サカキの独白
信じらんねえ。あのおっさん、あろうことか獣人の子供を拾ってきやがった。俺はこれまで何度も忠告してきたはずだ。獣人にだけは関わるなって。
獣人ってやつは、他の種族と共存する道を絶った数少ない存在だ。それでも生きていられるのは、ヤツらの並外れた腕力のおかげで、とにかく獣人ってのは話の通じない、俺らからすればやっかい極まりない存在って認識が普通……なんだが。
あの馬鹿、きっと分かってない。
この世界では力の強いものが勝つんだ。一昔前ならどうだか知らないが、今は力こそが全て。どうなるか分かんねえんだぞ……子供引き渡して、それで終われば良いけどな。
俺の作った飯をうまそうに食う獣人の子は、口の周りに食べかすを付けてはおっさんに拭かれている。
あのガキ……どう見てもイヌの子供だ。イヌは獣人の中じゃ穏やかな方だったか。まあ、今回だけ、あのおっさんのお人好しに付き合ってやるか。
茶を飲んで、ふと、思い出した。
そういや、おっさんが初めてこっちに来た時もイヌがいたような……いや、どうだったか……あんま覚えてねえな。とにかくあの日は、空がいっそう不気味に紅かった。
遠くの方に強い光が見えて、確か俺はその時小屋へ帰る途中だったか、とにかく馬に乗ってた。尋常じゃない光の強さに驚いた馬が俺を放り出して駆けてったんだ。
地面に叩きつけられて、それがあんまり痛かったから文句の一つでもつけてやろうと、次第に弱まっていく光源へ向かうと、アホズラ晒したおっさんが尻もちついて怯えてたっけ。
人の耳指差してわめいた時には思わず殴った。エルフの誇りを貶めるなんてこの上ない侮辱だ。でも俺は殴ってから気づいた。
こいつが噂の「来訪者」ってヤツなんじゃないかと。
まあ、それから二月経って、結局おっさんは「来訪者」なんかじゃなく、ただの「転移者」だったわけだが、俺は思うのだ。おっさんが「来訪者」じゃなくて良かった。そして、おっさんは、この世界に来るべきじゃなかったって。
何度もかいがいしく獣人の子の口を拭くあいつを見て、そう思った。