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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
15/89

【第二章・ゼスタール】 第一四話 『共闘』

 

 月の裏側。

 月面に、突如建設された通称『ガーグデーラベース』。所謂、かつてガーグデーラとティ連から呼ばれたゼスタール人というVMC技術の仮想素体を身にまとう人格精神生命体といえばよいのか……そんなティ連の認識としてもかなり変わった存在。

 かつては肉体を持ったヒューマノイド型の知的生命体であったのだが、とある敵性体の『生物兵器攻撃』を受け、やむを得ず人工的に種族規模でこのような姿に変貌してしまった。

 その姿に変化することを助けた存在が、なんと彼らゼスタールにも存在したトーラルシステムの一種、ゼスタール人が『レ・ゼスタ』と呼ぶシステムであった。

 だがそのシステムはかなりの部分が破損し、朽ちた遺跡として『発掘』されたものであった。

 レ・ゼスタとは、その遺物を流用したものであり、ゼスタール人の手が相当に加えられていたもので、ティ連のトーラルのような、完璧な稼働が可能なものではなかったのであった。

 その不完全なシステムを何とか駆使し、種の存続を図ったゼスタール人……


 そんな彼らの歴史というべき話を聞かされた瀬戸智子に月丘達ゼスタール調査団一行。

 だが、ここまでの話であれば、彼ら種族の特異な歴史に基づく話という範疇で済み、ブンデス社前副社長さんのスールの取扱いを話し合って、とりあえずは終了といったところなのだが、ここで困ったのはゼスタールが今現在でも、彼らが敵性体と認識している存在と、今だ戦闘状態であるという話。これは考えモノであった。

 言ってみれば、ティ連や日本には関係のない話ではあるのだが、これから話し合いを持とうという相手が安全保障的に交戦状態となる第三の敵が存在すると言うのなら、やはりその状況は外交的に知っておかなければならないのは常道である。

 月丘やプリルにメイラは、


(どうせ他の種族へ、ティ連にやらかしたのと同じことやって、ケンカになってるんだろ)


 ぐらいに思っていたわけであったのだが……

 で、一体どんな連中が相手なのだという話になるのだが、その連中の記録があるという事でその映像を見せてもらったところ……なんともまあそれは!


【ヂラール】


 であった……


    *    *


 ティエルクマスカ銀河星間連合域、別宇宙セクター007896・ニーラ恒星系、第三惑星サルカス内、地域国家ハイラ王国連合。

 そう、ここはかのフェルパパが国王やっていた国、『悠遠の王国ハイラ』であった。

 で、この国のティ連化もこの数年で相当に進んでいた。

 ……ちなみに、かつてナンバーで呼称していたこの恒星系であったが、先のヂラール戦役で大活躍した賢人教授大先生で、将来創造主ニーラチャンのお名前を冠したいという事で、この恒星系の名前は、『ニーラ恒星系』と呼ばれるようになったという次第……ということでティ連化とはいえ、そのティ連がいかんせんトーラル文明を純粋に受け継いだ種族国家文明群なわけであるからして、即ちその骨子は『トーラル文明化』と言い換えても差し障りのないものではある。

 実際、このトーラル文明に関わった他の文明の進歩の速さは尋常なものではなく、イゼイラ他のティ連国家はもとより、地球―日本ですら、もうロボット型機動兵器を持って、ワープできる宇宙船に軍艦を持つ有様である。

 まだまだJRや大急の電車が走り、リニアモーターカーが一部開通して……という順当な日本の進展に併せて、ティ連科学のホログラフィックモニターや、ヤルバーン州行きの転送機が日常生活で使われ始めるようになってきた状況も併せて存在するわけであるから、日本の例をみても、ハイラ王国の例を見ても、トーラル文明が持つ、他の文化文明への自然な浸透同化能力は、やはりすごいものがあるわけなのだ。


 と、そんな話はさておき、ここハイラでは早速先のゼスタールやヂラールに関する情報提供と問い合せが、国王達の耳へと入ってきていた。

 で、現在の国王陛下。じつのところ、相も変わらずでガイデル陛下がお勤めになっていたり。

 なんかメチャクチャ長期政権になっている。もう国王選挙で何回も再選されて、流石のガイデルも


『いや、もうそろそろ新しい息吹をだな……というか、サスア、代わってくれよ』と言いたいところなのだが、そこは天穴の使徒でもある皆さん。ガイデル国王の人気は相変わらずで、ろくな対抗馬も出てこないもんだから、ガイデル国王に副国王サスアの体制は今も健在であったりする……


「陛下!」


 ツカツカと早足で国王執務室にやってくるは、サスア副国王。


「おー、サスア。その様子では、お前も既に一報を聞いたようだな」

「は。カシワギ殿からの書簡、私も拝見させていただきましたが……驚きました。というよりも、書簡を見て、目を疑いましたが……」

「ああ。あの戦いで最後だとは思いたかったが……同時に奴らが他にもいるのではという疑いを持ったのも確かだ。だが悪い予想がここにきて当たってしまうとはな。しかもまさかガーグデーラ連中の宿敵だったとは……それにティ連とガーグデーラ、あ、いや今はゼスタールというのだったか? まあそれとここにきて話し合いができるようになるとはな……」


 所謂このハイラで生活している天穴の使徒のみなさん。即ちガイデル世代のティ連人は、ヂラールの事もさることながら、かつてティ連では謎の『テロリスト』ぐらいに思っていたガーグデーラとここにきて話し合いが持てて、更にはそやつらとヂラールが宿敵の仲だとはまさかまさかの話ではあったのだった。


「陛下」

「おいおいサスア。いつも言ってるがこんな誰もいないところでまで『陛下』はないだろう」

「はは、そうでした義父上」

「うむ」


 ガイデルはその言葉にニヤついてにっこり笑う。

 そう、サスアといえば、その伴侶さんはだれかと言う話であるが……そういうことである。

 まだ婚約段階で、お相手がハイラ基準で成人していないという事なので、まだ正式な仲になるのは、地球時間で何年か先の話という事。柏木とも親戚になるといったところ。


「で、義父上。私はそのガーグデーラかゼスタールかという存在のことはよくわからないのですが、義父上がイゼイラにおわした時には、それほどまでの存在だったので?」

「ああ。正直、私達の世代感覚では、こっちにきてからのヂラールとそう対して変わらない認識の相手だったよ。フフッ。だがまさか連中と会談できるようにしたのが、ナヨクァ……あ、いや、ナヨ閣下で、話をまとめたのが婿殿だったとはな……」

 

 ガイデルは首を少し振りながら、少々呆れ顔で『さすが婿殿』と感心してたり。


「だがまあゼスタールの件はこちらでは遠い話だ。そこはとりあえず向こうに任せるとして、こちらはそのヂラールだ……確かあの時、ニーラ教授の話では、あれはワームホールの向こう側、あの死の星と化した名も知らぬ文明の造った生体兵器という事だったのではないのか? でなければニホン政府や、ヤルバーン州から報告のあった至急の書類。あの内容とニーラ教授の話が合致せんぞ」


 そう、かの『ヂラール事件』とも『ヂラール戦役』とも言われる数年前のあの事件。

 かの時、当時の賢人ニーラ先生の仰られた見解は、かの時発見した名も知らぬ謎の文明が製造した生体兵器だという話。更にかの時の惑星が死の星と化してから、まだ百年ぐらいの経過という事だった。この分析は恐らく間違いないだろう。

 だがそこで矛盾するのはもしその見解が正しいとすると、地球からの報告書には、ゼスタール人がヂラールらしき存在から攻撃を受けていたのが、種族スール化計画が発動した約八〇〇年前……となると、もしヂラールが、あの死の惑星で作られたものであるならば、ニーラ教授との見解と、ゼスタールの資料に基づく事象年代が合わないではないかという話。

 だが、ここでニーラが間違っていたというわけではないのだろうとガイデルは言う。


「……あの時は、戦闘真っ最中で、あの死の星がどんな星だか、そんなことどうでもいい状況だったからな。それに天穴も閉じ、ヂラールの痕跡が今残るものといえば、奴らの遺骸か、アメリカ国の捕縛した、あの超大型ヂラールぐらいなものだ。あの超大型も、もう機能を停止して、今や遺骸といえる状態の代物になった。ティエルクマスカの技術を使えば保存は容易だが、アレが機能を維持していた……つまり生きていた時ほどの資料にはもうならんがな」

「そうですな義父上」


 かの米国戦略軍宇宙戦術コマンド。そう、ヂラール戦時に宇宙空母カグヤで援軍として連れてきた、かの部隊。本来なら、特危自衛隊の戦力不足を埋めるために、陸海空自衛隊から戦力を集めて連れてくるのが筋であったあの時の状況。だが結局野党の猛反対に会い、柏木の繰り出した苦肉の策で、日米安全保障条約上の支援行為という名目で米国USSTCを連れてやってきたあの時の作戦。

 実はあの時の作戦を評価されて米国は、この惑星サルカスのヂラール研究施設に日本人研究者の紹介があればという条件で、ヂラールの研究を許され、何人かの米国人が入れ替わり交代でやってきたりしていた。但し、人数制限はあるという事。


「……では義父上、連合防衛総省と、ゼスタールとやらの要請を?」

「うむ、受ける方向でいこうと思う。まあ婿殿と娘、いや、フェルフェリア大臣様のたっての要請だ。受けないわけにはいかんだろ」

「はは、確かに」

「それに、幸か不幸か我々ハイラ王国、いや、惑星サルカス全国民は、あのヂラールに関して専門家になってしまっているからな。当然あの娘の力や、お前の力も借りたいという話にもなろう」


 なるほどと頷くサスア。


「では、当初の要請どおり兵を送り込みますか? 義父上」

「うむ。あの娘にはいつでも行けるように用意しておけよと、お前の口から言ってくれないか?」

「は、畏まりました。では柏木長官にも?」

「ああ、勿論だ。今、婿殿はティ連軍のトップだからな」


 やはりモノがヂラールともなれば、やはり頼れるはこの方々といったところだ。

 で、更にハイラ王国といえば、この方がいないと話にならんわけであるからして……


「よ~し! お前たち! 準備はいいか!」


 ちょっと和音の元気で綺麗な掛け声に、「おー!」と返す勇ましい声。

 ここハイラ王国初の宇宙港、『バルベラ中央宇宙港』に集まるは、ハイラ王国近衛騎士団。

 その団長はと言うと、勿論、


「メルフェリア王女殿下!」


 腰をかがめて駆け寄るは、側近のハイラ人。


「だからぁ、王女じゃなくて今は団長だよっ」

「は、これは失礼いたしましたメルフェリア団長。あと一五ルバルクで、天界からのデロニカが到着するとの報がありました」

「だぁかぁらぁ、『天界』じゃなくて、『軌道上』。もうみんなも試験受けて近衛騎士団へ配属になったんだろ! あれからもう何周期も経ってるのにぃ……もっとみんな近代的にいこうよぉ」


 『 3 』こんな口してブーたれるメルちゃん、あ、いやメルさん。

 メルも容姿年齢今や一九~二〇歳代ぐらいの年齢といったところ。フリュとしてこれからの年齢である。でも性格はあんまり変わっていない様子。

 かの時、地球へ訪問して、ヤル研に作ってもらったメルさん専用コマンドローダー『メル式黒漆甲機』を今も愛用している相変わらずの王女様であり、騎士団の団長さんであったりする。

 サスアとの結婚はまだ少し先。ハイラの慣習で、成人の儀式かなんか、めんどくさい行事があるらしくて、それを済ませてしばらく経ってからでないと、貴族出身者は婚姻できないんだそうで、そこはまだまだハイラの慣習に従って、といった感じである。


 ……と、そんなところで、あれからもう地球時間で六年は経っているハイラ王国。これたった六年ほどではティ連科学の恩恵を受けたこの国とは言え、そうなかなか地球世界ほど素早く世の中に馴染めるものではない。

 なんせついこないだまで『宇宙』の概念すら知らなかった人々であるからして。

 この『バルベラ中央宇宙港』にしても、宇宙港なんて大層な名前がついてはいるが、実際のところは、その名の通り海の港であるバルベラ港を町の人々みんなでワッショイと以前の三倍ぐらいに拡張して、ティ連の管制塔を灯台みたいにおっ立てただけの港であるからして、そんなティ連航宙艦艇に航宙船舶を停留させられるだだっぴろい土地なんざこの国にないので、そんな感じで工夫を凝らしてたりするわけで、まあ言ってみりゃまだまだこの程度なのである。なので、ハイラ王国エリート部隊の近衛騎士団でもまだこんな感じといったところ。

 だが、機動兵器や宇宙空間訓練の方は相当に進んでおり、その点ではイゼイラ側が自分達の歴史を参考しながらハイラと接しているので、なかなかに良い感じで『文明昇華作業』が行われている。

 

 と、まあ団長さんがこんな感じなので、兵ともども規律正しい部隊ではあるが、かたっ苦しい部隊ではない。そこはやはりメルの人望といったところであろうか。


 そういう雰囲気でしばし待機する騎士団。すると港の鐘がカンコンと鳴り響き、『船がついたぞ』と大声あげる声が響く。

 こんな風情ある風景に映るは、軌道上の大型機動母艦から降りてきた一機のデロニカであった。

 港沖に停泊……というよりも、水面ギリギリで空中停止すると、人工筋肉を動力源に持つ、自動でオールを動かすようなカッターボートに乗り移り、何人かの乗組員が陸までやってきた。

 その中の一人は、カイラス人のようだ。メルが誰かわかったのか、嬉しそうに手を降っている。

 桟橋まで駆け寄っていくメル。カッターボートから降りたのは……


『シャルリ師匠!』

『やあメル! 久しぶりだね!』


 プロポーション抜群の獣人フリュに見えるシャルリだが、以外にガタイが大きい彼女。

 そんなシャルリに比べたら、まだまだ少女のようなメルが駆け寄りシャルリに抱きつく。


『お久しぶりです~師匠ぉ~』

『ははは、元気でやってたかい? 王女殿下』

『むはは、ボチボチですよぉ。で、シエ師匠やオーミ師匠達はお元気ですか?』

『ああ、よろしく言っといてくれってね。ま……』というと、少し表情を鋭くして、『あの件でね。とりあえずアタシが代表で来たって次第さね。カシワギ長官直々の要請でね』

『そうですか……なんかカシワギのおっちゃんも偉くなりましたね師匠』


 などと世間話。そう、今回柏木の要請でこのシャルリが、ヂラールの一件、先行調査をハイラ騎士団とやろうという段取りになっているという寸法。

 で、その調査とは何かというと……


『んじゃ、この騎士団のみんなが、「惑星イルナット」の調査に今回同行するんだね』

『うん。みんなイゼイラで訓練受けてきた精鋭だよ。だから航宙艦や空間白兵戦にも対応できるから、安心してよ』

『へぇ、ここ数周期でハイラ王国軍も結構進んだもんだねぇ。たいしたもんだ』


 この騎士団は、ティ連防衛総省軍に今回組み込まれる特務部隊扱いの兵員なのである。

 で、その『惑星イルナット』という場所。この『イルナット』という言葉は、イゼイラ語で、『正体不明』英語で言う『アンノウン』と同じ意味を持つ。つまり『惑星X』とか、『正体不明惑星』という意味だ。

 ではその星の場所はどこかという事だが……ヂラールといえば、どこかという話。つまり、あの時、ハイラ人が『天穴』と呼んだ『ワームホール』の向こう側の惑星。なんと惑星サルカスを襲ったヂラールの発生源と思われる、あの場所へ赴いて、直接調査を敢行しようという作戦なのである。

 無論その命を下したのは柏木防衛総省長官。


『……ただ、今回は別宇宙にまた飛ぶ事になるからね。ここまで別宇宙をまたいでの作戦ってのも、ティ連じゃ初めてになるから、気を引き締めていかないと』


 かの星、今で言う、先のコードネーム『惑星イルナット』には、その軌道上に今も監視人工衛星と化した、かの戦役時で使用した『旭光Ⅱ・偵察仕様機』が惑星軌道上を周回している。その機体があれ以降も常時その星を監視し、量子通信で時空を超えて、監視データをティ連へ送ってきているのである。なので、宇宙空間座標も特定しているため、あの星へ行くことは容易にできるという次第。


『ヨシ、んじゃそっちも準備完了ってことだね。んじゃ、騎士団をデロニカにのせておくれよ』

『了解です師匠!』

『……って、いつも一緒のサスアの旦那は?』

『サスアは副国王だからね。ファルンと一緒にいなきゃ。政府トップの一人だもん』

『なるほどね……いつも一緒は無理ってか? むひひひ』

『な~にを言ってるんだか、師匠もチキューで、いい人できたんでしょ? お姉ちゃんから聞いてるよ』

『あ、フェルの奴ぅ、んなことまで……』


 ……さっさと乗り込めと。そんな視線を騎士団員がジト目で送る……


    *    *


 ……数時間後、とある宇宙の空間が大きく歪む……

 いつもの映像がねじれるような、そんな現象の後、大きなフラッシュとともに刹那で顕現するのは、ティ連防衛総省軍サルカス方面軍所属の大型巡航艦であった。

 全長約一〇〇〇メートルクラスの、『カグヤ』のような機動母艦と『ふそう』のような機動巡洋艦の機能を併せ持つ中型艦艇艦隊前線指揮艦の役割を持った船である。ティ連では大型機動戦艦の次に大きなクラスの艦になる。

 艦は、ヂラール戦役時に活躍し、今はサルカス軌道上、宇宙空間交通の要として稼働している『戦略ディルフィルドゲート艦「ゼルベルタ」』を利用して、この別宇宙へやってきた。

 ゲートを使った別宇宙来訪というわけであるので、現状当然来たはいいが、帰ることができないという次第……まあ、当たり前ではあるが。

 なので、後ほど直径五キロメートル程の臨時ゲートをこちらへ送ってくれるという話。

 なんせゼルベルタのゲート直径がそんなに大きくないので、送れるゲート施設も、ちょっと小さめになるという話だが、今回の大型巡航艦にはそれで充分といったところ。

 で、この巡航艦は船籍がカイラス軍なので、その船のデザインは、なにか鋭利な釣り針を重ね合わせたような、そんなデザインの艦である。カイラスの船は、一見すると悪役イメージなデザインの船が多いのではあるが、鋭利なイメージでその格好良さにも定評がある。

 無論、その乗組員多国籍ではあるが、やはり獣人イメージのカイラス人が一番多い。


『カーシェル・シャルリ。例の惑星に到達した。いつでも降下できるが、どうするかね?』


 巡航艦ブリッジ内。艦長が件の惑星に到達すると、周回軌道に入るよう命じる。


『この惑星イルナットの地表データや気象データ諸々は、もうこれまでのデータで十分取得できてるんだロ? 艦長』

『ああ、そこは問題ない。あの戦闘時に放ったヤルマルティア製ヴァズラータイプのおかげでね』


 ちなみにこの船の艦長も、あの時のヂラール戦時に、援軍としてこの船で参加してくれていた人物なので、その点の経緯も既に理解してくれている。


『で、親衛隊さんの方は問題ないのか?』

『取り敢えずはね。流石あのヂラール戦を戦った連中だけあって、イゼイラでの訓練も難なくこなしたってさ』

『そうか。では早速取り掛かってくれるか?』


 という事で、惑星イルナットの調査を開始するシャルリ達。

 この星の軌道を回る旭光Ⅱ偵察型が事前に集めたデータによると、気温・気候・気圧・生態は地球型惑星と大差はない。ということは、この星に住んでいた知的生命体も、所謂ヒューマノイド型か、それに準じる生態をもつ生命体だったということになる。

 ただ、この星の生態だが、データでは植物植生に、微小生物の反応はあるが、所謂人の大きさ前後の大きさとなる動物の生態反応がまったくない。

 なるほどヂラールの性質を考えるに、かの牢獣タイプのような捕縛型の犠牲となっているのは明らかであった。つまり、この星の知的生命体が絶滅した後、その手の動物もヂラールに絶滅させられたと見るのが妥当であろう。

 そんな話もしばし。シャルリも戦闘服に身を包み、メル達近衛部隊の待機する格納庫へ。

 今回は転送降下ではなく、空挺降下。つまりデロニカを使った降下を行う。即ち近衛部隊だけが降下するわけではない。現地に前線基地を構築するための工兵部隊も同時に連れて行くため、結構な人数に機材が降下するためである。部隊単位の降下はやはり転送よりも通常降下の方が効率がいい。


『よぉ~し、みんな準備いいかぁ~!』


 とメルさん。コマンドローダーに身を包み、愛馬パイラ号に跨ってみなの準備を確認する。

 騎士団の諸氏、今やハイラ軍機動騎士団正式装備となった『18式自動甲騎』……やっぱなんかメルだけ浮いてたりしないでもないが、いかんせん王女様でもあるので、そんなもんかとみんな気にもしない。

 という事で、工兵部隊にティ連防衛総省軍一般部隊。そしてハイラ近衛騎士団乗り込んで、デロニカは発艦。惑星イルナットの大気圏を抜けて地表へ降下する。

 あらかじめ設定した目的地は、この星の空港のような場所。

 空港といえば聞こえは良いが、年代的にその施設は既に一〇〇年程度の年数は経過している施設なので、今では遺跡に近いものである。

 滑走路のようなだだっ広い場所は舗装された地面を割って、植物が侵食しているような感じで、言ってみればこの星自体がもう既に遺跡化しているといっても良かった。


 着陸したデロニカのハッチが開き、まず出てくるのは一般部隊。

 まあ敵になるような連中がいないのわかってるが、それでも軍隊のセオリーとして、展開後即座に警戒態勢をとる兵達。

 その次に降りてくるのはメル達騎士団部隊。パカポコと蹄の音は鳴らないものの、機械化された騎兵の姿は堂々たるもの。

 ただ、シャルリは騎士団ではないので、乗馬する習慣などないわけで、彼女のみ別の乗り物に乗っていた。それは何かというと……なんと日本製の陸上自衛隊で使用されているオフロードバイクであった。

 エンジン吹かしてそれに跨るシャルリもなかなかにカッコイイ。ハイラの自動甲騎に付いて行くにはこのオートバイという乗り物が丁度いいということで、ハイラ王国限定で、ティ連部隊の間で普及している乗り物であったりする。

 ちなみに、この陸自のオフロードバイク。正式名称が『オートバイ偵察用』という。○○式という形式番号はつかない。というのもコレ、実は自衛隊の正式調達装備品ではないからである。つまり、鉛筆や消しゴムと同じ、部隊で使用する『備品』としての扱いなのだ。つまりシャルリさん。日本でパウル同様、自動二輪の免許取ってたりする。


『シャルリ師匠、準備完了です!』

『了解。んじゃ、これから目標地点に向かう。調査局の連中も準備できてるね!』


 此度は、衛星軌道上からヴァルメ等を使って事前偵察を行っていた地点へ、直接調査へ向かう。

 そこはどこかというと、この星での軍事施設らしき場所という次第だ。大体こういった調査のある種定石ともいえる場所である。

 その場所が軍事基地かどうかという調べも大体ついていた。まあこの何年か、旭光Ⅱから送られてくるデータはきっちり調べられていたのである。

 

『んじゃ、出発するよ!』


 バルルとエンジンかけて進み出す部隊。本当ならオフロードバイクでかっとばして、潜行偵察みたいな感じでいきたいところだが、そこはそれこんな未知の惑星であって、何が出てくるかわからない。オマケにここは別宇宙だ。

 メル達の騎士団も、調査局のトランスポーターを護衛するような隊列で動き出す……


 ……しばし朽ちた道路を走る隊列。

 軌道上を回る巡航艦からのナビゲーションに従って、目的地へ向かう。

 その軍事基地へ直接乗り込んでも良かったのだが、この星、そして遺跡と化しているこの街自体も調査の対象に入っているので、周囲を観察しながらの移動だ。


『はあ……事前の偵察映像でわかっちゃいたけど……あんまり気分のいいものじゃないさね』

『ですねぇ師匠……』


 走る道路にその周囲。辺りを見回すシャルリ達。

 目に入るはかなりの数の風化し、化石化した骨。恐らくこの星の住人のものもあれば、ヂラールの物も含まれるのだろう。

 シャルリにメル達一行は、たまに隊列を停車させ、朽ちた異物と化すいろんな物を触れて、見て回る。


『これは、コの星の兵器かい?』

『ナんか、車輪にベルトみたいなの巻いていますね師匠。あの時の戦いでナヨのお姉ちゃんが使ってた……なんていったけ?』

『ああ……チキュウのセンシャって兵器によく似てるね』


 確かにその朽ちた兵器。履帯のような移動装置を付けた車両のようにも見えた。だが、その全体的なシステムは、現在の一般的な地球のものよりも進んでいる……この文明は、どうやら地球とよく似たような進化を遂げてきた文明のようだ。

 調査局のスタッフもその間、付近の建造物に入って、色々とデータを取っていたようだ。

 中にはそこに倒れて化石化したこの星の住人の遺骸なども。

 シャルリがその調査局員に話しかける。


『この星の住人かい?』

『ハイケラー。比較的骨格の全体像が良く残っていますので。どんな形状の知的生命体か調べてみようと』

『なるほどね。でもさ……』とあたりを見回すシャルリ……『ここは住宅のような感じに見えるけど……』

『そのようですね』

『ならさ、家族フォトとか、そんなのも探してみちゃどうだい?』

『アア、なるほど、我々の感覚では、ゼル映像ですが、ハルマの「シャシン」のような映像保存媒体ですか』

『そそ。こんな奴さね』と、シャルリは彼氏とゲームコーナーで撮った、スマホに貼り付けてあるプリントシール機の写真を見せる。

 見せられた調査局のスタッフは、写真そのものよりも、ヤルマルティア人の、シャルリの彼氏の方に目が行ったり。なんとなくタハハ顔。シャルリはニヨニヨしてたり。自慢したいんかいと。

 でも、確かに地球の文明と近似の進化的要素を持つ文明であれば、そいういった物理的な記録資料があっても不思議ではないとも思うので、それも探してみようと。

 すると調査局のリーダーから提案があった。


『カーシェル・シャルリ。どうだろうか、ここは二手に分かれて調査してみよう』

『大丈夫かい? なんせヂラールの発生源だよ? まあ多分今更だとは思うけど、あの連中だからね。何があるかもわかんないヨ』


 すると、横で聞いていたメルが、


『師匠。んじゃあさ、騎士団の何人かと、ティ連軍の兵卒、じゃなかった、一般部隊を何人かコッチに回せばいいんじゃないデすカ?』

『そうだね。まあ調査局員もいざとなったら戦闘の心得はあるか……んじゃ万が一の時のために、いつでも退避できるよう緊急自動転送回収装置をオンにしてやってくんな。帰りはここへ寄って、アンタ達と合流してから帰投する予定でいくからさ』


 それで了解という感じで、軍事基地を目指すアルケ部隊と、このあたり一体、市街地を調査するベルク部隊二手に分かれる事になったシャルリ達。

 トランスポーターはベルク部隊に回して、アルケ部隊に回された調査局員は、近衛騎士団や、シャルリのバイクに二ケツして軍事基地へ向かう……


    *     *


 しばし荒れきった植物らが侵食する廃墟の街を走るシャルリのバイクと騎士団の甲騎。

 すると、航空地形データから割り出したこの星の軍事基地らしき施設跡が見えてきた。


『多分ここだね……』


 その言葉を聞いたシャルリの後ろに乗っているカイラス人調査局員が後ろを向いて、停止するようジェスチャーで合図を送る。

 馬にバイクを降りる諸氏。周りを見回すと、管制塔のようなものが朽ちてそびえ立ち、巨大な格納庫のような建物も崩壊して遺跡と化していた。

 戦闘車両がまばらに破壊されて放置され、その周囲には化石と化した兵か、ヂラールか? そんなものも散乱する。

 見た感じ、航空基地のようにも見えるが、破壊された兵器の状態や建物配置を見ると、総合的な何かの中心的役割を果たす基地のようにも見える。まあこの星の軍構成などわからないので、そこは大体の予想だが。


『カーシェル・シャルリ! こちらへ!』


 調査局員が何かを見つけたようだ。大声と手を降ってシャルリ達を呼ぶ。

 シャルリは馬とバイクと装備品一式を見張る騎士団員を何名か置いて、他の騎士団員にメルを引き連れ調査局員の元へ向かう。


『どうしたのさ、何かいいもんでも見つけたかい?』

『はい、これですが……』


 えらく厳重にロックされた自動扉があった。本来なら他にも検問のような場所があり、もっと厳重だったのだろうが、この廃墟化した施設では、この扉が入って下さいと言わんばかりにあるのみである。


『ふーむ、こりゃあからさまに「関係者以外立ち入り禁止」って感じだね……開かないのかい?』

『パワーが通っていませんからね。破壊するしかないですよ。頑丈は頑丈な扉ですが、希少物保管庫ほどでは』


 即ち、地球でいう大型の金庫ほど頑丈な扉ではないという。


『んじゃ、ちょっとどいてよ』


 とメルが一歩踏み出て、背中から愛用の超斬馬刀とでもいうべき剣の柄を取り出して、鍔の部分を二股に分けて展開し、ズァっと身の丈より長く幅広の刀身をゼル造成させて刃の部分を青白く光らせると……


『だぁりゃあああああ!』


 と気合一発、黒漆甲騎のパワーを剣に乗せて、その扉をバッカリ真っ二つに唐竹割り。

 刀身が地面に叩きつけられた時、少し地面が揺れた。


『ほい、開いたよ』


 と剣を担いで、みんなを平手で誘う。


『なんか剣の凶悪さが増してないかい? メルぅ』


 足をブレードにしたり、対戦車砲にしたりするシャル姉ですら少々呆れ顔。

 と、それはさておいて、皆でその厳重にロックされていた扉の中、通路へ入っていく……


 ……しばし歩くと、何やら軍事基地にしては妙に科学者達が好みそうな場所に出てきた。

 無論周囲は電気なんてのは来ていないので、基本真っ暗であるが、PVMCGでランプポッドという浮遊するランタンのようなものを造成して浮かばせて、所有者を追尾するよう設定している。なので隊の周囲は非常に明るい。

 シャルリ達は通路の扉という扉を開けて、中を調査……


『やはりここは研究施設カ何かみたいですね』


 とカイラス人調査局員が話す。


『この星の軍のかい?』

『ソウ見て然るべきかと……この機材はハルマでもよく使われているケンビキョーという機材に似ていますね。それとこの機材。遠心力で物質を分離させる機材でしょう、恐らく。そしてこれは……』


 おおよそ科学実験室にころがっているものを指摘して、そうではないかと判断する調査局員。

 やはり科学技術のレベルでいえば、地球の科学よりも少し進んだぐらいの科学力をもった文明だったと判断できる。例えば、ティ連の科学者は『顕微鏡』という機材を使わない。もっぱらVMCホロモニターとPVMCGのナノセンサーを使い映像化して、ミクロの世界を見ることができる。

 こんな感じでティ連と比較してしまうと、相当技術力に差があるわけで、やはり比較対象とするなら、地球の科学が近似であろうという判断になる。

 

 ……調査をしながら施設奥へ進んでいく諸氏。

 すると、大きな広間のような場所に出た……すると極めて大型の、ホコリをかぶるガラスのような物質で出来たカプセルのようなものを発見する。その積み重なったホコリも言ってみれば一〇〇年分だ。

 そのホコリを拭いて中を拝見しようと試みるが、これなかなか汚れがとれない。もうガビガビである。

 こりゃ骨が折れると、調査局員は日本でデータを取った熱湯噴射器を造成して、そのカプセルへ猛烈な勢いで噴射される熱湯をぶつけて、汚れを剥ぎ取る……ってか、日本の、夜中の通販番組を調査局員のだれかが見てたのかと……

 まるでテレビでやってた通販番組に出てくる甲高い声の元社長のオッサンがやってたデモのように、きれいにカプセルの汚れを飛ばしていく調査局員。

 するとそのカプセルの中にいたものは何かというと……


『うわぁああぁ……』


 思わずのけぞる局員。

 何と、その中身は『ヂラール』、そう、ヂラールなのではあろうが……


『え? なにこれ……こんな形のヂラール知らないよ……』


 かの『ヂラール戦役』とまで言われる、ハイラ国民が相当長い期間付き合わされてきたヂラールの種類。惑星サルカスの民なら、ハイラに限らずみんな頭のなかに叩き込まれているヂラールの形状。

 メルの、そんな記憶にはないヂラールのカタチ。


『これは……メル団長……』


 賢人ニーラが言った、この星で作られた最終兵器であり生物兵器がヂラールであるという予想。

 どうも軌道修正の必要アリである……

 これでも頭も使える優秀な軍人であるシャルリ。彼女も少々考えてみる。


『恐らく……ニーラの言ってたこの星で使われていた最終兵器がこいつらってのは、間違いないんだろうね、ただし……』


 とシャル姉が言うと、メルもナルホドとシャルリの言いたいことを察したようで……


『自分達が創ったんじゃなくて、どこから持ってきたか捕まえたか、そんなのをどんどん量産しちゃってたとか』

『そうだねメル。そんなところかもしれないね……(なら、カシワギの旦那が言ってた、ゼスタール調査団の報告内容も、辻褄が合うってか? こりゃ結構な仕事になるかもしれないねぇ……)』


 カプセルに入っているのは、ヂラールの兵隊型バリエーションみたいな感じのモノだ。ただ、体中に噴出口のような穴が見える……正直見た目ははっきり言って気持ち悪い。

 勿論、この中のヂラールは既に息絶えているが、カプセルの中の液状物質の組成がヂラールに適しているのだろうか? 一〇〇年も前のモノなのに、保存状態が気持ち悪いほど新鮮に保存されている。

 これはデータを早急に持ち帰らないと、と思うシャルリであった……


    *    *


 さて、時系列を少々巻き戻しての話である。

 瀬戸智子を団長とするゼスタール調査団は、急遽、トンボ帰りというものではないのだが、地球に帰還することになった。

 ゼスタール人の調査と、ブンデス社副社長案件の処理の中に出てきた思いもよらない事実。それはかつて数年前、日本の宇宙的安全保証体制や、日本の地球世界に対する軍事的プレゼンスにまで、その議題が波及し、大きな議論を巻き起こした、かの忌まわしき生体兵器『ヂラール』の存在。

 まさかゼスタール人もこれに関係していたとはと驚く調査団一行。これがその理由である。

 

 ヂラールという存在。ゼスタール人にとっても彼ら種族を死の淵まで落とした看過できない存在らしく、彼らにとってもハイラ人同様の仇敵ともいえる存在であるそうで、月丘達地球人全体が奴らのことを知っていたという状況に、シビアやゲルナーもこれには流石に驚いていた……無表情でクールなゼスタール人が、一瞬口がポの字になって狼狽する様は、現在のゼスタール人にはない過去のゼスタール人種族が誰でも持ち合わせていた『表情』の発現を思わせる出来事であった。


 シビアにゲルナーも、まさか生命体0303と4201がヂラールの事を知っているとは思っても見なかったようで、智子らが地球へ急ぎ帰還すると言った時、二人も……


『トモコ生体。我々合議体もお前達に同行したい。そして可能であれば、我々の置かれている現状をお前達の中央行政システムと協議したい。可能か?』

「え!? お二人も地球へいらっしゃると? ……う~ん、急なお話ですね」

『構わないじゃないトモコ。もし彼らがヂラールと関わっているというのなら、互いの情報も提供しあえるるでしょうし』

『でもメイラ、あの情報って特危やヤルバーン州軍、それにUSSTCの最高機密扱いになってるんでしょ? そうそう情報を出すなんて……』


 その話を聞いていたゲルナーが、目尻をピクリとさせて、


『軍? お前達の軍は、あの「敵生体01」の情報を持っているというのか?』

「え? あ、はい。私達も以前、数年前ですけど、この生体兵器らしき存在と交戦した事があります」

『交戦した? で、結果は?』

「ええ、勝利しましたけど……ですがその勝利までの経緯は、ちょっと一言では言えないような、複雑な経緯があります」


 その智子の話に、ゲルナーとシビアは、なにやら会話中。


『トモコ生体。我々は、お前達と軍事的な、何らかの同盟条約を結ぶことを希望する。我々共に利益のあるものになると確信できる。我々合議体全体で協議した結果、只今そう決議した』

「は?」


 すると月丘が横から……


「ちょ、ちょっと待って下さい。え? 今決議したって、ゼスタールの国会決議みたいな権限のものをですか?」

『肯定』


 「ほえ~」っと呆れる月丘。もちろん智子達も。

 いやはやスールの合議体という存在は、何をするにも早すぎる。その場で国会クラスの発議に決議を必要とする合議もすぐにやってしまう。全くどっかの国の国会議員達も見習ってほしいぐらいのものだ。


「智子さん、メイラさん。これはある意味チャンスですよ。なんせ国会決議クラスの議決をその場でポンポンやってくれる存在と協議できるなんてそうそうありません。それに、彼らがヂラールを知っているということは、当たり前で考えても奴らがこの宇宙世界に侵入してきているということでもありますし、ここは強引にでも彼らを日本かヤルバーンに連れて行って、会合を持ったほうがよいのでは?」


 するとダリルも、


「米国も、あの時の戦闘で、あのハイラ王国へは研究員を何人か派遣させてもらっていますし、NASAや軍の研究機関ではヂラール専門の研究部署もあります。それに、ヂラールに彼らゼスターリアンが絡んでくるとなると……私も安保理に国際規模の対応をやはり提案せざるを得ません。これは……地球社会に限って言えば、日本とヤルバーン州だけでどうにかするというわけにはいかないですよ、国際的にも……」


 ゼスタール調査団団長の智子はしばし考えたが、考えたところで状況が変わりはしない。

 半ばヤケクソでこの二人を地球へ連れて行くことに決めた。


「わかりました……ふぅ、でも急な話でどうなるかわかりませんが、何もしないよりはマシでしょうね……メイラ、ヴェルデオ知事に連絡付けておいてくれる? 月丘さんは白木さんに」

『わかったワ』「わかりました」

「私は柏木長官にあとで連絡しておきます。では、ナヨ閣下はすぐに地球への帰還の準備をお願い致します。ゲルナー閣下とシビアさんは、ナヨ閣下におまかせいたしますので」

『あいわかった。ではプリル、セルカッツ、麗子、クロード、主らも準備を』


 と、そんなところでこの月基地に来て、まだ十数時間しか経っていないというのに帰還することになる……


    *    *


『……ということなのです、長官』

「ふーむ……まさかね、そういうストーリーだったとは……」


 瀬戸智子の報告を受ける柏木長官。智子は連合外務部長で、柏木は連合防衛総省長官である。従って智子の報告相手は、同じ連合の官僚で上官である柏木へ行うのが筋という話。

 VMCモニターに映る瀬戸が報告を行っている場所は、帰投中のデロニカ内のようだ。

 智子がヂラールの存在を報告した瞬間、柏木の顔色が一気に変わった。なんせコレに関して彼は当事者も当事者、で、時のリーダーだった訳であるからして。


「では、そのあたりの詳細な資料も?」

『はい。というよりも、シビアさんと、ゲルナー司令閣下が同道してくれております。そしてメイラと月丘さんが、ヴェルデオ知事や春日総理らとの会談の調整をお願いしてもらっていますので、長官も……』

「わかった。もうすぐフェルも来るから、私からも彼女に言っておくよ」

『お願いします』

「だけどなんとも……まさかアイツらが関わってくるとは……ということは連中こっちの宇宙にもいるってことか?」

『そのあたりはシビアさんらから詳細を聞けると思いますが、そう単純な話でもないようです。まあそのあたりは日本に帰ってからで』

「わかった。で、問題は国連安保理への報告だ。ダリルさんはどう言ってる?」

『帰国後、さっそく米公聴会が開かれるようです。その後、国連安保理の各国国連大使に報告すると……』

「……」


 柏木は腕組んで考える目をしながら、少々瞑目する。


『長官?』

「ん? ああ、申し訳ない。とりあえず概要はわかりました。まずは帰ってからだね」

『という事ですね』


 ということでとりあえずの概要報告を受けた柏木。首をかいて「えらいこっちゃなぁ」という表情をせずにはいられない。

 ここはヤルバーン州の連合防衛総省長官執務室。防衛総省長官らしい柏木の趣味満さ……立派な執務室である。そこにノックして入ってくるは、愛妻にして日本国外務大臣のフェルさん。


『フゥ、大変ですねぇ……』

「やあフェル、おつかれさん」


 ヤルバーン州の児童教育施設へ姫ちゃんを迎えに行った帰り。柏木といっしょに帰宅するために執務室へ立ち寄ったという次第。

 部屋に入った途端、姫迦が柏木の元へ駆け寄ってくる。


「はい姫ちゃんもおかえり~」


 なんて言いながら、来客用のソファーへ場所を移す。

 フェルはもう知った執務室なので、冷蔵庫からお菓子を出して、家族分のお茶を淹れてたり。


「フェルも、もう聞いたんだろ?」

『ハイですよ。先程ケラー・ニイミからお話がありました。その後にナヨさんからもプライベート通話でお話がありまして、もうビックリです』

「だよなあ……で、シビアさんら合議体が、即断即決で地球世界や、ティ連と同盟を組みたいって話らしいし」

『ソレですよね……そこも困った話です。ティ連が一極集中外交を行ってきた意味がなくなるかもしれません』

「うん……って、まあ日本政府もこの地球世界での地域国家の立場もあるから、ある意味サマルカさんを通じて米国を皮切りに、徐々にティ連外交政策を緩和させてきているのは事実なんだけど……ゼスタールは全くの治外法権だからな。こっちがとやかく言える話じゃない。彼らの外交権をどうこうする権利なんてのは我々にはないからね……」


 そう、ゼスタールはティ連にとっても地球世界にとっても、全くの第三者である。それに相対する立場もやはり相当に違うわけで、地球社会からすれば、彼らの行った事件の数々。例えば地球社会のネットワークにドーラデータを流した事件にしても、ブンデス社の事件にしても、まだ国際的な『ゴメンナサイ』で済む話である。だが、ティ連の場合はいかんせん互いの文化概念的齟齬があったとはいえ一〇〇年敵対しているわけであるからして、連合内の国民感情というものもある。

 月丘や智子達調査団のように、面等向かって道理を話してもらえれば、溜飲飲み込み納得もできるのであろうが、それに匹敵する事を連合全体でやろうとするなら、相応の時間もかかりはする。

 そういう存在のからの『同盟提案』となれば、これ案外考えなければならないところが多いというわけなのだ。


「それに……大きな問題点が一つある……」

『ト、言いますと?』

「うん、その~何というか、あのゼスタールさん連中が純粋すぎるってところなんだよね」

『アア、確かに、それは言えますネ。言い換えれば、チョー真面目というか』

「そそ。何をするにも『悪意』がない。言い換えれば『機械的』というか……それでいて情緒的ではないにしろ、善意的な感情もある」

『フムフム』

「そういった人々をだよ? 今のこの生き馬の目を抜く地球社会の『外交』なんてところへブチ込んだらどうなると思う? 俺はちょっとね……嫌な感じしかしないデスよ」

『ですよね~……』


 柏木が言うには、確かにゼスタールの科学技術は、レ・ゼスタ。即ちトーラルの影響は受けているとは言え、全体的に見てやはりティ連の科学よりは少々遅れているのだろうと話す。

 だが、部分的にはティ連を凌ぐ技術をも持っている。つまり現時点でティ連に対抗できる科学力を保持している勢力なのは確かなわけで……


「こりゃちょっとゼスタールさんが安保理連中の思惑へ振り回される前に、何か手を打っておく必要があるな……」


 この言葉の意味。妻のフェルならすぐに察するわけで、


『デスネ。私も総理へ進言しておくですヨ』

「うん、お願いするよ」

『で、マサトサンはどんな対策を考えているデスか?』

「フェルは?」

『あるデスよぉ~、ウフフ。多分マサトサンと考えてること同じです』

「はは、そうだな。当然そうなるか……『レ・ゼスタ』だもんな。あの脳リンクのバーチャル会談で、あれを見せられた時は度肝ぬかれそうなったけど……」

『んじゃ、お互いその対策を同時に言ってみるですか?』

「ああ、そうしようか? んじゃ、せ~の……」


「ゼスタールをティ連へ引き込む」『ゼスタールサンをティ連へ加盟させる』


 互いに指差し合って、にやける夫婦であった……ちなみに姫ちゃんはその横でケーキが旨い。


    *    *


 その後、地球に戻った智子らから、事の詳細な報告を受けた柏木は、やはり状況の重大性を感じ取らざるをえなかった。

 彼がシビアからVR会談で話をされていたのは、その病原体で彼らがスールという存在にならざるを得なかったところまでである。無論ヂラールの事など知らされていなかったわけでだ。

 これも仕方がない。まさかシビア達からの立場からすれば、柏木達がヂラールの事を知っているなんて思わなかっただろうし、柏木も彼女らがヂラールと戦っていたなんて知る由もなかった訳であるからして。


 で、柏木は即、そういう事情であればという理由で、かのヂラールに対する調査を防衛総省長官の立場で命じた。無論ティ連の総大将、現在の連合議長であるサイヴァルの認可があるのは言うまでもない。

 とりあえず地球内でのスッタモンダな話は、地球社会スッタモンダ担当のフェルや春日、白木、新見に二藤部達に任せて、連合は可能な限りの事前詳細データ集めといったところだ。

 

『で、ゼルエ司令。シャルリさんを貸してほしいのですが、構いませんか?』

『おう、構わないぜ。ってか、アイツも喜んでたよ。久々の現場仕事だってな』


 という感じで、シャルリに惑星サルカスへ向かって貰ったという次第だったのだ。

 それは日本や連合世界からみてゼスタールの言う『敵生体01』即ち『ヂラール』といえば、サルカスである。そのサルカスを経由して、かの『惑星イルナット』へ……




 ……ということで、場所は変わって『惑星イルナット』のシャルリにメル達。彼女らは今、急激な状況変化に対応せざるを得ない状況に陥っていた。


『まさかこんなトラップがあったとはネっ! うらァ! ナメンなッ!』


 シャルリの必殺御御足ブラスターが咆哮を上げ、何やら緑の物体を吹き飛ばす。


『木偶みたいに片っ端から真っ二つにしてあげるよっ!』


 メルの超斬馬刀が唸りを上げて樹木のような物体をなぎ倒していく。

 騎士団や調査局員もブラスターの発射音を轟かせて、現在どうも戦闘中という次第。

 で、彼らは一体何と戦っているのかというと……


『まさか植物型のヂラールもあったとはねっ!』とシャルリ。

『はい師匠ぅ。確かにこんなのがいれば、この星滅んじゃいますよッ!』とメル。


 なるほどと彼女らは思う。

 ティ連軍内の研究機関でも少々疑問に思われていたことだが、確かにこのヂラールにこの文明が滅ぼされたという事実は事実としてそうなのだろうが、それでも恐らく億人単位でいるだろう一惑星の知的生命体を戦争とは言え根こそぎ絶滅させることなんてのは可能なのだろうかと。そういう疑問が上がっていたのである。

 だが、シャルリ達は、その理由を今知った。

 そう、この植物型ヂラールの植生が、地雷となっていたのだろうと。

 確かにこんなのがいれば、それは恐ろしいトラップになる。それ以上にゼスタールが対峙したヂラールといい、どれだけの種類があるのだこいつらは、と思うシャルリ。


『とりあえず当初の目的は済んだ。あの遺骸の移送はッ!』

『簡易トランスポーターをゼル造成して移送準備は整っています』

『市街地調査チームとの連絡は?』

『取れています。先んじて転送回収完了との事!』

『まあそうだろうね。んじゃデロニカ待機組は?』

『ひとまず先に撤退したそうです!』

『よし、まあこの程度なら全然大丈夫だよ……って、でもこんなところに何時までもいる道理はないね。みんな、撤退するよっ! 調査局員は巡航艦に転送回収を要請してくんなっ!』


 即転送回収……と思ったが……


『カーシェル・シャルリ! 我々はこのまま調査続行ということらしいですよっ!』

『なんだって!? どういうこったい! ちょっとそのゼルモニター貸しなッ!』


 巡航艦艦長にクレーム入れるシャルリ。

 だが巡航艦艦長が言うには、援軍が行くから少し待てという事なのだが……


『援軍? 援軍って……こんな状況で援軍送ってきてどうするんだよ。そんなに長居する気なんてないんだろ?』


 VMCモニターで、巡航艦艦長と話をするシャルリ。


『いや、カーシェル。少々状況が変わった。今その援軍の艦隊が既にここへ到着している』

『はあ!? なんだいそれ』

『とにかく今、同盟条約に従って、そいつらを転送でそっちに送った。調査は続行だ。こちらもまた新たに調査隊を編成して、そちらに送り直す。以上だ』


 プチと通信を切る艦長。その艦長の表情もちょっと狼狽している感じだったが、その理由はすぐにわかる事となる……


 ……その通りしばし後に、転送光が何十本も光り輝く。だが、その光はティ連標準の転送光ではなかった。

 なんと! その中から現れたのは、「対人ドーラ」であった!


『うわぁあああ!』


 思わずその数量にのけぞるシャルリ。他調査局員も同じ感じ。メル達騎士団は『何慌ててんの?』ってな感じでキョトンとしていた。

 そしてその何本もの転送光最後に現れたのが、


『!』


 目尻を鋭くするシャルリ。そう、ヒトガタドーラである。

 その容姿は、褐色肌で真っ白な髪に眉毛。耳が少し尖ったゼスタール人姿。しかもスラっと細身のこれまたスタイリッシュ美人系ゼスタール人であった!

 そのゼスタール人女性は、転送後、他には目もくれずシャルリへ近づき、


『お前が「生命体0505」シャルリ・サンドゥーラ生体か?』

『!? な、なんだって?』

『我々はゼスタール戦闘合議体0897・ネメア・ハモルである。認識せよ。我々ゼスタールは、ヤルバーン州行政システムと臨時同盟を締結した。その盟約に従い、お前達調査隊に協力する』

『盟約? 調査に協力?』

『詳しい話は後だ。今はこの状況を安定させるほうが優先事項であると判断するが?』


 なんと、シャルリ達調査隊への援軍として登場したのは、昨日まで敵であったガーグデーラ、即ちゼスタール軍であった。


 惑星イルナットをめぐる日本、ティ連、そしてガーグデーラことゼスタールの因果因縁。


 はてさて、その行先は?







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[気になる点] 化石は生き物の死骸の上に積み重なった堆積物の重みでできるのでそこらへん(地表)に転がってはいないのでは? 仮に何かあるのであれば風化した死骸ではないでしょうか(気候がある程度穏やかでな…
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