【第八章・連合軍】第四六話『国際連邦の夜明け(上)』
二〇二云年のある時……それは恐らく地球社会の大きな一つの時代が終わり、また新たな時代の始まりを告げるそんな時だったと世界史に一つ刻まれ、記憶されるであろう。
だが新しい何かを社会が迎え入れる時は、大凡そこには大きな変革があり、その変革の反動とも言える動乱が、必ずくっついてくるものである。
実際この地球の歴史においても全世界を巻き込んだ大きな変革の時代がいくつかあった。
まずは第一次世界大戦。この出来事で世の中が変わったのは、それまでの伝統であった国家形態の衰退に瓦解と、新興国家の台頭、そして本格的な機械科学技術社会の到来に、新たな政治イデオロギーである『社会・共産主義』の登場である。
次に第二次世界大戦の後に変革したのは、専制的ファシズム政治体制の崩壊と、自由主義陣営と社会・共産主義陣営という、それまでになかった国家イデオロギーの対立構造。そして原子力の発明に、コンピューターの登場、更には宇宙開発競争といった現代社会の科学的基礎基盤がこの時に確立されたといってもいい。
更に後、米ソ冷戦構造が終結した後に来たものは、インターネット社会の到来、民族主義の台頭による紛争の激化。ネット社会における、既存のインフラ技術の崩壊と再構築……そしてBRICS国家、特に中国の突出した経済成長による、米中新冷戦の勃発。イスラム原理主義の過激化。
こういった事例でも理解できるように、新しい時代が来る時、必ず大きな反動も一緒になってくっついてくる。そういうものである。例えば先に書いた第一次世界大戦の後の大きな反動の代表格といえば、イタリアのファシズムにナチスドイツの登場である。これは言わずもがなワイマール体制の反動以外の何物でもない。
そして今、ヤルバーンが飛来した一〇年前のあの時に、恐らく人類がこれまで経験したことのない変革が発生した。
もうこれ今更言うに及ばずであろう……特に日本国を中心に発生したその事象の大きな波動は、当初日本にのみ集中した巨大な異次元クラスの変革だったが故に、他の世界各国ではまだ緩やかな反動で済んでいた……というよりも、ティ連や日本側がその程度で収まるように努力して抑え込んでいたのだが、やはりあの惑星サルカスでのヂラール戦争に纏わる一連の出来事と、ゼスタール人の登場、それらが世界に与えた騒動は、かの時より一〇年後の今になって、日本以外の世界各国にも、一〇年前当時に日本が体験した変革の某諸々に匹敵する影響を与えつつあった。
時にそれは、その大元をたどればヤルバーン州である。となればその変革に反動も宇宙規模だ。
そこへ次にやって来たのが、同じ銀河系内のご近所に住む知的生命体主権『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』との邂逅。そしてあの忌まわしきヂラールの、我ら天の川銀河系への襲来……
これだけの巨大な宇宙規模の事件事由がこの世界に覆いかぶされば、やはり当然その変革反動も宇宙規模のものにならざるを得ない。
なので今、地球社会で始まろうとするこれまでにない社会構造変革も、次に始まる因果の事象の規模を考えれば、本来とるにたらない小さな出来事なのであろうが……
* *
ティエルクマスカ連合防衛総省長官、柏木真人は今、井ノ崎内閣総理大臣の要請を受けて、首相官邸にいた。勿論そこには愛妻でもある副総理兼外務大臣のフェルも同席していた。
いかんせんフェルさんは『副総理』である……あの見た目二七~二八歳で、地球人換算で五〇過ぎのホエホエ異星人が『副総理』である。大事なことなので二回言いました。
そんなフェルが内閣と自保党の重鎮と化しているのであるからこの時代もすごいもんだ。
と、改まってそんな事も考えてみたりする井ノ崎だったが、そこは彼もこの柏木夫妻の功績を、その目で垣間見てきた人物でもある。そこは安保調査委員会の仲間として敬意の対象だ。
「ご多忙のところお呼び立てして申し訳ありません、柏木先生」
「いえいえ、グロウム帝国の外交処理で、連合防衛総省が取り敢えず代行させていただいていた委託案件も、日本の外務省へ全ての処理がちょうど移管し終わったところでして、まあこれから少し一息いれさせてもらおうとおもってたところですから……ふぅ、んで、この騒ぎでしょう?」
『ウフフ、あのニュースを見てた時も、おいしそうに、びーるを飲んでたときでしたもんね、マサトサン』
「はは、そんなところでして、ハイ」
そう、正味『茶の間』で中国のクーデターのニュースを見せられたわけであるからして、柏木もたまったものではない。彼もなかなかにノンビリとさせてもらえない身分である。
「フェルフェリア先生も、LNIFの会合をキャンセルしていただいて、どうも申し訳ない」
『イエイエ、事が事ですからネ。LNIFの事案なんていつでも対応できますデス』
ということで、切り出すは柏木。
「総理、まあフェルは日本の外務大臣で副総理ですからわかりますが、なぜに私をこの場にお呼びになったわけで?」
「はい、まあその説明は私より、外務大臣でもあるフェルフェリア先生からのほうがいいでしょう、ですね、先生?」
『ハイ、そうですね。といってもマサトさん、実は私も先程マサトさんと別れて本省へ一度出向いたときに知ったのデすが……』
まぁそれはそうだ。柏木とフェルが中国のクーデターを知ったのは、同じ家の屋根の下でテレビ見てた時である。あれからすぐに二人は仕事場に行ったわけで、フェルはそのまま外務省本省へ。柏木はヤルバーン州軍にある事務所へと戻った……ちなみに姫ちゃんは柏木が教育施設へきちんと預けた。
で、それからすぐに井ノ崎から会いたいと連絡があり、三人ここにいるという次第なわけである。
『……アジア大洋州局の方から、あのクーデター騒ぎが起こって直後ぐらいに、チャンセンセイからワタクシとマサトさんに、すぐにでも会いたいと連絡があったそうデス』
「え? 張元主席から?」
頷くフェルと井ノ崎。井ノ崎の方にも、フェルの外務省ルートとは別に、中国大使館ルートで同じ要請があったという話。
「確か……ニュースでは張元主席、あいや、張先生が首謀者の一人だとか、そんな事も言ってたけど……盧港生主席が音信不通になって以降、なんだかおかしい事になってるなぁと思ってたんだが、まさか張先生がなぁ……」
と柏木は思う。だが、彼もこのような事態になっていることに対して、思いつくところがないわけではない。
例えば、以前日本に来日した張と、都内のホテルで久方ぶりの非公式会談を行った時の対応など……
確かに張と柏木は政治的にはライバルのような間柄だが、張は基本話のわからない人間ではない。それに軍事独裁政権色の強い、盧港生政権を危惧していたのも事実だ。
そう思えば今回の彼の行動も頷けはするが……それでもあの張の『年齢』である。
あの歳でここまで機動力の高いクーデターを画策できるものなのかと。
……と、そんなところを井ノ崎とフェルに話す柏木。だが井ノ崎はそこに一つ付け加えるファクターがあると指摘する。
「……? と言いますと総理?」
「インベスターですよ、柏木先生」
「では、月丘君か、白木の筋から?」
「いえ、月丘君はまだこの件を知らないか、もしくは知ったとしても、我々とあまり変わらないタイミングでしょう。というのも、彼は今別件で動いてもらっています。詳しくは会議で報告しますが……白木さんも我々とそこはあまり変わらないようですね。先程電話がありましたから」
頷く柏木。月丘の件は彼もおおよその事由は把握している。多分ドイツの一件だろうと。
「ということは他には……」と柏木が考えるとフェルが、
『タイワンサンと、ホンコンサンの一件ですよ、マサトさん』
「ああなるほどね、あの件か……」
それは台湾独立宣言の件と、香港騒乱の一件である。これら事件にまつわる流れでの、中国の件だというのはほぼ間違いない。という事は、絡んでくるのはインベスターだと思いつく流れは妥当であろう。
「ですが、もしそうならインベスターの連中の影響力って物凄いという事になりますよ、総理」
「ですね……私も正直最初は舐めてかかっていたところも無きにしもあらずです。というのも、かつてのガーグの成れの果てというイメージが先行してましたからね」
「なるほどです。ですが実際は、成れの果てどころかガーグの一番濃い部分が煮詰められて結晶で残ったという感じでしょうか」
そういうことだと井ノ崎も頷いて同意する。そこが所謂現在のスタインベック達が推進している案件でもある『地球国家の意思統一』だ。つまりいま現在の、この案件の障害となる因子を事象的に合法となるように潰しまくっている状況である。
張達一派が具体的にインベスター系統の組織から、直接の支援を受けてこのクーデターを敢行したのか、それともインベスターお得意の、『事象をそうなる方向へ誘導する』といういつもの手法なのかはわからないが、此度の一件でもインベスターの事象を操る能力の一端を見せつけられたのだから、やはりそれは驚異の存在であると認識せざるを得ない。
ましてや張は、かつて中国国内のガーグ組織を一掃した張本人である。普通であればガーグの後継であるインベスターからは恨まれこそすれ手を組む道理などないはずだ。だが、もし仮に張とインベスターが手を組んでいるというのであれば、やはりインベスターの連中は相当柔軟性のある思考を持った連中だということでもあるので、侮れない連中ということになる。
「……まあそういう考え方もありますので、柏木先生が張元主席と会談を持つのも、何かインベスターのプログラムに仕込まれてるような気がしまして、正直私はあまり乗り気ではないのですが……」
と井ノ崎は正直な心中を吐露するが、柏木もかつては……って、今でも『突撃バカ』と呼ばれている御仁である。そこは今でもそのあたりの能力は有効だということで、
「でも確かに今現在クーデターなんてのを起こして、恐らく中国国内も戒厳令直下でしょうから、そんな状況で世界各国の首脳クラスと何か話がしたいというのも無理がありますね。なので私という……まあ言ってみれば色々と融通の効く、彼のある意味最も話せる立場の人物を選んでくるというのは、妥当なところでしょう……ふむ……わかりました。すぐにでもお会いしましょう。フェルもそのつもりなんだろ?」
『ハイですね。んじゃそういうトコロでやっちゃっていいでしょうか? 総理』
「はは、わかりました。では後はこちらに任せてください。柏木先生は本来ならティ連の独立した権限で
動くこともできるでしょうから、そこはお任せするとして、フェルフェリア先生の方は、一応マスコミにも事情は流します。流石にフェルフェリア先生程の方がこのクーデター直下の中国で、すぐに首謀者と会談を持つというのは普通に考えればありえませんからね。そこは世界各国の緊張を解くためにもマスコミに流したほうがいいのは確かでしょう」
『ソウですね。確かにそうした方がいいかもしれませんデス』
諸氏頷いて、今後の方針に納得。まぁとりあえず現状状態で、直近に張と会談できるというのは日本にとっても外交的には強みである。これらの判断はまちがってはいないだろう。
「でさ、フェル。中国へ行くにはヒコーキ……」
『ブーー、もう政府専用機のデロニカを用意してますよーーだ。その手には乗らないでス。フフン』
フェルの飛行機嫌いはこの時代でも健在。でも今の政府専用機はデロニカタイプの改造機。フェルさんも安心である……
* *
さて場面は変わってドイツの『空軍航空技史研究所』
「スタインベックさん……あなたは一体……」
この研究施設にあった、大きなオーパーツ。
今までは『月刊○ー』のオカルトネタだのなんだのと、そんな扱いを受けていた、所謂『ネタ』扱いされていた事案である。
あの柏木達が行ったサバイバルゲーム。即ちOGHの超大型ゼルシミュレーター施設でフェル達が『調査』して顕現させてしまった『ハウニブー』という、所謂『ナチのUFO』と言われる妙な存在も、結局はエリア51にあった資料だけでは正確なところはわからないと言う話で、詳しい調査も保留状態となっていた代物だった。その理由は、機体のデザインが、一般に『アダムスキー型』と言われているあのデザインでフェル達は再現させてしまったわけで、さすがにあのデザインはないだろうと、いうなれば『何かの間違い』扱いでほったらかしにされていたわけであるが、いま月丘達の目の前にある『それ』は、デザインだけで言えば、頂点を結べば正三角形状の三叉、もしくは三ツ矢状の頂点に、Ⅵ号戦車『ティーガー』の砲塔を頂き、下部には各種機関砲を搭載した、所謂『それらしい』デザインの機体である。
だが、この機体を調査したプリルが言うには、サマルカ技術の意匠が数々見て取れるが、その大部分は所謂デッドコピー技術で、地球の技術だという話、でも、飛行を司る中核部のみ、サマルカの実物技術だという話。で、それを制御する周辺技術は先の通り、ドイツ製のデッドコピー。
では当然、このデッドコピーになるお手本となったオリジナルの技術なり、設計図なりがあって然るべきなわけであって、それがどこにいったのかという謎が当然発生するわけなのだが……
何と! そのオリジナルはスタインベックが所有していると仰られる。
月丘やプリルは、『なぜにスタインベックが?』という話になるのは当然であろう。
となれば、更にその疑問を発展させれば、スタインベックが大金持ちで、一時期話題になった自動車会社の元会長ばりの、金で一国の司法さえ飛び越えられる程の存在だったとしても、サマルカ系のオーパーツ部品のオリジナルを所有しているという事実は、やはり金持ちというファクターだけでは説明できないものでもあるわけで……
「スタインベックさん、あなたがその部品のオリジナルを所有しているということは……」と、月丘が目の前にある正体不明のその機体をチラ見して、また視線を戻し、「当然ティ連がこの地球に来る前、即ち一〇年前よりも以前から、その部品を所有していたと、そう考えて普通になります……この正体不明の機体は、プリち……あいや、プリルさんの調査でも、大戦中の末期頃の機体だという調査結果が出ている。で、貴方が何を考えているのか知りませんが、この機体の部品を入手して、この研究施設に投資して……といういろんな経緯を考えれば、ここ一~二年での話とはとうてい思えませんし、貴方の口ぶりから、ティ連、いえ、サマルカさんの存在を知ってからのアプローチだと考えれば、当然そういった考えになります……どうですか?」
月丘は持ち前の分析力で、スタインベックを前にそんな質問をぶつけてみる。
横で聞くオットー博士は、「一体何の話だ?」と怪訝な顔をしていた。
「ウフフフ、ホホホ……流石はミスター・ツキオカ。元ハンティングドックのエージェントだけはありますわね、うふふ」
「はは、そこまで私の素性をお調べですか。まあそれはもう昔の話ですから今更の話ですが……」
「フフ、でもそこに目をつけるイツツジのレイコ嬢は流石ということですわね」
「そういう情報もですか……」
月丘はスタインベックに対し、視線を外さず、「まいったな」というジェスチャーで頭をかく。
「やはりあなた方は面白いですわ……」
「それはどうも……で、話の流れを元に戻したいのですが、その部品の話もそうですけど、なぜに我々にその機体を見せて、プリルさんに、その機体を調査させて……なんといいますか、目的をお教えいただきたいのですが……」
そう月丘が言うと、スタインベックは少し俯いて一つ息をはくと……
「ふむ、グロウム帝国の一件もありますし、事は急ぎますわね……もういいでしょうか」
とスタインベックは呟くと、その言葉を聞いた月丘とプリルは「?」となる。
一体彼は何を考えているのだと……
「オットー博士、申し訳ありませんが、彼らと三人だけでお話できるお部屋はありますか?」
「あ、はい、CEO……おい君、会議室にお三方を案内してやってくれ」
「ごめんなさいね博士……ミスター・ツキオカ、ミス・プリル、ちょっと三人で内密なお話があるのですけど、よろしいかしら?」
頷く月丘。彼はおそらく、これが『本当の』交換情報なのだろうと、そう思った。
……ということで用意された会議室に入る三人。
「ミスター? あなたのPVMCGで、この部屋に防聴処理は施せまして?」
「盗聴防止ですか。ええ、できますよ。ちょっと待ってください」
月丘はPVMCGで、この部屋全体に音響遮蔽シールドを展開する。
「これでOKです」
頷くスタインベック。
「まぁ座りましょうか……」
平手で月丘とプリルを誘うスタインベック……いつもはニコニコして愛想の良い彼だが、今の彼はいつもの彼とは少し違う表情を見せているのを感じる二人。
スタインベックは部屋に飾ってある『フォッケウルフTa152』の模型を手に取り眺めて、少々何かを考えているようだ。そして「ふぅ」と一つ息をつくと、ソファーに座る月丘とプリルの方へ向かって、手を後ろに組み、話し始める。
「ミスター・ツキオカ、ミス・プリル……今回、あのオーパーツ的な機動兵器の実物をお見せいたしましたけど、事の本質はあの機動兵器がどうこうというより、私が、異星人技術のオーパーツそのものを持っているということ。そこですわよね?」
「え、ええ、まあ……そうですけど……」
月丘は、スタインベックの意味不明な問いかけに思わず肯定する。そりゃそうだ。本来月丘達は、この研究施設の、この機動兵器がいかなる手段でこういった形を成しているのか。そして使われている技術はなぜデッドコピーできたのか、オリジナルのオーパーツはどうやって入手したのか。
これらの経緯を解明して、サマルカ技術の地球に与えている影響と、サマルカの同種種族の起源、即ちグロウム帝国のファヌマ教という国家宗教の謎にも関わるこの銀河系に影響を与えた者の存在を知るのが本来の目的である。
ヤルバーンが飛来した以前の地球の歴史において、異星人と言われる者達の影響を受けたのが日本におけるイゼイラの関係と、米国におけるエリア51の異星人との関係だけなのか? 他には存在しないのか? この調査結果を得ることによって、現在地球で現実に存在している連合日本とヤルバーン州、即ちティ連の、世界各国に対する政治的な方針を決めるデータになるという、そういう極めて重要な調査案件も含んでのことなのだ。
「ふむ……一つ確認したいのですけど、私の組織、即ちあなた方のいう『インベスター』の調査データには、あのグロウム帝国という国。この国に現れた、六本腕の異星人という存在。これと、サマルカ人さんの関係も、指摘されていますが、この情報は事実なのですか?」
その言葉に思わず月丘は立ち上がって、
「スタインベックさん! その話をどこで!?」
プリルも月丘の反応と同じように、
「そそ、それはまだ特危自衛隊や一部の関係者しか知らない情報ですよっ!」
と、言うが、スタインベックは、まぁまぁと両の掌を降って、
「そこは蛇の道は蛇です。我々にはいろんなパイプに手段があります」
フゥと眉をしかめてソファーに座り直す月丘とプリル。そう言われては「そうですか」と言うしかない。
こういう金のある実力者というものは、得てして国家の権力者よりも多方面にその権能を発現させる。そこは一般庶民レベルでは理解の及ばぬ話である。おまけにそれが、かつて『ガーグ』と呼ばれた存在ならなおさらの話だ。
「で、ミスター。どうなのです? そこをはっきりさせていただかないと、以降の面白い話は終わりになりますよ」
月丘はしばし口元を歪めて悩んだ後……
「ええ、そうです。ただその六本腕の存在は、現実にいたそうではあるのですが、具体的な何かは全くわかっていません。これからの話ですね」
現在は、ファヌマ帝国にあった件の壁画に、モフモフ知的生命体のガルムア族の証言のみが、ソレの存在を証明する手がかりである。
「なるほどね……ではミスター・ツキオカ。仮にですが、もしその六本腕の種族さんが、この地球で活動していたことがある存在だった……と仮定したら、サマルカさんや、グロウムさん、そして日本を含むティ連さんは、どういう対応をとられるのかしら?」
そのスタインベックの言葉に怪訝な顔をする月丘。
「そのお言葉の意図がよくわからないのですけど……どっちにしろ証拠に証明できるものがなければ、仮定の話に意見はできませんよね」
「ウフフ、なるほど……では『仮定』の話でなくなればいいのですね?」
「どういうことですか?」
怪訝な顔をしてスタインベックに尋ねる月丘。
「では……先日の『交換情報』をお渡し、いえ、お話いたしましょうか……」
「え? その情報は、結局この博物館の、一連の資料の事では?」
「ウフフ、まぁそうではありますけど、この博物館の資料は、今からお話する事の、まあ言ってみれば中身を包む包装紙のようなものですわ」
「?」
なんのこっちゃと互いに首を傾げる月丘とプリル。
そして、スタインベックは、『本当の』交換情報を語り始める……
その内容に、ぶっ飛び戦慄する月丘とプリ子……不敵な笑みを浮かべるスタインベックの語るその情報とは如何に……?
* *
かつて、フェル達イゼイラ人が地球社会の一員となるべく外交努力を行っていた、かの一〇年前の時、
異星人勢が日本以外の国家で最初に訪れた惑星地球の地域国家は、中華人民共和国であった。
当時のヤルバーン自治体が中国を訪問したあの時が、現在までの一〇年以上続くこの世界での日中関係の起点であり、極めて関係の悪い両国関係のきっかけであったといえる。
でも、現在の日本政府にヤルバーン自治州は、現状の日ヤ中関係に何か動きを見せる風ではなく、あの一〇年前の関係をずっと放置している状態。即ち日本が実のところ理想としていた、『程々に仲の悪い最高の日中関係』をずっと維持していたがゆえに、互いに干渉することもなく……まあ中国側は、対日プロパガンダみたいなのは相変わらずやっているのではあるが……奇妙な安定を維持していた両国関係なのであるが、やはり張徳懐が退陣したあと国家主席に就任した盧港生とその政権は、軍の後ろ盾が強力な対日政権となってしまっているわけで、ティ連陣営は元より、CJSCA陣営とLNIF陣営の対立を悪化させる存在となっている政権となってしまっていた。
更に、当の中国国内においても、この軍閥政権である『盧派』と、中国共産党内でも異星人国家との融和と、連合日本政府との関係改善を進める一派である『張派』との対立が激化し、『静かな内戦』と言われる状況が、ここ数年続いていた。
共産党内での対立する者同士での、汚職の捏造による逮捕拘束に暗殺、密告などが横行し、最近は、かつての中国ガーグがやっていた同じ手法での盧政権の息のかかった、あからさまな『茶番テロ』のようなものも発生し、中国は混沌とした状況になっていたのであった。
だが……二〇二云年に発生したある事件をきっかけに、中国国内でも、反盧港生政権に転じる共産党員も徐々に増えていくことなる。
その事件とは……ガーグデーラ、即ちゼスタールの地球来訪、というか、浸透作戦の影響であった。
そしてもう一つ。それは『ヤルバーン・台湾通商条約』の締結であった……これが大きかった。
これはフェルさん外務大臣兼副総理が仕込んだ、かの柏木や二藤部、三島も腰を抜かし、フェルの凄さを改めて思い知った対中対策であった。
その内容は? という話だが……
地球社会の一員となったヤルバーン自治州だが、現在国際連合には、UNMSCCを通じて、オブザーバーであるが国連に関係しているものの、地球社会の地域国家と国交を持っている国というのは、実はそう多くはない。なぜならその国交は全て連合日本を通じての国交であって、ヤルバーン自身が直接国交を持つ意味というのがあまりないからである。なので、ヤルバーンは宗主国であるイゼイラや、ティ連の事案に直接関係のある国としか、国家間条約を締結していないのである。
で、日本はご存知の通り、第二次世界大戦後の歴史として、台湾、即ち中華民国とは直接の国交を持っていない。まずこの大前提を覚えておく必要がある。
そこで当時の春日内閣は、『中国、盧港生政権が台湾に対し、軍事行動に出る可能性』の情報を入手したのである。これは盧港生が尖閣諸島の中国化を諦めた代償として、西側社会が恐れていた暴挙に出るという事であった。
だが、日本も立場上、中国が直接台湾に手を出し、日本のシーレーンに影響を与えない限り、防衛出動等々での名目で防衛力を行使することもできないため、まぁそこは色々思案して、米国と共同でシーレーン防衛のためにも色々と手を打っていたのではあるが、その様子を政権内で見ていたフェルさん大臣は、当時の事象の流れをあまり良くないと感じ、春日総理と当時の鈴木防衛大臣、そして以前からこの件で話し合いを続けていた米国スチュアート大統領などなど、各方面と諸々相談して、フェルが独自にある一手を打った。
それが先の、ヴェルデオの『台湾擁護発言』である。
元々はスチュアート大統領の要請で、LNIF陣営の台湾戦略へヴェルデオにも協力してもらおうという発想がきっかけだったが、このスチュアートに協力、つまり最大限に利用させてもらったのがフェルだった。
で、ヴェルデオがテレビ番組等々に出演した際、この『台湾擁護発言』を大っぴらに語ってもらい、更にヴェルデオ-ヤルバーンの責任で、中華民国と通商条約を締結してもらったのだ。
もちろんこれに烈火のごとく猛抗議し、反発した中国ではあったが、実のところ中国としてはどうしようもない。
まず中国お得意の、『台湾との国交を金ばらまいて断絶させる』作戦が、まず通用しない。
ヤルバーン州は、世界からいくら孤立しても何も困らないし、今の時代、ヤルバーン州を世界から孤立させようと思うバカ自体いない。
更にはこの条約のおかげで、ヤルバーン州と台湾間に通商条約に関する安全保障上の問題が発生した場合、連合防衛総省に優先運営権がある特危自衛隊を動かす事ができるようなるため、事実上台湾を日本の安全保障圏内に置くことが可能となる。
そんな手を、フェルさん大臣は打って出たのである。
普通の日本人なら、まずこういう手は思いつかない。だが、相手はホエホエイゼイラ系日本人のフェルである。ナチュラルにこういう手をピコンと思いつき、ポヨヨンと打って出る。で、周りが騒いでも『だからどうした』モードでお茶をすするフェルさん大臣。
だが結局、これが発端となって、今現在のクーデター騒ぎであるからしてその是非はともかく、地球における後の世界史に刻まれる事件としては、非常に大きい事由であるのは確かであった……
* *
ティ連航空マシン独特の機械音を唸らせて、かつてきたあの場所、即ち『北京首都国際空港に降り立つ日本政府専用機。といっても一時期のB社が作っていた旅客機型ではなく、今の政府専用機はヤルバーンからデロニカを購入して改造した機体である。
真っ白な機体に日の丸国旗と、大きな赤丸国章をつけて、機体には『日本国』と質素に書かれている。
まあこの政府専用機型デロニカの役に立つことこの上なく、なんせSTOVL機で、そのSTOVL機能がこの機体にとっては至って普通の機能であるがために、紛争地の現場に直接乗り込んでの邦人救出や、同盟外国人の救出に、災害現場に直接乗り込んでの物資輸送など、もう便利この上ない機体で、昨今外国からもブラックボックス付きレンタルでいいので入手できないかと問い合わせが殺到している機体だったりする。
そんな機体は、ランディングをすることなく、かつて見た、大鷲が空中で体を翻して着地するがごとく、政府専用機は指定された場所にランディングギアを出して着地する。
これが平時の空港ならいいのだが、いかんせん現在は中国全土規模のクーデター直後の北京国際空港である。そこいらじゅうに『☆八一』と書かれたマークのついた戦闘車両が行きかい、普段なら民間機で賑わうこの空港も、民間機に混じって戦闘ヘリや戦闘機に輸送機などが駐機し、ものものしさ全開の状況となっていた。
当然政府専用機デロニカも中国軍の車両に囲まれて、銃を持った兵士の護衛を受けることになる。
そう、『護衛』である。って、それはそうだろう、向こうが『会いたい』というから来てやったわけであるからして、それぐらいの事はしてもらわないと困る。
ということで、まだまだクーデター直後の中国であるので、混乱しているのは事実。
向こうから呼ばれたのではあるが、歓迎式典のようなものがあるわけでもなく、せめてもの誠意であろうか、中国の最高級車、『紅旗』が政府専用機に横付けされる。
政府専用機のハッチが開いて降機するは、フェルさん大臣に、柏木真人、連合防衛総省長官閣下。
向こうさんのリクエストに答えた形の人員である。
護衛には連合防衛総省の兵士に、陸上自衛隊と、特危自衛隊の私服隊員がつく。現在は憲法も改正されてるので、こういう事が可能となっている。更には、情報省からも人員が派遣され、秘書という名目で柏木とフェル直近の護衛に付いていた。
「前に来た時でも、こんな『紅旗』なんて高級車で迎えにこなかったもんなぁ」
『フムフム。マサトサン、このジドーシャは、チャイナ国的には、そんなに意味のあるものなのデスか?』
「まあね、この車は国家主席クラスの人物しか乗れないし、しかも一般販売してない車種なんだよ。自動車ショーでも機密扱いで、ショーケースの外からでしか見ることができないし、マスコミも取材厳禁。そんな車だからね。まあ平たくいやぁ、単なる自動車じゃなくて、秘密兵器のたぐいだね」
『へー、そんな高級ジドーシャでお出迎えってことは、チャンセンセイも私達とのお話に、かなりの期待感を持ってるって事になりまスよね』
「ということになるよな……実際、クーデター起こした直後に、いま中国と一番仲の悪い国の副総理と、その連合国家安全保障の一応トップである俺と話がしたいってんだからなぁ……何言われるんだろ?』
まあこんな状況でも、あいも変わらず余裕こく事ができるこの夫婦である。そのあたりの肝の座り方は相変わらず健在である。
……車は北京市内を走る。
一〇年前に訪中した賑やかさも、現在は騒然という言葉に置き換わり、人々の営みはかろうじてあるものの、そこには装甲車に戦車、人民解放軍クーデター派の兵士部隊が睨みを利かし、大きな道路には等間隔で銃を持った兵士が警備に並んでいる。
車は『紫禁城』の西側へ向かう……
ひときわ人気の少ない、だが閑静な場所。中華文明らしい真っ赤で極彩色の派手な門の中をくぐると、中国の中でも、最も神秘的で謎めいた場所へ入っていく。
その場所は、中国の政治権力中枢に上り詰めたものしか立ち入り、そして居住することが許されない場所、そう、かの『中南海』であった。
……『中南海』とは、先の通り天安門広場に近い場所。紫禁城の西側に位置する、中国政治の中枢地域を示す言葉である。
日本で言えば、『永田町』地区にあたり、ロシアでいえば『クレムリン』、米国で言えば『ワシントン』という言葉に相当する場所といっていい。
ただ、その場所は永田町のような、言ってみれば普通の日本の街というようなものではなく、この地区一体がこれまた世界遺産級の歴史的建造物に庭園が並ぶような場所である……
柏木達とフェルの乗った『紅旗』は、中南海にある、というか、当然そこになければなならない中国の心臓部である『中国共産党本部』の前で停車する。
物々しい現状でも紅旗に乗った要人は、やはり相応に捧げ銃で迎えられる。
「いやはや、まさか中南海の中共本部にくるなんて、タハハ……」
天下の柏木防衛総省長官閣下様も、基本日本人のちきゅー人であるからして、宇宙を股にかける軍隊の親分であっても、中共本部へのご招待とは流石に緊張もする。
でも隣の愛妻フェルさん大臣は、そんな事知ったこっちゃないわけで、堂々としたものである。
「你好! 柏木先生、フェルフェリア先生!」
共産党本部玄関で待っていたのは、齢八〇近い張徳懐であった。ちょっと足がおぼつかないのか、ステッキをついている。そのライバルを迎える顔はどことなく嬉しそうで、満面の笑みで二人に近づく張。
「張先生、お久しぶりです」と柏木も笑顔で。好敵手で、元国家主席だ。礼はつくさないと。
『チャンセンセイ、先日はドウモでございますです』と、フェルも同じく。
そんな感じで張と二人は握手。特に警戒心はない。というのも、中国でクーデターなんてやらかして、直後で柏木とフェルと会いたいという張である。しかも台湾の件に、今現在進行系の香港の件だ。
当然深い話をしたいから客人として呼ばれたのだろうとおもうところは当然なわけで、そのあたりは二人もあまり心配はしていない。
中国共産党本部に、こんな外部も外部、一人は地球人とは言え、異星人軍事組織のトップを司どる男に、一人は異星人でありながら隣国日本の副総理のような人物を招き入れるなど、本来ありえないことなのだが、現在の中国は、その政治統治機構も全て張派の組織が支配しているがゆえに、こんな招待も可能となった。
張は共産党本部の迎賓室へ二人を招き入れると、付き人の軍人に茶菓子を持ってくるよう指示をする。
キビキビした動作で部屋を出ていく軍人。
「張先生、私も中国のこの手のことに疎い人間というわけではありませんが、我々をこのような場所へ招き入れる事ができるというのは、相当にこの国が混乱している状況だと、そう仰られているの同義と見ますけど……まあこういう言い方もなんですが、中国人のメンツとしてよろしいのですか?」
そう質問すると、フェルも横でさもありなんと首を縦に振っている。彼女も日本の閣僚やってもう長い。それに元調査局局長だ。そんな中国の諸々など、とうに調べ尽くしている。
「今はこういうことも可能なのですよ。といっても、今だけですけどね……仰られている通り、現在は混乱しているがゆえに、こんな事も可能となっています。ですが、この混乱も、まあそうですな、一週間か二週間か、そんなところで収拾が付くでしょう。それ以降は普段どおりの中国になります」
先程の兵が、茶菓子を持ってくると、張はその茶をすすりながら、余裕の顔でそんな事を言う。その表情に怪訝な顔をする二人。
普通歴史的にクーデターなんてのは、国家の某かの悪性要因が、極限状態になったときに起こる事象である。つまり、一時的に国家機能が麻痺する状況で、しかも軍事クーデターともなるとその後の国に及ぼす影響は、年単位で続くものである。
例えば、二〇一四年のタイの軍事クーデター然り、二〇一三年のエジプトの軍事クーデター然り。
一九九一年の旧ソ連八月クーデター未遂事件ですら、未遂に終わったが、その後の混乱はソ連の崩壊へと発展した。
だが、張の表情は、まるで予定調和を示唆するような、そんな表情である。
『確かニ、これだけの大規模なクーデターなのに、このチャイナ国における政治の中枢である“チョンナンハイ”が妙に平穏なのも不思議な感じがするデス』
フェルも確かにちょっと『感じが違う』という感覚を肌で感じ取っているみたいだ。
で、フェルは続けて、
『此度はチャンセンセイも大胆なことをなさいましたネ。マア……正直申し上げさせてもらうと、軍事クーデターですから、我々ティ連出身の者から見ると、あまり良いイメージはありません』
そういうと柏木も笑って、
「はは、そりゃティ連人だけじゃなくて、地球世界のどの国から見てもそうですよ……まぁこういう言い方もなんですが、中国は自由、民主主義国ではないので、この状況に民主主義イデオロギーの感覚でお話は正直できませんが……」
そういうと、張も笑って、
「ははは、確かにそうですな……と、こんな事を言うと怒られますか。私が当の張本人ということになっていますからなぁ」
そんな言い方で張は笑いながら話すと、
「え?どういうことですか?」『エ? ドウイウ事でスか?』
とフェルと柏木も問いかえす。すると張は、その意味を語りだし、
「此度のクーデターですが、世間的には私が首謀者で、先頭に立って指揮したみたいな言い方を、各国マスメディアに報道され、そんなマスコミの言い分前提に各国政府機関は色々言っているようですが、こんな……」と、張は手を広げて自分の姿をアピールすると、「杖がなきゃ歩けない老いぼれがどうやって先頭に立ってクーデターを指揮するのですか? ハッハッハ」
と、そんな事を語る……で、張が説明するには、結局彼の『名前を貸した』だけの話で、彼自身は、まぁその内容は知る立場にはあるが、結論を言うと、なーんにもしていないという話だった。
「は?」『ほえ?』
ときょとんとする柏木とフェル。で、
「じゃあ実際の首謀者は……」
「ええ、っと、もうすぐ来ると思うのだが……」
と張が腕時計を見ると、警備兵が迎賓室に入室してきて、張に耳打ちをする。
「……おおそうか、ではすぐにここへ呼んでくれ」と張が言うと、警備兵は駆け足で部屋を出ていき、「……カシワギ先生、フェルフェリア先生、その当の本人が到着したようですぞ」
暫し待つと、迎賓室に入ってきたのは……
「こ、これは!」と驚く柏木。
『まさか、ファーダ・ワン。あなたでしたカ!』
そう、なんと部屋に現れたのは、あのゼスタール・ナーシャ・エンデ訪問時に、中国側の大使を務めていた実業家の『王 活宇』だったのだ!
「お久しぶりです。柏木先生、フェルフェリア先生。あのナーシャ・エンデの時以来となりますか」
この王 活宇という男。中国科学局傘下の大企業、『電想集団』の部長職で、盧派の若手有望の共産党員……というのは表向きで、実は張の間諜兼業もやっていた張の一番弟子ともいえる部下なのであった。
「なるほど……ではこのクーデターの絵を書いたのは、王さん、あなたでしたか……」
「はい。そういう事です。まあ私も共産党員とはいえ、一介の企業幹部でしたが、あのナーシャ・エンデへの訪問で、それはもう色々と思うところもできました。それにあの一件で、わが国初の対外星人大使をやったわけですから、帰国した途端に私の環境自体も激変しましてね。盧主席は、私を外星人外交顧問として、参謀に付けたのですよ……」
元々、張のスパイであった王は、あの時をきっかけに電想集団を退職して、党の中央に近い位置へ大出世したわけだが、色々と思うところもあったようで、
そのあたりは張が説明。
「この王君が、そのあたりの悩み事を私に打ち明けましてな。もし盧政権がこのままゼスタールの現実的な提案を前向きに飲み、あのグロウムとかいう国の災難の一件を現実的に処理できるのなら、このまま盧政権下で働いても良いが……と言うので、私もそれが現実的かとも思い、理解をしてやったのですが、現実の盧政権は……ふぅ、外星人外交にはあまり関心を示さず、その技術の取得のみに執念を燃やし、現実がみえない軍主体の政策ばかりを推進し……まあなんとかゼスタールとのパイプは持てていましたが、ティ連、いや、日本との関係改善は全く進まない……一〇年ですぞ。一〇年……あ、いやまぁあの尖閣事件の一件も考えれば私にも責任は大いにあるが、流石に一〇年も関係が改善しないというのも異常だ……」
すると今度は王が話を変わり、
「そこで、我々張派の幹部達は、現状を打開できないかと秘密裏に会合を重ねていたのですが、まぁある時、私の取引先の紹介で、ある企業の幹部を紹介されまして……で、その人物との接触が、此度のクーデターを実行するきっかけとなったわけですよ」
王の説明を聞いて怪訝な顔をする柏木とフェル。
「企業、ですか……ふむ、よくわかりませんが、そんなイチ企業の幹部と接触したぐらいで、中国ともあろう国で、クーデターなんて起こしますか?」
『確かニそうでス。ファーダ・ワンらを動かすような企業っテ……』
すると王はニヤリとして、
『パイド・パイパー……といえば、ご理解できますか?』
その言葉に柏木とフェルは、
「な、なんですって!」『そ、それって、いんべすたーじゃ……』
そう、王達、張派の若手幹部はインベスターと手を組んだのであった。
つまり、インベスターの『世界連邦化計画』に彼らは賛同したのであった。
「ち、ちょと待ってください。王さん、あなた方はインベスターの存在をご存知なのですか?」
そういうと、王と張は、顔を見合わせて頷く……でも柏木も二人の同意を見て、冷静になって考えると、「確かに考えてもみれば……」と思うところもあった。
インベスターとは、かつての国境なき主権体『ガーグ』の変異した姿である。
確かに一〇年前、中国内のガーグ主権は、共産党復権ために張に一掃されたのは事実だった……
だが、後に日本が連合に加盟して、世のガーグのある一定の集団は、今で言う『インベスター』となって、明確な組織の意思を持って、世界に彼らのイデオロギーの猛威を奮っている。従ってそれは一時期のガーグとは別の『何か』という形で、今自分たちの向かう道である『世界連邦』へ、張派の王達の方が与し易いと調査したのだろう。その結果が現在である。
考えても見れば、インベスターの力を借りればこうもなろう。
異常ともいえる豊富な資金力を持つインベスター。そして様々な人材をも擁する彼らである。張派になびく人民解放軍クーデター部隊を組織することなど造作もない話かもしれない。事実、この非常に変わった『今一つ緊迫感のないクーデター』のバックにインベスターが絡んでいるのであれば、納得できる話である。
「では、最近ニュースでもちょくちょく出る話でしたが、盧主席の行方は……」
すると、張は首を振って、
「わかりませんな。いや、これは本当の話です。我々も身柄を確保しようと方方を探しましたが、見当たらず……ロシアやモンゴルに亡命でもしたのであれば、それはそれで我々の情報網にもひっかかるはずですし、誰かに殺されたというのであれば、今この我々の監視の目がそれを見逃すはずがないですし……」
「なるほど、わかりました。では今後の収拾の付け方は……」
「そこは後ほどの柏木大臣とフェルフェリア副総理との話し合いです。」
するとフェルは、
『タイワンサンと、ホンコンサンの問題も含めてデスネ?』
と言うと、無言で頷く張に王。で、とりあえず中国国民の生活は、ここ一〇日ほどで元に戻すという。それと、クーデターとはいえ、元は閉鎖的で頭の硬かった覇権主義の盧政権を叩いて、今後の異星国際外交も睨んだ現実主義路線の安定を目指す王達にとって色々中国の対外的、内政的問題の大胆な解決も睨んで、今後の外交政策に連合日本も協力してほしいと王は今後の事を話す。すると柏木は、
「まぁこれは……私は現在防衛総省の軍事部門担当ですから連合の、特に日本の内政面について何か語れる立場ではありませんが、やはり台湾に対する中国の対応は、避けて通れませんよ。なあ、フェル」
『ハイですね。確かにニホン国は、現在の立場としてタイワンサンを国として承認していませんが、ヤルバーン州や、ティ連は国家として扱っていまス。ホンコンサンに対する貴国の対応も、ティ連は見ています。まあ、ホンコンサンは貴国の主権ですのでニホンやティ連が内政に干渉するようなことはいたしませんが、おつきあいする条件としては……その対応如何というコトですネ』
頷く王と張。そして現在の率直な本音を張は話す。
「我々も共産党員ですゆえ、もしティ連という存在が、この地球にいなかったら、そして、ゼスタールという存在とパイプがなかったら、さらに言えば、ヂラールという存在を知らなければ、今まで通りの中国であったのは間違いありません。ですが事現在、こうなっては我々もその方針を、根本的に……そう、革命的に変化させざるをえないのは自明の理です……ここで現役の、チャイナ・ナインですか? 日本人の言う、ハハハハ……まあそいつらがいれば、まだまだ自己利権に走って事がややこしい方向になってたのかもしれませんが、私ももう老い先はそんなに長くはない。後は王のような若く新しい考えの者に任せてもいいでしょう」
『デハ、タイワンサンの方は?』
「我々から独立を認める事はしませんが、独立を宣言しても、特に何も対応はしないようにしましょう。香港の方も、王君と相談しましたが、自治国として独立させ、今後の構想である中華人民連邦の構成国として、事実上の恒久的な一国二制度を確立させます……」
更には、中国国内の各省も事実上の自治国化をさせるという。
『フムフム、で、あとは一党独裁の件デスが』
「これはなかなかに難しい事です。我が国はこの共産党がこの国を指導してきた誇りもありますし、またその組織も『共産党イコール中国政治の全て』という言葉と同じ意味をもつ組織でもあります……」
そう、その最たる見本が中国人民解放軍である。あの軍隊は、国軍ではない。共産党の軍隊、即ち『党軍』なのだ。
「……従って、これも前例のない、我々としてはタブーとも言えることなのですが……共産党内に複数の政治グループを作ります。即ち、党の中に党、ニホンの自保党で例えるなら、『派閥』ですな。それらを複数作って、各派閥の複数の立候補者の中から、党内選挙で国家主席を選ぶように致します」
言うなれば、自由保守党の党内人事をそのまま中国共産党でやるということだ。それまでの中国では、これすらもなかったから、そう考えれば、かなり『民主的』な政治にはなるのかもしれない。
なんせ中国という国は、正確な意味における『選挙』というものを有史以来やったことがない国である。従って公選の議員もいない。このあたりも、共産党内部で、議員選挙に近い公選の仕組みも取り入れるというような話を張はする。
「……とりあえずクーデター後の政権においては、私が臨時国家主席に就任しますが、すぐにでも、共産党の仕組みを変更し、党内選挙を行います。で、これはもう予定調和ですが、おそらく次の『公選国家主席』となるのは、この王君でしょう」
話では、この王が初代公選国家主席になるまでの、所謂『シナリオ』は、インベスターがすべて段取りを付けたらしい。張達は、そのサービスに乗ったと言う話だった。
柏木とフェルは、インベスターの世界連邦化イデオロギーの影響力は、この中国の国家体制に革命に近い改革を起こせるほどのものなのかと、改めて思い知る……これがインベスターの前段階であるガーグという形でここまでイデオロギー的な結束をしていたら、当時の柏木やフェル達はどうなってたのかと、正直身震いするが、まあそれはもう無い話だ。
柏木とフェル、そして張と王。この四人の秘密会談ともいえる今後の新生中国と、極東情勢についての話し合いは、まだまだ続く……
* *
さて、ここは日本国情報省会議室。
緊急会議という話で、急遽関係者が集められた。その中には在日グロウム帝国大使館大使と、駐在武官のネリナ・マレード提督の姿も見える。セルカッツも参加で、彼女は現在米国なので、別のVMCモニターでの参加だ。
更には、ゼスタール月面基地司令、ゲルナー・バントの姿も。
勿論、現在は総諜対本部でお留守番状態のシビアにメイラや智子の姿も見える。
更には二藤部大臣に、三島理事長のお姿も。
防衛省からは鈴木大臣に、久々の登場、久留米彰特将補閣下、他、陸海空将官のお姿も、
勿論、白木に山本、麗子に田中さんといった安保調査委員会の仲間もいる。それは錚々たる顔ぶれだ。
なぜにこんな御大層な顔ぶれが大所帯で情報省の会議室にいらっしゃるかというと、急遽、月丘がドイツからゼル通信、といっても画像通信のみだが、まあそれで緊急で会議を開きたいという事で、白木に招集をかけてもらった。
そしてそこにはなんと!! ……かのパイドパイパーCEO、エドウィン・スタインベックもドイツから出席するという話。
そりゃもう会議室のメンバーは、このオネエCEOがどんな奴か、一度顔を拝んでおこうとか、そんな事もあって興味津津で集まってきているというのも実際のトコロ。
さて、そんな感じでゼル通信が繋がると、会議室には巨大なVMCモニターが立ち上げられ、そこには月丘とプリルが椅子に腰掛け、バックにあのティーガーⅠの砲塔をのっけた『ナチスのUFO』が映っている。
そのいきなりのインパクトがある映像に、一同「おおー」と唸ってみたり。
『みなさん、見えますか?』
手をふる月丘。プリルもピロピロと手をふる。
「おう、月丘、プリ子。おまえいきなりこんなメンツに招集かけて、のっけからのインパクト映像だなぁオイ」
と白木が言うと、
「そうですわ。そのバックのソレ、なんなんですの? アイアンナントカとかいう作品の続編でもお造りになるのかしら?」
と、実はソレが何かわかっているのに、揶揄する麗子。まあ彼女には大体次がどういう展開か、理解できているようである。これも白木と麗子の場を和ますジョークなわけだが。
『はは、すみません。私ももっと普通に会議室でやろうと思ってたのですが、その~、まぁ今からご紹介する方が、こういう“演出”に拘る方でして……って、そんなところじゃないですね。私も正直ちょっと今、動揺している状態が続いていますので、プリちゃんも』
確かに普段の冷静な月丘の雰囲気ではない映像に、怪訝な顔をする、彼を知った諸氏。
『では、ご紹介します』というと、月丘は視線をカメラ外に向け、平手で誰かを誘うと、『エドウィン・スタインベックCEO。ご存知、かのパイドパイパー社CEOで……って、言っていいんですか?』
『ウフフ、はい、かまいませんよ。みなさんもうご存知なんでしょ?』
『わかりました……あのインベスターの関係者でもある方です』
するとスタインベックがラフでカジュアルな服装で、毎度のショーのプレゼンでもやりそうなイメージで、月丘の横に添えつけられた椅子へ足組んで楽に腰掛ける。
『お初にお目にかかります。日本政府のみなさん。そして、ティ連、ゼスタール、グロウム帝国のみなさん。私が、パイドパイパーCEOで、あなた方がインベスターと呼ぶエドウィン・スタインベックです』
と、彼は軽く頭を垂れて挨拶……いつものオネエっぽい口調は、控えて話をしているようであるが、まあ言葉の端々に、そんな感じの人物であるというニュアンスは出ていたり。
ちなみに言語は、素晴らしく流暢な日本語である。
『で、なぜ私のような“犯罪組織モドキの首魁”とでも、皆様思っているのでしょうが、そんな人物が、ここでお話させていただくかという事ですけど……まあ、時間もないですし、前置きはいいですか。いきなり本題に行っていいですわよね、ミスター・ツキオカ?』
『いやそこは、私から説明するべきじゃ……』
なんかプレゼンの段取りはうまくいってなかったようである……柏木が見たら「そこは違うんだよぅ……」とか言いそうな感じ。
『ウフフ、こういうのは流れですよ、ミスター』と、うまくスタインベックがフォローし、『今回、みなさんのような、我々インベスターでも把握している錚々たるメンバーにお集まりいただいたのも、このバックにあるストリートコミックのネタのようなオブジェクトに関連する話になるのですけど……そう、特にグロウム帝国の方々には重要なお話になりますか……』
更に怪訝な顔をして、あたまに『?』マークがともるネリナ達。
『私こと、エドウィン・スタインベックが何者か、という事をみなさん、まず疑問に思うところでしょうけど……』と、話し始めると、月丘とプリルの顔色が変わっていくのが皆に見て取れた。
『私は、みなさんが今、謎として追っていらっしゃる、“六本腕の異星人種族”と言われている存在、その末裔ですのよ……』




