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寄り道ありマス  作者: 九木十郎
その6
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6-2 ヤツなりの心配りなのかも知れなかった

 会計を済ませて那須山さんと別れると、酔い覚ましも兼ねてトボトボと徒歩で帰路に着いた。思ったよりも飲んでしまった。彼の御仁の熱い講釈を適当に相づち打つのにも疲れ、気付けば普段の倍は杯を空けてしまっている。


 気心の知れた連中と飲むのは楽しいが、アルコールは決して強い方じゃない。そして変に気遣う会社の先輩や上司と飲むのはハッキリ言って骨が折れた。

 あの人は決して悪い人ではないのだが、気の使い方が自分基準なものだから相手をするのが疲れるのだ。


 あるいは、未だ僕が皆に上手く合せられていないだけなのかも知れないけれど。


 そしてこうやって広い田んぼの真ん中に一本伸びる広域農道を歩いていると、初めてキリエさんに出会った時の事を思い出す。と言うか、今このシチュエーションなんて正にあの夜の再現である。

 那須山さんに誘われて酒を飲み、酔い覚ましがてら同じ道を帰っているのだ。


 あの時と違うのはもう迷っても右往左往などせず、ドンと構える心構え位のものではなかろうか。キリエさんにもそんな事言われたし。


 度胸が付いたとかそんな大層なものじゃない。為るように為れと開き直っているダケだ。一晩中あの古い町並みを彷徨さまようのは御免被りたいが、まぁ何とか為るだろうという仄かで根拠の無い、期待めいたものが在った。


 そう言えば、あのブリキ細工のロボットから買った地図はいま持っていなかった。なのでまた迷ったら少し困ったコトに為るかな、と思った。


 そして其処そこで初めて僕は、リサイタル当日、キリエさんと待ち合わせの場所を決めていなかったコトに気付いたのである。




 会いたいと思う時には、全然全く出会えない。よく聞く話だ。


 個人的な用事は勿論、仕事をやっている時でもそう感じるのはよく在って、そういう時に限って会いたくもない相手と顔を合せるというのもまた、よく聞く話だった。


 休日に為って、どうすればキリエさんと連絡が取れるのだろうかと、町中を当て所なく彷徨さまよっている時のこと。思わぬ二人組に出会した。蔵本さんと村瀬だった。

 なんでこの二人が連れ立っているのだろうと思うのと同時に、それぞれがそれぞれに積極的に関わり合いには為りたくない人物でもあった。


 何でダブルなんだよ。


 仕事ならば何も問題はない。ただの業務連絡を取り交わすだけだ。でも休日までこの二人とつまらないやり取りなんかしたくは無かった。


 僕が噛み合わない相手と思って居るように、この二人も同じように感じているようで、一瞬「やれやれ」といったニュアンスの表情が垣間見れた。

 きっと僕も同じような表情を浮かべたんだと思う。


 互いに相手の腹の底が透けたと、互いが感じる妙な連帯感。こんな分かり合い方、全然まったく嬉しくない。

 とは言え、全てを明け透けにするほど僕らも子供じゃなかった。社会人のたしなみというヤツである。


 当人同士の本意不本意はさておいて。


「どうしたんです。珍しいですね、二人揃ってだなんて」


「別に珍しくは無いっすよ。蔵本さんとは休みによく出掛けてます。今日は部屋探しに付き合ってもらってるんすよ」


 それは意外というか何と言うか。しかしよく考えてみれば似たもの同士だなと、いささか失敬な納得も出来た。


「光島はどうした、手持ち無沙汰だな。噂の彼女とデートとかじゃないのか?それとも振られたか」


 したり顔で笑う蔵本さんにやっぱりヤレヤレだと思う。だから疲れるんだよ、この人と話すと。あれから山形さんへ追加の口止めをしたけれど、やはり既に手遅れだったなと溜息とついた。

 この分ではもう工場中の人間が知っているに違いない。


「ご想像にお任せします。じゃあ僕は用事が在りますのでこれで」


 軽く会釈をして通り過ぎようとした。この二人だって馬の合わない相手とは、とっとと別れたいに違いない。

 髪の毛一筋分の疑念もなくそう思い込んで居たものだから、「ちょっと待てよ」と呼び止められたのは少し驚いた。それどころか、


「少し小腹が空いていないか?おごってやるからお茶にでもしようぜ」


 そんな具合に誘われたものだから、二度びっくりする羽目になった。




 コレってどういうシチュエーションなんだろうな。


 僕は隣り合って座る村瀬と蔵本さんとに、向かい合うようにして座った。目の前のテーブルにはそれぞれが頼んだ珈琲が三カップ。そして中央には特大のピザが一ホール鎮座していた。


 呆気にとられて断る機会をいっし、何だかうやむやの内に手頃な喫茶店に連れ込まれた。挙げ句の果てがコレである。

 かたわらの村瀬も、「何故」と疑問を顔に貼り付けたままチラチラと隣の蔵本さんに視線を投げかけていた。


 間違いなく居心地が悪いのだろう。しかしソレは僕も同じだ。このところ村瀬とは終始ギスギスとしたやり取りばかりで、どう控えめに見ても良好とは言い難かったからだ。

 吉原作業長も気にしているくらいだから、分ってないはずもなかろうに。


「たまには俺たち若い連中だけでつるむのも悪くないだろう。二人の仲良しチームに俺も加えてくれよ」


 あ、駄目だ。何も見えてないし、何も分っていない。


 それともひょっとして知っているからこそなのか?無知を気取りつつ仲を取り持とうとか、そういう年長者の気配りみたいなものなのだろうか?


 それはそれでありがた迷惑なのだが。


「お前や村瀬はよく下駄さんに連れられて飲んでいるみたいだが、生憎俺は下戸でな。全然お呼びがかからない」


 そう言ってケラケラ笑いながら、ピザを一切れ摘まんでパクついていた。「熱いうちに食え」と言われたが「はあ」としか返事が出来なかった。蔵本さんの本意が全然まるで見えて来ないからだ。


 それに下戸だからお呼びが掛からないなどと言うが、同じく全く飲めない加賀はたまに那須山さんに連れられて食事に行っている。

 単に相性の問題だと思うのだが、ここで口にするほど僕もスカタンじゃない。


 そしてしばらく取り留めのない雑談が続いたのだが、やがて「どんな彼女なんだ」と切り出されて、嗚呼ああそういう事かと溜息をついた。

 仲を取り持つ云々(うんぬん)はタダの穿うがち過ぎ、僕の過大な思い込みだったようだ。この人はやっぱりこういう人なのだと溜息に溜息を重ねた。


 まぁ確かにこの町には娯楽は少なくて、噂話に目聡めざとくなるのも分る気がする。でも、さして親しくもない相手のプライベートを、面と向い根掘り葉掘り聞こうとするのはどうだろう。


 控えめに見てもスマートとは言い難い。

 自分がされて嫌だと思う事をしてはいけません、そんな風にご両親から教わらなかったのだろうか。


 まったく、しつけの行き届いてない中学生や高校生じゃあるまいし。小学生でも気配りの出来る子なら、もうちょっとマシな対応するだろう。


「どうもこうも無いです。そもそも彼女なんか居ないですし」


「彼女でもない女性をコンサートに誘うか?スカしてんじゃないよ、カッコ付けすぎだろ」


 だから、女性を誘ったなんて一言もってないでしょう。ペアチケット買ったって話に尾ヒレが付いてるダケですよ、それにコンサートじゃなくてリサイタルです、そう返したのだがまるでてんで聞いちゃ居なかった。


「ごまかすなよ、紹介しろよ。スマホで写真くらい撮ってるだろ。見せて減るモンでもないだろう。何けちけちしてんだ、なぁ村瀬。そう思うだろ?」


 話を振られた村瀬は「はぁ、そうすね」とピザをパクつきながら気のない返事をした。何の感情も浮かんでない表情かおだった。

 そして当の御仁は僕と村瀬が興味ゼロなのに全然気付いていない。いま此処ここで話に熱中しているのは蔵本さんただ一人なのである。


 そう言えば以前残業の最中、こんな仕事をしていると女も出来ないと愚痴こぼしていたな。


 そうかコレはやっかみかと、そう見当が付くと僕も村瀬同様辟易(へきえき)してきた。


「スイマセン、俺は急ぎの用があるのでこれで」


 テーブルに自分の分の代金を置くと席を立った。


「おい待てよ。ちょっと質問に答えればいいダケだろ。一分もかからないだろ」


「蔵本さん、シツコイっすよ。なんでそんな必死なんすか」


「お前までそんなコト言うのか」


 二人の口論を尻目に僕はとっとと店を出た。


 溜息こそ聞こえなかったが、村瀬のうんざりとした様子が意外だった。蔵本さんと一緒にはやし立てるのではないかと思って居たからだ。

 デキ婚となって新居を捜している最中、他人の事など構っていられないという事なのかも知れないが、そこはかとない同情っぽい目配せが何度かあった。


 最後蔵本さんにダメ出ししたのも、ヤツなりの心配りなのかも知れなかった。

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