母親探し-1
「おい、起きろ! おっさん!」
サカキの声が遠くに聞こえる。もう朝なのだろう。頭はもう起きているのに、体が言うことを聞かない。これが歳なのだろうか……いや、僕はまだ若い……はずなんだ。
「起きろって……言ってんだろ!」
バイオレンスな朝。小屋の中にサカキの怒号が響き渡る。僕は殴られたのか蹴られたのか分からないけれど、とにかく痛む腹を抱えるようにのたうった。
「毎日、ぐずぐずしやがって。朝飯冷えるだろ、はやくしろ」
おじさんに朝から暴力は刺激が強すぎる……いや、僕はまだおじさんじゃないけれど。
痛みにうめく僕を置いて、サカキは食堂へ向かってしまった。顔を洗いに僕も部屋を出る。自然と腹部をかばう格好になる。
ここは小屋と呼ばれてはいるが、実際はかなり広い。この街の中じゃ二番目くらいに大きい建物になるだろう。ちなみに一番は、執政の場であり信仰の場である「白の広場」にある真っ白な塔だ。ここで執政官と呼ばれるものを代表として政治が行われているらしい。
この世界に文明があって良かった。汲んできた水で顔を洗いながら、そう思った。水道やガス、電気が無いのは不便だが、近くには澄んだ水を豊富に蓄えた池がある。とにかく、寝泊まりする場所があるのはありがたい。
僕を拾ってくれたサカキや、小屋の管理人である猫又さんには感謝だ。粗末な布で顔を拭いていると、ふと人の気配に気がついた。
「おやアンタ、今日は早いじゃないか。どうしたんだい?」
「ああ、猫又さんか。おはようございます。今日は例の獣人の子の母親を探しに行くんですよ」
「あのイヌの坊やかい。森へ行くのなら気をつけなよ」
そう言うと猫又さんは管理人室へ引っ込んだ。扉を閉める瞬間、彼女の長いしっぽが挟まりそうで、そんな失態をおかすわけがないと分かってはいてもひやりとした。
小窓から入る光が、人の居ない廊下を照らす。
……さて、僕も食堂へ行こう。