母親探し-2
食堂は傭兵たちでいっぱいだった。ここは傭兵たちが寝泊まりしたり、食事をとったりする施設で、「小屋」という名称は初期の頃に小屋で活動していたことが由来だそうだ。
猫又さんはそのころから小屋に属していたというから驚きだ。彼女の褐色の肌はつやがあるし、愛嬌たっぷりな目は若々しく輝いている。
僕が入り口近くで席を探していると、奥の方から人をかき分け向かってくるものがいる。栗色の髪がひょこひょこと揺れて、顔を出したと思ったら、いきなり抱きついてきた。
「おいちゃん! おはよう!」
「ああ、ラッド、おはよう。昨日は良く眠れたかい?」
ラッドは元気いっぱいというように、首を縦にぶんぶん振った。
ラッド……昨日出会った獣人の迷い子は、自らそう名乗った。はじめ、僕やサカキはこの子が喋れないものと思っていた。母親からはぐれた不安から、声が出ないのかと、そう思うくらいにはラッドは話す気配がなかった。おなかすいた、と一言発してからは、良く喋るようになったが。
「サカキにね、おいしいよって言ったらね、ありがとーってなでてくれたんだあ」
「彼は料理をおいしく食べてくれる人が大好きだからね。きっとラッドのことも気に入ってるよ」
「ボクもサカキ好きだよ! 最初はちょっと怖かったけど、髪はさらさら気持ちいいし、優しいし!」
僕を席に導きながら、ラッドは嬉しそうに笑った。確かにサカキの腰まである髪は良く手入れされている。少し金色がかった髪は、風がふくときらきらと光を反射する。本当に、もう少しだけでも攻撃的でなければ、立派なエルフと言えるのに。
「おい、おっさん! 今なんか失礼なこと考えてなかったか?」
「おや、おはようサカキ。なんのことだい? それより、朝は優しく起こしてくれないか? せめて力技はやめてくれ」
「それは寝坊なあんたが悪い」
「おいちゃん寝坊したの? ボクも朝は弱いんだ」
「ふん。おっさんはラッドより遅かったけどな」
「僕は朝が本当に苦手なんだ。おじさんが悪かったから、もうこの話はやめて朝食を出しておくれ」
サカキは勝ち誇ったようにまた鼻で笑って、調理場へ行った。大きな窓からは朝の光が食堂中に降り注いでいて、歩くたびに揺れる髪が美しかった。
僕はラッドのあどけない顔に視線を移して、さてどうやって母親を探そうかと、あれこれ考えてみるのだった。