ペルカとポルカ
門に近づくにつれ、なにやら陽気な歌声が聞こえてきた。
「よう、ペルカ! 調子はどうだい?」
「おう、ポルカ! かなり悪いぜ」
「どうした兄弟? 今日は快晴。たちまち気分も良くなるさ」
「なんだと兄弟? 今朝のうらみ。そうそう晴れてはくれないさ」
僕は音楽にはうといのだが、探していた番人の兄弟は耳慣れぬリズムで会話をしていた。とても話しかけづらい。彼らは斑点模様の入れ墨を片腕にほどこしていて、もう一方の腕はマントの下に隠している。顔といい背格好といいまるでそっくりで、左右対称になっている。二人で一対のようだ。
「やや、兄弟、お客さんだぜ」
「なに、君たち、ご用はなんだ?」
「……えーっと、僕は小屋で居候してる者なんだが、ペルカくんとポルカくんで合っているかな?」
「そうともさ。おいらがペルカで」
「おいらがポルカ」
二人は鏡写しみたいに同じ動作でお辞儀してみせた。
「お仕事中に悪いんだけど、少し聞きたいことがあってね。最近、獣人の群れが移動するのを見なかったかい?」
「獣人だって!? 聞いたか、ペルカ?」
「群れの移動!? おいらは、知らない」
「東の門を、通ろうものなら」
「すかさず、おいらが追い返す」
東の森からそう遠くないここの門番でさえ知らないとなると……ラッドは不安そうにこちらを見上げてきた。二人に礼を言って、その場を立ち去る。彼らが再び歌い始めた頃には、声はもうほとんど聞き取れなくなっていた。
「東の門を避けて逃げたのかもしれないね。街に干渉する気は無かったんだろう。きっと街の外に出ていた者なら知っているよ」
沈んだ空気を感じて、つとめて明るくそう言ったけれど、ラッドからの返事は無かった。仕方がないと思う。街の中心部、「白の広場」から見て北に位置し、海岸と接する小屋……そこから東にいったところからラッドは来たと言うのだ。群れが街に最も近づいたのが、東の門と考えるのが普通だ。しかし門番は知らないと言う。それが本当なら、群れは街からかなり離れて逃げていったようだ。ではなぜラッドはあの海岸にたどり着いた?
つないだ小さな手は、あの日の波打つ海面のように、激しく震えていた。