表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
33/89

【第五章・攻勢 ー終ー 】 第三二話 『マスターヂラール』

 

「こ、これはなんとも……どこかで見た光景というか、シチュエーションというか……」

『? 疑問。ツキオカ生体は、現状と同様の状況に遭遇した経験があるのか? 惑星チキュウに於ける知的生命体で、この状況を経験しているという事実が実に興味深い。説明せよ』

「あ、シビアさん。実際に体験したわけじゃなくてですね、何というか、まあ……どう言ったらいいのかなぁ……この景色は、大体の地球人全員が知っているというか何というか……」

『? チキュウ人全員が? 益々興味深い。極めて重要な情報である。重ねて説明を要請する』


 いやだからとか、何と言いましょうかと困ったサンになる情報省・月丘三等諜報正であり、特危自衛隊出向臨時三等特佐。

 天井から不気味な形状の繭かコクーンか卵か? 地上にも一面にその手のものが転がっている。 そんなのが眼前にある光景。更に月丘はあまりお目にかかりたくないものまで見てしまう。


「シビアさん、これは……」

『恐らく状況から予想できるのは、このヂラール敵性体に寄生された知的生命体だと思われる』

「ということは、大見一佐達が以前見たというあの捕食器官以外に、この手の場所に拉致された人々が放り込まれて……というわけか……」


 これは報告せねばと、状況記録を取りはじめる月丘。


『我々にとってもこの状況は新しい情報である。全スールも非常に興味深く情報を共有している。アルド・レムラーからも、可能であれば詳しい調査を希望する旨、今意思を受け取った』

「そうですか。現状作戦の都合上、そうも言っていられないのですが……でもここで無理に突っ込んで行ってもあまり良い結果は出そうにないですし」

『アルド・レムラーの意思はともかく、我々シビア・ルーラの合議体もその意見には賛成である。現状の任務を遂行する方が優先度が高いと、アルド・レムラーに進言した』

「で、お返事は?」

『肯定する。とのことだ』

「それは良かった。ですが闇雲でってのもいけませんから、慎重にいきましょう」

『了解』


 ということで、月丘はしばしの間、慎重に進みながら記録を取りつつ、随時樫本に転送することにする。どっちにしろここまでくれば中心部には進行しなければならないのであるから、否が応でも新しい状況の情報は取得できるだろう。

 ……月丘は専用サイドカー型機動兵器を自動追尾モードにして月丘とシビアの徒歩に合わせてペットのごとく追随させる。シビアは首を左右へ機械的に振りつつ、状況を警戒しながら月丘の後を歩く……


「ん? あれは……」


 比較的新しい卵を発見した。その卵は大きさで言えばバスケットボールほど。てっぺんが割れている。


「覗いたほうが良いのか悪いのか……他の卵は風化しているものがほとんどですが、これは比較的新しいですし……あー、やっぱ調査しないといけないのかなぁ……」

『疑問。あの破損した卵を調査することが、そこまで危険な事なのか? 説明せよ』


 月丘……というか、全地球人類的に考えれば、あの中を覗き込んだ途端に手の形した妙な生き物が顔面にへばりついて、なーんて構図も刷り込まれているわけであるからして。


『お前が躊躇するなら、我々が調査する』

「あー、いえいえいえ、私がやりますって! カウサのカルバレータさんとはいえ、女の子にやらせたら、あとでプリちゃんに殴られかねませんからね、ハハ……」


 そういうと月丘は頭部ヘルメットをしっかり装着し、シールドを全開にして、電磁波等々に反応してもいけないという事でコマンドローダーの通信も切り、というか、いきなり通信が入ったらビックラこくので通信も切り、その卵をそ~っと覗き込む……

 丁度割れた部分のてっぺんちょに視線が差し掛かった頃……



『ツキオカ生体!!!』

「どわああああああああ!」


 背後からでかい声で彼を呼ぶシビア。


「ななな、なんですかっ!」

『カシモト生体から連絡』


 サイドカー付属のインカムを取って彼に渡すシビア。ってか、


「シビアさん……わかってやってるでしょ実は……情緒が欠落してるなんて嘘じゃないんですか?」

『ツキオカ生体の言動が理解できない。後ほど詳細な説明を求める』


 なんか最近シビアに妙な個性がでてきたなぁと思う月丘。インカム取ってカシモトと話す。

 まあ結局先程の卵は普通に中身空っぽだったわけで、特筆することは特にナシ。


『月丘君、コマンドローダーの通信が繋がらないが、どうしたんだ?』

「あ、え、いや、すみません、今ちょっと調査の関係で通信を切ってまして、で、何でしょうか?」

『今、君の位置をトレースしたが、かなり中心部に食い込んでるな。で、どんな感じだ?』

「はい、私ももうちょっと状況データがまとまってからご連絡差し上げようと思ってたのですが……」


 月丘は先のあまりよろしくない状況を報告する。更に現状自分達が置かれている状況も。


『なんだって!? そんなものがあるのか!』

「はい……私も資料で見ましたが、その捕食器官というモノとは別に、卵のエサなんて言いかたはしたくはないのですが……」

『なら君達も今真っ只中という事じゃないか、今すぐ撤退しろ!』

「あいえ、このまま進みます。恐らくその『頭』も近いのではと睨んでいます。対探知偽装も有効ですし、緊急転送信号も繋がっていますから、いざとなれば転送で脱出もできますし、実際ここまで来て引くのも、もったいないですしね……」


 シビアを見ると、彼女も頷いている。


「……シビアさんも賛成してくれています」

『ふぅ……わかった。だが、目的の状況になったら、すぐに連絡を入れてくれ。これだけはくれぐれも頼むぞ』

「もちろんです。了解しました」


 通信を切る月丘。インカムをサイドカー型機動兵器に格納すると、


「ではシビアさん、行きましょうか」


 頷くシビア。月丘はコマンドローダーに装備された斥力銃リパルションガンを取り出し、両手で構えつつ、周囲を警戒しながら進む。

 シビアがサーチしたところ、今この空間を埋め尽くしている相当数の卵は、もう孵化してしまっているか、生まれたての新しいものか、ほとんどがそんなものばかりだという話。

 

「ホントに大丈夫ですかね? シビアさん……この数の卵が一斉に孵化して、こちらに襲いかかってきたら大事ですよ」

『状況は理解している。だが、現状は安心してよい。先に我々が分析した通りだ。生体的に解析しても、すぐに孵化して我々に襲いかかるというような事態は考えにくい。だが、個々の孵化した後の生体、ないしは、当然このような生体的な兵器量産拠点に存在すると思われる警護型敵性体を警戒する必要はあるが』

「確かにそのとおりですね」


 月丘もシビアの意見に同意しつつ、四方を警戒しつつ中心部に向かって進む。

 少し腰をかがめて銃を構えつつ、銃の下部に備え付けられたライトを照らしつつ前進する。

 シビアは仮想生命体なので、そのあたりは堂々としたもので、月丘のような警戒モードとは無縁の背筋を張った徒歩で、彼の後に続く……


 ……やはりところどころにヂラールとは違った生物の、白骨化して、何かの樹脂に固められたような遺体が目につく。正直気持ちの良い光景ではない。だが、彼の装着する白銀色のコマンドローダーのおかげで、一つ装甲を隔てた向こう側の風景として、彼もまだ安心して平常心で任務を遂行できる。

 これが生身の戦闘服姿での任務なら、彼もその嫌悪感は凄まじいものになっていただろう。

 ということで、また暫し前進する二人。

 シビアとサイドカーが付いてきているか確認するために振り返ると……

 シビアが一瞬横を向いた時! 


「シビアさ……うわああああぁあぁぁああっ!」

『? どうしたツキオカ生体』

「シビアさん、背中背中っ!」

『??』


 シビアの背中にいつの間にかヂラールの幼生体と思われる、不気味なA3紙ぐらいの大きさの甲殻動物がへばりついているのを目撃する。


「シビアさん、今取ります! じっとして……って、え゛? ……」


 シビアは月丘の慎重を求める言動を意にも介さず、背中の幼生体をむんずと掴み、ベリリと強引に剥がす。

 背中の衣装や皮膚が、幼生体の掴みかかっていた面積分、一瞬剥がれ落ちるが、即座に再生。まあ当たり前の話だが、仮想造成素体なので、シビアもだからどうしたという感じである。

 幼生体も勝手が違うのかピーピー言って暴れるが、彼女が鷲掴みにしたそれをマジマジ眺めた後、ゼル端子を這わせ、簀巻きにした後、グルグルに丸めて無慈悲にポイと投げ捨てて、指先ブラスターでジュンと抹消する。


『問題ない。任務続行。行こう、ツキオカ生体』


 何ら動揺する事なく、お澄まし顔のシビアさん。まそりゃ確かにスールでカウサなコアと仮想造成素体のボディーなら気にする必要もないわけなのでしょうが……まあすごいもんだと、呆れ半分で首を傾げて感心したり……確かにゼスタール人であれば、情緒性が希薄な種族だからこその利点もあるものなのかと月丘も感心したりするわけである。

 ということで、コロニー中央部へ更に近づく月丘達。だがやはり彼らの行動が、生体兵器故の危機意識と防衛本能を刺激したのか、ヂラール全体の行動変化とともに、各部隊も若干の行動の修正を迫られるのであった……


    *    *


「樫本隊長! ヂラールが引き上げていきます!」

『なに?』


 現在、全作戦部隊の中で、最も前に出ている特危自衛隊の樫本隊。

 先の通り月丘達を先行偵察で送り出した後、やはり彼らもヂラール群体と会敵してしまった。

 勿論樫本隊の目的も、他の部隊同様に『ハイ端子』モジュール設置が主目的であり、また、ヂラールの捕食器官の探索と、そこに囚われているグロウム人がいた場合の救助も重要任務に含まれる。

 当然そのような場所で作戦を行うのであるからして、樫本隊も遅ればせながらヂラールと交戦する事になるのだが、他部隊と比べて最も遅くヂラールと会敵してしまったが故に、最も濃度の高い敵部隊と鉢合わせてしまったのもこれまた仕方のないところ……

 

『グァアアアアアアアァ……』と断末魔の叫びを轟かせ、地響きならせて倒れ込む、所謂『ヂラール・リバイタ型』

 一五メートルから、四〇メートルもの全高を持つこの個体を、今の作戦部隊が倒すのは一苦労である。

 この個体がなぜに一五メートルから四〇メートルという全高の『幅』を持つかと言うと、半蛇型の個体故に、このコロニー内の空洞を、地下鉄の如く徘徊することができるからである。

 本来なら、地上戦で『旭龍』以上の大きさを持つヂラールだが、それはあくまで鎌首もたげるような態勢になった時であって、徘徊モードのような感じで地面に伏せてしまえば、全高が低く、やたらと全長の長い正味蛇のような生体兵器になるのである。これは実に厄介な相手であった。

 なんせ戦うにも通路を占拠するぐらいにウネウネと徘徊して襲ってくるもんだから、一気に退路を絶たれたり、部隊を分断させられてしまう。そこに小型のヂラールが包囲して襲いかかってくる形になるわけなので、存外に苦戦を強いられるわけなのだが……


「まあ、ここまで進攻すればこうもなるか」


 リバイタ型の遺骸を遠巻きに見る樫本。周囲では、『この蛇野郎を早くどかせろ!』などと大声張り上げて、撤去作業に入ってたり。サルカス戦で一番苦戦を強いられた個体だけに、鬱陶しさも特段である。


「他の部隊で、コイツと会敵したところは?」

「は、そのような報告は入ってきておりません、二佐」

「そうか。ならすぐにこちらの状況を全部隊に報告してやれ。こんなのがいるって事は、そろそろ敵の本丸も近いって話になる」

「了解」


 すると、樫本のPVMCGが受信の音を鳴らす。


「こちら樫本」

『月丘です、二佐』

「おう、ご苦労さん。定時報告には早いな。大丈夫か?」

『はい……ま、何と言いますか……現在ちょっとヤバいような感じの場所へ突き当たってしまいまして』

「ん? どういうことだ? ちょっと待て」


 そう樫本が言うと、側の部下が持つVMCボードを取り、月丘の場所を確認する。先程月丘から報告があった場所からかなりの距離を移動したようで、現状中心部からほぼ数キロの場所にいるようだ。


「……もうほぼほぼで中心部じゃないか。ビンゴか?」

『はい……まあそうなのですが……二佐、ちょっとこの映像を見てもらえますか?』


 と、月丘が映像データを送ってくると……


「!! な、なんだこれは!」


 月丘が送ってきた映像データに映るは……


 広大な空間。映像データの測距数値に表示されるは、その広さ一平方キロメートル。

 空間の高さは、約三〇〇メートルにも及び、形状は円形。

 中心部には、全高にして、約二五〇メートルもの高さを持つ異様な物体がそびえ立っている。

 その形状、非常に歪ではあるが、人型で、頭部のようなものもある。ただ、頭部的な何かはのっぺらで、目や口にハナのようなものは何もない。更に人型といっても、足があるわけではなく、下半身はそのまま地上に一体化されているといったような、そんな形状。

 だが、ひと目見て理解できる特徴的なデザイン。それは、肩のあたりから、地上に続く下半身の部位まで、その側面に生える、非常に長い『腕』のようなもの。その数、まるで『千手観音像』の如し。数えるのも面倒だ。

 更には、背中から伸びる異常な数の、太く頑丈そうな管のような器官。それが物体背面の地上から壁をつたい、天井方面へ伸びている。更に空間の壁には触手状の管状物体が伸びて、その管を伝って排出される卵状の物体を、周囲へ産み落としている。


「こりゃ……」


 SF映画の世界でも、いろんな気色の悪い『宇宙生物』なるものが妄想されて作り出されているが、今、樫本が見る月丘の送ってくる映像は、紛れもなく本物である。

 ヤルバーンが、地球世界にやってきた時の常識はずれな衝撃。それを感じていた当時の自分が再び……こればっかりはネガティブな方向で呼び覚まされるのを感じる彼。

 いつの間にか樫本の周りには諸々報告に来る部下が集まってくるが、みんなして月丘の送ってくるその映像を覗き込んでしまう。


「では月丘君。その『対象』が、中枢部だと?」

『いえ二佐、この区画自体がそうみたいですね。って、これはシビアさんが言ってるのですけど……なんでも、この空間一体に脳波に似た反応が出ているとかで』

「わかった。よくやってくれた月丘君。流石だな」


 と、そんな会話をしていると、PVMCG通信のバックで流れるピーピーキーキーという音。


「ん? どうした?」

『チッ、わかりましたシビアさん……って、あ、いや、こちらも敵を躱しながらここまできましたので、まあ何といいますか、色々ドンパチやりながらというのもありまして、ハイ……』


    *    *


『ツキオカ生体。シビア・ルーラ素体一体で、この数のヂラール群体と幼生体に対応する事に少々限界が見えてきた。カシモト生体との通信を終えて、協力せよ!』


 月丘が樫本へ現状報告している間、シビアが何やら視線をキョロキョロさせて、腕からブラスターショットやらゼル端子やらを放ち、なんとなく柄にもなく焦っているようなそんな表情で、何かと戦闘中。

 月丘のサイドカーを前に出して、大きくシールドを展開してバリケードを作り、ゼル奴隷化したヂラールを全面に出してドンパチやってるわけだが……


「樫本二佐、現在こんな感じで取り込み中ですので、申し訳ありませが早急に応援お願いします!」


 月丘とシビアは、やっとのこさで敵の中枢らしき先の通りの化物を発見したのであるが、当然ここまでくるのにヂラールの追撃を受けるのは致し方のないところ。

 対探知偽装かけて躱していたのだが、敵の流れ弾に当たってしまって故障してこの有様。

 探知偽装システムの修理に、ハイクァーンの自動修復機能使っても数十分かかるらしい。

 その間にヂラールの幼生体を中心に襲いかかられているという次第。

 そりゃそうだ。ここは言ってみればヂラールの生産区画みたいなもんである。シビアと月丘などは、連中から見ればエサが飛び込んできたのと同じようなものだ。

 最初は幼生体ばかりにピーピーキーキーと襲いかかられていたのだが、そのうち恐らく各部隊が対応していた主力ヂラール群体が引き上げてきたのだろう。お馴染みの連中も段々と混ざって月丘・シビアという、たった二人に総出で襲いかかって来る。

 つまるところ親玉が自分を守れと群体に指令を出しているのだろう。

 で、この幼生体がこれまたチンマイので鬱陶しいったらありゃしないわけで、シビアも、このチビどもの集団襲撃に少々音を上げているというわけである。


「すみません、シビアさん!」


 樫本との通信を切り、反撃に加わる月丘。

 リパルションガンを連射モードにして対応する。前衛に出ている戦闘サイドカーも自律モードで応戦である。


『ツキオカ生体、応援の要請は行ったか?』

「はい、大丈夫です。そんなに時間をおかずこちらへ来てくれるでしょう……クッ、とはいえ……!」


 月丘は今、敵ヂラール兵隊型を立て続けに三体撃ち倒した。


「それまで私達が保つかどうかですがっ!」


 と、兵隊型を蜂の巣にして、空中を飛んだ俊敏型を叩き落とす月丘。


『了解した。では先程少し話した「別の手段」を実行する。これで多くの時間を稼げるだろう』

「別の手段? ……ああ、この区画へ壁破壊して飛び込む前に仰ってた?」

『肯定。説明に思考、理解させる時間も惜しい。これよりその手段を実行に移す……ツキオカ生体、その「さいどかー」に搭乗せよ』


 ハイハイと月丘はリパルションガンを大腿部に収納すると、すぐさまサイドカーの本車部に跨る……


 ……ちなみに、バイクの事を『単車』というのは、『サイドカーの側車(カー部)を付けていないない二輪車』という意味である。なので、側車付二輪車、所謂『サイドカー』のバイク部を指すときは、『本車』と言うのである。これ豆知識……


「乗りました! 準備いいですよっ、シビアさん。どうすればいいんですか!?」

『そのまま待機せよ!』とシビアは叫ぶと、ゼル奴隷化させたヂラールを全部前衛に投入してバリケードを作り、なんとシビアは仮想造成素体を霧散させてコアのみになる……更に月丘のサイドカーの、バイクで言う後部座席部にコアがポンと乗っかると……シビアのコアは月丘サイドカーへゼル端子を全開で放射し、這わせていくのであった!


 そのサマは、かつての横須賀基地での『M4ドーラ』事件の如し。

 月丘のサイドカーは、あらぬ場所から幾何学的に何か勝手に切り裂かれたりくっつけられたり。

 側車部が2つに別れて、一部は背面に、そして一部は左腕部の武装に変形。

 更にハイクァーン機能も活用して、シビア・コアが足りないと思った部品を造成し、そのゼル端子構成人型機械物体へ合体させていく。

 まるで十年も前に流行った、ロボット生命体が活躍する映画の如し。カキカキキコキコとそんなイメージで造成造形されていく様子は圧巻である。


「うわわわわ、ゼル端子が体を例のごとく包んでいきますが、大丈夫なんでしょうね、シビアさん!?」


 まあ、あくまで包んでいるのであって『侵食』しているわけではない。その意味は……


『シビア・カウサ及びカルバレータ。ツキオカ・さいどかーとの合成完了。今後はツキオカ生体の戦闘サポートに機能を移行する。認証せよ』


 なんともまあ……シビアは月丘のサイドカーや他ハイクァーン造成した諸々武装や機械と一体化して、自らドーラになったのであった! 流石というかなんというか……

 勿論操縦者は月丘である。で、ドーラ型兵器ではあるが、H型コマンドローダーよりも大きいコマンドトルーパークラスに匹敵する大きさのコマンドローダー型ドーラ兵器である。操縦は中央部でゼル端子でくるまれたようなアーマーに守られた月丘が、マスタースレイブ方式でこのドーラ・ローダーともいうべき兵器を操縦する。

 月丘が直接使用する兵器とは別に、シビアが他の数多くある兵装を制御し、多方面への攻撃が可能である。


「まさかまさかでこうきますか、シビアさん! これはこれは!」


 この機能もヤル研が絡んでいるのかと思って尋ねると、なんともこれはシビアさんのオリジナル発明モードだそうな。なんでもチキウの映像作品を見て、いつかやってみたいモードみたいな感じで温存していたそうな……見た映像作品は、やっぱりロボット生命体の映画だったらしい。ちなみにシビアは黄色い自動車型のファンである。


『ではツキオカ生体、どうする? 命令し、挙動に移行せよ』

「わかりました。では……この水際でチマチマドンパチしてても意味ないですね。あの千手化物の方へ突っ込んでみますかっ!」

『肯定。その行動に賛成する。現状、このヂラール敵性体を、あの中央部生命体へ誘導することで、後続の援護部隊が包囲攻撃に移行することが容易になる。実行せよ』


 シビアのコアが完成させた大型コマンドローダー。いや、ドーラローダーと呼ぶのも無粋。ここはシビアローダーというべきか。その高機動兵器が、脚部タイヤを高速回転させてキキと唸りを上げ、今の陣を捨てて中央部ヂラールへ向け疾走する。勿論脚部のタイヤは。サイドカー時につていたものを脚部へ転用したものである。

 しばし後、ゼル奴隷化させたヂラール達のバリケードが破られて、ヂラールの幼生体に、他の部隊と交戦していたヂラール群体が月丘達を追うように、その『中央制御ヂラール』がまします空間になだれ込んできた。

 だが、勿論進むも過酷であり、中央ヂラールの、のっぺら頭部中央に何やら穴が空いたかと思うと、そこから可視性のビーム兵器を放ってくる!


「うおっ! っと、避けたっ! ……シビアさん、誘導感謝です!」

『問題ない。敵攻撃予測情報は随時ディスプレイへ表示する』


 シビアが敵の攻撃をいち早く察知し、月丘のバイザーへ表示させる。その情報表示は素早く的確である。

 月丘達はまるでスケーターがダンスでも踊るように、敵のビーム閃光を躱しつつ、現状なんとか自分達の身も守りながら味方部隊の到着までの時間を稼ぐことに専念するのであった……


    *    *


 惑星サージャル大公領・城塞都市ゲンダール。

 その中にあるティ連天の川銀河、太陽系方面軍特危自衛隊仮設駐屯基地の、転送室に転送されてくる人物。

 もちろんその転送元はといえば、現在空を見上げれば軌道上に浮かぶ、人工亜惑星要塞のレグノスからである。


「ようこそ、フェルフェリア大臣。惑星サージャル大公領へ」


 特危自衛官がフェル達を出迎える。

 フェル『達』というぐらいであるからして、転送されてきたのはフェル大臣閣下と……


「うきゃー」と急に走り出す、男の子と女の子。


『コラコラ姫チャン、暁クンも。急に走ったらだめですヨ。こっちにきなさいデす』


 「姫ちゃん」こと柏木姫迦と、「暁くん」こと多川暁であった。

 だが、ウキャーとはしゃいで走り出した二人でも、その瞬間、幼い子供の感性は敏感で鋭いところもあるのだろう。先のメルフェリアの例ではないが、やはりその場所独特の匂いを子供は嗅ぎ取ってしまう。


「まままるま……ここ、兵隊さんでいっぱいだね……」と姫迦が言うと、

「フェルママ。なんか臭いよ」と、戦場独特の匂いを嗅ぎ撮る暁。


 子供ながらにここは楽しい場所ではないと感じ取ったのであろう。

 フェルもそれを十分承知で二人をここに連れてきた。ティ連人という広大な宇宙で暮らしていくには、何事も経験体験が必要と考えるのが、彼女達の子を教育する基本方針である。なので時にはこういった危険な場所にも子供を連れてやってくるのがティ連人だ。

 考えても見ればそりゃそうだろう。ヤルバーンのような探査艦で長い旅をする人もいれば、ゼルドア艦隊のように、『宇宙を進む軍事基地』のような艦隊と共に行く軍人の家族もいる。こういうところはやはり地球人の感覚とは全く違うのが彼女達である……


『だから勝手にどっかいっちゃダメですって言ったでしょ。あとで色々とお出かけするですから、私の側から離れたらだめでス』


 うんと頷ずいて、ちょっと雰囲気に飲まれて大人しくなる二人。姫ちゃんも暁も、フェルの裾をにぎってたり。

 すると、フェル達を迎えに、大見がやってきた。彼はフェルにピッと挙手敬礼をすると、


「お疲れ様です、フェルフェリア大臣」

『ウフフ、お久しぶりです、ケラーオオミ。ダイジンなんてのはいいでスよ』

「はは、わかりましたフェルさん……姫迦ちゃんと、暁くんも、ひさしぶりだな~」


 大見にガシガシと頭を撫でられる子供二人。姫や暁も礼儀正しくコンニチハとペコリ挨拶。  

 彼もティ連人の情操教育方針は知っているので、こういう状況を受け入れているのではあるが、正直言えば日本人の感覚として、こんなところに幼い子ども二人がいるというのは若干違和感がないわけではない。だが、アラブ諸国の部族宗派じゃ子供がAKライフルをプレゼントされたりするという文化習慣があるわけであるからして、そのあたりはグローバルに考えないとと思う大見ではある。

 フェルも、子供二人をここに連れてきたのは、二人のためというよりは、暁クンのタメといったほうが良いか。


『デ、ケラーオオミ。シエは?』

「ええ、もうすぐ帰還すると思いますが……っと、あ、帰ってきたみたいですね」


 ゲンダール市上空に旭光Ⅱが飛んできた。今シエが搭乗しているカラーリングの機体である。

 部下としてラズル大佐から預かったシェイザー型機動兵器を数機伴っての帰投である。

 で、フェルのその言葉に反応するは、暁クン


「え? かーちゃんに会えるの!?」

『ウフフ、そうですよ』


 そう、フェルがこの星に降り立った目的の一つは、暁をシエに会わせるためだ。

 正直、暁はもう大分シエと多川に会っていない。かなりの時間をフェルや、ヴェルデオ夫妻。多川の兄である一雄夫妻や、柏木の親である真男達の世話になっている。まあ暁もこれらの方々には懐いているし、それはそれで良いのではあるが、多川達も息子に会いたいだろうし、暁にも、親がどんな仕事をしているのか、直にみせてやろうという社会見学の意味も兼ねて、連れてきているワケでもあるのだ。


 シエの乗った旭光Ⅱが着地する。胸部のコクピットハッチが開いて、シエが姿を現し、昇降用ウインチで降りてきた。

 シエの姿を見るやいなや、


「かーちゃん!」


 と暁がトタタ……と走り出す。シエも我が子の姿を確認すると、驚いた顔の後、すぐさま表情を綻ばせて、


『オオ、アカツキ! ハハハ!』


 と、目線を子供の高さにして、抱えていたヘルメットも手放し、愛する息子を抱擁する。

 抱きかかえてというのも、もう暁クンや姫ちゃんも見た目だけで言えば五歳で、地球人年齢で言えば一〇歳程になる。もうちっちゃな子供というわけでもない。

 シエも愛する我が子と久々の対面なので、ハグする時間もこれまたちょっと長し。で、頬をグニグニしたり、頭を擦ったりと、無敵のシエさんとはちょっと違う表情を見せていた。

 で、自分のヘルメットを暁に被らせて手をつないでフェルと姫迦のもとへ。


『ヒメチャン。シエママにご挨拶するでスよ』

「シエママ、こんにちは」

『ヒメモ、久シブリダナ。イイ子ニシテイルカ?』


 姫迦にもハグするシエ。ほっぺにブチュっとチューしてたり。

 フェルとシエ二人の間の決め事で、自分の子供にはフェルのことを『フェルママ』シエのことを『シエママ』と呼ぶように教育していた。まあこれも互いの仕事がこんな感じの仕事なので、フェルとシエも姉妹のような関係でもあるし、お互いの子供にフェルやシエを親同然の存在だとして教えておこうと決めたわけである。

 あまり考えたくないことではあるが、特にシエや多川は軍人であるからして、万が一の場合というのもあるわけで、その時は……というのもあっての事であったりする。


『フェル、スマナイナ。無理ヲ言ッテシマッテ』

『いえいえ、いいのですよシエ。此度は私もニホン国外務大臣としての仕事もあって、この星に降りてきましたから』

『ソウカ。デハ、サージャル大公ト会談ナノカ?』

『ハイです。ファーダ・カスガからの親書も預かってきていますでス。で、サイヴァル連合議長も、場所と距離の関係もあるということで、グロウム帝国との交渉権は、ニホン国とヤルバーン州に一任するということで正式に通達があしましタ』

『ソウカ……ヤルバーン州ハトモカク、ニホンハ連合加盟後、初ノ本格的ナ、“ティ連”としての外交権行使トイウコトニナルワケダナ……ニホンニトッテモソウダガ、フェルニトッテモ重要ナ仕事ニナルトイウワケダ』

『ハイですね。でもまあ今に始まった事でもないでスし、なんとかやってみますですヨ』


 すると、シエとフェルの会話を横で聞いていた大見が、


「フェルさん、では柏木は、今回のグロウム帝国との会談には参加しないのですか?」

『ハイです。マサトサンはあくまで防衛総省の長官として、対ヂラール作戦の司令官という立場ですからネ。サイヴァル議長からは、此度の交渉権はニホン国政府が……という要請が来ている以上、そんな感じでやらないといけませんから。マサトサンにはとにかくあのヂラールどもを退治するお仕事に注力していただかないと』


 なるほどと頷く大見。だが、柏木がこの作戦の総司令官として、自分達の上に立ってレグノス要塞で指揮しているのかと思うと……まあ確かに改めて言われてみればそうなのであろうけど、ちょっと噴き出してしまいそうになる大見。ま、とはいえ実際に戦闘指揮をとって実務作業やってるのは恐らくパウル提督で、柏木は、『ご意見番と責任取り屋』に徹しているのだろうということは容易にわかるわけではあるが……


「っと、それはともかく、フェルさん。そろそろ時間ですので」

『そうですね……フゥ、早々忙しい事でありますですよ。んじゃシエ、申し訳ないですけど、姫チャンもお願いできますか?』

『アア、任セロ……姫、オマエノマルマハ、今カラ仕事ダ。フェルマルマガ帰ッテクルマデ、私ト、アカツキトデアソボウナ』


「うん!」と頷く姫ちゃん。姫迦もシエが大好きだ。で、シエは何して遊ぶかと言えば、旭光Ⅱに暁と姫をのっけて、今から偵察に行くらしい。それを聞く大見は、


「ええええっ!? ちょっとそれは……」

『イイデハナイカオオミ。堅い事イウナ』

『そうですよ、ケラー。ちゃぁんとこうやって我が子に宇宙の何たるかを教えるのが、ティ連の教育方針です。私だってサンサに連れられて、宇宙を回ったんですからね』


 シエとフェル二人に説教くらう大見。ってか、一応ジエイタイなんだぞと。で、フェルさんアンタ日本の閣僚なんだろと……とは思うが、まあ日本もティ連国家だし、特危の管轄はティ連防衛総省だし……そういうモンなんかなと……まいっかと黙認する大見。


「でも、くれぐれも気をつけてくださいよシエ将補」


 と念押しだけはしておく……ということで、シエは暁と姫迦を旭光Ⅱに乗せて、偵察に出ていった……ってか、要は遊覧飛行である。


「暁くんは、多川さんとは?」

『イエ、まだ。ケラー・タガワは今それどころではありませんからネ』

「そうですか……地上での敵群体の対応に関しては、あらかたケリが付きましたが」

『軌道上でも、空間戦闘に関しては同様にほぼ勝敗は決しているのですが、例の作戦もあっての話で、あのヂラール要塞内部での戦闘では苦労しているそうですヨ』

「なるほど……まあ確かにアレを『鹵獲』しろというのですからね」

『私がコチラへ来る直前で得ている最新情報では、ケラー・ツキオカが敵の中枢を発見したそうです。ですので、現在のあのコロニー内部では、大変な事になっているのではないかと容易に想像できますデす』


 フェルがそういうと、大見も腕を組んで、「確かにそうですね」と彼女の意見に同意する。そして月丘の仕事ぶりに「たいしたもんだ」と感心する。ある意味柏木とは違った生まれ持ってのスキルを何か持ってるのか? と、そんな風にも思ったり。

 なんせ人類はもちろんのこと、ティ連人や、ヂラールを不倶戴天の敵としているゼスタール人でさえも初めての経験であり作戦である……んなものこの宇宙中探しても、容易だなんて思う奴はいないだろう。


「ではフェルさん、行きましょうか」

『ハイですね。では、案内よろしくおねがいしますデス、ケラー』


 ゲンダール城塞都市から空を見上げつつ、サージャル大公との会談場所へ向かうフェル。

 そろそろ勝敗決するかと思いつつ、彼女も外務大臣としての仕事へと挑む……


    *    *


 地上の方は、そんなところでなんとか沈静化の方向へと向かっているが、そこれもこれも全てはこの衛星軌道上で対峙し、ふんばる特危・ヤル州軍・USSTC連合部隊の頑張りが大きいといったところ。

 更には現状、ここに特危自衛隊レグノス防衛駐留軍に火星駐留軍も急遽火星からディルフィルドジャンプで飛んできて、戦線に加わっている状態。

 これも全て、かのおぞましき捕食器官の存在と、囚われたグロウム人の救出、更には月丘とシビアが暴き出したヂラール量産体制の現場の実態……こんなものを見つけてしまっては、単純にヂラールをゼル拘束して鹵獲というわけにはいかなくなったわけで……まあ色々手間暇かかるという次第なわけである。


 ということで月丘とシビア。

 専用サイドカーをシビアに預けた形で、『シビアローダー』に変化して、そのH型よりもデカいコマンドローダー的機動兵器を扱い、ヂラールコロニー中枢に牽制攻撃をかける月丘和輝。

 なぜにここで『牽制』なのかというと、ここにコロニーや、擁する機動兵器型ヂラールを束ねるラスボスがいるのは、月丘達の現状でもわかるとおり、眼前の事実なわけではあるが、いかんせん作戦目的が『鹵獲』であるからして、殺すわけにはいかないので、そこが難しいところ。

 痛めつけるのもホドホドの状態が要求されるので、これも難しいという話……


「シビアさん! とにかくここはあの千手観音みたいな腕を、片っ端から潰します! 無力化するにはそれしかありません!」

『了解。兵装照準をすべて、中枢のマスターヂラール腕部へ合わせる』

「プリちゃんのトルーパーは、あの頭部のビーム兵器発射媒体をつぶしてください!」

『わっかりました、カズキサン!』


 月丘達がヂラール群体に追い立てられ、さらにはこの親玉ヂラールの飛び道具攻撃。そして異常に長い、しかも尋常ならざる数が生える腕部の攻撃に晒されていた時、結果論ではあるが、この行為が時間稼ぎとなって、シャルリにモーガン、クロードに樫本達の部隊を無事にこの場所へ集結させることができたわけで、現在ヂラール群体と、地球勢連合部隊の熾烈な戦闘が行われていた!

 プリルは今、月丘達のサポートのために、例の『むせる型トルーパー』を駆って、マスターヂラールとも言うべき中枢に鎮座するこの化物へ、援護攻撃を展開中。

ドドド……バババ! とアサルトライフル型の速射ブラスターがマスター・ヂラールの頭部型ビーム兵器発射器官へ集中して命中する。

 敵も負けじと長い腕を何本もふりかざし、更には頭部のビーム砲をもぶっ放してプリルを攻撃するが、そこは流石のプリ子さん。生身で柔道の乱取りやればヘナチョコだが、機動兵器を使わせたらそりゃもうそんじょそこらの機動兵器パイロットも真っ青の腕前。

 この試作型コマンドトルーパーも難なく使いこなし、フィギュアスケーターの如き動きで敵の攻撃をクンクンと躱しつつ、確実に敵頭部の発射器官を弱体化させていく。


『プリ子生体、現状の戦闘状況の維持に問題はないか!』

『なんとか大丈夫ですシビアチャン! それよりもシビアチャンも無理してない!? そんなドーラ型兵器に変身しちゃって!』

『問題ない! 現状、操縦者が肯定的評価ができる状況で、我々を運用できているため、なんとかなっている!』

「それはお褒めの言葉ありがとうござますシビアさん! って、樫本さん、クロード! まだハイ端子打ち込めないのですかっ!」


 いかんせん現状、この場でローダー型兵器よりも大型のトルーパー兵器を使えているのは、月丘とプリルだけである。米軍のM4A2マニューバータンクも機動力はあるが、現状この兵器を有するUSSTCは、ナヨとメルフェリアと共同で、共に大量に襲ってくる機動兵器型ヂラールの対応で手がいっぱいであった。

 だが、刻々と進む時間に比例して、有利になるのは連合部隊の方になるのは間違いないわけであるからして……


『樫本二佐! 救出したグロウム人さんは全員転送でゲンダール市へ降ろしましたっ!』


 柏木の命で、レグノスの日本治外法権区『レグノス県』防衛を担当している防衛部隊も駆り出され、本作戦に協力している。彼等は救出したグロウム人の避難誘導を担当していたようだ。

 とりあえずの任務を終わらせたので、前線の本隊を援護するべく彼等も前へ出てきた。

 即座に樫本は、


『レグノス県防衛部隊は、USSTC隊と共同で襲ってくるヂラール群体に対処してくれ! とにもかくにもUSSTC隊がヂラールを抑え込んでくれれば、ハイ端子の設置作業も早く進む!』

『了解!』


 今のUSSTC隊は流石元合衆国海兵隊のモーガン最先任曹長率いる部隊であり、その奮闘ぶりも目を見張る物があるが、更に今彼等USSTCを事実上指揮しているのは、なんとナヨ閣下であり、彼女の振るう太刀の威力と、それを見るUSSTC兵士達の士気でヂラールをここまで撃破できているのである。

 なのでその勢いに逆らうことなく、ここはハイ端子設置作業は他の部隊に任せて、彼等は可能な限りワラワラと鬱陶しく迫り来るヂラール群体を排除していく。


『はあぁあっ!』


 気合の入った女性の喝と同時に、戦車型ヂラールが鋭利な斬り口とともに四散して吹き飛ぶ。

 その見事な攻撃は、ナヨ閣下こと、ナヨ・ヘイル・カセリアの太刀による一撃。


『だりゃぁぁぁあああああ!』


 巨大な斬馬刀をぶん回し、戦車型の装甲を叩き割るメルフェリア団長。PVMCGのトラクター機能との連携に磨きがかかって、USSTC内では、一部でメルベイダーと呼ばれてたり。


『皆の者、後ろの隊が、ハイ端子装置発動の準備が整うまで、こで盾となって賊を防ぐのです!』と叫ぶナヨ。

『こっちは私一人で十分だよっ! さあかかってこい!』と、こころなしか刃の長さと幅の広さが大きくなったような斬馬刀を肩に置いて、パイラ号の上で鞍から臀部を外し、仁王立ちになるメル。


 ナヨは、流石民を率いたフリンゼ様だけあって、USSTC部隊の統率なんぞお手のモノ。部隊の士気を鼓舞するために、彼女が最先頭に立って、その超人的な能力を振るう……流石は御大である。このあたりはモーガン曹長も助かっているわけでありがたい限り。


「ナヨ閣下、ご協力感謝いたします。兵の士気もすこぶる好調で、トッキ部隊にもまけていません」

『重畳です、モーガン。とにかく今はカシモト達の最後の一撃をここで確実にくらわさねばなりませぬ。でなければツキオカ達の努力も報われませんからね』

「はは、確かに……よしお前ら! ここで防御態勢だ。絶対にここから後ろへ抜かせるな! エコーは、あの中央に陣取るバケモノのボスを牽制しているトッキの援護だ。ブラボーはメルフェリア団長のサポート! あのバカでかい剣の一撃に巻き込まれるなよ! わかったか!」


 USSTCのエコー小隊が、あの千手のバケモノと戦うツキオカにシビア、プリルの援護へと展開する。

 ブラボー隊はメルの援護だ。『ヾ(。`皿´。)ノウガー』状態のメルの怖さはみんな知っているので、ヂラールよりも案外メルの方を警戒してたり……

 他のUSSTC小隊は、ナヨを先頭にハイ端子工作の準備をする樫本隊、IHD・ヤル研・施設科隊・シャルリ率いるヤルバーン州軍隊の壁となる。


    *    *


『うわあああっ!』


 プリルの駆るコマンドトルーパーの脚部が、マスターヂラールの長い腕に捕まった!

 左脚部が引きちぎられ、機体はでんぐりかえって転倒する。更にマズイのが、今プリルの乗っている『むせる型トルーパー』は、PVMCGによるゼル造成兵器である。

 PVMCGで仮想造成される機動兵器は、その維持に異常なほどパワーを消費する。そりゃそうだ、本来はこんな大型機動兵器を造成して使うなんて事は想定していないわけで、通常はL型コマンドローダー程度の機動兵器を常時使う想定が軍用のPVMCGだ。

 従って現在のような充分な外部エネルギー供給を受けられない状況の場合、コマンドトルーパーなんていう大きさの機動兵器を造成させた場合などは数時間で仮想造成が解かれてしまうわけで、今この脚部が損傷を受けた時点で、脚部を再生造成しようという機能が働いた瞬間、パワー不足に陥り、プリルのコマンドトルーパーの造成維持が解かれてしまったのであった!


『きゃあああ!』


 霧散したコクピットから放り出されるプリル。かろうじてパイロットスーツの発動するパーソナルシールドのおかげで、身体は無事なようだ。だが、そこにさらなるマスター・ヂラールの腕部が容赦なく彼女に襲いかかる!


「プリちゃん!!」


 即座にプリルのフォローに回る月丘。シビアローダーは飛び蹴りをかましてプリルを襲う腕部を弾き飛ばす。と同時にその腕部へ何かミサイルが命中したようで、大きな爆音とともにそれが千切れ吹き飛んだ。

 ミサイルの飛んできた方向を見ると、USSTCのエコー隊がヘルファイア対戦車ミサイルを射って援護してくれたようだ。


「プリちゃん、大丈夫か!」

『うん! なんとか!』


 シビアローダーは、走査光線をプリルに照射し、


『ツキオカ生体。プリ子生体の身体に異常はみられない。安心せよ』

「そうですか、良かった。ですが、プリちゃんのPVMCGに再度パワーが充填されるまで、機動兵器の造成は無理ですね。このまま抱えて撤退したほうが良いのか……」


 と戦況を見ると、やはりこの巨大でバケモノじみた『千手マスターヂラール』攻撃に苦戦しているという次第。

 いかんせん、このマスターヂラールが中枢というのであれば、現状『鹵獲』が任務なのであるわけで、破壊、即ち殺してしまうわけにはいかないのである。

 こうまでして『鹵獲』に必死となるのは、このコロニーを『殺して』しまっては、現在の軌道上という位置関係を考えると、こやつを地上に落下させてしまうという事になるわけであり、これをやってしまうと最悪の事態になってしまうワケであるからして、これが一番の理由であるところが大きい。

 更に、このコロニーを鹵獲して徹底的に調査することで、ヂラールの何某かを研究できるかもしれないという将来の想定もある……恐らくこのヂラールコロニーは、敵最大の生体兵器システムであろうと思われるので、このコロニーを調べれば、敵の最終的な軍事技術の某かも判明するのではないかという期待もかけられているのである。

 そこまでのことを考えられての『鹵獲作戦』であるわけなので、諸氏必死で戦っているのだ。


『……』


 シビアは、シビアローダーの頭頂部に防盾を設けた重速射ブラスター銃座を造成し、プリルの襟を、猫を持ち上げるようにつまんで、その銃座へ彼女をストンと座らせる。


『プリ子生体。現在の状況では、お前をこの場から待避させる時間的余裕がない。従って、その銃座及び兵装システムを使用して我々の戦闘機動を援護せよ』


 こういうところシビアは機転が利く。これならプリルを後方へ移送するという手間をかけずに、逆に彼女をシビアローダーの戦力へ加えられ、シビアがサブ兵装を制御する負担が減る。即ち戦闘機動制御に集中できる。


『わっかりましたシビアチャン! おまかせですっ!』

『同意確認。状況を続行する』


 月丘にプリルを乗せたシビアローダーは、マスターヂラールから一旦距離を開け、牽制戦闘を再開する……


    *    *


『IHD隊、ハイ端子配置準備よし!』

『ヤル研隊、同じく準備よし!』

『施設科、準備完了!』

『シャルリ隊、いつでもおっけーだよっ!』

『よし! こちら特危樫本隊、我々も準備完了だ。では全部隊直ちにハイ端子システム稼働! 同時に、天井部へ投射開始! 始め!』


 この号令と共に、


『ゆーえすえすてぃーしー全隊、ここまでです! 後退しなさい!』


 ナヨはヂラール強襲に対するバリケードとなっているUSSTC部隊を後退させると、同時に設置準備が完了したハイ端子装置を一気に稼動させる。

 同時に一部は投射装置を使って、天井に向けて発射された……ブスブスと天井部に突き刺さるハイ端子装置。

 なぜに天井へ向けて発射されたかというと、先にシビアがこの空間で脳波のような波動を探知できたという報告をもとに、外の宇宙空間から艦隊が走査を行ったところ、丁度各部隊が展開しているこの空間の天井より上の箇所に、制御器官、即ち『脳』にあたるものがあるという結果が出たためである。

 月丘達の先行偵察は極めて重要な成果をあげていたという次第。


「よし、シビアさん、プリちゃん、私達も後退しましょう!」


 相当数のハイ端子装置が一斉に稼働しはじめ、かなりの速度でこの中枢空間を侵食し始める。

 もう既に、マスターヂラールの本体も金属質の配線色で塗り固められている。

 今の位置にいれば、月丘達もハイ端子で固められてしまう。そうなるとIHDのおっちょこちょい隊員の二の舞なので、斥力スラスター吹かしてシビアローダーは宙に浮き、本隊が待機している場所へむかって飛ぶ。


「よし! これでこの作戦も終わりですね、この星の当面の脅威は取り除くことができました」

『肯定。今回の作戦における成果は、今後ゼスタールが展開する各宙域の作戦にも応用することが可能である。この成果は高度に評価する必要がある』

『あの捕食器官の意味もきちんと探らないと……』

「ん? どういうことですか? プリちゃん」

『うん……私は生物学者じゃないから正しい推測かどうかはわかんないのだけど、カズキサン達がヂラールの卵をたくさん見つけたって報告を受けた時点で、あの捕食器官の必要性ってなんなのかな? て思っちゃって……』


 技術者のプリ子らしい考えである。あの捕食器官が当初はこのコロニー型ヂラールの稼働を維持する為に必要なものであるという事は、ヂラールが生体兵器、即ち『生き物』という時点でそうなのだろうと納得しようとしていたらしいのだが、その卵が大量に放置されていた、例の月丘達が見た空間に、そこで放置されていた大量の知的生命体の遺骸。これを聞いた時、プリルが気にしないように思っていた僅かな疑問が再び湧いてきたそうで……


「なるほど、これだけの大きな図体のヂラール・コロニーに対して、あの数の捕食器官でこのコロニーを維持運用できるのか? と……」

『うん。そうなんですよう』


 プリルの疑問にシビアも、


『プリ子生体の疑問は、検討する価値があると考える。今、各技術合議体にその意見を通達した。各合議体も検討に入るとの事だ』

『え? はやっ!』


 流石はシビアチャンと、ゼスタール人の行動の早さに感心する月丘とプリル。

 まあ此度の作戦で鹵獲したこのコロニー型を徹底調査することで、連中に対するいろんな事もわかるようになるのだろう……


    *    *


 作戦終了から数日後……

 惑星サージャル大公領・城塞都市ゲンダールは、作戦終了が通達された日からお祭りのような日が続いていた。それはそうだ。少なくともこの星はヂラールの脅威から開放されたわけである。

 ティ連と、日本・特危自衛隊にUSSTCも参加しているわけであるから、一部米国の協力もあって、此度の成果が挙げられた。

 今、地上ではまだお祭り気分が続いており、太陽系からやってきた助っ人達は、グロウム人の歓待を毎日受けている状態。

 でも柏木長官閣下は、皆に節度と礼儀をもって、あんまり調子に乗らないよう通達を出していた。


『あ、それは違うんだよう、ここはね~』と、何かゲームのルールを教えている姫ちゃんに、

『これはこう持つんだ。ここで狙って……』と、彼も何かのゲームの仕方を教えている暁クン。


 姫迦と暁は、どうもここでグロウム人の子供たちの友人ができたようで、彼等と遊んでいるのである。


「ま、こういう時、子供達ってのは最高の外交官だよな、シエ」

『ソウダナ。今デコソ、コノ街モココマデ復興デキタガ、一時期ハ惑星“ハブタル”ノマフィア街ニ匹敵スル程ノ酷サダッタ。アノ子供達モ相当ニ荒ンデイタカラナ』

「いや、そのハブタルって星の事情は知らないが、地球に例えれば、ブラジルのどこかみたいな感じだったとは樫本から聞いているけど……」


 ベンチに座って、我が子と姫迦を見る多川夫妻。ちょっとの間、休暇がでたのでそんなところ。


「とーちゃん!」


 と、暁が、彼なりの何か新たな発見をしたそうで、それを多川に報告に来る。

 その新たな、なんでもない発見を大した成果のように喜んで褒める多川。彼も父親らしい事やってたり。

 姫ちゃんはグロウム人の女の子と仲良くなったようで、何かグロウムの遊びに夢中になってたり。

 そのグロウム人の子供の親が多川達の元へやってくる。握手して、何やら礼でも言ってるようだ。

 にこやかに話すシンシエ夫妻。

 とりあえずの平和を喜ぶ諸氏であったが……だが、今回の勝利が、まだこれからだということを忘れてはいけない。


 今のこの場所は、グロウム帝国の所領の一つでしかないのだ。

 つまりグロウム帝国本土宙域の問題がまだ残っている。

 現状、このサージャル大公領へやってきたのも、ゼルドア艦隊が接触したのが、この星出身のネリナ達であっただけの話で、言ってみればグロウム帝国本星政府は、まだ彼等ティ連・日本国や特危の活躍の事など知らないのである。


 大公領総督府も本土と連絡をとろうと何度も試みているが、全く音信不通の状態である。

 フェルも現状、彼女がこちらへ来てから連日サージャル大公と会談をしている状態だが、グロウム帝国中央政府と連絡がつかない以上は、正式な外交関係構築も正直ままならない状態で、困り果てているところもあるのだ。

 いかんせんこの国は、立憲君主制とはいえ、緊急事態の場合、皇帝に施政権の一部がある国なので、そういうところはまどろっこしいと、サージャル大公も苦虫を潰していた。

 なんせ彼等からすれば、ここまでの国家存亡、種族存亡の危機に陥るという事など、想定外も甚だしい事態だからであって、そこは致し方ないところもあるのは理解できる。


 そんな状況の中……これまた緊急事態が発生する。


 敵の来襲か! と思ったが、ある意味幸運であり、そして更なる深刻な事態を予感させる状況が発生したのだ。



 それは……



 サージャル大公領宙域に、かなりの数の、グロウム帝国船籍の宇宙艦艇、船舶がワープアウトしてきたのであった……








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ