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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
45/89

【第七章・再生への道】第四四話『既存の終焉と新たなる始まり(終)』


 『グロウム・ヂラール戦争』が終結して、一ヶ月少しが過ぎた頃……


 地球世界の茶の間に流れる、この事件に関する情報ソースの現状。

 基本はティ連情報データバンク内の防衛総省発表データ群か、同じく情報データバンクの日本政府発表データか、もしくは現在でも地球内や、連合内でも頻繁に閲覧されているインターネットの各関係省庁の発表か。そんなところである。


 一〇年前にヤルバーンが地球世界にやって来た時の事。

 それ以前よりネットの普及でその存在価値を問われていた既存のテレビメディアに新聞などの情報媒体であるが、公共に対する公平な視点での情報発信という義務を放棄し、活動家のような記者個人やデスク、もしくは社内の偏ったイデオロギーを主張する場と化し、いろんな方面で……それが大規模災害のような緊急事態であっても……個人か組織かどうだか知らないが、視聴率に発行部数を確保するための主義主張という『商品』の発表大会を行う場になって、事実であっても、その事象情報を巧妙に加工し、フェイクニュースとして世に飛ばし、そんな事を『生き残り』をかけて正義と主張してやらかすものだから、もう若者から中年に至る世代に完全に見放された存在となっていた時……


 ティ連の掲げる『マスコミ禁止法』と、情報バンクのあり方がトドメとなって死に体の存在となっていたマスコミだが、ティ連中央のアドバイスのおかげで、今現在でもなんとか生きながらえていた……と、そんなティ連のアドバイスもあって、まあこの時代、所謂前時代に言われていた『マス【ゴ】ミ』という連中よりかは随分とマシな存在になってはいた。

 その理由は、ティ連のマスコミ禁止法と日本国内法の整合性を持たせるために、それまで報道に関して無法状態でカオスで野放しであった状況を整備した『報道法』の効果である。


 『報道法』とは何か……


 基本、それまでの日本国と同様に、この国では報道に関して事実上無制限の『自由』がある。

 だが、日本も今やティ連加盟国であるからして、この報道の自由とやらは、全て他のティ連加盟国同様に、その『自由な公開』は、ティ連情報データバンク内か、インターネットの世界に限られるという方針が基本にある。つまり日本国内においても、こういったシステムで供給される情報に関して言えば、この『報道法』には何ら抵触することはない。

 当然情報の正確さ等々は、トーラルシステムが管理する。当然間違った情報ソースや、フェイクニュースは情報データバンクを管理するシステムから警告を受け、従わない場合は削除されてしまうわけなのだから、事実と情報の正確さでいえば、正直ズブの素人が扱うよりは、かなり高度で正確な情報が世に提供されるワケである。

 そんな情報の管理体制がこの日本に持ち込まれると、当然問題となるのが所謂、既存メディアである。つまるところ、双方向ではない一方通行の『テレビ放送』『ラジオ放送』『新聞、週刊誌』といった、情報の価値を商品にしている、まさしくティ連の『マスコミ禁止法』が制定された理念にブッチギリで引っかかる存在だ。

 こういった既存メディアでの活動を職業とする『記者』と呼ばれる職種に代表される、情報をメディアに提供する職業に従事するものへ――無論その中には程度の低いパパラッチや、機関紙のようなイデオロギー的に傾いた情報を、金銭目的で取引する、明確にマスコミ禁止法に抵触する者も含む話で――日本政府とティ連中央は、


『この提案を実践すれば、今まで通りの「日本国内での情報取り扱い事業者」でいさせてやる』


 という条件を提示し、各報道関係者や企業に呑ませ、それを実践していた。

 それが、『報道記者資格免許制度』であった。

 

『報道記者資格免許制度』とは……とある野党議員の提案によって検討され、法制化された制度である。で、その発想の元となる発言内容は……


「この世にいろんな職業があるが、所謂他人のプライバシーを法のもとに『強制』できる職というものが、この地球にはいくつか存在する。その大きなものは、『警察』『消防』『医療』『軍隊』『マスコミ』である。但し、これらの職業の内、マスコミ以外は全て国家ないしは自治体による厳正な資格が必要とされるが、『マスコミ』のみ、報道の自由の名のもとに、その自由が意味を履き違えて「報道の【無法】」となっている。これは非常に大問題である」


 と、こういう発言が元で、このような法律の制定に至る事ができた。もちろんその背景には、ティ連の『マスコミ禁止法』のバックボーンがあっての話なので、この発言だけではこうはならなかっただろう。


 さて、この報道資格免許制度の詳しいシステムはおいおい語るとして、簡潔に言えば、営利目的で報道をする場合の、記者が扱える取材対象のレベルを有資格化したものと思えばいい。つまり、この資格化された報道対象や基準に違反して、営利メディア媒体における記事にした場合、報道資格剥奪や懲役刑を含む刑事訴追されることもあり得るわけである。で、こんな事を言うと、『言論統制ではないか!』と思う人もいるかもしれないが、あくまでこれは『銭金目的で情報を取り扱う連中に対する資格』であって、もし営利目的でない情報発信、つまりティ連のマスコミ禁止法に準じた情報発信であれば、テレビであろうが新聞であろうが、『事実を正確に』発信するという前提で、どんな発信をしても構わないのである。


 と、こうなると、記者はこぞって報道資格免許を取得するようになる。良い悪い関係なく、マスコミやってメシ食ってる連中は、記者、アナウンサー関係なくこの資格がいるのである。しかも国家政治を扱えるような記者資格となると、その試験もメチャクソ高度になるわけで、それまでの記者か活動家かわからんオツムの足りない『自称ジャーナリスト』はボテボテと試験に落ちまくり、お色気だけで社員になっているようなアナウンサーも失業して、おまんまの食い上げになっていくのである。

 

 と、そうなると、この記者資格も当然『マスコミ禁止法』の精神をベースに作られているわけなので、既存メディアも、それまでの『無法化』されたマスコミからは一転して、高度な事実情報に基づいた公共放送、通信業者になっていかざるをえない、つまり自然淘汰されていくわけで、この二〇二云年の世界では、既存メディアもかなり構造改革された存在になりつつあった。


    *    *


 さて、メディアもそんな風になると、如何に事実情報を世間にわかりやすく、可能な限り情報量を多く、しかも正確に発表するかが、高い費用をかけて『記者資格』を取らせてやった社員や外注に求めるものになるわけで、特にテレビメディアなどは、報道番組の時間を大幅に増やし、わけのわからんアイドルまがいのMCは姿を消し……というかむしろ芸能プロダクションもアイドルタレントに、記者資格取得を要求するような現象も起きていた。

 更には、ティ連系日本人にもこの記者資格を有する者が現れて、ティ連の情報データバンク記者精神的な報道情報を既存メディアに提供し、MCもやるような異星人も登場するといった現象も起きている。

 ティ連中央もこの日本での成果を高く評価しており、今後同様の貨幣経済国家と外交を行う際の、マスコミ取り扱いの試金石にしようと、現在の日本の『報道法』を、ティ連憲章化しようという動きもある。

 当然この動きは、地球の日本以外の地域国家に対する対応は元より、現在新たなティ連の同盟国となった、『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』に対する将来的な適用も考えての事でもあった。というのも、グロウム帝国の報道機関も、日本のマスコミに似たような感じだからだそうである。

 

 と、こんな報道法制が確立された連合日本国。当然今後の連合規模の懸案事項となるであろうヂラールの存在は、地球社会でも最大の安全保障対応を要する存在となって、世間に知らされていた……


『本日、ニューヨークの国際連合本部UNMSCC委員会において、井ノ崎内閣総理大臣は、明日開かれるUNMSCC安全保障理事会での、地球外敵対組織の対応において、主に現在は生物災害として認定されている『ヂラール』へのUNMSCC加盟国の連携強化を確認するため、米国、ロシア、EU、中国等主要各国首脳との会談を行いました……』


 『元々こうあるべきな姿』とネットで現在評されるメディアの報道は、一〇年前とは打って変わって事実情報を淡々と報道する姿に変わっている。そこに報道資格を有する相当のコメンテイターが的確な解説を行うわけで、ネット空間でも、


『やっとまともな報道が帰ってきたか』


 と、まあとりあえず現状は認めてくれているようではある。

 ただ、そこはやはり営利企業のメディアの意地とでも言うべきものもあるのだろうか、ある報道番組では、超人気アイドルグループのタレントに、最高報道資格免許の取得をさせる密着企画をやって、合格したそのタレントを報道番組のコメンテイターにしてみたりと、色々工夫をこらしているわけである。


    *    *


 さて……それはそうと先のUNMSCC会合、井ノ崎は総理大臣就任早々の大きな初仕事となるわけだが、現在、通称で『第二国連』と呼ばれているUNMSCCでは、日本はティ連の代表として参画している。つまり日本=ティ連というのがUNMSCCでの日本の立場だ。

 とはいえ、その人員は井ノ崎とその内閣スタッフ周辺というだけではなく、必要に応じてヤルバーン州や、防衛総省からもスタッフを呼び寄せて、種族の顔ぶれ豊かにこの会合へ参加していた……この前は、ザムル系日本人のスタッフが参加して、えらい話題になったこともある……


 と、そんな国連本部に姿を見せるは、コードネーム“シャドウ・アルファ”の月丘和輝の旦那。

 今日は井ノ崎の他、外交、防衛関連の人員はすべてコッチにやってきているので、各スタッフが必要な会合に会談を忙しくやっている。勿論その中には、フェルさん外務大臣に、鈴木防衛相、二藤部情報相らも参加して、各個必要な部会へ出席している。

 月丘は、そんな重鎮先生方の警護官という毎度の名目で、この国連本部へやってきていた。

 といっても、名目とはいえ、今現在は本当に警護官やってる状態で、彼の本来の仕事はまだ発動していないようである。


『ツキオカ生体……』


 と彼に話しかけるは、ネメア・ハモル特危自衛隊出向一佐。彼女は此度、出席スタッフ諸氏のマジもの警護官兼、特危の武官として連れてこられていた。もちろんヂラールの専門家としてという話。

 大使兼業のシビアは、既に二藤部らと共に会合へ連れ回されている。

 といってもネメアサン、流石にあのセクシーな露出度高いお姿というわけにはいかないので、特危の制服を着ている……所属は海上宙間科である。ヤシャ級を扱う都合上、そんな感じ……濃紺の制服姿が、褐色肌や長く白い頭髪眉毛にとてもよく似合う。


「ああ、どうもお疲れさまです、ネメアさん。はは、その制服姿もお似合いですね」

『ふむ、そうか? 肯定的評価には感謝する。だが、我々としてはゼスタールの通常戦闘装備の方が活動しやすい。あの姿での任務遂行を具申したが、トウドウ生体に却下された』

「あ、いや、それは……はは」


 そりゃアタリマエですよと思うツキオカ生体。おそらくスマホ写真撮影大会が、この国連本部で巻き起こったりする可能性がなきにしもあらず。どっかのアラブの首長さんが、息子の嫁にとか言い出しかねないぞと。


『そろそろ時間ではないのか? ツキオカ生体』

「ええ、そうですね。まさか向こうから呼び出しかけてくるとは思ってもいませんでしたから」

『希望するなら、我々も同行するが……』

「ああ、いえ、ネメアさんには私の、まあ名目上ですけど、警護任務を交代してもらうという仕事もありますし、あと、武官さんとしての会合出席もあるでしょうからお気持ちだけで。それにプリちゃんが毎度のごとくサポートしてくれていますので」

『了解した。ではこの場での後は我々が引き継ぐ。任務を遂行せよ』

「すみません」


 ネメアと握手をして、その場を立ち去る月丘。ネメアにとって地球世界はまだこの一ヶ月ぐらいの経験しかないが、なぜか月丘の仕事についての知識はあるようだ。これも恐らくシビアとの情報共有の為せるワザだろう。現在のゼスタール人にしかない特技である。


 月丘と別れたネメアは、即座に部会が開かれている部屋の前に不動の“休め”姿勢で立ち、視線と頭部のみ動かして眼光鋭く警戒モードになる。よくよく考えると、ネメアはゼスタ―ル合議体からの出向とはいえ、一佐殿、つまり高級将校だ。そんな高級将校様が体裁上とはいえ警護官扱いされるのもどうかと思うが、実はこれもネメアが買って出てくれたからという話もある。ま、そもそも戦闘合議体である彼女だ。元々こういう任務が好きなのだろう。それにゼスタ―ルさんには階級の威厳なんてあまり関係ない話だし……そう考えれば、ある意味最高の警護役である。

 そんな褐色肌の白髪白眉毛でナイスバディ。ちょっと耳が尖って特危制服もピッタシフィットな彼女の休め姿勢に、国連関係者はみなして「あのすげー女はなんなんだ」と噂されたりする。多分シエが見てたら対抗心剥き出しにしたりなんかして……


    *    *


 さて、そんなところで国連本部を抜け出し、有名なニューヨーク・タイムズスクエアあたりの、とある有名なビルの前……ちなみに国連本部ビルからタイムズスクエアはさほど距離はない。自転車で軽くいける距離だ……そんな場所で人待ちをする月丘。


『カズキサンカズキサン。本当にくるんですかね?』

「まあ向こうさんも相応の地位にいる方ですからね。すっぽかしはしないでしょう」


 PVMCGに口当てて、小声で会話する月丘。相手はプリルだ。此度も彼のサポートとして、現地点上空数百メートルの、探知偽装かけたヴァルメの目を通して月丘を追っている。彼女の現在の居場所は極秘事項だ。


 暫し待つ……

 ニューヨーク最大の繁華街、所謂ブロードウェイの賑わいが象徴する、米国における自由の象徴のような場所。月丘もこの雰囲気が嫌いではない。これが仕事でなければ久々のこの街を、プリルを誘って散策したいところなのだが……


 そんな事を考えていると、対向車線にロールスロイス・ファントムという、どえらい高級車が停車する。

 「ん?」となる月丘。

 真っ黒のロイスで、古風なグリルイメージに現代の空力学を駆使したデザイン。更にはロールス社も初の海外他社との提携で、トヨハラのヤルバーン技術を利用した浮遊走行ユニットを購入し、自社のロイスに搭載。時速八〇キロを超えると、車輪を引っ込めて、あの古風かつモダンなデザインが浮遊走行するという、そんな仕様の超高級ロイスが月丘の視線の対面に停車している……


 ……ちなみに。ロールス・ロイスには、ゴーストやファントム・レイスといった幽霊関係の言葉が車両に付くので有名だが、この意味は『幽霊のごとく静かで、振動のない走行』を社是として製造されているので、こんな名前がついている。これ豆知識。ってか、トヨハラ。ヤルバーン技術を使えば、そんな幽霊走行も完璧なモノだったりするワケだが……


 月丘は「多分……」と思い。そのスモークガラスで見えないロイスを眺めていると、後部座席の窓がスーッと開き、その中から顔を見せるのは、


 かのインベスター、『エドウィン・スタインベック』であった……


 スタインベックは窓から顔をのぞかせ、月丘に向かって笑顔で会釈すると、クイクイを指を曲げて、『こちらへ来い』と彼を誘う。

 月丘は「フゥ」と一つ息を吐き。片手をポケットに手を入れた状態で頷くと、青になった歩行者信号の横断歩道を渡って、ゆっくりと対面の歩道へと歩いていく。その短い間でも、彼は視線を左右に放ち、周囲を警戒する。

 歩道側からロールスロイスに近づくと、少しガタイの大きい運転手が後部座席のドアを開いて、月丘を車内へ誘おうとする。が、月丘は開いたドアの前に立って少し前かがみになり、


「お久しぶりですね、スタインベックさん」


 月丘は少し首を傾げて、おどけるように挨拶。視線を周囲に向けると、一人、二人……と、軽く確認できるだけでも、五人は彼のボディーガードらしき人物が窺える。


「お久しぶり、ミスター・ツキオカ。ま、そんなところに立ってないで、中へどうぞ。取って食ったりしませんから。こんな高級車に乗れる機会もなかなかないですわよ。私の自慢の車なんですからね」


 一つ吐息を漏らすと、「まぁいいか」なんて感じで、ロールスロイスの後部座席へ対面で座る月丘。

 車内は独特の香料の香りと、革張りシートの匂いが混ざったような、いかにもな高級車独特の匂いが充満する。月丘の社用車である、エスパーダも高級改造車だが、ここまでではない。

 やたらとクッション性が高いというわけでもなく、かといって硬いというわけでもない絶妙の座り心地のシートに腰を沈める。

 運転手が後部座席のドアを閉めると、即座に運転席へ。

 スタインベックは顎を少しクイと上げると、運転手は少しうなずいて、車を発進させる。

 周囲は何事かとスタインベックの車を見送るように視線を投げかけ、後ろからボディガードの黒バンが追随してきた。


「何か飲み物でもいかが?」


 月丘は手で断りのポーズを入れようとすると、


「まあまあ、そんな野暮な事言わずに。言っておきますけど、私は犯罪組織のボスじゃないんですからね」


 月丘は(その紙一重じゃないですか)と心のなかで思いつつも、まあ某ダブルオーナンバーの諜報員でもなし、一応しがない木っ端役人が格好つけてもしゃーないというところで、


「では、アルコール以外のものを」


 そういうと、見事なマンゴージュースなんぞをスタインベックは渡してくれた……いやはや実にうまい。思わず目を見開く月丘。


「で、ミスター・ツキオカ。宇宙では色々ご苦労さまだったみたいですわね」

「……ハァ。貴方のことです、もう知ってらっしゃるのでしょう? 色々と」

「ええ。蛇の道はナントヤラですわ。私達も色々と情報は得ております。そうですわね……グロウム帝国の宗教に纏わるお話なんかも、六本腕の神様に、サマルカさんのお話とか……ウフフ」


 不敵な笑みでそんな話をするスタインベック。

 渋い顔をする月丘。グロウム帝国の情報に関しては、もう既に色々と日本の外務省情報や、マスコミの取材に公表等々で色々と出回ってはいるが、ファヌマ教の某に関しては、まだ正確な情報は公表されていない。これは地球社会の宗教との関係もあってのことで、事が複雑化するのを防ぐためにLNIFも日本もヤルバーン州もまだ公に発表していない話だからである。


(日本から漏れることはないわけですから……LNIFからですね、多分……)


 でも日本の情報セキュリティも疑った方がいいかもともおもう月丘。何分も完璧などいうことはありえないわけで、相手がスタインベック絡みの連中なら色々ヤってくるだろうと。


「ま、ご心配なく。これでも一応国際関係は心得ておりますわ。確かにこのお話は迂闊に世間へ公表するのはやめたほうがいいですわね。経済にも大きな影響を与えます。それは我々『インベスター?』の利益にはなりませんから……って、なかなかにこの『インベスター』ってお名前、気に入ってましてよ、オホホ」


 頷く月丘。彼らは『利益至上主義』の一団であるからして、宗教がらみは正直この手の巨大資本家連中の立場で言えば、あまり関わりたくないのは確かである。その点を理解してくれているのであれば、まあとりあえずOKとする彼。


 車は高速道路に入り、時速八〇キロを超える……するとロイスの車体が浮かび上がり、タイヤを半分引き込むようなギミックで車体を地面から浮かすと、完璧な慣性制御でロイスは地面から十数センチ浮いて、高速走行を開始する。このギミックが、日本のトヨハラがロールスロイスにブラックボックス販売している斥力ユニットの為せる業である。確かにファントムの名に恥じない乗り心地になる。


「スタインベックさん……まあ、貴方ほどの立場の方なら、色々と情報をお持ちであるのはよくわかりました。まあ? その情報の入手については、合法非合法問うても仕方ないのであえてお聞きしませんが、今回私にコンタクトをお取りになったのはどういう用件ですか? もう色々勘ぐっても仕方ないので、単刀直入でいきましょう」

「ウフフ、そうでしょ? 私達と腹のさぐりあいをしたって意味ないってお分かりいただけただけでも嬉しいですわ。余計な想像されるのも鬱陶しいですからねぇ」


 そう言うとスタインベックはシートの腰の座りを直して、息を一つ吐き、


「では、本題といきましょうか、ミスター・ツキオカ? ではまず一つ質問ですけど、あなた達が何ヶ月か三〇〇〇〇光年彼方で、あのヂラールなる宇宙生物と戦っている時、この地球でも色々とあったのですけど、貴方はそれが何かわかりますか?」


 その質問、なるほどスタインベックがそれを言うかと思う。


「確かに……まずはこの車。ブラックボックスとはいえ、日本の斥力モジュール技術を外国へ販売を行ってティ連技術の一部が外国企業に波及しています。同じ現象はロイスに限らず大なり小なりいろんな事例も含めての話で、ですけどね。先程はカフェで空中投影型のモニターを持ったノートPCを扱ってる人を数人見ましたし」


 頷くスタインベック。

 

「そう……かなりのスピードで、ティ連……というよりも、ゼスタール由来かな? まあ、そんな技術がもう相当に市中へ出回っているみたいですね」


 そう月丘が答えると、


「御名答!」とスタインベックは手を叩き、「世界中でもう……そうですね、あの『グロウム・ヂラール戦争』の事件が、逐一ティ連の情報システムに上がり始めて、地球のインターネット網でも閲覧できるようになりだしてから、各国国家の首脳陣というよりも、こういった問題を難なく理解、想像できる若い世代がいろんなメディアを使って……それこそ裸芸からネットニュース番組の創設まで、あらゆるものを使って、各国の『国民』が積極的に会話を行うようになりました……昔ロナルド・レーガン大統領が、『エイリアンが地球を襲えば、米ソは簡単に手を組むことができるだろう』とか、そんな事を仰った事がありましたけど、今この時代、ティ連の来訪に続いてゼスタールさんとの接触。そしてヂラールの存在に同じ天の川銀河のグロウムさんの登場のおかげで、かつてはティ連と日本だけの異次元空間だったお話が、この一〇年で、やっとのことでこの地球世界にも、あの時ニホン国が感じた同じレベルの体験を、我々も経験する事ができるようなりました」

「……」


 スタインベックは一呼吸おいて、


「私達は『利益のみ』が正義として連帯する存在だということは、以前お話しましたわね?」

「ええ、覚えていますよ。ですから『インベスター』なんですよね?」

「まあそうなりますか。で、そう考えると現在の地球の情勢というものは、先のレーガン大統領さんのお話ではありませんけど、ま、我々から見れば、全部『ヂラール』様様というお話になるわけです」

「!? なんですって?」


 また妙なことを言い出したなコイツはと思う月丘。


「ウフフ、ご心配なく。何もヂラールさんにもっと頑張ってもらわないと、なんてそんな事は流石に言いませんから。ですけど……私達がそう思わなくても、世の中そういう方向にどうしても向かって行きますわよね?」

「……何が言いたいのですか?」

「……私達の“知り合い”が、そろそろ仕上げにかかろうかと、そんな話もしているようでしてね」

「!? ……仕上げ?」

「私のお友達のツキオカさんだから、特別大サービスで教えて差し上げますけど……今のUNMSCCを、完全な『国際連邦化』にする方向性で、UNMSCC主要各国は動き出します。それに我々も非公式にですが、手を貸します……私達が『手を貸す』のです。どういう意味かわかりますわよね?」


 つまり、目的の為なら手段を選ばないということだ。言葉通りの意味だろう。


「連合ニホン国が延々と抱えている頭の痛い問題も、我々が手を貸して差し上げます」

「え?」


 ま、言ってみればこれはテロ予告だろう。しかも巧妙に演出された『テロにすら見えないようなテロ』だ。


「普通はこんな事言いませんからね。我々がどこかのスラッシュや、インスペクターなら、ウフフ」


 そんな犯罪予告を堂々とのたまうスタインベックに、ため息一つつく月丘。


「で、そんなトンデモ話を私に振って、何を私にお望みなんですか? こんな一介の小役人を持ち上げたって何も出てきやしませんよ」

「ウフフ、何をおっしゃいますやら……あなた方のお次のお仕事は、『ドイツ絡み』のお仕事なのでしょう?」

「!!?」


 なんでそんな事を知ってるんだ! と焦る月丘。言葉には出さないが、眉と目尻の絞りで自然と表情には出てしまう。なんとも流石にこれはまずいと思う月丘。

 天下の情報省・総諜対内の話、しかもこの間白木としたばっかりの話が筒抜けではないかと。


「なぜその情報を?」


 表情は少し渋いが、冷静に尋ねる月丘。まあ素直に話すわけ無いのはわかっているが、言葉の端々から漏れた経緯を想像してみることはできる。だがスタインベックは月丘の予想に反して、


「ご心配なく。あなた方のお仲間さんからヒューミントしたわけではありませんから。そこは何といいますかね、我々の“テクノロジー”というものですわ。これ以上は申し上げられませけど……とはいえ、正直言いますと、私達もその『ドイツ』というキーワードしかないので、なんの事かはわからないのですけどねぇ~、ウフフ」


 心のなかで舌打ちをする月丘。つまりチョット嵌められたわけである。ドイツのことを知っているような素振りを見せて、実は何のこっちゃ全然知らなかったという次第……やっぱりこのオッサンは食えん奴だと思う月丘。


「ねえ、ミスター? ここは情報交換といきませんか?」

「と言いますと?」

「ぶっちゃけ、ドイツで何をするのですか?」

「それを言う前に、“交換”なんですから、そちらの商品は?」

「あら、何をいってらっしゃいますの? では一体何のためにこのお車に乗ってらっしゃるのかしら?」

「え?」


 つまり、彼らは彼らで、月丘の交換条件……といいうよりは、見せたい物があるという話。つまりお膳立てはもう済んでいるのである。(何が情報交換ですか)と思う月丘。


「はぁ……わかりましたよ。もうあなた方は一体何を考えてるのかさっぱりわかりませんね」

「あらあら、世界と人類のより良い未来の事に決まってるじゃないですか」


 (別の意味で、)という但し書きが付くんだろうと思う月丘だが、確かに彼らは『表立って』の犯罪行動はみせていない。勿論、ウラで何やってるかわからないが、それでもウラでなにかやる分には、彼ら『元ガーグ』なら、相応の後ろ盾を立ててやっているはずである。犯罪行為をしていても、行為とは別にその後ろ盾の力で犯罪とはならない方法でやるはずだ。

 まあそう考えると、スタインベックの言う『人類のよりよい未来』の話も、あながち嘘ではないとはいえる。


「では、お話いただけますか?」

「……ええ。とはいっても私達もまだ何もわかってない話でしてね。その点はあなたの引っ掛け話とさほど変わりませんよ。ただ……そのドイツ絡みで異星人となれば、まあどう思っていいかわからない話も、先日のグロウム帝国と、その宗教関連の話も絡んで……ね……そっちのオカルト的な話もどうやら何か現実性がある話になってくるといったところなんですよ」


 するとスタインベックは、眉につばもつけずに、


「ミスターの言いたいことは、もしかしてナチス絡みのお話ですか?」


 すると月丘は、スタインベックが真面目な顔で、そんな事を聞き返してくるものだから


「え、ええ……」と少々狼狽する。

 

 スタインベックは顎に手を当てて、真剣な表情で何かを考えたあと……


「で、ミスターはそのお仕事のためにドイツのどちらへ?」

「あるドイツの航空機メーカーへ、そこでドイツ連邦政府の考古学研究チームと話をします」


 その話を聞いて頷くスタインベック。

 しばし瞑目し、何かを考えた後、スタインベックは運転手に元の場所へ戻るように指示をする。

 

「? どうしたのですかスタインベックさん」

「いえ、今のお言葉で少々思うところがありましてね……ふむ、今日はこのあたりでお別れすることと致しましょうか」

「えっ? ちょっと待ってください。情報交換ではなかったのですかぁ? なんか一方的に私がこんな車に乗せられて、監禁されて、内部情報をインベスターさんにペラペラしゃべっただけみたいになってしまってるじゃないですか」


 月丘の少々おどけた言い方にスタインベックは、


「ホホホ、ごめんなさいね。大丈夫ですよ、私は嘘はつきません。交換情報は必ずお教えします。良いものをね。でもちょっと今は思うところができちゃいましてね」


 そんな事を言われて、ロールスロイスは行きの待ち合わせ場所から少し離れた大きなビルの前に停車する。


「本当にお願いしますよ、スタインベックさん」

「わかってますよ。で、ちょっと話は違うのですけど一言お伝え致しておきますわ」

「?」

「私達の仲間も色々独自に動いていましてね。ま、先日も申しましたけど、世界統合の動きも活発化していきます。少々無茶な方法も絡んで……というところもありますけどね」

「まさか……UNMSCC内部に手を回しているのですか?」

「さぁ? どうなのでしょう? 私達も以前は“ガーグ”なんて呼ばれた身ですから、ご存知の通り、繋がっているところと知らないところも多々あります。まあですが、仰るとおりの事をやっている仲間もいるのは確かでしょうね」


 これについてスタインベックは嘘はいっていないだろう。暴力団組織でも同じである。系列の組織は個別に動いてシノギを稼いでいるわけで、その行動を軍隊のごとくいちいち細かいところまで組織全体に報告するわけでもあるまい。


「ま、そういうことで今後の報道なんかもよく注視してくださいね」


 頷く月丘……で、彼は車を降りると、降り際にスタインベックが、


「あ、そうそう、今日はお付合い下さったお礼に、このホテルでお泊りになってくださいね」


 と、漆黒のカードキーをポンと渡される。振り向いてよく見れば、今立っている場所は、ニューヨークでも屈指の高級ホテルの前だった。


「あなたの異星のフィアンセもいらっしゃるのでしょ? ご一緒にどうぞ。ホホホ」

「え!? いや、なぜそんなことを知ってるのですか!?」

「私はなんでも知っていますよ。ミスター・ツキオカ」

「はぁ……参りましたね……」

「ウフフ、ではそういうことで。交換の情報については、然るべき時にきちんとお渡し致しますから、お楽しみに。ではごきげんよう」


 そういうとスタインベックは手をピラと振って、行ってしまった。

 あとに残されたのは、このホテルのブラックカードのみ。使って良いものやら悪いものやら。月丘さんは一応公務員であるからして、贈収賄にならんかねと思う彼。

 でも、まあこんな事もあるのは諜報員としては普通の事なので、情報省実働部隊員には、こういった贈答物を受け取る資格も与えられている。もちろん後の報告は必要だが。


「プリちゃん、聞こえてます?」

『ハイハイ! みんなモニターしてましたよっ。で、で、そのカード、どうするんですかっ?』


 なんかウキウキな期待感満載で問うプリ子


「はは、まあ無駄にするのも今後のあの方との関係もありますのでね。折角だから今日の仕事終わったら、ここで一泊させてもらいましょうか。二人用のスイートみたいですし、プリちゃんも来る?」

『行く行くいきま~ス。んじゃね、待ち合わせ場所は……』


 で、今日はこの高級ホテルで一泊することになった月丘とプリル。だがなんと……そのホテルの一室、一泊日本円で約一二〇万円はするお部屋。さすがの月丘さんにプリ子さんも「ほへ~」となった次第……これ情報省のエージェントでなかったら、大変な事になってますよ、みたいな……

と、今夜はスタインベックさんのご厚意に甘えて、ま、色々高価なお酒をいただいたり、お料理をいただいたりと、これ全部セットなので、まあそんなところ。もちろん昨今同棲している二人であるからして、まあ月丘もプリ子も男女関係な事はやってるわけなのだが、流石にこの部屋ではそれは控えた。でもダブルベッドなのでそこは仕方がない。

 どこかに隠しカメラが……なんてのはプリ子科学でどうとでも発見できるけど、一応任務中なのでこの部屋に泊まってるのも、まあお付き合いの意味あるわけなので、といったところ……


    *    *


 さて、そんなスタインベックのサービスもとりあえず堪能した二人。

 次の日、朝早くホテルをチェックアウトして次の目的地、ドイツに飛ぶ準備をする。


「プリちゃんは、今回のサポート任務、サマルカさんの在米大使館間借りしてやってたんでしょ?」


 なんと! ニューヨークにあったサマルカの在米連絡事務所は、大使館に昇格していたのだ。つまり米国とサマルカの独自外交がティ連本部より正式に認められたという事である。

 その理由は、今回のグロウム帝国の一件で、地球におけるサマルカ関係の資料が最も豊富に揃っている米国との関係を重要視したサマルカは、イゼイラと日本とティ連本部に独自外交権の認可を申請したのである。

 で、もうサマルカの連絡事務所が設立されて一〇年以上も経つわけなので、特に日本との関係も普通に恙無くやってるし、LNIFの主要国家でもあるという点で、何か事があった場合は日本と共同で当たるという条件付きで、独自外交権が認可され、大使館創設の運びとなったわけである。


『うん。ティ連関係の機材は一通り揃ってたから、やりやすかったよ』

「なるほどね……」


 月丘はそんな仕事の話をしながら、ホテルから少し離れると、スマートフォン状のデバイスをPVMCGで造成し、画面をトントンと叩いている。すると……何処からかエスパーダが無人状態でやってきた。こいつは例の香港で使った総諜対仕様のエスパーダである。

 今この時代でも無人自動車は珍しい。

 既に路線バスや、半路線型タクシーなどでは運用が始まっているが、個人所有の自動運転車はまだまだ普及していない。スタインベックの乗っているロールス・ロイスクラスでなければ市販はしていない現状だ。

 つまり、燃料電池自動車がバカ高い高級車だった頃と同じような状況がこの時代の自動運転車事情であるわけで、月丘エスパーダのような官費で調達されたお車でなければ、まだ一般人の手の届く代物ではないわけである。

 そんな車が人を載せずに月丘の前に走ってきて停車するわけであるからして、それを見る米国人の達の好奇心は如何程のものかという話である。しかもこの無人自動車の制御機構は、完全ティ連トランスポーター仕様だ。


「それじゃ私はスケジュール通りドイツへ行きますけど、プリちゃんはどうすのですか?」

 

 するとプリルは小声で月丘に耳打ちするように、


『(私はサマルカ大使館に寄って、米軍基地からフォーラに乗ってタイヘイヨウ上で待機している「ふそう」と合流します。それから「ふそう」でエウロパ地方へ行く事になっています)』


 すると月丘は、


「(では、次のプリちゃんのサポートは『ふそう』から?)」

『(ですです)』


 ふむという表情をして月丘は、


「ということは特危も協力してくれているということか……」

『ということになりますね……で、カズキサンは?』

「私はこれから国連本部に寄って、シビアさんを拾ってからこの車といっしょに米軍の輸送機を間借りして、ドイツへ飛びます。はは、今回はプリちゃんの方が快適な移動になるかな?」


 とそんなスケジュールの確認をして、プリルと月丘は別行動を取る。

 米国でもティ連人は珍しくなくなったが、ディスカール人はまだ珍しいレア種族の範疇だ。なのでちょっかいかけられても困るので、エスパーダの中でキグルミシステムを作動させ、日本人……というか、容姿的には西洋人に近いので、西洋人モードになって街の雑踏へ姿を同化させるプリル。

 その背中を確認すると、月丘も車を走らせた……


    *    *


 ティ連防衛総省長官・柏木真人と外務大臣のフェルは、情報省内務局局長であり、総諜対班長でもある白木崇雄から呼び出しを食らい、今情報省の接客室にいた。

 とはいえ、『情報省』の接客室なので、単にお客さんを呼ぶだけの部屋というわけではない。そこは映画やテレビドラマなんぞでもよく見る、所謂『ヒューミント』用の部屋でもある。

 一見豪華に見えて、そこら中に隠しカメラに隠しマイク、更には隠しセンサーの如きものまであって、何らかの情報提供者の取り扱いなんぞもこの部屋で行われる。

 そんな部屋に連れてこられて待機する柏木とフェルに白木……暫し待つと、中に入ってくる者アリ。


「よう、待たせたな」


 特危自衛隊一等特佐の大見であった。「おう」と挨拶する柏木達。で勿論彼一人というわけではなく、後に続くは……


『……』


 無言で入室するは、ゼスタ―ル月面基地司令のゲルナー・バントであった。

 白木に柏木、フェルは起立して礼。


「ようこそ、よくいらっしゃいましたゲルナー司令。どうですかな? 惑星地球は」


 そう、ゲルナーは月基地に来てこの方、地球に上陸するのは初めてなのであった。


『白木生体、我々をニホン政体のインテリジェンス本部へ招待したことを評価する』

「なに、大したことありませんわ。というか司令も月基地にこもってばっかりいないで、たまにゃ休みとって地球でゆっくりすりゃいいじゃないですか」


 白木もゼスタール人が、そんな事するわけもないのに、冗談でんな話を振ってみたり。すると意外なことに、


『白木生体の提言、考慮に値すると合議体は決議した。提案を評価する』

「ありゃ、さいですか、ははは」


 横でそんなやり取りを見て、柏木とフェルに大見は笑っていた。


「はは……で、ゲルナー司令、私も一応白木から報告書はもらって、今日の件、ちょっと驚いているのですが」


 するとフェルと大見も、


『ソウですね。サマルカサンの一件が、グロウム帝国の一件と絡んで来たことにもカナリ驚いているでスけど、まさかゼスタールサンの情報網にこの件がひっかかるとハ』

「ええそうですな。というか、ゲルナー司令らゼスタール人の方々には、このサマルカの一件は本来何の関係もない話でしょうし」


 するとゲルナーも大見の言葉に頷いて、


『肯定。我々合議体も、論理的な因果相関率では計算できない奇妙な経験をしていると考えている。実に興味深い現象である』


 要するに、『世の中狭いでんな』という事だ。


「で、フェルさ、今日ネリナ提督はお呼びになってないの?」と柏木がフェルに尋ねると、

『ハイ、マアとりあえずはニホン国……というよりか、連合の問題でもありますので、私達の方で話をまとめてからジェルダー・ネリナにお話をもっていかないと』


 大見もフェルの話に納得して、


「まあ当然だろうな。今回の件でグロウムは同盟国になったとはいえ、連合主権ではない。一応まだ『他国』だ。安保上の情報なんかも含んでしまった話を迂闊に他国の武官に聞かせるわけにはいかんしな」

「なるほどね。そりゃ確かにそうだ……で、ネリナ提督にはその点説明は? フェル」

『ハイしてますよマサトサン。ジェルダー・ネリナもこちらの話がまとまるまで待ちまスですって』


 柏木は頷くと、「ではゲルナー司令、お願いできますか? 話を進めましょう」

『了解した』というと、ゲルナーは扉の方へ首だけ向けて、『アイスナー・カルバレータ。件の人物を入室させよ』


 そう言うと、なんと、かの元ブンデス。アメリカ社副社長“リヒャルト・アイスナー”が、カルバレータ体。つまり仮想生命体となって現れた。で、彼は誰かを連れ伴っているのであった。


『お久しぶりですな、みなさん』

「アイスナーさん、お元気そうで……って、え? ど、どなたですかその方は!?」


 アイスナーが丁寧に扱っている人物? って、一応知的生命体なのだから、『人物』でいいのだろうが……

 だが、その人物の姿を見たフェルは思わず


『アー! カワイイですn、あ、イヤ、コホンゲホゲホ』


 そんな対応……柏木も、


「いや、まさか! はは、この種族さんですか……これは初めまして」


 と挨拶なんぞを……


 さて、そのアイスナーが伴う人物。それは誰かと言うと、


『この人物は。惑星シャハーミットのガルムア族国戦士総長の、ジャン・バップ・カルバレータである。認識せよ』


 とゲルナーが紹介。


「はは。いや、認識せよって……うーん……」


 その種族とは、以前瀬戸智子とメイラ達が調査へ赴いた時に観せられた、彼らゼスタールが宇宙の防人としてヂラール共からある惑星を守っていた映像に登場した……あのモフモフ種族サンなのであった!!


『_)(&(@#$%^&**%$##』


 甲高い声で早口のように話すその人物。アイスナーが平手で制し、彼の腕にPVMCGを取り付ける。


『)^*(&*……われは、ガルムアのせんし、サホールのむすこにして、アセワートのちをひくもの、ジャン・バップである……良く見知り置くように』


 胸を張って語るその人物、容姿はモフモフに何やら装飾用の衣服を纏い、勲章をたくさんつけ、軍帽のようなものを被っている。見た感じ、所謂リスかうさぎか、ネズミかカピバラか……そのあたり系の動物が、商店街の直立のぬいぐるみになったような、そんな容姿であった。ただ文明水準は低いようではある。見た感じ、胸を張って威厳は一人前のような感じ。但し……


「司令、この方も報告書にあった、スールでカルバレータな方なんですよね」と柏木が問うと、

『肯定。状況はアイスナー・カルバレータと同じである。我々のような合議体としてのカルバレータではない』


 頷く柏木。所謂彼らが何らかの理由で『保護』した元肉体を持った知的生命体だということである。

 つまり、以前の月面基地での調査で、クロードが危惧した、彼ら種族の『救世主』のような存在になった人物だろう。つまり、目の前の人物は、カルバレータ即ちコアにVMC技術の肉体を纏った人物だということである。


「さあ、ともかくみなさん揃ったところで始めましょうや、どうぞお掛けください」


 白木は面子が揃ったとみるや。円卓状に配置された指定席へ各々腰掛けていく。

 とりあえず先にゼスタール側の紹介は済んでしまったので、着席と同時に今度は日本側の自己紹介を滞りなく済ませる。此度、アイスナーはこのジャン・バップなる人物の世話人としてやってきているという話。ゲルナーから頼まれたのだという。というのも、こういう存在になってしまったとはいえ、文明的には地球で喩えるなら一九世紀ぐらいの文明人である。まだまだ色々わからないところはあるのだろう。


「んじゃ柏木、どうする? 一応グロウムの外交管轄は日本政府にあるから、こっちが話を進めようか?」

「そうだな、って白木もそう思うからフェルを呼んだんだろ?」

「そういうこと……んじゃフェルフェリア大臣、お願いできますか?」

『ハイ、そうでスね……では、時間もありまセンし、単刀直入に参りましょうか……ジャン・バップ閣下……』

『ふぇるふぇりあ大臣とやら。我のことはバップでよい』

『そうですか、それは恐れ入ります。ではバップ閣下。私達は所謂、宇宙の星々そのものが国家となっている存在が、連合を組んでいる組織なのですが、それはご理解いただけますか?』

『しんぱいない。宇宙の科学はわれわれもゆうしている。われは軍人なので専門ではないが、ゼスタールの民と同志になって以降、そのあたりのぶんやのけんきゅうもしてきた。気遣いは無用である』


 どうも翻訳装置がまだ、このガルムア人の語彙をうまく翻訳しきれていないようで、こんな愛想もない言葉で出力されている。でも語っている本人は、笑顔も見せるし。普通に喋っているような感じではある。まあ時間が経てば、そのうち普通に翻訳できるようになるだろう。


『アリガトウございます、閣下。では、閣下のガルムア族国ですか? 恐らくこれは我々の言う「地域国家」の事だと思うのですが、大きな単位で言えば、惑星シャハーミット人の方々は、このような方々をご存知でしょうか?』


 フェルはVMCボードに、月丘達が収集してきた映像情報の一つ、あの寺院で撮影した壁画に描かれた『六本腕の存在』をバップに観せた。その資料には、日本で作成された、所謂『想像図』の類の鮮明なイラストも添えて、バップに閲覧させた――ちなみにイラストは、山代アニメのイラストレーターに壁画の絵をクリンナップしてもらったらしい。即ちアニメ調の絵であったり。ソッチのほうがわかりやすいだろという柏木の指示――。


『うむ、ゲルナー司令からはなしをきいたとき、我々もおどろいた。これはわれわれの世界にかつて存在したと言われている、ペルロード人の姿そっくりではないかとな』

『ペルロード人?』

『うむ……』


 バップ総長の話を聞くに、彼らの星で、今から大体二〇〇年ほど昔、彼らの惑星の、所謂『秘境』と呼ばれるような場所に『一時期』ではあるが、存在したといわれている種族だったそうだ。

 これは惑星シャハーミットに存在する全ての国家が文献記録として何らかの形で持っている話で、個人から組織に至るまで彼らと接触した記録も事細かに残っているため、伝説や言い伝えのような類の話ではないのだろうとバップは話す。


『彼らは、自分達の居留地には決して人を寄せ付けず、国と言うには小さな組織だったようだが、強力なぐんじりょくをゆうしていたようで、かなり異端の存在であったときろくされているが、今このような立場にになってみれば、おそらく「異星人」といわれる類の存在だったのだろうと理解できるな』


 頷くフェルに柏木達。

 そしてバップの説明では、シャハーミットの民が、今のような、即ち一九世紀レベルの技術を得られるようになったのも、彼らとの交易があっての話で、丁度その時期に彼らの世界でも機械文明化が進んでいった時期だったのだという話。

 ただ……その次に出た話が深刻で、


『……ただ、このペルロードの民は、その二〇〇周期まえをさかいに、忽然と姿を消した。これが関連性があるかどうかはわからないが、われわれがあの化物ドモと戦って、もう一〇周期になる。そして丁度五周期ほどまえに、ゼスタールの同志が我々を助けてくれた』


 ふむ……と話を聞く日本スタッフ諸氏。バップの話では、此度ゲルナーから話を振られるまでは、彼らの歴史としてはもう二〇〇年ほども昔の話なので、彼らの重要な歴史としての話ではあったが、今のヂラールと戦闘している状況下では気にもとめていなかった話だったという事であった。


『ナルホド、よく解りました。ありがとうございますデス。では最後に……』とフェルは自分の鞄からスマートフォンを取り出して、セルカッツと自撮りした写真を表示すると、『この種族に見覚えはアリマスか? もしくはあなた方の、そのペルロード人と言われる方々と関連性があるとか……』


 するとバップはそこも既に『話は聞いている』という感じで、


『うむ、その件もゲルナー司令より聞いている。その種族も存じておる。われわれのきろくでは、その容姿の存在は、ぺるろーどの民に付き従う使用人のような存在であったと書かれておるな』


 口を尖らせてその話を聞く柏木。白木や大見と視線を合わせる。

 所謂伝説や、伝承の類ではなく、彼らの近現代史としてその記録があるのだとなれば、これは相当に信憑性の高い資料である。グロウムの場合だと、あまりに歴史が古い話なので、もう宗教化して『ファヌマ教』というイデオロギーになったと考えれば、この二つを比較することには大いに意義があると思う柏木達であった……


    *    *


 その後、三時間ほどバップ総長と会談をもった日本スタッフ。彼が次に自国へ顕現する際に、この手の資料をPVMCGで複製してもらえるように約束を取り付けた。

 

 で、その後の話だが……


「なに? んでバップ総長さん、あのあと、俺が先にヴェルデオ知事との会談で抜けてから、あのお姿で日本の内地を見学したいって言って、んで行ったわけ!?」


 自宅でビールのコップもってそんな話を聞かされる柏木長官……居間から姫ちゃんがアニメ見てるテレビの音がする。


『ソデス。ウフフフフ……なかなかに楽しい観光だったみたいでスよ』


 フェルもお付き添いで一緒に行ったらしい。ってか、ゲルナーも『我々も行く』とか言って付いてきたそうだ。急遽大見と白木が特危と情報省のスタッフを編成して護衛に付き、大忙しだったらしい。


 ぽわわ~んと想像膨らませる柏木。生ぬいぐるみが軍服着て渋谷あたりを闊歩するようなものである。なんか昔『ふもっふ~』とかいうアニメがあったが、あんな感じか?


「あー、俺もその場を見たかったなぁ。ある意味デヌ閣下以上のインパクトがあるような感じが……」


 ビールを飲み干し、そんな冗談なんぞ。

 バップ総長、なんか一杯買い物して帰ったらしい。もちろん費用はヤルバーン州政府が持ってくれた。

 一般市民からも大人気であったそうな……そんなのがマジモノの異星人だとは最初皆思わなかったらしい。


「はは、まあでもあのガルムア人さんでも、文明レベルで言えば、当初のハイラ人よりは進んでいるんだからな。なんともティ連と接触したり、そのペルロードとかいう文明人と接触したり、ゼスさんと接触したり、なんか俺達もそうだけど、一〇年前からなんか文明の歴史も何もあったもんじゃなーな」


 とそんな事を話すと、フェルも、


『ソレを言うなら私達も同じですヨ。元々それがあってヤルマルティアに来たんですからネ』


 そうか、そうだねと変に納得する柏木……だが……


 自分で言っておいて何だが、と思いつつ、その一連の話で……




 なにか引っかかる感覚を覚える柏木だったのだが、その時はアルコールがその感覚を鈍らせてしまっていたのであった……




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この作品世界で報道機関で働こうとする者は少なくとも複数の新聞を定期購読で毎日読み込み、授業も身代わり依頼する事も無い真面目な学園生活を送ってから「報道記者資格免許」を受験する風景が想像される。 作品世…
[良い点] 嗚呼、バップ閣下のイラストが見た〜い。 書籍で見られるのはまだまだ先なのだろうか。 モフモフ軍人さんは最高ですよ。 いや、ゼスタールさん達が登場すればワンチャンあるか。 ジラールと戦ってい…
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