表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
46/89

【第八章・連合軍】第四五話『パワーバランス』


 月丘和輝がニューヨークで会話したあの時。

 エドウィン・スタインベックから情報交換を持ちかけられ、何か重要な情報でも得られるのかと思いきや、なんか一方的に情報省の情報を喋らされ、結局急に何か思い出したように対話を一方的に中断されてしまった月丘……まあそのお詫びか、元から用意していたのかは知らないが、なんか超ド級の高級ホテル宿泊券をプレゼントされて結局ウヤムヤになってしまったあの話なのだが、月丘もそんな風になるのは織り込み済みの話で、スタインベックは情報を必ず渡すと言ってくれてはいる。で、一つスタインベックという男を評価するなら、嘘はつかない人物だということは確実に言えるので、彼が情報を月丘に後日渡すというのなら恐らく必ず後日渡してくれるのだろう。

 そこのところは月丘もスタインベックの行動を追跡するために現在の状況を利用したいのは確かなわけであるからして、彼が何か特別な動きでもするなら、世の中は必ずそれに比例して動き出すのは必定ではあろうと思うので、今は黙認している状態というのもあるといった次第……


 普通、こんな仕事してたら此度の件なんざ情報漏えいだのなんだのと大目玉食らうところだが、当の月丘のオヤビンである白木班長が放任主義で、「まぁ好きにやれ」ってなもんで、現場仕事に関しては月丘に一任しているものだから、特に怒られずにも済むと言った次第。

 だが、今回月丘が向かう仕事の場所、ドイツの話が出るとスタインベックの態度が少々変わったのが気になる月丘ではあった……


 で、そんな経緯もあっての、あれから一週間ほど経過した現在。

 月丘はドイツ連邦共和国の首都、ベルリンにいた。

 そこのとある建物のワンフロア。表向きは、『NPO法人・日独ティエルクマスカ連合交流協会』となっている。

 まあ実際、ヂラールの件にゼスタールの件等々があって、ヨーロッパ各国にもティ連との交流窓口として、このようなNPO法人がたくさん出来ていたりする。

 といっても実際のところは日本国各省庁の天下り団体というのが実情だが、このNPO法人に限って言えば、所謂『良い天下り先』といったところで、実際希望してこのNPOに入ってきている元官僚や公務員もたくさんいたりする。実際どのNPOも規模が大きく、事実上の省庁外部委託機関みたいなものといっていい。

 とはいえ先の通り、表向き、いや、『一部』表向きは、やはりそこは金を出しているのが情報省なので、ダミーである部分もあるという次第。それが所謂現在の総諜対アジトとなっている、この団体のもう一つの姿といったところ。


 そのNPOのいちフロアに個室、つまり月丘和輝の部屋。部屋には特に部署名などは記載されていない。

 この個室が、情報省総諜対の、そのアジトというか、事務所である。

 で、そんな場所で月丘は次の仕事の準備なんぞをしていたワケであるが……なんとまぁ、スタインベックから月丘のスマートフォンにメールが入てきたワケで……って、月丘先生はビックラこいて、


(いや、なんで私のメールアドレスをあの人が知っているのですか!)


 とこれまた大問題ではないかと思うが、とりあえずは彼の私的メルアドなので良いとして、まったく一体全体どこから他人のメルアド調べて送ってくるのかと……まあスタインベックの事なら金と人脈にまかせて、月丘の使っているスマホプロバイダの社員でも買収してとかそんな話も妄想するが、大方そんなところだろうなとは思う彼。


 ……ちなみに総諜対の職員用メールやビデオレター等々は、全てPVMCGでやりとりされるので、流石のスタインベックでも盗聴やアドレスの情報入手は、月丘本人に直接聞かない限りは無理である。さすがにそこまでは都合良くはいかない……


 とま、とりあえずそれはそれとして、ため息一つついてメールを読む月丘。

 そこには……


【今日の*:**からのニュースをご覧あれ。この間のお約束は、そ・れ・か・ら】


 と書いてある。まったくもってそれだけである。だが月丘は思う。


「あの手の女性的なキャラクターは、やっぱりメールの文章もこんなのですか……」


 またため息一つの月丘。頭ボリボリ掻いて、「変なのに気に入られたなぁ」と、三度ため息ついたりなんかして。

 でも普通こんな所謂スパイ映画の敵役ではないが、まあまだ犯罪団体として確定したわけでもないので迂闊なことは言えないが、超絶グレーな御大からこんなメールがしょっちゅう来れば、普通の人ならガクブルもいいところなのだろうが、月丘から見てこのスタインベックという男、ある意味言ってみれば『同類』である。正確に言えば『元同類』といったところか。

 そういう点同じ匂いのする男ではあるので、月丘はスタインベックに対して警戒はしているが、ビビっているという事は全く無い……なので、なんとなく不思議に付き合えているところはあるのである。

 だが、ここでニュースを見ろというのであるから、彼ら『インベスター』なる連中の、所謂『国境なき主権体』ともいうべき能力……いや、違うか? それは“性質”といったほうが正しいか、それが顕現するような、トンデモな事やらかすのかなぁと、期待と不安を以て、テレビの報道番組を見る。


 勿論ここはなんだかんだで世界で最も世界中のあらゆる事象を正確に報道できる日本メディアを見る。

 これ、何も皮肉を込めて言っているわけではなく、また褒めているわけでもない。実のところ、海外メディアというものは、是、日本のメディア以上に取材方針が偏向しているのである。海外のメディアは、得てして自国の近隣国家圏外の事をあまりにも何も知らない。そもそも海外のメディアは、メディア企業自体が政治的、イデオロギー的に偏向していることを宣誓しているメディアがほとんどなのである。

 なのでよく日本では、NHKを犬HKと批判したり、朝晴の左傾志向に毎朝の反体制志向、逆に産業新聞系の保守志向、讀掛の中道志向など、よく左右共に互いを批判するが、『ま・だ・こ・れ・で・も』海外メディアのイデオロギー志向に比べたら、百倍はマシなのである。つまり世の中の事件事象をまだ普通に報道できてはいるのだ……あんなのでも……

 なので、下手に海外のニュース番組を見ると、割とトンチンカンな事言っているMCに評論家や解説員が多く、それらと比較すると、まだ日本のメディアのほうがマシということを思い知らされる


 と、そんな話はともかく、定刻になったので、衛星放送でNHKのニュースをポチと付ける。

 よっこらしょと、来客用のソファーに腰を沈めて、ラフな姿勢で足でも組んで、更にはコーヒーでもすすりながら、ニュースを眺める。

 今、ベルリンは午前一一時。丁度東京は晩の一九時ぐらいなので、NHKのメイン報道番組の時間帯である。


 毎度見慣れた一九時を知らせるCGの後、お馴染みのニュースアナウンサーが頭を垂れて番組を始める。


『こんばんは……まず、只今入りましたニュースです……台湾の黄長玲総統は先程、中華民国としての一つの中国という方針を転換し、台湾共和国として、独立を宣言することを明らかにしました。これは先の台湾における独立か、中華人民共和国が表明した、恒久的な一国二制度。すなわち中華連邦内の自治国構想を受け入れるかという国民投票において、圧倒的多数で独立派が支持を受けた形で、この度の宣言に至ったものです。さて、この宣言には、ティエルクマスカ連合ヤルバーン特別自治州のヴェルデオ・バウルーサ・ヴェマ知事の発言も大きく関与しており…………』


 このニュースを見た途端、月丘先生はベルリンで、コーヒーカップ持って『ブーーー』と吹き出してしまう。

 確かにヴェルデオは、とある時、日本の政治番組へ出演した際、とある政治評論家に日本と連携した、地球上での国際関係について、特に極東アジア地域の安全保障について問われた際、台湾との関係において、


『我がヤルバーン州は、ニホン国同様にティ連を構成するイゼイラ星間共和国内のイチ自治体ではありますが、高度な自治権を認められた事実上の自治国であり、イゼイラ本国から、ほぼ無制限の外交管轄権を有しているので、我が自治州は我が自治州なりの意見をもって発言させていただきまスが、当初我が州は、連合ニホン国と近隣で非常に友好関係の深いチュウカミンコクと外交関係がないという事実に、耳を疑った事があります……』


 つまりヴェルデオサンが仰るには、彼らが地球へやってきた当初、日本と他地域国家との外交関係を調査していくうちに、とある疑問点に行き当たったそうだ。

 それがこの、チュウカミンコクとニホン国との関係で、こんなに仲がいいのに、なんで国の責任における外交関係がないのか、実に不思議に思ったという次第。

 んで、調査局が調べていくうちに、まあ日本人なら学校の社会科で習うような歴史を理解したというところ。で、ヴェルデオは、


『この点について、ヤルバーン州の見解を申し述べさせていただくとするなら、ヤルバーン州、及びイゼイラ共和国にティエルクマスカ連合は、複数政党制を持つ、民主的な国家を基本支持します。そして連合ニホン国と友好関係にある国家であれば、特に支持いたしまス。もし対象となる国家が理不尽な状況にさらされた場合、ニホン国と協議し、軍事面も含めたあらゆる支援策を施行する用意があります。その不測の事態が、大規模な災害や人災を含めたあらゆる緊急性を持つ事由であれば、我がヤルバーン州が独自に支援を行うこともあるやもしれません……』


 と、こんな発言をしたのである。当時この発言は全世界で話題を呼び、中共から猛抗議がきたこともあった。

 だが、ヴェルデオは発言を一貫したわけで、日本政府は『ヤルバーン州の内政発言であり、日本国がコメントする立場ではない』と、当時の春日総理大臣は発言したわけだが、この時ぐらいからか、台湾では一つの中国論を放棄し、独立の機運が全国民規模で高まったという経緯がある……


 で、これを中共から見ると悪者はヴェルデオのように見えるが、この話には少々裏があって、実は当時、米国大統領のスチュアートから、台湾をLNIFの安全保障の側面から、オブザーバー国から正規加盟国にしたいので、ヤルバーン州に先のような趣旨の発言をしてくれないかと日本政府に打診してきた……という裏交渉もあったのだ。

 ま、いってみれば米国と日本は立場上できない話なので、ヤルバーン州にしてもらったら? とスチュアート大統領は、あの御仁らしい直感で思いついたらしい。

 で、まあヴェルデオとしては、そのあたりの歴史的な背景も理解しているし、別に中国が怒ったところでヤルバーン州としては何も困らない為、とある政治番組で、左様な発言をしたという経緯であった。


 で、スチュアートとしては、これで台湾は日本ーヤルバーン州の安保管轄内で守られるであろうと、そのあたりまでは思惑としてあったわけなのだが……


 まあこのご時世、ネットのつぶやき一つで国家が消え去るような時代を経験した、その後の時代である。

 中華民国国民は、これからはヤルバーン州と日本が彼らを大陸中共から守ってくれると、いい意味で勘違いしたわけで、一気に此度のような独立宣言と相成ったわけである……のだが……


 こう聞くと、なんだか独立したきっかけを作ったのは、上記の方々だけと思えるように見えるのだが……


 ここに至るまでに、なんと……中華民国・国民党の、極中共寄りの党首が、ヤク中に“刺殺”未遂されて総統選挙に出られなくなったり、その前には、中国国家主席、『() 港生(こんさん)』が表に出なくなり、重病説が流されたり……と、そんな、所謂『お膳立て』のような事件があったのを月丘も知っていたので……


(ああ、これは……やりやがりましたね、あのオッサン……)

 

 と頭抱える月丘君。おネエのオヤジはこの事件を知らせたいがために、彼へメールしてきたという次第……ニュース流れた後、ナントカスタンプみたいな絵が送られてきた……親指上げてる……


 要するにスタインベックと愉快なインベスター達である。

 日本と、米国スチュアート大統領と、ヴェルデオ知事らは、このような状況でまあ台湾の独立論は時期尚早と考えていたところはあった。とりあえずはLNIFのオブザーバー国から一歩進んだ立場にしたいという思惑が、なんともこんな形で一気に加速してしまったわけで、要はその流れに乗っかって、謀略にも見えない謀略をかましたのが、おネエのオヤジであったのだろうという次第。いや、だろうではなく、まず間違いない。


 こういう結果が出ると、今まで疑念疑惑に謎や噂とされてきた事件に時事が、全部方程式のごとくカッチリと組み上がり、今回の件で言えば台湾の独立という結果で全ての線が繋がるということになる。つまり、月丘がorzとなるというワケ。


 だが正直インベスターが過去にガーグと呼ばれていた時代からの謀略を考えた場合、此度のようにある意味『回答』ともいうべき結果を見せつけられると、連中の世間に対する汎ゆる面での影響力というものは計り知れないなと感じる月丘。もしかするとその影響力が及んでいないのは、日本とティ連関係国のみで、後の地球社会すべては連中の某かの影響があるかもしれない……こればかりは一概に考えすぎだとは思えなくなってきた月丘であった。

 って、逆に言えば、その当時のガーグであったインベスター連中の影響力を尽く弾き返してきた、柏木とフェルサンコンビは、やはり最強である……改めて御大を見直す月丘である。


 さて、当然先のとおり、この『台湾共和国』として独立を宣言した台湾であるが、そんな事中共が許すはずもなく、激怒した中共は即座に臨戦態勢に入ったのだが、それよりもさらに動きが早かったのは、ヤルバーン自治州であった。

 

 ヴェルデオは即座に尖閣諸島海域に、現在のヤルバーン州に螺旋階段の如く並ぶ、中型の人工大陸パーツ。大きさにして、対角長三キロメートルクラス一隻を派遣し、ヤルバーン州仕様の無人艦、即ち、ゼスタールから供与を受けたガーグデーラ母艦を三隻、随行させた。

 この尖閣諸島人工大陸の位置から、台湾と中共の動きを監視する、という名目の、援護体制をとったのである。


 ……ちなみに、このヤルバーン州仕様のガーグデーラ母艦は、白と藍色系のカラーに塗り直されている。まあそのままのゼスタールカラーである黒色に赤色ラインとなると、不気味臭漂うので、そんな感じ……


    *    *


 少し場所を変えて、日本の内閣府。

 首相官邸執務室で、ヴェルデオ知事と話す井ノ崎総理。


『ファーダ・イノサキ、これでよろしいですかな?』

「はい、ありがとうございますヴェルデオ知事。これで中国も最悪の動きには出てこないでしょう」

『ハハ、確かに。未だあの「夢魔」のトラウマを抱えているようですからな……ですがチャイナ国が実力手段に訴えた場合は、我々は動いた方がよろしいのですな?』

「ええ、そこは一度本当に痛い目を見てもらったほうがいいのは確かでしょう……ですが、情けない話ですが、そこは本来我が国が率先して動かなければならないところですが……」


 あの意味不明な憲法9条も現在改正されてはいるが、今でも日本は台湾と国交がない。なので中共が台湾に強硬策へ打って出ても、今の日本は動けないのである。

 なので、ある意味そんなしがらみがないヤルバーン州が、日本の代わりに打って出てくれたわけである。つまりはこのヤルバーン州の動きは、すべて井ノ崎がヤルバーン州へ要請した結果という次第であったりする。でもって、ヤルバーン州軍という表向きの名目で、陸海空特の自衛隊部隊も隠密理に尖閣諸島人工大陸へ派遣されている。そこは井ノ崎、ヤル州軍のみに任せっぱなしという事はしない。

 まあ、日本もヤル州も同じ連合主権であるからして、この行為もよくよく考えてみれば普通の行為であって憲法改正後の日本では、本来特筆するものでもないわけなのだが……

 

「……ですが知事、こういった動きになったのも結局はインベスターの……何といいますか、絶妙な誘導技に、我々がしてやられたと言うか……」

『ハイ。まったくもって恐るべき組織でスね。そうならざるを得ないように持っていくわけですから』


 そう、国民党の党首暗殺未遂に始まり、こんな状況になっても、まだ姿を見せない盧港生。

 そして台湾の世論が一気に傾いた時に、事をせざるをえない状況になる連合日本とヤルバーン州。

 一連の動きは、それまでの世界のいろんな動乱に革命で見られたように、『必然』に見えるものなのだが、結果を逆算して観察すると、それは巧妙に、『そういう事象に動かざるを得ない事象へ、誰かが巧みに誘導している』という極めて人為的なものなのである。


「うーむ……そう動かざるを得ない、か……癪になって、その動きに乗らなかったら乗らなかったで、我々の最も不本意な状況になるのは火を見るよりも明らか。だから、インベスターの誘導に従わざるを得なくなる、ですか……新見次官の報告にあったとおり、厄介な連中ですね……」


 その新見の上げた報告も、実は月丘の調べ上げた報告書である。


『デスが、動きは一貫しています。やはり現状は、その……地球世界の意思統一化で動いていると見て間違いないでしょう』


 実際、この台湾で起こった動きは、台湾だけで収まりそうもなく、つい先日、中国・香港特別行政区でも、その狼煙が上がった。

 台湾の動きに呼応して、まあこちらはこちらで、勝手にヤルバーン州の動きに『期待して』というところがあるのだが、香港でも、とうとう独立運動が始まってしまった。

 香港共和国臨時政府が、学生達の手で立ち上げられ、今現在警察と毎日衝突している。

 こちらでも中共が軍事力を展開すれば、ヤルバーン州が呼応してくれるだろう、という期待感だけで暴れ回っているというところなのである……まあこちらは極めてアブない博打行為ではあるが……


    *    *


 つまるところ、スタインベックは自分達が本気になったら、世界にどういう影響を及ぼすかということを月丘に見せたかったのだろう。

 月丘に見せるということは、つまり日本政府や、ヤルバーン州に知らしめるということである。

 なんかファンキーなオッサンに見えるが、でも本気の彼らなりの言い方をすれば『ビジネス』でなければ、ここまでの『事』は起こせないだろう。

 実際、彼らが今現在『世界連邦化』のイデオロギーで動いているとなれば、此度の台湾や香港だけで済むはずがない。

 今では下火になってはいるが、SISの残火も彼らの粛清対象であろうし、中東の諸々もそうだろう。ロシアも例外ではない……そう考えると、NPOの事務所で腕くんで考え込んでしまう月丘。


 ……で、事務所でそんな事やってると、彼のスケジュールの時間になり、スマホのアラームがピピピと音を鳴らす。

 と同時に、PVMCGの着信音もピロピロと。


「はい、あ、プリちゃん?」

『カズキサン、今着いたよっ。ビルのロビーにいるからね~』

「了解、んじゃすぐ降りますね。ちょっと待っててください」


 NPOが入っている建物、といってもここはドイツのベルリンであるからして、日本的な近代的建物というよりは、どっちかというとヨーロッパレトロ調の建築物。階段駆け下りロビーへ急ぐ月丘。

 毎度の彼の仕事着で、トレードマークでもあるスリーピーススーツの上着を羽織りながらロビーへ到着すると、お洒落な地球のお洋服来たプリルが待っていた。


『カズキサン!』


 ピロピロ手をふるプリル。

 今日のプリルは地球人モードではなく、ディスカール人モード。ディスカール人は、耳を除けば、イメージ的に西洋人風の容姿なので、プリ子は耳まで帽子被っている。


「やあお待たせ。今日はよろしく頼みますね」

『ウン。まあ事前情報で向こうサンから結構な情報頂いていますからねっ。そりゃ技術者の私の出番でしょー』


 胸張ってドヤ顔のプリル。まあ今日はそういう用件である。

 で、小声で月丘が……


「(プリちゃん、でさ、今『ふそう』はどこに?)」

『(ホッカイというウミの中に潜行待機していますヨ)』

「そうですか、ご苦労さまですね。って、特危も此度の件にかなり興味を持っているということか……」

『(みたいデスね。なんかハイクァーン装置を持ち込んでましたから、もし私がデータを取れたら、ふそうのデッキで複製再現してみるって言ってましたよっ)』

「(んじゃ、プリちゃんもデータ取りの任務大変ですね)」

『(デスデス)』


 で、月丘は声のトーンを戻して、


「さっき、スタインベックさんから、メールがありましてね」

『え? なんでカズキサンのめーるあどれすを、あのオッサンはしってるんですかっ?』

「さー? まあ私の個人使用のスマホメールですから、色々突き止める方法もあるんでしょうけど、って、まぁその話はまたにして、で、この間呼び出された件、あったでしょ」

『うん』

「あれの交換情報、今日貰えるって話なんだけど……なんか妙な感覚なんですよね……」


 そりゃそうだろう。あの台湾や香港の状況を見せびらかされた後である。今日の件も何か見透かされている感じはする月丘だった。

 と、そんな事言ってると、待たせてあったタクシーの運転手が「まだか」と言わんばかりに、ロビーに入ってきて、月丘達を呼び出す。

 ということで、彼らは約束の場所へという事で……


    *    *


 ドイツのベルリン都内から車で少々走った場所。所謂とある郊外にある、博物館。

 博物館とはいえ、その敷地面積は、ユーラシア大陸一、二を争うデカさである。その名は、『ドイツ空軍博物館』という場所。

 なんとも空軍基地一つをまるまんま博物館にしたような施設で、その大きさは実にハンパない。

 で、最近その博物館に研究施設が出来たという話……月丘達は、その半官半民の研究施設からお呼びがかかってやってきた。どっちかというと月丘はあくまで代表で、メインは技術者のプリルの方だ。

 その研究施設の名は、『空軍航空技史研究所』というらしい。まあ尤もらしいネーミングである。

 月丘とプリルは、タクシーの運ちゃんに代金とチップを払うと、急ぎ足で指定された入り口へ向かう。

 ちょっと遅れ気味という次第。

 すると、玄関で誰かが待ってくれていたようだ。案内の人か、本件担当者か……立派なスーツを着て、腕くんで、顎に手を当て……段々と容姿がわかってくる距離に……って……


『ええええええ!』と驚くプリ子。

「な!!! って、スタインベックさん!?」まさかまさかの御大登場に流石に怯む月丘。


 顎に当てた掌を月丘に向けてピラピラ振るスタインベック御大。

 スタインベックの方からも近づいてきて、「やぁやぁ」と親しげに握手を求めてくる。

 ポカンとしている二人は、彼の握手を流れのままに受けてしまったり。って、まあ拒否する理由もないのだが。


『いらっしゃい、ツキオカさん、それとミス、ディスカール子さん、えっとお名前はまだ伺ってなかったですわね、ディスカール子さんの方は』

『え?』


 オドオドするプリル。月丘はもう毎度のことなので、「またか」という感じで、


「紹介しますよ、スタインベックさん。彼女が、プリル・リズ・シャー。かの有名なパウル提督の妹さんです」

『あらそうなの! 改めてよろしくね』とか言って、プリルの手の甲にキスするスタインベック。彼はおネエだからといって、特段同性愛者というわけではない。


 ということで、立話も何なのでという事で、スタインベックに案内され、施設の中へ入る。

 勿論この研究施設は、ドイツ政府も噛んでいる、所謂真っ当な施設ではあるので、どっかの秘密組織の如き不気味な研究施設というわけではない。

 

「で、なぜ貴方がこんなところに?」

『交換条件の情報引き渡しがまだだったでしょ?』

「はぁ、でもそれと、この有名な施設とどういう関係が……って、まさか」

『お察しの通りですわ。この研究施設への民間出資分は、我がパイドパイパーグループの企業が出資しています。ま、そういうことで』


 ナルホドと思う月丘。ということは、


「では交換条件とか言いながら、実はお膳立てはもう済んでいたって事ではないですか。なんだかなぁ……全然『交換』じゃないじゃないですか」

「ホホホ、まあそうなりますかしら? でもあの車の中で、言葉でその事実内容を語ったところで新鮮味がありませんでしょ? なので、こういう演出をね」


 プリルと顔を見合わせて首をかしげる月丘。


「では、此度は貴方もドイツ政府に協力している協力者と考えさせてもらってよろしいのですね」

『ええ、そういうことです。で、真面目な話、私としても今回ばかりはそちらのプリルさんのお手を借りないと、なんともできない物でもありましてね』

「ふむ……わかりました。ということは、ソッチがらみなんだろうなプリちゃん」

『でしょうネ』


 スタインベックに施設を案内される二人。プリルも、もうディスカール人であることはこちらの関係者には通達済だったので、帽子を脱いで素顔で仕事していた。

 やはりその笹穂耳が目立つのか、スマホに写真取られるプリ子。まあもう日本じゃ毎度の事なので慣れてはいる。プリルの家がある秋葉原ではコスプレしてないのにコスプレアイドル並の扱いだ。


 と、それはともかく、

 しばし館内を歩くと、地下へのエレベーターへ乗せられる。って、こんな施設でスタインベックが一緒で地下へのエレベーターとなると、そこはもうお察しである。

 思った通りエレベーターの扉が開くと、ドイツ陸軍の警備兵が銃を前に持って立ち、早速空港ゲートのようなボディチェックを受けさせられてしまう。

 以前、白木達が米国のグレーム・レイク空軍基地、所謂『エリア51』へ招待を受けたことがあったが、あの時並の厳重なセキュリティである。しかも几帳面なドイツ人のやることなので、色々と面倒くさい。

 この場所ではスタインベックも例外なくチェックを受ける。まあ彼もこの場所ではあくまでパイドパイパー社のCEOであり、インベスターの幹部ではない。そこは皆も普通の企業人の認識だ。ここでこのオッサンがインベスターなんてところの幹部なんて事知ってるのは、月丘達ぐらいなものである。


 スタインベックはもう知った場所という感じで、セキュリティを通過すると、早速知り合いの研究者を手招きして呼んでいるようだった。


「どうもどうも、スタインベックCEO。お待ち致しておりました」


 その研究員がスタインベックと握手をしている。年齢は三〇歳後半、典型的なゲルマン民族系の面立ちの人物である。


「ツキオカサン、プリルサン、紹介しますわ。これからみなさんにお見せする『情報』の取り扱い責任者、工学博士のエアハルト・オットー博士よ」


 そう紹介されると、オットーも「やあよろしく」と手を差し出し握手を求めてくる。


「で、CEO、この方々が」

「ええそうよ。連合日本国のミスター・ツキオカと、ミス・プリル。プリルサンの方は、もう見た目でおわかりでしょうけど、ティ連のディスカール人サン。うってつけの人材でしょ?」


 そんな説明をオットーにするスタインベックを見てプリ子は小声で、


『(なんかケラー・スタインベックがみんなお膳立てしたみたいな設定になってますよっ、カズキさん)』

「(はは、なんかこっちの作戦やらなんやらも、あの人にかかったらみんな持っていかれてしまいますね)」


 そりゃそうだ。まさか今日、この場所へ白木の命で、情報省の仕事の成果でやってきたつもりが、ちゃっかりスタインベックに先を越されている……ある意味恐るべきともいえる人物で、警戒もしなきゃならないのだろうが、この御仁は御仁で、『今現在』という点だけで言えば、まあなんというか……立派な情報省協力者である。月丘がスタインベックに気に入られているという事も含めて……


「とりあえずは、流れに任せてみましょうプリちゃん」

 

 そう言われて、ここは文句言っても仕方ないので、そうすることにするプリル。まあホント、現状は仕方ない。

    *    *

 さて、一〇年前の米国、エリア51での出来事の如く、その施設のセキュリティは厳重で、もう何かを許可なく見た者は永久にその場所から出られない……と、このドイツの研究施設はそこまでの場所ではない様子。まあ元々はドイツの航空科学史を研究する施設であるからして、エリア51のような軍事施設というわけではない。

 実際、これから月丘達が見せられるものも、所謂この研究施設の研究物件であり、おいおいは隣接する博物館にも展示されるようなモノだったのだろう。恐らく月丘達……いや、ヤルバーンが来るまでは……

 そしてスタインベックらのような人物が血眼になって探していたモノが、この博物館に所蔵されるものの中にあったのだろう。だから彼らはこの施設に政治力を使って『投資』した……


「さてお待たせしました。これからお見せするモノが、私からの月丘さんへご提供する情報物件であり、また、色々とご意見を伺いたいブツでもあります……オットー博士、」

「わかりました……おい、シャッターを開けてくれ!」


 オットーは部下にそう叫ぶと、この比較的広い地下研究施設の高さ数メートル、幅数十メートルはある横長の大きなシャッターをゆっくりと開けさせる。

 黄色い回転ランプが回り、シャッター特有の蛇腹金属音が大きく奏でられる。

 月丘とプリルは、そのシャッターが開ききる前に、目の前にある異様な物体を目にし……驚愕する!


「こ、これはっ!」

『!!!』


 二人の驚く顔を見て、得意げなフフン顔をしているスタインベック。おネエな流し目が不気味である。

 ……さて、二人が見た、その驚きの物体は何だったのか?


「う、宇宙船? いや、それにしては少し小さいか?」

『いえ、カズキサン。これはキドーヘイキですね……』

「機動兵器だって?』


 その物体の見た目は、上から見られる視点があるのなら、『三ツ矢』状の物体で、その三ツ矢先端三点が、地面へ斜めに支えることで着地している形状をとっている。

 その形態がデフォルトなのかそれともまた何か変形するのかはわからない。月丘は少し小さいなどと言ったが、それでも全長は三〇メートル程、並の大型戦闘機よりはよっぽど大きいサイズだ。

 現在の着地状態での全高は、五~六メートルほど。サイズ的には確かに、戦闘爆撃機程の大きさはある代物である。

 その意匠……つまりデザインも所謂、現在で言うところの現代的なデザインで、まあ言ってみれば『オーバーテクノロジー系』のデザインではあるが……あくまでそれは見た目だけで、近くに寄って見ると、機体は場所によってリベット留めをされているところが多数あり、その材質はあきらかに地球製だ……と思うが、プリルが言うには、


『経年劣化がないですね……これ、地球製の材質なのかな?』


 と、疑問を呈する。

 だが、本来疑問を呈さなければならないところは、地球人的に見れば、もっと堂々とその存在感をアピールする某かが、ボインと顔を見せているわけで……


「……鉄十字に、ハーケンクロイツ……ですか、強烈ですね……」


 つまり、プリル曰く、恐らく、えらい古い何らかの異星人系技術とデザイン性をもった機体を見せられ、更に月丘のような地球人視点で見れば、ナチの国章とドイツ国防軍の国章を持ったオーパーツ系の乗り物が目の前にあり……といったところ。


 さて、その異様な物体、いや、機体をよくよく観察すると、これ なかなかに木曜日系に月刊○ー系のネタ話もあながち嘘八百ではないような、そんな構造を持つ機体であることがわかる。

 

「いやなんといいますか……この場に柏木長官がいてくれたら心強いのですが……」


 そんな事した日にゃ、柏木は興奮して気を失ってしまうだろう……ってか、あの日やったサバイバルゲームのネタが、マジモノだったわけであるからして、あいや、何かフェルがサマルカさんがどうのこうのとか言っていたという話を以前酒の席で聞いた記憶を思い起こすわけであるからして……

 って、そんな話ではなく、月丘は元PMCではあるが、柏木ほど武器兵器に対してマニアックではない。つまり彼のこういった兵器知識には少々限界があるということ。だが、全くわからないわけではない。


「この底部に付いているのは、MG151機関砲ですね……20ミリですか。あとこちらは30ミリ系の重機関砲ですね」

『カズキサン、この四角い「ホウ」は何ですか?」


 機体のてっぺんに付いているものを指差して尋ねるプリ子


「ああ、これは砲ではなくて、『砲塔』ですね……この形状はティーガー戦車のものですね」

『てぃーが?』

「ええ、地球では有名な戦車です。知らない人はいないぐらいのね……で、オットー博士。これは一体なんなのですか? まあ戦中のドイツ絡みの兵器技術となると、私も専門家ではないですが、荒唐無稽なものが実際に多々あったというのは有名な話ですが」

『うん。私もおねーちゃんから、ハルマに「はうにぶ」っていうサマルカに似た技術を使ってたデータが出てきたとか聞いたことあるけど……』


 するとスタインベックが、


「プリルさん。詳しい経緯なども後ほどお話しますから、とりあえずはあなた方の検査機器で、詳しくこの機体を調査してくださらないかしら? その為にお二人をお呼びいたしましたのよ」


 スタインベックの言葉に月丘も頷いて、


「確かに。見た感じ色々胡散臭い匂いもするモノみたいですが、まあとりあえずそうしましょうプリちゃん」

『あ、ハイ。わかりましたカズキさん。ではでは……』


 プリルはオットーに大きな机を用意してもらい、PVMCGでタブレットやVMCモニターを多数浮かばせたあと、検査ツールや工具のようなものを多数机に並べていく。

 流石は優秀な技術者と言われるプリルだけあって、そのマイツールは十数点。データツールとはえ、使い具合の年季までそのまんまデータ化されたプリル愛用の道具達である。

 そのツールを一つ手に取り、腰のベルトに刺すと、もう一つペン状の機器を口に咥え、検査機器を当てて、作業を始めた。

 服は着替えなくていいのか? という話になるが、汚れたところで彼女達の着る服はVMC服である。

 衣替えも簡単だ。いくら汚したところで問題はない。

 月丘も手伝って、プリルの助手役なんぞ。


『カズキサン、その検査器とって。そ、それそれ……んしょんしょ』


 ハーケンクロイツの描かれた装甲板を取り除くプリル。作業用コマンドローダーを装着して、力仕事も難なくこなす。

 顔にちょっと油汚れがついてたり。

 お尻をプリンと出して、中に潜り込み、何やら調べている様子……

 月丘も素人ながら、プリルの作業を手伝っていて分かるのは、この機体自体は恐らく地球で作られたものだろうということ。大体からして異星人のオーバーテクノロジーで出来た機体なら、こんな油臭い作業は普通はやらないわけであるからして……


    *    *


 かれこれ一時間半も過ぎるかといったところ。

 プリルも流石技術屋といったところだろうか。こういう作業が好きなのだろう。なんか夢中になって調べている。

 ふと後ろを見ると、スタインベックが一旦退出して、しばらく後、何やら飲み物でも持ってきてくれたようである。えらい気の利くおネエオヤジだ。


「お二人さん、まだ作業するのでしたら、少し一服なさっったら?」

「プリちゃん、スタインベックさんもああ言ってらっしゃるし、ちょっと一休みしたら?」


 なんか奥の方でカチョカチョやってるプリルが、


『あ、もうすぐ作業終わるから、それからいただきます~』

「んじゃ、私達は一息入れてますよ」

『はいはい~』


 月丘もスーツとネクタイを取って、作業手袋はめて本格的にプリルを手伝っていた。

 オットーの助手も色々と手を貸してくれているが、プリルの許可も出たので、後少しは彼女にまかせて他の皆さんはスタインベックの持ってきてくれた冷たい飲み物でもあおって、作業を終了する。


 しばし後、機体頂部のティーガー砲塔キューポラハッチからピコンと顔を覗かせ、モソモソと這い出てくるプリル。

 もう完全に体中油まみれである。お洒落な地球式お洋服もドロドロだ。でも気にしないプリル。


『よっこらしょっと……ニホンのジエータイだったら、「ヨッコイショーイチ」とか言ったらウケるんですよね? で、ヨッコイショーイチって何ですか?』


 ワケのわからんこと言いながら機体から降りてくるプリル。色々なにかわかったようである。


「で、どうでしたか? ミス・プリル。何かわかりまして?」

「うん、そこんとこどう? プリちゃん」


 オットーもプリルのレクチャーを聞こうと、この機体を研究していた仲間達を全員呼んだ。

 折りたたみパイプ椅子を並べて、全員着席状態。研究者達も手にタブレットやらノートやらを持っている。

 月丘とスタインベックも一番前の椅子に座り、その中に入る。


 オットーが言うには、この機体が持ち込まれて色々調べてみても、彼自身実際よくわからない代物なのだと言う話。

 そもそもこの研究所が作られたのは、米国のロズウェル事件が実話だったと公表されたために設立された研究所であるという。で、時のドイツ政府が中心になって、あんなロズウェルのような眉唾ものの事由が事実となれば、ドイツも色々と噂されているオカルトめいたものもあるわけで、そのあたりで何かオーパーツのようなものがないかと過去の異物を探し回ったというところなのだそうだが……


 戦後、当時世界最高峰のドイツ先進科学技術だが、科学技術が進んでいたのは何もドイツだけというわけではない。米国もソ連も、そして日本もそれぞれの得意分野で当時は最先端の技術を持つ国家であった。

 だがドイツの場合、他国と違ったのは『発想』が飛び抜けていた事であった。所謂『斜め上』なのである。

 コンピューターやレーダーといった技術は、結果でいうと米国が先を行ったが、ドイツもその技術は有していた。だが、ドイツは時の国家元首、あの伍長的な発想で、直接武力の軍事技術を優先して求めてしまった。そこが独裁国家の恐ろしいトコロ。

 従って、ジェット技術やロケット技術、戦車の重装甲化に潜水艦の大型高性能化といった、そういう方面で技術力を加速させたわけで、当時で言えば相当に開発リスクの大きい技術を実用化させたもんだから、戦勝国はそういった当時で言えば『SF的』ともいえるドイツの異常技術をこぞって欲しがったわけである。

 これは言い換えれば、『敗者になるかもしれない者の妄想』ともいえるもので、国の旗色が悪いがために、敵が考えもつかないような妄想的攻撃手段を発明、実用化して、起死回生を図ろうという、歴史的に見れば、ある程度国力のある敗北予定者の変わらぬ行動パターンというか、そんな歴史のある意味『お約束』ともいえる行為であるともいえる。 

 第一次世界大戦でも、ドイツはアンモニアを空気から無限に作る方法を発明し、大量の火薬に肥料と毒ガスを製造し、起死回生を図ろうと試みたが、結局敗戦した。

 日本も太平洋戦争で『空母機動部隊』という高度な現代戦略を編み出し、『伊号四〇〇潜』という戦略潜水艦の先駆けを発明し、『神風特別攻撃隊』戦術で、誘導兵器の実用性の高さを見事に証明し、『桜花』という誘導対艦ミサイルの元祖を発明した。でも敗戦した。

 

 即ちこの妄想力というものが、平和になった世で『ロズウェル事件』や『ナチのUFO』みたいな都市伝説を生み出すわけだが……どうやらこの世界、この時代では、一概にそうとはいえない状況が、ヤルバーン飛来事件より噴出しているわけである

    *    *

 油まみれになったプリルは、皆へのレクチャーの前にちょっとお手洗いに行って、PVMCGで着替えと汚れを落としてくる。流石に薄汚れた格好で、みなさんに偉そうにレクチャーするのは失礼ということでそんな感じ。

 

『さて、どこからお話しましょうか?』


 大きなVMCボードの前に立って、プリルがそう言うと、月丘が手を上げて、


「まずは単刀直入にいきましょうプリちゃん、我々地球人からみても、明らかにあの目の前にある変な物体は、我々の知る地球製の、時代相応の兵器というイメージではありません。で、プリちゃんから見た感想はどうですか?」

『はい……装甲材質や、あの武装、電気制御に動力伝達関係の技術は、まあ恐らくハルマ製のものだと思います。それでも私がこの星へやってきてお勉強した技術と比べても、物凄く先進性のある技術で出来ているモノだとは思うんでスけどね』


 するとスタインベックが、


「では、地球の技術レベルでも、相当進んだ『当時技術』だということかしら?」

『うん、そういうことになります。私も発達過程文明の技術はまだお勉強中の身ですから、ケラー・オットーはどう思われます?』

「確かに、ミス・プリルの仰るとおりです。ただ一つ注意が必要なのは、その先進性のある技術は、これに限ったことではありません」


 そう、当時のナチス・ドイツの技術はかなり他国と比べて時代を飛び越した先進性のある技術が多々あったのである。

 ロケット技術は言うに及ばす、ホルテンの全翼航空機技術などは、色々研究を重ね、数十年後には『B-2』爆撃機として、最先端の軍事技術として登場した。なので、『エリア51』という基地も出来たといっていいわけであり、そこでロズウェルのような事件があれば、当然……


「ではプリちゃん、他の部分で……ということで何か?」

『はい。えっと、この兵器の中心部。動力機関デスね。所謂飛行技術というモノですけど……これは間違いなく、斥力発生装置でした。技術系統で言えばティ連系というよりは、やっぱりサマルカさん系の技術に近いですネ』


 なるほどという目をする月丘に、ニヤリと微笑むスタインベック。そして「おお!」と驚きの声を上げるオットーや他技術者達。


『ただデスね……』

「どうしました? プリちゃん」

『この斥力技術なんですケド、どうもその、中核部の反応装置以外の、周辺装置は、コピーした地球製の技術みたいなんですぅ』


 つまり、エネルギーと斥力波動、即ち推進力を発生する装置以外は、みなドイツ製の劣化コピーだという話なのである。


「そうなのですか」

『うん。だから多分……オリジナルがあって然るべきだと思うんだけど……』


 腕くんで考え込む月丘……この話、よくよく経緯を整理すると、えらくとんでもない話になるのではないかと考える彼。

 

「スタインベックさん……」

「何かしら、ミスター」

「これって、当時のナチスが、ロズウェルの異星人。つまりサマルカさんと関連のある異星人と何らかの繋がりを持っていたって話になりますよね、普通に考えたら」

「確かにそうなりますわね、ウフフ」


 何か不敵な笑みを浮かべるスタインベック。その表情を見逃さない月丘。


「ふむ……では、この機体を入手した経緯などをお聞かせいただきたいところなのですが、ちょっと一つ不思議に思うところがありましてね」


 月丘は、この機体の入手の経緯もさることながら、そこにスタインベックのパイドパイパーがなぜに関与してきているか? そこが不思議だと彼に問いかける。

 

「と、言いますと? ミスター・ツキオカ」

「ええ、もしこ機体をこの研究所が独自に入手できるノウハウがあって、ドイツに限らずEU全体で、ゼスタールやティ連に、異星人との関係をプレゼンスする外交的な何かがあれば、別にパイドパイパーが関わらなくても、相応に入手できるはずです。ドイツやEU各国にも優秀な研究機関や、諜報機関はありますからね」


 月丘は『パイドパイパー』と言ってはいるが、要は『インベスター』の事を言いたいわけである。


「ウフフ、流石はニホンのエージェントさんですわね。そこに気づかれましたか?」

「ええ、でなければ貴方がここにいる理由もありません。そろそろ真打ちの情報をお教えいただけませんか?」


 そういうとスタインベックはスックと立ち上がり、アゴを一つ撫でて月丘とプリルに視線を送ると……


「確かにあの不思議な機体を何処からか探し出してきて、今ここで研究しているのはドイツ政府と、EU全体の情報機関の成果であるのは確かですわ。で、お察しの通りその情報を聞きつけて官民合同事業で、莫大な予算のかかるこの技術の解析に投資をしたのは、私達であるのもご承知の通りです……で、なぜ我々パイドパイパーが何処よりも早くこの情報を察知して、この事業に投資し、更にはミスターや、プリルサン達をわざわざ呼んだか……それはね?」


 コホンと一つ咳払い払いをして、机にあった飲み物を口に含むと、


「私達パイドパイパーが、この機体に使われているオリジナルの機関部部品に技術を持っているからですよ、ウフフフ」


 その言葉に「!!!」となる月丘とプリル。なんとな! と……




    *    *




 月丘達がドイツでそんな驚きの事実をスタインベックから聞かされていた頃。

 事由の因果というものは総時間軸に呼応して動き出すものなのだろうか、そんな事態が発生していた……いや、これもインベスター連中の謀略ともいえるのか、そう考えることもできる事態であった。


 総諜対の執務室で、受付の美加と驚きの表情で大型テレビを食い入るように見る白木。

 外務省の大臣執務室で、柏木と共に同じくテレビを食い入るように見るフェルさん大臣。

 厳しい表情で同じく各々の執務室でテレビを見る二藤部情報相に井ノ崎総理。そして三島理事長。


 その内容は、ある意味今後の日本や、UNMSCC諸国の方向性の在り方にも大きな一石を投じる重大な事件であり、世界安全保障にも重大な影響をもたらすであろう事件であった。


 その事態情報を流す各局報道。




『えー、報道センターから、緊急の報道です。只今放送されておりました「かえれまポン!」は後日、改めて放送させていただきます。今入りました情報によりますと、中華人民共和国において、クーデターが発生した模様です。繰り返します。中華人民共和国において、クーデターが発生した模様です……前中国国家主席、張徳懐氏を臨時国家主席に置き、全権を把握したと、中華電視を通じて世界に放送を行っております。現在の中国国家主席の盧港生氏の消息は二ヶ月前から病気説などが流れていましたが、現在も不明で、その点との関連性もどうなのか、日本政府も情報を収集しているということです……このあと17:00から寺川官房長官の緊急会見が行われる予定になっており……』



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 月○ムー大歓喜。公表されたらめちゃ大特集かTV特番が組まれるw [一言] 一抹の不安なのだがコレ宇宙か地底からアドルフ・ヒトラーが蘇って第三帝国卐爆誕とかないよねw?
[良い点] 何というか地球で諸々が一気に動きそうな所。 [気になる点] スタインベックさん達は「最後の大隊」なのだろうかという所。 [一言] 実は機神兵団みたいなのが元々あった訳か。さすがに装甲騎士ま…
[良い点] >『この斥力技術なんですケド、どうもその、中核部の反応装置以外の、周辺装置は、コピーした地球製の技術みたいなんですぅ』  すは 機神兵団!?  碑坊路事変(上海モニュメントロード事件)の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ