Diary
楽しめる作品ではないかもしれません。
でも、出来るだけお楽しみ下さい。
そう、最初は、些細なことだった。
用事があって、先に帰っただけ。
その日私は、部活の後夕ご飯作りと買い物があったので、早く帰るつもりだった。
けど、着替えた後のミーティングの後、いつも一緒に帰っている友達2人は、連れ立ってトイレへ行ってしまった。
買い物がある。
夕ご飯作りがある。
急がなきゃいけないから、いいよね・・・?
私はそのまま友達に何も言わずに、走って家へ帰った。
スーパーで買い物をしていると、携帯にメールとLINEが次々と入ってきた。
マナーモードにしても、バイブが止まらない。
やりきれないから、通知を切った。
そのまま買い物を続け、家に帰る頃には、私はすっかり携帯については忘れていた。
夕ご飯の後片付けを終えた後。
家族がお風呂に入っている間、私はかなり暇だったので、何気なしに携帯に手を伸ばした。
そして、すべて思い出した。
冷水を浴びせられたような気分になった。
そっと画面をつけ、メールを一通ずつ見ていった。
案外、メールはそんなに来ていなかった。
通知はほとんどLINEだったみたい。
でも内容は、酷いものだった。
「何で今日先に帰ったの?うちらに何で言わなかったの?」
「いつも一緒に帰る約束じゃん。」
「ちょっとぐらい言ってくれてもいいのに。ひどいね」
「先生が帰るとこを見てなかったら、うちらずっと待ってたよ?」
「裏切り者」
一気に、心がずたずたになった。
内側から何かに食い破られてるみたいに、痛い。
涙は出なかった。
今度はLINEを見てみた。
さっきのメールは一緒に帰ってる2人のうちの1人からだった。
このLINEは、もう1人の方。
でも、さっきのメールと同じような内容だった。
「勝手に帰るとかまじ信じらんねー」
「自分勝手すぎだな」
「ちょっと言うくらいの暇はあっただろ」
「ふざけんじゃねえよ」
「あんたなんかもう絶交」
いつもは普通の友達なのに、すごく言葉遣いが荒い。
そんなに悪かった?
とりあえず、2人に同じことを返信した。
「何にも言わずに帰ってごめん。
今日、帰ったら夕ご飯作る約束になってたんだ。
買い物も行かなきゃいけなくて。
帰るときに言ってから帰ろうと思ってたんだけど、2人がトイレ行ってたから、時間なくなっちゃうと思って。
急がないと、家族も困るし。
ほんとごめん。
今度何かで埋め合わせするね」
ソッコーで返信が来た。
もっといい内容かと思ってたのに、
「言い訳ばっかすんじゃねーよブス」
「ふざけないで」
きつかった。
苦しかった。
信用できると思ってたのに。
裏切られた気分だった。
涙が頬を伝った。
止めようと思ったのに、もう止まらなかった。
「うわぁん、うわぁぁぁん・・・」
大きな泣き声と共に、一気に涙が溢れ出した。
ひたすら、泣いた。
家族にばれないようにして。
しゃっくりが止まらなかった時には舌を噛み、泣き声を抑えるために布団を噛んだ。
一回開いた蛇口は、もう締まりそうになくて。
ただだらだらと、目から涙が流れ続けた。
翌朝私は、学校に行くのがすごく憂鬱だった。
泣き顔は何とかごまかしたけど、何て言われるか分かったもんじゃなかったから。
でも、違った。
「おはよー」
「おはよっ!」
特に誰かに無視されることもなく、ハブられることもなかった。
拍子抜けだったけど、嬉しかった。
そのまま学校は進んでいくんだと思ってたのに、
部活で壮絶なハブにあった。
ふつーに部活に行って、ふつーに挨拶しただけなのに。
先輩に、すっごい目で睨まれた。
多分先輩たちは、友達の方の味方だ。
いつも一緒に帰ってる2人の他にも、同級生は5人いる。
でもその全てに、とことん無視された。
だから、2人1組のメニューでは、すっごい嫌そうな顔を露骨に出した同級生と組むしかなかった。
私に対しての笑い声が、背中に刺さった。
でも、みんながみんな敵じゃなかったよ。
1人だけ、こんな私にも笑いかけてくれる先輩がいた。
K先輩。
私の憧れの人。
同じポジションだから、普段から色々教えてもらってた。
先輩たちがやるシューティングの時は、大概後輩はリバウンドを取らなきゃいけない。
ユニフォームもらってる人以外は。
そこで私がリバウンドを取っても、大概の先輩はみんなスルーだった。
けど、K先輩だけは違った。
「ありがとー!」
明るく笑って、目を見て言ってくれた。
すっごい嬉しかった。
まじで、この先輩のためなら死んでもいいと思った。
K先輩のおかげで、私の毎日は地獄一歩手前で止まれていた。
それでも、1人で帰るのってしんどい。
あの日から、私は1人で帰るようになった。
色々考えられるけど、周りの目が重い。
朝も、違う部活の友達と行ってるから1人ではないけど、先輩に挨拶するたびに睨まれるのがきつい。
先輩には何もしてないじゃないですか、みたいな感じ。
何でみんながみんなあっちの味方なの?
まあ何とか毎日を過ごしていると、時にはいいこともあった。
今まで睨んでいただけの先輩が、笑いかけてくれたんだ。
最初は、疑った。
罠なの?とか、思ってみたりもした。
でも、違うっぽかった。
明らかに、お気に入りの人を見る目になっていたから。
信用した。
それが間違いだった。
何を他の先輩が吹き込んだのかは知らないけど、信用してたK先輩に挨拶返してもらえなくなった。
要するに、また元に戻ったって事。
それでも、A先輩がいたから、よかった。
あ、さっき言った笑いかけてくれた先輩ね。
色々と構ってくれたし、可愛がってもくれた。
なのに・・・。
ある日部活に来たら、いつものように睨まれた。
まあ、これはいつもの事。
そこまでは良かった。
突然、足に何かが引っかかった。
派手に転んだ。
「いってー・・・」
呟きつつ起き上がって振り返ると、そこには誰もいなかった。
しかも、引っかかるようなものも特にはない。
まあいっか、って事で更衣室いったら。
昨日私がうっかり置いて帰ってたバッシュが、ずたずたにされて置かれていた。
「何で・・・?」
そっからはもう、地獄だった。
バッシュの首謀者はまさかのA先輩。
体もココロも物も、もうぼろぼろだった。
家でも、散々な目にあった。
ヘトヘトで帰ってくんのに、夕ご飯を毎日作らされるし。
不味かったら、ぶん殴られた。
お弁当も、毎日自分で作った。
親は弟の方ばっか見てて、私はホコリ扱いだった。
もう、死んでやる。
何回も、そう思った。
もともと、死は怖くなかった。
小4の頃から、自殺願望あったレベルだし。
でも、いつも踏みとどまってた。
それは、海外出張してるお父さんがいたから。
お父さんがいれば、私は素でいる事が出来た。
お母さんの前では、仮面かぶってないと大変だったから。
お父さんがいれば、よかった。
そう、思ってたのに。
その日は、弟のサッカーの遠征のせいで、家に誰もいない日だった。
部活から帰ってきたあと、何気なくテレビをつけた。
そして、知った。
「今日、アメリカにある××工場で、機械に人が挟まれるという事故がありました。
警察は機械のバグとみて、捜査を進めています。
亡くなったのは、兵庫県在住の・・・・」
嘘だと思いたかった。
何でお父さんなの?
お母さんなら、良かったのに。
衝撃的すぎて、涙は出なかった。
ただただ、お父さんの面影が頭の中をよぎった。
気がつけば、私は外にいた。
ふらふらと、近くのマンションに向かっていた。
屋上立ち入り禁止じゃないところ。
完全に、意識が飛んでいた。
どう歩いたのか、私はマンションの屋上に立っていた。
オートロックかかってるのに、どう入ったんだか。
最後に、と思って、携帯を取り出した。
タイムラインを開く。
消えます。
さよなら。
これだけ、投稿した。
そして、柵に手をかけた時・・・
「莉華!」
後ろから、私を呼ぶ声がした。
反射的に、振り返った。
そこには、普段からあんまり関わりを持ってこなかった、3人の先輩がいた。
S先輩、H先輩、O先輩。
私のいじめには加担しなかったけど、見て見ぬふりしてた人たち。
「何してんの、こんなとこで!」
そういえばここ、先輩が何人か住んでるマンションだった。
一番近い高いとこに来たから、全然考えてなかった。
「止めないでください。」
私は言った。
「もう、決めたんです。
邪魔な私は、ちゃんと消えないと。
先輩たちも、タイムライン見たでしょう?
もう、消えたいんです。
止めないでください。
お願いします。」
「莉華・・・」
無理やり笑った私に、3人の先輩が近づいてきた。
そして、思いもよらなかったことに・・・
抱きしめられた。
「ちょっ、何するんですか?
離してください!」
もがく私に、口々に先輩たちが言った。
「ごめんね、味方になってあげられなくて・・・」
「莉華を信じるべきだったのに・・・」
「そんなに追い詰められてるとは思わなかった・・・」
「ずっと見て見ぬふりしてて、ごめん。」
先輩たちは、泣いていた。
そんな先輩たちの姿を見て、私の固く凍った心が、溶け始めた。
誰にとは言わずに、言った。
全部、ぶちまけた。
「ずっと、味方が欲しかったんです。
首謀者のR先輩とA先輩から、私を守ってくれる人が欲しかった。
大変だったね、これからは私がついてるから大丈夫だよって、言って欲しかった・・・」
声が涙でかすれた。
「みんな見て見ぬふりだし、R先輩とA先輩には逆らえないって感じだったし。
もう、味方なんて死んでも出てこないって思った。
そんな時にも、家では最悪の扱いだし。
家事も全部、やらなきゃいけなかったし。
そして今日・・・」
一旦息継ぎをとった。
先輩は、じっと聞いてくれてる。
こんなこと、初めて。
「お父さんが、死んだんです。
工場で、機械に挟まれて。
私の味方はお父さんだけだったのに。
その最後の味方も失って。
もう、何もかもがどうでもよくなっちゃったんです。
生きてても、しんどいだけだし。
もう、いっかって。
まさか、止められるとは思いませんでしたけど!」
無理やり笑顔を作った私に、先輩たちは言った。
「ほら、そうやってまた無理するでしょ?
こんな時ぐらい、うちらに頼って。
誰も、怒んないからさ。」
その一言で、私の氷の心は、一気に溶け去った。
喉の奥から、泣き声が溢れて止まらない。
「ううっ、うわぁぁぁぁぁ・・・」
崩れ落ち、しゃがみこんで泣き始めた私の背中を、先輩たちはずっとさすってくれていた。
その日から私は、学校に行っていない。
S先輩、H先輩、O先輩の家を転々としてる。
先輩たちの家族も何も聞かないで、温かく接してくれる。
先輩から聞いた話だと、R先輩とA先輩は、すっげぇ反省して、私に謝りに来ようとしてるらしい。
それを、先輩たちが止めてるんだって。
私もまだ、会ってもいいと思えるほど許してないし。
今日で、1年が終わる。
同時に、この日記の最後のページ。
長かった。
苦しかった。
けど、あの時死ななくて良かった。
今は本当に、そう思う。
さよなら、この日記。
次の日記に引き継ぎます。
いかがでしたか?
自分に起こったらどう思いますか?
別に、説教くさいことを語るつもりはありません。
しかし、これは実在した話です。
あなたはこうなりませんように・・・。