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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
31/89

【第五章・攻勢】 第三〇話 『ヂラールコロニー』

 ヂラールとは……

 実のところこう言われると、かのNGC 4565銀河十分の一もの領有域を擁するティ連ですら、その存在がよくわからない敵性体である。即ちティ連ですらこうなのであるから余程の存在ということもいえる。

 ティ連という存在のある加盟国に至っては、別宇宙にも国家領有域を持つ国もある。

 しかもティ連自体が並行世界の存在を普通に認識し、更には柏木の活躍による精死病治療法の解明によって物理的な『存在』を示す以上の、多元的次元空間における更なる並行の世界が存在する可能性をも突き止めるという超が付くほどの科学と知識を有する存在ではあるが、そのティ連ですら件のサルカス攻防戦で、この存在と初めて会敵するまでは実態をまったく知らなかった存在なのだから、やはりティ連としてもヂラールの研究が危急の事態となるのはこれ当然のことなのである。


ただ、そのティ連の中でも『日本』という加盟国に、その近隣の地域国家世界。この方々を語るとなると、これ若干話が違ってくる。

 なんせこれら地域国家の方々は、異星の知的生命体という存在自体と本格的に邂逅したのがここ一〇年ぐらいの話であって、ま、ぶっちゃけた話、ヂラールもティ連人も『存在』という点で見ればそうたいして変わらないわけであるからして、言ってみれば『知らない奴の強み』とでも言うか、下手な経験がない分だけ先入観もなく、この新しい未知の存在に対して地球人感覚の、ティ連人もビックリな発想で、この恐るべき存在にも対峙できている現状がある……という見方もあるわけである。


 だが、そうは言っても『普通の人間』では流石にこうはいかない。

 そのティ連の軍事部門を預かるトップが、現在『発達過程文明』と言われる……ぶっちゃけティ連加盟国で科学が遅れた国であり、しかもティ連国民の精神的な拠り所、即ち『聖地』と認識されている国家出身の英雄ともいえる人物、『柏木真人』長官閣下様が現在総指揮をとってるので、作戦がうまく運営されているという点もあるわけである。

 そんな突撃バカの字を持つ男が考えた、ティ連の科学技術力に裏打ちされた彼故の奇天烈な作戦とはなんぞや? というとこれが……


    *    *


 聖ファヌマ・グロウム帝国領有惑星『サージャル大公領』宙域に陣取る超大規模要塞型生体兵器ともいえる通称『ヂラールコロニー』

 その直径二〇〇キロに及ぶ算盤珠型で、外殻が骨格のようなフレームに装甲状の甲殻で守られたようなデザインのそれに、周回軌道を同期させて突っ込んでいく画を見せるは……

 これまたギガント級を超えたティ連御自慢の超兵器であり、究極の宇宙ステーション、『人工亜惑星要塞レグノス』であった!


 今、惑星サージャル大公領軌道上では、ちょっとした準惑星クラスの物体がぶつからんとするほどの最接近を果たそうとしていた。

 

『ジラールコロニーへの周回軌道同期完了! 最接近まであと……』

『ジェルダー・パウル! ヂラール機動兵器型、戦闘艦艇型多数接近、敵からの発砲を確認!』

『各攻撃部署に命令! 反撃を開始して! 自由に攻撃していいわ、各部署の責任者の判断に任せます!』


 ヂラールコロニーから次々と出現する機動兵器型生体兵器に、艦艇型生体兵器。どういう仕組みか詳しくはわからないが、まるで深海の発光生物がチラチラと光をほとばしらせるようなアクションを起こすと同時に、ブラスター系エネルギー兵器をぶっ放してくる。もうそれは無数の光の直線が交錯する様相。

 無論、レグノスも要塞と謳われる存在であるからして、それこそ無数とも言える対空兵装に対艦兵装を展開し、反撃を開始。

 だが、その照準へ合わせて屠るは機動兵器に艦艇型ばかりで、当の本拠であるジラールコロニーにはその砲火を浴びせない……というかそもそも艦砲射撃戦でヂラールコロニーを葬るのであれば、別段衛星軌道をヂラールコロニーにわざわざ合わせる必要もなく、遠距離から艦砲射撃を一斉射で食らわすか、それこそかつてのディルフィルドゲート砲のような決戦兵器をぶっ放して圧縮ゴミにしてしまえばいいだけの話である……


 ……ちなみにこのディルフィルドゲート砲は、イゼイラ語の正式名称を日本語に訳すと、『亜空間次元反転縮退砲』という攻撃方法で、かの『本部人工星系』だけが持っている超兵器というわけではない。つまりディルフィルドジャンプができる軍用艦艇は、基本大規模攻撃兵器。もしくは決戦兵器として全ての艦艇に攻撃方法として備わっているものなのである。言ってみれば、よくある宇宙戦闘艦に備え付けられている広域破壊せしめる決戦兵器というわけである。ま、六角形のバレルにライフリング刻んだような兵装があるわけではなく、この攻撃方法の場合は、ディルフィルドジャンプする際に生成される亜空間境界面と亜空間回廊を亜空間側ではなく、通常宙域側に向けて反転生成するように、しかも高エネルギーを得るために回廊を収束させて発射地点(出発地点)と着弾地点(到着地点)を繋げて攻撃するといった、そういう強力な兵器なのである。従ってディルフィルドジャンプを使えるカグヤやふそうにやましろ、フリンゼサーミッサにも威力の高低はあるが、当然使用できる攻撃方法なわけである……


 この兵器、もちろん使う艦艇の規模=亜空間境界面形成規模=威力となるわけであって、レグノス人工亜惑星要塞が搭載するディルフィルドゲート規模の亜空間回廊を利用した場合だと、どんな威力になるのかという話であるが、かつてのサルカス戦時に使用した『本部人工惑星群』から発射されたそれは、惑星イルナット軌道上のヂラールコロニーを跡形なく消し去ってしまった。無論これより威力は『低い』という次第なのだろうが……それでも恐らくそりゃ相当規模のえげつない破壊力をもっているのは間違いない。


 実は今回の対ヂラールコロニーへの作戦骨子もここにある。

 此度の柏木が考えた作戦は……


【ヂラールコロニーを捕縛する】


 といった、それこそ『(゜Д゜)ハァ?』とネット掲示板にでも書かれそうなそんな作戦であって、普通ならアホの所業なのだが、柏木も何も酔狂でこんな作戦を考えたわけではない。そこには色々思慮しなければならないところもあったわけである。


 まず第一に、先のティ連が誇る『ディルフィルド兵器』を壮大にぶっ放してヂラールコロニーを葬った場合、本部人工惑星程の威力はないので討ち損じると、サージャル大公領地上へあの質量の物体が機能不全に陥り、墜落する可能性もあるわけである。なので迂闊にあのようなデカブツを『落とす』わけにはいかないのだ。下手をしたら『旭龍は伊達じゃない!』なシチュエーションができちゃう可能性もある。

 事実、グロウム帝国に侵攻したヂラールコロニーの内、撃破破壊に成功した何基かは、それこそ地上に叩き落として破壊したのだそうだ。勿論あんな直径二〇〇キロメートルの物体が衛星軌道上から隕石のごとく地上へ落下したら、惑星環境自体が取り返しのつかない程の破滅を招く。だが、グロウム帝国を含む近隣国家群の科学力に技術力ではそんな方法を取らざるを得ないほどの敵だったということの証左でもある。

 このような事例もあるので、当然レグノス要塞のディルフィルド兵器を下手に使えば現状況下では、サージャル大公領惑星を同じ目に遭わすことになる可能性が大である。こちらがそれを意識しなくても、ジラールコロニー自体が自らの意思で地上に降下し、牙城を築けば更なる大きな破滅的被害をもたらす可能性もあるわけで、当然コチラの方が戦況は悪くなる。 

 ならば先のグロウム近隣国家のように、惑星の引力を利用して星の命運一つを犠牲にして、奴を叩き落とし破壊するか……先の近隣国家の政府も恐らく同じような判断の元、あのような作戦を敢行したのであろうが、こういった事態を回避するためにも今回の【ヂラールコロニー鹵獲作戦】は重要なのだ。


「ということでパウル艦長、そろそろ火星圏のディルフィルドゲート前に用意してあるアレを……」

『そうねっ。ま、こっちの奇襲が効いたのか、レグノスへ向かってくる敵はてんでバラバラの攻撃をしてきてるいたいだし……」

「やっぱり、メルちゃんの言っていたみたいに……バカなんですかね?」

『一見するとそう見えるわね。小隊か中隊でも組んで、計画された攻撃……ってのは全然ないみたいで、もう反応したら反応した奴が反射的に勝手に攻撃してきている感じだものね……数が多すぎるところが面倒だけど、いまのところ我々の武器兵装で十分対抗できているわ』

「ですが、あのコロニーのどこかにいる『長』が命令すれば、逆に統率の取れた恐るべき敵に変貌する可能性も充分にあります。早いうちになんとかしませんと」

『そこはケラー達に任せるわ。ケラー・ゼスタール達も準備万端みたいだし』


 パウルは通信用VMC画面を起ち上げると、火星の状況を移す景色に切り替わる。

 赤みがかった色の中にテラフォーミングされた緑に青の景色。白い雲がうっすらと映える現在の火星軌道上に天体のごとく直径五〇キロメートルのディルフィルドゲートが浮かぶ構図。さらにはなんと……ゼスタールの艦隊と、ティ連ー特危自衛隊火星駐留艦隊であるゼルドア艦隊所属の臨時護衛艦隊が綺麗に整列して並んでいる風景が映し出されていた。

 その画を見てニヤリとするパウルに、覗き込む柏木。彼も頷いて不敵な笑みを浮かべ、映像の一点にパウルとともに視線を送る。

 彼らが見るのは、ティ連の標準的な艦艇で構成された護衛艦隊ではなく、ゼスタール艦隊の方。

 ひし形の『エイ』にも似た全長二〇〇〇メートル級の、お馴染みガーグデーラ母艦に混ざって轡を並べる少々異様なデザインの艦船。

 全長は、ざっとガーグデーラ母艦より若干大きく三キロメートルはあろうか。だがその全長よりも、その艦影である。

 どうみてもトンネルを掘る時によく見られる、直径何百メートルもあろうかというようなシールドドリルのようなものを艦体前部、三分の一ほどを占めるようにくっつき、残り三分の二は、そのシールドドリルを支える直方体状の船体がくっ付いているという感じである。

 更に同型艦がなんと五隻も揃い、それら各艦にはゼスタール艦艇には珍しく、有人制御用のブリッジを備えつけているようである。勿論火砲含む自衛兵装も充実している。

 通常ゼスタール艦艇は、シビアやネメアのような専門合議体として構成されたゼスタールのヒトガタタイプが見た目一人で、一人の中の合議体と共同で割り当てられた一つの艦隊を全て制御するのが通例なのだが、此度はブリッジの中にどうもゼスタールのヒトガタ合議体が各艦一人づつ割り当てられて、誰かと協力して作業に当たっているようであった。


「って、でもコレって、地球のトンネル工事なんかに使われてるアレじゃないですかぁ……ドリルの付いた船って……ある意味アレかも? って、あ、シールド型ドリルか……」

『それよりも、長官カッカサマ。あのブリッジの中にいるのって……」とパウルがVMCモニターに映る映像を拡大させて見ると……『あの白衣に胸のバッヂ……ヤル研だったかしら? もしかして』

「はは、そうみたいですね……いつも研究室に篭っているような方が多いと聞いたのですが、なんのなんのというところですな……みんな活動的だ」


 一体このシールドドリルの付いた艦艇はなんなのだろうか? という話だが、まあ普通に考えれば、このドリルをヂラールコロニーに食らわせて、何かやらかすのだろうと誰しも思うわけだが、そこに鹵獲作戦というぐらいであるからして、敵を捕獲捕縛する作業が当然入る。

 無論、あんな直径二〇〇キロメートルもある巨大な物体を乗っ取ろうというのであるから、生半可な方法ではやってられない。

 そこでゼスタールがこんな特別仕立の巨艦を持ち出してくるわけであるから、当然何らかの勝算あっての作戦なのであろう。


『話では、元々あの変な船はゼスタールの対ヂラール用兵器としてあったそうネ、長官』

「ええ。その見た目どおりのコロニー破砕用の攻城兵器みたいなものだそうで、ゼスタールは過去に何回か使ったことはあるそうですが……」

『それを鹵獲作戦用に改修してしまうなんてね、すごくなったわね~、ヤル研も』


 今やかつての防衛省技術研究本部から、防衛装備庁へ昇格となって云年後、相当巨大な組織となったヤル研。その開発能力もとてつもなく調子にの……日本に、今や連合内でも重要な高度研究機関として存在し、ゼスタールの技術開示に、米国のサマルカ技術の販売等でも世界各国が同様の機関をつくる悪い見ほ……目を見張る手本となっている組織でもあった。

 そんなヤル件の責任者までになった人物から連絡が入る。


『柏木さん、パウル提督』


 ビョンと大きくVMCモニターが展開すると、そこに顔を映すは沢渡耕平所長。


「どうも、沢渡所長」『お久しぶりネ、ケラー』

『どもども。で、そちらの進捗はどうですか?』

「作戦通りですね。はは、ヂラール連中、流石にこのレグノス要塞に度肝抜かれたのか、右往左往していますよ」

『ザマーミロってやつね』

『ですが柏木さん。相当無茶な作戦と思いましたが、案外うまくいっているようで……』


 柏木は自分の推測どおりのヂラールの反応に自信を見せる。これもサルカス戦で得た教訓というやつである。

 その自信の理由を沢渡に話した……柏木が言うには「ヂラールは生体兵器であって、所謂『動物』ではない」という点。

 ではなぜそもそもヂラールが生体兵器であると理解できるかといえば、簡単な話である。動物はビーム砲なんか発射しないし、シールドなんて張らない。ましてや植物型に至っては、核兵器級の威力を持つ種子を飛ばして、更に毒さえばらまく。

 そんな自然由来の動物なんているわきゃない。なので、誰かが造った以外ないわけである。その由来起源発祥は今後の研究だが、その研究のためにも、恐らくヂラールが擁する最大級の基幹生体兵器がコイツだろうと思うので、連中の研究を進めていくためにも可能な限り鹵獲したい相手であるのは確かなのである。

 そんなヂラールの特徴は、基本『単純』なのである。行動もなにもかもがである。

 ヂラールの行動は『発見』『襲撃』『殺戮』『繁殖』この四つしかない。『繁殖』を除けばなんてことはない、普通のミサイルのような兵器でも『発見』『襲撃』『殺戮』ぐらいのことはやる。


「……なので、こいつらは常に『場当たり的』な行動しかしない。なので、テメーらよりでかくて襲ってくるヂラール連中にとっての化物になる『レグノス』をぶつけたら、完全に統率を乱すと思いましてね」


 と柏木は話す。ここがメルフェリアの言う『あいつらバカ』の骨子である。だがそんなバカなら簡単にあしらえそうな物だが、ヂラールの恐ろしいところは、メルの言う『バカ』に『残忍さ』『数の多さ』『耐久性』があることである。

 要するにアホが獰猛さをもって、数で攻めてくるのが怖いわけであって、それさえ気をつければ、頭を使った戦い方でなんとかなる連中だと柏木は見たわけである。

 実際、現状ヂラールの惑星降下行動はどこかにいってしまったようで、その降下部隊ですらもレグノスへ襲いかかってきている。だが、そんな惑星侵攻編成の部隊をレグノスに対峙させても、レグノスから見れば良いカモである。

 勢い余って降下した連中もいたようだが、その程度のヂラールであれば、地上部隊でどうにでもなるだろう。


「……ということで、沢渡さん。現状敵の部隊もたいしたことはありません。ですが、奴らも統制がないわけではありません。時間を掛けると対レグノス用の編成を組んできます。ですので今敵がうろたえている現状がチャンスです。万全の体制をお願いしますよ」

『そこは任せて下さい。いつでも命令をどうぞ』


 頷く柏木。


『長官、サージャル大公領地上部隊のメルフェリア団長と、シャルリ大佐が転送でレグノスに着任しました』


 兵から報告を受けると、


「そうか。では二人はナヨ閣下と同じメルヴェン隊に編入してくれ」

『了解、通達します』


 するとパウルが、


『長官、敵の迎撃も安定して推移しているわ。でも貴方が言ったとおり時間はかけられないわね。メルチャンにシャルリも来たからそろそろいいんじゃない?』

「わかりました……では沢渡さん。作戦開始します。そちらの行動お願いします! ……」


    *    *


「……了解いたしました。では、ゲルナー・バント司令、宜しくお願いいたいいたします」


 火星軌道上の宇宙ステーション、『マーズ・アルケ』そこから望むゼスタール艦隊。

 その艦隊の威容をジッと見つめるは、ゼスタール月面基地司令ゲルナー・バントであった。

 

『了解した。では、我が軍全艦艇を亜空間跳躍ゲートへ進入させる。進入後以降の艦隊指揮は、シビア・ルーラ合議体へ移譲する。承認せよ』

「わかりました。搭乗している乗組員……っていっても、例の各特務艦にあなた方の合議体お一人づつと、ウチの研究員だけですが、彼らも以降はシビアさんの指揮下に入るということで宜しいのですね?」

『肯定。問題はない』


 そういうと、再びゲルナーは、艦隊の方へ視線を向け、腕を組んでディルフィルドゲートへ進入していく艦隊を見送る。

 やはり目立つのは、ガーグデーラ母艦やゼルドア分遣護衛艦隊に守られるようにゲートへゆっくりと進む、例のシールドドリルを付けた特務艦であった。


「ゲルナー司令。つかぬ事をお尋ねしますが、あの大型の特務艦ですけど、この短期間であんな艦艇を用意できている事に少々驚いているのですが」

『サワタリ生体に回答。特段驚くほどの事ではない。あの特務艦は、我々が以前より開発し、予定していた作戦に使用するため保管していたものだ。それをお前達が即席で改造したわけだが……』


 そう、あのシールドドリルが付いた船は、元々ゼスさんが保有していた特務艦を、なんともまあヤル研連中が今作戦へ最適化させるために、ゲルナーを『説得』して、ハイクァーンドックを駆使して改造した代物なのである。

 元々この船は、シールドドリルなど付いておらず、ドリルの付いた部位には超大型の熱線発生装置が付けられていた。で、この特務艦の使用目的も、今柏木がやろうとしている作戦とほぼほぼ同じ目的のために建艦されたそうで、逆にいえば、実を言うと柏木は、ゼスタールの保有するこの装備の存在を知ったために、彼はこの作戦を思いついたと言うところもある。

 その際、熱線発生装置だと、所謂『生体』な方々にはかなり具合が悪いと言うことで、シールドドリルに変更したと言う次第……決してドリルにロマンを抱いていたわけではないのでゴニョゴニョ……


 ……まず先遣のガーグデーラ母艦と、護衛のティ連―特危自衛隊ゼルドア分遣艦隊次々とゲートを潜る。勿論ガーグデーラ母艦の方は、今回きちんとゲートシールドを装備しての進入だ。あの時の戦闘状況のように、やみくもに突っ込んでいくわけではない。

 しばし間を置き、特務艦五隻が横一列になってゲートに進入していく……


『これでヂラール敵性体の未解明部分が解析できれば、我々に極めて有用なデータの取得を期待できる』


 ゲルナーが珍しく自ら他者にプライベートな会話をする。その行為に「ん?」となる沢渡だが、せっかく話しかけてくれているのであるから、応じないのは失礼ということで、


「私も資料は読んでいますが、この結果次第ではゼスタールの方々も、あなた方の母星、『ゼスタール星』奪還の機会を考える指標となる作戦になるかもしれませんね?」

 

 その沢渡の言葉に呼応して、彼に視線を合わせるとゲルナーは、


『肯定。ゼスタール星宙域も、現状グロウム帝国政体以上に混沌としている状況にある。確かに今作戦が我々の今後の行動を行う指標となる作戦というお前の意見は否定しない。従って我々にとっても本作戦は重要と考えている』

「なるほど。確かに……ま、ですが今はこの地球近くに出てきた連中の意図も含めて、グロウム帝国臣民さんたちをお助けしないと」

『肯定である。我々の知識と経験が効果を発揮する事を約束する』


 頷く沢渡。かつては敵であった最近のゼスさんを、なんとなく頼もしく思う彼である……


    *    *


『レグノス、トラクターフィールド最大パワーの補足圏内に入りました!』


 レグノス要塞ブリッジで、戦闘管制員が叫ぶ。


「ふぅ、やはりここまで接近すると敵の攻撃もそれなりに熾烈になってきますねパウルさん」

『ええ。敵もこの要塞を一種の「星」とみなしたみたいね。外殻部に何隻かの揚陸艦型が着床して、白兵戦を仕掛けようとしていたみたいよ』

「えっ?」

『ウフフでも心配いらないわ。ニホンの領有区は裏っかわだから。それに着床したのは対機兵装群のど真ん中だから、蜂の巣にしてやったわ』

「そうですか。ですがやはり熾烈にはなってきましたね。敵の中央もヂラールの統率に本腰を入れてきたような感じですし……」

『そうね。でも大丈夫よ』


 パウルがそう言うと、管制員の報告が再び、


『レグノスの全トラクターフィールド、ヂラールコロニーを完全に捕捉、固定しました!』

『軌道は!?』

『安定しています!』

『よし……ディルフィルドゲート管制、例の艦隊到着は!?』

『あと6フェルモで到着!』


 要するに、あと数分で、あの火星艦隊が到着というところだ。グロウムでの時間経過では予定通り地球時間で作戦時間一時間以内といったところ。計画どおりである。

 

 そして……


『ゲート開口! 艦隊前衛顕現します!』


 ケルビン正一四面体の正方形開口部が次元境界面を形成し、その中から前衛護衛艦隊のゼルドア分遣艦隊と、ガーグデーラ母艦が姿を現す!

 即座に現状を把握していたゼルドア艦隊が眼前の障害となる敵影を補足すると、ブラスター砲の閃光を浴びせ、排除していく。

 中型軌道母艦からは、ヴァズラーにマージェン・ツァーレが飛び出し、前線の露払いとなる。

 多川の偵察艦隊と違って正規に編成された護衛艦隊は、流石兵器の充実度が違うわけで、これでレグノスに強行着陸してくる連中も着陸前に排除できる。

 ガーグデーラ母艦からは大量の対艦ドーラの改良型。例の惑星イルナットで初登場したヤル研謹製『クロウ型』対艦ドーラが大量に射出される。

 本家対艦ドーラよりも兵装の強化されたこの機体は、現ゼスタール本部である『ナーシャ・エンデ』でも認められ、かつての本家対艦ドーラ用コアの生産を中止し、この機体の量産をゼスタールは勧めていた。

 かつての対艦ドーラは、なんとも不気味なヒトデか蜘蛛か。そんな見た目だっただけに、今のクロウ型ドーラは、なんとも1/1サイズのアニメメカみたいでなかななに見た目はよろしい。そんなのがクロスビームみたいなのを放ち、ヂラールコロニーの生物的なデザインの火砲を潰して回っている。


『第二陣、突入型揚陸艦、到達します!』


 第一陣の護衛艦隊に続き姿を見せるは、『突入型揚陸艦隊』という部隊。つまり例のシールドドリルを抱えた特務艦船が、その『突入型揚陸艦』というもの……ということは、この艦隊の存在と、レグノスの運用で、どういう具合の作戦内容が段々と見えてきたというものであるわけで……


 正方形状のディルフィルドゲートを突き破り、直方体状の艦体前方に、クソバカデカイ円筒状のシールドドリルを装着した宇宙艦。

 通常空間に顕現したと同時に、前部シールドドリルをウォンウォンと唸らせ、回転させる。だが、ただ回転させるだけではない。円筒状のシールドドリル端部から中心に向けてビーム光が集約され、更に円筒側面部に螺旋模様のビーム熱線が形成される……見た目『正規の』ドリルっぽかったり。

 そんな全長三キロメートルにも達する巨艦が、ドリル部を回転させながらヂラールコロニーの予め決められた任意の場所に突っ込んで、その円筒をコロニー本体へシールドを突き破りグサリと沈めていく!

 ヂラールコロニーといえど基本生物なので、金属片ではなく、何やら気色の悪い有機片が飛び散りつつ、五艦の船はグッサリとコロニー側面に突き刺さった。

 更に、艦本体からクロウ状の物体がせり出して、船を固定するようにガッシリと敵の本体へ掴みかかるようにねじ込ませると……


 なんと! ヂラールコロニーの側面が巨大なゼル端子『のようなもの』で侵食され始めていった!

 

『えっ!? な、なんだあれ!!』


 さすがにこのギミックには、レグノス要塞ブリッジの兵も驚く。

 さすがに作戦内容は知らされていても、ここまでの必殺攻撃は当日まで普通は軍事機密である。

 だが柏木は更にこのギミックの重要な点を解説する……その内容は流石にパウルにも知らされていなかったらしく、てっきりゼル端子作戦と思っていたパウルも驚愕するものであった。


「……あれはゼル端子じゃないですよ」

『え? どういうこと、ケラー?』

「ははは、実はですねぇ~……あれはハイクァーン端子。ハイ端子といったところです」


『えええええええっ!!!』となるパウル。

 ガーグデーラがまだ敵だった頃、ティ連で時のガーグデーラの製造が憂慮されていた恐るべき大量破壊兵器の一つハイクァーン端子装備型仮想生命体兵器。即ちドーラ。

 それをなんと製造禁止規定を柏木の権限で解いて、あの突入型揚陸艦に備え付けたのであった。


『またなんでそんな危険なものを……』

「いや、もう危険という認識は捨ててもいいでしょう」

『え……?』


 パウルは柏木の平然とした顔に驚く。地球人の感覚で、このティ連人の怪訝を喩えるなら、核兵器使いたい放題解禁にした状況を、もう危険ではないと認識しろと言われているようなものと同じなのである。


「ゼスタールさんが味方について、彼らが敵だった頃の仮想生命体兵器の運用という状況はもう無くなったわけですから、今後は逆にハイクァーン装備型の仮想生命体兵器……っていう言い方もおかしいですが、ハイ端子を運用できる兵器をティ連の国益のために運用してもいいのではないですか?」


 と柏木センセイはお話になる。


『まあ……タ、確かにそうだけれど……サイヴァル連合議長や、マリへイル委員長は?』

「ええ。説明しましたが、ご理解いただけました。勿論アルド・レムラー閣下同席の上でですがね。ってか、アルド閣下の方に今のパウルさんみたいにソッチ方面で懸念されて心配されちゃいましたよ」

『本当!?』


 つまりゼスタールさんの方がハイクァーンを入手したとしても、ハイクァーン型仮想生命体兵器を開発するつもりなんてさらさら無かったという話。

 だが、柏木の提案は即座に理解したようで、すぐにティ連からもらったハイクァーン工学システムを、ゼル端子の造成規格に合わせたという。

 でもなぜにこんな事を柏木が考えついたかと言うと、ゼル端子は基本的にゼル奴隷化した際に、発射元の制御を失うと……つまり撃破されてしまうと、霧散して無効化してしまう。

 だが、ハイクァーンでハイ端子を作ってハイ端子奴隷化すれば、端子はリアルな実体マテリアルであるからして、今回の場合で言えば仮にハイ端子を放った突入型揚陸艦が破壊されても効果は持続するわけである。

 つまり『隷属化させて鹵獲する』という方法がやりやすくなるというわけである。


 その話を聞いて呆れるパウル。


『ハァ~……ケラーにかかったら、なんでもありね』と言いながらもニヤつく。つまり、ある意味このオッサンがいる限り、まあ負けはないかもと思わせるところが、この男の強みであったり……

    *    *

 ということで、その今回の目玉の一つ、必殺兵器である『ハイ端子攻撃』を大型艦艇クラスから受けたヂラールコロニーは、各突入揚陸艦を中心に大きくメカメカしい配線を周囲へ侵食され、突入部分周辺のイニシアティブは確保した。

 

 そう、ここでもうおわかりという話。本【ヂラールコロニー鹵獲作戦】とは、このヂラールコロニー自体をゼル奴隷化ならぬハイ奴隷化してしまい、内包するヂラール各機動兵器もろとも完全にティ連―ゼスタールの制御下に置いてしまおうという作戦なのであった!


 つまり単に鹵獲するだけでなく、まるまるコロニー一つを鹵獲兵器化しようという算段である。

 こうすることで、今後もこの生きたヂラールを効果的に研究できるワケであるし、いらなくなればそのまま恒星という焼却炉にでも捨てればいいという、そういう作戦であったりしたわけである……当然『柏木は何考えとるんじゃ』というクレームも各方面から出たが、マリヘイルにサイヴァル。そしてアルドは、柏木という存在故にOKを出したという具合であったわけである。

 まあこれも毎度言われていることではあるが、妙な方面で変に信用のある柏木センセイだから故の事。


 だが、そういう手段が使えるならやり方は間違っていないと思うパウル。そこは元工作艦体でガテン系エルフ異星人のパウルが納得するのであるから、方法論としては間違ってはいないのであろう……恐らく。

 なんせこんな事考えるやつなんてのはティ連にはいないのである。いろんな意味で……歴史的にも、科学史的にも……


『ジェルダー・パウル! 突入部隊の揚陸艦への転送、完了いたしました!』

『わかったわ』とパウルはそう言うと、ヂラールコロニーへ突入し、その中央を制御する何らかのシステム。恐らく生物で言えば中枢神経か、脳のようなものが存在する場所を制圧する部隊の編成を確認するために、突入部隊の総隊長に任命されている特危自衛隊陸上科の樫本へ通信を繋げる。

『カーシェル・カシモト。準備は?』


    *    *


 シールドドリル最先端部。その巨大なハッチが開口すれば即座に飛び出さんとする体制を整えている突入部隊。


「はい、パウル提督、こちらは準備完了しています。みんなやる気マンマンってところですよ、はは」


 樫本はPVMCGで造成した部隊状況確認用の浮遊式小型自動追跡カメラを周囲へ向けると、メルが巨大な斬馬刀を素振りしていたり、シャルリが義足で蹴りのデモンストレーションをしていたりと、今か今かの状況であった……今、チラっと月丘の白銀色なコマンドローダー姿が写ってたり。

 更には、これだけ巨大な突入型揚陸艦から部隊を全長二〇〇キロメートルもの場所へ送り込むわけであるからして、普通の突入及び白兵戦とは訳が違う。それは恐らく白兵戦と言うよりも、それこそ敵の名が示すとおりの『コロニー内の市街戦』的な様相を見せるであろうと、普通に考えてそう予想させる。

 主要突入部隊は、特殊部隊規模の編成として、


*樫本・月丘・シビア隊(特危八千矛隊+ゼスタールドーラ部隊)

*シャルリ・メルフェリア・ナヨ隊(メルヴェン部隊)

*モーガン隊(USSTC部隊)


 が主軸になるが、もちろん巨大コロニー一つを制圧する戦闘になるわけなので、その他師団クラスの部隊が後方に控える。

 そこで大型機動兵器等を擁する部隊も突入して、先の特殊部隊の任務である、中枢部の発見と制圧を支援するわけだが、その支援部隊の編成となるのが、


 *プリル・沢渡ヤル研試験兵器調査部隊(支援攻撃)

 *クロードIHD―PMC部隊(補給・警護)

 *レグノス要塞駐留、特危自衛隊通常編成陸上科機甲部隊


 というもの。

 従ってこのヂラールコロニー鹵獲作戦というものは、その対象が『兵器』なので『鹵獲』という言葉こそ使ってはいるが、実際のところは『都市侵攻制圧作戦』に匹敵する作戦なのである。

 なのでレグノス要塞をぶつけるという方法は、まあその見た目のインパクトはどうあれ間違った作戦ではないというのが理解できる戦法なわけである。

 かつて地球での第二次世界大戦で行われた『地上で最も長い日』の異名を持つ『ノルマンディー上陸作戦』時に展開した連合国の艦艇数や規模などは、それこそ国家が一つ移動してきたような規模の作戦であった。つまり軌道上に陣取ったヂラールコロニーと戦い、極めてリスクを伴わない作戦を行うとするならば、これぐらいの規模の作戦になってしまわざるを得ないというワケである。

 それこそ戦って相手をねじ伏せるだけなら、被害規模など後から考えることとして、とりあえずみんな脱出させてからディルフィルドゲート砲をぶっ放して敵も周囲の生活地域も吹き飛ばしてから……と言う方が、戦う分にはそりゃ楽であるが、それができないから彼らの今があるのも事実なわけで、そこを汲めばこういう作戦を立案せざるを得ないという次第。


 ……さて、先の樫本達部隊諸氏はレグノスから突入揚陸艦に転送されて戦闘準備を行っていたわけである。勿論付随するティ連・特危部隊もそういうわけなのであるが……


『イやぁ~、壮観だねぇこりゃ』


 少々苦笑いのシャルリ大佐殿。なぜなら壮大に整列するは、対人ドーラの群れ。しかもこの対人ドーラはゼル端子ではなく、ハイ端子仕様である。

 従来のドーラに加え、現在主力になりつつあるカーリ型ドーラも含めて千の数は搭載されている。

 此度は本格的なゼスタール・ドーラ部隊との共同作戦だ。


「で、この突入揚陸艦の対人ドーラ部隊は全てシビアさん、貴方が?」

『肯定であるカシモト生体。現状の我々シビア・ルーラは、この数を制御できるように合議体を編成し直している。心配はいらない』

「わかりました。ま、かつては色々ありましたけど、そのあなた方と我々が組めば怖いものなしというところですか? はは」


 樫本がそういうと、シビアも頷いて返す。


「で、宇宙刑事の月丘三佐」

「すんません樫本二佐。一人だけいつも浮いてるので、そのお言葉は身に染みます」


 部隊諸氏ミリタリーナイズな格好の中に一人イカツイ切れ長目のマスクに銀ピカのアーマー着てりゃネタ要員として部隊員の笑いも絶えず。だが基本地球人専用。

 ちなみに月丘の三佐階級は、出向中のみの臨時階級である。


「はは、悪い悪い。今回は総諜対の任務と違って本格的な戦闘が主任務になるが……まあ情報省のスキルよりも、ゲリラ屋のスキルを期待してるんで、よろしくな」

「了解です」


 するとプリ子からも通信が入り、


『カズキサン! 欲しい装備があったらいつでも言ってくださいねっ! 転送で随時送りますから!』

「ああ、頼むよ」


 そして作戦開始時間がやってくる。

 突入艦が大穴ぶち開けて、ハイ端子で上陸地点ならぬ突入地点周囲の同化作業を施し、突入部隊がいきなり迎撃を受けるのを防ぐ処理が完了した。

 分厚い突入口螺旋回転式ゲートが半回転しながら開いていく……完全に開ききったその時。


「全部隊前進! 前進!」


 部隊が扉をくぐるその姿に派手さはない。

 先行する機動化歩兵部隊、コマンドローダーL・M・H型の駆動音にコマンドトルーパーのメカメカしい駆動歩行音。更に部隊の大勢を占める対人ドーラの行進する足音、USSTCが持ってきたM4A2のリニアクローラーの音。

 それらすべてがハイ端子で埋め尽くされた超超大型生体要塞の内部を進んでいく。


『こちらUSSTC・アルファ小隊、現状敵影なし』『了解』


 そんな通信音声が目立つほど、現状は静かである……


 さて、今回の作戦においては、ドーラ戦力の提供はもとより、ゼスタールの持つヂラールとの戦闘データの蓄積が大きく役に立っている。

 なぜなら、現状彼ら連合部隊がヂラールコロニーの中を知った土地のごとく征く事ができるのは、ゼスタールが保有していたヂラールコロニーの内部構造を提供してもらっていたからである。

 つまりゼスタールも以前に自らの母星である惑星ゼスタール軌道上に陣取ったヂラールコロニーとやりあったことがあったという話なのだ。ただ、その時はコロニーを落とせず、数に負けて撤退を余儀なくされた苦い経験があっての話だそうだが……


『……つまり、このヂラール敵性体の大型機動要塞型も我々が所有する内部構造スキャニングデータと内容が近似であった場合、』

「規格品……即ち量産されている兵器ということですね、シビアさん」

『肯定である、ツキオカ生体。その点は今後の知的生命体の生存を考える上で、極めて重要な点である』

「確かに……」


 月丘はリパルションガンを構えつつ、カーリ型ドーラを盾にして前進する。シビアは視線をキョロとさせながらも悠々たるものだ。だがいつでも攻撃できるように、右手の五指を帯電させている。


 しばし歩くと、全体一時停止命令が入る。


「どうしたのでしょうか?」と疑問を呈する月丘に、

「ここに前線仮設基地を設営する」と樫本。


 つまり、突入揚陸艦が打ち込んだハイ端子の有効範囲がここまでだと言う事。

 すると後方からハンヴィーに乗った輸送部隊の一団が到着。補給部隊に工兵部隊だ。


「よぉ! カズキ!」

「クロード!」


 月丘に駆け寄ってくるクロードと握手。さすがに今の銀ピカ月丘にハグはできない。


「ぶはは! どこのトクサツヒーローだよお前、日本の情報省の宣伝も兼ねてんのか? この作戦は」

「クロード、ソレ以上の指摘は鉄拳制裁ですよ」

「ははは、いいじゃねーかカッコ良くて。って、そんな鉄拳で殴ってどーすんだよ。俺のアタマ吹っ飛ぶわ」


 と大笑いしつつバンバンとアーマーを叩くクロード。


「で、クロード。あなた方も……」

「おうよ。PMCの本業ってところだな。仮設基地の設営と、運営。それと補給の方は任せてくれ……カシモト中佐にちょっくら話あるんで、またあとでな」


 樫本の方へ駆け足するクロード。彼も今や宇宙を股にかけるPMCの幹部である。ま、麗子の企業と縁を持ってしまえばこうもなる。


 さて、流石にハイ端子の威力は強烈であったようで、この所謂『ハイ端子制圧境界地点』に来るまでは、それは周りの景色は不気味なものであった。

 すなわちゼル奴隷化ならぬハイ奴隷化になってしまった内部構造だけではなく、恐らく周辺でうろついていたヂラール・兵隊型に俊敏型といったような対人戦闘型のハイ端子奴隷化した『遺骸』がゴロゴロしている状況が展開されていた。

 端子に侵された個体は通常ゼスタール・ドーラの支配下に置かれるわけだが、今回ばかりは特に必要性のある場合を除いてそんなもの配下にしてもめんどくさいだけなので、ハイ端子で侵食した時点で息の根を止めるように設定しているらしい。従って現在工兵部隊がドーザーを使って排除している対人型ヂラールは、端子でデータを十分とった後に、宇宙空間へ廃棄される事になっている。


『あのヂラールってどういう生き物なんだろうね、ナヨさま』


 と話すは、その遺骸置き場のハイ端子でかんじんがらめにされたヂラールを見てつぶやくメルフェリア。


『さて、どうなのでしょうね。妾も長年ニューロンデータとして生きてきて、いろんなデータを見てきましたが、さすがにこの存在は計り知れませぬ』


 ナヨもなんだかんだでかれこれ一〇〇〇年以上は生きてきたデータ生命体である。物知りで言えば、現在この宙域の全部隊で一番の物知りお姉様なわけなので、そんな彼女が知らないとなれば、ため息の一つも出たりする。ちなみに現在ナヨにオバサンとか一〇〇〇年BBAとか言ったりすると、並行世界へ飛ばされて帰ってこれなくなるという都市伝説がある。


 樫本達部隊から少し離れた場所で待機するメルにナヨ、そしてシャルリを部隊長とするメルヴェン隊。樫本や月丘達と同じく、前線基地設営の間、しばし警戒態勢。


『ん? シャルリ、何処へ行っていたのですか?』

『ああ、ファーダ。ちょっくらそのあたりをね……ってか、想像以上に広い空間、というか『体の中』だねぇ、こいつは』

『あ、師匠師匠』

『なんだい? メル』

『体の中っていいますけど、もしかして私達ってヂラールの腸の中とか胃の中とかにいるって事なの?』

『ああ、そういうのじゃないよ。以前、オオミの旦那がサルカスのヂラール艦艇型の作戦で見た話だと、そういうのはそういうので別にあるんだってさ。ま、あんまり見たくないようなモノらしいんだけど』


 と、ヂラールの薀蓄なんぞを垂れていると、シャルリのPVMCGに緊急通信が入る。


『あいよ。って、パウルかい。なんだい?』

『シャルリ! 始まったわよ! USSTCの部隊が、ヂラールと会敵したそうよ!』

『なんだって!? って、まさかUSSTCの連中、また自分から藪から棒に……』

『いえ、違うみたい。USSTCに随伴している先行偵察していたドーラが襲撃されたみたいなの』


 パウルが言うには、ヂラールはドーラを襲撃後、かなりまとまった数の対人型数種類の部隊が波状攻撃を仕掛けてきたという話。


『なんだって? って、こっちや、カシモトんとこには何の音沙汰もないのに』

『つまり敵はUSSTC部隊が、今いる私達の制圧部隊の中で一番戦力が低いって分析してるってことよ!』


 『えっ?』と驚くシャルリ。ナヨにメルも同じく。


『ってことはどこかから監視されているってことかい!?』

『まあそこは一応敵の腹の中ですからね』

『チッ!』


 と二人の通信に、モーガン軍上級曹長が通信に割り込んで来た。


『こちらモーガン隊! 現在ヂラールと交戦中! ゼスタールさんが頑張ってくれているが、段々敵の数が増えてきた! そっちはどうだ!?』

『モーガンの旦那! こっちは平和なもんさね! 大丈夫かい!?』

『なんですって? なるほど、チッ、そういう事か! ……あ、いや先ほどまでは何とかなりましたが、時間を追うごとに敵の数が増えていっている状況です』


 するとシビアが通信に割り込んできて、


『了解した、モーガン生体。こちらのカルバレータ兵器をそちらへ転送で回す。それで凌げ』

『助かります! ミスシビア』


 樫本も更に通信に割り込み、


『シャルリ大佐』

『ないだい、カシモト』

『我々の位置よりも、そちらのほうが距離的に近い。ドーラ部隊の援軍はこちらから転送で回します。ですので、そちらの部隊はもう作戦を開始してください。大佐の部隊がそのまま進めば、恐らく今USSTCを襲撃している敵と交戦することになりますので、USSTCへ向かっている敵を分散させる事ができます』

『なるほどね。わかったよ。で、カシモトはどうすんだい?』

『こちらは状況が静かな間に、当初の通り、中央を見つけ出すためにどんどん前進します』

『了解だ。んじゃそっちは頼むよ!』


 通信を切る樫本。


『なんだか打算的に作戦をおっぱじめちゃったねナヨ様』

『なんだかんだで妾達は敵の勢力圏にいるのですから、物事全てこちらの思うように進むわけではありませんよ、メルフェリア』

『ですよね。ってことで、シャルリ師匠。私はパイラとドーラ何体かといっしょに先行するねっ!』


 戦士の血がウズウズと騒ぎ出すメルフェリア。知らん間にパイラに跨がり、飛び出す気満々。早く先行して敵を二分したほうが良いと仰る。


『わかったよメル。んじゃ頼んだよ!』


 ピっと自衛隊流の挙手敬礼をすると、ヒヒンではないが、前足高く掲げてパイラ号は方向転換。ホースローダーのパワー全開でハイ端子境界線をまたぎ、有機体領域へ駆け出していく。メルの後には一〇体ほどのカーリ型ドーラが駆け足でメルに続き、疾走していった。


『では妾もモーガンを助太刀に行きますか。良きや? シャルリ』

『了解っす、ケラー。行って下さい』


 ナヨはコクと頷くと、船の転送装置を利用してUSSTCの担当区画へと飛ぶ……


    *    *


『で、マスターチーフ! 先程の舌打ちの意味、どういうことですかっ!?』


 米国版のコマンドローダー。米国の正式種別呼称はその名の通りハインラインの小説で登場したものと同じく、ほぼ慣用句として『パワードスーツ』という呼称で通っている。

 所謂特危のL型ローダーに準拠するものだが、USSTCの標準装備だ。所謂外骨格型というもので、着込むアーマーと駆動部は一体化されていないタイプである。アーマーが駆動部と一体化されていないので、防御力がコマンドローダーよりも劣るが、今作戦の為にシールド装置をサマルカから貸与されているので、十分に戦力となっている。

 だが、どうもヂラールはどこかでそれを感じ取っているのか、何かの監視器官のようなものがあるのか、


「要するに、俺達が一番弱い部隊だと思われているってことだ兵長」

「ホワット!? なんだかクソムカツキますねそれって」

「俺達も舐められたもんだ。惑星サルカスで一番最初にデカブツを鹵獲してやったのは俺達なんだぞ」

「まったくもってそのとおりですマスターチーフ」

「ではどうする兵長?」

「は、あのゴキブリ野郎どもを一匹残らずブチ殺すのを楽しませてもらいます」

「よしその通りだ! では態勢を立て直せ。いきなりの奇襲とはなかなかやってくれるな。まずはミス・ゼスターリアンから借りた人形を盾にして抑えこめ。借りてきたやつの命令誘導は問題ないな兵長!」

「はっ、問題ありません!」

「M4A2は人形の後方から榴弾でゴキブリを吹きとばせ! 状況は!?」

「左翼に敵俊敏型が集中しています! このままでは突破されそうです!」

「伍長、なんとか持たせろ! 今敵の攻撃を分断させるためにハイラの王女殿下が動かれた!」


 危機的状況ではないが、迎撃体制が整っていない状況での奇襲攻撃を食らうUSSTC隊。まるで何かのSF映画のワンシーンのようである。だが、流石というところは彼らにはある。やはり年柄年中世界中のどこかで戦争紛争に首突っ込んでいる国家の部隊は、戦争慣れしているだけあって、急な襲撃にも対応速度が早い。これは自慢してしかるべきものである。


『モーガン、状況はどうですか?』


 いきなりモーガンの背後に転送してきたナヨ閣下。


「うわお! って、ミス・ナヨですか……驚かせないで下さいよ。はは」

『ん? 妾は「みせす」ですよ、モーガン、フフ。ま、少々難儀しておるようですね。左翼側の戦力が足りないのですか?』

「ええ。どうにも不思議ですが、連中はこっちの柔らかいところを何らかの方法で分析して、そこを付いてくるような動きを見せています」

『まあ、ここは敵の腹の中。詮無き事かもしれませぬね。わかりました。妾がそちらへ助太刀に参りましょう』

「感謝します閣下」


 ナヨは彼女の戦闘スタイルのトレードマークである太刀を右腕に造成し、優雅に援護へ。

 これでこの場所の現状は維持できるだろう……



 やはりここは敵の中。イニシアティブは常識的に考えて、ヂラール側にあって普通である。

 なので、やはり一筋縄ではいかない戦闘となるのは必然とも言える。



 敵にレグノス人工亜惑星要塞をぶつけ、更にはハイ端子をもって敵の動きを封殺し、隷属化して鹵獲する作戦。スケジュール最後の突入作戦。いかなる経緯で進むのであろうか……







 


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