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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
16/89

【第二章・ゼスタール】 第一五話 『技術冷戦』


 西暦二〇二云年。地球への新たな来訪者。かつてはティ連史上百数十年来、謎の敵として認識されていた『ガーグデーラ』と呼ばれていた存在。

 今は『ゼスタール合議体』という新たな種族として一〇〇年の邂逅とでもいうべき正体不明の殻を破り、やっとのことで互いを認識し合えたティ連と彼ら。

 地球もこれ例外ではなく、特に今やティエルクマスカ銀河連合の一員となった連合日本も、ティ連との外交上、ここまでに至る経緯として、このゼスタールとは戦火を交えた事もあったわけで……

 更には現在。地球に侵入……いや、彼らの言葉を借りれば、『調査』としてこの星にやってきて、一悶着も二悶着も起こして、なんだかんだと地球社会、世界全体に彼らの存在が、当初は『敵性組織』として知られてしまったこの時点において、日本国情報省・総諜対チームの月丘和輝や、プリル・リズ・シャー。IHDのクロード・イザリ他、ナヨ閣下にシエさん、リアッサさん等々お馴染みの人物達の活躍によって、ゼスタールの仮想生命体を司るコアを無傷で……言うなれば生け捕って捕虜にし、ナヨのトーラルシステムを間借りして、コアとの接触を図った……が、これが予想だにしないトンデモな存在であったという次第。

 この接触で、彼らが意外な事に極めて理知的で、実は残虐非道な悪の存在ではなく、複雑な種族としての歴史をもつ、我々と同じ立派な知的生命体だということが理解できたのだが、まあその存在自体がかなり特殊な存在であったわけなのだが、そこはもう今更説明の必要もないだろう。


 ということで、そんな前置きも踏まえた上での話……


 ここはヤルバーン州内にある『防衛省防衛装備庁 ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所』

このクソ長い名称を簡略すると、所謂みんなの『ヤル研』。

 現在はヤルバーン州の治外法権区から東京都の自治体『ヤルバーン区』となったその場所に本拠地を移して、さらに研究開発部門はヤルバーン州軍や防衛総省軍との連携もあるので、ヤルバーン州領内にそれを置いている現在のヤル研。

 トップはヤル研開発統括部長の沢渡耕平・出向三佐であり、オルカス監査局局長の旦那様。

 その沢渡。今、他の科学者や技術者スタッフ共に、皆して腕組んで首ひねり、『う~ん』と唸る。その表情は、まったくもって『どうしたもんかいな』モード。

 だが、シチュエーションとしては『ヤル研魂』に火がつく寸前だ……というのも、彼らが今目前にしている異様なモノ。それはなんと! 『対人ドーラと、対艦ドーラ』なのであった!!


 そのヒトデが直立したような不気味なデザイン。

 対人ドーラの方は、マニピュレーターが四肢で、脚部が二対。全高で約四~五メートルはある。

 対艦ドーラに至っては、脚部・マニピュレータ兼用のものが四肢あって、約15~16メートルはあろうか。その二体がヤル研で仁王立ちになって……まあ言ってみりゃ停止して飾ってある状態なのである。

 なんでこんなもんがヤル研にあるかというと……なんともまあ、シビアが今後のヂラールに対する連携も期待してという事で、『相互協力を前提として、我々の軍事力を一部開示する用意がある』という事で、早い話がヤル研にくれたワケであったりする。

 

「沢渡部長……あのシビアさんという方でしたっけ? 彼の人物が譲渡してくれたのは良いですが、どうしますよこれ……」


 そう、くれたのは良いがちょっと扱いに困っているヤル研の方々。現在、仮想骨格の上からモクズガニのような不規則なデザインの装甲板をひっつけている。即ち、仮想骨格が稼働しているワケで、コアのパワーはオン状態ということだ。


「あの~、あれだ……ブンデス社事件の時の。あの自律攻撃システムがひっついてたら、これ以上起動できないだろ。んな危なっかしいの、あのシビアの嬢ちゃん、よくもまあよりにもよってここに置いていってくれたなぁ……」

「え? いや、なんか分解状態のものを羽川急便で送りつけてきたって話ですが……」

「はあ!!?? な、ナニ? あ、いや、対人ドーラの方はアレだけど、対艦の方もか!?」

「え? ええ。えらいデカくて沢山の木枠の梱包で、みんな最初はなんだろうって話で……」


 なんとも豪気なシビア達。呆れ返る沢渡。だがこれではっきりしたことがある。

 もし月丘や柏木が知っているヒトガタと言われていたゼスタール人がシビア達だけなら、ドーラの一式を羽川急便で送りつけてくるなんてことは、まずありえない。ということは……


「つーことは……え? やっぱりまさか……」


 沢渡は顎の無精髭をいじりながら考える。やはり……


「ゼスタール人さん。地球世界に相当入り込んでいますねこりゃ……」

「ということだな。多分例の月にいる連中だろうな……なんとも遠慮なしだねぇ……」

「でも、大丈夫なんですかね? ほら、地球人に化けたら、大本をスールとかいうのにしちゃうとかなんとか……」

「その心配はもうないだろ。なんでもヤルバーン州がとりあえず独自に臨時安保同盟を締結したそうだから。適当な人物データを参考にして化けてるんじゃないの?」


 そう、その臨時安保同盟条約には、連合加盟国や、地球社会の人員に危害を加えない旨が書かれているのを、沢渡は知っていた。

 それでもなんとも効率最優先と言うか、後先考えてるのか考えてないのかよくわからんというか、ゼスタール人のやることはなんでもアリみたいな、そんなところ。


「んじゃ、何か? そのゼスタール人の地球潜入部隊かなにかの調査員が、どっかのアジトから対人対艦ドーラの部品一式を梱包して、ここの住所に送ったってわけ?」

「いや、そうとしか考えられんでしょうよ。ほれぇ」


 羽川急便の送り状をピラピラ見せるスタッフ。なんとも発送先の住所まで、ちょっとキタナ目の日本語で書かれていた。律儀な話だ。つまりこの発送先が現在のゼスタール人の活動拠点というワケだろう……どこかの倉庫を間借りしているらしい。家賃どうしてんのかなと。


「って、まあいいや。こっちの事は月丘君達に任せてだ、はあ、さてこのドーラ。どう扱おうか……」


 突っ立ってるドーラを撫でて、色々本体を眺め見る沢渡。


「仮想生命体兵器。つまり、生物の行動を擬態させた自律型のゼルロボット兵器……という理解ですが、私達は」

「その通りでいいんじゃないか? だが、ティ連のゼル造成型兵器と違うのは、ゼル技術がティ連より遅れてるので、ゼル造成のリソースが限られているところだな。従って、このドーラのゼル造成のレベルってのは、実際の所……」


 そう、リソースに限りがあるゼルシステムなので、仮想造成できているパーツは、武装・機械骨格部と動力部のみで、装甲やセンサーは本物の『物質』で出来ていた。だが、装甲は色々と戦ってきた敵の兵器兵装をパクって体にモクズガニのようにくっつけてるところもあるわけなので、格好でいえば、ゼスタールの感性がモロに出ているような……即ち所謂たかだか兵器、どんなデザインでもいいではないかという、そういった感性がにじみ出ているような、そんな兵器であるわけなのだ。


「なるほど……なら我々ヤル研がやることといえばただひとぉ~つ!」

「は、なんだ?」

「カッコよくするこゲホゲホゲホ、い、いや、有事の場合はティ連でも扱える兵器にゲフンゲフン……するデスよ」


 なにフェルサン語になってんだかと苦笑いな沢渡。でもまあ、せっかくなので、ドーラ、色々いじってみるかと。そんな感じの沢渡さんであったりして……

 どんな感じのにするか、早速今日は『瀬戸かつ』で会議である。

 ヤル研連中がいじり倒すドーラ。はてさて、どんなモノになりますやら……


    *    *


 と、地球ではそんなヤル研のアフ……一〇年後も変わらず優秀で無二の技術者集団が、今後の連合とゼスタールにとっての崇高な安全保障協力体制構築に尽力してたりするワケであるが、ここ惑星イルナットでは、もう一つの協力体制構築に努力しなければならない状況になっていた。


『……敵性体01の殲滅を開始する』


 突如、別宇宙の『惑星イルナット』へ現れたゼスタール人の『戦闘合議体0897・ネメア・ハモル』という、スタイル抜群の耳の尖った白髪ロングヘアーで褐色肌の女性。

 彼女は腕を後ろに組み、視線を左右に向けて自らの眷属である対人ドーラの配置を確認すると、顎で「行け」と合図するようなジェスチャーをとった瞬間、各対人ドーラは一斉に機械音を響かせながら動き出す。

 そのネメアを名乗るゼスタール人フリュに警戒するシャルリとメル。そりゃそうだろう。こんな多数の対人ドーラにいきなり囲まれたかと思った途端、今度は超絶別嬪さんの褐色ダークエルフみたいなのが現れたと思いきや、それが自ら『味方です』と仰る……そりゃ普通警戒もする。

 対物ライフルを造成してネメアに向けて構えるシャルリ。

 メルは、愛用の超斬馬刀を造成して、何気に下段の構え。

 だが、ネメアに指揮されたドーラ軍団は、そんな警戒するシャルリ達へ目もくれず、装備されたブラスター砲を、調査団を取り囲む植物型ヂラールヘ向けて一斉に掃射する。

 ブラスターは焼夷モードに設定されているようだ。命中したヂラールがたちまち炎焼し、周囲の植物に燃え広がり、更にその炎焼が別のヂラールへと伝播していく。

 ドーラの一体がヂラールへゼル端子を打ち込んだようだ……その個体はたちまち配線のようなゼル奴隷化独特の容姿に変化して、ネメアの支配下に入る。が、どうもネメアはその植物型ヂラール個体を使って、何か攻撃などの行為を行うつもりはないようである。どうも見たところ、捕獲したような感じ。

 ゼル奴隷化した植物型ヂラールは、一切の行動を停止させ、固まったような状態になっている。


 援軍に来た対人ドーラを操るネメアは、一通り周囲の植物型ヂラールを排除すると、回れ右して何事もなかったかのようにシャルリの下へと歩み寄る……


『シャルリ生体。現状の掃討作業で、この敵生体01の活動は抑えられるだろう。現状の落ち着いた状況で、今後の方針を合議したい』


 ポカーンと呆気にとられるシャルリ。いきなり大量の対人ドーラとともに現れて、周囲を焼夷ブラスターで焼け野原にして、これまた何事もなかったかのように、シャルリへ話しかけてくる。まあシャルリはいい。彼女もシビアがどんな存在か一応頭の中にデータとしてはある。なのでネメアの存在も理解はできる。実際彼女は『こりゃまた……』というような表情でネメアをなめるように眺める……同じフリュの彼女から見ても、こりゃナイスバディという奴だ。


『あ、アンタが、あのシビアのお仲間さんの……』

『肯定。シビア・ルーラは調査合議体である。現在は外交代表権限を与えられた「代表合議体」も兼ねているが』

『ああ、そうだね。んじゃそのアンタ達のそのネットワークかなんかで、アタシ達の事も一から説明しなくても……』

『肯定。理解している……シャルリ・サンドゥーラ生体。生命体0505・固有種族名称カイラス』

『OK。とりあえず味方……ってことでいいんだよね?』

『とりあえず? ……その言葉、一時的な同盟という意味であれば否定。現在、ヤルバーン州行政体とは暫定的な臨時同盟関係にはあるが、この『臨時』状態も、現行早期に関係を構築するための仮処置である。従って今後の会合、協議が進めば、ヤルバーン州、及びニホン国とは、早期に恒久的、かつ、正式な同盟関係が構築されるものと考えている』

『ってことは、アンタ達とは正式に終戦ってことでいいんだね?』

『終戦? その意味が理解不能。我々は最初からお前達に宣戦布告行為などは行っていない。どうもその齟齬が我々との……』


 シャルリは柏木や智子の報告書を思いだす。そもそもこのゼスタール人が、ティ連と戦争しているという意識がないという、あの話である。

 シャルリは手を前後に振り、『ああ、わかったわかった』とジェスチャーすると、ネメアもその口を閉じた。

 だが二人のやり取りをポカン顔で聞いている人物を一人ほったらかしにしているのをシャルリは思い出す。


『ああメル、ゴメンゴメン。もうその剣、構えを解いていいよ。この褐色のお姉さん、味方だから』

『でででも師匠! あの機械生物、マルマに以前教えてもらった「がーぐでーら・どーら」っていうのに……』


 頭をモシャモシャするシャルリ。こりゃ説明にまたヒマかかるなと。だけどそれも仕方ない。なんせ知らない人間に物を教えるということは一番労力を必要とする作業の一つだからである。そこはそういうものだ。


『ネメアとかいったね、アンタも手伝いなよ……それでなくてもここのみんなにアンタ達みたいな存在を説明するの、厄介なんだから』


 そんな事を言いながら、手を差し出すシャルリ。ティ連式の挨拶をしようと思ったが、もう彼女も地球にいるのが長いので、反射的に地球式握手の手を差し出す。

 だが、ネメアは何の疑問を持たずに、その握手の手を握り返す。もう地球式のコミニュケーションもゼスタールには行き渡っているようだ。これもリヒャルトや、何人かの日本人スール達が、ゼスタール合議体に知識を教えた影響だろうか? 


『了解した。可能な限り善処する……』


 ということで、後続のティ連調査局チームも新たに編成しなおされてデロニカで惑星イルナットに降下してきた。

 その後、ゼスタールのチームも対人ドーラに続いて、対艦ドーラも三機ほどデロニカの護衛につくような感じで降下してきたようで、ティ連のデルゲード型ロボットスーツに、最近ティ連でも採用が始まったという『ヤル研』製中型機動兵器『19式機甲騎兵』所謂『19式コマンドトルーパー』も何機か見えた。

 なんでも大型機動兵器とロボットスーツの中間的大きさの機動兵器ということで使い勝手が良く、ティ連でも人気のある機動兵器となっているそうである。

 といったような、それまでならこの機動兵器の構図なら、絶対にドンパチが始まっていたその絵柄ではあるが、今や仲良く同じ場所に整列して待機している機動兵器達。そこにハイラ王国制式採用の『18式自動甲騎』のホースローダーを装着したパイラ号達ボルダが轡を並べる。

 丁度ネメア配下の対人ドーラ部隊が焼け野原にしたこの場所が、前線調査基地を作るのにちょうどいいということで、仮設の基地施設をティ連側がハイクァーンで建築中となった……そのハイクァーンで施設建築する樣子を眺めるネメア。


『どしたいネメアの姉さんよ。ウチらの建設作業がそんなに珍しいのかい?』


 とネメアへ話すシャルリ。だがシャルリはネメアがティ連のハイクァーンに興味があることをわかっててそんな事を尋ねてみる。それはそうだ。彼らガーグデーラと呼ばれたゼスタールとティ連が戦闘をしていた頃、ゼスタールの『調査目標』の一つが、このティ連のハイクァーン造成装置であった訳であるからして。


『この物質造成装置は、やはり我々の「レ・ゼスタ」から引き出した物質造成機能と比較して、格段に高度なもののようだな……』

『はっはっは、どうだい、羨ましいかい?』

『肯定。我々はこの装置を入手したい。今回、ゼスタールとヤルバーン行政体、及び星団主権体999001との交渉が生産的結果を引き出すことができれば、我々も本機器の提供を受けることができるようになっている』

『なるほどね。んじゃ、ニホンにいるシビア達に頑張ってもらわなきゃってところかい?』

『肯定』


 ネメアの背中をポンポンと叩くシャルリ。カイラス人はフランクな性格の人間が多いので、なんとなくネメアともこんな感じで話し相手になってしまう。ま、シャルリもこういう点、得な性格の持ち主である。

 先程メルともネメアは挨拶をすませた。その時でも、ネメアは『我々はネメア・ハモルである。認識せよ』といった物言いなもんだから、正直メルちゃんは『なんなんだこの女は』と思ったそうである。そりゃそうだろう、こんなデータ人格生命体で、情緒が欠落したような存在など、本来中身はハイラ人のメルから見れば、不思議な存在以外の何物でもない。しかも母から聞いたメルにしてみればおとぎ話に近いイゼイラやティ連の話にでてくる『悪者設定』の連中であるからして、そりゃ相当に訝しがりもすれば、興味もあるといったところであろう。それはメルに限らず、ハイラ人近衛騎士団みんなそうであった。

 まあただ、それでも援軍で到着してくれたネメア達であるからして、そこは評価できるし、ハイラ人はドーラと戦ったことなんかないので、直接的な敵愾心もない。そこはゼスタールからみても、助かっているところではあるのは確かだが。


 ということで、カンカンと金属製の鍋を叩く音がする。


『みんな~! ごはんできたよ~』


 どうもメルが騎士団の部下と一緒にメシの支度をしていたようだ。なんともまあもう言うまでもなく『カレーライス』である。もう宇宙どころか別宇宙にまで進出し、メジャーになったカレーライス。ハイラ王国でも昨今、新たな家庭の味として定着しつつあったり。

 

『お? この匂いはカレーだね、こりゃ美味そうな匂いだよ。ネメア、アンタ達は食事ってできるのかい?』

『肯定。有機物を経口摂取することで、それらを分解し、エネルギーに変換する機能を有している』

『味は?』

『データベースに登録されている。不快な味覚要素、肯定できる味覚要素の分別はつく。それは我々の目指す将来において、大事な事である』

『ああ、そうだったね。聞いているよ、そこんところは……っと、まあ何にしても物を食えるんなら、食っときなよ。あのカレーってのはうまいから』

『肯定。シビア・ルーラの情報にも、極めて肯定的な味覚要素の情報として登録がある』


 やっぱりシビアもカレーはうまかったらしい。なるほど、おかわりした理由がここでわかったり。


 ……と、とりあえずネメアというゼスタール人ともなんとか良い共同作戦体制が取れそうな感じで、この惑星イルナットの本格調査体制を整えるシャルリ達。

 先程この惑星の研究施設跡らしき施設で採取したヂラールの新種サンプルと、ネメアがゼル端子をブチ込んで捕縛した植物型ヂラールの個体は、冷凍保存してそのまま巡航艦の方へ転送し、厳重な保管体制のもと、研究者達に引き渡された。

 ティ連巡航艦の方には、別のゼスタール人合議体……科学者系の合議体存在が招待されて、共同で調査を行うということになっているという話。

 シャルリ達は引き続きこの惑星イルナットの廃墟都市の調査を続行し、この都市に住んでいた種族の生活様式や、ヂラールに関連する調査等々を続行する任務を担うということになる。そしてその情報は、逐一ティ連本部や、ヤルバーン州と日本政府に報告される手はずになっている。

 ここでの調査はじつのところそういった意味で非常に重要なところであるワケなので、シャルリやメル、そしてネメア達の活躍に期待したいところ大なわけなのであるのだ……


    *    *


 さて、所変わって太陽系第三惑星・地球。

 急遽、月のゼスタール基地から帰還した瀬戸智子達の尋常ならざる報告を聞いた柏木真人防衛総省長官は、即座に彼の権能としてヴェルデオ・ゼルエ・サイヴァルとの協議の上、シャルリを、惑星イルナットへの調査団として送り込む決断をした。やはりこういう決断はもうこの手の仕事をやって一〇年にもなれば、相応に格好のつくことはできるようになるものである。

 次に柏木が要請したのは、日本政府を通じて地球世界各国への、今回の件で月に居座ってしまったゼスタール艦隊の取扱いである。

 現在、この月に居座って基地も造ってしまったゼスタール艦隊の現状は、事の詳細はわからないまでも、各国が持つ宇宙探査技術の能力の範疇で、月の裏側にあるゼスタール基地と、軌道上の艦隊の様子は把握できてはいるのであった。


○アメリカ航空宇宙局(NASA)

○フランス国立宇宙研究センター

○中国国家航天局

○ロシア・国営ロスコスモス社(旧ロシア宇宙局)

○カナダ宇宙庁

○英国宇宙局

○ドイツ航空宇宙センター


 ざっと見積もっても、世界主要先進国には、このような研究開発機関もあるわけで、各国連携できるところは連携して資料のやりとりもあったりの話なので、割と月のゼスタール基地に関しては、日本以外の世界各国、案外正確にその規模を把握していたりするのである。

 実際ロケットを自前で発射できる国は、月軌道めがけて衛星を飛ばしていたりするのであるが、月軌道のゼスタール艦隊から特に妨害行為などもなく、今やゼスタール艦隊の存在は世界規模で知られるとことではあるのであった。


 だが、ここで問題なのは、ゼスタールはガーグデーラと呼称されてたわけであるからして、実のところ現在の地球から見れば、完全な第三勢力なわけである。

 ナヨや月丘、プリ子にクロード達の、かの国連での活躍によってシビアを捉え、そして彼女がゼスタールの大使に選ばれ、そういった経緯があっての話で、今日本とヤルバーン州……しいえていえばイゼイラ共和国と接触を持てている状態というところなのだが、現状を正確に表現すると、地球世界各国にもこのゼスタールと交渉をする権利が現在あるのが実情なのである。日本も含んだティ連の交渉権独占という状態ではないのだ……正直ここが困った話。

 ゼスタールとしても、別にティ連だけとしか付き合っちゃダメなんて縛りをかけられているわけではないので、まあ言ってみれば接触さえできれば、どこの国とも交渉はOK状態なのである。

 ゼスタールへ誰も強制できるわけでなし、彼らゼスタールも今までの経緯で考えれば、充分ティ連に対抗できうる軍事力も保有しているので、ティ連の連合憲章を振りかざしたって意味がない。

 ……なので……


「ちゅーこって月丘君。じつのところそういった問題点もあっての話で、ゼスタールと、とりあえず緊急でヤルバーン州との間で、臨時同盟条約を締結してもらったという次第だよ」


 丁度、東京都ヤルバーン区の情報省本省、安保調査委員会本部局にやってきていた柏木真人長官閣下。実働主力諜報要員の月丘とプリルを呼んで、そんな話。

 白木内務局局長兼、総諜対班長も……


「日本政府の方じゃ、まあこれまたスッタモンダともめててな。ヂラールの件じゃこれまた連合憲章や二藤部政権時に制定した、新安保法そっちのけで伝家の宝刀『平和尊守の精神論』で、まあいつもの前座芸やってるってところだ。どうせ決まる事は決まるんだからもっと素直にやれっつんだけどなぁ……」


 苦笑いの白木班長。二藤部情報大臣にフェル外務大臣。春日総理に対する野党の追求とかいう伝統芸能はこの時代も脈々と受け継がれているようで、残念なのか立派なのかという話。


「……ということでな月丘。まあヤルバーン州独自の同盟条約なので、現在まだティ連全体への適用にはなっていないんだが、とりあえずはゼスタールさんのツナギはヴェルデオ知事が先手を打ってくれた。ここんところは流石かの御大だよ。伊達に元ティ連全権大使やってねーってところだな」

「ええ、そうですね。では私とプリちゃんは、例の人員交流案件の件で……」


 ……と、話を進めようとしたところ、部屋にいたスタッフがにわかに騒ぎ出したり……何かちょっとした有名人が、安保調査委員会本部局のこの部屋へ入ってきたようである。


「! こ、これは!」


 思わず席を立ち上がる柏木。大きく頭を垂れる。白木もつられて「これはこれは」と。


「よう、柏木先生、白木君。久しぶりだな。元気してたか?」


 なんと、御年八〇歳超えの、元外務大臣兼副総理の『三島太郎』であった。

 だが、八〇歳超えてるとは言え、その渋さは未だ健在。年齢を感じさせないソレは流石といったところ。

 現在の三島は『株式会社三島グループ』の最高経営顧問であり、『財団法人三島・ティ連研究会』の理事長である。勿論この情報省安保調査委員会、民間登録委員でもある。現在も自保党所属であるのは変わらず。 

 

 柏木は三島へ上座の席を譲り、そこへ誘って彼を着席させる。そこは柏木にとっても特別な関係にある人物であるからして、礼儀と言うやつである。

 白木の部下が、すぐさま茶なんぞを淹れて差し出す。三島は遠慮なくその茶に口を付けつつ一声。


「ズ……でよ先生、嫁さんはよ」

「はい、お聞きになっているとは思いますが、例の件の国会対策で二藤部大臣と、春日総理と、まあ連日ってところですね。忙しいみたいです。私は今このように日本政府の人間ではありませんので……まあ連合側の立場から色々と政府のフォローに回っている感じですね」

「なるほどね……おいらもナヨ閣下がガーグ某を生け捕りにしたってこと聞いただけで驚いたけど、まさかあんなとんでもない種族さんだったとはな。SF小説にでもなりそうな感じじゃねーかい。でもって、そいつがあのヂラール……だったか? あれと関係あるとはよ……」


 三島の頭脳はまだまだ健在。ガーグにヂラールとそんな言葉がスイスイと出て来る。


「ええ。それにそのガーグ、あいえ、元ガーグデーラのゼスタール人さんですが……外交的にいえば、全くのフリーな種族になります。まあ言い換えればこの地球に来訪した新たな異星人といったところですが、いかんせんティ連の元敵性体というのもありーの、地球世界の国家にちょっかいかけーので、色々複雑なんですよ、状況が……」

「ああ、そこんところも二藤部先生から聞いてるぜ。で、彼から俺っちに柏木先生や、白木君達情報省の参謀やってくんねーかって、そんな相談も受けてな。ここまでやってきた次第っちゅうわけよ。まあ俺の経験が役に立つんなら、遠慮せずに使ってくれよ」

「はい、ありがとうございます。助かります」


 ということで、現在この件の主要閣僚は、フェルも含めたみんなが極めて多忙であるため、とりあえず自保党党員でもある三島に出張ってきてもらったという事である。こういう場合、所謂百科事典代わりに年の功な人物が一人老婆心的にいたほうがいいものなのである。まあ居すぎると『老害』というヤツになるのではあるが。


 それはともかく、今日はなぜに三島のような御老体を呼んでまでして会合をやっているかというと……


「白木局長。例の方々がお見えになりました」


 と情報省スタッフ。


「そうか、わかった。通してくれ」


 情報省スタッフに誘われて平手で会議室に入室してくるは、ナヨ閣下であった。


『おお、これはこれはファーダ・ミシマ。お久しゅうございますね』


 ナヨ閣下が久しぶりに会う三島を見て顔を綻ばせる。


「ナヨ閣下も相変わらずお美しいですな」

『ウフフ、世辞でも嬉しいですよ』


 と握手なんぞ。で、そして……ナヨが引率する三島にとってはお初の顔。無論それは……


『ミシマ、彼女がもう聞いておると思いますが……』

「ええ、ナヨ閣下」


 するとすかさずナヨの傍らにいる少女風の風体な人物は……


『我々はシビア・ルーラ、ゼスタール代表合議体である。認識せよ』


 といつもの感じ。三島ももう話には聞いているので、例の三島スマイルで自己紹介。握手を求めると、シビアもそれに応じる。


『ミシマ・タロウ生体。提供された資料によれば、生命体0303における、かつての政府主要閣僚と認識しているが相違ないか?』

「ええ、その通りですよ、シビア大使閣下」


 いきなりシビアが本題に入りそうだったので、「んな立ちんぼで話さなくても……」

 と柏木が席へ座れと促す。

 ということで、さて本題というわけで、今回なぜにこの場に三島を呼びつけたかというと、彼女達の日本における『受け入れ先』つまり身元保証組織として三島グループが実質管理する公益財団法人『財団法人三島・ティ連研究会』に、その身元を預けようという話に相成ったわけであったりする。


 ではなぜにそうなったかというと、現在仮処置としてシビア個人で言えば、ナヨが身元保証人になっているが、今現在では月にゼスタールの基地ができ、ここにきて組織的なゼスタールとの交流が前提となっている。

 で、組織的な交流、即ち国交となると、ティ連規模ではまだ若干難しいところがある。なぜなら当たり前の話ではあるが、彼らは一〇〇年間交戦していたわけだからだ。まあこの『交戦』という互いの認識にも相当な齟齬が未だにあるようなのだが、そこを理解し合うにも相応の時間が恐らくかかるだろう。

 では現状ゼスタールと利害関係が希薄な国家は何処かというと、連合日本か、地球世界各国しか無い。ヤルバーン州も実質自治国ではあるが、それでもかの州はティ連イゼイラ所属の国家であるのは違いないわけで、そこはイゼイラの法令下にある国だ。

 では日本もティ連国家ではないかという話になるわけだが、日本はここ一〇年で加盟した新参国でもあるし、ティ連のゼスタールと確執のある国家ほどの関係があるわけではない。つまり窓口にはなれるのだ。

 だが、日本はご存知の通り、かのめんどくさい憲法の残滓がまだ残っており、これもおおっぴらにゼスタールとすぐに国交を持つというわけにもいかない。

 地球社会でも交戦国とは『講和条約→平和条約』という過程を踏んでの正式な国交が結ばれるわけであって、ロシアとも最近までは体裁上交戦国だったのが日本だ。

 だが、そんな表向きのルールとは別に、地球世界も水面下でゼスタールと接触を図ろうという試みが、世界各国であるのは事実で、実際接触があったからこそ、ブンデス社の事件があったり、香港での事件があったりするわけである。

 実際、情報省が把握していない案件も含めると、恐らくこれだけではないのだろう。これは先のヤル研へ羽川急便で送られてきたドーラコアパーツを見ても明らかである。即ち、ゼスタールはこのような所謂『浸透作戦』を得意とする種族であることがはっきりわかった……でも、あんな性格の種族なので、基本とっても真面目。なので知ってる人が見たらすぐバレる。即ち、案外意外と接触し易いというわけで、各国情報部もそれらしい連中は恐らく把握しているのだろうと容易に想像がつくという次第。


 まあそんなところで、まだまだ日本国内としてもおおっぴらにできない存在ではあるので、ここで三島の財団法人が、ゼスタール人の日本における、とりあえずの非公式受け入れ先になってくれたという次第なのである。

 やはりこういうところは、かつての盟友ありきといった感じである。


『ということです。宜しくお願い致します、ファーダ、ミシマ』

「わかりました、ナヨ閣下。んじゃそういうこって、シビアちゃ……じゃなかった。シビア大使。お宅らのお仲間が日本やヤルバーンで何か活動したい時は、俺っちの組織を通してくれれば、色々と便宜を図らせてもらいますよ。これは非公式だけど、政府とも話は付けている」


 するとシビアも頷いて、


『ニホン国行政体の諸々準備作業を高く評価する。では、我々は今後、ミシマ生体の組織を利用して、合法的にこの惑星「チキュウ」の調査を行う。従って、現在このチキュウ世界で活動するカルバレータの状況は、全てミシマの組織へ報告する。これで問題ないか?』


 すると白木が、


「ええ、それでとりあえず現状は結構です。まあそういう形で互いの状況を把握できるようにしておいて……」


 と白木が柏木へ目配せすると、


「ああ、まずはティ連主要各国との講和だな……本部が一括して講和を任せてくれるようにサイヴァル連合議長が根回ししてくれているけど、まー……なんつーか、ゼスタールさんところに手痛い目に遭った連合の国家への説得もあるから、ちと、色々時間はかかるわな」


 と柏木が説明すると、白木もウンウンと頷く。三島やナヨ閣下も同じ感じ。


『モシ、連合内でなかなかまとまらない何か事由があれば、妾が直接出向いて、気合を入れてやらねばならぬ場合があるやもしれませぬね』


 フンヌという顔をして、腕組むナヨさん。やはり創造主の威厳はゴネる奴に対する最終手段かと。

 まあでも、ティ連の結束は万年規模の実績がある。一〇〇年の問題とは言え、逆に言えばたかだか一〇〇年の事件だ。まあ、大丈夫だろうというナヨさんの推測。


 ……ということで、とりあえずはシビアを通じた仮状態ではあるが、国交を日本を出島にして、ゼスタールと関係を保持することができた柏木。

 ナヨが日本で復活した事や、この銀河系での活発な活動をするティ連勢を調査するのが目的で、ゼスタールがこの地球に侵入してきた事など、そんな諸々が絡み合った結果の場所がこの日本で、更には何の因果か、事が『ヂラール』がらみとわかってしまった今。

 結果論だが、案外これで良かったのでは思う柏木。

 なぜなら恐らく日本というファクターがない状態で、ティ連とゼスタールの諸問題を解決するには、それまでの経緯を見ても相当な長い時間と、不毛な消耗を続けながら、もしかすると、どちらかの決定的な弱体化が伴っての解決になって……その後のヂラールの危機を知ることが遅れてしまった可能性は十分にある。

 だが実際のところ、全くとは言わないまでも、ほぼ第三者の日本―地球と、ナヨがいたおかげで、ワンクッション置いてゼスタールとティ連は最悪の事態を回避して、互いの存在を認識し合えた……


 地球の外交史でもこういうことは良くあった。

 例えば国交のない国で、更には敵対関係、仮想敵国同士の話し合いが、全く無関係中立か、ないしは、どちらとも友好的国交のある第三国で行われ、所々の問題が話し合われて解決に結びつくという話はよくあることだ。

 此度のゼスタール問題でも幸運だったのが、互いにその倫理感や文化生活、そして存在の概念があまりにも違いすぎたための齟齬以外は、結果的に両者極めて理性的な存在同士であったために、連合の新入り国家日本を通じて、このような安定状況までなんとか持ち込めたというところもある。


 だが、事はヂラールの絡む話がくっついてくる。早々のんびりともしていられないというわけで、地球世界各国とのある程度の連携も必要にはなってくる。


 だが、問題はここなのである……


 何度も言うが、ゼスタールは、外交上極めてフリーな立場であることを忘れてはならないのだ。

 実際、先のゼスタール基地訪問に際しても、クロードはフランスを中心にしたEU諸国から『アルバイト』の依頼を受け、国連安保理はダリルを国連権限の調査員として派遣した……ゼスタールが『かまわない』というのであれば、ヤルバーン州や日本も、無下には出来ない。むしろ国連安保理を蚊帳の外にすれば、『良いっていってるのに何で連れてこないのだ?』と、ゼスタール側から不審に思われてしまう。それはそれでティ連としてもマズイものがある。

 とりあえず現状ゼスタールとまともに相手できるのは、ヤルバーン州と連合日本だけであるから、基本この二国を通さなければならないというアドバンテージがある分、まだ救われてはいるのではあるが……


「でだ月丘にプリ子、話を戻すが……」


 三島が途中入場してきて、話がぶった切られたので、最初の話に戻す白木。


「ええ、人員交流の件ですね」

『ですです』

「おう。まあ三島先生の件も関係ないわけじゃないんだが、シビア大使をな……なんと、総諜対の人員に加えることになった」

「…………は???…………」

『へ?????…………』


 顔を歪めて、最大限の『??』マークを頭に灯す月丘とプリル。


「いやいやいやいや、総諜対の人員って、シビアさんは大使さんでしょ? 白木さん。そんな人を諜報員にって、聞いたことないですよ!」


 すると、横で聞いてたシビアが、


『ツキオカ生体。我々はスール合議体である。従って、シビア・ルーラは特定の職能でしか稼働できないというわけではない。合議体編成を諜報活動に構成しなおせば、お前達との連携行動は可能だ』


 えええ? という顔する月丘。


「いやでも、大使閣下を……まいってみればスパイってわけですし……」

「何言ってんだ。戦時中に大使や領事がスパイなんて普通だろお前」

「いやいやいや、そんなのと一緒にしちゃ……」


 ここがシビア達『合議体』と呼ばれるスールな方々のスゴイところ。

 合議体編成を変えれば、政治家と諜報員を兼用もできる。なんとも便利な種族だと思う月丘。


「まあ、此度総諜対のお手伝いをシビア大使さんにしてもらうのも意味があってな。さっきも言ったけど、現在なんだかんだで世界中にゼスタールさんのカルバレータ……ってのか? それがスール型から、人工知能の自律型まで結構地球社会に浸透してるんだわ。で、今回の協力体制で、世界で活動しているゼスタールさんをシビア大使が教えてくれるっつーんで、ま、三島先生の財団法人が、ゼスタールさん活動拠点の中央になってもらって、総諜対と連携でな、色々諜報活動やろうって事になったってワケよ」


 白木の話に柏木が割って入って、


「実は……ティ連でも、そろそろ地球社会全体の技術格差を埋めていこうかという話も出てきてるんだよ」

「そうなのですか」

「うん……って言っても例のヂラールの存在が、この宇宙にも関連してきたという事実がわかったからなんだけどな。で、ゼスタールさんとヂラールとの現在の状況も今後色々聞き取っていかなきゃならんわけだし、そろそろこの星『地球』でも、日本だけ……っちゅーわけにはいかなくなってきたわけだよ」


 再び白木が、


「でな、まあ今色々調べてみても、ゼスタールさんの技術が結構もう主要各国に流れてるという現状がある」


 確かにそれはそうである。特にブンデス社の一件では、新型機動戦車という実績で既に形になって出来てしまっている。もしゼスタールが地球社会に対し、好意的に関与しだせば、そのコアとなる自律制御システムのノウハウも渡してしまう可能性も大なのである。


「ああ、白木、そこからは俺が説明するよ」

「おう」

「うん、で、サイヴァル連合議長や、いろんなティ連各国の首脳と色々話をしたんだけど、我々ティ連の一極集中外交は現状を維持して、この際ゼスタールさんとこの独自技術が地球世界に流れる事に関しては、黙認しようという結論になったんだ」


 この言葉に「エッ!」『えええ!』と驚く月丘にプリル。


『い、いや! んじゃあのゼル端子の技術もですかっ!?』


 とプリルが言うと、すかさずシビアが、


『いや、それは対象外だ』とフォロー。『あ、やっぱり?』と安心する二人。


「で、月丘とプリ子と、あとシビア大使の三人は今後チームを組んでもらいたい」

「え!? シビア閣下もですか! 局長」

「ああ。今後のお前達は、このゼスタール技術が良からぬ方向に行くことを監視するのが任務だ。もし、必要以上の目的で使用されている事がわかったら……どこの国だろうがかまわん。その技術を潰せ」


 強烈、かつ本気の白木の一言。

 その言葉に目尻が鋭くなる月丘にプリル。シビアはいつもの表情。


 結局、シビア達ゼスタール人が、当初のヤルバーン侵入を目的とした地球社会の工業インフラ浸透作戦のコネクションをそのまま地球社会の技術昇華に利用しようという腹なのである。

 なぜこんな事をするかといえば、もし、ティ連が直接関与して『ハイ技術をあげちゃいます』とやれば、必ず現状の日本と同レベルのものを供与しないと争いが起こる。

 だが、ゼスタールが幸いな事に水面下で『彼ら』の技術を地球世界に浸透させているのであれば、その技術を取得しようと努力するのは、世界各国であり、ティ連は基本知らんふりをできる。しかもその状況を三島の組織を通じて、ゼスタールと共に把握していれば、ある程度のコントロールも可能だ。

 基本、ゼスタールの技術体系は、『次元溝潜伏技術』や、『ゼル端子兵器』以外は、ティ連よりは遅れている技術である。その点も安心材料である。

 だが、地球人もコレ、誇るべき『発達過程文明人』であるからして、ゼスタールの技術を取得し、思わぬ方向へ技術の発展が向かうかもしれない。それが悪しき方向であれば、そんなものは無きものにする必要も出てくる……そこで活躍するのが月丘達という次第である。


「なるほど、了解いたしました。でも例外は米国ですね」

「そこは米国もサマルカさんとの協定もあるしな。向こうはサマルカさんに任せておけば大丈夫だ」

「了解です」


 今回のこのような一極集中外交をかなり緩和するような処置をティ連本部が施したのも、やはりヂラールの存在あっての話でなのである。

 とにもかくにも、ゼスタールの件と、彼らがもたらしたヂラールの危機。これはヂラールの存在を既に知っている地球社会にとっても、無視するわけにはいかないわけで、直接的な危機が今はないとしても、それを世界各国は『技術格差縮小交渉』の題材として、使うわけである……


    *    *


 ……ということで、そんな感じで、そんな日々も過ぎ、かのゼスタール基地訪問から一ヶ月が過ぎたある日。

 ここは再び例の別宇宙、『惑星イルナット』


 衛星軌道上には、当初の巡航艦一隻、ゼスタール母艦数隻から集結する艦隊はかなり大規模になり、ゼスタール科学調査艦に、同じくティ連の都市型科学調査艦、そして更にはティ連艦隊の一員として、連合日本から機動重護衛艦『ふそう』の二番艦『やましろ』がティ連艦隊の中に混ざっていた。


 現行、この惑星イルナットに所謂『植物型ヂラール』と呼称される個体が存在していたのが重要視され、ティ連科学調査艦隊と、ゼスタールのヂラール対策合議体艦隊が増派されて、本惑星の本格的調査が行われていた。

 当然、その中にはティ連側のヂラール専門家として特危自衛隊も加わるのは当然ということで、当時かの『ヂラール攻防戦』に参加した主要メンバーが、今この惑星イルナットに派遣されていた……


 ということで、イルナット件の軍事研究施設跡へ大規模に建設された、ティ連―ゼスタール共同調査作戦基地。

 今や例の対人ドーラとティ連のロボットスーツ『デルゲード』が仲良く作業するといった、それまでなら想像もつかない状況が展開されていた。

 そんな中、大規模に建設された本格的な転送ステーションの前で待つシャルリとメルフェリア。

 しばし待つと、大きく数本の光柱が立ち昇り、そこから現れるは……


『やあ! みんな、待ってたよ!』とシャルリ。

『うひゃー! みんなお久しぶり〜』とぴょんぴょん跳ねて手を振るはメル。


 軌道上から転送されてきたのは……


「どうもご苦労様です、シャルリ大佐。メル君も久しぶりですな。王女殿下とお呼びしたほうがいいのかな?」

『マ、相変ワラズノヨウデ安心ダ、フハハ。メルモ元気ソウデ何ヨリダ』


 と握手するは、特危自衛隊陸上科司令の大見健一佐に、副司令のリアッサ一佐。流石に今のメル相手には敬語を使わないと不敬に当たると思う大見だが、メルは相変わらず大見もリアッサも『師匠』である。


『久シブリノ現場ダ。ヤハリコノ空気ガイイ』

「ああ、って、なんかこんなトンデモな場所の方が良いって言う俺も、地球人からしちゃ妙な感覚なんだがな」

『アカツキモ、ソロソロコウイウ場所デ教育ヲダナ』

「いやシエ、そりゃまだ早いって」


 と、んな事言いながらのご登場は、特危航空宙間科司令に副司令の多川信次と詩絵シエ夫妻。シャルリにメルと抱き合って、特にメルとは久しぶりの対面を喜び合う。

 特にシエはメルが成長して出るところ出てるのをからかってたり。モニュモニュして多川に制止されている構図。


 ということでかの時のヂラール攻防戦での現場指揮官のご来訪である。

 地球での特危隊指揮は、久保田にリアッサの旦那の樫本と、優秀な士官がいるので、今回は彼らに代行を任せているという次第。


『でさオオミの旦那。軌道上の「ヤマシロ」艦長は誰なんだい?』


 と、問うはシャルリ。実は現在『やましろ』の艦長は、ずっと暫定で正式な艦長が就任していなかったのだ。理由は簡単。それだけ航宙艦艇の艦長になるのは難しいということ。人材不足状態は未だに続いているのが特危自衛隊。

「ええ、前職の暫定で就任してくれていたダストール人艦長が異動になりましてね。ニヨッタ二佐が新任で艦長になりました」

『本当かい! はは、あの人もやっとこさ自分の艦を持てたって感じだね』

「はは、そうですな。ティラス艦長は、優秀な副長がいなくなったと寂しさ半分でしたけどね。まあでもかつて一度ティラス艦長の副長を臨時でやったこともあるホムス三佐が代わりに就任してくれて、安心してましたけど」

『ホムスかい、懐かしいねぇ』

「ま、懐かしいといっちゃ懐かしいですけど。それだけ特危の正規隊員が慢性的に不足してるって事ですよ、はは。彼も一応本部からの出向ですから」


 と、そんな話……で、あちゃらでは……


『オマエガ、ゼスタール側ノ指揮官カ?』


 シエが話しかけるは、ネメア・ハモル。

 彼女は背後から近づくシエに首だけ振り向いて後ろを見て、そのまま回れ右してシエと対面。腰に手をおいて彼女を凝視する。

 その褐色肌で白いロングな髪に、白い眉に睫毛、少し尖った耳。で、シエとタメはるナイスバディ。

 同じフリュのシエが見ても、その見事な容姿に口をポっとする。


『我々はゼスタール戦闘合議体・ネメア・ハモルである。お前は……』とネメアはしばし考えると『生命体5001・知的生体デルベラ・ダストールデルド・戦闘生体「シエ」と呼称されている存在か?』

『流石ハガーグデーラ……失礼、ゼスタールノ情報ネットワークダ。詳シイ自己紹介ハイランナ。タダ、「戦闘生体」トイウノハカンベンシロ。コレデモ今ハ、子モイル人妻ナノデナ』

『了解した』

『戦闘合議体トイウカラニハ、オマエ自身モ、白兵戦ニ心得ガアルノカ?』

『肯定』

『デハ、一度機会ガアレバ、手合ワセ願イタイモノダ』

『肯定。シビアからお前の戦闘データは共有している。我々も興味はある』


 と、そんな意味深な雰囲気で二人は握手。

 例の国連会議場での戦闘では、シエが相当に苦戦したシビアの事もあるので、どんな感じの強さを持つ御仁かは直接確かめたいところ……と、そんな二人が対峙しているところで現れるは多川の旦那。


「シエ〜、って、うおぁ! なんだこの別嬪さんは!」

『ア! ダーリン。私ヲ差シ置イテ、ゼスタールフリュヲ「ベッピン」トハ、聞キ捨テナランナ』

「あー、シエ、待て待て、そういう意味じゃないって!』

『ン? ナラドウイウ意味ダ? ン〜~~??』


 多川の旦那もタイミング悪く場の悪いセリフ吐くから愛妻に詰め寄られる。ほっぺたをシエに両の手でつねられて多川氏フガフガ状態。


『マタコノ体ニキチント教エコマナケレバナランヨウダ、ダーリン』と、多川にまとわりつく女房。

『? シエ生体……お前達は一体何をしているのだ?』

『コレカ? コレハナ、デルンニキチント、己ノ立場ヲ認識サセルタメノ接触方……』

「シエ! ウソ教えるなウソを! ゼスタールさんマジで信じるって!」


 キョトンと首を傾げるネメアである……


 という感じで、各々自己紹介なんぞも終わるが、一つ大見がネメアに渡さなければならないものがあるという事で、彼女を呼ぶ。


『? 我々に新型装備のデータ供与?』

「ええ、此度ヤルバーン州と臨時協定を結び、日本国とも非公式ではありますが、ティ連世界と地球世界の間を取り持つ外交関係をシビア大使を通じて、確定できました。ま、その際にゼスタール側から互いの相互技術交流の意味も含めて、例の我々が『ドーラ』と呼称していた兵器を当方の研究機関に譲渡いただきましたでしょう?」

『認識している。その情報は我々にも通達があった。我々も我々が求める技術の供与をヤルバーン行政体を通じて、ティエルクマスカ連合に要求している』

「ええ、その通りです。で、その我々の研究機関がお宅らのドーラをベースになんか『作ってみた』らしいんですが……良かったらそっちで試験運用してもらいたいと依頼がありまして……」


 要は、ヤル研のアフ……飽くなき技術探求の使徒達が、なんと『ヤル研製ドーラ』を自らの研究成果として、ゼスタールの方々に見て欲しいと、その成果をもってきたという……不安。


『ふむ……了解した。見せてもらう』


 どうにもデロニカで運んできたようで、超機密指定になっているらしく、当地に付くまで格納庫を開けることまかりならんと封印が施されていたり……大体こういう状況で起こるパターンは大見も察しがついているので今更な感じで、彼もなんとなく期待に胸を膨らませている自分を反省する……


「あー、君。彼女がゼスタール側の責任者の方だ。封印を解いてくれ」

『了解デス』

 

 イゼイラ人スタッフが封印を解いて。格納庫を開けると……


 なんと! そこには絶対完璧な日本SF作品設定の対艦ドーラと、対人ドーラが鎮座なされていた!

 

 対艦ドーラの方は、そのデザイン。まるで何かかつて日本のアニメにあった、新し方系のナントカアーマーみたいなデザインの装甲に、中央コア部にはピンク色の光点。ターレットがイカつく設定されて、妙にコアが前方へ流線型に尖ってたり。グポォンと言いそう。

 更には無駄にミサイルポッドに粒子兵器、更には地球製のガトリング兵器に一二〇ミリクラスの主砲も備え付けられてたりと、プラモにしたら絶対売れ……流石ヤル研的なデザインであった!


 更には対人ドーラに至ってはもっとヒド……スゴイ。

 四本の腕と脚部が、中央コアから伸びている……この構図がどうにもアレに見えて仕方がないのか、中央コアのメインセンサー部を胴体とし、その上に頭部状のセンサーポッドを増設。そのセンサー部にはイカつい目のような各種センサーを正面・左右に備え、四本の腕にマニピュレータを取り付けてロングサイズのエネルギートーチと、円形状のシールド持たせて…………


 この二機を見た大見は腰砕けになり、多川は反省ザルになる。やっぱりやることなすことヤル研であった……


『あの対人ドーラ……あれってまるで阿修羅観音……』と呟くは大見。

『いいのかよぅ……関係者に訴えられてもしらねーぞ』と多川。


 だがやっぱり驚くは、シエにリアッサ、シャルリにメルタン。


『オオ! 流石ヤル研ダ。アノドーラガコンナデザインニナルトハ!』

『ウム、流石発達過程文明ノ最先端ダ』

『だねぇ、キョクリュウといい、キョッコウといい、流石というかなんというか。いつもながら連中のセンスには関心するよ』


 と意味不明の驚きを見せるはシエにリアッサにシャルリ。


『うわわわわー! すごいすごい! まるで妖神バルジャンみたいだ!』


 とハイラの神話に出てくるキャラに例えて感動するはメル。って、その『妖神』って悪者ちゃうんかと。

 で、最後は……


『オオミ生体、タガワ生体』

「は、はい?」

「ほ、ほい?」

『ゼスタール技術合議体は、このカルバレータ兵器を全面的に採用すると決議した。極めて高い評価をしている。今後の作戦行動においては、我々のカルバレータ装備は全てこの仕様へ改定することを決議した』


「はいいいいい!?」


 いや、本当にいいのかと手を振る多川。ちょっと本部にナシつけてくると走る大見……



 はてさて、惑星イルナットでの作戦。なんとも賑やかになりそうではある。



 だが、未知の状況で、ヤル研のこの行為……まあ景気づけにはちょうどいいかと……思うしかなかったり。

 さて、惑星イルナットの、惑星規模本格調査はこれからである……





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[良い点] ヤル研が次元を超えたw 流石、やる事なす事がw
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