるおつもりですか?」

「この際ですから、特危の八千矛とは別に、陸自の特殊作戦群も参加させようと思っています……恐らくここまできては、特危だから、とか、陸海空自だから、とかいう議論も、そろそろ終わらせないといけないと思いますのでね」


 即ち、この時代でも未だ五月蝿い野党の『憲法9条精神』のイデオロギーである。

 今の日本は、その憲法も改正されて、憲法上は地球外の主権勢力に対しては、自衛隊も集団的自衛権、先制攻撃も行えるようにはなったのだが、今だに議会内で幅を利かせる『平和憲法イデオロギー』は、特危と、陸海空自衛隊を別物扱いしており、これが日本の安全保障上における国内問題として残っていた。


『イノサキ生体の方針を、我々は高く支持し、評価する。我々は、現在トッキジエイタイへ出向派遣させている、ネメア・ハモル戦闘合議体から諸々の報告も共有している。そこでの情報として、その『トクシュサクセングン』と呼称される特殊部隊の練度は、極めて高いとの評価を得ている。その部隊の作戦参加は、我々の作戦方針に極めて有用に働く。理解せよ』


 毎度のゼスさん口調にはもう井ノ崎も慣れて、むしろこのはっきりした口調が清々しいと思うようになってしまっている。レムラーのその言葉に笑みで頷き、とりあえずそういうことで、という感じ。


「で、先日の月面基地訪問でゲルナー司令が仰られた、あの『惑星ゼスタールに生存者がいる』という発言もかなり衝撃でしたが……レムラー閣下、我々地球人の特殊部隊が先に惑星ゼスタールの生存者と、なぜにコンタクトをとる必要があるのでしょうか?」


 と井ノ崎が尋ねると柏木も、


「確かに。普通に考えれば、まず真っ先にあなた方の秘匿先遣部隊が……って話になると思うのですが」


 すると、レムラーはしばし目を瞑って黙すると、


『実は、我々はティエルクマスカ政体から供与された遮蔽技術を使用して、現在のネイティブなゼスタールの民をこの目で見てきた』


 そうレムラーは答えると、井ノ崎と柏木は、「え?」という表情をする。当然そういう経緯があるなら、彼らが直接ネイティブゼスタール人と直でコンタクトを取れない相応の理由もあるわけで、それをササっと、頭の中で考えるに、


(やっぱり、こんな物言いの不思議種族さんに変化したからかな?)


 と柏木や井ノ崎はそんな感覚も抱く訳だが、どうやらその考えはあながち間違っている訳ではなさそうで、それどころか更にその上手をいく理由が返ってくる。

 レムラーは、どう説明すればいのか、合議体同士で超高速度のやりとりを行なっているのか、また少し瞑目して……


『我々は、数人の偵察合議体をカルバレータとして、現在のゼスタール生存者コロニーへ潜入させ、状況を探った。現在の生存者は、事件最初期のゼスタール民族が、レ・ゼスタシステムを使用して肉体ごと存在を分子化し、種の保存を行う当初の計画の歴史は知っていたようなのではあるのだが……』


 この話を聞いて柏木達は、「ああそうか」と思う。それは現在の生き残りゼスタール人は、彼らが今の姿になってから、八〇〇年が経過している、所謂『子孫』という言葉が相当する人々であり、本質的にナーシャ・エンデのゼスタール人とは存在自体が既に違う人々だからだ。


『……その後の、我々が当初の計画とは違った……別の言い方をすれば、本意ではないが、所謂「当初の計画が失敗した存在」である我々の実態も彼らは知ってはいるようなのだが、その事実がかなり歪んで伝わっている』


「歪んで? と、言いますと?」と井ノ崎は怪訝な顔で聞き返す。


 柏木は、持ち前の勘の良さから(まさかなぁ……)とは思いつつレムラーの話を聞く。


『……どうやら現在のスール化した我々を、現在の生存ゼスタール生体は「神格化」しているようなのだ……つまり、以前お前達がリヒャルト・アイスナースールの取り扱いにおいて懸念していた事由と同様の問題が我々の立場でも発生した事になる……我々ゼスタールも本来地球人と同様の宗教観を持ち合わせている種族である。この事はアイスナー・スールの一件を類推した場合、同様の懸念事項を誘発する恐れが十分にある……我々は自らが宗教的救済者として認識されることを望んではいない』


 柏木は(やっぱりそれか!)と幾度も頷いてレムラーの話を聞く。井ノ崎は、言われてなるほどといった表情だ。

 ふむと吐息を一つつき、柏木は、


「レムラー閣下、お話はわかりました。総理、どうですか?」


 井ノ崎も内容は把握したようで、


「神仏の降臨みたいな形でないように、となると、現在のゼスタール人と、彼らから見て『異星人』となる我々地球人や、ティ連人との自然な邂逅で、という形に演出したいわけですか」

『肯定』


 柏木は少々怪訝そうな顔をしながら、


「閣下、それでもいずれ相手さんにもわかることですし、きちんと説明すればいいだけの話だと私は思うのですけど。むしろ自然な形でそのネイティブなゼスタール人さんと邂逅できないスールさんの方を私は気の毒に思いますよ」


 そういうと、レムラーは少し考えて、


『現在の我々と、生存ゼスタール生体は、今となっては別の種族のようなものである。恐らくそう簡単にはいかないだろう。それと、我々にも母星を奪還したあとのシナリオがある。そのプロトコルに準じて行動しているところもある。相応に我々にも考えはあっての事だ。心配は無用である』

「そうですか。いや、差し出がましい事を言って申し訳ありません」

『気にすることはない』


 まあ、惑星ゼスタールを奪還したあとの方針というものは、当然彼らにあって然るべきで、奪還した後のほうが大事である。だが、それはまだ今尋ねる話ではない。それに『生存者がいた』という、イレギュラーが発生したわけだから、レムラー達の今後の方針にも、相当な変更を余儀なくされるはずである。これは今すぐに……というわけにはいかないだろう。


『イノサキ生体、カシワギ生体、我々は二回目の奪還作戦事前偵察行動を計画している。前回は、純粋な状況偵察にすぎなかったが、二回目は現地ゼスタール生体との対話的接触を試みる予定である。そこで我々は、グロウム事案の戦闘資料や、惑星イルナットでの資料等を勘案した結果、ニホン政体における、情報省の総諜対人員の活用を提案する』


 なんと、レムラーはもう一度、惑星ゼスタールに偵察部隊を送り込む計画をしていると。

 そこで、あのシャドウチームの三人を活用したいという。どうも、ゼスタール合議体内でも月丘達の活躍は相当評価が高いらしい。

 で、更にチームとしての活動を強化するために、現在特危に出向中のネメアもつけるという。


「え? でもそれではシビアさんにネメアさんが帯同する事に……そうなると先程の話と違ってくるのでは?」

『この二人は、生体種族の性質を良く理解している。従って作戦に支障はない』

「あ、まあ確かに……」


 ちょっと苦笑いの柏木。シビアのチーズケーキ好きや、ネメアのお餅好きの件などを聞いているからである。レムラーも、この二人は一般のゼスタール・スールとは少々違うと話す。

 あと、勿論シビアにネメアは、ゼスタール人ではなく、地球人に偽装して活動する予定。

 シビアは、ちょっと褐色肌の健康的なボーイッシュ美少女風日本人に。ネメアは、お色気褐色モデル風な日本人に、という感じ。


 ということで、先行偵察任務を情報省に預けるレムラー。月丘達から得られる情報で、国際連邦軍(UF軍)の作戦方針が決まるという。当然、現在の生存ゼスタール人は、八〇〇年もの間、ヂラールと生き残りを賭けた攻防をやっているわけだろうし、戦闘も不可避の可能性も当然ある。

 確かにそんな任務にうってつけなのは、月丘達シャドウチームなのだろう。


 と、そんな感じで今後の方針の会談も一息つく形になる。柏木はティ連議長の権限を委任されているので、柏木の報告で、ティ連もゼスタール合議体が行う方針に賛同する形になる。


 で、そんなこんなで雑談なんぞ……


「レムラー閣下、ちょっと気になっている事が一つあるのですが、お尋ねしてよろしいでしょうか?」

『? 何か。質問せよ』

「あいえ、大した話ではないのですが……シビアさんやネメアさんもそうですけど、私が初めてシビアさんと出会った時と比べて、合議体のみなさんの、お話の仕方が随分丸くなったというか、角が取れてきたというか、そんな感じがするのですか、はは」


 柏木は井ノ崎と顔合わせて、笑ったり。


 その柏木の言葉に、レムラーは少し首を傾げて、


『そうか……我々も自覚するところはある』

「ありゃ、そうなんですか」

『シビア・スールや、ネメア・スールの対人接触データの共有もさることながら、我々がスール化してきた……そう、アイスナー・スールや他、数々の多種族スールとの対人接触データ等が影響を与えてるのかもしれない。我々としても生体種族との交流を考えた場合、これらの傾向は肯定している』

「はは、そうですか」

『? なぜカシワギ生体はそのような事を尋ねるのか? 回答せよ』

「あいえ、お気になさらずに。ちょっとまあ色々ありましてね」

『??』


 首を傾げるレムラー。井ノ崎は、「また何か考えてるなこの先生は……」というような顔をしてニヤけていたり……


    *    *


 とそんな話が進む中、場所は変わってヤルバーンタワー。

 東京都ヤルバーン区にある、防衛装備庁管轄の、アノ研究所。総諜対の装備も研究してくれてる『ヤの字』の研究所。

 そこにいつものスリーピーススーツをパリっと決めてやってくるは、総諜対シャドウ・アルファこと月丘和輝。PVMCGの認証を通ると、自動ドアが空いてあいもかわらずなんか訳の分からない発明品を横目に……


『あ、カズキサン! 待ってましたよっ!』

「プリちゃんおはよう。昨日は家に帰ってこなかったけど、ここに籠もってたのですか?」

『うん。ちょっと研究中のカズキサン装備を仕上げちゃおうと思って』

「え? 私の?」


 そういうと、ヤル研研究員の一人が月丘に声をかける。


「まいど、月丘さん」

「ああ、どうも、お疲れさまです」


 関西出身の研究員のようだ。出向元は、『君島想楽特殊科学研究株式会社』というところからの出向研究員らしい。君島重工グループの研究開発系子会社という話。この社名にピンと来た人は偉い。


「プリルさん、これ……言われてた例の装備のデザインデータね」

『あ、ありがとーゴザイマスっ!』

「私の知り合いの、山代さんところで働いとった、今フリーのデザイナーさんのヤツや。せやから、品物は間違いないで。これ、納品書な。ちゃんとギャラ振り込んだってや。こんな仕事初めてやゆうて、えらい喜んどったさかいにな」

『勿論ですっ! これで完璧ですねっ! ニヒヒヒヒ』


 目を細めて歪な視線でカズキサンをチラ見するプリ子。月丘と視線が合うと、サっと元の可愛らしい表情に戻す。


「まぁた何か変なもの作ってるんですかぁ? 嫌ですよ、毎回毎回」

『な〜にを言ってるんですかカズキサン。これも次のお仕事のためですよっ』

「え? 次の仕事? まだブリーフィングも受けてないのに……プリちゃん知ってるの?」

『知りませんよぅ。でもお昼から任務会議あるんでしょ?』

「ええ、まぁ……」

『んじゃ、このあいだのゼスさんの件。特殊部隊がどーのこーのって言う案件に決まってるじゃないですか。ウチが引っ張り出されるの確定案件ですよっ』

「まあ確かにそうですねぇ」

『なら益々このあったらしい装備が必要になるデス』

「いや、プリちゃん、口調がフェルフェリア大臣みたいに……」

『ということでポチっとな』


 プリルが先程関西研究員のくれたデータをコンバートさせたものと一緒に、その新装備とやらの仮想造成データを月丘のPVMCGに飛ばしてきた。


「なんかデータ飛んできましたけど、これですか?」

『ウン。んじゃ、これから実験場にいきましょー』


 ということで、研究員の福利厚生も兼ねたテニスコート兼実験場に連れてこられた月丘。ってか、何やら正体不明の機材があちらこちらに置かれており、ほとんどテニスコートの役目を果たしていない。


「はい。で、どうすりゃいいの?」

『マズは、ゼルクォートで、いつもカズキサンが使ってる“ジュウ”を造成してください』

「はあ……」


 月丘は、柏木からもらった実物の、ストレイヤーヴォイド・インフィニティ月丘スペシャルをデータ取りした、PVMCG版インフィニティを右手に持つ。


『はい。で、次はこのデータを出力してください』

「はあ……」


 次に月丘は、左手に、インフィニティのマガジンらしき物体を造成して、左手に持つ……ただ、そのマガジン、何かカラフルな配色で、底部に嫌な感じのするメカメカしいギミックのパーツがポヨンと付いてたり。


『で、そのマガジンを、ジュウに装着しちゃってくださーい』

「はあ……」


 月丘は、今手に持つノーマルインフィニティのマガジンキャッチボタンを押し、中のマガジンをストンと地面に落とすと、左手に持つ妙なマガジンをカシャとインフィニティに装着する…………


 と!


「ん? んんん!? えええええ!!?? うわわわわわ!!!」


 インフィニティから妙なメカメカしいパーツがビシビシ生えてきて、その原型を放棄し、どう見てもどっかの特s……まがいなデザインの銃形状にビシビシ変形して、その大きさはもとの拳銃サイズから、アサルトカービンをソードオフ化したぐらいの大きさになって……

 更に月丘の体をその銃を持った腕を発端に、ビシビシと……これまた新型の最新鋭L型コマンドローダーをその身に纏っていく……

 だが……その容姿、日曜朝九時にやってるイケメン俳優登竜門のヒーロー物みたいなデザインで、まあ元がコマンドローダーなので妙にメカメカしく、以前の銀ピカカズキサンとは打って変わって、カラフル配色なカズキさんになって……頭部にツノみたいなの生えてるし……


『ヒャッホー、できたできた!』


 手をぱちぱち叩くプリ子


「なななな、なんですかこれはーーー!!」


 キラキラと、銃とベルトあたりがエレクトリカルに光ってる……なんかゼスタールの技術も使ってると見た。

 横で、関西の研究員が大笑いしている。知り合いの山代デザイナー渾身の作というやつに感動しているのだろう。


「ぷぷ、プリちゃん、あのね? こんな……私デパートの屋上で子供の相手するんじゃないんですから……」


 最近はデパートの屋上でなんかやらない。結構感覚が古いカズキサン。


『カッコイーじゃないですかっ! うん! これは私の最高傑作ですねっ!』


 月丘の苦情を物ともせず、一人感涙するプリル。


「い、いや、あの……」


 まだあの銀ピカ装備のほうがマシだと訴える月丘。いかんせんこの腰部のベルト状部分に制御機器を集約させてどうすんのとか……なんとも呆れるやらどうしたもんかと……その変容した銃をいじってると、グリップが垂直に折れて、ビシュンと刃先が出て、剣になった……「はぁ〜」となる月丘。


「ぷりちゃぁ〜ん、こんなの恥ずかしいですよぉ。なんでもっと真っ当なミリタリーなものに……」

『なぁにを言ってるんですかカズキサン! それはですね、ヤルバーンのトーラルシステムと対話相談して、チキューの効果的な個人装甲兵器の形態を考えて作ったんですよっ! でね、トーラルちゃんの出してきたローダーデザインがあまりにもダサダサだったので、シビアチャンに相談したら、「ゼル端子の拘束機能を流用すれば良い」とかそんなデータくれて、んでもってそれでもイマイチスマートじゃないからね、ヤル研に相談したら、ヤマシロさんのデザイナーさんが、でざいんしちゃるとか言ってくれたから、みんなブチ込んで、トーラルに再設計させたら、こんなスバラシイコマンドローダーができたんだから、感謝してもらわないとこまりますよっ! ……」


 プリ子の独演説明説教会にボーッと聞く月丘。もう抵抗するの無駄だと理解してるので、


「はい」


 素直に受け入れた……


 で、まあそういう経緯はそういうことで、この月丘の新型装備、以前の銀ピカローダーの機能から上書きされることになるので、銀ピカローダーはこれで退役という事になる。

 データは別途バックアップがあるので、使いたい奴はいつでも使うことができる……使いたい奴がいればの話だが……

 素直に受け入れたカズキサンはその後、ゼル実験棟で、性能のテストを行った。


「まあとはいえ……これは確かに相当パワーアップしているコマンドローダーですね……L型ですが、スペック的にはM型のポテンシャルはあるか……」


 その手に持つ銃の能力。以前のリパルションガン(斥力銃)の機能に、ブラスターライフルの機能、即ち機動小銃の機能を片手持ちで使える威力の銃になっている。ということは、ローダーの腕部機構部のパワーが、かなり強化されているので、機動小銃を片手で扱えるような能力をもっている。即ち、動力パワーだけで言えば、M型ローダー並のものを持っているのである。

 で、先の通り、その銃が剣に変わるという話。


(いや、これはいらないでしょう……)


 と思うが、口に出して言うとプリルの説教をまた延々喰らいそうなので言わない。

 そんな感じでヂラールに似せた標的を倒し、障害物をローダーの機動性駆使して躱していく月丘。


『どうですかっ、カズキサン。いい感じでしょー』


 自画自賛のプリル。カズキサンのための渾身の一作なので、気合が違う。でも確かにプリルが気合い入れただけあって使い勝手は前回の銀ピカローダーをアップデートした感じで、いい感じなのは認める月丘。まあそれはそれ、という話で、テストは真剣にやる彼。なんせ自分の命を預ける装備であるからして。


「確かに……機動力も抜群に上がっていますし、武器の性能も悪くない。まあデザインは別……」

『何か言いましたかっ!』

「いえ、なんでもないっす……」


 今、日本国憲法で保証されている言論の自由は、彼にはない。


「ただプリちゃん、この装備、武器はこれだけ? 前のローダーみたいに外付け装備のハードポイントとかはないのかな。ちょっと装甲兵器相手だと、前のローダーよりは武器の汎用性が……」

『うふふ〜大丈夫ですよ、カズキサン。ちゃぁ〜んとそこらへんも考えてますっ。ちょっと待ってくださいね~』


 と、一寸待つと、なんと、武装らしきものが相応についた1200ccクラスのスポーツバイクっぽいデザインな装甲化されたオートバイが、二輪状態でコケもせずに、自律してゆっくりと試験場の中に入ってきた。

 走行音は電気的で車輪駆動。トランスポーター的な駆動方式ではないらしい。


「お、すごいですね。ジャイロ制御ですか。二輪状態で停止できるなんて」

『ですです。でもすごいですよね、この技術って、何十年も前にこのハルマにはあたんでしょ?』

「ええそうですね。確か、ジャイロ-Xでしたか、一九六〇年代にそんな名前の二輪自動車というのがありましてね……」


 一九六七年に米国で『Gyro-X』という名の、試作二輪自動車が存在した。その名の通り、ジャイロスコープ(宇宙ごま)を内蔵しており、それを常時稼働させることで、押し倒しても起き上がりこぼしのように直立する機能を持った二輪車である。


「で、プリちゃん、このバイクとさっきの話はどう関係するのですか? 何か武装が沢山ついてはいますが……」

『まあそれに跨ってください』

「わかりました」


 月丘はそのバイクに跨る。搭乗体勢としては、完全なスポーツバイクの感覚だ。


『で、そこの青いボタンを押して下さい』

「えっと、これですね」


 月丘がハンドル近くに付いているそのボタンを押した刹那、なんと! バイクが月丘の体に纏わりつくように変形して、コマンドローダーの上から装着するコマンドローダーのような装備に大変身した!


「おおっと! これは! ……ははは、すごいすごい!」

『おー、カッコイイですねっ!』


 パチパチ手をたたき喜ぶプリル。月丘もこういうゴツイ装備であれば、納得もできる。ちょっとはヒーロー感が薄れてくれるから……と思うのだが、


『えっとですね、そのバイクをそうやってコマンドローダーと合体させて、対装甲兵器にも対応する事ができるんですよっ』

「なるほど、だからこの素のL型ローダーが、M型並のパワーを持っていたということですか」


 そのとおり、この戦闘バイクと一体化することで、M型ローダーの火力を得ることができるわけである。

 この状態になると肩部マウントに、ゼル造成型速射無反動砲に、速射ブラスター砲が使用できる。更には飛行も可能となる。


『で、この映像を見てくださいね』


 プリルは月丘のバイザーに、動画データを再生させる。そこには更なるオプションとして、この戦闘バイクにサイドカー、つまり、大型斥力砲と小型対機ミサイルを搭載したユニットや、物資コンテナなど、いろんな形態の『側車』を装着する事が可能なのだ。特に重武装側車を装着すると、ローダー変形した際に右腕部が側車と一体化した車輪付きの野砲と化し、H型ローダーと同様の戦闘力でフルアーマー化運用が可能になるものもある。


「へー、考えましたね!」

『前のグロウム戦の時に、USSTCが運用した“サイドカー”って通称の重装甲ロボットスーツがあったんですけど……』

「はい、私も覚えてますよ」

『アレを参考にしたんですよ。この装備があれば、あのマスターヂラール戦みたいな状況でも、充分戦えるかなって』


 プリちゃん、これでも愛するカズキサンの事を想っての装備を考えていたのである……デザインはともかく……

 まあでも確かに、以前の銀ピカローダーと、あのサイドカーの運用と比較すると、格段の性能・火力向上であるのは確かである。というか、総諜対よりも特危クラスで運用する戦力レベルの兵装じゃないかと思う月丘……再度思うが、デザインはともかく……


 ということで、前回の銀ピカローダーに特に名称は無く、みんな『銀ピカ』とか、『宇宙諜報員カズキサン』とか、そんな名称でテキトーに呼称していた。まあ一応調達名称としては、『17式仮想造成型自動甲冑改・総諜対仕様』となっている。

 今回のも、調達名称としては、『試製20式自動甲冑改・総諜対仕様』となってるが、今回はきちんと名称登録しておこうという話で、『20式シャドウローダー・Lモード・Mモード・Hモード』という呼称で登録した。ま、シャドウチームが使うコマンドローダーということでプリルが命名したという話……


 ということでバイクユニットを解除して、シャドウローダーの装着を霧散させる月丘。なんでも話では、このシャドウローダーは、データ装備とは別に、実物としての装備もあるそうだ。つまりこれもあのグロウム戦で、プリルがコマンドローダーの造成をパワー切れで形状を解いてしまってピンチになった状況も踏まえて、ハイクァーンでも造成し、調達しているという話。もちろんこの実物版を使うときは、あの装着ルーティーンは必要ない。


「ふう、ま、なんともまた各方面から色々言われそうなデザインのブツですけど、感謝しますよプリちゃん」

『えへへ~』


 そういうと、月丘は腕時計を見て、


「ではそろそろですね。行きましょうかプリちゃん」

『うん、ちょうど良い時間だね……あ、ケラー・タカダ、ありがとーございまーす!』


 向こうでさっきの関西弁研究員が手を振っていた。そう、彼は柏木も関係した、かの人物の息子さんだったり……


    *    *


 ということで、プリ子の開発した新装備のテストも終わって、二人は総諜対本部室にやってきた。

 本部室といっても、毎度のあそこなのだが。

 マニペニーな美加さんは、今日はお休み。なんでもイゼイラ科学院の履修試験があるようで、ヤルバーン自治国の科学院分室でテストだそうな。で、就職は国家試験受けて外務省のティ連局勤務を目指していたそうなのだが、白木のスカウトもあって情報省にほぼ内定状態だそうな。

 こういう場合、国家試験受けてない場合は通常こういう役所には非常勤勤務というのが通例である。柏木も昔は『内閣官房参与』という非常勤国家公務員だった事もある。だが情報省は特例で、スカウト制度を認めており、有能な人材を省が独自に試験して、正規国家公務員として勤務させることが可能である。

 それ以前に、どうも美加も白木同様にサヴァン能力者のようなので、親父が大見というのもあって、美加本人には言っていないが、保護護衛の意味もある。つまり何らかの不埒な勢力に拉致でもされたらかなわんから、という理由。ならば語学に関しては白木並かそれ以上に有能な人材でもあるので手元に置いておけということだそうな。柏木と白木と大見と麗子が相談して決めたそうだ。

 でもこれは別段珍しい事や、フィクションというわけではなく、世界の一部諜報機関では普通に行われている事である。英国のMi−6や、CIAなんかは一般職公募に新聞広告打つぐらいなので、超法規措置というわけでもない。


 ま、そんな話はおいといて、総諜対本部。


「へえ、美加ちゃん試験良い成績取れたらいいのにね」

『イゼイラ科学院はティ連でも名門中の名門デスからね。こんな事言ったら失礼でゴメンナサイなんですけど、ハルマ人の方が、あそこに合格して、首席の成績を争ってるってスゴイ事なんですよ』

「確か、フェルフェリア大臣が、イゼイラ科学院の出身だったですよね?」

『うん、あの方首席卒業ですからねっ。確か、三つぐらい、地球で言う「ハカセゴウ」を持ってらっしゃったと思いますよ』

「ふーん」

 

 と返事をするが、どうにもあのホエホエオーラの御仁が、『三つの博士号を持つ女』には、どうしても見えなかったり。

 ちなみにプリルは、ティ連防衛総省技術学院を優秀な成績でご卒業したので、中尉の階級なのであったりする。だがプリルは姉のパウルのような美人系お姉さんと違い、可愛い系の少々童顔入ってるエルフ宇宙人なので、ぱっと見は中尉なんていう幹部階級には見えないところが難点。


「おい、んなとこでくっちゃべってねーで、早く入ってこいよ」


 白木が例の扉から顔を覗かして、二人を中へ誘う。

 スンマセンと頭掻いてさっさと中へ……

    *    *

「で、プリ子、あの装備、月丘に見せたのか?」

『あ。ハイ。ちゃんと気に入ってもらえたみたいですよっ、班長』

「マジカ!」

『あ、なんですか班ちょっ、その反応はっ……カズキサン、気に入りましたよね〜〜〜〜〜っ』

「あ、はい」


 その「言わされてる感」マックスの月丘の表情に、まあそういうことならいいかと月丘に同情する白木……今後はイケメン諜報員の登竜門にしてやろうと思う。


「はは、まあいいや。ということで、あの装備見てもう大体わかってるだろうと思うけど、次の任務の件だが……」

『あのゼスタールさんの特殊部隊派遣の件ですね』

「おうそうだ。で、ゼスさんのトップのアルド・レムラー閣下が、その作戦任務の中核人員に、ウチを指名してきた。まあこれはある意味そうなるわな」


 国連でのシビアとの対決の件、北朝鮮相手の奪回任務の件、スタインベックという人脈に、何よりもグロウム帝国での、対マスターヂラール戦での件。こういう実績は特危でもないような実績なので、当然総諜対のシャドウチームにお声がかかる。

 まあ恐らくそういうことだろうとは思っていたので、特に驚くこともない月丘、プリルも同様、でなければ、あのような機動歩兵部隊並の装備を月丘に作ったりはしない。


「で、その任務の詳細は?」

「まあ言ってみれば『偵察』だ。ゼスタール人生存者とのコンタクトと、グロウム戦時同様の、あのヂラ公の様子を探ってほしい」

「わかりました……ということは、グロウム戦の時のような、『強行偵察』というのではないのですね?」

「ああ。ゲルナー司令から、ゼスタール星軌道上の敵の配置を見せてもらったんだが……流石に今回は『強行偵察』ってわけにはいかねえな……ちょっと敵の状況が今までとは違ってるんでな、こっちも慎重にいかないとダメみたいだ。これをみて見ろ」


 と、そう白木は言うと、VMCタブレットを造成して、月丘に投げて渡す。

 それをパシと受け取り、一瞥する月丘……だが即座に眉間にシワが寄る表情に変わる。そのタブレットを覗き込むプリルも同じような表情。

 タブレットにはゼスタールの索敵部隊が撮った、現在のゼスタール軌道上の様子が撮影されていた。

 とんでもなく高解像度の写真で、裸眼で高度な立体視ができるスグレモノだ。


「これは……」

『す、スゴ……』


 画面自体は一三インチ程のタブレットだが、タブレット状の画面の中に広がる実写的ジオラマの如き立体的空間を捉えた画像や、映像に息を飲む月丘とプリル。


 ……二人が見たその画像映像の内容。それは……


 地球と同じような美しい星……と言いたいところだが、戦争の傷跡か、ヂラールどもの惑星改造の跡か……

 美しい星だった面影の場所と、異様な色彩の不気味な場所が大気の色、雲海の色と混ざり、美しさと毒々しさを併せ持ったような星。即ち現在のゼスタール星。

 恐らくは、残滓として残る美しい惑星表面部分が本来この星の姿なのだろう。

 まるでそれは悪疫に侵された重病人の表皮の如く、といってよい見た目であった。

 即ち、これがヂラールに制圧された星の姿なのであろう。


 だが、かの惑星イルナットもヂラールに蹂躙された星ではあったが、星自体はここまでではなかった。

 かの星のヂラールが、件の文明に改造されたヂラールであったということを差し引いても、ゼスタール星のようにはなっていない。

 ではどこまでヂラールの浸透が進めばこうなるのか? ということは、惑星ゼスタールの軌道上の情景を見れば理解できた。


 惑星ゼスタールの軌道上には、件のヂラールコロニーが数基鎮座している。

 それだけならまだグロウム帝国戦でも前例のある規模なので想定の範囲内なのだが、月丘達を驚かせたのは、そのヂラールコロニーですら現在のゼスタールでは、ヂラールという群体のオブジェクトの一つにすぎないという事であった。

 どういうことかというと、そのコロニー型ヂラールが、何か有機的な蜘蛛の巣といえばいいか、それとも異常に太い触手状の物体といえばいいか、そういったもので互いを連結、連携し、まるでイゼイラの軌道上にあった都市化された『軌道都市空間』の如く……その都市化範囲だけでいえば、充分『天体』ともいえる、惑星ゼスタール軌道上を覆いかぶさるように広範囲に広がり、それは正に、絶望を体現するかのようなヂラールの生息域そのものともいえる光景であった。


 更に……


『まさか……これって……』


 プリルが映像の一点を指差して、いつもの可愛いらしい眼差しから打って変わって何かイヤなものを見るような目つきに変わる。

 彼女が指摘した物体……何やら骨格に肉が付き、関節で繋がったような不定形の環状になるオブジェクト。

 それは巨大なヂラールコロニーの亜流のような物体に、台座に置かれた前衛芸術オブジェの如く据え付けられているような構造を成している。

 その台座には、エネルギーを供給するパイプの如く、無数の太い触手状の物体が、ヂラール軌道巣窟ともいうべき天体を這う、いろんな場所からそこに集約されているようであった。


「これって、まさかディルフィルドゲートですか?」


 そう、この映像には、不気味な環状物体の中に、あの澄み切った泉のような空間境界面を生成し、その中へヂラールの艦艇型を侵入させ、何処かの世界へ送り込んでいると思われる怪物共の映像が録画されていた。


『間違いなくそうですねっ。なんかへんなのをいっぱい進入させてどこかに送っていマスよぅ……これはマズイんじゃ……』


 頷く月丘。


「これは確かに一筋縄ではいきませんね班長」

「ああそうだ。何でも話では、ティ連の遮蔽技術は奴らに探知できないと言われているが、無敵ではないみたいだ」

「あ、はい。それは私も先の戦闘で体験しています。連中は音に敏感で、音で警戒されたら、その音の発信源と、視覚情報が合致しない場合、無差別にところかまわず暴れて襲ってくる事もあるそうですから」

「ああそうか、お前達二人はあのグロウムでその現状を体験したんだったな。あと、宇宙空間では、音の代わりに、ある種の『波動』を感知して警戒しだす事がわかっている」

「ある種の波動……ですか」

「今分かっているのは『電磁波』の類だな」

「なるほど。グロウム戦の時でも帝国の抵抗軍が、『無線が使えない』といってましたものね」

『ああそうか、無線の波動のパターンを理解して、先手を打たれるって言ってたアレですか』

「そういうことだ……で、あの規模だろ。そんなもの見つかったら速攻でアウトな状況だ。威力偵察なんざやろうものなら、その偵察行動自体が宣戦布告文書の代わりになって、大変なカオス状態になるだろう。なので、事は相当慎重にならないといかんみたいだ」


 前回のグロウム戦時、その言葉の通り『威力偵察』を行った。つまり、こっちから少しちょっかいかけ、攻撃してみて、相手の反撃で出方を見るという偵察が威力偵察というものだが、今回の状況では、根本的に敵ヂラールの規模があまりに違いすぎるので威力偵察なんぞしなくても充分に威力はわかる。

 それよりも生き残りのネイティブゼスタール人との接触のほうが優先されるわけであるからして、今回は月丘先生の本文である諜報員スキルで、通常偵察という次第なワケである。

 まあ前回の戦闘で、少々ティ連の対探知偽装技術にも若干の弱点があることがわかってしまったが、それでも充分イニシアティブをとれる技術ではあるので、此度の潜入偵察作戦も実行できる。


「……でだ、ゼスさんの要望通り、此度は複数の各国特殊部隊と惑星ゼスタールへ行ってもらう」

「複数……ですか? どういった組織です?」

「米国は毎度のUSSTCだ。なんでも海軍SEALSの部隊を一時的にUSSTCに編成して強化しているらしい。ロシアはあのスペツナズがゼスタール戦闘合議体の訓練を受けて、空間戦闘を行えるようにした、通称『コスモ・スペツナズ』という編成で参加してくる。で、英国の22連隊も来るぞ」

「22連隊……SASですか」

「おう、なんでもSP中隊とかいう空間戦闘できる部隊を特別編成しているそうだ。ここもゼスさんに鍛えられたらしい」

「ゼスタールさん、大活躍ですね……」

「まあ良い言い方すれば、同盟組んだよしみって話になるが、悪い言い方すれば使える駒を鍛えてるって訳だからな」

「はは、まあ確かにそうですけど」

「最後に、我が国虎の子の一つでもあるSさんを大見大先生のところに預ける」

「S……というと、特殊作戦群ですか。こりゃすごい、本土自衛隊の初実戦参加ですね」


 この時代、宇宙対応で、優先管轄がティ連にある特危自衛隊と、日本国土を専守防衛する陸海空自衛隊は、同じ自衛隊の名を関する組織でも分けて語られることが多い。そのため正式な呼称ではないが、関係者の間では、陸海空自衛隊を特危とは別に『本土自衛隊』という呼称で呼ぶ事が多くなっている。


「で、あとはその大見司令閣下直轄の八千矛と、シャルリの姉御んところのメルヴェンだ。この各特殊部隊には、特危も含めたティ連防衛総省と、ゼスタールの合議体、そして各国の特殊部隊指揮組織が合同でチームを組んで、火星の司令部で各偵察部隊の指揮を執る。お前達もその司令部の管轄に入るからよろしく頼むわ」

「了解しました。では各々部隊の任務は……」

「もちろん各部隊ごとに違った任務が割り当てられる。今回の偵察任務は総じて、『状況分析』だ」


 つまり、此度ゼスタールの生き残りがいたという時点で、同じゼスタール星に住んでいたこともあるシビアやネメア達であっても、無人の星を奪還するというわけにはいかなくなった。つまり状況にリセットがかかってしまったわけで、はっきりいえばイチからやり直しに近い状態であるのが今のゼスタールの実情なのだ。従って、早期に状況を把握したい。だからゼスタールは地球の特殊部隊戦力に目をつけたというわけでもある。


「恐らく、各々多分、地上戦力の分析に、環境の分析、可能であれば敵の捕縛などといった諸々の状況分析活動に従事することになるだろう。そんな中で、お前達は、生き残りのネイティブ・ゼスタール人との接触

という仕事をやってもらうという寸法だ」


 状況と仕事を理解した月丘とプリル。頷いて、こりゃ大仕事だと気合を入れ直す。


「で、白木さん、その話、私とプリちゃんしか聞いていませんが、シビアさんやネメアさんは……」

「あの二人は今、月基地だ。今回の偵察作戦で使う航宙艦の調達に行ってるよ。ま、どんなブツ持ってくるかはお楽しみってところだな。むはは……」



    *    *



 さて、それから幾日かが過ぎ去って、そのシビアとネメアが持ってきたブツとやらに乗り込んでいる月丘にプリル。そして今回特別にUSSTC所属となった、米海軍特殊部隊SEALSに、ロシアの『コスモ・スペツナズ』。この呼称、結局正式呼称になってしまった。そして英国陸軍第22連隊SASーSP中隊。そして我らが陸上自衛隊特殊作戦群の諸氏に、特危八千矛隊、ヤルバーン自治国特殊部隊メルヴェン。で、月丘にプリル、シビアにネメアが実働の総諜対シャドウチームの面々。


 まあでも、もちろんこんな殺気オーラ満タンな連中ばっかりが今回乗り込んでいるブツにいるわけではなく、あくまでこやつらは実働部隊で、サポートチームに司令部と、きちんと揃えての話。


 で、そんな話はともかく、彼らは何に乗って今、ディルフィルドジャンプを一回カマして人工亜惑星レグノスに向かっているか。ということで今回これら各国のチームが乗り込んでいるのは、航宙中型護衛母艦『ひりゅう』であった! 更に、このひりゅうの護衛ということで、自律ドーラモードで付き添うは、ゼスタール製の人型攻撃艦『ヤシャ級ヤシャ型』であった。

 で、この『宇宙空母ヒリュウ』だが、一応等級で言えば、『宇宙空母カグヤ級二番艦ヒリュウ』ということになってはいるが、このヒリュウは……ゼスさんが特危から提供してもらったカグヤの図面を参考に、月のゼスタール基地でコピー建艦した代物なのである。なので、何かこう……ニセモノ臭が漂うような、どことなく艦のデザインがゼスタール的で、なんか妙にピンと尖ってたり、曲線描いてたり、目つきがキッツイ形してたり……


 そう。かつて『光の巨人』とやらの特撮番組があったが、それに出てきた『ニセなんちゃらマン』やら、『ニセなんちゃらセブン』やら、平成以降の作品では。悪役のなんちゃらマンとか……妙にニセモノなのに、尖っててカッコイイというイメージのあったあの手のキャラ達。

 そんなニセモノ風味が妙にカッコよく漂うデザインのお船が、このゼスタール版カグヤである、ヒリュウなのであった。なんせ船のカラーリングからして、ゼスタールさん特有の『黒と赤いライン光』という感じなものだから、始末が悪い。


 とそんな感じでディルフィルドアウトしたのは、地球圏境界線に鎮座する、人工亜惑星要塞レグノス……って最近は要塞とかいう物騒なイメージよりも、観光地としての人気が高い超弩級大型宇宙ステーションである。

    *    *

「……なるほど。先の会談の時や、その後の定期会談などではまだ秘匿情報としていた、あなた方ゼスタール人の故郷、ゼスタール星って……」

『別宇宙にあったのですか! ではシビアチャンや、ネメアチャンも、ハイラ人と同じく別宇宙の人だったんですね』


 月丘とプリルが、ヒリュウサロンでそんな会話をしている。周りにはそれでなくても目立ってしまってるシャドウチームであるからして、手の空いている休憩中の各国兵士もその話の輪に混ざっていた。

 

『我々の、スールとなる以前の、通常生体の時における母星はそうだったが、今の我々は時空間接続帯の住人である……あれから八〇〇周期も経過している。従って我々にとっても、現在のゼスタールは見慣れた星、というわけにはいかないのだろう』

『シビアに肯定。そういった点では、我々もやはり緊張という感性を喚起せざるをえない』


 淡々とそんな話をするシビアにネメア……ちなみにネメアはあのプロポーションであるからして、各国の特殊部隊の方々からも人気が高い。なんせ彼女の普段の姿からしてもう露出度がかなり高い容姿であるわけで、まあもう慣れた特危や、ヤルバーン軍関係者はいいとして、各国の特殊部隊員には、かなり目の毒だったり……一応若いのもいるしね、みたいな……


 ゼスタールがティ連に加盟して以降、ゼスタール人の本星は、登録上は、かのナーシャ・エンデということになっている。その理由は、ゼスタールとヂラールの戦闘の歴史において、今のスール化したゼスタール人は、現在のゼスタール星を事実上一旦放棄している。そして放棄してから八〇〇周期もの時が過ぎており、あの星に生き残りがいるなどとは最近までつゆぞ知らなかったゼスタール合議体のスール達。こうなると普通は、『あの放棄したゼスタール星が我らの母星だ!』となりそうなものだが、このゼスタール合議体の面々は、『それはそれで仕方がない』『我々と、“ゼスタール生体”はすでに違う種族なのかもしれない』と、ゼスタール合議体の方は、すでに状況を受け入れているようでもあった……

 そういうゼスタール合議体の考え方もあってか、彼らは、かつての彼らの母星の美しさを代表した色々なフォト資料に、映像資料を『公開』はしているので、現在の地球では、ティ連のホームページに行けばゼスタールの事は何でも学べる訳である。

 ということで、ゼスタール自身の安全保障対策として、彼女らの『母星位置情報』は最近まで秘匿情報になっていた。今ではもう無人惑星と思われていたので、何処かの第三勢力が現在のゼスタール星を見つけて、ヂラールを掃討してしまって星を取られるとか、その情報が漏れるとか、そんなところを彼らも恐れてのことだろう。まあもちろん現在ではその惑星位置情報も公開されて……というか、公開されているからこれから偵察任務に行くわけだが、


『オオミ生体、ブリッジへ出頭せよ。繰り返す……』


 現在、この『中型機動護衛母艦ひりゅう』の、艦自体の運行は、ゼスタール人と、少数のティ連人に特危自衛隊員クルーで運行されている。ほとんどがゼスタール人だ。カルバレータ体、即ち仮想生命素体となって、この船で働いている。もちろんこれは、現在作戦のために運んでいる特殊部隊員達とのコミニュケーションも含んでの話でもある。本来ならゼスタール人だけでこの艦を運用するのであれば、コアになったゼスタール人数人で合議体として活動してすればフルに運用出来るわけなので、ゼスタールも他の『生体』側に合わせてくれているという次第。


『カズキサン、カーシェル・オオミが呼ばれましたね』

「うん。ということは、ゼスタール星がある別宇宙空間と、こちら側のゲート航路のセッティングがうまくいったのかもしれませんね」


 すると、横で聞いていたSEALSの隊長が、


「少佐、もしかして、これからそのワープという奴を体験できるのか?」


 と尋ねてくる。


「はいそうですよ、はは。ま、ご心配なさらずに。あなたの国のあの有名なSF映画みたいなものですから」


 ま、そりゃそうだろう。この場の地球人で、ディルフィルドジャンプ慣れしている奴らといえば、特危隊員に総諜対と、後はSEALS以外のUSSTC隊員ぐらいなものだ……



 宇宙空母ヒリュウは、宇宙空母カグヤに似たその漆黒の艦体に赤い光を纏わせながら、レグノスの生成した被膜の如き時空間境界面に進入する。

 ヤシャ型は、護衛の任務ここまでということで、ヒリュウと別れることになる。


 目指すはゼスタール合議体の故郷、惑星ゼスタール。ゼスタール合議体の知った星とは既に違うかもしれない彼らの故郷。そしてヂラールの一大拠点であり、巨大巣窟となった魔の宙域。



 巨大な作戦の前哨戦が始まるのであった……









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― 新着の感想 ―
[一言] 地球特殊部隊勢揃い。スゲー各国の装備品が気になる。どんな装備なのだろう。 後、気になるのは米陸軍サイド。デルタフォース参加してるのですかね? 任務的には偵察に加えて現地人との交流も含まれてい…
[一言] 変形バイク:ガーランドを想像したのは古すぎるかな… ライダーシリーズには、ロボライダー(ライダーBlackの形態のひとつ)が存在していたから違和感無いよカズキサンw
[一言] 更新待ってました―!
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