【第三章・時空の守人】 第一八話 『ナーシャ・エンデ』
太平洋で異次元怪獣と戦う巨大ロボットか、それとも漆黒の空間を埋め尽くす宇宙怪獣と戦う超巨大ロボットか。米国運動会系最高位の称号を冠するロボットアクション映画か、そんなSF作品のBGMが聞こえてきそうな情景。
惑星イルナットでの調査活動中に遭遇した植物型ヂラールの一種。だが一種と言うには、あまりにもボス級で想定外。
特危自衛隊にティ連軍、そしてサルカス・ハイラ騎士団が知るヂラールの親玉といえば、かの時の鎌を構えたような、半人半蛇な風体の四〇メートル級。あれでも大概であったが今回のヤツは、それこそ要塞級である。
高さは優に二〇〇メートルは超える。そんなのがものすごい速さで山を裂き、大地を割ってニョキニョキと無数の蔦に茎が伸びて乗数的に太く頑丈で屈強に成長していき、最後にテッペン先端で不気味に開花した巨大な花弁。そこから発射されるは小型核兵器級の破壊力をもつ、正体不明の物体にして化学兵器。威力こそ小型核爆弾並みではあるが放射能反応はない。その変わりに爆発と同時に毒ガスを撒き散らす。そりゃこんなのをバカスカ打ち込まれりゃ、都市の一つや二つ滅びもする。
しかも山一つを分厚い装甲にして周囲数キロに、大蛇のごとくウネウネと動く触手状の『根』を張り巡らせて完全な防御陣を一帯に敷き、破壊の触手這わせて暴れまわる破滅の植生花。
この星にかつてあった軍事力で対抗できたのかといえば、甚だ疑問である……確かにコレ一体だけならどうにかなったのだろうが、ここに通常型のヂラールや、他の植物型ヂラールの死へ誘う破壊的繁殖が伴えば、そうそう抵抗できるものではないだろう。事実、この巨大ヂラール花が眠っているのは、ここだけとは限らないのだ。
このクラスがこの惑星上でウヨウヨ潜んでいれば、この星の滅亡は無条件で納得である。
いま眼前にいるヤツは、そんな化物なのである。
だが、無敵を自負したいヂラール共も、相手はティ連軍である。そうそう好き勝手にはさせない。
おまけに『脳内妄想』だけでいえば、この世の次元世界最凶……あいや最強頭脳集団のヤル研が設計し、ティ連防衛総省宇宙艦造船廠がお贈りするコンプライアンスでアカバn……日本・ティ連突撃コラボ兵器……
『フリンゼ・サーミッサ級』人型機動攻撃艦を投入して、この大事に対応しようとするわけであるからして……しかもその艦の艦長が、工作機械や土木機械をリアルな武器にして、敵を情け容赦なくブチのめす『美人戦闘工兵エルフ親方』の『パウル・ラズ・シャーかんちょ(29)@プリ子のおねーちゃん』であった!
……ちなみにディスカール人は寿命が地球人の三倍以上はあるので、地球人年齢的にはかなりのお歳なのだが、容姿はメチャクチャ若い……エルフといえば、そういうものであるのが宇宙共通。おまけに現在は少将という階級。つまり提督閣下様なのであったりする。
で、そのパウルが指揮するサーミッサ級。かつてのオペレーションWTFCでは、ニヨッタが艦長を努めたわけであるが、その時のサーミッサ級は、マニピュレーター腕部を左右に広げ、優雅な天女か天使か、そんなイメージで颯爽と滞空進撃し、かえってその神々しさが不気味で、敵のエセナントカ教徒共も震えあがったものなのだが、パウルがサーミッサ級を扱うと、まるっきり逆。
マニピュレーター部を腕組みさせて、胸張って頭部戦闘指揮ブリッジ、目に当たる部分の窓列はなんとなく上から目線。そこへ彼女の高笑いが響き、そんな感じで参上なさるもんだから……そりゃシエも負けじと武者震いである。多川の旦那さんは、かーちゃんのやる気に苦笑いで付き合ってやる。
というわけで、前置きはそのぐらい。
パウルのディスカール軍将校用戦闘服の頭に被るは、オデコに錨マークをあしらった旧海軍将校用略帽。
なんでこんなのかぶってるかというと、日本での休日に上野で買い物してたとき、とある商店で見つけたこの帽子を単純に気に入って買ったそうなのだが……まあそれはそうと、高笑いしつつも、目は真剣。全高一五〇メートルを誇る人型艦艇サーミッサ級よりもデカイ相手に、改めてパウルの顔は真剣になる。
『シエ! ケラー・オオミ達はどう!?』
『アア、今デロニカデ飛ンダ。上空ヘ退避サセタゾ』
『結構……攻撃操舵ブリッジ、応答して! 兵装はどんな感じ!?』
『こちら攻撃操舵ブリッジ。斥力砲、副砲、おーとめらーら砲、VLSいつでもいけます!』
サーミッサ級は、人型船体部分の背面に、ランドセル型制御機関部を背負うようなシルエットになっている。人型船体部頭部。人で言う目の部分に『攻撃操舵ブリッジ』があり、ランドセル中央部の塔のような部分が、パウル達のいる『戦術指揮管制ブリッジ』になる。
兵装としてはランドセル部から生える四本(左右二対)の大型フレキシブルアーム型ハードポイントに主砲となる『三連装斥力砲』左右一基づつに、もう一対にはゼル造成型小型無人機動兵器射出装置を持つ。
ちなみに、かつての作戦では、砲の規格は二連装ブラスター砲であった。
副砲として人型船体部マニピュレータの掌中央部に、大型ブラスター砲を一基づつを配備。
他、諸兵装として指揮管制ブリッジ後方には各種ミサイルや粒子反応ポッドを射出できるVLS発射器に、ゼル造成砲台多数。そのゼル砲台でオート・メラーラ砲やCIWSにティ連型エネルギー兵器などが造成設置可能となっている。
更に、人型船体両腕掌部五本の指先からは、粒子トーチが展開して接近戦にも対応し、胸部には現在機密指定の強力な兵装も装備されているのだという。
かのオペレーションWTFCの時よりも、相当な強化が図られたサーミッサ級。ヤル研から評価試験でティ連防衛総省へ送られた時に防衛総省側からの改良希望要項に応えた強化が施されていたりする。
ってか、防衛総省は真剣に改良点を洗い出していたのであるから、その本気度が伺えたりする……もちろん調子に乗ったヤル研連中は、早速新型の女性型人型艦艇の設計に着手………
『結構。なんか着任早々メチャクチャヤバそうだから、名刺代わりに早速お見舞いするわよ。アーム部斥力砲目標は前方巨大植物型ヂラール! 各砲六基縦列一斉射、発動用意!』
パウルの号令一発。砲身デザインは二股に別れたレールガン状。どういうわけか測距儀のようなものが付いた砲塔に三本その砲身が伸びた砲塔と、それを支えるアームが横から縦へと稼働し、機械音を鳴らしながら指先のように砲身が稼働しつつ、敵へ射線軸を合わせる。
『発射用意ヨシ! 射撃命令どうぞ!』
『あんだけデカくて動かないのなら、はっきり言って演習のマトよ! とりあえずこいつでも食らってみなさい! 撃てーッ!』
刹那、腕組んで威嚇する人型船体部の両側面フレキシブルアームハードポイント部の斥力砲が一斉に発射波動を放つ! イオン化した環状大気に歪む空間。
高熱に熱せられた高質量高硬度砲弾は、一直線に近い六本縦列曳光弾となって、バケモノヂラールへ命中する……と同時にボカスカと巨大な爆炎がヂラールを包み、彼奴の太い茎へ火炎を纏わせる事に成功した。
『ま~あ? こんなの食らったら、普通は大穴開けてボーボーと燃えるわね。でもこの程度でくたばりゃこの星の文明も苦労はしなかったでしょうよ……さてどう出て来る?』
海軍帽のツバをいじってジラールを睨むパウル。
サーミッサ級の周りを援護で飛ぶシンシエ旭龍にネメアのクロウ型ドーラも様子見だ。
すると案の定それに纏わりつく炎は、ヂラールから溢れ吹き出す大量の粘性のない樹液で見事に消火された。
更には、砲撃で大穴開けた部分はゆっくりと再生を始め、更にその再生を補助補完するかのように、太い茎の中から別の細い茎が大量に伸びてきて穴を塞ぐように砲撃痕を埋め尽くす。
『あれを食らって、あんな事ができるの!? なあにそれっ!』
完璧な反則生体にクレームを入れるパウル。
するとシエが、
『パウル、コリャ絶エ間ナク撃チコンデ、奴ノ中核部ヲ吹キ飛バスシカナイ!』
「ああ、パウル提督。大見一佐達が地下で見たものが多分その中核部というヤツだ。となると、あの装甲にしている山肌も吹き飛ばして、そいつを露出させなきゃいかんな」
多川もそれに同意する。彼の言葉にしばし考えるパウル……だがそんなヒマもなく、植物の分際で予想外に反応が早いソイツは、ぶっとい大蛇化した根部を振り回しムチのような武器となってサーミッサ級を襲ってくる!
『うわぁつ!』
『ツッ!』
その一撃に艦体を揺さぶられるサーミッサ級。どでかい衝撃音にブリッジ要員座席手すりにしがみついて耐える。
直立仁王立ちしてたパウルも、ブリッジ機材に手を当て、体を支える。
サーミッサは咄嗟に防御プログラムが作動して、装甲の厚い主砲砲塔部を盾代わりに、ぶっとい触手と化した根部の攻撃から自らを防御する。
『反撃!』
すぐさま組んだ腕を解いて、左掌部ブラスター砲をぶっ放して根部を引きちぎり、右、五指部から粒子トーチを伸ばして、残った根部を切断する!
だがサーミッサ級もその衝撃で空中滞空状態から地上へ落とされ、森の木々をえぐるように足を大地に滑らせた。
『くそー! よくもフリンゼを大地に立たせたわね! これは屈辱だわ……シエ、ジェルダー・タガワ。ゼスタールさん、 援護して! 奴に一斉射撃しながら近づいて、必殺の一撃をお見舞いしてやるわっ!』
『了解。ダーリン、空中滞空デ、サーミッサ級ガ高度ヲ取レルマデ援護攻撃ダ!』
「了解だシエ。ネメアさん、貴方も頼みます!」
『了解。大型ロボット兵器を援護する』
旭龍にクロウ型は散開して攻撃開始。旭龍は必殺プラズマボルテック砲を発射する。だが流石にあの巨体相手では、威力こそ確認できるが、相手のダメージコントロール生体機能でその攻撃がすぐに減殺されてしまう。
ネメアもクロウ型の四肢先端部から粒子ビーム兵器をレーザー状に中央へ収束させて高出力で発射するが、切断するように着弾痕を這わせても、すぐに樹液が盛り上がり。傷を塞いでいく……実に厄介である。だが何もしないよりはマシで、ジワジワとだが、ジラールを弱らせることには成功しているようだ。
「シエ、ネメアさん! サーミッサ級が戦闘高度に達するまで、ヤツの気を逸らすぞ!」
『ソレハワカッテイルガダーリン、アレモ一応ハ植物ダロウ。「考エル」ナンテ事ガデキルノカ?』
「わからん……ネメアさん、その辺はどうなんだ? 植物型と対峙したことあるんだろ?」
そんな会話をしつつも流石はシンシエ夫妻。無数に生える敵の触手状の蔦による攻撃を躱しながら腕部ブラスター砲を速射する。先程ディルフィルド魚雷を食らわしたが、山肌の一部を収縮圧壊させただけで、あまり効果はなかった。相手がとにかく横に縦にデカすぎるのだ。
『回答。植物が陽の光へ向けて花弁を動かす事と同じく、この攻撃行為も植物固有の「特性」であって、思考しているとは考えにくい。ただ、その反応特性が多種多様であるがゆえに思考している生物のようにも見える可能性がある。我々ゼスタールにも詳しい事はわかっていないが、「脳」にあたるよなうな臓器、器官がないのは確かだ』
ネメアもヤル研ドーラ『クロウ型』に備え付けられている一二〇ミリ砲に機対機誘導弾を発射する。
だが、やはり焼け石に水状態であるのは変わらず……
それでもこの二人の時間稼ぎが功を奏して、パウル艦長inサーミッサ級は戦闘高度まで上昇浮遊し、攻撃態勢を整える事ができたようで、
『ゴメンねお三方。こっちはいけるわ!』
「こちらシンシエ旭龍、了解。側面に付き、援護態勢に入る」
『ネメア・ハモル。クロウ型了解。同じく』
散開するネメアとシンシエ。別れた両機の中央から、再びサーミッサ級が浮遊上昇して攻撃態勢に入る。
『さっきと同じ轍は踏まないわ。下部アーム部カタパルトに“F-47”を随時造成発艦。あのうっとおしい根部を牽制させて!』
サーミッサ級はフレキシブルアームのカタパルト部に、かつて米国で『X-47』と呼ばれた無人戦闘攻撃実験機を造成。この兵器の計画は、米国では一〇年前に中止となったが、ヤルバーン州軍が『米国向け技術アウトソーシングプログラム』のコスト大幅削減と引き換えに計画自体を購入し、ヤルバーン州軍の技術を加えて数段パワーアップさせ、この計画を完成させていたのである……姿形はかつてのX-47だが、型式名が地球風にFコードとなり、機体デザインにもティ連意匠がいろんなところに見られる機体に変貌していた。
サーミッサ級は、カタパルトからF-47をガンガンゼル造成し、射出させる。発進したその機体は、ネメアクロウにシンシエ旭龍、サーミッサ級へ襲いかかる触手状根部へ極めて正確な追尾で襲いかかり、ディスラプターを食らわせる。
ディスラプターは敵を分子に分解して滅殺する兵器なので、瞬く間に触手は塵と化していく。
『よっし、これで外野は抑えたわね。んじゃ攻撃操舵ブリッジ、聞こえて!?』
『はい艦長、命令をどうぞ!』
『全兵装展開。一斉射撃でヤツに接近するわよ!』
『了解。主砲、副砲、VLS ゼル砲台おーとめらーら全兵装展開。一斉射撃発動用意!』
『うてーっ! 撃って撃って撃ちまくれ!』
唸る主砲、斥力波動。高熱の弾頭が間隔あけて轟音あげて発射され、伸ばすマニピュレータからは、魔術のごとく粒子砲に閃光が瞬き輝き、戦術管制ブリッジ後部からは、もうもうと断続的に噴煙あげて垂直空高く打ち上げられるミサイル兵器。ゼル造成されたオート・メラーラから砲弾がリズム奏でる打楽器の如く敵へ速射で打ち込まれる。
それら破壊の万華鏡の如き曳航がサーミッサ級から巨大植物型ヂラールへ吸い込まれていく。
だが、此奴の中核部は山岳山肌の天然装甲に守られている。これを崩していかなければならないわけで、サーミッサ級の攻撃も波状攻撃というヤツだ。
実のところ、この天然の『土』というものは、装甲として見た場合、非常に厄介な代物で、衝撃吸収性に富むは、再生性に優秀だわと、非常に鬱陶しい。土、即ち地面の対衝撃吸収能力はすごいのである。だから軍事基地の要も地下に作られるのだ。
『よし、その状態で微速前進!』
流石のヂラールも、この猛攻には手も足も出ないようで、最後の手段に訴えてきた。
『敵、頂上部から高熱源反応。アレを発射する気です!』
『来たわね! サーミッサ級の必殺攻撃行くわよ! 胸部発生機展開!』
その号令とともに、サーミッサ級胸部の装甲板が大きく展開され……なんと、そこから出てきたのは、普通機関部にある、ディルフィルド空間振動波発生機関であった! だが、形状がなんとなく砲身型。
『よし、簡易ディルフィルドゲート生成開始!』
『ディルフィルドゲート生成!』
サーミッサ級の胸部ディルフィルド機関がフル稼働したかと思うと、艦前方に丁度サーミッサ級の全高と同じぐらいの直径を持つ空間境界面が突如として現れた!
「うおっ! なんだありゃ! デ、ディルフィルドゲートか!? あの船はゲート境界面を作れるのか!」
『私モアンナノハ始メテミタ。姿形ニ似タ、イカレタ兵器ダナ……ダガ、境界面ツクッテナニヲスル……エ? マサカ!』
その境界面が生成できた途端!
『ヂラール頂上部熱源、限界値!』
『来るわよ!』
刹那、ドーーンという轟音とともに、種子のような物体がサーミッサ級めがけてモロ直撃コースで発射された!
だが? その種子弾頭とでもいうべき物体は、空間境界面に一直線で突っ込んでいったかと思うと……なんと正反対の方向、ヂラールの背面遥か彼方で壮大なキノコ雲を発生させていた。 しばし後、ドゴォォオ!!という音が遅れてやてくる。
爆風の余波で辺りの木々植物が揺れる。爆心地では周囲の森に、遺跡とかした建造物が吹き飛ばされたようだ。勿論鬱陶しい毒ガス反応も検出された。
『はっはっはー、ドゥスめ! こんなので終わりと思わないでよ。さて、主砲発動用意!発射目標前方ゲート境界面!』
『発射目標ゲート境界面照準よろし』
『ディルフィルドゲートアウト地点の変更は!?』
『設定済みです!』
『よし、発射、うてーっ!』
再度サーミッサ級主砲。、斥力砲がうなりを上げる。
すると砲弾は、勿論の話、前方に展開している境界面めがけて突っ込んでいき、で、刹那!
それはもう腹の底で轟音爆音轟かしつつも、奥底で発生するサウンドのため、篭って世が震えるような感じになり……しばし後に……
「来るぞっ! シエ、気をつけろ! ネメアさん退避だ!」
『了解……』
その光景、山一つがまるで大きな果物に爆薬でも仕込んだかのように、ものすごい音立てて吹き飛ぶ情景。
同時にそびえ立っていたヂラールフラワーが火刑に処されるが如く、地面の奥底から炎が吹き上がり、それは巨大な松明となってヂラールを火だるまにする……そして、それに付随するかのように、このヂラール花が支配していた周囲数十キロメートル一帯のヂラール系植物が次々と枯れ果てていく……そう。この一帯に分布していた大小様々な植物型ヂラールの総元締がコイツだったのである。
その枯れていく速度、見事なくらいであった。不気味な緑が、みるみるうちに白化し、茶色になって、小指でも崩れるようなボロボロ状になっていく様は、圧巻であった。
このサーミッサ級が使った攻撃。『ディルフィルド空間シフト砲撃』。ヤル研もこの攻撃方法研究に参加しており、あのヲタども……高度な戦術思想を持った研究者達の付けたネーミングは『火焔直撃……』
実は、この攻撃方法、元ネタは他にあって、かつてヘストル将軍が考案した『ディルフィルド魚雷』の用兵法を参考にした兵器システムなのであった。
だが欠点もあり、パワー供給の関係上。かなり接近しないと効果がない、事実上の近接兵器であって、中長距離の攻撃には使えないのである。そこが難点。つまるところ、ワープ転送効果を利用して、内部から破壊する極意を持つ、ナントカ拳法のような兵器なのであったりする。
ということで、してやったりのサーミッサ級各ブリッジ。
ガッツポーズ掲げて喜声をあげ、勝利を確認する。パウルもブリッジ要員とハイタッチなんぞしてたり。
シンシエコンビも機内でハイタッチだ。ネメアも松明を確認するかのように、燃え上がっているヂラールの周囲を旋回飛行する。
勿論サーミッサ級のキメポーズは、腕組んで上から目線。ヂラールが燃える大きな焚き火の炎が艦体を照り返す……
* *
~イゼイラ星間共和国ヤルバーン特別自治州行政区~
そのヤルバーン州軍司令部内にあるティ連防衛総省ヤルバーン州局内の立派な執務室。早い話が柏木真人・連合防衛総省長官閣下のお部屋である。
防衛総省各部署からあがってくる報告に目を通す彼。VMCモニターを数枚造成して、代わる代わる一読していた。
すると、数人いる彼の秘書の一人、かの複眼で、地球で言うところの蝶々から進化したイメージのあるヴィスパー人で、瀬戸智子の友人でもある『ペルペ・マルモ』が入室してきた。
『ファーダ、承っていた本日の報告書デス』
「ああ、ありがとう。そこに置いといてくれる?」
『ハイ。でも長官、ゼルモニターで閲覧すればいいのに、カミの報告書に拘るなんてどうしてですか? 不便でしょう』
「はは、ま、こればかりは地球人のオッサンの性って奴でね」と柏木は今持っているVMCモニターをピラピラさせて「映像付きのデータなんかはいいんだけど、文章となったらやっぱり私はこっちのほうがいいかな」
と机に置かれた書類の束をポンと叩く。
さてこのペルペさん。以前はヤルバーン行政府社会福祉局の一等局員をやっていたのだが、智子が以前柏木から『知った顔の秘書がほしい』と聞かされたということで、ペルペはどうかと紹介。ペルぺも乗り気で異動届を出すと、試験の後受理してもらえたそうで、連合防衛総省総務部秘書課みたいな部署へ転属になり、柏木がヤルバーン州にいる際の筆頭秘書官として働いている。彼女も大きな出世である。
で、『瀬戸かつ』のバイトはどうしてるのかというと、ま、以前ほど頻繁には通えなくなったそうだが、暇があえば手伝いに行っているらしい。今ではバイトというよりもボランティアだ。
『で、あれからイルナットの方はどうなってる?』
少し目を真剣な眼差しにして尋ねる柏木。もう既に巨大植物型ヂラールが処分された事は知っているが、その事後処理の話である。
巨大植物型の登場後、あれからイルナット軌道上の各艦隊は、それまではまだ調査レベルの上陸でしかなかったレベルを引き上げ、全面的な惑星降下作戦を展開し、科学部の調査行動であった任務を、軍事作戦行動に引き上げた。即ち。徹底的な調査に加えて偵察を行ったワケであるが、案の定で、かの大型植物ヂラールが現在の植生範囲に準じた形で、かなりの場所に点在して生息していたワケで、一斉掃討作戦をおこなう事と相成ったわけである。
このヂラールという存在……ティ連としてはまだまだここ数年の新たな敵性体ということもあって、数々不明な点も多い。そもそも別宇宙の、宇宙物理が違う世界での話。対岸の火事ぐらいに思っていたわけなので、放置するという訳ではないが、色々リスクを犯してまでその存在を優先的に追求すべきものではないと考えていたのだった。
勿論それはゼスタールとの接触がなり、対話が可能になって状況が一変して現在に至っているわけであるが……
『ハイ。軌道上の中型艦艇を惑星に降下させて、ヂラールのもんすたーふらわーを一斉に駆除致しました。現在はほぼ植物型ヂラールも駆除されて、イルナットの環境も安定を保っていますね』
「そうか……ネメア・ハモル戦闘合議体さんって言ったっけかな? 彼女が来てくれたお陰で色々連中のデータも共用できたようだし、助かったな。ゲルナー司令へ私の方からもお礼を言っておくよ」
現在、かの巨大植物型ヂラールは、コードネームとして『モンスターフラワー』と呼称されている。あまり深い意味はない。見た目まんまといったところ……と、そんなところの事後処理報告を受ける柏木。
「ペルちゃんも突っ立ってないで掛けなよ。お茶でも淹れようか?」
『あぁあぁ、そんなのは私がしますかラ』
柏木は自分の秘書にまで気を使ってしまうので、ペルペも何かカンが狂ってしまう。秘書ってこんな仕事だったけかな? と。
『で、長官。パウル艦長から、装備の追加要請来てるの知ってました?』
「ん? あ、ああ。聞いてるよ。パウルさんは州軍防衛総省即時派遣艦隊の工作艦隊司令でもあるしな」
『ハイ、で、試験運用も兼ねてあのサーミッサ級を任せましたでしょ?』
「うん」
『アレをえらくパウル艦長が気に入ってしまって、「あれちょーだいってカシワギ長官に言っといて」って、私に直接連絡来たんですよ、どう思いますぅ?』
「ははは! まあ今回のヂラール戦での功労者だからな、パウルさんは……わかった。サーミッサ級はパウルさんとこ回すよう書類上げておくよ。本当は二番艦の方を回す予定だったんだけどな」
なんともまあサーミッサ級は量産されているという話。ちなみに二番艦の艦名は『サクラ』という名になるらしい。元々柏木は、パウルの工作艦隊護衛艦艇として、このタイプの船を初めから回す予定だったので、特に問題もないだろうと言う次第。
この人型機動攻撃艦は、ティ連カテゴリーでは『重駆逐艦』に相当する等級になるので、ティ連型の名称では著名な女性の名称。特危式名称では、自然現象や樹木の名を付けることになっており、名称の命名順の決まりは特に無く、ティ連艦隊司令部が何か会議でもやって付けているとの話。
いつの間にかペルペもソファーに腰掛けてお茶すすりながら柏木と話し込んでたり。
仕事の話もそこそこに、瀬戸かつのバイトの話とか、そんなところも雑談で……
すると、『プー』とペルペのPVMCGにコールが入る。受付で誰かが呼び出しブザーを鳴らしているようだ。
『あ、しまった! 戻ります!』
「はは、カップは片付けておくから」
ま、こんな調子。長官閣下がお茶のカップを還元ボックスまで持っていく構図。で、お菓子の袋クズなんぞを捨ててたりする長官閣下。
で、次に入室してくるのは……
『マサトサン』
「やあフェル、お疲れさん」
愛妻フェル大臣であった。毎度のごとくハグしてチュー。本日帰宅の待ち合わせである。ちょっと仕事の話しをしてから、姫ちゃんお迎えして帰宅の予定。
フェルにもお茶淹れて、またソファーへ座る柏木。
『? どなたかお客サマでも来てたデスか?』
「いやいや、ペルちゃんからね、今さっきまで報告を受けてたんだよ。で、少々話し込んじゃってね。受付開けっ放しで慌てて戻ったみたい」
『アア、それでデスか。ペルチャンがペコペコ頭下げてたのは、ウフフ』
「ま、俺が引き止めちゃったのが悪いんだけど、ははは」
『ペルチャン最近ニホンジンデルンサンにも人気ですからね~ 若いし~』
「おいおい、またヤキモチか? フェルもまだ十分若いだろう。オッサンなのは俺とその周辺だけ」
でも地球人年齢では、実のところフェルのほうが柏木より年上だったり。
で、ペルペの容姿だが、彼女を見ると柏木はいつも思うのが、未だに連載中のダークファンタジー漫画に出てきた、蛾か蝶の魔物に転生した女の子。それか、ナントカライダーに出てきた蜂のような怪人女。でも、フサフサした綿毛のようなものが首元に生えていて、基本可愛い系ではある。ペルペは特に器量が良いのでヤルバーン内でも評価が高い。ちなみにヴィスパー人は、デミヒューマン系異星人に分類されている。
「……で、月丘君達の方のその後は?」
『ハイ、チョットドタバタしましたけど、かの国から取り返した記録媒体は、国連サマにお返ししましたデスよ』
「そうか……だけど国連も国連だよ。きちんと保管しとけよなぁ……たまたま月丘君達がフェルのお付きで国連へ行ってたから良かったようなものの」
『ケラー・シラキも頭抱えてたデスね』
そう、国連というのは以前からそういう事なかれ主義のようなところがあって、批判の対象になっていたのは確かなのである。特に常任理事国がせめぎ合う状況の国際関係になった時などは、なおさらそんな感じだ。
以前、日本も国連のいい加減な査定のせいで、中国とユニセフ関係で揉めた時、国連分担金を止めたことがあったが、それをやった途端に国連はガタガタになった。
しかも現在では実質上の『第二の国連』とも呼ばれている『LNIF』ができてしまったお陰で、国連の今後が危惧されているところもある。
「で、正直渡す方のセキュリティも問題じゃないか? 強制消去装置か何か付けてれば問題なかったろうに」
『それはゼスタールさんに言って下さいデスよ~。私もそういうの付けてるって思ってたら、ゲルナー司令が「ナニソレ」って言うんですから~』
あのSSD媒体は、ゼスタール側が用意したそうで、消去装置のようなものは付けていなかったそうである。なぜなら、ゼスタール側からすれば、別にあの技術が北に渡ったところで困らないわけなので、そんなチキューの複雑怪奇な国際情勢までしらんがな。といったところだろう。
「……ハァ」と頭抱える柏木。まあ彼は今連合防衛総省長官なので、北の話なぞ聞いても何が出来るわけでなし。正直仕方ないところなのだが、フェルは日本の外務大臣である。妻の御苦労を思うと、なんともはやなので、頭寄せてポンポンとしてやる。
『それとですね、マサトサン』
「ん? なんだい?」
『昨日、シビアサンが「大使として」外務省に来たでスよ』
「ほー……って、あの人も大変だな。総諜対スタッフやって大使もやるんだもんなぁ」
『私も同じこと言ったですけど、なんか合議体構成変えるだけなのでナンテコトナイとか言ってたでス……って、そんなことよりも、ゼスタールサンがこの地球へ正式に大使館を開設したいって言ってきたですよ』
「大使館か……って、日本じゃなくて『地球』って言ったのか?」
『ハイです。まあ今は連合加盟準備国とはいっても、それ以前に「結果的に」ですけど、もう色んな地球世界の人と接触はしていたわけですからね、ゼスタールさんは』
そう。この意味、要するにゼスタールにはティ連の『一極集中外交』が適用されないという事である。
ティ連では各国主権の独立性は保証されているので、その主権がもともと行っていた外交政策などに口出しはできないのだ。
ティ連全体で言えば、ゼスタールを除くティ連各国は、一極集中外交政策をとり、現在諸々緩和されて、地球世界各国とのティ連交渉窓口は連合日本ということになっている。だが、ゼスタールの場合は、ティ連加盟準備国になる少し前に、地球へ少々ちょっかいをかけ、一部の国では、オカルトネタみたいな感じで、所謂『極秘接触』という形で、地球主要各国とのパイプを少なからず持っていたりするのである。
ま、そこを三島の政府系財団法人が、そのパイプをゼスタール人から教えてもらい、日本政府やヤルバーン州にティ連本部へ報告もしているワケなのだが、ゼスタールもいよいよティ連世界や、地球世界とも安定的な関係を持てるようになってきたという事で、ゼスタール用語で言う『外部生命体接触機関』早い話が大使館の設立をしたいという事で、フェルに『地球世界向けの大使館を設置するけど良いか?』と言ってきたわけである。
「でも、そんな『地球向け』の大使館の事を、フェルに言ってきても仕方ないじゃないか。フェルは日本の閣僚なのに」
『ハイ。ですからワタクシの方から、「地球社会はまだ統一した世界ではないから、そういった大使館の設置はできないので、とりあえず日本国かヤルバーン州に置いたらいかがデスか?」と言ったのですけど……』
月にある例の基地を、大使館のつもりで作っていたという話らしい。ゼスタールはどうも国連という存在を、地球に存在する主権国家の統一意思決定機関と思っていたみたいである。で、月も『地球連合』か何かの施政権区だと思ってたそうで、とりあえず誰もいないし、一番迷惑かからなさそうな場所ということで、居座らせて頂いていたという話。
『……デ、今度私が国連の安保理へ説明しに行くですヨ。先方の希望も考えて、とりあえずゼスタールサンの大使館は東京に作ってもらって、月の基地がある場所を、ゼスタールサンの施政権区として租借してもらえるようお願いに行くでス』
といっても、月はどこの国の領土でもないので、国連で何か決められるワケではないのだが、そうはいっても宇宙条約の絡みもあるし、仁義も通さないといけないので、という話。
「なるほどね、で、事前の折衝もやってるんだろ? どんな感じなの各国は」
『ハイ。大体各国の希望としては、ゼスタールサンとの独自外交を行って良いというのであれば、地球世界各国も認めてくださるみたいデスね。チャイナ国サンと、ロシア国サンが特にご熱心みたいですけど、ウフフ』
「はは、まあそうだろうな。でもゼスタールも加盟に伴って連合憲章の話もでてくるだろうから、ゼスさんところに現状のティ連が地球世界に行っている外交制限の話もしてるんだろ?」
『ハイですね。そこは理解していただいていマス。ですので、そのあたりも今後の話し合いという感じです』
柏木はその話を聞いて、うまい具合にゼスタールと交渉を持てているようで、諸々納得した。
ということで、そういう経緯もあっての話ということでフェルが言うには、
『とま、そういう事もありまして、ゲルナー司令は日本国や地球社会の代表、ヤルバーン州にティ連の関係者をゼスタールサンの本拠地、「ナーシャ・エンデ」に御招待したいという話で、今後の話し合いや協定の件も含めて、彼らの本拠地へ来てくださいというお話をいただいているデす……とりあえずマサトサンには先にお話しましたけど、私の方から連合へ報告はしていますので、後ほど正式な形で連合本部からマサトサンにも通達はいくと思いますヨ』
というわけで、ゼスタール側から彼らが秘匿情報としていたゼスタールの本拠地へ御招待という話が出てきた。
これすなわち現在惑星イルナットで進めている特危自衛隊らとネメア率いるゼスタール軍との共同作戦の成果や、地球世界のヂラールに対する認知度に、ヤルバーン州も含めた地球社会との現状落ち着いた交流が可能になった事に加え、総諜対でのシビアの取扱いも含めた現状が、ゼスタール全体に良い印象を与えたわけで、彼らの本拠地へ一度いらっしゃいという話が出てきたという次第なワケである。
「そうか……まあ連合の加盟がいずれ成るのであれば、そういう話も出てきて然るべきだろうから、特に驚かないけど……先方が招待しようとしているのは、どういう種類の人達なんだい?」
『ハイ、まあマサトサンもお察しでしょうが、基本我々ティ連人。もちろんこれはヤルバーン州や連合日本国も含めてという意味での“ティ連”ですけど、それに加えてゼスタールサンが交流関係にある地球国家の代表団を招待したいようです』
つまりティ連以外の国で言えば、シビア達ゼスタールが地球で行動を開始し、ドーラコア技術の流出を図って極秘裏に接触を持っていた国々の人達……
具体的に言えば、米国・ロシア・中国・ドイツ他欧州・インドといった国々である。
「なるほど。ふむ、それに関してはこちらからどうこう言える立場じゃないしな」
『ハイです。ゼスタールサンがティ連接触前に独自に交流を持っていたワケですので、そこはなんともはやでスね』
頷く柏木。まあそれでも今は連合憲章外交方針の件もゲルナーには申し伝えているので、めんどくさいことにはならないとは思うが……というフェル大臣の談。
『マアそれでもティ連のこれまでの政策の話もあるですから、そこは連合日本の立場で、「地球世界の代表団としてお願いしたい」と私から一言添えておきましたデスから、とりあえずゲルナー司令からは、そういう事ならという話で、ジョーニンリジコクサンの代表団のみという事で、私の方に連絡がありましたデスよ』
ここでもやはりフェルが外務大臣という事が効いているワケで、これが日本人の外務大臣ならまたゴニョゴニョと各国、特に常任理事国外の国がゴネて来るのだろうと想像できてしまう。だがここでフェルがピシッと言えば、そういうゴネりも起こらないわけで、日本人としてはなんとなく遺憾なところもあるのだが、今回はフェルが外務大臣で良かったと思う政府スタッフである。
……と、そんなところで地球世界に対するティ連への窓口となる日本へ、そういうところで国連から通達があり、その範囲で各国代表団メンバーを選抜するという事になる。
メンバーの立場役職は特に制限はないものの、まず最初はこういう場合の通例として、使節団というのが定番であるからして、ハナから国家元首に国家代表級を送り込むというワケにはいかない。そりゃそうだ。向こうの総大将が誰かもわからないところに、国家代表を送るバカもいないだろう。ま、そのあたりはこれから各国が選んでくるわけであるからして、どういうメンツになるのかお楽しみという感じである。
と、そんなこんなで、これ知らぬ間に長々と話し込んでしまう柏木長官とフェル大臣。
ふと時計を見ると、なんと『もうこんな時間』というような時を時計の針は指している。
「フェル! マズっ! 姫ちゃん迎えに行かないと!」
『ア~~~ こ、これは大変デす! こんなに話し込んじゃったです。たぶん姫チャン怒ってるですよ~』
慌てて上着来てフェルと退庁する柏木。
案の定、姫ちゃんは児童施設で待たされて、『プ~』と膨れて半泣き状態。一緒に連れて帰る暁君に、『おっちゃんとオバチャン遅い!』と、えらい怒られたり。
ということでお詫びに今日は外で外食。姫ちゃんと暁クンの好きなピザとパスタ料理店でご馳走など。帰りはちょっとゲームセンターで遊んで帰ったり。これでやっと姫ちゃんもご機嫌直してくれた。やれやれである。ってか、フェルさんが意外にハマって、親子一緒にキャイキャイやってて微笑ましい姿。
暁クンは、今現在シンシエ夫妻が惑星イルナットに出張中なので、今日は柏木の家でお泊りである。仲の良い姫迦と一緒にお泊りできて嬉しい暁クン。彼も姫迦同様に、任務で家を開ける事の多い親に代わって、いろんな人の世話になっていたりする。なもんで、姫迦も暁もこれでしっかり者だと有名だったりするのである……
* *
さて、所変わって、同じくヤルバーン州内の東京都ヤルバーン区。そこにある情報省本省内、総合諜報対応班。略して『総諜対』別名情報省MI-6。その意味は見てくれだけ妙に『あんなん』だったりするからであるからして……
それはともかく、そこに呼ばれるは月丘和輝にプリル・リズ・シャー。そしてシビア・ルーラ。
「いや月丘、ご苦労さん。急な事態だったが、なかなかよくやってくれた。成果には政府も満足してくれている」
「いえ白木班長。私としてはもっとスマートにできたと思っていますよ。ちょっと我ながら遺憾なところもありましたけどね」
もっと静かに処理できたのでは? とか、北の工作員に一時的とは言え抵抗できなかったとか、女工作員の方は、止む得ないとは言え見逃したとか、そんなところだ。
そもそもあの作戦自体、相当に練られて行われたような類の作戦ではなかった。国連内で起こった急な事件だったので、正直急遽の出たとこ勝負の作戦であったのは事実なのだ。
で、情報省からもたらされたその時の知り得る情報を出来るだけ分析して、犯人や、逃亡ルート等々割り出しに成功し、ヤル州から『海襲』を転送移送してもらったり等、これも可能な限りの体制をデッチあげて彼の国に対応した次第であったりする。
「まあいーじゃねーか。結果良ければ全て良しだ。まあ、あの国はまた『宣戦布告された』だの、『必ず報復する』だのぬかしてるけどな。『盗んだ』とまでは言ってなかったが、相当腹に据え兼ねたみたいだったぞ。おもしれーけど、ぶはは」
頭抱える月丘。白木は「とりあえずイチバチでやって、あそこまでやれるのは流石月丘だ」と褒め称えてたり。そして白木はシビアの方へ視線を向け。
「……それに今回は貴方に助けられたところ大だ。これからもこのような形でうまくやっていければお互いありがたいですな、シビア閣下」
『我々も同意である。此の度の作戦においては、緊急事態とはいえ、ツキオカ生体とプリ子生体との連携において評価できる結果が出た。今後もこのような連携が必要とされるのであれば、我々には積極的に協力する用意がある』
「それはどうもありがとうざいます」
と頭を垂れる白木。彼としても単純にゼスタールとの連携任務がうまくいったことを喜んでいるわけではない。すなわち、ゼスタールは地球社会との独自外交権がある状態なので、こういった共同作戦を通じてティ連の枠を出ない外交域に留めておくことを互いに認識しあう効果も狙っている。なんせシビアの個体一人が経験したことは、一瞬にしてゼスタール全体に認知されるような種族である。それだけシビア・ルーラという個体が重要な地位にある人物“達”だということでもあるわけだ。
「で、プリ子」
『は、はい? なんですかシラキ班長』
「ほいこれ、ご褒美」
『え?』
ポンと手渡された小箱。綺麗なデザインで、プリルもテレビや広域情報バンクで見たことあるデザイン。
『あ! これはっ!』
ニンマリでポソっと箱を開けてみると、昨今マスコミでも超有名な三ツ星パティシエが作った超高級モンブランとプリンにシュークリーム系のお菓子であった。
「あ、班長すみません。お代金は……」
月丘が白木を通じて、麗子に頼んでおいたお菓子という事。
「何言ってんだ月丘、俺のヨメだぞ。そんなケチくさい請求なんかするか。おごりだおごり」
「あ、そうですか、はは、申し訳ないです」
結局麗子のお世話になる月丘。ちょっと恥ずかしい。
「確か、シビア閣下はヨーグルトチーズケーキでしたな。合議体二人さんご所望のブルーベリーも用意しておきました。それもありますよ」
『あ……ひ、評価……あ、いや、“感謝”する……』
なんとなく頬染めてるシビア閣下。
「たくさん買ってきたんで、みんなで茶でもしましょうや。あ、月丘、外の美加ちゃんも呼んでやれ」
「はは、了解です。メイラさんの分も置いときませんとね。瀬戸部長も来るのかな?」
……とそんな感じでしばしのティータイム。ちなみに白木はモンブランで、月丘はプリンをいただいていたり。
と、ヨーグルトチーズケーキとブルーベリーチーズケーキを二つモグモグと頂くシビア閣下が切り出す話。
『……シラキ生体』
「ハイ何でしょう」
『我々の「外部生命体接触機関」設立の進捗を聞きたいと、我々の統制合議体から要請があった』
彼らの言う『統制合議体』とは、いうなれば『政府関係者』という意味に受け取れば良い。
「ああ、あの件ですな。ええ、東京都の平河町あたりに施設を用意しますので、そこを使ってください。近所にイゼイラの大使館もありますので、色々と便利は良いですよ」
なんとも日本の政治中枢にゼスタールの大使館ができるという次第。まあゼスタールさんは地球の施設取得の方法なんざ知らないので、そこは総諜対の予算で施設を購入。ゼスタールから諸々情報入手を対価に売却するという方策をとっている。
ちなみにイゼイラの大使館も、平河町に移築された。それはもちろんかつて大使館扱いだったヤルバーンが州自治体化したので、別途大使館施設は必要と当然相成るわけで、日本本土に移築したのである。建物自体は普通の日本風ビルディングっぽい施設で、中身以外は特にイゼイラ感はないという感じ。恐らくゼスさんとこの施設もそんな感じになるだろう。
『エ? じゃあ班長、真っ黒に赤い窓みたいなのがあるんじゃないんですかっ?』
「いやプリ子。どっかのヤクザのビルじゃないんだから」
と、そんな話を聞いて、頷くシビア。いつもの通り『大いに評価する』のお言葉を賜る……チーズケーキ2種類を食べ終わり、余ったシュークリームに手を出すシビア閣下。ほっぺにカスタードちょっとつけて、無表情ながら美味しそう。
「で、シビア閣下」
『シラキ生体』
「はい?」
『我々にその「閣下」という上級敬称は必要ない。一般的な言葉でよい』
「あ、はは、そうですか。ではシビアさん。例の、あなた方の本拠地……えっと、『ナーシャ・エンデ』でしたか。そこへ地球安保理事国と、ティ連代表に、ヤル州、んで、ウチら日本人連中がご招待受けてる話なんですけど……シビアさんが案内してくれる事になるんですかね?」
『肯定。そもそも現状、スールを要する主権体交渉が可能な合議体としてのカウサは、この場所にゲルナー司令と、我々シビア二つの合議体しか存在しない。他のカウサ合議体は主にほとんどが技術研究系である。ゲルナーは艦隊司令でもあり、この方面軍の統括である。従って我々が付いていくのが必然である』
「なるほど。では問題ないか……ということで月丘にプリ子。お前たちも日本代表団のスタッフとして、ゼスさんとこの本拠地に行ってくれ。もう手続きは済ませてある。名義上は外務省のスタッフ扱いだ」
「はい、昨日お聞きしたあの話ですね、了解です班長。プリちゃんもいいよな?」
『モチロンですっ! ワクワクですよ。次元溝に潜むゼスタールサンの拠点! いいですねぇ〜』
「いや、プリちゃん。探検に行くんじゃないんだから……」
ゼスタール人本拠地。次元溝の向こう側にある彼らの在るところ、『ナーシャ・エンデ』
そこに向かう日本側の護衛も兼ねた情報収集要因として。そして安保理各国も当然軍属にエージェントを同様に引き連れてくるであろうから、そやつらが無茶しないよう監視するための安保調査委員会依頼の監視任務も兼ねて、月丘とプリ子もそこへ向かう……
* *
ということで、諸氏……というには此度はよくよく考えればヤルバーンが地球にやってきて以降、一〇年以上が経過し、全くもって初めての国際的で大きな異星交流イベントとなるのが、今回のゼスタール本拠地『ナーシャ・エンデ』訪問。
何かの映画かSF作品なら、とっくの昔にこういう感じになって、世界が異星人と交流してメデタシメデタシとなってもいいものなのであろうが、実際はそんなに簡単な話ではない。
『なんで日本だけ?』とリベラルな連中は否定的な疑問を思い、保守層は肯定的な理由を探す。後に、日本に対する同様の理由で、サマルカが米国と交流を持ったという例外はできたが……
で、『宇宙は一家、人類は皆兄弟』と、どっかのモーターボートの会長が言った言葉ではないが、世界中の良識的な人々がそう思いたいのもわかるが、世の中すべての人が『ぬこ好き』なわけでもない。
この地球世界だけを見ても、肌の色で人間を区別し、いるかいないかわからない神様を信じる信じないで対立し、出生の違いで貴賤を区別する。そんな世界の『人類』が、普通に考えてすべての世界、人種、宗教、文化民族習慣の概念の上に立って、絶対的な中立で対等な対応など、普通に考えてできるはずがない。それは当たり前の話である。
だから、『トーラル文明』という、一種の因果運命の基準値で、『人種、宗教、文化民族習慣の概念』どころか、『種に種族の形状』まで違うティエルクマスカの『連合』された相互理解社会はスゴイのであって、そういった人々が経験してきた外交方針の一つ、『一極集中外交』の理念と、日本国への対応は極めて合理的であったのである。
だが……ここにきて『ゼスタール』という因子が加わった世界。
彼らは、当初、別段積極的に地球社会と友好的交流を持つために、地球人へ接近したというわけではない。
彼らの目的を達成するために、はっきり言えば地球人を『利用』したのだ。それ以上の物でもなければそれ以下のものでもない。
なので彼らは『地下』で、地球人の持たない『技術』を介して結果的に世界と交流を持った。
あるときは、ゼスタール人が擬態した、地球人の『技術者』であったり、『科学者』であったり、有名企業を騙る『技術設計データ』であったり……
そして、各地球社会の中枢も、彼らとの接触を極秘にした。
後に、異星人情報について、この世界で最も権威のある組織、『日本国情報省安保調査委員会』と、ゼスタールとの関係と影響を結果的に最も受けた『米国』との調整により、彼らの存在が世界へ公表され、その後、世界各国が次々とカミングアウトした形になって、意外にもゼスさんのやった、この『考えなしの地球世界浸透作戦』が、案外良い方向へ結果を出したわけで、更に後、和解後、ティエルクマスカ連合もこのゼスタールのやり方……というか『手口』を研究しようとかそんな話にもなってるわけで……
っと、そんな感じで『ナーシャ・エンデ』訪問当日。
なんだかんだで本日は、地球社会では一大イベントとなる日として記憶される今日となるだろう。
まあ『連合日本国』や、『とりあえず米国』は、実際のところもう慣れたものでそうでもないのだが、世界で行うイベントとなれば、まずまずお目出度い話で、日本も米国も、そのお祭り騒ぎは理解できる。
そして何より『連合日本国』と『ヤルバーン州』がこの地球世界で主導権をもって行うイベントでもあるわけで、恐らく戦後初の、『米国を第二の立場に従えて』行う国際イベントであって、よくよく考えたら失敗は許されない大イベントでもあったりする。
なので、日本の各省庁も総出で対応というヤツである。
さて、とある日の場所は日本国、福島県特危自衛隊双葉基地。この地が世界各国総出で、ゼスタール本拠地へお伺いする出発点となる。
そりゃもう近隣住民は今日のために何週間も前からイベントの準備をし、世界各国の人々をサミット並に歓迎して準備を行っていた。
今回はまず第一弾ということで、『調査代表団の訪問』という形、即ち各国の政府大使級の人材がゼスタールへ訪問するという事になっている。
だが、双葉基地周辺の高級ホテルには、世界各国の首脳級が、自国の代表団見送りのため、正に『国際サミット』よろしく、『常任理事国+3』。この『3』はもちろん日本とヤルバーン州とゼスタールである。
そんな感じの国際会議も前日から開催されていたりと、なかなかに有意義で国際政治な状況になっていたりする。
しかも地球社会でコレであるが、道中、一光年先の人工亜惑星『レグノス県』で、ティ連から指名されたティ連使節代表、惑星イルナットから帰還するパウル達とも合流する予定でもある。つまり、世界各国はティ連の代表となるエルフ提督とも外交交流できるわけであるから、もうそりゃヤルバーン飛来以降、最高の星間外交環境にある状態に遭遇できるわけであるからして。考えてみれば大変な事だ。
……ということで各国から選ばれた精鋭の顔ぶれはどんな方々か?
もちろんゼスタール本拠地へ向かう宇宙船舶艦艇は、日本の誇る『宇宙空母カグヤ』こと、『DDCVS-001 航宙機動汎用護衛母艦かぐや』である。これなら豪華客船並の内装を誇り、万が一への対応も可能な、言ってみれば『軍用戦闘豪華客船』でもあるので、これで行くのが一番良い。
……さて、この星間国際的な派遣イベント、どうなることか。
ゼスタール人本拠地、ナーシャ・エンデ訪問、波乱含みである……