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短編

ワニさん。2

作者: 382

「ワニさん、おはよ」

「ああ」

いつもの朝、目を擦るサヤにワニブチはいつもと変わらず彼女の世話を焼いてやる。

「もう自分で着れるよ?」

「俺がやる方が早いだろうが」

「そっか」

ワニブチに抱っこされてリビングに行けば、新しく雇ったという者たちがそれぞれの仕事をしていた。

「タナカさん、リンダちゃん、おはよ」

「あら、今日は早く起きたのね」

「おはよ~うサヤ!」

タナカの用意する朝食を食べれば、リンダが髪を整えてくれる。

窓の外を見れば、植木を剪定しているナツメがいた。

「ナツメさん、おはよ」

「……ああ」

ナツメに挨拶すれば、いつもキレイな花をくれる。

今日も剪定の為に切り落とした花をくれた。


今日は日曜だからお休み。

ワニブチに本を読んでもらおうと、いつもワニブチがいる書斎に行けば、応接室の前で誰かと話しているワニブチを見つけた。


「……で?アレは見つかったのかァ?」

「いいや。確か地下があった筈だ。今、そこに人をやっている」

「あの優秀な部下か。おっと」

「サヤ」

角に隠れて見ていたのを気づかれ、サヤが恐る恐る出てくれば大きな男が目の前にやって来た。

「コイツがお前の()か」

「おい、誰がそいつに触ることを許可した?」

「フフッ、おお怖え」

抱き上げようと腕を伸ばした男を睨み、サヤを抱き上げるワニブチ。

「サヤ、どうした?」

「ワニさんに、ご本……」

「お前がご本(・・)、か?ハハハ!」

「用は済んだ。さっさと帰れ。」

「わかったわかった。じゃあな、ワニさん」

フェザーコートを翻し男が去っていくが、サヤは初めて見るワニブチの不機嫌そうな顔を見て、ジッと黙っていた。

そんな彼女の様子に気づいたのか、ワニブチはサヤが持っていた本を受け取り、「本を読んでやる」と、書斎に入っていった。



◇◇◇◇



ある日、ワニブチはサヤがどこにもいない事に気づいた。

「サヤ?」

他の者にもサヤを探させれば、エリがサヤ抱いて戻ってきた。

「どこに行っていた?」

「姉の部屋に」

チヨの部屋にあったという、ヒヨコのぬいぐるみを抱いているサヤ。

「それはどうした?」

「前に、お姉ちゃんがこれ、サヤにくれるって……」

「そうか」

俺に黙ってどこかに行くな。と言えば、サヤは素直に頷く。

部屋に戻ったサヤは、先程の事を思い出していた。


「エリさん、何してるの?」

「……サヤお嬢様」

今まで見た事も無かった地下への階段を見つけ、そこへ降りていけばカビ臭い臭いに眉を寄せた。

そこから出てきたエリはサヤの質問には答えず、何か隠し持っている。

「?」

「ここは危ないわ。ワニブチに怒られてしまうわよ」

「じゃあ、エリさんも危ないよ」

「ふふ、そうね。じゃあ、ここはすぐに出ましょう」

「うん」

「怒られるよ」ではなく、「危ないよ」と言うサヤの優しさに、エリはサヤの手を引いて地上へと出る。

「ねえ、エリさん」

「どうしたの?」

「あのね、おねえちゃんがね、前にぬいぐるみくれるって言ってたの」

「ぬいぐるみ…?もしかしたら、あれかしら」

チヨの部屋はそのままになっており、整頓はされているが放置されており、所々埃をかぶっていた。

ベッドにはラッピングされたぬいぐるみが置いてあり、メッセージカードが添えられていた。


「おねえちゃん」

メッセージカードを見れば、姉の綺麗な文字が綴られている。


[おたんじょうびおめでとう。このぬいぐるみを、たいせつにしてね]


エリにもこのカードを見せれば、「良かったわね」と言ってくれた。

しかし、一瞬真剣な顔になったのを、サヤは見逃さなかった。

「……このぬいぐるみは、誰にも渡してはダメよ」

「ワニさんにも?」

「ええ」

カードも、大切にしまっておきなさい。

そう言われ、サヤはカードを自分の宝箱にしまった。

宝箱は正方形で、その一面には何やら文字が書かれたもの。

以前、父親から貰ったものだ。

「サヤ。この箱は誰にも見せてはいけない。チヨにも、私にも」

「だれにも?」

「そう、誰にもだ。約束できるな?」

「うん!」

宝箱はそれより大きなおもちゃ箱にしまってある。

ワニブチもこの中の物はあまり触らないから、誰にも見られたことはない。

いつも素直で、大人の言うことをよく聞くサヤは、箱を誰にも見せなかったし、ぬいぐるみを大切にした。「言ってはダメ」「してはいけない」と言われれば、それを守った。


「サヤ、こっちに来い」

「うん。ワニさん、今度ね、参観日があるんだって」

「ああ、報せの紙は見た」

「絶対来てね!」

「わかった。それより、昼はまた人参を残したらしいな?」

「……お腹いっぱいだったもん」

「ちゃんと飯を食う奴が、俺は好きだがな」

「……!お昼はいっぱいだったけど、夕ごはんからちゃんと食べるよ!」

「良い子だ」

頭を撫でられ、嬉しくて顔をニンマリさせる。

サヤは、ワニブチが大好きなのだ。



(人参たべるから、ワニさんにピーマンあげる!)

(おい。)

登場人物

【タナカ】

姉御系美女。主に料理担当。

【リンダ】

金髪黒目のオカマ。女より女らしい。掃除婦。

【ナツメ】

寡黙で無駄を嫌う男。子ども(サヤ)にどう接していいかわからない。

【フェザーコートの男】

ワニブチとは対等な関係にある。表向きはどこかの会社社長。

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