【第五章・攻勢】 第三一話 『中枢への道』
~聖ファヌマ・グロウム星間帝国領、惑星サージャル大公領~
この惑星で、政府機能を死守する砦となる場所、『城塞都市ゲンダール』
今、この街には奴ら……即ちこの星の人々にとって『かの時』となる、正体不明の生体兵器ヂラールの大襲撃があったあの日以来の、大きく戦況が動く状況を目の当たりにしていた。
街に響く最大警戒を要する警報音。
住人は軍の指示に従い、山岳に掘られた巨大な地下空洞都市の更に奥へ避難誘導される。
『ハジマッタナ……』
空を見上げるシエ。刻は昼時といったところか。だが、その真っ昼間の青空を見上げると、幾何学的な球状に近い物体と、平たい算盤珠状の物体が隣接する構図。
地上から上空を見上げた時のその情景は、まるでくっついたように見えるほど隣接しているが、実際は若干の距離が開いた状態で衛星軌道上にレグノス要塞が相対速度を敵へ合わせて静止しているように見える構図。そんな状態である。
「シエさん、サージャル軍の機動兵器が迎撃に上がりました。こちらはどうしますか?」
と問うは現部隊シエの副官でもある大見。彼も空を見上げて降ってくる敵ヂラールの揚陸艦型に機動兵器型、更にはかのサルカス戦時にも見た、大型要撃型とでも言えば良いのか、かの半蛇半人のヂラールで鎌を持ったタイプのヤツ。
そういったサルカス戦時の物とは少し雰囲気が違うが、明らかにあの時の個体であると認識できる物も、降下してきていた。
その数、先にあった定期偵察と思わしき構成のヂラール部隊と違い、もうその何十倍もある大規模なものではある……が……
『ワタシモ出ヨウ。ヤハリカシワギノ作戦ガ功ヲ奏シタミタイダナ。思ッテイタヨリ全然数ガ少ナイ』
「ですな、確かに。サージャル殿下もこの数ならなんとかなると仰られていましたし」
『ダロウナ。ナラ、我々モ独自ニ動クカ……リアッサハ?』
「コマンドトルーパー部隊とコマンドローダー部隊、ハイラ騎士団にサージャル大公軍の機甲部隊を率いて出撃しました」
『流石リアッサダ。判断ガ早イナ。デハ私モ……トコロデ私ノ乗レル機動兵器ハ何カアルカ? オオミ』
「旭光Ⅱとヴァズラーがありますけど」
『フム、ナラ、キョッコウⅡヲ借リヨウ。チョット暴レテクル』
要は現場に出たくてウズウズしてるシエ姐さん。
「はは、わかりました。ではこちらの指揮管制は私が請け負いますので、思う存分どうぞ」
『フフ、スマンナ。ッテ、ダーリンモイタラ良インダケドナァ……』
なんともヂラールとの戦いを狩りぐらいに思っているシエ将軍。大見に軽く敬礼して、ハンガーに向かう。
ま、シエと会敵するヂラールも可哀想なものである……
何はともあれ、当初予想された圧倒的なヂラールの侵攻は、柏木の『レグノス要塞殴り込み作戦』で腰砕けにされて、侵攻などというようなものではなく、勢いに圧倒されて吹き飛ばされた残りカスが降下してきたような状況になり、今度は逆に地上のサージャル大公軍と、特危自衛隊の連合部隊が、その残りカスを狩る立場になるような、そんな状況になっていた。
だがそれでも油断できないのは、サージャル大公軍の主力は、この山岳地下要塞都市ゲンダール市に集中させてしまっている。当然、この惑星の都市は、この惑星中にあるわけであって、都市は何もここだけではない。
現状、惑星上大部分の都市機能が麻痺している状態で、その各々の都市に存在する避難場所にこの星の領民は退避しているわけであるが、このゲンダール市ほどの安全性が保証されたものではない。従って防衛機能の脆弱な避難地区などは、最初の襲撃の際、牢獣の侵攻を受けて悲劇的な状況になった街も少なからずはあったわけだ。当然、現在でも防衛機能が脆弱な場所は当時の状況の通り、改善の余地もなく存在するわけであるからして、その場所をまた再度ヂラールに狙われたらまた悲劇的な状況が発生するのは目に見えているわけで……
『ラズル大佐。オマ……ゴホン。貴官ノ機動兵器小隊ヲ一ツ借リタイ。良イカ?』
旭光Ⅱ機動形態に搭乗するシエ。空中滞空してサージャル大公軍の返答を待つ……シエは機動戦が得意なので、のっけからこの形態での運用である。
グロウム帝国には、純粋な人型機動兵器は、特危でいうところのコマンドトルーパークラスしかなく、それより大型の機動兵器は全てシェイザークラスの、マニピュレータ付き戦闘攻撃ユニット。わかりやすく言えば、『白いチートな機動兵器アニメ』に登場するナントカアーマーの亜流のような兵器ばかりなのである。即ち、このグロウム文明は、完全な人型の中~大型機動兵器の運用思想が無い文明という次第。
なので、シエの乗る旭光Ⅱには大公軍兵士もかなりの衝撃を受けていた……もちろんその趣味丸出しの容姿も相まってというところも大いにあるというのは確かではあるが……
『了解しましたシエ将軍。私の第17機動航空隊の一個小隊を貴官にお預けします』
『感謝スル、ラズル大佐。デハ部隊ヲ率イテコノ星ノ他ノ都市ヲ偵察。ト同時ニ、ヂラールヲ発見シタ場合、殲滅。同時ニ都市ノ被害状況ヲ報告スル。良イカ?』
『了解しましたシエ将軍。宜しくお願いいたします』
シエがマスタースレイブ操縦方式の旭光Ⅱ機動形態のコクピットでウンと頷くと、同時に旭光Ⅱの頭部も頷く。まるでシエが変身して巨大ヒーローにでもなったかのよう。これが旭龍だともっと良いのにと思うシエだが、虎の子旭龍は『やましろ』の中で待機中であったりする。多川将軍閣下も現状、乗って暴れられないのがつらいところ。
……ということで、シエはシェイザー型機動兵器数機を率いて旭光Ⅱで飛んでいく。
航空機の翼のように空間振動波動を生成させつつ飛ぶ姿の旭光Ⅱも、またオツなものである。
* *
軌道上でのレグノス要塞とヂラールコロニーとの激突は、地上へそんな余波を与えながら、現状の作戦を推移させていく。
『我こそは、ハイラ王国ガイデルの娘にして王国近衛騎士団団長、メルフェリア・ヤーマ・カセリアであるっ! 忌まわしきヂラールども! 私が成敗してくれる! どこからでもかかってこい~!!』
などと、やはりまだまだ文化文明相応の、戦闘時の事前準備が抜けきらないメルフェリア団長で王女殿下。まあメルさんなりのルーティーンというヤツである。誰も聞いてないし。
あ、いや、聞いていないというのは間違いである。なぜなら今眼前にいるはヂラールの一団。USSTCモーガン隊へ攻撃をかけようとせんとする群体である。
やはりメルの知っているヂラールの通り、脇目もふらずに相当な攻撃群体をモーガン隊へ当てている。まるでそれこそ一時期のSF映画にあった、宇宙生物パニック映画さながらの状況だ。
メルの口上に反応して……勿論言葉の意味なんぞ理解してはいないが……純粋な殺意と敵意を剥き出しにしてメルに襲いかかってきたヂラールども。
『パイラ、お前は下がってて! 打ちもらした奴に蹴りでも食らわしてよ!!』
メルはパイラの背から飛び降り、黒漆自動甲冑のマスクをシュンっと閉める。と同時に背から大きな柄に鍔だけの武器を取り出すと……、鍔が二股に割れて、メルの体の横幅に身の丈よりも大きな刀身をズァっと仮想造成させ、自動甲冑のパワーに乗せて、そのアンバランスなほど長く大きい剣をメルは軽々と構える。
『ドーラは援護射撃! お前とお前は私の左右に付け! よし、突貫!』
メルは斬馬刀を刀身の重さにまかせて回転を主にした剣撃でヂラールに斬りかかる! BGMは何が良いか迷うところだが、俊敏型のヂラールが地を蹴り頭上から襲いかかれば、メルはその幅広の刀身を盾にして、鋼板の音鈍く敵を弾き、刹那に竜巻のごとく回転して、俊敏型を周囲の兵隊型諸共真っ二つに斬撃する。
斬り伏せたヂラールの体液はメルのパーソナルシールドに弾かれて飛び散る。彼女は口を尖らせて残心すれば、その背後をカーリ型ドーラが守り、襲い来る他の敵を上段双腕の粒子トーチで切り伏せ、下段双腕の粒子ブラスターで更に迫りくるヂラールを吹き飛ばす!
メルの図体に似合わない剛の剣の舞。メルはドーラの戦闘特性をすぐに見抜いて自然体で連携を取る。
シビアの合議体が最低限の制御をしてるとはいえ、基本ただの自律制御型戦闘ロボットでしかないドーラをここまで仲間として使いこなすメルの戦闘スキルも正直尋常ではない。これでシエに負けたというのだから、シエと訓練していた時は、どんな試合だったのか想像もつかないワケであるからして……
「おい、なんだありゃ! とんでもないダースベ……」
「お前、それ以上言うな。色々マズイ」
「いやでも、あのアーマー姿にあの剣で、あの剣術って色々あんだろがよ」
「グラディエーターかバーサーカーか、それともダース……」
「だから言うなっつーの。あんな美人で可愛い暗黒卿がいるか……って、どうみてもジャパニーズのヨロイだろありゃ」
敵の分断に成功したメル。なんかPVMCGのトラクターフィールド機能を使って、兵隊型の首を締め上げている。正に暗黒卿。
ドーラと共同して敵をメッタクソのギッタギタに斬り伏せている真っ最中に、メルのおかげで敵の波状攻撃が収まって前進してきたUSSTC兵士に、メルの鬼神の如き戦いぶりを見られてしまう……今、メルは横から襲いかかってくる兵隊型に、M9拳銃の弾を片手持ちでワンマガジン全部叩き込んだ。
メルが一瞬目を逸らしたスキに、俊敏型が一体メルを素通りしてパイラ号に襲いかかった!
『させるか!』
メルは斬馬刀で突きを入れるように敵めがけて構えると、刀身が規則正しく割れて、ものすごい勢いで、ビームのごとく鋭利な蛇腹構造のロッド型刃となって伸び、俊敏型の背後を貫いた! と同時に動きの止まったヂラールに後ろ蹴りを思いっきり入れるパイラ。更には蛇腹を素早く元の形状に縮め戻し、こちらへ戻ってくるヂラールを唐竹割りで真っ二つに叩き割るメルフェリア。
……その様子を見た米兵は唖然として、もう完全なギャラリーと化すが、しばし後、大きな口笛とガッツポーズと拍手と喜声を上げて、メルを大きく称える。
『え? はれ?』
あまりに戦闘に集中していたメルは、そんな感じで戦況が好転していたのにも気づかず、怒涛のごとく一人プラスドーラでヂラールを調伏してしまった状況に、口を『 3 』にして、キョトンとする。
メルを称えるUSSTC兵。状況を飲み込めたメルはデヘヘ顔になっていたり……
* *
さて一方、USSTC担当区画左翼。
「ファイアファイアファイア!」
土嚢に囲まれた軽機関銃陣地からM134ミニガンをぶっ放すUSSTC兵。
ブワァァァアアアアアという鈍い回転音と発射音が唸り、レーザーの如き弾道がヂラールを打ち抜き、文字通りの蜂の巣にしていく。
更にその横では、もう米軍で第二次世界大戦時からずっと改良されて使い続けられているブローニングM2重機関銃も唸りを上げている。この銃は、かの柏木をティ連で一躍英雄にした『M82バレット対物ライフル』と同じ12.7ミリ実包を発射する重機関銃だ。こんな弾丸を一発でも喰らえば、かのドーラでも吹っ飛ぶのに、そんなものを断続的に打ち込まれた日にゃ、シールドがあるとはいえ、ヂラールもそれはとんでもないことになるのだが……
そして、更に前に出て踏ん張るは、そのかつてふっ飛ばされたドーラのみなさん……だが、
「うわああああっ!」
大きな着弾音轟かして、USSTC兵とドーラが吹き飛ばされる。
兵の方は、パワードスーツの装着が幸いして軽傷で済むが、M134やM2で吹き飛ばした敵の後方から飛んでくる光弾に、今度はUSSTCやドーラが翻弄される。
「クソッ! タンクタイプだ! 下がれ!」
「『サイドカー』を持ってこい! 急げ急げ急げ!」
サイドカーという兵器。勿論本当にウラルかBMWのサイドカーを持ってくるわけではい。
あくまで愛称である。では一体どんな兵器かというと、即ち特危の使用するH型コマンドローダーに類似するパワードスーツ型兵器なのだが、これがまた変わった形状をした代物で……
重装甲化された外骨格型パワードスーツの右椀部が取り外され、そこには七五ミリ口径のレールキャノンが備え付けられている。しかも野砲型のレールキャノンで、非常に大型となっており、右側面には車輪が付けられている。即ち、パワードスーツの右腕部に大型の動力付き対戦車野砲型レールガンがくっついているようなデザインのパワードスーツ型兵器であり、それゆえに愛称が『サイドカー』と呼ばれている。
「ファイア!」
サイドカーの右側部七五ミリレールキャノンが青白い電気をまとって発射される。
イオン化した大気を纏い、閃光がヂラール戦車型を貫く! ……悶絶して倒れ込む戦車型。だが仕留めきっていない。戦車型の砲身のような器官がサイドカーに向けられた。
このサイドカー。高威力の兵器ではあるが、基本パワードスーツで野砲をぶん回そうという発想の兵器で、戦車や装甲車に比べればモチロン機動力はあるが、それでも右側部に野砲をくっつけているような代物である。そうそう咄嗟の攻撃に回避反応できる代物ではない。
「シット!」
「回避しろっ!」
だが遅し。敵の光弾が発射され、サイドカーに吸い込まれていく! これは戦死確実であ……
と誰しもが思った瞬間……ガン! っという音と同時に光弾があらぬ方向へ弾かれ飛んでいき、爆発を起こす。どうもこのコロニーの屋根部にぶち当たったようだ。
「大丈夫か!」
「な、なんとか! ってどうなってるんだオイ!」
「あ、あれはっ!」
なんと! サイドカーの前に盾となって立ち塞がったのは、太刀を横一文字に構えて残身する、ナヨ閣下であった!
そう、ヂラール戦車型の光弾をナヨは疾風のごとくサイドカーの間に入って、太刀で弾き返したのである。
『主ら、無事かえ?』
「ミ、ミス・ナヨ!」
『ウフフ、だから妾は「みせす」だと言うているでしょう』
ニヤと笑みを返し、視線をヂラールの方へ向けるナヨ。
『もーがんに、こちらが危ないと聞いていましたが、なんとか保っているようですね』
「これぐらいなら何とか。ですが助かりましたミス……じゃなかったミセス・ナヨ」
『ウム。こちらの左翼陣を押し返せば、このヂラールコロニーの中枢も、我々の力を少しは思い知ることになるでしょう。皆の者、気張りなさい』
USSTC隊員、ナヨの登場で気合も入る。そりゃ彼らから見れば、こんな形でナヨが登場すれば、戦の女神にも見えようものである。
その後、USSTC部隊とナヨは連携してヂラールを攻撃。基本、この左翼部は防衛拠点であったのだが、ナヨの登場で前に出るという判断になり、前進を開始。
こういう状況では、やはりUSSTC部隊の人的数量を補完する対人ドーラ部隊は威力を発揮する。
ナヨはヂラール兵隊型が放つブラスターの閃光を、まるでナントカの騎士の如く太刀で弾き返し、熨斗をつけてヂラールに返している。
自ら放ったブラスター弾が自分に返ってくるのだからヂラールもたまったものではない。
バタバタと左翼陣を攻めにくるヂラールは『自業自得』を物理的に体感する事になる。
……と、まあこれもナヨという超人というか、仮想生命故の能力というか、そんな力の為せる業であり、ある意味、アメコミレーベルの映画にでも登場しそうな彼女を今、先頭に頂いているわけで、USSTCも気力一〇〇倍、先程の防衛戦とは打って変わってヂラール狩りに戦意を燃やす。
なにか一つの無敵のシンボルを立てただけで、ここまで戦闘の様相は変わるものかという良い見本のような状況であったり……
* *
メルフェリアとナヨの援護で、ヂラールのUSSTC部隊襲撃を迎撃することに成功した地球―ティ連・連合軍。今作戦の目的は、この巨大なヂラールコロニーの鹵獲であるので、戦闘ばっかりしているというわけにもいかない。
で、この生体コロニーを鹵獲するにはどうすればいいかという話になるのだが、そこはもうゼスタールの技術に頼るしかないわけで……
「プリルちゃん! そっちはどうだっ!?」
PMCのIHD所属、クロード・イザリが、何やら大掛かりな機材を地面におっ立てて叫ぶ。
IHDの面々は国際色豊かだ。フランス人であるクロードを始めとするヨーロッパ系に南米系、北米系といったLNIF系諸国の人種が豊富に揃っている。で、これみーんな月丘の友人で、かつての戦友であるから、彼も相当ある意味国際的に『別の意味で』顔が広い。
『ハイ! おっけーですよっ! クロードサン! そちらはどうですかっ!?』
「はいはい、大丈夫だ! タイマーをセットした。みんな下がれっ!」
技術支援部隊のヤル研と、補給・工作部隊のクロード達IHD―PMC部隊と、特危施設科が協力して、何やら塔のような施設をいろんな場所におっ立てている。
『現状の、施設状況を評価する。これならば問題ないだろう』
ヤル研に派遣されてきたゼスタールの男性型合議体のとある方。彼はこの塔のような設備の取扱いアドバイザーのような人物だそうだ。
『このぐらいの距離でいいんですよね〜、ケラー』
『肯定。この警戒線より向こう側には今少し我々の許可なく侵入するな』
『了解ですっ!』
ピシとそのゼスタール人に挙手敬礼するプリル。
クロードがプエルトリコ系の仲間と何か話をする。彼は軽く頷いている。
「ムッシュ、最終の点検が済んだ。いけるぜ」
『了解、ではサワタリ生体。稼動を許可する』
「はい、わかりました」
ヤル研、沢渡がノートパソコン状の端末から、ポポポっと入力すると、数カ所に設置された搭状の物体が唸りを上げ……なんと、その物体の根本から、『ハイ端子』が一帯を侵食し始めたのであった!
みるみる間に、配線状の金属物体が地面を這い、壁を這い、一帯を有機物の不気味な光景から、金属質な、これまた不気味な光景へ変化させていく。
そう、彼らの仕事は、各戦闘部隊が確保した要所に、ハイ端子モジュールを打ち込んでこのジラールコロニー全域をハイ端子で侵食してしまおうと、そういった施設工作をする任務を遂行中なのであった。
これ補給部隊や、技術支援部隊に特危施設科の仕事としては、かなり大掛かりな大作戦だったりする。
彼らの作戦がうまい具合に予定どおり進めば、このヂラールコロニーは彼らの意のままに動く直径二二〇キロメートルの巨大な『端子奴隷』化するわけで、彼ら連合部隊の意のままに動く傀儡とすることができるわけである。
つまり、この作戦の最も重要な部分を担っているのが彼らだったりするワケなのである。
「はっはー、こりゃ壮観ですな。色々と」と沢渡。
『デモぉ、やっぱりデザイン的にですねぇ……』とプリ子。
「こんな風景にもう慣れてる俺も、もう相当なものだよな……」とクロード。
「いやいやいや、一〇年前の日本国民の感覚を思えば、クロードさん……」
「ありゃニホン人が特殊なんですって、ムッシュ・サワタリ。時のヨーロッパなんてパニックだったっすよ」
なんて、そんな話も出てくる。って、これはゼスタールさんは関係ないが……
で、こういう状況では、『必ず』といっていいほど出てくる輩。
「クロード隊長!」
プエルトリコ系のIHD隊員が、すっとんきょうな声あげてクロードへ駆け寄ってくる。
「どうした!」
「あいつがほらっ、見てくださいよ!」
IHDの隊員。アラブ系の隊員が……なんと、ハイ端子に侵食されて、ウンウン言ってたり。
「あのバカ!」
どうも興味本位で警戒線の中に入って、ハイ端子の侵食の様子を見物してたら、不意に触れてしまって、こんな風になってしまったらしいという話。
「あ~あ、何やってんだよお前は……ハァ……あ、ムッシュ・ゼスターリアン。これ、どうにかなりませんかね?」
なんかそのゼスタール人も、少し微笑したように見えて、更にはため息ついたようにも見え……
『我々は厳重に警戒線の中へ入らないよう警告をした。にもかかわらずそのような状況に陥ったという現状を鑑みるに、その生体の行為に今後の学習能力強化措置の意味も含めて、現在の状況を維持するのも効果的な手段と考えるが?』
なんか結構きつい事言ってるゼスタール人技術合議体の皆さん。要するに「だから言わんこっちゃない。勝手な事するからそんな事になるんだ。いい薬だから、もう当分そのままでいとけ」と言っているワケである。
「いやいやいや、そんな物言いでキツイこと仰るムッシュ……まあお気持ちはわかりますが、ここは私の顔に免じて。今度同じことやらかしたらゼル端子で簀巻きにして、RPGの的にしますから、此度はご容赦の程を……で、どうにかしてやってくれませんかね?」
『高度な反省の態度を評価する。では……』
対人ドーラを数体呼び寄せて、ハイ端子除去措置をしてやるゼスタール人技術合議体。って、意外と最近ゼスタール人も洒落がわかってるのかなと、横でその漫才を見ていて思う沢渡所長。
プリ子は口抑えてプププと笑いを堪えてたり。
……ということで、IHD・ヤル研に特危施設化合同の『施設補給チーム』は、現状前線戦闘部隊の順調な進軍のおかげで、後方からこのようなハイ端子増強設備を打ち込んで、ヂラールコロニーを支配下に置いていく作戦を行っているわけであるが、当然彼らのこのような行動をヂラールが察すれば、おいおい時間が経過するにつれて抵抗の度合いも増していくだろう。
とすれば、当然彼ら施設補給チームという後方部隊であっても戦闘状況に巻き込まれることは充分に考えられるわけで、その対応も当然必要となる。
従ってクロード達IHDチームは全員普段の仕事同様の装備を身に着け、更にVMC弾薬補給システムにパーソナルシールドもイツツジから支給を受け、ほぼ情報省特殊部隊SIFクラスの装備をもって、任務についていた。勿論それは、彼らの仕事にヤル研や施設科の警護も任務に入っているからである。言ってみれば真っ当なPMCの本業でもある。
「……って、おいおい……この内部構造、支給されたマップと違うぞ」
クロードがVMCモニターを持って、周りの風景と照らし合わせる。どうやら本当のようだ。
『どれどれ……あ、本当ですねっ』とプリルもクロードのVMCを覗き込む。
「はあ、なるほど……」と沢渡も同じく。
「ムッシュゼスターリアン。どういうことだ? もしかしてこんな変な構造だから迷ったとか」
『否定。恐らく考えられるのは、本ヂラール敵性体が「生体兵器」とされる点である』
「どういうことだ?」
そのゼスタール人が言うには、生体兵器であるがゆえに、工業製品のように完全な規格に基づいて、工業プラントのような場所で製造されているわけではないと考えられるので、生体の血管構造などと同じく、必ずしもゼスタールが所有しているヂラールコロニーのデータとモノが全く同じ構造であるとは限らないのだろう……という事だそうである。
「……そういう事かよ……でもムッシュ、それはそれでまずいぜ」
と、クロードが言うと、沢渡が、
「一応現状そのような状況になったということを樫本二佐に知らせておいたほうが良いな」
『デスねケラー・サワタリ……ということは、中枢器官の探索に、ちょっと支障きたしちゃいますね』
フムと頷き、部下に指示出している沢渡。
「でさ、その探索って、樫本さん達の部隊の仕事だろ? プリちゃん」
『ですです。クロードサン。カズキサンも一緒ですねっ』
「そうか。まあカズキの野郎だったら大丈夫だとは思うが……」
ま、カズキなら問題ないだろうと。
とそんな話をしていると、偵察に出していたIHD所属の台湾人スタッフが息を切らして飛んできた。
「隊長!」
『おう、どしたチェン』
「ちょ、ちょっと……なんだか不気味な場所に出ちまいまして……どうすりゃいいかみんな困っちまって……」
顔を見合わせる四人。頷いてチェンなる隊員の後を走る。
……数分駆け足させられるわけだが、数分といえば結構な距離である。で、目的地に近づいてくると、何か『アー』とか、『ウー』とか、そんな悲鳴か嗚咽にも似た、正直あまり聞きたくない音が段々と大きくなってくる……
「おおお、おい……なんだか有り難くないような、そんなシチュだぞこりゃ……」
目的地に着くと、チェンとチームを組んで偵察に出ていたスタッフが、ちょっと警戒してそれ以上進まずその場に皆が来るのを待っていた。
「なんだこの音は……ホラーハウスみたいな感じじゃねーかチェン」
「でしょ? みんなビビっちまって……」
とクロードらが話すと、即座に回答を出してきたのがゼスタール人。
「……音の分析を完了した。恐らくこれは何らかの生物の音声である。周波数帯から分析すると、畏怖・恐怖・絶望・それらの感情が発現される際に発せられる平均的な音声に酷似している」
そう言われると、ハっと思い出したのがプリ子と沢渡。
『そ、それって……もしかしたら、柏木長官や、カーシェル・オーミのレポートにあった!?』
「そうですよプリルさん! もしかしたら、グロウム人さん達が!」
そう言われると、クロードも月丘と飲みに行った時に雑談で出たその話を思い出す。
「Merde! おいチェン! もっぺん待機地点に行って、施設科の連中呼んでこい! ムッシュゼスターリアンは人形をこっちへ!」
『了解』
即座に状況を理解したIHDスタッフ。彼らもそのような事前知識は持っている。無論ゼスタール人もだ。
* *
カーリ型対人ドーラの粒子トーチが最大パワーで音声のする方向の、生体的な壁を焼き切ろうとすべく、ズップリとその粒子の刃を壁にぶっ刺す。
他のドーラも同様に作業を円滑に進めるため、共同して有機的な壁をぶち壊して向こう側へ進もうとする……
大きく開いた肉塊。焼ききった場所から体液のようなものをは流出しなかったものの、粒子トーチの熱で蒸発した焼けた肉のような匂いが周囲に漂う。
そしてその肉壁の向こうに彼らが見たものとは!
『た、助けてくれぇーーーー!!』
『お、落ちるぅ~!』
『おかーさーん!』
即座にPVMCGで翻訳されて耳に入る悲鳴。その容姿は資料で見たネリナと同じ姿、グロウム人だ!
彼らが、かのサルカス戦時に大見達が遭遇した、かのおぞましい牢屋状の消化器官に囚われ、コロニーの分解器官に押し込まれようとしている構図の、あの時の超拡大版の状況に遭遇してしまった!
「こ、こいつはっ……!」
戦慄するクロード。彼も今まで数々の戦場で、いろんな処刑や拷問の姿を見て、仲間や雇い主を助けた経験があるが、そんなものの比ではない。
『きゃぁぁぁあああああ!』
見上げれば、網目の牢屋上の部屋のような場所があり、そこの開閉器官が空いて吸い込まれるグロウム人女性。管のようなものが人型に躍動し、それが別の器官に繋がっている。
当然行き着く先は、緩慢な死が待ち受けるおぞましい場所だ。
その情景に即座に反応したのはゼスタール人の技術合議体であった!
刹那にドーラへ指示を出し、女性が落ちていく管状の器官の先へめがけてブラスター砲を浴びせかける。
すると即座に爆裂して亀裂が入り、そこから女性が粘液まみれになって落ちてきた。
更に他のドーラが飛翔し、その女性を受け止める。
「やるなムッシュ! 流石だぜ! プリちゃん、ムッシュサワタリ!」
『わかってますっ!』
「了解ですクロードさん!」
プリルは、背中に飛翔用バックパックを造成して、囚われている上空の牢屋状器官の場所へ飛び、グロウム人の人数を把握に行く。
沢渡は近くで任務に当たっているシャルリの部隊を呼び出し、応援を頼む。
クロードは施設科と共同で、応急の救助作戦を考え、指揮を執る。
バックパックで飛翔したプリルは人数の把握をすると同時に、グロウム人に説明をしていた。
グロウム人ははじめ何が起こったのか理解できなかったようだが、それがヂラールとは違う『何か』であることを理解し、下を見ると救助された先程の女性が見えたようで、急にパニックになったように『助けてくれ!』とプリルに必死の形相で懇願しだした。
『大丈夫ですっ! もう大丈夫ですよっ!』
大声で叫ぶプリル。
『クロードサン! まだですかっ!』
「もう少し待ってくれプリちゃん! 今からハイ端子モジュールをここで作動させて、この器官の制御を取り敢えず乗っ取るから!」
本来なら設置する場所ではないが、コレ以上の犠牲を食い止めるにはこれが一番手っ取り早い。ハイ端子でもしかしたらグロウム人も先程のズッコケアラブ人スタッフみたいになってしまう可能性があるが、コロニーに飲み込まれて消化されるよりはマシだろう。助かるのは間違いないのだから。
……クロードがハイ端子モジュール。即ち先程の搭状デバイスをおっ立てて作動させる。すると瞬く間に端子が周囲を侵食し始める。
クロードにプリ子達は今、キャンセラースーツを着込んでいるので、端子に侵食されることはない。先程は警戒線の外にいれば安全だったのでキャンセラースーツは着ていなかった。
牢屋のような器官に囚われているグロウム人達も何事かと怯えきっているが、プリルが事情を説明してなんとか宥めている。だがやはり緊急でハイ端子を食らわしたものだから、牢にも端子が一部侵食し、グロウム人が何人かハイ端子に侵食されたようだ。なので即座に施設科の特危隊員がハシゴをかけて救出に向かう。
数を数えると、なんとも五〇〇人以上はいる。これだけの人々が拉致されたわけだから、やはり今現在もヂラールによる相当な侵略行為があるのだろう。恐らくこの人々は城塞都市ゲンダール以外の場所で捕まったのだろう。後で聞けばやはりその通りだという。
現状でこの人数であるから、ヂラールがサージャル大公領へ侵攻してきた当初を考えると、その犠牲者はこんなものではなかっただろう。それはサルカス戦のハイラ人同様、いやそれ以上の絶望的な地獄絵図が展開されたはずである……それを考えると、なんともいえぬ嫌な気分になるクロード達スタッフ。
だが……ありがたいのか残念なのか、そんな事を想像しているヒマもないような事態が発生する。
そう、この器官のハイ奴隷化を探知したヂラールの群体が急速接近していた。
「クロード隊長、奴らが来ました! やっぱここは連中にとっても重要なところみたいですぜ」
黒人のIHD隊員が先まで斥候で進み、ヂラールの部隊接近を確認すると急いで引いてきた。
クロードは報告を聞くと背後上方に目をやる……グロウム人達の救出が始まった。旅客機から脱出する時に使うエアスロープのようなものを展開し、地上へ降ろしている。
「プリちゃん、転送でバーっと一気に持っていけないのか?」
『そりゃ無理ですよクロードサン。あの人数を転送するなら、正確な位置情報とサーチが必要ですっ。あの人数のグロウム人のバイタルがあれば別ですが、それがない以上、転送するにしても相当の時間を要しますから、そんなの待ってる間にとりあえず助け出して安全な場所から転送したほうがいいですよっ』
「ウィ、なるほどね……チッ。ならば戦闘もやむなしか……よしお前ら、センデロの残党共や、ウィグルの連中とやりあって以来になるが、ひさびさのドンパチだ。全員戦闘体制やるぞ。位置につけ」
そう言うとIHDメンバー全員、急に暑苦しくもプロの表情になる。
皆、地球製の個人所有の愛銃を手に物陰に隠れ、障害物から照準を取り、散開して敵を待つ。
その武器の種類は様々。M14バトルライフルにM4カービン系、SCARにMINIMI。更にはRPG系ランチャーにPVMCGで仮想造成したブラスター系兵器……恐らくこれらの武器では完全なヂラールの撃退は無理だろうが、シャルリ達が来てくれるまでの時間稼ぎはできるだろう。
「隊長、ゼスタールさんの人形は使わないのですかい?」とプエルトリコの隊員が話すと、
「あれは救出作業に当てたほうがいい。直協のガードマンにもなるしな」
すると沢渡が、
「では、私達もとっておきを出しましょう……プリルさん?」
『はいっケラー! あれですね? ムフフフ……』
プリルはPVMCGをポポポといじると、彼女はプレイヤーワンの如くフワっと三メートルほど空中に浮かび……なんと彼女の周囲に3DCGが形成されるように、何かが仮想造成されていく。
すると出来上がったのは、なんともまあ……あの試作段階で方向性が『最前線作戦型』のコマンドトルーパーになってしまう前の試作品。『むせる型』のコマンドトルーパーであったっ! 明日につながる今日ぐらいは、こんな兵器の搭乗もまたよかろうってなところ。ちょっと意匠は違うが、まあ似たような感じ。
「こりゃたまげた! ははは!」
クロードも知ってる有名な機体のような感じの某。周囲のIHD隊員も、ヒューと口笛吹き、大喜び。スマホで撮ってる奴もいたり……って、敵はそこまで来てるんだぞと。
「よしお前ら、これでバイオニックなシャルリの姐御が来てくれたらもう問題なしだ。気張れよ!」
オー! と気勢あげて迎え撃つIHD部隊。ヤル研『むせるトルーパー』は、カショカショとカメラが動いていたり。
とはいえ、敵はかのヂラール戦闘群体。勿論戦車型も擁しているはず。更に鎌を持った半蛇半人型ならなお質が悪い。
後方を見るとグロウム人達の救出作業は、まだまだ始まったばかりだ。現状の戦力で、防衛戦をしながら五〇〇人の救出は荷が重い。さらに言えばクロード達は戦闘任務でここに来ているわけではない。
「敵発見! 各通路から来ます!」
「よし戦闘用意! 構えろ!」
IHD戦闘チームが全員自前の武器をガチャと構える。そこら中にレーザーポインターの可視光線がコンサートホールの演出のごとく舞う。
『よーし、どっからでもかかって来いやぁ~!』
プリルもお得意の機動兵器操縦の腕で対抗。コマンドトルーパーのアサルトライフル型ブラスター砲を構えて戦闘用意。
……しばし後、予想通りの編成で、敵群体が、何やら鳴き声とも奇声ともいえる音を発しながら、怒涛のごとく進撃してきた!
俊敏型がチョコマカと素早い速さで後続の動きを気にもとめず、まずは襲いかかって来る!
「よっしゃ、うてっ! feufeufeu!」
パラタタタにドシュドシュと、銃、エネルギー火器火砲、技術の新旧合わさった音が、この有機的な空間に響き渡る。
戦闘開始と同時に、その唸るような銃火砲声に、救出されているグロウム人達は悲鳴をあげる。
「救出部隊の方にサル野郎が行ったっ、ブチ殺せっ!」
「了解!」
俊敏型の一体が火線を交わし、グロウム人達の方へ襲いかかる。だが、護衛に付いていたIHDの、先程のおマヌケアラブ人がAKをぶっ放し、その一体を仕留める。
「どうだっ!」
「ははは、これで汚名返上だなハッサン!」
苦笑いで手をグッパとし、おどけるそいつ。
「だけど、イマイチ手応えが悪い。相当ブチ込んだぞ。これがPVMCGの弾じゃなかったら、一気にガス欠だぜ」
ハッサンなる隊員がそうぼやくと、皆が彼の言葉に納得するが、プリルがその原因を、ヂラールのシールド展開能力にあると教える。
『……だから、なるべくブラスターで敵のシールドを減衰させてから、実体弾を打ち込んで下さイ! ソッチのほうが効果的です!』
現在、この戦闘ではハーグ陸戦条約など関係ないので、いろんなメーカーが作ったホローポイント系のダムダム弾頭型に、水銀弾頭のような、本来ならば条約によって禁止弾とされている弾丸に砲弾を使いまくっている。なので、生体兵器であるヂラールに対してティ連の火器に負けじ劣らずの威力を見せつけているのである。
で、激戦が続く現状。
プリルのむせる型コマンドトルーパーも、現状防衛戦であるために、お得意の高速ローラー機能を使えないでいた。
『クロードサン! 敵のセンシャ型は私に任せてっ! 隊員サン達は取り巻きを逃さないでくださいっ!』
「わかってるよっプリちゃん! だけどっ!」
敵が多い。ヂラールお得意の高速人海戦術である。もうかなりの数を前線から逃して救出部隊の方へ流してしまっている。
取り敢えず現状、特危施設科の諸氏も防衛戦闘に加わってはくれているものの、状況は厳しくなってきた。ドーラを回そうにも、皮肉なことに現状一番ヂラールに対峙できるドーラは、これ救助活動にも大変便利な機能を持ったロボット型兵器であり、今はソッチへ回しているので戦闘に加われないのである。
だが、そんな苦戦の状況もそんなに長く続くこともなかった。
「よっしゃ来てくれたか!」
クロードが叫ぶ。と同時に高エネルギー粒子ビームの一閃が周囲を瞬間照らし……
敵ヂラール、俊敏型、兵隊型、戦車型もろとも何十体も瞬間刹那に貫き、切り裂き吹き飛ばした。
『待たせたね! もう大丈夫だわさ!』
シャルリがキックのポーズで、義足を重粒子砲に変化させ、砲口から水蒸気の煙を上げていた。
「シャルリ大佐! たすかりますぜ!」
ガッツポーズで勝ちが見えたクロード達。
『旦那、敵と要救助者はこれだけかい!?』
「ウィ」
シャルリは義足の形状をカシャカシャと元に戻し、メルヴェン・シャルリ隊へ即座に戦闘へ入るように指示する。
シャルリが来たからにはもう大丈夫である。クロード達IHD隊とは違い、本来は主力の戦闘部隊であるからして、機動兵器に重火砲の装備も豊富。本来侵攻するべきポイントを変更して、IHD部隊の援護に来てくれたのである。そりゃシャルリもグロウム人が、かの時の嫌な状況に晒されていたとあっちゃ黙ってはいられない。
「シャルリさん、助かりました。これで余裕を持って救助活動できますよ」
駆け寄ってくる沢渡。救助部隊の指揮を摂っていたようだ。
『アア。だけど話には聞いていたけど、これが例の……』
その生体構造物の不気味さに嫌な表情の彼女。その美人さんの顔がゆがむ。
サルカス戦時の記録映像に取られていた大見達が活躍したかの作戦以上の規模のサージャル大公領民が囚われていたわけであるから、シャル姐の心境も複雑である。
『サワタリの旦那、この場所でこの規模だということは……』
「ええ、恐らくこのコロニーの大きさです。この規模のモノがあと何箇所かあってもいいと思われますね」
シャルリは大きく頷くと、部下を呼んでこの状況と沢渡の推測を各部隊に知らせるように命令する。
『はあ……でっかいミッションがまた増えちまったね。こーいうのを見つけちまったら探し出すしかないじゃないかい。ゼスタールさんとこのデータに載ってなかったのかい?』
「内部構造の施設というか、器官の詳細までは……」
『まあいいや、この手の器官を見つけるたびに、あんなのと戦闘しなきゃなんないってわけだから、ちょっとコッチも考えなきゃね』
一番効率がいいのは、ハイ端子を打ち込む数を多くすることだが、基本このコロニーも『生体』なので、度が過ぎると何が起こるかわからない。そのあたりの調整も必要だ。
まだまだ先は長そうな制圧作戦である……
* *
「……ということで月丘三佐。ヤル研からの支給品だそうだ」
「は、はあ……これがですか……」
樫本隊隊長の、樫本典昭二佐。順調に部隊を進めつつ、とあるポイントで補給部隊を待つ。
例のハイ端子設置塔の補給を受けるためだ。
補給品の中に、送られてきた月丘専用の支給品。彼は、一体全体自分を使ってヤル研は何がしたいんだと、口を尖らせて連中が送ってきた支給品を見る……
どうやら乗り物のようで……
「サ、サイドカーですか……」
樫本は、現在の月丘に支給されているコマンドローダーの格好と相まって、必死で笑いを堪えている。
「みたいだな……プッ」
月丘はこの手のネタにはあまり興味が無いので、現在の姿と、サイドカーがセットになっている理由が全く見当つかない。しかもそのサイドカーが妙に、レース用のニーラー型サイドカーのようで、どう見ても戦闘には不向きなデザインである。だが、武装もされており、その配置は明らかに高度な機動兵器系のそれであった。なんとも妙なものを造ってくると思う月丘。
「これって、マン島でやってるサイドカーレースに使われてるようなタイプのですよね……」
「いや、三佐、本当にわからないのか?」
「え? 何の事でしょう」
基本月丘は感性的には一般人である。どっかのガンキチとは違う。だが、まあ、あーいう人生でPMCもやってるだけに、経験だけは豊富なので、
「クククッ、まあいいや。で、三佐は、サイドカーには乗れるのか?」
「ええ、はい。イラクにいたとき、ロシア製のサイドカーをいつも乗り回してましたので」
「なるほど。んじゃまぁマニュアルはデータで送ってるという話だから……」と樫本は言うと、少々真剣な顔になる。
……現在、USSTC隊がいきなりの激戦になり、IHD・特危施設隊がイレギュラーな救出作戦で戦闘になり、シャルリ・メルヴェン隊と合流することになってしまった。
で、樫本率いる特危本体はとりあえず大きな戦闘もなく、運がいいのか悪いのか順調にハイ端子塔設置を進めている。そんな中、シャルリ隊から例の囚われていたグロウム人の一件についての連絡が入った。
「……という事で、やはりグロウム人さんの救出が優先されるということでな。捨ててはおけないという事にどうしてもなっちまうって訳だ」
「では、このままハイ端子を計画どおりに施設するという段取りではいかないという……」
「だな。で、あのおぞましい消化器官の区画は、周囲の構造をバイタルスキャニングにかけて、レグノスの方でサーチした結果、おおよその位置は把握したらしい。で、レグノス県防衛部隊の一部も陸戦隊へ回して、更に火星からも急遽で陸戦隊を編成してもらって、増援を投入し、作戦効率を上げるそうだ」
「時間をかければ、敵も増援を投入ということになりかねませんからね」
月丘が言いたいのは、敵のコロニーはこれだけではないということだ。
グロウム本星宙域に、まだ二基もコレと同じものがあるということを忘れてはいけない。
「……確かにその憂いもあるが、この軌道上での空間戦闘はほぼ決しつつあるそうだ。流石レグノスだよ、アレを投入した柏木さんの考えも、まあいつもの感じだけど、やっぱり大したもんだ」
ウンと月丘は頷くと、樫本が彼に本題を伝える。
「で、月丘君には、今後単独で行動をとってもらう。こういうイレギュラーな任務が増えたからには、作戦を少しでも早く終わらせるには、この要塞のアタマをとっとと潰したほうが早い。で、君にはこのコロニーの中枢を早期に探し出してほしい。なのでこの装備の支給だそうだ」
で、この装備の支給……どよ~んとした目で、その戦闘ニーラーサイドカーを見る……ちょ~っと違うような気分にもなるが、まいっかと思う彼。確かに機動力は高そうだし……自分のコマンドローダー同様、対探知偽装能力も高いようである。まあ月丘に使わせるぐらいの装備というわけだから、当然そういう仕様ではあろう。
「で、もちろん一人でというわけにはいかないからな。シビアさんと一緒に任務に当たってくれ」
「了解です、では早速取り掛かります。シビアさんはこの事は?」
「もう伝えてある……シビアさん!」
樫本が呼ぶと、特危隊員とドーラについての話をしていたシビアが駆け寄ってきた。
『何か。カシモト生体』
「月丘君に説明しましたので、先程の話、宜しくお願いいたします」
『了解した。では任務開始する。ツキオカ生体、行くぞ』
「え? いやいや、私とシビアさんの打ち合わせは……」
『道中で行う。我々が作戦プロトコルを把握している。問題ない』
「はいはい了解です、では樫本二佐」
ピっと敬礼して、少々タハハ顔でシビアについていく月丘であった……
* *
という事で、サイドカー転がす月丘。
USSTCのパワードスーツもサイドカーというが、あれはあくまでアダ名。コッチは本物。
普通はサイドカーと言えば、旧ドイツ軍のBMW-R75や、現ロシアのIMZ・ウラルモト社の造ってるウラルサイドカーのような感じの物を考える。
月丘もかつてはイラクでウラルサイドカーのM72という最初期に作られた博物館級のポンコツを乗り回していた事もあった。隣に付く側車は、案外ゆったりと乗れるもので、意外と乗り心地はよい。
だが今乗っているサイドカーは、ニーラー型のサイドカーで、片羽の戦闘機のようなデザインの車両である。
月丘は腹ばいになって運転するように本車、即ちバイクへ跨がり、側車側に乗るシビアも、うつ伏せ気味で、手すりに捕まって乗っているような姿勢である。
シビアは側車側から各種火器や機材の制御を行うような形になっている。
光学迷彩をかけて、意外に広いヂラールコロニーの内部を飛ばす月丘。まあ言ってみれば生物の内部構造内を疾走しているわけだから、コロニー内はどこもかしこも立体交差道路みたいなものである。
静音走行装置も完備しているので、ところかしこに点在しているヂラール兵隊型も可能な限り無視して月丘・シビアコンビは走る。勿論ヂラール発見箇所は、本体へ情報を送る。
『ツキオカ生体。そこを右折だ』
今、月丘コンビはコロニーの中心に向かって走っている。
勿論ゼスタールが提供したコロニーの内部構造資料あっての話であるが、その構造データも完全ではない。中心部に至るまでのデータがないのである。従ってある程度から先は、手探りで進まなければならないところはいかんともしがたいところで、こういう時こその情報省。総諜対の月丘達。要するに彼らは斥候任務をやらされているという次第。
当然、この手の構造物の中央制御部分といえば、このコロニーの中心と考るのは当たり前の話だろう。
なので、彼らはとにかく中心部に向かって疾走しているのであった。
「でもシビアさん、よく道がわかりますね。中心部のデータはあなた方も持ってないのでは……って、まさか適当に言っているとか!?」
『否定。確かに我々の得た情報でも、本要塞型ヂラール敵性体の中心部構造は不明だが、内部の構造は、ある程度パターン化されている。生体兵器、即ち生物的な性質を持つ存在であれば、我々の得たデータと、現状の各方面から送られてくるデータを比較すれば、内部構造の構成もおおよそのパターンは見当がつく』
なるほどと思う月丘。あてずっぽうではなく、一応は論理的に行動はしているのかと……っと、シビアに感心していると、行き止まりに突き当たった……月丘はブレーキを掛けて停止した。
「あれま……シビアさん、言ってるハナから袋小路ですよ。戻りましょうか」
『却下……少し待てツキオカ生体』
シビアはサイドカーから降りると、周囲を見回していた……何かをサーチしているようである。
更に、PVMCGを操作して、作成したマップデータを見比べて、何か思案……というか、恐らく合議体と合議しているようであった。
『ツキオカ生体、こちらへ来い』
「はい、何でしょう」
『この部分を見ろ』
シビアに指摘された場所を見る……シビアは大きく空間に弧を描くように指を回し、月丘はそれを目で追う。
『今、指摘した箇所のみ、周囲の構造と違う事が理解できるか?』
「え、ええ……若干色も違いますし、壁の紋様のパターンも少しズレてるような……」
『肯定。恐らくこの道で本来間違ってはいないと考えられる。この場所はかつてこの行き止まりの壁がなかった。即ち、何らかの損傷を負って再生した際に、向こうへ続く行程が塞がってしまったと考えられる』
「ああなるほど! 怪我して再生修復したって事ですか」
『肯定。従って、このコロニー個体が我々のコロニーデータと比較しても、構造に相違点が多いのもそのためと考えられる』
「ということは……え? ではこのヂラールコロニーは……かなりの戦闘経験がある個体ってことですか!?」
『肯定。そう想像できる』
即ち、ここまでのグロウム帝国との戦いより以前に、何処かの文明と、かなりのドンパチをやらかしている個体の可能性があるということだ。いや、確かにそれは想像できた事である。
当初、一〇基も引き連れてこの宇宙空間に顕現したのであれば、当然、他の別宇宙で同じような事をやらかしている可能性は大いにある。
『ツキオカ生体。この壁を破壊せよ』
「え? 迂回するのではなくて?」
『肯定。迂回した際に、敵の群体と接触してしまう時間的ロスの可能性と、この壁を破壊して、その向こうの状況から得られる情報を鑑みた場合、後者の方が得られるデータの重要性は高いと考えられる。同意せよ』
「それが合議体さん達の結論でもあるわけですね?」
『肯定』
「わかりました。でも破壊した途端、ヂラールの群体がワラワラとコッチへくるのは確実ですよ。で、破壊した先に何もなかったら、ここは袋小路です。えらいことになるかもしれませんよ?」
『その場合は別の手段がある。心配には及ばない』
「了解です。その言葉信じましょう……」
シビアはこれまでも何も考えなく行動してきたことは一度もない。そういう点、ゼスタール人は信用に値する種族である。この点は評価して然るべきである。
二人は再度、マシンに搭乗すると、行き止まりの壁から少し後退する。
ギアをバックに入れ、クンと後ろへ下がる月丘。
シビアは手元の操作ボタンをいじって、ヘッドアップディスプレイに照準を灯す。
刹那、シビアはトリガーを引くと、側車側の兵装格納部にある小さな垂直発射基(VLS)が展開し、小型の重力子ミサイルが発射された。
この空間は天井が高い。ミサイルもそんなに高く垂直に上がらず、シビアの背中一メートルほど上をかすめるように飛び、壁に命中。
超重力圧縮反応が発生し、瞬間、収縮を終えて周囲を圧壊させたあと、止めの爆発を起こした……と同時に、自動車一台入れるぐらいの大穴が空いたのを確認した。
「おっ! 向こう側が……流石ですねシビアさん!』
『予想通りの結果を評価する』
少しフフン顔のシビア。ちょっと得意げにみえないこともない……が、今度は月丘の予想も的中で、
「チッ、早速敵さんの反応ですか……」
彼の言ったとおり、こちらへ向けて生体反応が多数接近する。
『早急に向こう側への進行を』
「了解です」
月丘はすぐさまアクセルを回して、大きく空いた壁面の穴へ向けてマシンを走らせた……
* *
シビアは穴の向こう側に入ると、即座にゼル端子ならぬハイ端子を飛ばし、穴を塞いでしまう。
穴の向こう側では今頃ヂラールは何が起こったのかわからずに右往左往しているだろう。
だが、その穴を潜った月丘とシビアも、若干こちら側へ来たことを後悔していた……
そこには……
「これは……もしかしたらアタリを引いてしまったかもしれませんねぇ……」
『同意する。極めて重要な状況下にあることを認識できる。我々が斥候調査に出て正解であった』
「いやそれはそうかもしれませんけど……ウェ……」
少々苦い顔をする月丘。シビアは冷静に状況を判断していた。
どうやら月丘達が来た場所は、『向こう側の通路』などではなく、何処かの区画であった。
そこには繭、即ちコクーン状の物体が無数に天井から吊り下げられ、中には割れて中から何かが出てきたようなものもある……
シビアはPVMCGを起ち上げて現在位置の確認をする。
『チキュウ人の単位で言えば、現在ヂラール敵性体コロニー中心部より、約一〇きろめーとるにある。その状況下で、容易に予想できるこの状況を鑑みた場合、我々は……』
月丘とシビアは、どうやらヂラールコロニーの中枢区画へ突入してしまったようであった…………




