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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白くひんやりとした石膏像

この小説は『紅く熱い歌声』の歌い手サイドの話になります。

 あなたを初めて見たのは橙に染まる図書室だった。

 私が見ていたなんて知らないでしょう? だって、あなたは本のページをめくるのに夢中だったもの。

 いち図書委員なんて見てるわけがない。

 私はあなたのオレンジに染まる白い指に夢中だったから、下校時間を告げに行ったのは別の子だったしね。

 白く細い指が規則的に動く様子はまるで美しい彫像が動いているようで、何だか現実に感じられなかった。

 もし、あの指に触れられたら。あの日から夕日に似た燃え盛る激情が、私の体を渦巻いている。

 私はそれを全て歌で発散しようとした。恋の歌に夕日より紅い熱情を乗せて。そのまま空に霧散してしまえばいいと願いながら、私は歌い続けている。

 皮肉な事ね。まさかそれによって、あなたとの縁が出来るなんて。

 それとも奇跡と呼べば良いのかしら? 忘れ物を取りに音楽室に来たあなたを見た時は、運命や奇跡よりも神様の残酷さを感じたけれど。

 夕日の橙に染まるあなたは、私が夢見た姿。叶わないと歌に変えた姿だった。

 舞い上がった私は、それでもあなたとの皮肉な歯車を動かそうと躍起になった。

 そしてやっとの事で出た台詞が、

「あなた、ピアノ弾けない?」

 ……だった。

 自分でも何を言ってるのかと、紡いだ瞬間に後悔したけれど、あなたはぎこちなく頷いてくれた。

 そして、その綺麗な白い指が白と黒の鍵盤から音を生み出す。即興で弾かれる音は、けして上手いとは言えなかったけれど、橙に染まって弾くあなたはとても綺麗で、そこから生み出される音はどんなピアニストが弾くものよりも私には素晴らしく思えた。

 いいえ、今も思ってる。ぎこちなく動く指が、白から徐々に日が暮れて橙に染まる。楽譜を見つめる真剣なあなたの横顔も夕日色になっていく。それと共に奏でられる音楽は、私にとってだけの至上のもの。それに合わせて思いを乗せた歌を歌える私は、最高の幸せ者なのよ。

 ちらりと目をやれば、あなたは浮かない顔で鍵盤を叩いていた。音も何だか沈んで聞こえる。私の唇も、閉じてしまう。

 自然、止まってしまった歌声に、あなたは不思議そうに顔を上げた。本や楽譜を見つめる冷たいとも思える真剣な表情ではなく、どこか幼くあどけない顔で。

 普段と違うその顔に、気付けば私の指は持ち主の思いを一身に受け、理性から抜け出し、彼女の指をなぞっていた。持ち主である私が気付いた時にはすでに遅く、指は彼女の低い体温と滑らかな感触を私に伝える。どくどくと、心臓は壊れたように拍動を強め、速める。

「何か別の事を、考えていたでしょう?」

 強張った顔を無理矢理動かし、私は笑ってみせた。彼女は普段のひやりとした顔に戻り、「そう見えた?」と冷たく答える。これが、彼女の普通。

 私の指は、全く持ち主の言う事を聞いてくれない。するすると制服の腕を登り、彼女の彫像のような頬に辿り着く。そこは、石膏のようにひんやりとはしていなくて、柔らかく温かかった。

「お願い。歌ってる間は、歌の事だけ考えて」

 私は何を言っているのかしら。唇すらも私の言う事を聞かなくなる。私にしか分からない愛の告白に、あなたは「分かったよ」とやっぱりひやりと答える。

 指先から速くなった鼓動が伝わらなかっただろうか。有り得ない心配をしながら、私は名残惜しい白から手を離す。そして、もう余計な事を言わせないようにと、唇から歌をこぼす。続くあなたのピアノ。

 愛の告白代わりの歌に、あなたが伴奏をいれてくれる。それだけで、私は満たされると思ったし、これ以上を望んではいけないと思っていた。

 だけど、私は欲深かったのね。もっともっと、と望んでしまう。

 私があなたに触れたように、いつかその白い指先が私に触れてくれないかと。有りもしない未来を描きながら、私は歌う。

 まだ私達は手を繋げるほどの友人でもないというのに。


お読み頂きありがとうございました。

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