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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
21/89

【第三章・時空の守人】 第二〇話 『会談』

 かつてガーグ・デーラと呼ばれた者達。ティ連が一〇〇年に渡って『敵』と認識してきた存在。

 地球人にとってはティ連人に次ぐ、第二の、異星世界からの到来者。ティ連人達とは違い、その邂逅は、何かのフィクション作品のような、所謂『お約束』的な例のごとくとでも言えばよいか。

 色々と一悶着も二悶着もあっての彼らとの接触であったが、まあコレもあまりに隔絶した常識外ともいえる彼らとの文化習慣の垣根を乗り越えようと努力した賜物というヤツで、何とか互いに理解もしあえたというところで……


 二〇二云年のある日。今、柏木にフェルやシエらティ連人は、その者達と和解し、歴史的ともいえる彼らの本拠地へと到着した。

 ……のだが、これがまた地球人は言うに及ばず、ティ連人もビックリな世界であって、トーラル文明から知識を得たティ連人ですら知らない世界の住人な訳だから、地球人の学識レベルで当然追いついていけるはずもないのもコレ当たり前という話で、まあなんともかんともな場所にやってきたと、諸氏皆して驚いてもいるわけであったりする。

 当然、日本スタッフに柏木、月丘もそんな感じ。国連常任理事国スタッフのみなさんはというと、サロンのVMC窓見て、唖然としている状況が現在も継続中なのでありました、というところ。

 その外の景色。ではどんなものなんだと言うと、これ綺羅びやかで何かのアートのようなそんな世界……なのだが、見た目とは違い、所謂『物質』にとってその世界は死の世界でもあるという。

 シールドがなければ物質自体が存在できない世界。即ち何らかの理屈で、所謂『エネルギー体』のみが存在を許される空間。

 二〇一云年に、その存在が示唆され、ヤルバーンの到来で、彼らの科学でも証明されたヒッグス粒子なる物質。即ち物質が質量を持ち。宇宙空間に物質たる存在として在ることができる物質の事だが、もし仮にこのヒッグス粒子がない宇宙とはどんな空間なのかというと、光しか存在できない世界になるのだという話。

 詳しい理論は学識専門家に任せるとして、この例からもわかるとおり、ゼスタール人のいる時空間接合帯なる空間は、我々の宇宙物理法則が部分的に通用しない世界なのだと言うことである。

 これはつまり、ヂラールの襲撃を受けたかつてのゼスタール人は、そんな世界に逃げ込まなければならないほど危機的な状況にあったのだともいえる。

 今。宇宙空母カグヤや、人型機動攻撃艦フリンゼ・サーミッサから遠目で見えるは、太陽系ほどもある空間建造物。

 この建造物も例外ではなく。その姿にシールドを纏わなければこの空間で存在することができないのであろうし、このような特異な空間でもあるので、このぐらいの巨大極まる施設を建築しなければ、彼らの今ある状況を維持させることができなかったのだろう。

 ということは、これだけの巨大な……というには度を過ぎた施設にシールドのエネルギーを常時供給しなければならない状況があるわけだから、やはりこれはこれで大変なのではないかと柏木も思うわけであって、そんなところをシビアに聞いてみると……


『回答。それは心配に及ばない』

「では、ティ連のような、何か半永久的に稼働する機関か何かは、あるわけですか?」

『肯定。基本的にこの空間は、エネルギー体、もしくはそれに近似な状態でなければ、存在が許されない空間である。これは逆に言えば、この空間には様々なエネルギーが無限無尽蔵に存在するとも言える』

「ああ、そうかなるほど! ではこの空間自体から使えるエネルギーを利用抽出して?」

『肯定。従って機械的な損傷を伴わない限り、シールドが消滅することはまずありえない』

「なるほど……まあですが、それでもあなた方が使っているレ・ゼスタシステムは、マテリアルの造成は可能ですが、具体的な機械などの複雑な製品の複製に造成は無理なんでしたよね?」

『肯定』

「ふむ、ならこのすごい施設も、ドーラみたいなVMCロボットの技術を駆使して、維持してきてるってわけか……ゼスタールさんも、これはこれでものすごい文明だよなぁ……」


 すると横で聞く奥様のフェルが、


『デスね~、ゼスタールサンも肉体を持っていた生命体の頃は、キチンとした、高度な発達過程文明サンだったのですねー』

「そういう事だな……ということは、恐るべきはゼスタール人達をこういう状況に追い込んだヂラールというわけか……」

『肯定。ヂラール敵性体は、生きとし生けるもの全ての敵である。あの存在は宇宙から排除駆逐しなければならない』


 情緒が薄いシビアだが、この言葉には力がこもっているように柏木は感じた。なのでしっかりと頷く柏木……

 元々このゼスタール人も相当な科学力を身につけた有機知的生命体であった訳なので、当然種族独自の誇るべき科学力も持ち合わせているわけである。

 この時空間接合帯でこのような状況を作り出せる訳であるから、彼らは恐らく種族規模で時空間に関する基礎技術に優れているのはほぼ間違いない。

 もっともティ連の科学力もゼスタールよりは上をいく訳なのだが、ティ連の科学力イコール、トーラル文明の科学力なので、基本トーラル文明から教えられた科学の範疇を超えることはない。

 となれば、ゼスタール人との接触もティ連人にとっては、日本や地球文明との接触や、サルカス文明との接触に匹敵するほどの重大な交流となるのである。

 フェルは、まあ今は日本人だが、ティ連人としてもゼスタールとの接触の重要性を重く感じていた。

 同時にそれはシビアらゼスタール人も同じである。

 レ・ゼスタ・システムを使用して、現在のような人格体に変異してしまった彼らである。情緒も浄化されてしまい、かつての有機生命体であったゼスタールの面影は今はない。あるのは過去の自分たちの記録……生活様式である。それを復活させるには、やはり近似文明との接触は絶対である。科学的に近似なティ連と、彼らとしても偶然発見した、文明の歴史や情緒文化的に近似な地球世界との接触は重要であり、更にはヂラールを撃退したサルカス文明も連携したい存在であるわけなので、今回の『ナーシャ・エンデ』への招待で、ゼスタール人自身も諸々前進させたいところもある重要な『外交』というワケであるのだ……


    *    *


 さて、宇宙空母カグヤに、機動攻撃艦フリンゼ・サーミッサ、そしてカーグデーラ母艦アメノトリは、その星系ほどの大きさがある人工物体、『ナーシャ・エンデ』に最接近する。

 遠目で見たその建造物は、モンキーポッドの木、即ちこの世界で日光製作所が昔使っていたCMの、『この木なんの木』の葉のない大きな枝葉の部分に似たデザインの星系規模建造物な訳で、その建造物全域にこの世界でもその存在を安定させる環境シールドを張って、彼らはこの時空間接合帯に存在できているワケである。そこへディルフィルドジャンプを短距離で行って、その建造物の枝葉の中へ入ってみると、これ案外広々としたものであって、遠目で見た密集感は全然ないものであったりする。

 ……ちなみに、この空間でもディルフィルドジャンプは普通に可能らしい……


「なんとも……まるで夢を見ているようですな、カシワギ長官……」


 先程から、もう外の景色を見るのに夢中になっている常任理事国代表の諸氏。その中の英国ベイカー卿が、顎を触りながら、柏木に話しかける。


「……ですが、長官閣下は、もうこのような景色は慣れたのものですかな?」

「いえいえ、ベイカー卿。まず、こんな空間はティ連人さんですら初めての領域ですし、ティ連さんが初めてなのに私如きがどうこうというのもですね、はは……」

「ですが、ティ連でも衛星軌道上は、宇宙空間が建造物で溢れているとか」

「はい、確かにそうですが、まさかこんな星系規模で一つの建造物を成しているものがあるとは流石に……というか、ベイカー卿こそえらく冷静であらせられるようですが?」

「はっはっは、なんの、冷静どころか、ほら……」と両の手の平を見せるベイカー。汗でびっしょりである「……こんな具合でしてな。正直、結構虚勢を張っております」


 と苦笑い。柏木も笑って頷く。とはいえ、柏木もその本拠地執務室は、ティ連の人工恒星の周りを周回する人工惑星が形をなす人工星系の本部中央星にあるわけなので、それを考えると、そんなに驚く義理もないのだが、流石に樹木の枝葉レベルで密集率の高い超々巨大施設となると……というところであろうか。

 だがそこは『卿』の称号で呼ばなきゃならんお金持ちの英国紳士である。大騒ぎしないところは流石と言おうか。

 他の常任理事国施設連中も同じような感じ。みんな内心はドキドキでどっひゃぁ~なトコロなだろうが、極めて冷静を努める。

 ベイカーとそんな立ち話をしていると、それを見つけたワンとリックもやってきた。

 オージェ議員とアンドレイは、向こうにいるフェルと懇談中である。

 柏木は三人を近くのソファーへ誘う。まあ立ち話も何なのでといったところ。


「まさか、こんなとんでもないところだとは想像もしませんでした」


 と語るは、中国の王。


「水墨画によく描かれる桃源郷のようなところかと思いますわな。この空間の、あの景色を最初に見れば」

「そうですね、柏木先生。ですが……我々人類も、こんなとんでもない状況に遭遇しても、周囲の状況も同じくこんな感じであれば、そこまで声を黄色くして驚くような事もしない。不思議なものです」


 そこへリックが話に混ざって、


「で、カシワギ長官。ミス・シビアから今後の予定などは聞かされていないのですか?」

「あ? ああ、ええ、聞いていますよ。後ほどシビア大使からも詳しい説明があると思いますが、予定としては……」


 常任理事国の諸氏も、驚いてばかりもいられないわけで、今後の事も踏まえて、柏木を捕まえてそんな話をしたり。これも外交であるが、まあ理事国の使者も基本先遣として派遣された、言ってみれば『偵察員』なところもあるので、その後の首脳級会談の予定等々は今回の結果次第で、地球に帰ってから話し合われるのだろう、といったところ。

 そういう点、いかんせん『初めて』であるだけに、知らないもんはしょうがないというところで開き直れもするので、お気楽にもなれるワケであったりする……


 と、そんな不思議とも不気味とも荘厳ともとれる空間の中を進む三艦は、とある空間地点で停船する。

 すると、柏木達もそれに気づいて外でも見るかと諸氏立ち上がるが、ちょうどシビアがサロンにやってきた。


『全生体に告げる。只今、このナーシャ・エンデ内での我々の本部であり、中核部。即ちお前たちの行政用語で「首都」と表現できる場所、「バルサーラ中央統制区」に到着した。下船するので準備せよ』


 なんとも素っ気ない対応である。でもゼスタールさんだから仕方ないか、と皆して苦笑いである。

 シビアの今の物言いだと、まるで自分達が修学旅行の生徒で、シビアが引率の教師みたいだ、なんて、そんな話にもなったり。

 んでもって下船したらしたで普通ならここで軍楽隊の音楽がブンチャカと威勢よく奏でられて、どっかからやってきた旗振り係の子供たちがいて、とそうなるところで、ティ連関係者も同じような感覚でいたワケなのだが……誰もいないし。


『全くそっけないものね。まあ大体予想はしてたけど』と仰るはパウル提督。キチンとした制服に帝国海軍略帽姿。相当にこのお帽子がお気に入りらしい。

『ウフフフ、まあそうですね。大体こんな感じではないかとは思いましたが』と、パウルの耳元で語るは、ナヨ閣下。

 みんな正直どんな歓待されるのかわからないところもあったのだが、まあここまで見事に何のイベントもないとなると素っ気ないもので、常任理事国関係者に、日・ティ関係者も、良い服着て下船したのが何か無駄に終わったっぽい感じなので、極めて拍子抜けであったり……

 とはいえ、まあ彼らも実際そこまでのことを本気で期待していたのかというと、勿論そういうワケではない。

 基本彼らは事前折衝クラスの大使級であり、事務方スタッフの長でしかないわけであって、首脳クラスという話ではない。なのでまあこういう感じもそんなもんかという話なところもあったりする。


 ……さて、そんなわけでシビアが皆を引率して宇宙港になる場所からしばし歩くと、これまた男性型のゼスタール人が眼前に転送されてきた。

 見た目の年の頃は、地球人視点で三〇代前半だ。ゼスタール人特有の褐色肌で、なかなかの男前である。


『ねえねえシエ』

『ン? ナンダパウル』

『気づかない? シビアチャンといい、イルナットのネメアといい、このオニイサンといい、ゼスタールの人って、みんな見た目若いわよね。VMC技術の仮想生命素体だっていうのを差っ引いても』

『ドウシタ、パウル。ゼスタール人デモ狙ッテイルノカ? マアオ前達ト種族意匠ハ良ク似テイルミタイダガナ。ダガ、モウスコシカンガエテ相手ヲエランダホウガ……』

『ちがうわよっ!』


 すると、その褐色肌のイケメンゼスタール人が、


『その固有名称「ディスカール生命体」の疑問に回答』

『アレ? 聞こえてた? あ、これは失礼をば、オホホホ』


 すると突っ込むはフェルさん


『モー、ゼスタール人サンは、ジゴクミミサンですから、小声でお話しても意味ないって聞いてないデすかっ?』

『え? そなの?』

『おねーちゃん……ちゃんと事前資料みとかなきゃあ……』


 妹プリ子に突っ込まれるパウル姉。


『……回答した方がよいか? 判断せよ』

『あ、ゴメンナサイ、どうぞどうぞ』


 その男性ゼスタール人が語るには、簡単な話、彼ら各々ゼスタール人個人が最も華であった時の姿を模して、自らの仮想生命素体としているのだという話。まあ、普通はそう考えるだろう。

 誰しもゼスタール人のような境遇になって、齢、後期高齢者の姿に似せようなんてのは普通思わないだろう。なのでシビアも彼女が肉体を持っていた最高年齢の姿である。あの年頃の姿を彼女自身のステータスとしているのである。

 で、そういう答えを返してくると、みんなが思うに『んじゃ、ゼスタール人のヒトガタモードでは、ジジイの姿してる奴はいないってことけ?』となるのだが。そこをプリルが問うと、なんともまあそういう話らしい。現在のゼスタール人仮想生命素体での、見た目最高年齢は、四〇代だそうである。

 でも、これも考えて見れば、確かに現在情緒の薄い彼らであっても、こういう行為を行うワケなのだから、十分彼らもやはり何らかの情緒を持った『ヒト』でるという証左でもあるといったところである。


 と、そんな話が先行するが、彼は一体どなたなのだという事に少しして気づく皆の衆。

 このゼスタールの不思議ワールドの論議をしていると、ついぞ話の流れが脱線してしまう。逆に言えばそれだけみんなの興味をそそる場所でもあるということだ。


「……ということで申し訳ありません、話がアッチの方へいってしまって。そういうことで、貴方様はどういったお方で……」

『回答。我々はゼスタール・ナーシャ・エンデに於ける副統制合議体、「ジェニル・クードル」である。認識せよ』


 ゼスタール人特有の言葉で話すジェニルという男。だがその口調は穏やかで優しく、粗暴さがない。

 シビアやネメアのような物言いであるのは変わらないのだが、相手を諭すような優しい口調で話されると、これまた心地の良い物である。


「自己紹介恐れ入ります。私は今回の訪問団の……代表ってことでいいのかな? フェル」

『ハイですね。それでかまわないのではないですカ? 実際みなさんそう思っているミタイですし』


 常任理事国諸氏の方を見ると、みな軽く頷いている。まあそれもそうだろう。とりあえずややこしい事はこのオッサンに押し付けておけば間違いはない。

 

「……ということでして、私が……」

『理解している。カシワギ・マサト生体。シビア・ルーラ・カルバレータの情報を我々も共有している。理解せよ』

「あ、なるほど、確かに。はは、助かります」


 勿論常任理事国諸氏の氏名も把握しているとのこと。少し微笑んでいるようにも見えるジェニルは軽く頷く。

 無言で『ではこちらへ』という感じで平手で皆を誘うジェニル。彼の後に皆が続く。

 また幾ばくか歩を進めると、今度は立派な大会議室のような場所へ案内される。ここまで来る間、これほど明確に『ヒトが利用する施設』というところのものを見なかったので、この大会議場にはみんな少々ポカン顔である。


「これが……報告書にあった、ゼスタール母艦の中みたいな感じの風景というヤツか?」


 周囲を見回して。ほうと唸りながらそんな事を呟く大見一佐。


「ですが……私達が瀬戸部長らと行ったゼスタール基地も、雰囲気は確かにこんな感じでしたよ。唐突に存在するヒトが使う施設とかいった感じの物ですかね」


 大見の問に答える月丘。なるほどなと腕を組む大見。

 

     *    *


 ジェニルに連れてこられた大きな部屋は、地球人諸氏も普通に認識できる会議室であった。勿論装飾品や、椅子にテーブルなどの備品には地球文化とは違った意匠も見受けられるが、大きな円卓があり、椅子が人数分以上あるその場所は、会議室であろう。勿論ゼスタール人が単独で使うとは考えにくいので、現状のような有機知的生命体と何か会談でもする際に使われるのが前提で置かれているのは容易に推察できる。

 ジェニルは椅子に着席するよう促すと、


『では、お前達に我々スール合議体を現在統括する、統制合議体を紹介する。認識せよ』


 ジェニルは穏やかな口調でそう言うと、テーブルの上座の方へ視線を向ける。他の諸氏もソレにつられて上座の方へ視線を向ける。

 すると、まずは例のごとくコアが一基転送されてきた。と同時に、コアが光り、シビアやナヨ閣下が素体を造成する際に纏う光に包まれると……


「え!? ま、まさか……」と驚く柏木に、「は? え? どういうことですか?」と目をむく月丘。

 

 他の皆も同じような反応だ。いや、常任理事国の諸氏は、呆気に取られている。なぜなら、彼らの前に登場した人物とは……


『みなさん、お久しぶりです』

「ア、アイスナーさん!!?」


 なんと、あの前ブンデス・インダストリー副社長のリヒャルト・アイスナーであった!

 驚く諸氏。だが、特に驚くのは勿論常任理事国関係者だ……確かに現在、あの一連のブンデス・インダストリーでの内容は現在関係各国には知られている。後にゼスタールと和解が成った後、地球世界各国にも各国家間の『ゼスタールに関する機密扱いとする協定事項』として、この元ブンデス・インダストリー社副社長、リヒャルト・アイスナーの件も通達されてはいたが……ま、実際その幽霊みたいな御仁が目の前に現れれば、『どっひゃ~』となるのは、ある種の必然ではある。


「え? ど、どど、どういうことですか、これは!」と驚くは、フランスのオージェ議員。

「ジーザス! 私は彼の葬儀をこの目で見ましたよ……あ……いえ、この事も聞くには聞いていましたが……」と困惑するはリック。

「本当に……まるで貴方は神仙か何かですな……」と、驚きというより、憧れるような目で見る王。

「だが、ナヨ閣下を見れば……確かにそういうこともできるのかとは思うが……」と話すは、柏木達とも付き合いは長いアンドレイ。

「神ではない人々が、神如くの力を持つ……ゼスタールの方々……うーむ、複雑ですな」と腕組むのはベイカー卿。確かに彼の論評が一番的を射てるかもしれないわけで……でもそれを言っちゃぁティ連だって同じなワケなのだが、あえてそこは突っ込まない柏木。


 と、そんな事を話す国連諸氏に耳を傾け、実のところ、何処と無くドヤ顔っぽい表情のアイスナー氏。

 驚いてばかりもいられないので、柏木が代表して事の次第を尋ねる。勿論内容は、『何故にお宅が出て来るの?』といったところだ。


『ははは、なるほど、それは私も心得ております。まあそうなりますかな?』

「そりゃそうです、アイスナーさん。まあ私も貴方とお会いするのは初めてになりますけど、事の詳細は関係各部署から聞いております。勿論、かのとき貴方とお話された、白木麗子氏からも、話は伺っております」


 確かに、ナヨ閣下というある種の……ゼスさん曰く。彼らよりも完成度的には『高すぎる』ナヨ閣下がいるわけであるからして、ゼスタールが言うところのカルバレータ的な存在には今更驚きもしないのだが、日本―ティ連ヤルバーン陣営が驚いているのは、なんでまたお宅がゼスタールさんの、恐らく国家元首級の存在となる『統制合議体』なんて名乗ってるんか? という話。


『ご説明申し上げますと、御存知の通り彼らには代表としての「個人」はあるのですが、物事を決定する場合は、ほぼ三人以上の「合議体」と呼ばれる単位で決裁しています。で、此度彼らとしても極めて例外的な事なのだそうですが、あなた方地球各国やティ連代表と対峙できる者として、私が此度の『合議体』における人格担当になってくれないかと依頼を受けまして、ま、喜んでという事で彼らのお手伝いをさせていただいている次第です』


 「ほー」と驚きを持ってその話を聞く柏木。なるほどなと。彼らの言う合議体なるユニット単位の存在は、地球人のような他の知的生命体をスール化した存在でも可能なのかと。

 で、ソレを横で聞くフェルや、ニーラにパウルやプリ子、連合日本とティ連―ヤルバーン州関係者も「ほー」とかいう感じで聞いてはいるが、常任理事国軍団は、『ポカーン』である。ましてやリックに至っては、得意先繋がりで彼の葬儀に出て、彼の遺体の入った棺桶が土葬されたのを見た訳であるからして……

 まあ? この『スール』の件は、ゼスタール人限定で、『こういう人々だ』ということは常任理事国連中も事前知識として理解はしているのだが、まさか地球人も、ゼスタール人と同じようになる事ができるなんてのは『聞いてねーよ』な話なので、こうもなってある意味当然であったりするわけで……


 リックは思わず呟く……


「これは……審判だ……」


 まあまあと横でクロードがリックの肩を叩いていた。『まずは君が落ち着け』という具合に……彼も最初は信じられなかったと。

 やはりキリスト教徒はこういう反応にならざるを得ない。というかソレよりもアイスナーが本物かどうかという疑いを持てよという話にもなるのだが、そんな疑念すら起こらないほどのリアルな姿の彼がそこにあるのだ。


 ……いつの間にか全員立ち上がって、アイスナーの出現にやいのやいのと勝手に各々歓談してしまう状況。常任理事国組はスタッフも含めて興奮状態である。まるで『お化けでも出てきたよ』というような感じ。

 その様を見るアイスナーは、顔見知りになった月丘やクロードの方を見て、両手を少し上げ、首をかしげる。二人も苦笑いで同じく首かしげる格好。


 ということで、まあまあとナヨ閣下が手を振り振り場を収めて、とりあえず皆を着席させる。


『コクレンの方々も、妾という存在がいるというに、今更ファーダ・アイスナーの姿を見て驚くこともないでしょうに。妾も大本の本体は、一〇〇〇ネンも前の人物なのですヨ』


 と語るナヨ閣下。でもナヨさんはニューロンデータが人格持ったものであって、科学的……というか、地球としては『人工知能みたいなもんじゃね?』とSF的に理解できもするが、スールみたいに人工的に幽霊のような存在にされたものではないわけであって、それとこれとはやはり違いますよと仰る国連の方々。

 ま、そんな雑談もしつつ、会議の体裁が整う。

 

「ミスター・アイスナー。奥方様はお元気ですか?」

『ええ、ミスター・ツキオカ。というか、此度の合議体の一人として、彼女もゼスタール・スールの方々と共に参加していますので。彼女からもよろしくと言ってくれと今、言われています。ムッシュ・クロードにも』

「ははは、そうですか。それは恐縮です」


 クロードとともに笑顔になる月丘。元気そうで? という言葉もおかしな話だが、ともあれ壮健そうで何よりだと。


「あ、そうか。月丘君とクロード君は確か以前智子ちゃん達と」

「はい長官。そんなところです」と月丘。

「えっと、んじゃあとはナヨさんと、プリ子ちゃんが、アイスナーさんと顔見知りってことになるのかな?」

「そうですね、ムッシュ」と、クロード。


 すると、リックも、


「カシワギ長官。私もダリル・コナーから此度は色々と聞いてきております。ですから、知識的にはダリルと同等と見ていただいてよろしいかと」


 リックがそう言うと、他の常任理事国関係者も、『我が国も独自にゼスタール人とのパイプを持っているので、事前に色々と知識は得ているので、協議の上では問題ない』と話す。

 ま、この情報も体裁は各国独自の最高機密情報なのではあるが、ここにきてはカミングアウトした方が何かと有利かもという話にもなるので、公表しておいた方が得だという話にもなるのだろう。あの中国やロシアですらカミングアウトした。

「なるほどわかりました……うん、いい感じじゃないかな? みなさんここまで相応にゼスタールさんとの交流に知識があるというのなら、色々とやりやすいですね。でも~、アイスナーさん見てちょっと驚きすぎではないですかぁ? 彼らゼスタールさんの出自はもうご存知なんでしょ? ティ連や、連合日本も情報公開は行っていますし……」


 そう柏木が冗談めかしに言うと、『いやいやいや』という感じで中国の王が、


『柏木先生。百聞は一見にしかずと言いますが、私も今回ほど「聞くと見るとではぜんぜん違う」ということを感じたことはありません。実際、そちらのナヨ大人ターレンもそうですが、我々の感覚では「肉体的な故人が、そこに存在しているという事実」はそうそう安易に受け止められるものではありません……そういうところをむしろ平然としているあなた方のほうを我々は不思議に思いますよ。特に日本人は、ティ連技術の影響を真っ先に受けたせいで、感覚が麻痺しているのではないですかな?』


 王が中国人らしい皮肉と冗談を含めてそんなことを話す。確かにそういうところ今の地球人から見れば納得も行くトコロ多々あるので、思わず頷いて苦笑いだ。確かに……と。

 考えても見れば、かの魚釣島事件で手痛い被害を被ったのは中国なわけであるからして。まあそういう皮肉も言いたくなるのだろう。だがこの王は、流石中国の企業関係者とはいえ、国際的に有名な国営企業幹部社員だけはあり、中国政治家独特の陰険さがない。ま、それでも彼とて中国共産党員であるわけなので、まあ色々あるのではあろうが……

 でも、ベイカーやオージェ議員、アンドレイも、そこは王の言うとおりだと語る。アイスナーの話だけではない。この場所や空間そのものの話に、ナーシャ・エンデの、星系規模もあろうかという構造物もそうである。事前知識が何もない連中が仮にやってきたとしたら、それこそ気が触れる可能性もあると。

 ましてや、今回選ばれた各国代表のような、少なからずゼスタール人と交流を持つ相応の科学的知識をもつ関係者だったからこの程度で済んでいるが、これがいきなり首脳クラスの会合ならどうなったかと。ましてや今後の事を考えた場合、いろんな国家が諸々ゼスタールとの関係を模索するだろうが、その『諸々の国』の中にイスラム系国家も入るのだから、どうなるんだと……そんなところも考えなきゃいかんわけであるからして、まあ色々今後もあるんだろうなとは思うわけである。それはみんなそう思う。


 さて、まあ現状はそこまで先のことを話してもあまり意味ないわけで……

 アイスナーも、元はドイツ資本の最大手工業メーカーの、米国法人副社長だった男である。もちろんそこは彼とてスールとなった今でも思うところはあるわけで、ここまでの間、ゼスタール人のスール達と色々付き合って得た少しばかりの経験も手伝って、ゼスタール統制合議体から、言ってみれば普通に地球人と話せる個体として彼らに選ばれたわけであるからして、彼もそういう点はプロである。依頼された今の現状を統制合議体の第一人格体としてゼスタール側の立場に立って協議しなければならんわけなので、ここは頑張りどころでもあるという次第。

 こんな状況である。常任理事国の方々はまだアンビリーバボーな精神状態ながら、彼らも国から選ばれての代表であるからして、そこは国益のために冷静を装うワケだが……

 ティ連側の方でも、約一名国連諸氏の方々と同レベルの人物が一人いたのを忘れてはならない。


『(ねーねーねーねーおねーちゃん)』


 コソコソ声でフェルに話しかけるはメルフェリア近衛騎士団長@王女殿下


『(ン? なんデすか? メルチャン)』

『(なんかゼスタールのヒトって、人が作ったオバケみたいだよね)』

『(オ・バ・ケ? ああ、ガーグの事ですね。だから私達はガーグデーラって最初言ってたんじゃあないですカ)』

『(あ、そうじゃなくてさぁ、オバケ……ま、いいや)』


 ここはイゼイラ人とハイラ人の『オバケ感覚』の差である。イゼイラ人は宗教観が希薄なので、地球人やハイラ人的なオカルト感覚がないのだ。フェルは地球のオカルト。ホラー映画なんてみても、気持ち悪いだけで全然怖くないらしい。フェルに限らずティ連人は大体そんな感じである。死んだら、平行世界的な場所にいる自分とまた一つになるという死生観なので、幽霊、霊魂という概念がない。その概念は地球に来て学んだほどである。だが、ハイラ人は地球人のような宗教観があるので、オバケはメルちゃんも怖い対象である。

 横で地獄耳モードで聞くシビアは、何か思うところがあったり。同じくスールとなったアイスナーも、苦笑いである。


    *    *


 さて、そんな四方山話に雑談もそこまでというところで、本格的な会議に入る諸氏。

 此度は日本・ティ連―ヤルバーンもゼスタール側に立って話をする事になる。これもゼスタールがティ連加盟準備国になったからなのだが、周知の通りゼスタールはゼスタールで地球世界の各国と独自の裏外交を行っているという状況もあり、そのあたりの立場もあるために此度のゼスタールは体裁的に第三極の扱いになる。まあここは連合日本外務大臣のフェルもそれはゼスタールの『権利』なので、特に異議を挟むこともなく認めている。ティ連側の代表として信任を得ている柏木やパウルも同じくといったところ。

 ゼスタール側もアイスナーとシビアにジェニル・クードルという副統制合議体が出てきたところで、こちらも人員揃ったようで、早速交渉開始と相成る次第であった……


『ティエルクマスカ連合主権体、及び惑星地球内連合日本国主権体。そして『連合国(UN)』なる国家間調整組織からなるその代表、アメリカ合衆国主権体、ロシア連邦主権体、中華人民共和国主権体、フランス共和国主権体、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国主権体。これら各主権体代表の、本ナーシャ・エンデへの来訪を、我々ゼスタール合議体は極めて高く評価し、歓迎する』


 ジェニルが語るその優しい口調ながらもゼスタール独特の言い回しに、各国代表は会釈して歓迎の意思に感謝する。

 

『本来であれば、我々ゼスタール合議体における、お前達の表現する『国家元首』に当たる統制合議体、「アルド・レムラー」が本来表に出てお前達と対話するところだが、我々も意思の齟齬なく協議の各議題を円滑に進行、そして決議させていきたい。従って統制合議体アルド・レムラーは、お前達『地球生体』のスールである、この『リヒャルト・アイスナー』を統制合議体の人格カルバレータとして、お前達と合議するために施策した。従って「アルド・レムラー」他合議体の多数決意思は、このアイスナーの口頭から語られる。認識せよ』


 相も変わらずの口調で解説するゼスタール人のジェニルだが、このゼスタール人の話し方で解説されると、妙に分かり易いのがこれ面白いところ。一つ一つをあの口調で合理的かつ的確に解説してくれるものだから、大変理解しやすかったり。でも情緒豊かなティ連+常任理事国側からすれば、それでもアイスナーが表に立ってくれる方が有り難いというもの。それはなぜかというと……感情表現ができるからである。やはり交渉事にはこの感情表現がないと、色々と駆け引きもあるのでやっぱり必要だという話。全てが論理的に進行するわけではないのである。なのでアイスナーに手伝ってもらう作戦に出たゼスタールもなかなかの外交上手と言っても良い。


「ところで、ジェニルさん。先程あなた方は我々の事を固有名詞で呼称していらっしゃいましたが、もう今後は認識番号みたいな形で呼称はしないので?」

『肯定。カシワギ生体に回答。固有名称での呼称のほうが、お前達の認識能力上、効率的であるという我々の見解である。従って今後は各方面に置いて、番号呼称での表現は、可能な限り控えるように心がけている。これは全てのスールに通達されている』

「なるほど、よく理解できました。お気遣い感謝致します」


 柏木もやはりそこははっきりさせておきたい。まあ何というか、ゼスタール人の使う番号呼称も今はかなり知られている訳だが、しょーもないところで些細な言葉のイザコザがおきるのも面白くないからである。


 まあそんな感じで始まるわけだが、とりあえずゼスタール人の性質に、種族性、知的人格体という地球人からみれば、新たな知的存在概念のノウハウを少々学んだ常任理事国諸氏だが、アイスナーが此度の『アルド・レムラー』なる人格体と、他統制合議体を構成する人格体との仲介をしてくれるのは有り難い話である。普通に地球人と話ができる感覚で対話が可能というわけであるからして……

 そんなところで、会談の幕は開くのであった……


    *    *


 此度の会談における議題において、やはりティ連ーヤルバーン州・日本国と、国連常任理事国側のゼスタールに対する要望要項や、それに準じるゼスタール側の協力要請など、そういう点は事前に取りまとめられている。まあそれがなければ『事前折衝』とはいえないわけで、ここで決めること決めて、後に閣僚級なり首脳級の会談がなされるわけで、言ってみれば今回の会議で今後の互いの方針が、ほぼほぼ決定されてしまう訳なのである……言って見れば、『だから』柏木やフェル、ナヨにパウルという重鎮どころもココにいるわけで、フェルに至っては閣僚直々に事前折衝に出てきているわけであるからして、日本国政府としても今回のゼスタール会談を相当重要視していることは間違いない。


 さて、では今回の各国とゼスタール双方の要望要求をまとめてみると……


◆まずはティ連側。折衝担当は柏木防衛総省長官とパウル提督。連合本部は、正式加盟に向けての最終調整を行いたいワケである。今回、ティ連でもやはり地球側でよくある『謝罪と賠償』ではないが、ゼスタール側に、ティ連内でのゼスタールから被害を受けた連合各国内の関係被害者を代表して、ゼスタールに謝罪を要求しなくて良いのか? という話も出たのではあるが、蓋を開けてみれば、それら肉体的な存在を亡くした人々は『スール』と言われる存在になって生存しているという、ティ連でさえ未知の領域の話に、結局は『まあ生きてきちんと保護してもらえているのなら……』ということで、この謝罪要求は立ち消えとなった。とはいえ、ゼスタールも『攻撃した』『殺した』という感覚が皆無なもんだから、謝罪要求にも疑義を呈していたわけで、このあたりは色々平行線となっていたところもあるのだが、ナヨの例や、ゼスタールの歴史的経緯もあるし、ということで此度はティ連側がゼスタールのスール、即ち『人格体』という存在を理解し、ゼスタールも、安易なスール化が、弊害を生むという道理を理解するということで、とりあえずは話がまとまるということになった。やはりここでも威力を発揮したのがナヨクァラグヤ帝の遺志が復活した『ナヨさん』の存在……彼女という例がティ連の理解を早めたわけで、やはりヤルバーン州の『創造主・ナヨクァラグヤ……即ちナヨ議会進行長閣下』は偉大であるという話であったりする……ちなみに『賠償』はハナから求めなかった。なぜなら簡単な話、貨幣経済でない彼らにとって『賠償』など意味が無いからである。どこかの国と大違…………

 あとは柏木が折衝するわけであるからして、今後はゼスタールもティ連憲章を守って貰わなければならない立場になるのでその説明と、軍事技術の相互提供に研究開発スタッフの相互防衛研究施設への派遣等々、そんなところも話し合われる。


 ヤルバーン州も、連合本部の決裁内容に追従する形で、ティ連本部と同様の決裁内容を相互確認していく。そして更に、ヤルバーン州への治外法権区設定。現状、高さ四〇〇キロメートル近くあるこのヤルバーン州という建造物周囲に、螺旋階段の如くいろんな大きさの都市型艦艇がくっついている。その最近増設されたばかりで、現在無人となっている区画を一つゼスタールに租借し、地球内にも、本拠地『ナーシャ・エンデ』の自治体を作ってもらいたいという、そういう話も詰められる……常任理事国側は、『人工大陸』やら、『宇宙間の戦争』やら、わけのわからない言葉、あ、いや、ワケはわかるのだが、普段使わないSF用語みたいな言葉を連発させながら進んでいく会議に、やはり少し困惑を隠しきれないでいる。だが、ナーシャ・エンデに今現在滞在している自分達はどうなんだということを自覚すると、思わず苦笑いになってしまうところも無きにしもあらずであったり。


◆日本政府からは、フェルフェリア@柏木迦具夜外務大臣。

 キリリと眦高く交渉に挑むも、やはり知ってる人が見れば、ホエオーラがやんわりと漂って見えないでもない。このフェルのホエ度に翻弄された海外政治家は数知れず。

 ということで、連合日本政府として、現在地球内で最もゼスタール人の潜伏人数が多いと思われる日本において、この国も現在は連合加盟国であり。連合主権を共有する国家でもあるので、基本方針は連合本部と変わらないが、まあゼスタールも連合加盟するわけでもあるし、日本国内のゼスタール人総数を把握したいというところもあるので、とりあえず潜伏者にカミングアウトしてもらって、全ゼスタール人を日本国に外国人登録させてほしいと。で、登録してくれれば、連合系外国人として扱うから、日本国内で好きに生活してもらって良いと。ま、そんなところをフェルは話す。

 実際、現在三島の財団法人でも、ある程度のゼスタール人居住者人数は把握してはいるのだが、実際はなんともそれよりも多い人数が、カルバレータ体として生活しているという話で、月に彼らが居座って以降、割と電光石火で地球への調査作戦。地球側から見れば『浸透作戦』をやってのけていたようである。

 フェルの側に付く月丘にプリ子。やはり流石ゼスタール人と言おうか、彼らの秘匿技術はなかなかのものだと思う。ま、シビアを見てりゃそうもなる。

 ということで、日本政府も基本は連合本部の意向に準拠なので、特段の要望要求に取引というものはこれ以上はなく、あとは現在の情報共有体制を更に向上させることを確認する……まあ三島の法人でも毎日詰めているので、日本としては現状この程度でも良いのである。


 さて、そんなところでティ連関係の交渉は随時状態なので、彼らとはその確認で終わりである。まあティ連関係組織はそれでいい。

ゼスタールの連合加盟も決まっているので、彼らとの更なる交渉は、連合単位で今後やれば良いわけなので、フェルにナヨ、パウルも『このぐらいで良いか』と、次にバトンを回す。


 で、回されたのは国連常任理事国。此度の主題はむしろコチラの方であり、ゼスタールの独自外交権の及ぶ現状、各国大使も自らの経験と立場、そして該当国家の要求を織り交ぜて折衝を行う……


◆ということで常任理事国国家、米ロ中英仏。この五カ国は今回、各国個別要望はせず、共通の交渉項目を以て、ゼスタールと話をするわけだが、なぜここで常任理事国は各国個別の要望を行わなかったかというと、此度は彼らだけではなく、他の国連加盟国の代表も兼ねるという形で来ているからである。

 G7・G20と『主要国』の名を関する数字はいくつかあるが、そのような国々の理解があっての常任理事国が行う折衝である。自国のエゴで動いた日にゃぁ。世界から大ブーイングだ。特にロシアに中国、そしてアメリカなどが毎度の調子であんな交渉行えば、即世界中から非難の声に晒される。おまけに日本が『ティエルクマスカ連合』という立場にある以上は、下手なネガティブ行動も行えないし、世界規模での暴動を誘発する可能性もある。なので、彼らも各国政府から、慎重にやってくれという話をされてはいたのであった。


 で、常任理事国側が出してきた要望というのがもちろん……


 『ゼスタールの技術を情報公開しいてほしい』『各国ゼスタールとの正式な国交を持ちたい』という事。


 確かに現状でも各国水面下で多かれ少なかれゼスタールとの交流はもっているのではあるが、やはり所詮は『水面下』での話であり、公に堂々と交流を持つ事に比べれば、今後のゼスタール技術の『産業化』『インフラ化』という点でも運用面で格段に違うだろうし、また何より最低限現状の日本との技術格差を縮める為にも、各国是が非でもこの点はゼスタールに要求したいところではある。

 なんせ、まあ、世界はティ連の一極集中外交方針など知らないわけなので、各国がいくら日本やヤルバーン州に外交攻勢をかけても反応が鈍いわけで、そりゃもう頭かきむしる状況がこの一〇年続いてきたわけである。

 確かにティ連側も、そろそろ技術情報を地球世界各国にボチボチと開示してもいいかなと考えてはいたわけで、何年か前、そのテストケースとして、ティ連は、サマルカ技術の米国への公開を認めたという出来事があったわけなのだが、そんな事情の後に、この地球で起こったのが、このゼスタール関連の問題だった。


 ティ連としてもゼスタール側が地球世界とそういった交流を持って技術のやりとりをするのであれば、『連合加盟選択前の段階での外交交渉』として黙認するという方針をとることにしたわけで……はっきりいえば、ソッチのほうがメンドっちくなくていいとティ連も判断したのである。


 ……と、そういう話が前提であっての常任理事国諸氏がゼスタールに何やら色々と要求している状況を黙して聞くティ連―日本組。

 ただ、此度評価できる点は、ここで常任理事国各国が、各国勢力のエゴむき出して『我が国はこうだ、いや、我が国はああだ』とやらかせば、柏木やフェルにナヨ閣下も『あ~あ』と頭抱えるところなのだが、なんとも彼ら、此度は『国連』という単位で統一した見解を持って、交渉に当たってきている。ここは実のところ意外な展開ではあった。


「(パウルさん……悪くないですよね、彼ら)」

『(エエ、そうね長官。 まあケラー・リックや、ケラー・プーシキンがいる時点で、相応の理性的な会談はできるとは考えていたけど、あの他の三人もナカナカのものだわ)』

「(それだけ各国も現状を理解できているということですか)」

『(そう思いたいわね)』


 小声でその様子を見守るティ連―日本側

 そんな感じで丁々発止やってる常任理事国諸氏と、ゼスタールの三人。やはりゼスタールは代理人にアイスナーを立てたのが功を奏しているようで、話が地球人視点で円滑に進んでいるようである。


「今回の会談で、ゼスタール側から何か得られた場合、スチュアート大統領も、サマルカ技術を同じ土俵で市場展開する用意があるといっておられます」とリック。

「では、我がフランス、いや、EUは、先程のブンデス社事件で得たロボット関連技術をテーブルに乗せましょう」とオージェ議員。

「中国も、相応に得た情報はあります。ま、その一部は……あ、いや、まあいいでしょう。それを共同開発できるのであれば、提供する用意があると盧主席も申しております」と王部長。日本に妨害工作食らった事は、あえて言わなかったようだ。そこは自粛してくれたようである。

「ロシアは、かつてのマニューバータンク技術もさることながら、ティ連の転送技術の研究と、独自のティ連系技術解析のノウハウがあります。それと、我が国もゼスタールとは一部独自にパイプを持っていましたが、それを各国とのパイプと統合する用意があると、大統領は伝えてほしいと言っておりました」とプーシキン。

「基本、英国もフランスと同じ考えですな。まあ同じEUでもありますし」とベイカー卿。まあそれはそうだろう。


 これに常任理事国外の国も、各国秘密裏にゼスタールとの折衝で得たノウハウをテーブルに載せるという形で、フェアな状況を作ろうと、そういう意思をもっているようである。

 だがここで柏木長官閣下が思うのは……


「(おいおいおい、なんだよこりゃ……ゼスタールさん、ここまで地球世界に入り込んでいたのかぁ? 展開早すぎだろ、どうなんだよ月丘くん~)」

「(ええ、まあ状況は情報省でも把握はしていました。ヒューミントも山本局長の方でも結構やってたそうですが……実際こう間近でここまでカミングアウトされると、結構ショックですね、ははは)」

「(いや、月丘君がソレ言っちゃダメでしょ。ってかフェルもさぁ、外務省で把握はしてたんだよな?)」

『(モチロンです。ヤルバーンシステム使って、ちゃ~んとリアルタイムで情報は得ていましたよ。おイタした情報は、ケラー・シラキにもキチンと送ってたでス)』


 ま、そりゃそうだろう。だから、香港の一件も、ブンデスの一件も、北のアレにも対応できたわけであるし。ってか、それがあったから三島のゼスタールさん活動拠点創設もできたというところもある。これも現在に至る日本やヤルバーン州が誘導した計画の一端ではあったのだ。


 ……で、常任理事国いや、国連側の対応も出揃ったとところで、先の要望に関する見解、できれば回答を事前折衝と言う形で得たい諸氏。で、シビアにジェニル、アイスナーを代理として構成する合議体が凄まじい速度で採決を繰り返し、出した結果は……


『みなさん、ゼスタール側の回答が出たようですので、お答えします』


 とアイスナーが切り出す。ま、これがシビア達なら『回答、我々の~』とか言い出すところだろうが、そこはアイスナーが代理でやりやすいわけであるからして。


『……ゼスタールの回答は、基本的に地球世界各国へゼスタールの情報を全面開示することに、異議はないという事です。この点は、ゼスタール・スールのほぼ一〇〇パーセントが合意に達してくれています。もちろんその対象は、ティ連にヤルバーン州、そして連合日本国も含まれます』


 『おお……』と顔を綻ばせる常任理事国諸氏。値千金である。

 ティ連各国も頷いて成果を喜んでいる。なぜならそこにはこの次元溝、即ち時空間接合帯への対応技術も含まれているからだ。

 だが、そこへ柏木が若干の疑義を挟む。


「ですが、アイスナーさん。今一〇〇パーセントの合意と申されましたが、それでも以前は……そうですね、連合への和解反対派みたいなのが三割ほどいらっしゃったと思うのですが、そあたりは……」

『その点も、連合加盟で得られたハイクァーン技術が既にこちらへ回ってきていますので、その点もあって、「三割の疑義」も解消されています。ですからご心配には及びません』

「わかりました」

『はい……で、先程の技術譲渡の件ですが……ただ、これを行うに、やはりゼスタール側からも一つ「条件」があるという事でして』


 やはり『タダで』というわけにはいかないみたいである。当然条件があるという次第。それはそうだ。

 するとフェル外務大臣が、その『条件』を予想……というほど難しいものではないが、まあそれを彼らに言ってみる。その予想をできるのも、彼女自身も一時は当事者であったからだ。


『ヂラールへの対応に協力してほしい……というところデスか? ケラー。あと、貴方がたの母星、惑星ゼスタールの奪回への協力も含めて……と。』

『はい、そのとおりですフェルフェリア大臣閣下』


 その言葉で色々ざわつき出す常任理事国諸氏。ま、ティ連各国はさほどでもない、そりゃアタリマエである。ヂラールへの対応に惑星ゼスタール奪還ということは、要するに防衛に敵地攻撃空間戦をしろと言う話であるからして、そんなものティ連はこのゼスタールさん相手に丁々発止やってきたわけであるし、ソレ以外でも過去には色々とティ連にも『戦史』はある。

 そしてこの中では文明的にもっとも遅れているハイラ王国でさえ、そもそもヂラールと直にやりあって勝っているのであるからして、なんて事はない。

 となると、当然問題なのは地球のミナサンで、宇宙でバケモノと戦闘なんてのはやった事ないわけであるからして。

 で、それに協力してくんないと、技術全面公開してあげないヨというのであるから、これは『高いハードル』である。


 即ち、ゼスタールが提唱する安全保障に協力してほしいというワケである。ただ、この条件を勘案してほしいと要求されているのはティ連も同じで、そこは現在のティ連安全保障の長、柏木の判断というところだ。ここで柏木が決済し、現在のティ連連合議長サイヴァルと協議して、OKが出れば何の問題もないし、この点はもうほぼ決定と見て間違いないだろうから、問題ないだろう。ティ連の中に入る予定の、もう一つの新規加盟国家ハイラ王国もメル王女の決裁で、これもほぼほぼ決定であろう。なんせ彼女達は、支援を受けたとは言え彼らと戦って勝っているわけなので、ゼスタールとしても是非とも仲間になってほしいところである。

 で、当の日本国であるが、まあ日本もフェル大臣が……即ちこの訪問団の中で唯一、閣僚で、副総理をしてるのが彼女であり、彼女が来た理由も、現日本国総理大臣『春日功』から全権委任されてきているからという話もある。つまりこの場で決裁できる権限を持っており、フェルの決定はそのまま春日の意向となるよう、『協議済』というところもある……モチロン国会にかけて野党と丁々発止やらないといけないのは、法治国家日本であるので、そこは大前提としてあるわけだが、まあこれも段取り良く行くだろう。


 で、問題なのは、常任理事国各国は、この案件を各国に持ち帰って、議会にかけ、更には国連安保理で決済しなければならない。

 ゼスタールは何故に地球世界の、所謂遅れた世界各国に対しても、自分達の安全保障戦略に取り込みたいのかというと、ゼスタールも彼らなりに地球の科学技術や工業力諸々を調査した結果、彼らの宿敵であるヂラールに対抗し得る発展性を持った種族であると認識した結果だろう、というところである。

 中国香港の事件を発端にし、ブンデス社の事件に、横田基地のM4ドーラ事件。そして何よりティ連が彼らに対抗し得る戦術『空間雷撃戦』や、『対物ライフル』の技術などの元が、地球という星であると知っている今のゼスタール人であれば、尚更である。

 彼らの技術を地球に渡し、ヂラールに対抗できる種族として利用したいと思うのは、普通の事であると言ってもいいだろう。

 そこは『お互い様』というところである。


 ……と、そういうところでこればかりは、どうにもこうにもな話になるのは仕方ないところ。現在の常任理事国側も、言ってみれば『事前折衝』や『事前偵察』といった感じであるため、今ここで何か結論を出せる話でもない。逆にいえば、『持ち帰って検討』した結果、良い結果が出れば、首脳クラスのゼスタールとの接触が成るのであろう。


『ただ……うん……』


 アイスナーが少々口ごもる。


『どうしました? ファーダ・アイスナー?』


 ナヨが訝しげにアイスナーの態度を見て尋ねる。アイスナーは、シビアやジェニルの顔色を伺うよな素振りを見せたり。


『あ、いや……実は、これは合議体の意見ではなく、私個人の主観なのですが、どうもゼスタールの首脳陣は、ちょっと焦っているようでして』

『焦っている? はて、妾にはそうは見えませぬが……』

『はは、いや、まあそれはそうでしょう。彼らはそんな素振りを仮にしてても分からないですから……まあ、同じスールになったから感じるといったところもあります』

『ふむ……』と、ナヨは腕を組み、パウルや柏木、フェルと小声で少し話した後……『ファーダ。アイスナーや、もしよろしければ、今、そなたの合議体に加わっている、「アルド・レムラー」なるトップと、直にお話ができませぬか?』


 そうナヨが要請すると、アイスナーは少し瞑目した後……


『わかりました、しばしお待ち下さい』


 といった刹那、アイスナーの姿が霧散して、モーフィングし……ティ連・日本・常任理事国の前に、年の頃は、地球人換算で四〇代後半、鋭い眼光で、ゼスタール人特有の褐色肌。正に『男らしい』という言葉が適当で、政治家のトップというよりは、軍人のトップという見た目の男性ゼスタール人が姿を表した……


 その情景に身構えてしまう諸氏。特に常任理事国側は、それまでの地球の常識では考えられない展開が連発する情景に、その様子を見逃すまいと、真剣に記録を取るような姿勢でその情景に対峙する……


 モーフィングしたその精悍な顔つきの男は、腕を組み、片腕を顎につけたようなような状態で、顕現した……そして両の腕をゆっく机上へと下ろすと……



『我々は、ゼスタール統制合議体であり、第一人格体となるスール。「アルド・レムラー」である……お前達の政治的認識では、「国家元首」という言葉が適当である。認識せよ……』






 


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